システマティックな少女と一般サラリーマンな俺   作:伊駒辰葉

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西江田営業所 3

 終業時刻を過ぎるとエレベーターを使う奴の数は極端に減る。他に誰も乗ってこないエレベーターで地下に降り、俺たちは本社ビルを出た。本社ビルの地下二階は地下鉄の駅に繋がっている。電車で一駅ほど行くと繁華街だ。少し時間は遅いがまだまだホームにはたくさんの人がいる。人の波に紛れて移動しつつ、俺と勝亦は流行りのゲームの話をした。趣味と呼べるほど熱中してる訳じゃないが、仕事以外の話って言ったらこの程度のことしか思いつかない。我ながら無趣味だなあ、とも思うが仕方ない。こんなとこで仕事の話ってのも周囲が引きかねないしな。

 

 行きつけの居酒屋に入ってつまみを食いつつ、ビールの三本ほどを飲んだ辺りでようやく俺は本題に入った。

 

「で? 結局、その……何だ。2wayって何なんだよ。いや、意味は判るけど」

 

 周囲の客は賑やかでこっちの会話に注意してるとも思えないが、俺は一応は声を落として勝亦に訊ねた。ビアジョッキを傾けていた勝亦が呆れたような顔をして俺を見る。悪かったな。物分りが悪くて。

 

「前に何度も説明したじゃないか」

 

 まだ判らないのか、と呆れた口調で言って勝亦がジョッキを置く。へえへえ、すみませんね。俺はどうせ技術的なことはからっきしだよ。いつものように文句を垂れるとやれやれと言ってから勝亦が説明を始める。

 

 システマを作っているのはうちの会社だけじゃない。システマを開発している会社は幾つもある。で、各社が色んなタイプのシステマをリリースしてるわけだ。最近のヒット商品って言うとあれじゃないかな。軽量化を図った小型のシステマ。出た当初はそりゃあもう人気があった商品で、小売店にも注文が殺到したらしい。でも冷静に考えてみればすぐに判る。システマは自力で動くんだ。命令さえ入れてやれば邪魔にならないように退かすなんてことは簡単だ。機能を削ってまで小型化する理由はないわけ。しかも小型化したが故にシステマの世話に手間取られてりゃ、本末転倒ってもんだ。見た目が赤ん坊の形をしていた件のシステマは結局、すぐに廃れた。今はもう店頭で商品検索かけても出てこないんじゃないかな。

 

 多機能を売りにするやつ、見てくれを変化させたやつ。中には標準装備ですげえかっこしたのもあったな。ゲームの世界から飛び出して来ましたかってな、とんでもないのだったが、そんな、一部のコアな客層を狙ってどうするよ。まあ、その商品は俺の予想通りにヒットはしなかったがな。

 

 で、うちの社も当然のことながらいろんな商品を開発してるんだが、今度のは少しこれまでと毛色が違うらしい。二台で一台の仕事をさせるってのがコンセプトだそうだ。それを最初に聞いた時、俺はうへえって思った。ただでさえ高い能力を誇るシステマだぞ。そんなもん、二台もどうするってんだ。そう訊いた俺に勝亦は言うんだな。バックアップ機能になる、と。

 

 システマはそれまでの端末などよりはるかに壊れにくい。これは生物の自己再生能力を活かす、という観点で開発されたから当然だ。つまり、機械で出来ていない分、壊れにくいのだ。実はこの点、判っていない奴も多い。機械の方が生身より頑丈だろうって言うんだな。ばか言っちゃいけない。機械だからこそ部品は劣化しやすいんだよ。ご家庭で使う家電製品なんかに例えりゃ判りやすいか? 使ってるうちにどこぞにぶつけたとかのはっきりした原因がなくても段々と調子が悪くなるだろう。部品の噛み併せが悪くなったり、金属によっては下手に放置すると錆びたりする訳だ。

 

 これが生身となると故障しにくくなるんだな。勿論、システマだって人間と同様に転んだりすれば怪我を負うこともある。だが自己修復が可能なのだ。

 

 そんなシステマのバックアップだと? 笑っちまうだろう? 必要ないって思うじゃないか。だが勝亦は言うんだな。何事にも絶対はあり得ない。もしかしたら、という不安は誰の心にも存在する。これはそれを保証するシステムだと勝亦は言う。それが新商品開発の本来の目的ではないらしいんだが、俺ら営業はその程度の認識でいいってんだ。冗談じゃない。ただでさえうちの技術営業の数は少ないんだぞ。今日日、専門家の保証書だの、説明だのが書かれたテキストがぺらっと一枚あった程度じゃ、クライアントは納得しない。突っ込まれて答えられなかった場合はねちねち言われるだけじゃない。ギャラのくそ高い技術営業に出陣願わなきゃならなくなる。そうなると俺の時間も目いっぱい取られる。しかも技術営業一人がサポートを担当する俺ら平の営業の数は十人ときた。んなもん、同じ商品売ろうとしてたら足りるかよ。

 

 そう食い下がったせいで勝亦は渋々と俺に説明してくれた。が、その説明が……悪い。俺の理解力が足りないんだろうが、未だに判らない。

 

「だから今までのシステマより処理速度が上がるわけ。しかもバックアップに使えるっていうのは画期的なんだよ」

 

 かなり声を落として勝亦は説明している。理屈は何となくだけど判るんだよ。確かに凄いんだろうなあって雰囲気は伝わってくる。んでも考えてみろよ。あの時、たった一台で世界を救ったって言われるシステマがだよ。二台も必要な場面ってそうそうあると思うか? 俺は勝亦と同じように声を落としてそう言い返した。

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