ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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第18話 シロナの大逆襲

『シンオウリーグの最後を飾るチャンピオン決定戦! いよいよ中盤戦に差し掛かってきたぞ! ここまでの戦況だが、挑戦者ユウトの残っているポケモンの数が五体! 一方のチャンピオンシロナのポケモンが四体! ということでポケモンの数ではなんとなーんと挑戦者の方が一歩リード! しかし、まだまだわからない! それがポケモンバトルだ! 果たしてこの後、両者どんなバトルをボクたちに見せて、いや魅せてくれるのか!?』

 

 さて、シロナさんが残り四体。加えてその四体のうちのロズレイドは結構消耗しているハズなので、実況の言うとおり、このバトルは中盤に差しかかった。ただ、ここにきてシロナさんの雰囲気が変わったのが気になる。

 はたして、何をしてくるのか?

 

 

「魅せなさい、サーナイト」

 

 

 って、えっ? マジ?

 

「サーナ」

 

 人間に近い容姿。 緑色の髪の様なものがある頭部。下半身は長いスカートみたいなもので覆われているが、そこからたまに少しだけ覗く、細く白い脚。胸部から背中にかけて貫通する赤い突起のような特殊な器官。

 

「(あら、久しぶりね。あなたも試合に出るのね)」

「サーナ!」

 

 そして極め付きがその鳴き声。

 

『おおっと! チャンピオンの五体目はなんとほうようポケモンのサーナイトだ! しかし、あのサーナイトはなにやら挑戦者ユウトに向かって手を振っているみたいだが、知り合いなのか!?』

 

 あれはたぶんラルトスに振ってるんじゃないかな。ラルトスも振りかえしているし。

 

「(あなたも返してあげなさい)」

「えっ? オレ? でも、オレあの子にそんなに何かしてあげたかな。だって、タマゴのときからシロナさんと交換したわけだから覚えていないんじゃない?」

「(いいからするの)」

 

 オレは言われた通り片手を上げて軽く挨拶をする。するとあのサーナイトはオレに向かって優雅に一礼をして見せたのだった。

 

「(今度話を聞きに行きましょう)」

 

 それもそうだ。ラルトスはラルトスで話したいこともあるのだろうが、オレはオレで聞いてみたいことが出来た。

 さて、もう見間違いでもなんでもない。現実とは認識してるんだけど、ゲームっぽいところもあるし、前にバトルしてたときにも入っていなかったから、はっきり言って予想外だったわ。

 

「さあ、覚悟することね、ユウト君! いくわよ! サーナイト、くろいまなざし!」

「サー」

 

 んげ! ボーマンダの周りを黒くて不気味な瞳が幾つも浮かんで取り囲むと、それらが一斉にボーマンダを睨み付けた。

 

『くろいまなざしですか。この技は相手の交代を妨げる技です。もうボーマンダはサーナイトがフィールドから消えない限り、ボールに戻すことができません』

『えー!? それじゃあボーマンダは大ピンチなんじゃ?』

『ですね』

『こりゃあ挑戦者ユウトにとっては非常にマズイ展開、逆にチャンピオンにとっては是非ともモノにしたい展開だ! ますます目が離せないぞ!』

 

 さーて、こいつはまずいぞ。

 サーナイトはラルトスの最終進化系で、タイプはエスパーとフェアリーの二つ。一番のダメージソースになりそうなドラゴンタイプの技がまったく効かず、ボーマンダの持ってる技の中で有効打が期待できそうなものは鋼タイプの技のはがねのつばさかアイアンテールのみ。一方相手は主力のドラゴン技やエスパーの弱点となるはずの悪技を無効化したり等倍に抑えたりする一方、フェアリータイプの技で効果抜群がとれる。相性としてはまさに最悪な状態に位置する。

 あとは、サーナイトは防御が低いことが欠点なので、そこを重点的に狙っていくしかない。

 

「ユウト君」

 

 するとシロナさんが呼びかけてきた。

 

「なんでしょう?」

「このサーナイトはあなたからもらったラルトスが進化したものなの。だから、あなたに感謝するわ。わたしとサーナイトのこの出会いに」

 

 そうなのだ。以前、ヤドンもあげたこともあったが、他にも何体か交換していて、そのうちの一体にオレのラルトスの子供のラルトスもいた。その子たちは何人かと交換、あるいは初心者用ポケモンとして提供したのだが、そのうちの一体があの子だった。

 

「さて、ユウト君。私、あなたに見せたいものがあるのよ」

「見せたいもの、ですか?」

「そう、これよ。博識なあなたのことだから、ひょっとして見覚えあるんじゃないかしら?」

 

 そう言って右手の掌をオレに見せるかのように右腕を軽く挙げるシロナさん。そして手首の黒いファー付きの袖を左手で少し捲った。

 

「え!? そ、それは!? まさか!?」

「(え、なによ? どうしたの?)」

 

 ラルトスの疑問はひとまず置いておいて、そこにあったのは女性らしいか細い鎖状のシルバーブレスレット。アクセサリーとしては華奢さの中に大人っぽさを演出するような綺麗なものだったが、今重要なことはそんなことではない。

 そのブレスレットのちょうど手首の真ん中ら辺になにやら七色に光るきれいな石がはみ込まれていた。その石にはDNAの二重螺旋構造を想起させるような奇妙な模様が描かれている。

 

「それって……それってまさか宝珠キーストーン、ですか?」

「やっぱり。あなたも知っているのね、これを」

 

 カロス地方にはまだ行ったことはないので、直接は知らない。しかし、ゲームにおいてはよく知っていた。当然だ、()()には散々お世話になっていたのだ。

 

「(だから、いったいどうしたってのよ?)」

「いや、予想外な上にかなりの強敵の出現だってことだよ。いいからよく見とけ。あれがお前たちの最終進化のさらに先に進んだ姿なんだからな」

 

 ラルトスを無視するのもいい加減かわいそうだったので、とりあえず、そう返しておいた。正直、口で説明するより見てもらった方が絶対に理解が早いからね。

 そしてシロナさんが左手を右手首の裏に添えながら、右腕を高く掲げた。

 

「あなたを倒すための切り札、その一つ、今ここで、切らせてもらうわ!」

 

 

 ――サーナイト! メガシンカ!

 

 

 そう宣言すると同時にシロナさんの右手首のキーストーンが七色に光輝く。そしてそのキーストーンから黄金色の光が、またサーナイトの全身から青色の光がそれぞれ発せられて、それらが互いの中間地点で混じり合った。そして混じったその光がサーナイトを包み込み始める。

 やがて、その光はサーナイトの全身を隈なく包み隠すと紫の光る球体を形成した。その球体は周りから何かのエネルギーを吸収しながら紫色から薄桃色、そして白色へと変態していく。今度はその球体に大きなひびがあちらこちらに走った。それはひび割れた卵の殻のようであった。

 そして次の瞬間、殻が何かの力で弾き飛ばされるかのごとく、周囲に飛び散った。そしてメガストーンやキーストーンに描かれている七色に輝くDNAの二重螺旋構造模様がサーナイトの頭上に浮かぶが、すぐにそれは空気に溶け込むようにして消えていった。

 

「サァーナ!」

 

 そしてここにサーナイトとは異なる、新たなサーナイトが誕生した。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「な、なによ、あれは?」

「お、おい、なんだよ、あれ?」

 

 手には純白のロンググローブのようなものを着け、胸の赤いものが突起のようなものから赤い大きなリボンをあしらったかのようなものに、そしてスカート部分がクリノリンを着用したドレスのような膨らみを持つようになるなど、まるでウェディングドレスでも纏っているかのような容姿にサーナイトが変化した。いや、これはもはや――

 

「うそでしょ? サーナイトが進化するなんて」

 

 あれはもはやサーナイトではない。サーナイトとは違う新しいポケモンだ。

 

『な、な、な、なんだってーーーー!?』

 

 実況をはじめとして会場中が驚きに包まれている。

 

『サ、サーナイトが、進化ぁ!? し、しかし、サーナイトは既に最終進化系だ! こんなのってアリなのかー!?』

『いえ、これはおそらく』

 

 そこに水を差すようなダイゴのさんの一言が会場中を走った。

 

『し、知っているのか、雷電!?』

『いや、だれですか、その雷電って? とにかく、あれはおそらく“メガシンカ”というやつです。ボクも初めて見ました』

『メガ進化? それはいったい?』

『メガ進化ではなくメガシンカです。メガシンカは普通の進化とは違いますので、そう区別しているようです』

『普通の進化とは違う、ですか?』

『ええ』

 

 ダイゴさんの説明ではメガシンカとは『進化の限界を超えた更なる進化形態』みたいなものらしい。そして進化とは違い、この変化は一時的なもので、しばらくすると元に戻るのだとか。この点から“進化”とは区別して“シンカ”としているらしい。

 

『このメガシンカは最初に発見されたカロス地方やつい先日見つかったホウエン地方でもまだ研究が始まったばかりなので、解明できていない点が多々あります。なにせ“ポケモン最大の謎”とまで言われていますから。ただ、数少ないですが、判明していることとして、メガシンカをするには極めて限定的な条件があるそうです。メガシンカしたということはどうやらチャンピオンはその条件をクリアしてみせたようですね。シンオウリーグチャンピオンとしての面目躍如ということですか』

 

 へぇ、そうなんだ。カロス地方にホウエン地方か。たしかホウエン地方はユウトさんの実家もあるっていう地方よね。行ってみたいわね。あたしもユウトさんみたく、いろんな地方を旅して回りたいから、候補に入れとこうかな。

 

「なるほどなぁ。でも、思ったんだが、ユウトさんは知っていたんじゃないかあの様子だと」

 

 シンジの指差す先には、左手を腰に当てて右手で口元を覆う、真剣に考え事をしているときのユウトさんがいた。

 

「メガシンカってのの後、ずっとああだ。もしメガシンカのことを知らなかったのなら、いくらユウトさんでも少なからずオレたちみたいになっていたはずだ」

 

 たしかにそうね。それに思えば順番が違った。確かにめったに見られない心底驚いた表情はしていたようだけど、それはあのサーナイトのメガシンカの前、さっきシロナさんが何かを見せていたときだった。それがメガシンカの後はずっと冷静に、恰もすべてを解き明かそうかというような熟慮な姿勢。これが意味するのはきっとあの人がメガシンカについて知っていたということなのだろう。

 

「……でも、面白くなりそうよね」

「なに?」

「だって、こんなめったに見られない、わからないことだらけが起こるバトルが見られるんだもの。そしてあたしはそれを知りたい。解き明かしてみたい。そうでしょ?」

 

 あたしはこの後の展開を思うと、より一層胸が躍る心境となった。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「(なによ、あれ? あんなのに変化できるの、私たちは?)」

 

 初耳かつ初見のラルトスはあの姿に大いに驚いている。まあ現状ではカロスやホウエンでしか見つかっていなかったし、カロス行ってから話そうとも思っていたからしょうがないだろうけどもね。

 それにしてもまさかメガシンカがくるとは思いもよらなかった。いや、ここは大いに反省すべきか? 別に他地方のポケモンや持ち物を使っちゃいけないなんてルールはないし、カロス地方だってちゃんと存在するんだから、そういうこともあると考慮に入れておくべきだったんだ。今後は注意しよう。

 さて、メガサーナイト。タイプは変わらずエスパーとフェアリーの複合タイプ。特性はノーマルタイプの技がフェアリータイプの技になるという『フェアリースキン』。

 そしてダイゴは言っていなかったが、メガシンカが恐ろしいところは、種族値自体が合計百上昇することだ。メガサーナイトの場合、それによって特攻種族値なんかはミュウツーやカイオーガよりも高くなる。

 そしてメガサーナイトの脅威はそれだけでなく、特性とタイプ一致が合わさり、汎用性の高いノーマル技の威力があがることである。例えば、ノーマル特殊技のハイパーボイスが威力およそ百八十、ノーマル特殊技最強のはかいこうせんの威力が三百近く、といった具合にだ。しかもハイパーボイスに至っては、自分のHPを使って実体のある分身を作り出すみがわりという技があるが、これの利点の一つである『大ダメージを食らう攻撃を受けてもその分身が破壊されるだけで本体には影響を及ぼさない』という効果を無視して本体に直接ダメージを与えてくるという厄介な性能を持つ。

 そして今、くろいまなざしの効果でボーマンダは交代を封じられている。相性は極めて不利。

 

「(なるほどね。たしかにあれはすごいわ。でも、わたしたちならこんな程度の困難はいつだって切り抜けてきたのよ)」

「そうだ。よし、やってやろうじゃん。そのくらいのハンデをはね返せてこそ面白いんだろうが!」

「(そういうことよ! で、やることは決まったかしら?)」

「ああ、だいたいはな」

 

 大元の戦略は既に組み上がった。

 

「(あとは高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するのね♪)」

「……だいたいは合ってるけど、それ言うの止めて。それ、普通に死亡フラグだから」

「(大丈夫だ、問題ない)」

「全然問題あるから。それもフラグ。お前何言っちゃってんの」

「(勝利の栄光を、君に!)」

「それもフラグ! お前わざとだろ!? ぜってーわざとだろ!? なぁそうだよな、わざとだよな!? つーか何気に会話として成立してるのが腹立たしい!」

「(三回、それドードリオ倶楽部のネタよね?)」

「お前はもう黙ってろ!」

 

 ったく調子が狂うなぁ。まあいい。まずはなにか技を誘うか。

 

「さあいくぞ、ボーマンダ! アイアンテール!」

 

 オレの言葉を合図にボーマンダは宙を滑るように滑空してメガサーナイトに迫る。

 

「マンッ!」

 

 ボーマンダが銀色に発光する尻尾を目一杯しならせた。

 

「サーナイト、かなしばり!」

「サナ」

 

 チッ! 封じられたか。ボーマンダは急に技が使えなくなったことから、フィールドに墜落してしまった。

 

「サーナイト、でんじはよ!」

「サナ!」

 

 そこにメガサーナイトがでんじはを放つ。

 

「今だボーマンダ! ものまね!」

 

 そしてボーマンダはでんじはを食らいつつも、しっかりとものまねででんじはをコピーした。

 

『さあ、始まったメガサーナイトとボーマンダの対決! ボーマンダはここででんじはを受けて麻痺状態になってしまった! やはり相性でボーマンダは苦戦を強いられているぞ! それに弱点を突ける鋼タイプのアイアンテールをかなしばりで封じられてしまったのは痛かった! それにしても、ものまねというのはどういう技なんだ!?』

『ものまねは一時的にですが、相手の技をコピーして自分も使えるようにするという技です。なるほどユウト選手の狙いがわかったような気がしますね』

『というと?』

『ボーマンダではあのメガサーナイトには残念ながら勝てません。しかし、これは六対六のフルバトルですので、何もあのメガサーナイトをボーマンダだけで倒す必要もないわけです。なら、後続で出てくるポケモンのためのサポートに徹しようということでしょう。麻痺状態は後続にとって優秀なサポートとなりますから』

『なるほど!』

『しかし、それもおそらくチャンピオンも見抜いています。サーナイトはいやしのすずという状態異常を回復させる技を持っていますから折を見て回復してしまうでしょう』

 

 うん、思うに他人の戦略をペラペラ喋んなや。オレがもう少し違う手を考えてなかったらバトル妨害もいいところだぞ。

 

「いけ、ボーマンダ、ほえる!」

 

 ということでサーナイトを強制退場させるのを狙う。このほえるは相手のポケモンを強制的に交代させる効果を持つのだ。

 

「させないわ! サーナイト、ハイパーボイス!」

 

 げっ! まさか読まれた!? でも、ほえるで交代に――

 

『まさか!? ハイパーボイスがほえるをかき消しただって!?』

 

 ってなんでだよ!? というかマジかい!? あれか!? あのメガサーナイトのハイパーボイスの方が、威力が高いからかき消したとでも!? でも音の波自体は消えてないよね!? それともほえるとハイパーボイスの音の波の山と谷がちょうど逆で打ち消されてしまったとでも言うの!?

 

「(ちょっと、いいから落ち着きなさいよ! とにかく今はほえるのことは切り替えなさい! ほら、なんだかわからないけど二倍弱点なのにボーマンダはそれほどダメージを負っていないわよ! 今回はそれでいいじゃない)」

 

 そ、そうか。それもそうだな。今はひとまず置いておこう。

 

「サンキュ、ラルトス! よし、ボーマンダ! はがねのつばさだ!」

 

 ボーマンダが宙に飛び上がった。そして、銀色に輝く羽でメガサーナイトに向かって滑空する。

 

「避けなさい、サーナイト!」

 

 麻痺の影響もあり、スピードが落ちているボーマンダの攻撃を、テレポートで以て余裕を見せて避けるメガサーナイト。メガサーナイトがサイコキネシスで宙に浮かんでいるので、ちょうどボーマンダの上を取った形になった。尤も、オレの狙いはここからだ。

 

「ボーマンダ、メロメロ!」

 

 サーナイトを見やったボーマンダがウインク。するとピンクのハートが発生してそれがサーナイトに当たる。ハートはサーナイトに吸い込まれていったが、途端サーナイトの目がハートまみれになった。

 

『おおっと! ボーマンダのメロメロ成功だ! サーナイトはメロメロ状態になったぞ!』

 

 メロメロ状態は五十パーセントの確率で行動不能にさせる。

 そしてボーマンダは滑空を止めて着地。よし、これで――

 

「って、おい、ボーマンダ! しっかりしろ!」

 

 マズイ! ここでボーマンダは麻痺のせいで動くことが出来ないようだった。

 頼む! 動け!

 

「サーナイト、はかいこうせん!」

 

 そしてメガサーナイトの方はメロメロ状態なのに行動不能にならず、はかいこうせんを撃つ体勢に移った。両手を胸の器官に左右から包み込むようにして当てる。すると、そこを中心に光が渦を巻きつつ、集束し始めた。

 

「サーーナーーーー!」

 

 そのままその両手を突き出すと、その手の中で渦巻いて光の塊が薄青い特大の光線となって放たれた。発射されたそれは、レーザーのようにまっすぐ、曲がることなく、行動不能になっているボーマンダに向かっていく。

 

『これはすさまじい! サーナイトのはかいこうせん! ボーマンダ、万事休すか!?』

『威力三百の技か。ロマンですね。それにチャンピオンのサーナイトはメガシンカを完全に使いこなしている。すさまじい』

 

 ダイゴがロマン砲とか言ってる間にも、ボーマンダも身体を動かそうと懸命である。尤も、メガシンカのパワーをきちんとコントロールできているのは流石だとしか言いようがない。メガシンカはいきなり一時的にパワーアップするようなものだが、上がった力をコントロールしきれないということが間々あるからだ。ポケモンが進化した瞬間、トレーナーの言うことを聞かなくなるということも一つにはそれがある。

 だが、あのメガサーナイトはそれどころか、メガシンカのポテンシャルを百パーセント、いやそれ以上に引きだしているように見える。ホント、シンオウチャンピオンマスターという肩書きは伊達じゃない。

 そしてそんなメガサーナイトに相対しているボーマンダは、『それでも!』と懸命な努力で抗ってくれているが、それでももう限界に近い。

 

「マ、マンダーー!!」

 

 その場を動くこともできず、はかいこうせんの光の洪水によって、ボーマンダは身体を余すところなく、それに飲み込まれてしまった。

 

「くっ!」

 

 フィールドはその影響か目を開けるのも叶わないほどの眩さに包まれる。

 だが、それも長くは続かない。

 光の奔流が止んだのを見計らい、ボーマンダの姿を探すためにフィールドに目を凝らす。

 

「ボ、ボーマンダ!」

 

 ボーマンダはなんとか今の一撃を耐え凌いだようだ。しかし、プルプルと震える膝、煙を上げる皮膚、全身の焦げ跡からもうバトルを続行出来る状態ではない。

 

「ジャッジさん、ボーマンダを棄権させます!」

 

 オレの言葉にジャッジもコクリと頷いて判定を下した。

 

 

「ボーマンダ、戦闘不能!」

 

 

 その言葉を受けて、膝をつくボーマンダ。しかし、彼がフィールドに倒れ伏すことはなかった。その様を見届けつつ、オレはボーマンダをボールに戻す。

 

「ありがとう。お前はすげぇよ。よっく頑張った。今はゆっくり休んでいてくれ」

 

 手の平に収まっているボールに戻したボーマンダに対して最大級の労いの言葉が自然と口を衝いて出ていた。

 

「(意地でも倒れなかったってところかしら。いじっぱりの面目躍如ね)」

 

 口ではああ言っているラルトスだが、その常とは違う様子から彼女が本心で言っているのではないとすぐにわかった。

 

「(元より手を抜くだなんてつもりは一切なかったけど、今ここで誓うわ。ユウト、わたしは全力全壊で以てこのバトルに臨む!)」

「ああ、頼んだぞ」

 

 ボーマンダのボールをボールポケットにしまい、オレは次に出す子のボールに手をやった。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

『挑戦者ユウトのボーマンダがダウンしたことによって、残っているポケモンの数では互いに同数! そしてチャンピオンシロナはあの強力無比なサーナイトを引っ込めたぞ! どうやら、ポケモンの交代のようだ! さあ、果たして次に出てくるポケモン果たしてどんなポケモンなんだろうか!?』

 

 オレの次のポケモン、それはこいつだ!

 

「ギャラドス、キミに決めた!」

 

 その掛け声とともにフィールドに投げ込まれたモンスターボールから凶暴性で名高いというギャラドスが登場する。

 でも、凶暴凶暴言うけど、オレのギャラドスはコイキングから育てたこともあって、顔は確かに凶悪だけどスリスリすり寄ってくるからかわいいところもある。尤も、本人の前では絶対に口に出して言わない。なぜなら、顔に似合わず(これもアウト)素直というかむしろナイーブな性格をしているらしく、『凶暴』とか『凶悪』とかという言葉でひどく落ち込んでしまうのだ。オスなのになんだか疲れるやつである。

 っと、それはさておいて、シロナさんのポケモンは――

 

「疾風に舞え、バルジーナ!」

 

 って今度はバルジーナかよ。

 

『チャンピオンシロナの六体目はほねわしポケモンのバルジーナだ! たしかこのバルジーナはイッシュ地方に生息するといわれているポケモンだ! さあ、これでチャンピオンのポケモンは六体すべてが判明したぞ!』

 

 結局、トリトドンやミカルゲ、グレイシアはいないか。それにウォーグルとかトゲキッスはどうしたんよ。

 

「あなたを倒すための切り札その二よ。以前仕事でイッシュ地方に行ったときにゲットしておいたの」

「なるほど。まさかバルジーナとは。サーナイトと併せて、意外性抜群ですよ」

 

 バルジーナはイッシュ地方に生息するハゲワシによく似たポケモンだ。タイプは悪・飛行で、HP・防御・特防が高い反面、攻撃や特攻は低いので、耐久よりのポケモンでもある。尤も、わるだくみという特攻を二段階上げる技を持つので、特殊攻撃は得意な部類に入るのかもしれない。

 しかしそれ以上に、バルジーナを最も特徴づけて、かつ最もイヤな技がある。それは――

 

「バルジーナ! イカサマよ!」

 

 このイカサマという技だ。

 

『イカサマですか。これは随分と変わった技でしてね――』

 

 ダイゴの言うとおり、この技は他の技とは一風変わった技で、自分の攻撃能力ではなく、相手の攻撃能力を利用してダメージを与えるというものだ。なので、この技を使ってくるポケモンの前では迂闊に攻撃を積むことができない。それが自分に跳ね返ってきてしまうからだ。特に、ギャラドスの物理耐久は特性『いかく(相手の攻撃を一段階下げる)』で稼いでいる部分も多いので、りゅうのまいを舞った場合、イカサマではねかえってくるダメージがバカにできない。

 また、イカサマは悪タイプの技なので、当然バルジーナのイカサマにはタイプ一致の威力も乗ってしまう。

 

「ギャラドス、イカサマを決められる前に決めよう! ストーンエッジ!」

 

 ギャラドスのストーンエッジとバルジーナのイカサマ。素早さの種族値的にはギャラドスの方が僅かに早いのだが、あのバルジーナには、どうやら僅かに早さで負けてしまっているらしい。バルジーナのイカサマの方が先に決まってしまった。

 

「ギャラドス、バルジーナから一度離れろ!」

 

 ストーンエッジも決まったことで、一度間合いを離す。

 

『バルジーナのイカサマとギャラドスのストーンエッジが互いにクリーンヒット! どちらもまずまずのダメージを食らったようだ! しかし、チャンピオンのバルジーナはさすがしぶとい! 弱点技を食らっているはずなのにまだまだ平気そうだ!』

『バルジーナはもともと耐久が高いですからそれも当然でしょう』

 

 いや。それでも、タイプ不一致とはいえ、高い攻撃からの、たつじんのおびを持った、ギャラドスの物理技で弱点を突いたのにあのへこたれなさは驚異的だ。

 

『ところでダイゴさん、なぜギャラドスはバルジーナから距離を取ったのでしょう!? そのまま攻撃を与えてもよさそうだったのに』

『おそらくユウト選手は、バルジーナの持ち物がたべのこしかゴツゴツメットのどれかだろうと判断したからでしょう。たべのこしは一定時間ごとに体力が回復する持ち物なのですが、それならともかく、ゴツゴツメットは接触技を撃ってきた相手に一定量のダメージを与えるというものですからね』

 

 そういうこと。特にバルジーナは相手を猛毒(一定時間ごとにダメージ量が増えていく毒)状態にするどくどくを持っていることも多いので、案外このゴツゴツメットのダメージはいただけない。

 

「ほんの少し、隙を見せたわね! バルジーナ、いばる!」

「っ、しまった!」

 

 ただ後退するだけだったギャラドスにバルジーナがいばるを決める。それによって憤慨してしまったギャラドス。顔のそこら中によく漫画とかにあるような(いげた)マークが浮かび上がらせ、自分の身体を痛めつけるように暴れまわる。

 

「おいッ! 落ち着け、ギャラドス!」

「たたみかけなさい、バルジーナ! イカサマ!」

 

 攻撃二段階アップでの、混乱自滅ダメージとイカサマのダメージ。

 

「まだ倒れないなんてやっぱりあのギャラドスは強力ね。でも、これでトドメよ! バルジーナ、がんせきふうじ!」

 

 最後に弱点の岩技をもらったギャラドスは、

 

「ギャラドス、戦闘不能!」

 

その流れるような綺麗なコンボがかっちりと決まり、ダウンをしてしまった。

 

 

『シンオウチャンピオン決定戦、ここに来て流れが大きく動いたぞ! チャンピオンシロナの怒涛の連続攻撃と華麗な超速コンボ、そして緻密な戦略でついに逆転! しかし、まだ! まだ、わからないぞ! 激しく動くシーソーのような展開! まだまだこのバトル、目が離せないぜ! そしてバトルはいよいよ後半戦に突入だ!!』




シロナ
×ルカリオ(カムラの実)、×ガブリアス(ラムの実)、ロズレイド(くろいヘドロ)、ミロカロス(????)、サーナイト(サーナイトナイト)、バルジーナ(????)

ユウト
カポエラー(????)、×モンジャラ(しんかのきせき)、×ギャラドス(たつじんのおび)、×ボーマンダ(ヤチェの実)、ラルトス(????)、他1体

カルネさんと被ってるけど、そこはどうしようもなかったんや。メガチルタリス(ドラゴン・フェアリー)の詳細がわかってたらまた違ったものになったと思うんですがねぇ。
ちなみにドードリオ倶楽部はいつぞやのギンガ団2人が解雇された折、さらにもう1人と組んで結成されたお笑い芸人です。


本来は挿話4ではヤドンではなくラルトスに焦点が当たるはずだったのですが、書いていた当時は「フェアリー? もう少し後での登場だろ」と思い、変更。それがまさかここで響いてくるなんて、当時は思いもよりませんでした。


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