犠牲の道   作:百日紅 菫

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プロローグ
プロローグ1 絶影


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 手に持った大振りのサバイバルナイフを持ち直し、眼前に迫る武装した骸骨を見据える。

 目の前に存在する邪魔者が直剣とラウンドシールドを構え、僅かに足を引いたその瞬間。骸骨と対峙していた小さな影が掻き消えた。

 5秒。

 この世界から抜け落ちたように、誰にも存在を知覚されない時間を終え、影は再びその姿を現した。

 無数に切り刻まれた骸骨はポリゴン片となり、影が進んできた道を美しく彩っていく。小さな影はその景色を振り返ることも無く前へと進む。握っていたナイフは既に腰の鞘へと納められていた。

 口元を覆うマフラーを鼻先まで持ち上げて、小さな影は歩いていく。

 

 隠蔽スキルを発動し、誰からも認識されない影。

 攻略組にも、情報屋にも、存在だけを示唆される幻影。

 大柄な男であるとか、小柄な女性だとか。使用する武器は両手剣だとか、斧だとか、細剣だとか。根も葉もなく、当然、根拠も無い噂話ばかりが横行する中で唯一確かな情報は、この世界。アインクラッドに生存する全てのプレイヤーの中で、誰よりも『はやい』ということ。

 聖騎士、ヒースクリフのような堅牢さは無く。

 黒の剣士、キリトのような攻撃力は無く。

 閃光、アスナのような精確さは無く。

 けれど、噂話の幻は、何よりもはやかった。

 速度も。剣速も。何物にも影すら捕らえられないその幻は『絶影』と呼ばれ、全てのプレイヤーから畏怖される存在だった。

 下層、中層に存在するプレイヤーからは、その強さを。

 職人クラスのプレイヤーからは、そのアイテム収集や情報の速さを。

 攻略組のトッププレイヤーからは、速さを強さに結び付けるその技量を。

 そして、ゲームであって現実であるこの世界で、殺人を愉しむレッドプレイヤーからは、その存在そのものを。

 全てがデータの世界で、幻と呼ばれる存在に怯えることが、どれだけ滑稽か。

 しかしそれでも、人々は恐れ戦き、しかして希望を見出す。

 恐れられる程にはやい幻影は、そのはやさを向けるべき相手を定めている。

 それ故に、幻の絶影は畏怖される存在であるとともに、この絶望すべき窮地において、生きる希望とされているのだ。

 誰よりも速くモンスターを殺し尽くし、レッドプレイヤーを屠ってきた。 

 その幻影の存在を確かなものにした伝説的所業が、たった一人でフロアボスを攻略したというもの。

 誰かが見たわけでもないが、いつの間にか攻略されていたフロアが、絶影の存在を証明している。

 

 絶影。

 影すら捉えることのできない『はやさ』の化物。

 ゲームであっても、遊びではなくなったこの世界で、その影は何を望む。

 

 

 

 

 

 

 

 

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