ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

15 / 68
え~、約一年ぶりですか。放置していて本当に申し訳ありません。
いろいろとありまして少々書く気力が逸していました。

さらに申し訳ないのですが、今後もしばらくは定期的な更新は難しいかと思われます。

このようなグダグダな状態で心苦しいのですが、もしお付き合いしていただけるのなら、これに勝る喜びはありません。
今後もよろしくお願いします。

※今回は挿話5から投稿しておりますので、よろしければそちらからお願いいたします。


第8話 不完全だけど必要なもの

「ふ、ふは、ふははははは! すばらしい! これが! これが神と呼ばれしポケモン、ディアルガにパルキア!」

 

 あたしたちの目の前に空間の裂け目から現れた二体の存在。

 シンオウ地方の伝説のポケモン。

 時間の神、ディアルガ。

 空間の神、パルキア。

 圧倒的すぎる威圧感が辺りを支配する。

 

「ディアルガよ、パルキアよ! これを見たまえ!」

 

 アカギの手を包むグローブにはなにやら赤い結晶のようなものが備え付けられていた。それらを見た瞬間、ディアルガ、パルキアの二体の身体に赤い稲妻のような鎖のようなものが絞めつけられた。それがつけられた瞬間、二体が激しく雄叫びをあげ、苦しそうにもがき始めた。その苦しみは尋常じゃないようで、頭を激しく振り、身体をそこらじゅうに叩きつけている。

 

「ハハハハハ! アグノムがいなかったおかげで不安はあったが成功した! これでもうディアルガもパルキアも私の思うがままだ!」

「やめなさい、アカギ! ディアルガもパルキアもあんなに苦しそうにしているのよ!」

 

 アカギはつまらなそうに振り返り、一言零した。

 

「それが?」

 

 

 その一言であたしの中の何かが切れる音が聞こえた。

 

 

「……もういい! なら、実力行使よ! ポッチャマ、ハイドロポンプ! リザードン、かえんほうしゃ! あの紅い鎖を壊しなさい!!」

「ガブリアス、りゅうせいぐん! ルカリオ、はどうだん!」

 

 一度ポケモンたちをボールに戻していたあたしたちは再び、ボールから彼らを外に出し、指示をする。

 

「させん! ディアルガ、ときのほうこう! パルキア、あくうせつだん! ユクシーとエムリットはサイコキネシス!」

 

 苦しみもがく二体はそれから逃れたい一心で、またユクシーとエムリットは操られているため、あたしたちが繰り出した技に対して、それらをぶつけてきた。そしてぶつかり合ったそれらは一瞬拮抗するも、押し返されてしまう。

 

「ええ!?」

「まずいわ!」

 

 シロナさんはあたしを庇うように抱きしめる。だが、無情にもそれは迫ってくる。

 

「(くっ! ラティアス、ゲンガー! 出て来なさい! わたしといっしょにまもる!)」

 

 ラルトスがユウトさんのバックから出てきたその二体はラルトスの指示通り、半球体状にまもるを展開した。それからすぐさまその壁に衝突する攻撃。

 

「(サイコキネシスで分解しながら斜めに逸らすわよ!)」

「フアァァゥゥ!」

「ゲゲンガ!」

 

 そうして伝説のポケモンたちによる激しい攻撃をなんとか退けた。

 

「す、すごい……!」

「これが……!」

 

 あたしたちは安堵と共に驚きを露わにしていた。

 

「(アルセウスの鎖でディアルガとパルキアのパワーが増してみたいだから、技のぶつかり合いには勝てなかったのかしらね)」

 

 アルセウスの鎖? いったい何のことだろうか?

 一瞬そう思ったが、すぐにそれは忘却の彼方に飛んでしまった。

 

「さて、時間を司るディアルガ、空間を司るパルキアよ。お前たちの秘めたる力を解放し、ここに新たなる宇宙をつくりだすのだ!」

 

 そして二体が吐き出したエネルギー。それらが、ぶつかり合い、混ざり合う。

 そうして――

 

「おお、すばらしい! 宇宙だ! 新たなる世界が誕生したのだ!」

 

 ……たしかに何かの空間が出来上がり、その中には銀河や星雲らしきものが見えたりしている。まさにあれが本当に宇宙空間なら信じられないことだ。

 さらにアカギに寄り添うようにユクシーとエムリットが集まる。

 

「(いい加減、目を覚ましなさい! ユクシー、エムリット!)」

 

 そうしてラルトスが放ったスピードスターが二体の頭部に命中すると、ガラスの割れるような音がし、ユクシー達の目に正気が戻った。

 

「これで、これで私の野望は!!」

 

 アカギの歓喜の声がやりのはしらに響き渡った。

 

 

 

≪残念ながらそうはいかない≫

 

 

 

 しかし、同時にアカギとは違う声も響き渡った。

 この、聞き覚えのある声は、まさか――

 

 

 ディアルガとパルキアのさらに上、そこにまた次元の歪みのようなものが出来上がった。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「久々だな、アカギ。カンナギでアンタをぶちのめして以来か」

 

 アカギを始め、ここにいる全員が、パルキアやディアルガすら見下ろすような位置で、宙に現れたオレやアグノム、そして――

 

「きさま……な、なんだ、ソレは……!」

 

 オレを乗せているポケモンに驚きを隠せていない様子だった。

 

「コイツはギラティナというポケモンだ。ギラティナ、頼む」

 

 ギラティナはオレを下ろすと、パルキアやディアルガに向き直る。ちなみにはっきんだまをやぶれた世界で見つけて、それを持たせているため、フォルムチェンジはしていない(オレがオリジンフォルムが好きで運良くはっきんだまを見つけたため、お願いしたらOKもらえたという感じなんだけどね)。

 そのギラティナはディアルガとパルキアに向き直るとあやしいかぜで、紅い鎖にヒビを入れて、その後、きりさく攻撃で粉砕させた。二体はあの鎖でかなりダメージを負っていたのか、そのまま落下し、地面に身体を横たえた。

 

「(ユウト!!)」

「ん? おお、ラルトス! 無事だったか!」

「(ユウト、ユウト!)」

 

 十年以上ずっと一緒にいるラルトスがオレの胸に飛び込んできた。ちょっと泣いているようだったので、ちゃんとあやしてますよ。

 

「マンダー!」

「フアァァゥゥ!」

「ゲゲンガー!」

「ヘラクロ!」

「グオォォオ!」

 

 ボーマンダやラティアス、ゲンガー、ヘラクロス、ギャラドス。連れてきた全員がボールから出てオレに寄り添ってくれた。

 

「みんな、心配掛けてごめんな」

 

 その様にちょっと涙ぐんで声が震えてしまったのは仕方のないことだと思う。オレはこいつらに囲まれて幸せだ。本当にそう思えて堪らなく嬉しかった。

 

「ユウトさん!」

「ユウト君!」

 

 ヒカリちゃんやシロナさんも駆け寄ってきてくれる。

 

「ユウトさん、心配しました!」

「まったくよ」

 

 この二人にも相当心配させて迷惑かけたようで、

 

「ごめん、ヒカリちゃん、シロナさん」

 

素直に低姿勢で謝罪。でも、ちゃんと受け入れてくれてほっとした。

 

「それで、あのポケモンはなに?」

 

 シロナさんの視線の先。そこはディアルガにパルキア、そしてギラティナの三体のポケモン。

 

「アルセウスの話は?」

「そういえば、さっきあなたのラルトスがそんなことを言っていた気が?」

「どういうことなんですか?」

 

 オレ以外はアカギやシロナさんすらも状況が把握できていないと思われたので、神話からのおとぎ話も交えて説明する。

 

 

 ――初めにあったのは

 ――混沌のうねりだけだった

 ――全てが混ざり合い

 ――中心に卵が現れた

 ――零れ落ちた卵より

 ――最初のものが生まれ出た

 ――最初のものは

 ――二つの分身を創った

 ――時間が回り始めた

 ――空間が広がり始めた

 ――さらに自分の体から

 ――三つの命を生み出した

 ――二つの分身が祈ると

 ――「物」と言うものが生まれ

 ――三つの命が祈ると

 ――「心」と言うものが生まれた

 ――世界が創り出されたので

 ――最初のものは眠りについた

 

 

「シロナさんはミオ図書館にあるこの『始まりの話』は知っていますよね?」

「ええ、一応これでも神話とポケモンの関連性、人間とポケモンの歴史を研究している考古学者だからね」

「これについてですが“二つの分身”はディアルガとパルキア、“三つの命”はアグノム、ユクシー、エムリットを指します」

「まあ、それについては学会でもそう推測されているからね」

 

「では次。この“最初のもの”、これはこの世界を生み出したポケモン、創造神アルセウスを指します。このアルセウスがこの五体のポケモンたちを生み出したんですが、そして実はこの神話、間違っている、というか真実が欠けてしまっている部分があるんです」

 

「なんですって!?」

「なんだと!?」

 

 全く知られていなかった事柄、そして正しいと信じられてきた神話自体の欠損。いきなりこれらを提示され、神話について造詣の深いシロナさんに、ディアルガとパルキア復活のために動きまわっていたアカギには特に衝撃的な内容だった。

 

「本当はアルセウスが生み出した分身は三つなんです。そして、最後の分身はそこにいる三体目のポケモン、ギラティナ」

 

 全員の視線がギラティナに集まる。

 

「世界を創るにはディアルガとパルキア、この二体のポケモンが必要です。しかし、世界を創り出すことは可能でも、その世界を安定させることは出来ないんです。創り出した世界をプラスとすると、同じくマイナスという要素がなければゼロにはならず、安定はしません」

 

 例えば化学で習う原子は、陽子と中性子が原子核を構成していて電気的にはプラスの性質を帯びている。だが、それだけでは安定しないため、マイナスの電気的性質を帯びている電子を原子核の周りをいくつか飛び回らせることによって、電気的にプラスマイナスゼロの状態にして安定を図っている。それと似たようなものだ。

 

「そのマイナスの要素がギラティナであり、ギラティナが支配する“やぶれた世界”という世界です。そのやぶれた世界が、いわば、この世界と表裏一体、プラマイゼロの関係となっていて、世界の安定を図っているんです」

 

 だから、アカギがディアルガとパルキアを使い、この世界に新世界を創り出そうとしたが、新世界はそのままだと、この世界を蝕み、いずれ消滅させることになる。この世界はやぶれた世界と表裏一体の関係なのだから、新世界の侵食が進むとやぶれた世界もまた蝕まれて、消滅する。その前兆が先程やぶれた世界にもきちんと現れていたのだ。

 

「ギラティナは“こちら側”には滅多に出てこないために、過去に神話を残した人々はギラティナの存在を知らなかったんでしょう」

 

 だから、世界創生についての不完全な神話が生まれたのだと補足した。

 

「世界を創り出した神々たちは世界の消滅など望んでいない。だから、ディアルガ、パルキア、ギラティナ、この三体がそろえば――」

 

 見るといつの間に起き上がっていたディアルガとパルキアが、ギラティナと共に、自ら創り出してしまった世界を――

 

「ああ! 世界が! わたしの世界が!!」

 

 アカギが未練がましく吠えているが、あの三体は構わず、この世界にあってはならない“世界”を消滅させていく。

 

「わたしの……! わたしの世界……!」

 

 アカギの嘆きをBGMにして、消えていった世界。消えた後、ディアルガとパルキアは空間に穴を開けて帰って行った。

 ギラティナたちも戻るかと思いきや、なぜだかギラティナと、それから湖の三体がオレの元に寄ってきた。

 

「(ギラティナはあなたを元の世界に戻すことは出来ないと言っている。アグノムたちやディアルガ、パルキアもそれは出来ない。だから、ごめん)」

 

 アグノムのテレパシーがオレの頭の中に響き渡る。

 

(いや、さっきも話したときに言ったけど、別にオレとしてはこの世界でも十分楽しくやってるから、大丈夫だって。謝るほどのものじゃない)

 

 尤も、それを悲しんでくれたことには『ありがとう』の気持ちは抱いている。ちなみにこのテレパシーはアグノムとオレとだけにしか通じていないみたいなので、シロナさんたちにオレのことを説明しなければならないという面倒な事態は発生しない。

 

「ギラティナ、お前はもう自分の世界に帰りな。それでいつかまた会おうな」

 

 それにコクリと頷くギラティナ。そしてシャドーダイブでやぶれた世界に戻っていく。アグノムたちもそれぞれが眠る湖に戻っていった。

 

「わたしの……世界……わたしの……野望が……不完全なこの世界を……」

「アカギ、何を以ってあなたはこの世界が不完全だと判断するの?」

 

 両手を地面について項垂れるアカギにシロナさんが声をかける。

 

「決まっている。心だ。心があるから人間もポケモンも争いが起こる。それはなんと醜いことか。もはやそれは罪なのだ、だから――」

 

「そんなことはない!!」

 

 アカギの言葉をヒカリちゃんの絶叫が遮った。

 

「あたしはポケモンたちが好き。あたしのポケモンたちが大好き。だから、旅を続けることが出来てる。つらいことがあっても乗り越えることが出来てる。それは、みんながいてくれるから、みんながこんなあたしといてくれるから。この感情は間違いなんかじゃない! だから!」

 

 ヒカリちゃんのポケモンたちがボールから出てきて雄叫びをあげる。皆、アカギの言うことに反発しているのだろう。彼らはヒカリちゃんのことが大好きだから。

 

「アカギ、一つ言っておきたいことがある。人間やポケモンに問わず、生き物は太古から争うことにより進化をしてきた」

 

 どこぞの漫画に『この世は所詮、弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ』という言葉があるが、まさにその通り。生き物は絶えず、その時代で相争い、そしてその時代に適した進化を遂げたものが生き残り、繁栄を続ける。そうしてまた争い、進化をつづけていく。それの繰り返しだ。

 尤も、この世界でそれがきちんとあてはまるのかはよくわからない。

 だがしかし、それでもその“争う”ことが生き物であることに課せられた逃れられない使命でもあると思う。

 

「アンタの言う“心”、つまり、“感情”がいらないというのなら、そんなものは単なる“ロボット”に過ぎない。それをアンタは知るべきだな」

「みんなにだいたい言われちゃったけど、私からも一つ。あなたのそのくだらない野望が自らの正義だとでも言うのなら、そんな人様に迷惑をかけるものなんてクソくらえって感じね」

「ついでに言えば、アンタのその野望、それすらもアンタがそれを望む“感情”から生まれたものだ。アンタがそれを否定したら、アンタ自身が自分を否定することになる。そのことに気づくべきだったな」

 

 

 こうしてシンオウ地方を揺るがした破滅の危機は、ここに終息した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。