その人と出会ったのはあたしがナナカマド博士からポケモンを貰ったときだった。
その人は、オーキド博士というカントーという地方の偉い博士と一緒に紹介された。
その人自身の挨拶は至って普通だったけど、実はすごい人らしく、オーキド博士曰く、その人はポケモンリーグでも上位入賞出来るほどの腕前なのだとか。
あたしは、お母さんがポケモンコンテストでの優勝常連者なためか、周りは娘のあたしもコンテストを目指すものだと周りは思っていたと思う。
でも、あたしは、コンテストよりかはリーグの方に心引かれた(理由は、追い追い話す機会があれば、話すことにする)。
ただ、ポケモンを貰ったばかりのあたしにはまだまだリーグは遠い。
だから、彼がポケモンリーグの上位に食い込めると聞いて、素直に憧れたし、あたし自身もいつかそうありたい。
そう心から願った。
そうしてあたしは博士に貰ったポケモン、ポッチャマといっしょに旅に出た。
正直、一人旅っていうのはちょっと不安だったけど、ポッチャマが居てくれたから、あまり寂しくはなかった。
そして自力での初ゲット。
これはやっぱりものすご~く嬉しかった。
そのときはポッチャマと一緒に抱き合って喜んだ。
そこからはあたし、ポッチャマ、そしてムックル。この三人での旅が始まった。
ポケモンリーグに出場するためには、ポケモンリーグが開催されるその地方で八つ以上のバッチを集めなければならない。
あたしはまず、一番近くにあるクロガネシティに向かうことにした。
雨が降りしきる中、クロガネシティに通じるクロガネゲートの手前で、傷つき見るからに弱っているポケモンを見つけた。
図鑑で調べようにもエラーが出て、このポケモンがどういうポケモンなのかわからなかった。
でも、放っておくことなんかは絶対にできなかったので、あたしはとりあえず手持ちの傷薬を全部使った後、近くのポケモンセンターに駆け込んだ。
ポケモンセンターのジョーイさん曰く、このポケモンはヒトカゲというポケモンで、尻尾に点いている炎が消えると死んでしまうらしく、そのまま怪我を負った状態でこの雨の中にいたら、死んでしまっていた可能性が高かったそうだ。
誰かのポケモンではなかったようなので、私はこのヒトカゲを引き取ることにした。
そしてクロガネシティに着いてからは初のジム戦に挑んだ。
結果はもうどうしようもないというほど、コテンパンに負けてしまった。
悔しくて涙が出たのは生まれて初めてだった。
そしてそれはあたしのポケモンたちも同じだったらしく、あたしたちはクロガネシティの外れやクロガネ炭鉱で特訓をした。
道行くトレーナーとの模擬戦や技の練習、新たな技の習得とかだ。
そうして新たに挑んだジム戦。
しかし、結果はまたも同じであった。
ジムリーダーのヒョウタさんに、「クロガネだけでなく、違うジムも回るといい」と言われ、そのまま失意のまま、今度はソノオタウンからハクタイシティを目指すことにした。
道行く途中、ヒトカゲの様子も見てみたが、イマイチ元気がないように見える。
それに何やら少し怯えているような気もしないでもなかったが、よくはわからなかった。
途中、ギンガ団とかいう変な格好をした連中とのいざこざがあったりはしたが、ハクタイシティに着いたあたしたち。
草タイプのジムと聞いて、相性の悪いポッチャマにはお留守番してもらって、ムックル・ヒトカゲという草タイプに相性のいい二人で挑んだ。
しかし、それでも、ナタネさんに勝つことは叶わなかった。
それどころかヒトカゲで負けたとき、その怯えた様子のヒトカゲを見て、ナタネさんに『どういう風にヒトカゲと接して来たのか。これではあまりにヒトカゲがかわいそうだ』的なことを言われて怒られた。
あたしは何がなんだかわからず、ただただ謝ってばかりであったため、終いには「トレーナーを辞めた方がいい」とまで言われてしまった。
そのまま、ポケモンセンターに戻ってポケモンを預けた後、その日は一日ポケモンセンター内の宿舎のベッドで横になっていた。
翌日も寝ていようとは思ったのだが、なんとか体を起こして外に出てみた。
でも、何もする気にはなれず、ポケモンセンターに戻った。
すると、一度見たことのある背中を見つけた。
どこで見かけたのかというと、ナナカマド博士の研究所でだ。
あたしはいてもたってもいられず、というより、何も考えられず、だが、
「ユウトさん!!」
その背中に声をかけていた。
* * * * * * * *
あれからユウトさんはあたしに稽古をつけてくれることになった。
途中、シンオウチャンピオンのシロナさんも現れてビックリしながらも、あたしたちはハクタイの森に来た。
あたしはそこでヒトカゲについてのことをユウトさん(正確にはユウトさんのラルトスからユウトさんが聞いたこと)から聞かされた。
何でも、このヒトカゲは、以前は誰か他のトレーナーの手持ちだったのだが、普通のヒトカゲより小さく、バトルでも勝てなかったことから、散々罵られ、捨てられたのだそうだ。あたしは思わず、ヒトカゲを抱きしめて、「ゴメン、ゴメンね」と口にしていた。
そんな人がいたことに。
出会って僅かのユウトさんにそれがわかって、どうしてあたしが気がつけなかったのか。思えば、兆候はいくらでもあったのに。
そしてそんなあたしのトレーナーとしての未熟さに。
ユウトさんのあたしに出した一つ目の課題。
それはポケモンをモンスターボールに入れずに、三日間このハクタイの森でポケモンたちと協力して過ごすことだった。
「人間は生き物。だから、十人十色という言葉があるように、人によって様々な個性を持っている。そして、いろいろな種類の人間がいる。生き物はすべてそうなんだ。なら生き物として同じポケモンたちにだって、それらがあったってなんらおかしくない」
なるほど、至極最もな話だ。というか、なんで今までこういった話が上がってこなかったのか、逆に不思議に思う。
ポケモンだってあたしたちと同じ生き物なんだから、むしろ無い方がおかしいんだ。
そしてトレーナーなら自分のポケモンのそれらは知っていなければならないということなんだろう。
「まあでも、そんなのは一朝一夕では出来ないから、とりあえずはより深く、ヒカリちゃんとポケモンたちが分かり合うことが目的かな。それが、今言ったことに対してのキッカケになっていくから」
やり方はあたし自身の自由らしい。
というかそれを考えろということなのかもしれない。
シロナさんとユウトさんが去った後、みんなで輪を囲んだ。
ヒトカゲは不安そうにしていたが、二人はやる気に満ちていた。
あたしはヒトカゲを抱き寄せる。
「泥臭いけど、とにかく頑張るしかないわよね」
ポッチャマとムックルは強く頷く。
さて、とりあえずサバイバルということは水は絶対必要(街で買うより現地調達の方がラクそう)。それから火を起こすための枯木や寝床になりそうな場所か。
「ポッチャマ、ムックル、頼んだわよ」
「ポッチャマ!」
「ムックルー!」
二人にはそれらを探しにいってもらい、あたしは一度ハクタイシティに戻った。
ヒトカゲはその間、ずっと肌身離さず、抱えていた。
あたしはこの三日間、特にヒトカゲには常にはりつき、常に語り掛けて過ごすことを決めた。
*†*†*†*†*†*†*†*†
私は久しぶりに、トレーナーになってから、そして方面は違えど研究者として、大変お世話になったナナカマド博士の研究所を訪れた。
するとちょうど客人が博士のもとを訪ねてきていたようでついでとばかりに紹介されたのだが、なんとその方はポケモン研究の権威として著名なオーキド博士だった。
そして、研究者としては天と地ほどの違いがあるのを感じながらも、二人の博士と同席することになった。
その中でオーキド博士の話は、ある一人の少年の話が大半を占めていた。
なんでも、その少年はホウエン・ジョウト・カントーのポケモン図鑑を殆ど完成させてしまったらしい。
ポケモンは全部で六百種以上いると言われている。その中でシンオウ・イッシュ以外の地方には少なく見積もっても三百種以上いるのは難くない。さらにオスとメス、加えて色違いのポケモンも列挙するにはとてもではないけど人手が足らない。
私も以前シンオウ図鑑の作成に協力していたが、ページを埋めていくことすらかなりの労力を必要とする大変な作業だった。だから、完成とは言わずとも完成に限りなく近づけるだけでも諸手を挙げて賞賛するに値するものであった。
だが、さらに驚くべきことがあった。
その少年は、なんと十六という若さにしてホウエン・ジョウト・ナナシマ地方のポケモンリーグを制覇。カントーでも準チャンピオンにまで上り詰めるという偉業を成し得たそうだ。
最年少でカントーチャンピオンになったレッド少年の記録は破られてはいないものの、これだけのリーグの頂点に立った人物はいないのではないかと思う。
しかも、ナナシマ以外は行く地方ごとにポケモンを一から育て上げていたらしい。リーグではそうでもないようだが、それでも捕まえたばかりと言ってもいいポケモンでジムを勝ち抜くとはいったいどういう育て方をしているのか。
一トレーナーとしては非常に興味をそそられる。
彼は今、この二人が依頼したシンオウ図鑑作成のために、シンオウ各地を旅しているらしい。
論文の方は粗方ケリをつけていたため、私は彼に会ってみたいと強く思ってしまった。
各地方のリーグに出場している彼なら、おそらくこの地方のバッチも集めているはず。
ならば、闇雲に探しても仕方がないと各地のジムがある街に飛び、ジムリーダーに聞き込みをすることにした。
しかし、どの町のジムリーダーに尋ねても、誰もそんな少年を見かけていないという。
「しっかし、これだけ周ってまだ見かけないなんて。ジムバッジに興味がないとでも言うの? でも、行く地方行く地方で必ずリーグに出場してるみたいだから、バッジは必ず手に入れてなきゃおかしいのに……」
最後にハクタイジムのナタネちゃんのところに寄ってみたが、芳しい返事は得られなかった。
「今後のことはとりあえず、お昼を食べながら考えましょうか」
太陽が南中にあるような時間ということもあり、私は久々にポケモンセンターの食堂に寄ってみることにした。
ポケモンセンターや食堂では周りの視線が私に集まってくるのをひしひしと感じる。慣れというのは恐ろしいもので、最初は気恥ずかしいものだったけど、今では気にも掛けなくなってきている。ということで、それらを無視しつつ、席を探していると、
「強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手。トレーナーなら、自分の好きなポケモンで勝てるよう頑張るべき」
そんな言葉が聞こえてきた。
私の頭の中で何かがピンッと弾けた。
(これね!)
というのも、その言葉はオーキド博士の言う少年のポリシーだったらしく、何かあれば常に口にして、そしてそんな彼がリーグを制覇してしまうので、彼が旅した地方ではその言葉がブームとなって席巻しているらしい。
シンオウでは終ぞ聞かないそれを聞いたことで、私の足は自然そちらへ向いた。
「ねえ、その話、もっと聞かせてもらえる?」
私は逸る気持ちを抑えつつも、その少年に声をかけていたのだった。
* * * * * * * *
お目当てのその少年――名前はユウト君というらしいけど――彼の話に私は衝撃を受けていた。
正直今まで考えたこともなかったからだ。
彼の話には引き込まれる。
新たな世界が開けそうな気がする。
彼はヒカリという女の子を鍛えることにしたらしい。
彼の勘によると、彼女は素晴らしい才能を持っているらしい。
「ひょっとしたら、将来のシンオウチャンピオンマスターとなりうると言っても過言ではないと思ってます」
彼にそこまで言わせる彼女が、彼ほどの経歴の持ち主に師事したらどうなるか、非常に興味をそそられる。
それに、
「これからジム戦、しようと思えばできますね」
「じゃあ、一緒に付いていっていい?」
「いいですよ」
よし!
彼のポケモンとバトルが見れることをに、子供の頃のワクワクとした思いというものを久々に抱いた。
心躍るバトルに思いを馳せながら、彼をハクタイジムまで送る。
ついでに、見終わった後、私もこの三日間で、彼女に渡された課題を自分でも取り組んでみようかともそのときは思った。