『シンオウチャンピオン決定戦もいよいよ後半戦に突入したぞ! 残っているポケモンの数は挑戦者ユウトが三体、チャンピオンシロナが四体とチャンピオンが優勢にバトルを進めている! しかし、挑戦者もまだまだ逆転の目が出ている! これはどうなってくるのかまったく読めないぞ! まずは次のポケモンでそのチャンスをつかみとれ!』
ふぅ。さっきは気持ちいいくらいにコンボが決まってくれた。このままあっさりいけるかと聞かれればわからないけど、でも流れ的にはこちらに来ている。このままミスをせずに一歩一歩着実に攻めていきましょう!
ユウト君の次のポケモンはなにか。
「とうとうお前の出番だ! しっかり決めてこい! ラルトス、キミに決めた!」
なっ。ここであのラルトスですって?
見れば、ユウト君の肩に乗っかっていたラルトスがピョンと彼の足元に降り立つとスーッと幽霊か何かのようにフィールドの中央に向かって移動し始めた。足で歩いた様子が一切見受けられなかったから、サイコキネシスでも使っていたのかしらね。テンガン山やセレビィのときわたりのときも思ったけど、あのラルトスはそういうコントロールがすごい得意なのでしょうね。
『おーっと! 挑戦者ユウトの五体目のポケモンはラルトスだ! さっきチャンピオンが見せたサーナイトのいちばん未進化の状態のポケモンだぞ!』
ラルトスの体高は四十センチほどで私の膝にも及ばない身長である。ここから見ても彼女の姿は本当に小さく見える。
しかし、なぜか私にはあのラルトスが大きな、それこそシンオウ地方の“屋根”であるともいわれるテンガン山のごとく見えてしまって仕方ない。でも、このプレッシャーに呑まれてしまってはダメだ。これはいつも以上に気合いを入れないと!
「まずは私が先手をもらうわ! バルジーナ、イカサマ!」
私のバルジーナならいくらあのラルトスのフェアリータイプの技でも一発では落ちないハズ。ここはひとまず様子見も兼ねて一当てしてみましょう。
『強い! 強いぞ、バルジーナ! 先程、ギャラドスをいとも簡単に倒したバルジーナのイカサマがまたまた今度はきれいにラルトスに決まった! ラルトスは一歩も反応できません!』
……いいえ、きっと違う。違うと思うのだけど……。
今何が起きたのかというと、あのラルトスがほとんどまったくの無抵抗でイカサマを食らったのだ。いや、攻撃とは言い難い微かな動きをしたようにも見えたが、しかし、ほとんど無抵抗といっていい。
これは私からすれば、それは逆にありえない、と思うものだった。以前バトルをしたときでもまったく勝てなかったあのラルトスがむやみにそんなものを食らうわけがない。
『……なんだ? 何を狙っているんだ?』
ダイゴの呟きが今の私の心境だった。
後になって思えば、なんでこんなことに気がつかなかったと叱りたくなるものだった。
そして――
「ラルトス、くろいまなざし」
――事態は俄かに動き出す。
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「なんだと?」
隣のシンジの漏らしたそれは、あたしはおろかこの会場中が共有しているだろう思いだった。
「おい、チャンピオンのポケモンが言うことを聞かないとか何の冗談だ?」
というのも今、シロナさんはあのバルジーナというポケモンにいばるという技を指示していた。しかし、シンジの言った通り、バルジーナは微動だにしなかったのだ。でも、ポケモンがトレーナーの指示を聞かないというのはトレーナーのレベルが低いときに起こるものだから、シロナさんにそれは当てはまらないだろう。それにさっきはちゃんとギャラドスに対していばるをやっていたのだ。
「……もしかして?」
そんな最中にラルトスのくろいまなざしが決まっていた。これで、ラルトスが引かない限り、バルジーナは交代できなくなった。バルジーナは悪タイプを持つため、フェアリーのラルトスとは相性が極めて不利である。
「あ、でもイカサマはやれそうだぞ」
見れば、バルジーナは再度イカサマを放とうとしていた。
でも、ちょっと待って。いばるは出来なかったけど、イカサマは出来た。そしてこのバトルは持ち物を持たせるのはルールで認められている。と、いうことは――
「――まさか、“こだわってる”の!?」
その思い当ったことにあたしは思わず立ち上がって叫んでいた。肌がゾクゾクと泡立つような感覚を覚える。周りの目があたしに突き刺さってくるが、そんなものは気にもならなかった。
「おい、“こだわってる”ってなんだよ? 何言ってんだ?」
「だから、“こだわりトリック”よ!」
なんでわからないんだ、といった感情を込めて思わず怒鳴ってしまった。
そうこうしているうちにラルトスがかなしばりを決めた。これでもうバルジーナはもう
*†*†*†*†*†*†*†*†
しまった! くそったれ! なんてこと!
『そうか! あれはこだわり系のアイテムをトリックしていたからだったのか!?』
ダイゴの叫びが一拍遅れて届いてきた。
『あのダイゴさん、それはどういうことですか?』
今この場でこの事態を分かっているのは当のユウト君を除けば、私にヒカリちゃん、ダイゴ、それから他の地方から来ているジムリーダーや四天王ぐらいかしらね。
なので、今の実況の言葉はこのバトルを観戦しているすべての人の内心を代弁しているだろう。
『そうですね。まず、トリックという技の説明をします。この技は自分の持ち物と相手の持ち物を交換するという技で、お互いが持ち物を持たせてもよいというルールの下で初めて機能する技です。ちなみに似たような効果の技で、すりかえという技も存在します。つづいてこだわり系の持ち物について。これらは『こだわり
見れば、どうやら受け取ったのはそのうちのこだわりメガネという持ち物だった。これはデメリットそのままに、メリットとして特攻を二倍にするといもの。
さて、通常このこだわり系の持ち物は一つしか技が出せないという、デメリットが相当大きい道具だ。だから、バトルではめったに使われない。
しかし――
『ここで、よく考えてみてください。トリックで以て、そのデメリットを相手に押しつけられたとしたら?』
『そ、それは!? まさか!?』
そう。このトリックで相手にその道具を押しつければ、相手は数多ある技の中でたった一つの技しか出せなくなる。おそらくタイミング的には最初のイカサマでの接触のときにやられたのだろう。「トリック」って言われればまだなんとかなったものを、このギリギリまで隠して相手の動揺と混乱、戦略のミスを誘うという手法は相変わらずといったところ。でも、それが出来るということは、それだけあのラルトスとユウト君の間の絆が深いということを意味している。
尤も、こっちがイライラするほどニッコリと笑うユウト君にはぶん殴ってやりたくもなる気持ちも湧く。
さしずめ『守りたい、この笑顔を』というキャッチフレーズが、『殴り倒したい、その笑顔を』といった具合に変わる感じだ。
『そっ、そういえばラルトスはつい今しがたですが、かなしばりをバルジーナに決めていましたよね!? ということは!?』
『ええ。バルジーナはこだわり系の持ち物で出せる技を一つに限定され、かなしばりによってその技も封じられてしまった。つまり、もうバルジーナは一切の技を出すことが出来ない。そして交代をすることも出来ない。バルジーナはただラルトスに倒されるだけの的になり下がってしまった。恐ろしいコンボです』
かなしばりは直前に使った技を封じる技であり、交代するしない限り、しばらく時間が経たないと解除されない。そうなればもうバルジーナにはわるあがきしかできず、それで以っていまラルトスに仕掛けにいっている。
でも、そもそもラルトスがバルジーナとは常に一定の距離を取っているため、その攻撃も一向に届かない。
一方のラルトスは離れた間合いからのマジカルシャインで着実にダメージを積み重ねていっている。マジカルシャインもムーンフォースと同じくフェアリータイプの技なので、悪タイプを持つバルジーナには効果抜群である。
そして、とうとうフィールドに倒れこんでしまったバルジーナ。
「バ、バルジーナ、戦闘不能!」
かなしばりが決まってしまった段階で、こうなってしまうことは予見できていた。ただ、最初にラルトスが出てきたときに交代しておけばこうなることもなかったと思うと、私は申し訳なさと悔しさでいっぱいであった。
* * * * * * * *
「頼んだわよ、サーナイト」
「サァーナ!」
もうこれ以上の出し惜しみはしない。メガシンカした私のこのサーナイトで出来るだけ倒す!
「ヤミカラス、キミに決めた!」
彼のポケモンはバルジーナと同じ、悪・飛行タイプのヤミカラス。くしくもさっきとはタイプ的に
『挑戦者ユウト六体目のポケモンはヤミカラス! これで両者六体すべてのポケモンが出揃ったぞ!』
『相性不利であるはずのヤミカラスが、メガシンカしてさらにパワーアップを成し遂げたサーナイトに何をしていくのかに期待するところです』
いいえ、ダイゴには悪いけど、あのヤミカラスには何も仕事をさせずに退場させるわ!
「サーナイト、ムーンフォース!」
「ヤミカラス、くろいまなざし!」
また、くろいまなざしですって? このバトルではお互いよく使うわね。
『おっと! 先に技を決めたのはヤミカラスの方だ! 黒くて不気味な眼差しの数々がサーナイトを見つめている! これでサーナイトはヤミカラスがフィールドにいる限り、交代できなくなったぞ!』
『にしても随分早く技が決まりましたね。ほとんど一瞬でですよ? うーん、いったいなんだ?』
たしかに。ヤミカラスの変化技がやけに早く決まるけど、どういうことなのかしら?
……正直イヤな予感もするけど、ここはゴリ押しでいって強引にねじ伏せるしかないか!
「ヤミカラス、ほろびのうた!」
「なっ、なんですって!?」
そしてフィールドに不気味な色に彩られた音符の数々がフィールドを狂ったように踊り、明滅する。しかし、それもほんの一瞬のことで、それらは何事もなかったかのように消えていった。
……おかしい。
『サーナイトのムーンフォースが決まったー! ヤミカラスは大ダメージだ! かろうじてダウンを免れたといったところか!? それにしても今の奇妙な音符はいったい何だー!?』
ムーンフォースがヤミカラスを直撃する前、疾うにほろびのうたをヤミカラスは決めていた。
……私のサーナイトのムーンフォースが決まるまでに、くろいまなざし、ほろびのうたなんて二つの技が決まっている。
これは明らかにおかしい。
ヤミカラスの技の出が速い。速すぎる!
『あのヤミカラスの持ち物はしんかのきせきではありませんね。しんかのきせきはモンジャラが装備している。となると、おそらくヤミカラスだったら今のサーナイトのムーンフォースには耐えきれません。ところがそれが耐えたとなると、あのヤミカラスの持ち物はきあいのタスキかきあいのハチマキでしょう。発動条件や確実性は異なりますが、共通しているのは、どちらも戦闘不能な攻撃を食らっても、かろうじてそれを回避できるという持ち物です。しかし、ヤミカラスの技が異様に速く決まっているのが気になります。そして何よりほろびのうたです。これはマズイですよ』
持ち物はおそらくタスキの方でしょう。百パーセント発動のタスキと確率で発動のハチマキでは、ハチマキの方が『確実性』という部分でタスキには及ばないからだ。それにヤミカラスの耐久の低さから考えてもやはりタスキの方が濃厚である。
そしてほろびのうた。これはバトルに出ている全てのポケモンを一定時間経過後に戦闘不能にさせてしまうという恐ろしい技だ。これを回避するには交代するしかない。しかし、今はくろいまなざしで交代できない。つまり、私の残された道は、あと僅かな時間であのヤミカラスを倒して交代することのみである。
「ヤミカラス、いちゃもん!」
「チッ!」
またまた、ヤミカラスの技が異様に速く決まった。
いちゃもんは同じ技を連続で出させなくする技なので、ほんの一時だが、ムーンフォースが使えない。なにか違う技を使えばまたムーンフォースを使えるけど、でも、その違う技を使うという工程は、あのユウト君相手では致命的な隙を晒すことになりかねない。
……そういえば、あのヤミカラスは変化技しか撃っていない。もしかして、変化技しか速く出せないとか? とするとまさか、あのヤミカラスって!?
「まさか、そのヤミカラスの特性は『いたずらごころ』かしら?」
「ご名答です、シロナさん」
くっそ~。『いたずらごころ』ならあの技の出の速さも納得だけど、悔しい~!
ちなみに特性『いたずらごころ』は変化技の出を速くするという特性で、ユウト君曰く「最も凶悪な特性の一つ」というものだ。私も今まさにそれを体感している。本当に凶悪なことこの上ない。
「ならば、行動不能に追い込むまで! サーナイト、でんじは!」
ヤミカラスはあと一発攻撃を当てれば倒せる。
でも、『いたずらごころ』ならまもるの発動が格段に速い。おそらく防がれてしまう。
だけど連続でのまもるや長時間のまもるは失敗、というか仮に成功してもまもるの効果が切れるのが速い。ならば、こっちはそれを狙って連続で攻め続けて、そうなった隙に行動不能にしたら、あとは一気に攻め立てるまで!
ただ、結果はヤミカラスはまもるはせずに、サーナイトのでんじはによって麻痺状態に陥った。これは儲け物かしら。あとは――
「ヤミカラス、サイコシフト!」
サ、サイコシフト!? えーっとえっと、ど、どんな技だったかしら!?
「自分の状態異常を相手に移すという技です。ちなみにサイコシフトした方は状態異常が回復します」
ってそんな!? せっかく入った麻痺がこっちに!?
『ああっと! 麻痺状態だったヤミカラスが回復して、逆にサーナイトが麻痺状態に陥ってしまった!』
『サイコシフトか、なるほど。それにしてもサーナイトはピンチです。もう時間がありません』
ああ、ヤバい! タイムリミットまでもうあと少しだ。
思うに、ヤミカラスが戦闘不能になることはきっとユウト君の中では織り込み済みなのでしょうね。
「一度お話ししましたが、覚えるポケモンもかなり少ないので、この技は個人的には相当マイナーな技だと思っています。バトルでは初めて使った技ですしね。さあ、いっしょにダウンしましょう♪」
そんなのは
「ちょ!? サーナイト!? サーナイト!!」
サーナイトはここに来て、麻痺による行動不能に陥った。
「バグりましたね? ではこのラストチャンス、きっちりいただきましょう! おいかぜだ、ヤミカラス!」
ヤミカラスがおいかぜを発生させる。既に退場する気満々ということね。
「サーナイト! 最後の最後、かげうちよ! 頑張って!」
この技はゴーストタイプの技でヤミカラスには効果いまひとつなのでしょうが、この技は発動が速いのが特徴でもある。私の見立てでは、決まればヤミカラスは確実に落とせる。
「サ、サナッ……!」
サーナイトは痺れながらも、そのぎこちない動きでかげうちを放つ体勢になった。あれはもはや意地で動いているといった様子だ。
「カアッ!」
途端ヤミカラスが空中で静止すると、そのままパタリとフィールドに落ちる。
「決まった!?」
すわ、かげうち成功かと思った。
「サッナッ!?」
途端、サーナイトも同じくピタリと制止する。
「サ、サーナイト?」
しかし、サーナイトはそれに応えず、膝から崩れ落ちるかのようにフィールドに倒れ伏してしまった。
また、それと同時にサーナイトのメガシンカが解けて元のサーナイトの姿に戻る。メガシンカはこんなように、ある程度時間が経つか、自分で解除するか、あるいはダウンしてしまうと元に戻ってしまう。メガシンカが通常の進化(進化してしまえばもう元のポケモンに戻ることはできない)とは違うとダイゴが言っていた点はここにあるのだ。
「ま、間に合わなかった……」
それはさておき、まさかここでサーナイトが倒れてしまうなんて。ガブリアスと同じく、大誤算だ。ガクリと肩が落ちてしまう。
「ヤミカラス、サーナイト! 両者ともに戦闘不能!」
ヤミカラスとサーナイトの様子を確認して回っていたジャッジが判定を下した。
*†*†*†*†*†*†*†*†
『ヤミカラス、サーナイト、ほろびのうたの効果発動により両者ダブルノックダウン! 攻撃技も放たれずにこんなことが起こるなんて! こんな展開、いったい誰が予想できただろうかーー!?』
ふぅいー。助かったぁ。なんとか倒せたよー。
いや、正直結構ギリギリだった。ほろびのうたが決まるまで心臓バクバクだったし。
「(でも、随分余裕そうだったじゃない)」
「あれは演技。トレーナーへの心理的プレッシャーを掛けてミスを誘ってお前たちをサポートするのも、オレたちトレーナーの役割だからさ」
いやー、ピンチの時こそふてぶてしく笑うってのは大変だった。弁護士や検事以外に、トレーナーにも必要なスキルであるとはっきり分かる。
さて、これでいい形になった。
「(見えたの、勝ち筋が?)」
「おおよそな。あとはそれを何とか手繰り寄せて掴みとるだけだ。あ、悪いけど、たぶんお前の出番はもうないかもな」
「(……しょうがない。我慢するわ。代わりにまた新しい地方に連れてってよ)」
「それはモチ! いっしょに行こう! まあ、先にシロガネ山に行って、レッドさんに勝負を挑むけどな! さあて、勝ちにいくぞ!」
「(ええ!)」
次のポケモンといえば、もうコイツしかいない!
「カポエラー、キミに決めた!」
*†*†*†*†*†*†*†*†
「いらない?」
「ええ」
「と、言われても困るのよね」
シンオウポケモンリーグスズラン大会もすべての日程を消化し終え、残すはこの閉会式のみ。
今はこの、私の目の前に立つ新チャンピオンに対して旧チャンピオンである私が優勝旗であるチャンピオン旗と賞状、トロフィーを渡すというときであった。ちなみにこういうことはタマランゼ会長がやることだと思うんだけど、『旧チャンピオンから新チャンピオンへ受け継がれること』を大事にするというシンオウ地方での伝統でそういったことになっている。
「だって、オレここでチャンピオンになるつもりなんてありませんし、たとえもらっても返上しますよ」
「……やれやれ、まあ、しょうがないか。あなたなら何となくそうする気もしていたし」
実はこの閉会式が始まる前に、ポケモンを回復させるための時間を取っていたため、その空き時間を利用して私はヒカリちゃんといっしょにユウト君に会いに行ったのだ。そこでこの後の粗方のことは聞いていた。もちろんそれ以外の用事も済ませたが。
「でも、どうするの? 周りはあなたを逃がす気はないみたいよ」
この大会が始まった当初はダイゴ、グリーン君、シルバー君、リーフちゃんしか来ていなかったけど、今はイッシュやカロス以外の地方の主だったジムリーダーや四天王、チャンピオンすらもここに来ていて、それぞれ出口を見張っている。
「そうですねぇ。ま、一応何とかする考えはありますよ、な、ラルトス」
「(そういうことよ)」
ユウト君の肩に乗ったラルトスがさっき同様胸を張って答えていた。
「そう。まあ、さっきも言ったけど私はあなたの手助けはしないけど、リーグの方の手伝いもしないから、うまくやりなさいね」
「それだけで十分ですよ。ありがとうございます」
そしてチャンピオンの引き継ぎも終わり、今度は新チャンピオンのスピーチとなった。
『みなさん、オレがホウエン地方ハジツゲタウン出身のユウトです。では、みなさん、大声で返事をしてください』
そして彼は一度大きく深呼吸した。この会場にいる観客は彼がどんな言葉を言うのかを今か今かといた心境で待ちわびているといった様子だ。
『みんな、ポケモンは好きですかー!?』
瞬間、今まで聞いたことがないような割れんばかりの歓声が沸き起こった。おそらく落雷が間近で起こるよりも大きい。耳にお腹に骨に全身にと響くような大音声だったからだ。それに彼は非常に満足そうな表情をしていた。
『ありがとう! さて、オレがこの場にいられるのもポケモンたちがいたからだと思っています! いや、彼らといっしょだったからここまで来ることができたのだと確信を持って言えます!』
大きな拍手と歓声が沸き起こると同時に、おそらく会場中が思っているだろう声が沸き起こった。
『強くなるために何をするか、ですか? そうですねぇ』
その言葉で会場が静かになった。きっと耳を大きくして一言も聞き漏らすまいと思っているのだろう。
そして彼は左手を挙げて、人差し指を立てた。
『とってもカンタンですよ! それは――』
――ポケモンをずっと好きでいること!
『これだけです。これだけなんですよ、ホントに。ポケモンに愛情を持てば、ポケモンをより深く知ろうとする。そうするとそれまでには見えなかった新しいものが見えてくるんです。例えばのんきな性格のポケモンだったら、防御が他よりやや高くて素早さが他よりやや低くなるとかそんな感じで。ですから、みなさん、ポケモンを好きでいましょう! ポケモンを愛してあげましょう!』
最初は呆気にとられてダウンした空気だった会場が、いまややる気に満ち溢れた空気に変わっていた。
『そして、みなさんにはこの言葉を贈ります』
――強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手
――本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるよう頑張るべき!
『いい言葉でしょ? オレの座右の銘なんです。オレはこの言葉を一生の目標としてこれからも頑張っていきます! じゃ、バイバ~イ! ラルトス、行くぞ!』
「(オッケイ! いくわよ、ユウト!!)」
ラルトスがジャンプすると途端何かの光(おそらくはテレポート)に彼らが包まれて、そして一瞬のうちにその場を消え去った。
「あ~あ、どうすんのよ、この空気」
会場は、最初は何がどうなったのかわからないという空気だったのだが、それがやがて新チャンピオンが突如消え去ったということで大混乱を巻き起こし始めた。
一方、リーグ関係者は最初からこの事態に、御冠な人と半ば諦めが混ざっている人、捕まえられなくてよかったという人で分かれていた。尤も、後二者の方が前者よりも多いみたいだったけど。
「ただ、これ私にも火の粉が飛んでくるわよね。目の前で逃がしちゃったんだから。もう、彼に何かしてもらわないとやってられないわ」
私は先程彼に首からかけてもらった、不思議で、とてもまるいおまもりと光輝くおまもりに手をやってこの後のことに思い馳せた。
シロナ
×ルカリオ(カムラの実)、×ガブリアス(ラムの実)、×ロズレイド(くろいヘドロ)、×ミロカロス(????)、×サーナイト(サーナイトナイト)、×バルジーナ(ゴツゴツメット)
ユウト
カポエラー(????)、×モンジャラ(しんかのきせき)、×ギャラドス(たつじんのおび)、×ボーマンダ(ヤチェの実)、ラルトス(こだわりメガネ)、×ヤミカラス(きあいのタスキ)
シロナ戦のメインは終わりですが、残りのほんのあと少しは次話で。
ということで、シロナ戦はあともうちっとだけ続くんじゃ。
こだわり系のアイテムを一.五倍強化から二倍強化に変更しました。さすがに一.五倍のままでは、たくさんの技を使えるこの世界では縛りがきつ過ぎると思ったので。
後半は適当っぽくなってしまってスミマセン。