ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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挿話11 リーグ3回戦シンジVSヒカリ(後編)

 『うずしお+ふぶき』と『クロスポイズン二発』のぶつかり合い。その結果がこのフィールドの大半を覆う白い霧状の煙だった。

 ポッチャマは上手くやってくれることを願いつつ、あたしはフィールドの白煙が晴れるのを固唾を飲んで見守った。

 

『さあ、フィールドを覆う水煙が晴れて来ました! ポッチャマとドラピオン、両者どのような状況になっているのか!』

 

 そして、水煙が晴れたそこには――

 

『おーっと! ポッチャマがドラピオンのカマに捕まっています! ポッチャマ、絶対絶命のピンチだ!』

 

 ポッチャマがドラピオンの両手のカマに挟まれて身動きが取れないような状況に陥っていた。

 

「ポッチャマ!?」

「よくやったぞ、ドラピオン! チャンスだ! そのままはかいこうせん!」

 

 シンジがドラピオンにしねしねこうせん、ではなくはかいこうせんを指示。ドラピオンの口にははかいこうせんのエネルギーがみるみるうちに溜まっていく。

 ポッチャマ……! あたしは、あなたがきっと上手くやってくれたことを信じてる!

 

「ドラピオン、はかいこうせん発射!!」

 

 ドラピオンは首を後ろに傾けてからはかいこうせんを発射しようとした。

 

 ……

 

 ……

 

 …………

 

 …………

 

 辺りを沈黙が支配している。

 

「きっ、キタッ! キタッッ!! ありがとう、ポッチャマ!!」

 

 あたしは思わずガッツポーズをした。

 

「ど、どうした、ドラピオン!?」

 

 ドラピオンは今だにはかいこうせんを発射しなかった。

 

『これは、いったいどうしたことでしょう!? ドラピオン、はかいこうせんを撃ちません! いったい何が起きたのでしょうか!?』

 

「ドラピオン! どうしたんだ、ドラピオン!?」

 

 シンジの必死に呼び掛けるも、ドラピオンは一切の反応を返さない。

 

「ドラピオン! おい、ドラピオン!?」

「いくら呼び掛けてもムダよ! ポッチャマ、めざめるパワー!」

 

 カマに掴まれていたポッチャマの身体が発光する。

 

「ポチャチャ、ポッチャマー!」

 

 めざめるパワーによって拘束を解かれ、自由の身になるポッチャマ。

一方、ドラピオンの方は音を立てて体を地面に横たえた。

 

「なんだと!? こ、これは!?」

 

 ドラピオンは身体は微かに上下して呼吸をしているが、目は閉じられていた。

 

『な、な、な、なーんと、ドラピオン、眠っています! ここに来て眠るなんていったい何が起こったんだァァ!?』

 

「さあ、とどめよ! ポッチャマ、最大威力でハイドロポンプ!」

 

 眠っているドラピオンにハイドロポンプが避けられるはずもなく、ドラピオンはその激しい水流によってフィールドの岩に叩きつけられる。だが、水の勢いが激しいため、岩の方が粉砕され、そしてまた新たな岩にドラピオンが叩きつけられる。それを幾度か繰り返して、最後にはドラピオンをスタジアムの壁に叩きつけた。

 これほどの威力はきっと本来はないだろうから、特攻に結構振った努力値のおかげなのかもしれない。

 

「ドラピオン、戦闘不能! ポッチャマの勝ち!」

 

『ポッチャマの凄まじいほどの威力を誇るハイドロポンプがドラピオンに炸裂ゥ! そしてェ、壁に叩きつけられたドラピオンは、たまらずダウーーーン! これでシンジ選手の残りポケモンは一体! 後がなくなったァ!』

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「あくびじゃと?」

「なるほど、そういうことか!」

 

 タマランゼ会長とダイゴ、二人の反応は対照的で、会長は何が何だかわからないといった感じだが、ダイゴは手を叩いてウンウン頷いている。

 

「おいおい、キミたちだけで納得してないで、ワシにも説明してくれ。いったいどういう技なんじゃ?」

「ええ。あくびという技ですが、この技は一定時間経つと必ず相手を眠らせるという技なんです」

 

 ユウト君曰く、流し技として最もポピュラーと言っていい技のあくび。

 なぜなら、あくびを食らったポケモンは、そこでボールに戻せば眠らない。だけど、そのまま戦い続けると眠ってしまう。

 眠りは厄介なので、カゴの実やラムの実といった木の実を持たせるか、ねごとやしんぴのまもりといった技で対策するか、あるいは特性『やるき』や『ふみん』などで対抗するかしない限り、この技を使われた場合は交換させるしか眠りを回避する方法がないのである。

 だから、相手がその効果を知っていれば、強制交代させることができる『流し技』。相手が知らない場合は、眠り状態に追い込めるので、相手は何もできずに、こちらの思うがままに状況を動かせることになるわけだ。

 

「おそらく、あのポッチャマはあの水煙の中、ドラピオンに接近。ドラピオンとしては攻撃を当てる絶好のチャンスとばかりに拘束したのでしょう。それが、ポッチャマの戦略であると知らずに。そして、そこでポッチャマはあくびを食らわせた。で煙が晴れるまでの時間と、それからトレーナーが状況を把握して次の指示を下すまでの時間が合わさって、ドラピオンは眠ってしまった。そういうところでしょうか」

 

 今回は、上手く戦略が噛み合って引き寄せた勝利といえる。

 ただ、あのドラピオンは相当強かった。かなり個体値がいい個体なのだろう。正直、テッカニンがつるぎのまいをしてからドラピオンにバトンタッチをしていれば、間違いなく、ポッチャマ、ムクホークはやられていたに違いない。

 ヒカリちゃんの手持ちのポケモンの中で、最強のリザードンもわからない。相性はリザードンは炎・飛行タイプ、ドラピオンは毒・悪タイプで、可もなく不可もなくだが、リザードンはじしんを持っているため、ドラピオンとしてはリザードンは相手が悪いのだが、特性『かそく』やつるぎのまいで格段に上がった素早さと攻撃からのいわなだれを食らわせれば、四倍弱点ということもあり、タイプ一致でなくともほとんど一撃でリザードンもダウンすることになるだろう。

 

『それにしても素晴らしい戦いです! とても予選リーグ三回戦とは思えません! これが本当にポケモンバトルなのでしょうか! あざやか、そして戦略に満ちた技の応酬に、私たちはどれほど興奮を巻き起こしたことでしょう!!』

 

「たしかに相手の戦略ミスに救われたということもある。けど、見事ね、ヒカリちゃん」

 

 私たちからすれば伸るか反るかの勝負だったけど、結果として、それを上手く制して勝ちを手繰り寄せたヒカリちゃんに、賞賛を送った。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「ありがとう、ポッチャマ。一旦戻って」

「ポチャチャァ」

 

 あたしはポッチャマをボールに戻した。

 

「それにしても今のドラピオンはあぶなかったわ」

 

 テッカニンがつるぎのまいをしてあのドラピオンに受け継がれていたら、間違いなくポッチャマは負けていた。それほどあのドラピオンは強かった。

 

 ……いや、テッカニンとドラピオンのことは忘れて次のことに頭を切り替えよう。

 今まであたしがこの大会で出したポケモンはポッチャマ、ムクホーク、ギャラドス、リザードン。この中でどれも共通する弱点は電気。

 ユウトさんに誘われてシンジの試合を見ていたんだけど、彼は一回戦にエレキブル、二回戦にブーバーンを使っていた。そして彼のエレキブルは相手のポケモンを三タテしていた。おそらく、シンジのパーティの中で間違いなくエースアタッカーに分類される。

 とすれば、この大一番では一番信頼の高いだろうエレキブルが出てくる可能性が高い。それに、エレキブルは、この試合で出したポッチャマ、ムクホークの弱点をつくことが出来る。電気封じのための対抗馬として、地面タイプのポケモンがいればいいのかもしれないけど、あいにく仲間にはしていなかった。とすると、次点で、同じ電気のジバコイルを出してもいいかもしれないけど、エレキブルの特性は『でんきエンジン(電気技を食らうと無効化する上に素早さも上がる)』。だから、ジバコイルは電気技を封じられた格好になる。

 しかもエレキブルはあなをほる、かわらわり、きあいだま、いわくだきといった、ジバコイルの弱点をつける技を数多く覚えられる。エレキブル自体の能力も相当高いから、タイプ一致の技じゃなくても十分怖い(もちろんタイプ一致電気技はもっと恐ろしい)。

 

『さあ、シンジ選手のポケモンは残り一体! そしてヒカリ選手はポッチャマを戻しました! ムクホークを出すのか、それとも新たな三体目のポケモンを繰り出すのか!? 両者いったいどんなポケモンを繰り出してくるのでしょうかァ!』

 

 そして、仮に予想がハズレてブーバーンを出されては、ジバコイルは相手のいいカモだ。

 ならば、出せそうなポケモンは――

 

「ヒカリ」

 

 そうして考えに耽るあたしを呼ぶシンジの声。目を向けると、さっきとはまた違う、眼光の強さのようなものをシンジから感じた。

 

「お前は強い。認めよう」

 

 さっきまで、彼はあたしを前座扱いしていたみたいだったけど、様子がやっぱり変わった。彼の言にあたしは静かに耳を傾けた。

 

「今はもう、ユウトさんのことはすっぱり忘れることにする。これからは全力でお前を叩きつぶす! そして勝つ! たとえ、オレのポケモンは残り一体であろうと、オレは最後までバトルをあきらめない!」

 

 うわっ。なんつーか、すごく好感が持てる。

 

「いいじゃんいいじゃん、あたしだってこのバトル、絶対勝って見せるわよ!」

 

 やっぱり彼とあたしは根が同じ。とことん気が合いそうだ!

 そしてあたしも最後に出すポケモンのモンスターボールに手を掛けた。

 

「行け、最後はお前だ!」

「いっけぇ、あたしの最後のポケモン!」

 

 

 * * * * * * * *

 

 

『両者、三体目のポケモンをフィールドに投入しました! シンジ選手はエレキブル! ヒカリ選手はベトベターです! ヒカリ選手はここでエレキブルを破れば予選リーグ四回戦進出が決まります! シンジ選手は一回戦で無類の強さを発揮したエレキブルの大どんでん返しに期待したいところです!』

 

 やっぱり。読み通りエレキブルが来た。じしんやサイコキネシスが飛んできたら怖いところだけど。

 

「先手はもらった! エレキブル、10万ボルト!」

 

 エレキブルの全身に貯まった電気を根源として、光線上に発せられた10万ボルト。それが、ベトベターに突き刺さった。ベトベターの全身をあの黄色い電気がひた走る。

 

『先手エレキブルの10万ボルトがベトベターに炸裂したぁ!』

 

 ところで、あたしのベトベターは、ギャラドスと同じく、ナギサシティの発電所でゲットした特殊な個体だ。つまり、何が言いたいかというと――

 

「なんだと!? ちっ! ったく、お前とのバトルはどうしてこうも想定外のことが起こる!!」

 

『なんと、ヒカリ選手のベトベター、エレキブルの10万ボルトが全くと言っていいほど効いていない! これは驚きだァ!』

 

 電気技は効かないんだ!

 

「ベトベター、シャドーパンチ!」

「ベター!」

 

 シャドーパンチはゴーストタイプの必中技で、紫色の肘から先の部分が握り拳をつくってどこまでも相手を追い掛けていく、なかなかにゴーストという名前にあった不気味な技だ。あたしも、例えば夜中にあんな拳に追い掛けられるとか、ゼッタイにイヤだ。どこのホラーよ、それって感じ。

 

「必中技のシャドーパンチか! 三回戦でユウトさんの試合を見ていてよかった。避けられないなら! エレキブル、でんげきはでシャドーパンチを撃墜しろ!」

 

 ムッ! あれって必中技に必中技を当てて落とすっていうユウトさんの技法。一度見ただけで、しかも、とっさにこの状況で思いつくなんて。

 でも、あたしの戦略について、やることは変わらない。

 

「ベトベター、いまのうちにふういん!」

 

 シャドーパンチも一度放ってしまえば自由になるから、次の技を指示できるのだ。

 

『エレキブル、ベトベターのシャドーパンチをでんげきはでなんとか撃墜! 必中技の特性を生かして見事に 相殺(そうさい)ィ!』

 

 そうこうしているうちに、シャドーパンチは打ち消された。ただ、たぶん初めてのことだったせいか、撃ち落とすのにちょっと手間取った感じだった。

 そして、そんな間にふういん成功! これでほぼエレキブルは……いや、念のため保険も掛けておこうかしら。

 

「ベトベター! かなしばりの準備!」

 

 さて、シンジはどうする――?

 

「よぉし! エレキブル、じしんだ!」

 

 やっぱり!

 

「発動よ!」

 

 結果、準備をしていたかなしばり(直前に出した技をしばらくの間封じる)がじしんに遅れることコンマ数秒といったところで発動。じしんのダメージを最小限に抑えることができた。

 

『おーっと、これは!? エレキブル、じしんはやや不発に終わったか!?』

 

「んなことがあってたまるか! おい、いったい何をやったんだ!?」

「さてね。ただ、一つ言っておくともう、じしんはしばらくの間は使えないわよ」

「チッ! ったく、次から次へと! ならば、エレキブル! かわらわりだ!」

「エレッキブルゥ!」

 

 そして、シンジの指示を受けて、フィールドを陸上選手のように走って、エレキブルはベトベターに接近する。ていうか、じしんが撃てないというのは信じてくれたのね。

 

『エレキブル、凄まじいスピードでベトベターに迫る!』

 

 でも。

 

「エレッキブ……ル……?」

 

 エレキブルがかわらわりをしようとするが、その右手の手刀を上げた状態でベトベターの前で静止した。

 

『ど、どうしたことでしょう! ベトベターに接近したエレキブル、かわらわりを出さない!』

 

「どうしたんだ、エレキブル! かわらわりだ!」

「エレッ、キ、ブル……」

 

 エレキブルはかわらわりを繰り出す体勢のまま、ただベトベターの前に立ち尽くすのみ。

 さて、そんな無防備な状態なんだから、攻撃を加えないという手はない。

 

「ベトベター、ダストシュート!」

「ベターー!」

 

『技を出さず、立ち尽くしているのみのエレキブルに毒タイプの大技、ダストシュートが決まったァ! しかも、ほぼゼロ距離からのそれのダメージは、ことのほか大きいぞォ!』

 

「くそっ! エレキブル、ほのおのパンチ!」

 

 ただただ動けず、相手の攻撃を受け続けるのはマズイと判断して、違う技を指示するシンジ。

 

「エレッ、キ、ブル……」

 

 しかし、エレキブルはまだ動くことができなかった。

 

『シンジ選手、エレキブルにほのおのパンチを指示するも、エレキブル技を出さない! これは本当に何が起こったんだァ!』

 

「くそったれ! いったいどうなってんだ!!」

 

 シンジは、思った通りに動けない、動かない今の現状に苛立ちを募らせている。ちょっとそれが忍びなかったので、今なにが起こっているのかを伝えることにした。

 

「シンジ、なんで技が出ないのかなんだけど、それはベトベターがふういんっていう技を使ったからなの」

 

 ふういんという技は、相手の技に制限を掛ける変化技。具体的に言えば、相手はふういんを使ったポケモンが覚えているわざについては使えなくなる。ユウトさん曰く「ポケモンたちは四つしか技が覚えられない、なんてことはないから隙があるなら狙うといい。ほとんどの技を完封できる」ということだ。ふういん状態を解除するにはふういんを使ったポケモンを交換なり倒すなりして、フィールドから退場させる必要があるんだけど、エレキブルとベトベターは覚えられる技がかなり似通っているため、それも厳しいことだろう。

 ついでに、じしんが撃てない原因であるかなしばりについても、言及しておいた。

 

「そ、そんな!? そんな技があるっていうのか!?」

「うん、あるよ」

「くそっ!」

 

 これで、エレキブルの技はほぼ封じられたも同然である。

 

「エレキブル! なんでもいい、使えそうな技を出してくれ!」

「エレッキブルゥ!」

 

 エレキブルは白く光ったかと思うとハイスピードで一旦、ベトベターと距離を取る。

 

「でんこうせっかね! たしかにベトベターには使えないわ。ベトベター、かえんほうしゃで追いつめなさい!」

「ちっ、エレキブル! でんこうせっかで距離を取れ! なにか、なにかないのか、エレキブルの使えそうな技は……!」

 

『エレキブル、どうやら技を封じられてしまっていたようだ! ベトベターのかえんほうしゃで追いつめられてエレキブル大ピンチ! それにしてもそんな技があるなんてすごい!』

 

「エレキブル、こうなったらお前が自分の意志で技を出せ! お前が出せそうな技で戦うんだ! オレはその間に対策を考える!」

「ッキブルゥ!」

 

 一段と距離を取ったかと思うと、エレキブルはパワーを溜め始め――

 

「エレッッキブルrrrrrrr!!」

 

『おおっと、エレキブル、どうやらギガインパクトの体勢に入ったようだ!』

 

 ギガインパクト!? マズイ。そういえば、まだベトベターは使えなかったっけ。それにあの技は受けるダメージもかなり大きかったわよね。

 ベトベターはそんなに速いわけでもないから避けるのも難しいから。

 

「なら、ベトベター! まもるよ!」

「ベター!」

 

 まもるでギガインパクトを耐え凌ぐのみ!

 

『ベトベター、まもるの体勢に入りました! しかし、それに構わず、エレキブル、激しい勢いでベトベターに突っ込んでいきます! エレキブルのギガインパクトだァ!』

 

 エレキブルが光の弾丸のようになって、ベトベターに迫り来る。

 

「エレッキブルrrrr!」

「ベーターーー!」

 

 エレキブルのおそらく渾身といっていいぐらいのギガインパクトに対して、ベトベターは半円形状のまもるを展開した。

 

「エレッッキブルrrrrrrr!」

「ベーーターーーーー!」

 

 そして、それらが激しい衝突を行う。

 

『すごい! すごいぞ、二体とも! ベトベターとエレキブルの激しいぶつかり合い! さあ、勝つのはいったいどっちだ!?』

 

「負けるな、エレキブル!」

「頑張って、ベトベター!」

 

 あたしは思わず、拳を握り込んで力一杯声を張り上げていた。

 なぜかというと、ギガインパクトにまもる、これらは両方拮抗しているようにも見える。

 ただ、

 

 ピシ、ピシ

 

ベトベターのまもるにヒビが入ってきていたのだ。

 

「ベトベター!! 頑張って!! 負けないで!!」

 

 

「ベーーーターーーーーーー!!」

 

 

 そのとき、ベトベターの鳴き声が一段と高く上がった。

 そして、ベトベターの全身が眩しいくらいに白く光り出した。

 

『ベトベターの身体が白く発光しています! これは、まさかまさかァ!!』

 

 ベトベターの身体は発光しながら大きくなっていく。

 そして――

 

 

「ベェトォォベェェトォォォォン!!」

 

 

 ベトベターと同じ体色だけど、体格はひとまわりもふたまわりも大きく、また、声は逆にベトベターよりひとまわりもふたまわりも低く、ドッシリとしたものになった。

 

『な、なぁぁんと! ヒカリ選手のベトベターが進化してベトベトンになりましたァァァ!!』

 

「なんだって!? クソッ、ホントに次から次へと!」

「ベトベトン!」

「ベェトォン!」

 

 シンジの焦りと裏腹に、あたしの声は弾んでいて、そしてベトベトンはあたしの呼び掛けに元気に答えてくれた。

 

「よーし、ベトベトン! まもるを解除! エレキブルに抱きつきなさい!」

「ベェトォン!」

「ッキブル!?」

 

 まもるを解除したベトベトンがエレキブルに抱きつくと同時にエレキブルのギガインパクトが決まる。

 

「ベェェトォォン!」

 

 だが、エレキブルに密着し、かつ、その軟らかい体の影響もあり、ダメージをやや少なくすることができた。

 

「ちゃんとエレキブルを捕まえたわね! ベトベトン、のしかかり!」

「ベェトォベェェトォォン!」

「エレッキブル!?」

 

 ベトベトンがエレキブルにのしかかり、マウントポジションをとる。

 

「そのままきあいパンチを振りぬきなさい!」

「ベェトォベェ、トォォン!!」

 

 きあいパンチがエレキブルのアゴに決まる。

 

「エレ……キ……ブル……」

 

 エレキブルは目を回し、起き上がる気配を見せなかった。

 

「エレキブル! 戦闘不能! ベトベトンの勝ち! シンジ選手が三体全てのポケモンを失ったため、この勝負、ヒカリ選手の勝ち!!」

 

『決まったァァァ! 予選リーグ三回戦とは思えない白熱した試合を制したのはフタバタウン出身、ヒカリ選手だァァ! ヒカリ選手四回戦進出決定ィィ!』

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「くそっ! オレは、オレは……!」

 

 スタジアムの暗い廊下で待っていると、聞こえてきた声。

 

「シンジ君」

「……ユウトさん……ですか……」

 

 オレは正直、今声かけるのはあまり得策じゃないと思ったんだけどこの際仕方ない。

 

「笑いたければどうぞ。笑ってください。まるでピエロみたいな奴だと」

「いや、笑わないさ」

「笑ってくださいよ、あなたにあんな啖呵を切っておいて、それでこの三回戦で誰とも知らないトレーナーに負けて! 笑ってくださいよ、みじめで哀れな奴だってね!!」

 

 本格的に失敗したかもしれない。ああもう、やぶれかぶれだ。

 

「正直言うとね、オレはシンジ君のスタンスは別にキライってわけじゃない」

「……は?」

 

 あの言葉を知っている人間からすると、やっぱり意外か? 意外なんだろうなぁ。だって、シンジ君てば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔しているし。

 

「いや、実際オレも昔はシンジ君みたいに考えていた時代もあったんだよ」

「へ? あ、いや、しかし?」

「バトルに勝つには強いポケモン。たしかにそうだ。強いポケモンでなかったらバトルに勝つのは難しい。シンジ君、ちょっとオレに付き合ってくれるかな? オレとちょっと特別講習をしよう」

 

 そう言ってオレはシンジ君を有無を言わさず、スタジアムから連れ出した。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 スズラン島に存在する森の一角。そこでオレは臨時の“ポケモン講座”を開いていた。

 

「種族値、個体値、性格、努力値……」

「そう、それがポケモンの基本的な能力を決める。シンジ君は『強いポケモン』ってヤツを探してるんだろ? オレが思うに君の手持ちのポケモンたちはこの中で言う個体値がどうやら高い傾向にあるようだ。君のポケモンたちって君自身が『コイツを捕まえよう』って思って捕まえたんだろ?」

「は、はい!」

「うん、つまり君は個体値を見抜くっていう、トレーナーとして素晴らしい才能を持っているんだよ」

「ありがとうございます!」

 

 ……あの、途中からものすごく気になってたんだけど、一つ聞いていいかな。

 いや、実際は聞かないんだけどさ、

 

 “キミ、だれ? Who are you?”

 

 なんだか、第一印象と全然違いすぎて別人なんじゃないかと思えるんだけど。

 

「ポケモンの性格も大事。それを知ることによって伸びやすい能力もあれば、伸びにくい能力もあるんだ。性格を知るにはポケモンと仲良くならなければならない。仲良くなれば愛着も湧く。ポケモンの方もトレーナーを信じて百パーセント、あるいはそれ以上のものも引き出せる。“好きなポケモンで勝てるよう頑張る”っていうオレの言いたいことは理解してくれたかな?」

「はい、先生!」

 

 先生だって……。お前ホント誰だよ。それから先生とかマジでチョーはずかしいからヤメレ。

 

「それからポケモンだけが強くたってしょうがない。バトルはトレーナーの戦略、知識、読み、駆け引き、これも大事なんだ。さっきのヒカリちゃんね、実はまだトレーナーになって一年も経ってない」

「ええ!? そ、そうだったんですか……。オレってそんなトレーナーに負けてしまったんですね」

「まあ、鍛え上げたのはオレなんだけどね」

「え、えええええええ!?」

 

 シンジ君声めっさデカイよ! おかげで、何かその辺の木にいたらしいポッポたちが大勢で空に飛んでいっちゃったよ。

 

「わかるかい? 正直、ヒカリちゃんの采配ミスとかも多々あったけど、今言ったそれら全てが君はヒカリちゃんに足りていなかった。だから、トレーナー歴が浅くとも彼女に負けてしまったんだ。だが、言い換えると、それさえ克服できれば、たとえそういうトレーナーだって勝つことは出来る。君はトレーナーになってから結構経つだろう。君ならもっと強くなれるさ」

「はい! あの! この大会が終わるまででもいいんでオレに、教授してください、先生!」

 

 だから、先生っていうのはやめてほしいんだけどなぁ。

 

「じゃあ、ユウト先輩! これでいいですか!?」

 

 ……まあいいや。

 

「と、とりあえずオレの三回戦の試合は終わっちゃってるから、しょうがないにしても、オレ、それからヒカリちゃん。オレたちの試合は必ず見るようにしてくれな」

「はい! 勉強させていただきます!」

「あ、そうそう。次の四回戦だけど、テッカニンを使っていくからシンジ君がテッカニンを使う際の参考にするといいよ」

 

 テッカニンの基本的運用方法その一というところかな。

 そしてあの催眠厨にして伝説厨が次の四回戦相手だが、あの程度ならたとえ伝説だろうとなんとかなる。オレたちを侮ったことを覚悟してろよ!




この世界は別に技が4つしか覚えられないなんてことはないので、ふういんはかなりチートです。ゲームでもちょうはつはかなり必要ですが、ここでは覚えられるのならば全てのポケモンに覚えさせておきたいぐらいの必須な技です。でないとこんな状況に陥ります。

次からはユウトVS伝説厨です。

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