部屋を抜け出してからしばらくして、俺はベランダで黄昏ていた。カッコつけたい気分とかそういうアレではなくなんとなく外の景色を見ていれば白い空間に閉じ込められていたあの時を少しでも忘れられる気がしたのだ。
ふと携帯が鳴る。携帯には櫛田と書いてあった。
「……なんだよ」
『夜遅くにごめんね。でも聞きたいことがあって』
今は夜中の2時だ。こんな時間に電話をかけてくるのも非常識だと思うがこんな時間に電話をかけてくるというのならそれ相応の内容なのだろう。まぁ、大体の内容の察しはついているが。
『坂柳さんが言ってた≪ホワイトルーム≫って、なに』
「……白い空間だ」
『は?』
それ以上は言い淀んでしまった。櫛田を信用していないわけではない。櫛田が裏の性格を隠しているようにホワイトルームも俺にとってはあまり話題にしたくない場所なのだ。
ーーだが、ここまで知られてしまっては秘密もクソもない。だから俺は意を決して櫛田に話した。
俺たちが白い空間で受けてきたことを。
◇
物心がついた時には俺は、俺たちは既に白い空間に閉じ込められていた。最初は何十人もの子供が集められていてその中で“英才教育“を受けて、大勢で実力を高め合い、競い合っていた。
いつからか気づいた。一年、二年、と。年が経つたびに子供の数が減っていることに。さらに数年経った時には俺と清隆しかそこの空間にはいなかった。そして、大人達にとって清隆はホワイトルームで最高傑作と言われ、俺は準最高傑作と言われた。
ここの教育は普通の子供には耐えられそうもない。外に出ることも許されず、ただただ白い空間で自身の実力の底上げに没頭するだけの領域。何人もの子供達が落ちこぼれと称され脱落していく中俺たちは生き残った。だからだろうか、いつのまにか俺と清隆は次第に打ち解けていき気づけば友達とも言える仲まで発展してーーホワイトルームから脱出する計画を立てた。
◇
ホワイトルーム。そう聞いた時はなんのことだか分からなかったかったし田中くんの説明を受けてもあまり意味がわからなかった。簡単に訳せば白い空間で英才教育を受ける施設。だろうか。
頭の中を整理するので精一杯な私に田中くんはさらに新しい提案を持ちかけた。
「2000万ポイントあればクラス移動が可能らしい」
突拍子もない台詞だったが次に口にするであろう言葉を私は直感的にわかっていた。
「だからーーBクラスに来る気はないか?」
何を言っているのだろうか彼は。自分が何を言っているのか理解しているのだろうか。2000万ポイントなんてとんでもない額を彼は稼ぐ手段が既にあるのかのように振る舞っている。
いや、そんなことよりだ。その誘いは私にとってメリットはあるのか。それを見極めるために私は言った。
「仮に、移動できたとして私にとってのメリットは何」
「Dクラスの0ポイント地獄からの脱却。そして必ずAクラスに連れてってやる」
「それなら直接Aクラスにあげてくれたほうが良いんじゃない?」
「いずれ失脚するAクラスにか?」
「あんた面倒事は嫌いなんじゃないの」
「それは勿論だがAクラスに上がりたくないわけじゃない」
ああいえばこういう。言葉の応酬でイライラしてきた。それは田中くんも同じだったようで頭をガシガシと掻く音が聞こえる。
「あー、俺は天邪鬼だ。勿論約束事は守るが一回しか言わん」
そう前置きして彼は言った。
「次の試験で俺は本気を出す。そこで俺に乗るか乗らないかを見極めろ」
そう言うと電話はプツンと切れた。
「なんなのまじで……」
彼が私のために本気を出す道理も分からないし私なんかを勧誘する理由もわからない。ホワイトルームという秘密を知られたから? それは2000万ポイントの価値がある情報なのか。否、私はそうは思えない。そんな情報をペラペラ喋るとは思わないし私だったらあの場所で坂柳の口止めのために何かしている。
ていうか次の試験って何? 彼は近々に試験があるかのような言い方をしていたけど……。
「あーーーーー、まじで意味不明」
私が考えれば考えるほど謎が深まるばかりで何も分からなかった。