清々しい朝を迎え、鎮守府には今日もまた艦娘たちのにぎやかな声があちこちで響いている。特に食堂近くの廊下は往来が激しいこともありそれが顕著だ。
今日の朝食はどれにしようかな、美味しいご飯を食べたいな、そんな当たり前の幸せを仲間と噛みしめながら、艦娘たちはかけがえのない一日を懸命に生きていた。
「あっ…」
しかしにぎわいを見せていた艦娘たちが一転、一斉に黙り込んだ。先ほどまでの楽しい雰囲気が嘘のように、重苦しい空気が漂い始める。
艦娘たちの元気な声で溢れかえっていた廊下にふいに訪れた静寂、みなの怯えるような視線の先には、赤色に染まった袴着に身を包むこの鎮守府の精鋭部隊がいた。
「………」
きっと夜通し深海棲艦を狩り続けたのだろう、返り血に染まった袴着は勲章かの如く、それを見せつけるように精鋭部隊が堂々と廊下をただひたすらに突き進む。
廊下にいた者たちは自然と道をあけ、彼女たちの歩みをビクビクしながら見ていることしか出来なかった。
「…ねえ」
「は、はい、なのです!」
「今日の朝食はもう食べた?」
「まだなのです!」
「…そう」
突然のことだった。精鋭部隊の一人が歩みを止め、近くにいた同じくらいの背丈の艦娘に声を掛けたのだ。
「どうして電にそんなこと聞くのです…?」
「いや、別に意味はないわ。ただ聞きたかったの」
周りにいた艦娘たちは精鋭部隊に絡まれた娘を憐れに思った。ああ、また精鋭部隊様のイジメが始まったよと悲しそうに顔を歪ませるのだった。
(どうしてあの娘たちは私たちを試すようなことを言うの?)
(きっと馬鹿にしてるんだよ、自分たちが鎮守府の精鋭だからってさ)
(駆逐艦だけで構成されているのに負け知らず。戦艦や空母の人たちも怖がってるみたい)
(怖いね~)
(あの絡まれてる娘、新入りでしょう?可哀想に、鎮守府にもまだ慣れてないのに…)
(助けたくても出来ないよ…。精鋭部隊様を怒らせたらどうなることか…)
(ああ、あの電って娘…まだ何も知らないのに。よりによって精鋭部隊のリーダーに絡まれてるわ)
(神風…だっけ?あの娘、絶対に怖いよ。目が笑ってない)
(神風だけじゃないわ、あの娘の姉妹艦たちも全員目が座ってて怖い!)
(無慈悲で冷酷、残虐なんだってね~)
(どうやら精鋭様たちは提督の指令の下、秘密裏になんかやってるらしいよ…)
(敵の暗殺とか?怖すぎぃ)
(精鋭部隊の人たちと一緒になったら盾にされたり、デコイにされたりするんだって~)
(それで口封じに仲間まで殺すのを厭わないらしいよ)
(怖い怖い怖い!!!)
絡まれた艦娘、電を見る周りの目がどんどん険しくなり、さらに重苦しい空気が流れ始めた時だ。
「姉貴、ちょっと」
「なに?」
何やら精鋭部隊の面々はお互いに耳打ちしながらコソコソと小声で話し合い、時折電を見ては唸っている。
「…?」
電は完全に蚊帳の外であるが、絡まれている以上その場から離れることはしない。静かに精鋭部隊の次の言葉を待っているようだった。
しかしようやく訪れた言葉は…
「よかったら私たちと一緒にご飯食べない?」
そんな悪魔の宣告であった。