ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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挿話10 リーグ3回戦シンジVSヒカリ(前編)

 予選リーグも今日から三回戦に突入した。私はシンオウ地方チャンピオンとして、タマランゼ会長の隣で予選リーグを観戦している。

 

『では選手の紹介をしましょう! まずは赤コーナー、フタバタウン出身、ヒカリ選手! そして青コーナー、トバリシティ出身、シンジ選手です!』

 

 五つある予選リーグ会場の中でヒカリちゃんのバトルを見れる会場に当たるとはついている。

 そして噂に聞いた彼。

 

「ダイゴ、彼よね、ユウト君に挑戦を吹っ掛けたって言う子は?」

「ああ、そうらしいね」

 

 そうそう、ダイゴもホウエンチャンピオンということで同席しています。

 

「ほほう、なかなか剛毅な者も居るようじゃな?」

 

 それからタマランゼ会長とは真っ白なご立派な髭にアロハシャツにビーチサンダルという格好の好々爺な人だけど、実は全国ポケモンリーグの責任者で、全国で開かれるポケモンリーグの大会の運営を担う、ぶっちゃけていえばものすごく偉い人。

 

「しかし、彼もたまにはチャンピオンとしての自覚を持ってもらいたいもんじゃなぁ」

 

 だから、当然ユウト君のことも知っている。

 

『では、試合開始ィィ!!』

 

 シンジ君という彼はユウト君と戦うという。しかし、それにはこのヒカリちゃんを突破しなければならない。

 彼にとっては重い試練になりそうである。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

『ヒカリ選手はムクホーク、シンジ選手はテッカニン! 両者、最初のポケモンがこの岩のフィールドに出揃いました!』

 

 相手はシンジというあたしと同じかやや上ぐらい少年。

 

「はっきりいってお前は眼中にない。このバトルも今までと同様にアッサリ終わらせてもらう」

「はたしてそう簡単にいくかしらね」

 

 聞いた話では彼はユウトさんにバトルを挑むのだという。名指しで指名するぐらいなんだから、相当な手練なはず。実際、ユウトさんは「彼は強いから注意しておいた方がいい」と言われた。

 ユウトさんがあんな風に言うぐらいなんだから、心していかないと。

 

 そのシンジはテッカニンを繰り出してきた。

 テッカニン。たしか伝説のポケモン、デオキシス(スピードフォルム)を除けば、全ポケモン中ナンバーワンの素早さを誇る驚異的なポケモン。さらに、特性が『かそく』(一定時間たつと素早さが段階的に上がっていく)。本当に厄介きわまりない。

 テッカニンを使う場合、まず考慮に入ってくるのがバトンタッチの存在。能力変化やみがわり、かげぶんしんなどの状態をそのまま後続に受け継ぐ技だ(入れ替えをすると、通常それらは消滅する)。

 素早さが爆発的に上がった状態で後続に受け継がれたら目も当てられない。なんとしても、即退場させたいところ。

 

「ムクホーク、でんこうせっか!」

「テッカニン、かげぶんしん!」

 

 あたしのムクホークはすごくなまじめな性格をしている優等生タイプなため、能力補正はない。ただ、素早さに努力値を極振りしていても、やはりテッカニンの方が速く、先にかげぶんしんをされる。

 

『ムクホークのでんこうせっか! しかし、テッカニンのかげぶんしんの方が速かった! でんこうせっかは分身の一つを通過しただけになってしまい、でんこうせっかは不発に終わりました! それにしても、シンジ選手のテッカニン、すごい数のかげぶんしんだ!』

 

 たしかに十や二十じゃきかない。こうなったら、テッカニンの素早さも合わさって、ピンポイントの攻撃は外れてしまう確率が高い。

 ならば、

 

「ムクホーク、ねっぷう! ついでに目くらましもねらいなさい!」

 

分身全てに攻撃が加えられるような、範囲攻撃でいく!

 

『なんとすごい! ムクホーク、炎タイプの技のねっぷうを覚えていました! ムクホークの羽ばたきから発生した熱い風が、この岩のフィールド全体に吹き荒れます! それにしても鳥ポケモンにねっぷうとは、二回戦のユウト選手のペラップを思い起こさせますね!』

 

 まあ、あたしはユウトさんに師事してたから、その影響は色濃いと思う。それに、飛行タイプって鋼タイプに対する有効打が相当限られているから、鋼に効果抜群を取れるねっぷうはかなり有用だ。

 さて、そのねっぷうだけど、ムクホーク自体の特攻はそんなに高い方ではないから、ダメージを与えるにしてはやや力不足な感があるのは否めない。

 

「ちっ! そんな技まで覚えているのか! テッカニン、まもる!」

 

 絶妙なタイミングでまもるを使われたみたいけど、ただ、これで最低条件はクリアできた。

 

『テッカニン、効果抜群ねっぷうをまもるで防ぎ切りました! ノーダメージです! しかし、あれだけあった分身は一つ残らず消滅してしまいました! さあ、ここから両者どうする!?』

 

 そのとき、ムクホークの身体が少しブレたように見えた。

 

「ムクホーク、うまくやった!?」

「ムクホーークッ!」

 

 よし、いい返事! これで万が一の保険ができた!

 

「テッカニン、れんぞくぎり!」

「うそ!? ムクホーク、かわして!」

 

 何とか逃れようとするも、回り込まれ、一撃を食らってしまう。尤も、タイプ相性、技の威力、ムクホークの特性『いかく(相手の攻撃を一段階下げる)』で大したダメージにはなっていないようだけど。

 ていうか、そこはつるぎのまいを舞ってからバトンタッチじゃないの!?

 

「そのまま攻め続けろ! 今度はきりさく!」

 

『おーっと、ヒカリ選手、何やら動揺してしまい、指示が出せない! そのうちにテッカニンが攻め続けている! ムクホーク、ピンチだ!』

 

 マズッ、頭を切り替えないと!

 

「ムクホーク、こうそくいどう!」

 

 きりさくをこうそくいどうで素早さをあげると同時に抜け出し、距離を取る。

 

「ムクホーク、反転してでんこうせっかからのつばさでうつ!」

「テッカニン、かわせ!」

 

 でんこうせっかで突進し、そこからのつばさでうつだったが、これは呆気なくテッカニンにかわされてしまった。時間的に、おそらくテッカニンは出てきたときの二段階アップくらいの速さになっているはずだから、それも仕方のないことだと思う。

 

「テッカニン、シザークロス!」

 

 その素早さからあっという間に間合いを詰めて、シザークロスがムクホークに決まる。

 

『つばさでうつを軽々と避けたテッカニン! ムクホークに対してのシザークロス! 相性は悪いとはいえ、これをまともに食らったァ! ムクホーク、手痛いダメージを負いました!』

 

 だから、なんでバトンタッチしないのよ!? あ、いや、されると非常に困るんだけどね。

 そうこうしている間にムクホークのバックを取ったテッカニンがそのままムクホークにまたシザークロスを決まってしまう。

 だが――

 

『こっ、これは!?』

「なんだと!?」

 

 シザークロスをまともに受けたムクホークは、ボンという煙を立てて消え去った。

 

「これは、まさか、みがわり!?」

 

 ザッツライト。いや、保険の意味で掛けといてよかった。

 

「その通り、みがわりよ。さっきのねっぷうのとき、仕込んでおいたの。見えなかったでしょ?」

「くっ!」

 

『なんと、みがわりだァ! みがわりでテッカニンの目をくらましたムクホーク! しかし、肝心のムクホークはいったいどこにいるんだ!?』

 

 それはね――

 

「ムクホーク、でんこうせっかからのブレイブバード!」

 

 スタジアムにあたしの声が響き渡る。

 

「――……ーーック!」

 

 それに応えるかのように、段々と大きくなっていったムクホークの嘶き。

 

『なんと上だァ! ムクホークはスタジアム上空にいたァ! そのままテッカニンに向かって一直線に飛んできている! いや、これはもはやテッカニンに向かって高速落下をしているとでも言うべきかァ!』

 

「ムクッホーーーク!」

「かわすんだ、テッカニン!」

 

 しかし、テッカニンが動く前にムクホークとテッカニンが衝突。

 

『テッカニンにムクホークのブレイブバードが直撃ィィ! これは効果は抜群だァァ!』

 

「ムクホーク、そのままテッカニンを岩に叩きつけるのよ!」

「テッカニン、脱出しろ!」

 

 ムクホークはテッカニンを地面に叩きつけるべく、さらに地面に向かって加速する。

 一方、暴れてムクホークから逃げようとするテッカニンだが、ムクホークもそう易々と逃がさない。

 

「ならテッカニン、きゅうけつ!」

 

 テッカニンがムクホークの喉元を噛む。

 

「ムクホーク、がんばって!」

 

 苦しそうな表情を見せながら若干スピードは緩んだようだが、それでもムクホークが踏ん張っている。

 

「ムクッッ、ホーーークッ!」

 

 ムクホークはそのままテッカニンを岩に叩きつけた。フィールドの岩が激しく砕けると共に、粉塵が爆心地を中心として舞い上がる。

 

『テッカニン、きゅうけつで抵抗を試みましたが、残念! ムクホークから逃れることは出来ず、フィールドの岩に直撃ィィ! 凄まじいまでの土煙が上がり、衝突の激しさを物語っています! テッカニンも大ダメージですが、ムクホークもこれではダメージからは逃れられないでしょう! さあ、この土煙の中から先に姿を見せるのはどちらだァァ!』

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「う~ん、テッカニンだからと安易にすぐバトンタッチをするとは限らないんだけどなぁ」

 

 まあ、『テッカニンを見たらバトンタッチがあると思え』、『テッカニンを使うなら、バトンタッチをどう生かすかが、バトルの戦局を左右する』って口を酸っぱくして、テッカニンとバトンタッチの関連性を教え込んだのはオレなんだけどね。ただ、定石をこれとするなら当然、その裏をかくための戦法もあるわけで、それの言及も勿論した。尤も、今は間違いなく定石ではない戦法の方が主流であるが。

 

「て言うか、お前さぁ、この状況でよくそんなのんきなこと言ってられるな」

「とか言って、みんなだってふつうじゃないですか」

 

 シルバーのやや呆れを含んだような言葉にお互い様だといった風に返す。

 さて、視線を戻してスタジアムを見下ろす。

 ここにいる四人――オレにシルバーにリーフ、グリーン――以外、この会場にいる観客は全員が固唾を飲んでムクホークとテッカニンを見守っている。ちなみにオレたちは観客席に座れず、最上階の部分で立ち見である。そんな状態なのであまり目立っていないが、それでも近くの人からはオレたちのことは場違いに感じたりするかもしれないね。

 しかし――

 

「こりゃあ、少しハッパをかけ過ぎたかな?」

「どういうことだい?」

「いえ、さっきのヒカリちゃんの動揺ですが、オレみたいなやつならテッカニンは必ずバトンタッチをしてくるって教え込んでいまして。で、さっき、ヒカリちゃんに『シンジ君は強敵だよ』って吹きこんだんですよ」

 

 グリーンさんの問いの答えとして言った内容に、途端、「おいおい……」といった雰囲気が流れる。リーフさんやグリーンさんは苦笑いを浮かべていた。

 

「オイ、バトンタッチなんてほとんどのヤツは知らねーぞ。あのシンジっつーガキだって知らないハズだぜ?」

「それを勘違いしたのはヒカリちゃんですから」

「オイ、そりゃあ詐欺なんじゃねーか?」

 

 シルバーのその言葉に思わずクスッと笑みが零れてしまった。

 

「シルバーって意外にあまいんだね」

「あんだと?」

「でも、それだとヒカリちゃんのためにはならないんだよ」

「どういうこった?」

「当たり前の話だけど、世の中には自分の知らない人ばかりです」

 

 その知らない人の中には、自分より強い人なんかいくらでも、それこそ掃いて捨てるほどいる。ヒカリちゃんにはそういう、知らない人に対するときのある種の緊張感というものをいつでも持ち合わせていてもらいたい。

 

「最近はオレかラルトスかシロナさんっていう知っている人としかバトルはやってなかったですからね」

 

 適度な緊張は人間に刺激を与える。そこから柔軟な発想、思いもよらない戦略なんかが浮かんでくることだってある。

 

「なるほど。しかし話を聞いていると、僕はシルバーより君の方がずっと過保護なんじゃないかと思うな」

「同感ね」

「だな」

「尤も、シルバーだって似たようなところはあったりするけどね」

「いやいや、グリーンさん、そんなことはないですよ!?」

「どうかしら?」

「あんだと、テメー!」

「あ、それより見て見て!」

 

 

「ムクッホーーク!」

 

 

 その嘶きが聞こえ、岩のフィールドからムクホークが飛び立った。

 

『飛んだァ! ムクホーク、健在です! 一方、テッカニンの方は!?』

 

 するとムクホークが羽ばたき始め、土煙が消え失せる。

 

『こっ、これは!?』

 

 見るとそこには倒れ伏したテッカニン。ジャッジがテッカニンの元に近寄る。

 

「テッカニン、戦闘不能! ムクホークの勝ち!」

 

 まずはヒカリちゃんが一勝したようだ。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「戻って、ムクホーク!」

 

 あたしはムクホークをボールに戻した。

 

「ありがとう、ムクホーク。また出番があるかもしれないから、そのときまでゆっくり休んでてね」

 

 あたしの言葉に対して、微かにボールが揺れるという返事が返ってきた。

 

『さあ、シンジ選手が一体ポケモンを失いました。そしてここでヒカリ選手、ポケモンの交代をするようです』

 

 さて、次はどの子にしようかと思ってボールポケットに手をやると、一際揺れるモンスターボールに行き当たった。そういえば、この子はリーグ戦にまだ一度も出してなかったわね。一番付き合いも長いことだし、いい加減ボクも出してくれってことかな。

 

「オイ」

 

 いきなりシンジが呼びかけてきた。

 

「オレは絶対に負けられない。負けられない理由があるんだ」

 

 その言葉にあたしはとても共感を覚えた。だって、負けられない理由があるのは、あたしもいっしょ。あたしはリーグ決勝戦でユウトさんと戦って、自分を示さなければならない。だから、ここでは負けない! 負けていられない!

 

「それは奇遇ね。あたしも負けられない、絶対に!」

 

 次に出すその子のモンスターボールを手に取り――

 

「「いけぇ、次のポケモン!」」

 

 思いの詰まったそれを思いっきりフィールドに投げ入れた。そして、きっとそれは彼も同じだったんだということをあたしは肌で感じ取った。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

『シンジ選手、二体目のポケモンはドラピオン! 一方、ヒカリ選手の二体目のポケモンはポッチャマです!』

 

 ドラピオンにポッチャマ。二人の体格差は一目瞭然で、お互い距離があいているのにポッチャマがドラピオンを見上げる形になって対峙している。

 

「フン、未進化のポッチャマなんかにオレのドラピオンはやられない! ドラピオン、じしんだ!」

「ポッチャマ、真下に向かってハイドロポンプ!」

 

 じしんは地面タイプの技で、足元からダメージが来る技。ならばハイドロポンプの水の勢いによって宙に浮かび上がれば、じしんのダメージはない。

 

『ドラピオン、両前足をフィールドに叩きつけたことによってじしんが発生! しかし、ヒカリ選手、ポッチャマに地面に向かってハイドロポンプを指示したことによってポッチャマは空中に回避! それにしてもポッチャマがハイドロポンプを覚えているとはすごい!』

 

「ちっ!」

「進化してないからってあまく見ないでよね!?」

「なら、これならどうだ! ドラピオン、シャドーボール!」

 

 シャドーボールは特殊技で、ドラピオンの特攻はそんなに高くない。それなら!

 

「ポッチャマ、そのままれいとうビーム!」

 

 するとれいとうビームによって、ハイドロポンプがそのまま、岩のフィールドにそびえ立つ氷柱に早変わりした。

 

「ポッチャマ、その影に隠れなさい!」

「なんだと!?」

 

 そしてシャドーボールが氷柱に激突。

 

『これはすごい! ヒカリ選手、れいとうビームでハイドロポンプを氷の柱に変え、シャドーボールを防御したぞォ!』

 

 氷柱はヒビこそ入っているものの、予想通り完全には壊れていなかった。

 

「ポッチャマ、氷の柱に向かってずつき!」

「ポッチャマー!」

 

 するとヒビの入った氷柱は完全に壊れ、かつ、ずつきの勢いに乗り、破片がドラピオンに向かって飛んでいく。

 

「避けろ、ドラピオン!」

 

 氷の破片を避けようとしてイヤイヤと首を振ってはいるものの、それらは容赦なくドラピオンの巨体に直撃していく。

 

『こっ、これは! ずつきによって氷の破片がドラピオンに直撃しています! これは、疑似的なこおりのつぶてといっても過言ではないでしょう! ドラピオン、避けようとしていますが、その巨体ゆえに、逃げ切れません! かなり苦しそうだ! 相当効いているようです!』

 

「避けられないなら、撃ち落とせばいい! ドラピオン、ミサイルばりではたき落とせ!」

「ドォォラァーー!」

 

 シンジの指示で目に活の入ったっぽいドラピオンが尻尾と頭の両脇から生えている腕のカマからミサイルばりを放つ。

 

『ドラピオンのミサイルばりが疑似こおりのつぶてを叩き落していきます! なんて強いミサイルばりだァ!』

 

 しかも、このミサイルばり、行く手を阻む岩を岩ごと簡単に粉砕している。とんでもない威力のミサイルばりだ。

 そんなこんなで、氷の礫はすべて撃墜されてしまった。なら、次は――!

 

「ポッチャマ、アクアジェットタイプB!」

「ポッチャマー!」

 

 ポッチャマは地面に寝そべりグルグル回転しながら、水を纏ってアクアジェットを行い始める。すると、水の渦、いやもはや竜巻というべきものがいくつも形成され、それが不規則にウニョウニョと動くため、それに当たったミサイルばりは撃墜されていった。

 

「うぉい!? こんなことがあってたまるか!?」

 

 シンジの驚きの声が響き渡る。

 

『こっ、これはいったい!? ヒカリ選手、ポッチャマにアクアジェットを指示しました! しかし! しかし、これが本当にアクアジェットなのでしょうか!? 私にはまるで別の技のようにすら思えてしまいます! と、とにかく、ポッチャマが発生させた水の竜巻によってフィールドの岩をも砕くミサイルばりがどんどん撃墜されていきます! ミサイルばりは一つもポッチャマには届いていない! 恐るべき水の竜巻の壁!!』

 

 さて、ミサイルばりが効かないとなると、

 

「ならば、ミサイルばり以上の威力の技であの壁を粉砕すればいいんだ!」

 

うん、きっとそう来ると思った。あたしだってそうするし。というわけで、

 

「ポッチャマ、ストップ! うずしおよ!」

「ドラピオン、クロスポイズン!」

 

 アクアジェットをやめたポッチャマはすぐさま起き上がり、口を上に向けて頭上にすり鉢状に渦を巻いたうずしおを完成させる。

 

「ドォォラァーー!」

「ポッチャマー!」

 

 そして両腕のカマを交差させ発生させたクロスポイズンとうずしおが激突した。

 

「ドラピオン、もう一度、クロスポイズン!」

 

 拮抗し合うクロスポイズンとうずしおを打ち破るため、シンジはクロスポイズンを指示。さて、あたしは……――!

 

「そうだわ! これはいける! ポッチャマ、うずしおに向かってふぶきよ!」

「ポッチャマー!」

 

 閃いたことを成すために、あたしはまず、ポッチャマのふぶきでうずしおを凍らせて、うずしお自体の耐久力をあげさせる。

 

『シンジ選手、ドラピオンに二発目のクロスポイズンを指示! 一方ヒカリ選手はふぶきでうずしおを凍らせます! おおっと! 二発目のクロスポイズンがうずしおに直撃ィ! 衝撃で白煙がフィールドを覆っていきます! こちらからは煙で視界が見えなくなってしまいました!』

 

「いい、ポッチャマ!? ――!」

「ポチャ!」

 

 「わかった!」とばかりに頷いてくれたポッチャマはアクアジェットで水煙漂うフィールドの中に消えていった。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「それにしてもすごい勝負じゃのう」

「ええ。さすがはユウトの弟子ってところですかね。それに相手の男の子もこれまたすごい。実力的には、今大会のかなりの上位に食い込むものでしょうね」

「うむ、これで、この地方のポケモンバトルも面白くなるじゃろうて」

 

 タマランゼ会長は、ユウト君が現れてから、ポケモンバトルは奥の深さが増して大変面白くなったと上機嫌だった。ダイゴもそれに同意している。

 今までのポケモンバトルは、ただの技と技のぶつかり合いみたいなものだったから、それを何度も見ていれば、飽き飽きとしてくるのだろう。

 しかし、これからは違う。

 一戦一戦がトレーナーの戦略、知識、読み、駆け引きといったものが試される。まるっきり同じ対戦には二度とお目にかかれないから、一戦一戦がおもしろいモノとなる。

 

 ふぅ。それにしても、毎日対戦をチャンピオンとして観戦し、さらに夜には学会で発表するための論文を仕上げている最中だから、若干眠い。あ、まずい。欠伸が出そうになった。会長の前だからかみ殺さ、ない、と……――?

 

 そう言えばヒカリちゃんのポッチャマってたしかあの技が使えたわよね。しかもこの状況なら――

 

「今のハイドロポンプやれいとうビーム、アクアジェットだって、攻撃技ですけど、使い方と工夫次第であのような戦法も出来るのですから。正直、ホウエンチャンピオンとしてもこの対戦は見るべきものがありますね」

「じゃが、シンジ君とやらのポケモンもすごいのう。こりゃあまだまだわからんぞい?」

 

 二人の会話を背に、私の頭の中で戦略がパズルのように組み上がっていく音が聞こえた。そして、

 

「おそらくですが、この対戦はすぐ終わりに向かうと思いますよ」

 

「「ハッ?」」

 

二人の会話に唐突に食い込んだ私の言葉。タマランゼ会長とダイゴは素っ頓狂な顔をして同じ言葉を同時に発していた。

 それに去ることながら、きっとその内容にも寝耳に水といった感じなんだろうと二人の心境を慮ると、私は、苦笑が漏れるのを堪えることができなかった。

 

 




ポッチャマのアクアジェットについてですが、最終進化形であるエンペルトが覚えますので、覚える素養はあるかなと思い、このようにしています。
タイプAが対空迎撃、タイプBが前方から飛来する技に対する迎撃です。

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