電車に揺られること20分ちょっと、花火大会の会場となる緑地公園公園の最寄駅についた訳だが........既に人の量が多い。おそらく皆目的地は俺達と同じなのだろう、浴衣を着ている人が多い。この時点でこの量なら公園の方はもっとすごい人なんだろうな。
さて、ここから公園まではまた歩かなければならない訳だ。この格好暑いし歩きにくいし結構大変だなあ。
「玲さんは花火大会来たことあるの?」
「私は昨年、友人達と一緒に来ました。楽郎くんは来たことありますか?」
「あー、一応行ったことあるとは思うんだけど、ほとんど記憶にないかな。少なくとも中学上がってからは一回もないよ」
「そうなんですか」
「だから玲さんと来れて良かった」
「っ!..............わたしもらくろうくんとくることができてよかたです」
「花火ももちろん楽しみだけどさ、縁日って言うのかな?屋台の料理も楽しみなんだよね」
やはりお祭りと言ったら屋台の食べ物だ。焼きそばやイカ焼きなどの鉄板料理にりんご飴や綿菓子、かき氷なんかのスイーツ?がいい例だろう。でもいくら男子高校生といえど全部は食えないだろうからな。今のうちに何を食べたいのか考えておかねば。
「玲さんは何か食べたいものとか、去年美味しいと思ったものとかある?」
「私は昨年、焼きそばとりんご飴を食べた記憶があります。屋台も沢山ありましたので、具体的に何があったかまでは覚えてないのですが、焼きそばは美味しかったです。食べたいものは..........そうですね、今年はかき氷を食べてみたいです」
「屋台の焼きそばは絶対美味しいだろうなぁ」
うーん。でもまあ、色々あるなら向こうについてからでもいいか。というかもうそろそろ着くな。
「うへぇ、人多いなぁ」
「そうですね、は、はぐれないように気を付けないといけませんね」
うーん確かに。一度見失ってしまうといくら携帯端末があろうと合流するのは骨が折れそうだ。
現在時刻は18時手前、もう少し早く着くつもりだったが人の多さと浴衣の歩きにくさのせいでこんな時間になってしまった。とりあえず場所取りでもするか?
「どうしようか玲さん、場所取りにでも行く?それとも何か買ってからにする?」
「ええっと、花火が見れなくなってしまうのは嫌ですし、まずは場所を確保しに行きましょうか」
「了解、って俺場所よく知らないや。玲さん分かる?」
「はい、確か向こうの階段を降りて行った所だったと思います」
「じゃあ改めて行くか」
と、言ったはいいものの、人混みを掻き分けて行かねばならないので歩みは遅い。美味しそうなものがないか屋台を軽く見ながらも10分程かけて到着し、それなりによく見えそうな場所にレジャーシートを敷くことができた。もちろんだがレジャーシートを持ってきたのは玲さんだ。そうだよね、座って見るんだもんね、敷くものくらいいるよね。
「荷物置いたままどっか行ってもいいのかな?」
「一応人が居なくても大丈夫ですが、何か盗まれたとしても自己責任だそうです」
「そうなんだ、どうする?盗られて困る物とかある?」
「いえ、特には。ええっと....い、一緒に行きますか?」
「俺も特にそういう系の物は無いし........うん、いざ屋台巡りへ!」
「はい!」
「おおおおお!」
緑地公園の横、歩行者天国となった大通りの左右に並んだ屋台と、そこから漂ってくる美味しそうな匂い。ザ・祭りという雰囲気を目の当たりにしてテンションが上がる。大通りは左側通行らしく、俺たちは左折するしかないようだ。
「きゃあ!」
「玲さん⁉︎....っと、危ない危ない」
人に押され、そのまま流されてしまいそうになった玲さんの手を咄嗟に掴んで引き寄せる。
「手、離しちゃだめだよ」
「ふひゃぁい」
1回離れちゃうとマジで取り返しつかなそうなんだよなあ。
そのまま手を繋ぎ、身体を寄せて歩く。なかなかに恥ずかしいのだが、こうしないと本当にはぐれてしまいそうだし、誰か知り合いが見ているわけでもない、気にしないことに....できるか?
「何食べようか」
「............」
「玲さん?」
「は、はいっ!ええっと、お腹も空いているので焼きそばとかどうでしょうか」
「いいね、うーんと、お、1つ先の屋台が焼きそばみたい」
「ではさっそく買いましょうか」
えーと?特にメニューとかも書かれてないから、個数だけ伝えればいい感じかな?
「すいませーん。焼きそば2つ」
「はいよ!ちょっと待ってね............ほい、焼きそば2つで700円」
「ありがとうございまーす」
あ、どうしよう。これ持ったまま歩くことになるの考えてなかった。
「楽郎くん、それ貸してもらえますか」
「どうするの?」
「風呂敷を持ってきたので、それに包んでしまおうかと思いまして」
「おお!じゃあお願いしようかな」
「すみません、ちょっと台お借りしてもよろしいですか」
「おう、かまわんよ」
ふんふん、風呂敷を広げて、真ん中において、端の方を持って....
「はい、できました」
すげー、一瞬でエコバックみたいになった。風呂敷にはこんな可能性が秘められていたのか。ちょっと欲しくなちゃったよ、玲さんに結び方教えてもらおうかな。
他に何を食べるか考えながら二人で歩く。屋台はさっきの焼きそば屋から順に、フランクフルト、リンゴ飴、焼きそば、綿菓子、フライドポテト、焼きそば、唐揚げ、焼きそば、焼きそばって焼きそば多いな!こんなにあるならもっと向こうで買えばよかった。といっても後の祭りか、祭りだけに........
「楽郎くん?どうかしましたか?」
「え?い、いや、何でもないよ」
くだらないこと考えてるのが顔にでてたか?まあいい、もうすぐホコ天の端っこに着くし。でもお面を売ってる店でハシビロコウのお面を見つけたときは運命を感じた、買わなかったけど。さすがにデートに来て顔隠すのはどうかと思うからな。え、なに?JGEのときにも顔かくしてただろって?アレはほら、一応デートじゃないことになってるからいいんだよ。ちなみにだが俺は焼きそばと唐揚げ、玲さんは焼きそばとリンゴ飴を購入したんだが、この唐揚げがまあでかい。ひとつひとつがこぶし大の大きさで、それが5つも入っているのだ。これ食っただけでお腹いっぱいになりそう。
「反対側の屋台も見に行ってみる?」
「いえ、さすがにあの人混みに入っていくのはもう......はやくしないと焼きそばも冷めてしまいますし、戻りましょう。大通り以外は比較的空いてますから、こっちの道から行きましょう」
「そうだね。何か飲み物だけ買っていこうか」
「はい、そうしましょう」
飲み物、飲み物っと。お、ちょうどいいのがあるじゃないか。夏と言えばこの飲み物、ラムネ!瓶に入っているわけじゃないがそれでもいいだろう。というか瓶のやつ結構飲みにくいし、蓋ができるからペットボトルは上位互換なのでは?俺はこれでいいとして......
「玲さんはどれにする?」
「私もラムネにします」
「おっけい」
買い物も終えたし後は戻るだけ。確かに脇道の方は屋台があるわけでもなく人もまばらで、これなら苦も無く戻ることができそうだ。
「はあ、漸く人の少ないところに来れた」
ここならはぐれる心配も無い。さっきから離すタイミングを失ってそのままになっていた手を一度離すべきだろう。手汗もかいているし玲さんも嫌だよね?
「ぁ......」
なんかすごく悲しい顔をされた。うっ、ちょっとまってそんな上目遣いで見ないで。一回手汗拭うだけだから......あれ?
汗を拭き取りもう一度手を繋ぐ。しかし今度はただ繋ぐだけじゃない。玲さんの指と指の間に自分の指を入れていく、所謂恋人繋ぎというやつだ。さっきの顔にかなりドキッとさせられたからな。ちょっとした意趣返しだ。どうだ玲さん、恥ずかしかろう?俺はすごく恥ずかしい。顔が赤くなっていることを自覚しつつ、ちらっと玲さんを見てみると......
「 」
なんかすごい顔してる。嬉しいと恥ずかしいと何で、を混ぜ合わせたみたいな顔だ。その顔が見たかった......というわけじゃないがとてもいい顔が見れたな。
人がいなくなっても浴衣故にゆっくりとしか歩けない。無言のまま歩くこの時間も気まずさは感じず、むしろどこか心地いい。
「?」
突然、少しだけ強く手を握られる。それに返事をするように少しだけ強く握り返す。そんなやりとりだけでも楽しく感じてしまうのは、きっと......
「つ、つきましたね」
「うん、じゃあ早速食べようか。はい、焼きそばとラムネ」
「ありがとうございます」
「俺のも出して、っとそれでは」
「「いただきます!」」
ぷしゅ、と音を立てながらボトルのキャップを開けて乾いた喉にラムネを流し込む。
「あーうまい」
「この焼きそばもとってもおいしいですよ」
「マジ?俺も食べよ」
容器を止めていた輪ゴムを外し、割り箸を割る。割り箸は左右ではなく上下に引っ張ることできれいに割ることができる!
パキッ
「」
「ええっと、こればかりはどうしようもないかと」
「べ、べつに気にしてないから、うん」
「ふふ」
いいんだよ、割り箸なんて使えりゃどんな風に割れたって!あ、焼きそばうまい。
「あ、そうだ。唐揚げ食べる?」
「いいんですか?」
「うん、というか1人で5つはちょっと多いから1つ食べてほしいんだよね」
「そういうことならいただきます」
「はいどうぞ」
「では......すごくおいしいです!」
うーん、おいしそうな顔してたべるなぁ。かわいい。
「おお、ほんとだ。外はカリカリ中はジューシーでうまいな」
そんなこんなで晩飯を食べ、現在の時刻は19時50分ぐらい。今は玲さんがリンゴ飴を食べているのを横目に花火が上がるのを待っている。リンゴ飴って飴とか言ってるけどなめるというよりは
「えっと、その、ひ、一口食べますか?」
「え?い、いや、そういうつもりじゃ」
「そ、そうですか」
リンゴ飴を凝視していたせいか俺も食べたいのかと思われていたらしい。てかそれ食ったら間接キス的なあれになるんですが......付き合ってるならそんなこと気にしないもんなのか?それとも気付いていない?玲さんならありそうだなぁ。まあいいや、ちょっとからかってみよう。
「あーいや、そういうつもりではなかったけど、俺も食べてみたいかな」
「っ!そ、そうですか。では、ど、どうぞ」
え、玲さんが手に持ったままなんですが......つまりはそういうことか?ほーん、今日はやけに積極的じゃないですか。だがここで日和る俺ではない。こちらもカウンターを決めさせてもらおう。
はむっ。ムシャムシャ。
「うん、おいしいよ。でもこれ間接キスになっちゃうけど大丈夫?」
「へ?へぁ!」
あ、やっぱり気付いてなかった。
「と言っても、もう食べちゃったからどうしようもないんだけど」
「はぅ........楽郎くんはずるいです」
「ごめんごめん。ええっと、嫌だった?」
「い、いえ!全然、そんなことはないです。というよりむしろといいますかもっとといいますか........」
「もっと?」
「な、何でもないです!」
「え、でも今」
「何でもないです」
「お、おう。お?」
突然街灯の光がなくなり、辺りは闇に包まれる。とは言っても多少の明るさはあるが。思い出したように携帯端末を見てみれば19時59分と表示されている。
「始まるね」
俺の言葉にうなづき、夜空を見上げる玲さんに倣い、俺もまた少し顔を上げる。同時に闇を登っていく一条の光が見えた。夜空が光る。一瞬遅れて破裂音。
「「ぁ」」
何故かこちらを見ていた玲さんと、目が合ってしまった。目をそらすことができず、そのまま見つめ合う。顔が赤くなるのを自覚するのと同時に、玲さんの顔がいつにも増して赤くなって....いやそれすら通り越して青くなってない?
「息してる?」
「ぶはっ!!!」
息が詰まるってこういうことじゃない思う、って前にもこんなことあったな。とにかく陸で溺れることは避けることができた玲さんは、顔を背けて息を整えつつ俺の方へと手のひらを出して「問題ない」とゼスチャーを示した。
「大丈夫?」
「はあはあ、ふぅ......大丈夫です。そ、それよりも花火を、そう、花火を見ましょう!」
「う、うん、そうだね」
あからさまな話題逸らしだが、ここは黙って乗るのが
その後5分おきくらいの間隔でブレイクタイムを設けながら打ち上がった花火は、30分ほどたったところでフィナーレに入ったらしく俺が唯一名前の分かる花火であるスターマインを次々に打ち上げ、大きな金の円を夜空に描いてた。最後の光が消え、花火の煙と火薬の匂いだけが残った。
『これで 本日の花火大会は 終了となります。 ゴミなどは 』
この夜の終わりを告げる放送が流れ、花火の音だけが響いていた先ほどとは打って変わって辺りは喧噪につつまれる。放送によると屋台なども閉店するため、後は帰るだけのようだ。
「帰ろっか」
「....はい」
玲さんがレジャーシートを片付けている間にゴミを捨て、既に人の河となっている帰り道へ目を遣る。
「うへぇ。あの中に入っていくのか」
「少し、待ちますか?」
「うーん、人が減るまで待ってたら日付変わっちゃいそうだし、飛び込むしかなさそうかな」
「そう、ですよね」
「行こう」
そう言って本日何度目かの右手を差し出す。
「え.....はい!」
一瞬ハテナを浮かべた玲さんだったが、すぐにその意味を理解して一瞬の躊躇いの後に俺の手を取る。
「花火、きれいでしたね」
「そうだね。久しぶりだったけど、たまにはいいもんだね」
「ええっと、来年も、い、一緒に来てくれますか?」
「うーん、もし来鷹に受かったら来年の今頃は2人とも東京に.....いや夏休みだし帰ってきてるかな?まあここのじゃなくても、花火大会自体には来年も行きたいかな」
「や、約束ですよ」
「あはは。分かった、約束ね」
この後もたわいのない話をしながらノロノロ歩き、駅に着く。この駅はまあまあ大きい駅なのだが、それでもホームは花火大会から帰る人でごった返していた。電車を一本見送り、次の電車に何とか乗り込んで帰ってきたときにはすでに22時近く。迎えを呼んでいた玲さんは車で帰るため、ここでお別れとなる。
「今日は楽しかった。誘ってくれてありがとう」
「わ、私も楽しかったです!こちらこそありがとうございました」
「明日からお盆休みで補習は休みか」
玲さんに会えるのは1週間後、寂しいけど仕方ないか.....
「....あ、あの!もしよろしければ、明日からも一緒に勉強しませんか?」
「いいの?」
「はい!1週間も会えないのは、その....寂しいですし」
だーーーーーさらっとこういうこと言うからなこの人は。だが提案も気持ちも凄く嬉しいので素直に受け取ろう。
「じゃ、じゃあ明日図書館でいいかな?」
「はい、時間については帰ってから連絡します」
「分かった。じゃあまた明日、大丈夫だとは思うけど気を付けて帰ってね」
「はい、楽郎くんも気を付けてくださいね」
玲:今日は本当に楽しかったです。明日は13時に図書館でもよろしいでしょうか?
楽郎:俺も楽しかったよ。あと浴衣姿めっちゃ可愛かった。13時ね、了解。おやすみ。
玲:み゛ゅ....楽郎くんだってとてもかっこよかったです!おやすみなさい。
付き合っている楽玲はどこまでイチャイチャさせていいのか分からないので難しい。
サブタイの最後は「きみとのよ」と読んでいただけると幸いです。