櫛田を誘ったのは特に意味が無いのだが理由としてはあるにはある。一つは俺自身がこの3人の関係性が嫌いではないから。たかだか一ヶ月付近の仲だがホワイトルームで孤独を感じていた頃に比べればなんとなく居心地が良いというのもありそれは清隆も分かっているだろう。でなければ勉強会の件だって協力はしないし落とし所もつけない。だから続けられるのなら俺はこの関係性を続けたいし櫛田と対立もしたくない。
もう一つはあいつは利害が一致する相手ならとんとん寝返りそうで怖いから先に手駒にしておくということだ。一応、櫛田の弱みである裏の性格を握ってしまっている俺たちだ。何かの拍子で狙われないように仲を築いておくのもやぶさかではないのではないだろうか。
そして最後は俺たちのコミュニュケーション能力の代弁。櫛田がいてくれれば顔が広い彼女なら色んな奴にアクションを起こすことが可能になるから。
確かに俺は面倒事が嫌いだし清隆はことなかれ主義だからなるべく目立ちたくは無いが、俺はなるべくAクラスには上がっても特に損は無いと思っている。Aクラスには希望する進学先を確約の状態で卒業させてくれるというメリットがあるしホワイトルームを抜け出してこの学校に入学したのもここにいる間はホワイトルームの手先が来る可能性はあっても基本的には安全だからで特に卒業後の目的は決めておらずそれならいろんなところに行けるレベルで選択肢を広く取っていても良いと思っている。おそらく清隆は今のところはなにも考えてはいないのだろうが今後何人もホワイトルームからの刺客が送られて来るのであればーー本気を出さざるを得ない。だからその時のための環境を作っておくのが俺の役目であり清隆のためだ。もしかしたら余計なお世話かもしれないけどな。
「はぁ……」
ホワイトルームなんかに入れられていなければこんなクソめんどくさいことを考えずに人生を過ごせたのかなぁとか考えるとため息しか出てこなかった。
俺は考えるのやめて今から寝れば確実に寝坊するのを分かっていながら布団に潜り込んだ。1日くらいサボってもへーきへーき。
翌日に何故か寝坊して学校をサボっていた清隆が俺の部屋に来て不機嫌そうにゲームをしていたのはまた別の話である。
◇
ようやく放課後の時間になり清隆が部屋に帰った後、俺は暇で仕方がなかったので校内の敷地内を散歩していた。だって買い出しする用事もないしゲームも毎日してたら飽きるだろうしやることないもん。
散歩もほどほどにして疲れた俺は近くのベンチで寝転がっていたのだが、そんな時に声をかけられた。
「隣、よろしいでしょうか?」
「あ?」
周りを多少見渡すと確かにここにしかベンチはないのだが、得体の知れない男が寝転がってる中でここに座ろうと思う精神はとても凄いと思う。彼女は本を片手に持っていておそらく読書をするのだろうか、ふと気になって俺は聞いてみた。
「読書なら図書室ですれば良いんじゃねぇか?」
「……本来ならそうしていたんでしょうけれど」
何やら訳ありようで聞いてはいけない所謂、地雷というものを踏んでしまったのではないのだろうかと若干身構えたがどうやらそうでもないらしい。
「最近は不良の溜まり場になっているようで少々、騒がしくて」
俺がこの前行った時はそんなことはなかったんだがーーと思ったところでひとつ思い当たる節があった俺はまたしても聞いてみた。
「それって、俺のことじゃないよな?」
この前は結構騒がしくしてしまったしな。それに図書室なんてそうそう騒がしくなるものでもないし、もしかしたらと思って聞いてみた。のだが彼女は首を横に振る。そしてニコリと悪戯のような笑顔を浮かべて言った。
「いえ、赤髪さんの方です」
クハッ と龍園のような笑い声が出そうになるが俺は堪えた。
「あの時はすまなかったな」
「いえ、田中くんが喧嘩を止めに入っただけなのは見ていたので知っています」
それに、と続ける。
「もう1人の方は同じクラスの方でしたので仲介していただいて助かりました」
果たしてあれは仲介と言うのだろうか。そう思ったが特に何も言わないことにしてもう一つの方へと話を展開させる。
「お前もCクラスなのか?」
そう問うと彼女は「そうですね」と言い、椅子から立ち上がり自己紹介を始めた。
「申し遅れました。椎名ひよりと申します。今後ともよろしくお願いしますね、田中くん」
今度は悪戯のような笑顔ではなく、純粋にニコリとした笑顔で少しお辞儀をする彼女にドキッとしてしまうがそれはこの田中誠。そんな事は微塵も表情に出さずに同じく返す。
「田中誠だ。こちらこそよろしく」
そう言うと彼女の笑顔が一層強まった気がするのは気のせいだと思いたい。
それから時計を見る仕草をした彼女は、
「それでは、私はこの後用事がありますので失礼します」
と言うのだが。あれ、ここに来てから彼女一切本読んでなくね? と思いもしかしたら、と彼女の背中を眺めていると。ふと彼女が振り返った。
「お気づきのようですが今回の件は全て“龍園“くんの差し金のようなものです。ですが私からは特に何もする気はありません」
「龍園派ってわけじゃあ…」
「断じてありません」
「そうか」
一体全体俺が何をしたっていうんだ龍園くん。
今度は振り返ることもなく去っていく彼女を眺めながら俺は深いため息をついた。