ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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これでシロナ戦とプラチナ編のラスト


挿話14 夢を追いかけろ! ヒカリ

 シロナさんとユウトさんのバトルも終わった後、少しの空き時間を利用して席をはずしていたあたしは、スタジアムの観客席上の通路から、シンジの姿を探した。 やがて、その彼の姿を見つける。ちゃんと荷物を置いて席を確保してくれていたようで、ホッと胸をなでおろした。そのまま通路を駆け下りる。

 

「おい、どこ行ってたんだ?」

「うん、ちょっとね。いろいろ」

「ああそう」

 

 シンジの問いにそう曖昧な返事を返して、あたしはそこに腰を下ろした。

 フィールドを見下ろすと、さっきまでのバトルではなかった仮説のステージみたいなものが設置されていて、ちょうどこれから閉会式が始まるというところであった。

 そして、偉い人のお言葉から、授与式、そしてユウトさんのスピーチも恙無く終わり――

 

「おいおい、どうなってんだ、これ!?」

 

 でもないか。あの人らしいといえばらしい。思わず苦笑いが零れる。

 尤も隣のシンジや、あるいは会場に詰めている観客、それからおそらくはテレビやモニターの向こうでこれらを見守っていた人たちは、ユウトさんが消えたことで驚きに満ち溢れているに違いない。

 でも、あたしにはそれはあまり気にならず、唇を触って感触を思い出しつつ、さっきまでのことを思い浮かべていた。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「カポエラー、キミに決めた!」

「波濤に踊れ、ミロカロス!」

 

 フィールドには図鑑紹介などでは頭部のとんがり帽子みたいなので逆立ちしている姿なのに、実際は直立で左右にステップを踏んでいることが多いというカポエラーとその細長い魚のような身体で下半身は七色に光る鱗をもつというミロカロスが現れ、お互いを見据えていた。あのカポエラーは特性が『いかく』だったみたいだが、ミロカロスにとってはあまり意味もない。むしろあのミロカロスが『かちき(何らかの能力が低下すると特攻が二段階上がる)』だったら、カポエラーの方が危うい。

 

『バトルはいよいよ終盤戦! 水タイプのミロカロスに格闘タイプのカポエラー、相性による有利不利はない対面! はたしてどんな技が飛び出すのか!?』

 

 いえ、味方全員の素早さを短い時間でも二倍にする効果を持つおいかぜのサポートがある分、カポエラーの方が若干有利。今、実況の人もその辺をダイゴさんに訂正させられていた。

 そして先手はカポエラーが取った。やっぱり、おいかぜのサポートがかなり効いている。

 

「いけ、カポエラー! かたきうち!」

 

 カポエラーがひっくり返って逆立ちの状態になると何かの白い光がカポエラーの胸から飛び出て四散するとそれがまたカポエラーに吸い込まれていった。すると全身が赤く光だすカポエラー。そのままミロカロスに突撃していって、かたきうちを決めた。辺りは夕暮れに桜の花びらが舞う中、刀による居合抜きが決まったかのような幻想が見えた。尤も、居合抜きが決まった後かのように静かに佇むカポエラーは現実のことだった。

 

「お、おい! なんてこった……!」

 

 そしてミロカロスはフィールドに倒れこんでいった。

 

「ミ、ミロカロス、戦闘不能!」

 

 ミロカロスの様子を見に行ったジャッジがそう判定を下したのだった。

 

『なっ!? 一撃!? たったの一撃でダウン!?』

『かたきうちは味方が倒された直後の一発限りですが、威力が二倍になりますからね。それと光が出て吸い込まれていったのはジュエルを使ったとき特有の現象です。タイプと光の色から判断するにあれはノーマルジュエルでしょう。ちなみにジュエル系は一回だけその技の威力を一.五倍に上げる持ち物です。今回はそれで、かたきうちの威力を上げたのでしょう。それにたまたまですが、あのかたきうちが急所にでも当たったのかもしれません』

 

 とまああたしもだいだいダイゴさんの意見と同じである。

 

 

 そして次に出てきたシロナさんの最後の一体であるロズレイドは、そのままおいかぜによるサポートを受けてのカポエラーのつばめがえしの連打を浴びて、ダウンしてしまった。

 

 

「そこまで! これにてチャンピオンシロナの六体のポケモンがすべて戦闘不能となりました! よってこのバトル、ホウエン地方ハジツゲタウン出身、ユウト選手の勝ちとします!!」

 

『決まったーーーー!! この十年現れることのなかったこのシンオウ地方の新チャンピオンが、今ここに誕生!! その名もホウエン地方ハジツゲタウン出身、ユ・ウ・トだァァァーー!!』

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「ああ、いたいた。ユウトさーん!」

 

 選手控室ではなく、単なる薄暗い通路で待ち合わせという、何ともロマンチックの欠片もない場所であたしはユウトさんと合流した。あたしの隣にはシロナさんもいる。

 

「ユウトさん、おめでとうございます!」

「そうね。ユウト君、新チャンピオン、おめでとう。いいバトルだったわ」

「ありがとうございます、二人とも」

 

 それからはそれぞれの健闘を褒め称えるような会話だったけど、

 

「急にゴメン、二人に伝えておくことと渡しておきたいものがあるんだ」

 

ということで、この場を設けたユウトさんに話を聞くことになった。

 なんでも、いつも逃げ出すユウトさんにさすがにリーグの方も対処を考えたらしく、リーグ終了後にユウトさんを一時拘束するなんて話が持ち上がっているらしい。それから逃れるために、閉会式で大々的に姿を消すんだとか。

 

「ということで、二人とはここでお別れです」

 

 その言葉にあたしたちは思わず、

 

「やぁれやれ……」

「はぁぁ……」

 

海よりも深そうなため息をついてしまった。で、

 

「言いたいことはそれだけなの?」

「あたしたちのときめきを返してください」

「ていうか、何もこんな場所で言わなくてもいいことなんじゃないの?」

 

といった感じに少しいじめていたら、ユウトさんも反省してくれたみたい。ホント、少しは乙女心を分かれっつーの。

 

「で、これからどうするつもりなんですか?」

「とりあえず、シロガネ山に向かうよ。そこでレッドさんに勝ってくる」

「その後はどうするの?」

「実家にいったん顔を出してちょっとホウエンで用を済ませた後は、行ったことのない地方、たとえばイッシュ地方とかカロス地方を旅してまわると思います」

 

 そっか。やっぱそうだよね。なんかそれでこそユウトさんだと思ってしまった。そしてそんなユウトさんみたいに――

 

「あの、ユウトさん」

「ん? どうした、ヒカリちゃん?」

「あたし、あたしもあなたみたいに各地方を巡って旅をしてみようと思います」

「そっか。なら、どこかでばったり会うかもね」

「かもじゃないです。会いますよ。いえ、会いに行きます!」

「そっか、楽しみにしてる」

 

 グッて軽く拳を差し出されたので、あたしも同じようにして拳を差し出した。コツンと当たったときのあの固さとともに、あたしたちはつながっているんだという感触が全身を駆け巡った。

 

「ねえ、ユウト君、私の新しい目標よ、聞いてくれる?」

 

 あたしたちは、今度はシロナさんの方に向き直った。

 

「私はひとまずもう一度修行しなおすわ。そして次のシンオウリーグでぶっちぎりの優勝を飾ってみせる。その後はユウト君、あなたを超えていくわ。これが私の目標よ」

「あれ? 師匠に弟子は勝てないのは道理だと思いますけど?」

「弟子は師匠を越えていくものよ? 昔からのお約束でしょ?」

 

 そしてあたしたちと同じく拳を突き合わせていた。

 ……いいなぁ、このやり取り。なんかカッコイイ。ライバルって感じで。あたしにはまだライバルというには若干遠い……。

 

「それなら! あたしもいつかはユウトさんに追いついて! ううん! 追い抜いてみせますよ!」

 

 道は果てしなく遠く険しい。それに到達点(ゴール)なんかないのかもしれない。でも、あたしは傍にポケモンたちがいてくれるなら、たとえなんであろうと、乗り越えてみせるわ!

 

「そっか。楽しみにしてますよ、二人とも」

 

 スッと、ユウトさんは、今度は三人の立ち位置のちょうど中心に拳を差し出した。

 

「首を洗って待ってなさい」

 

 シロナさんが、それに合わせて、ちょうど正三角形の一辺を作るかのようにして、同じく拳を差し出した。

 

「ハイ!」

 

 最後にあたしが欠けている三角形の一辺を付け足した。そして三人で同じタイミングで弾みをつけて振り上げた。いわゆる「あたしたちはずっと仲間だ」というポーズである。でも、それだけじゃ、ねえ……。

 

「オレたちはこれからもこの絆を大切にしていきましょう!」

 

 ……うーん、ニブイ。なんでわからないかなぁ。

 

「……そうそう。これ、あなたに渡しておくわ」

 

 シロナさんは頭を押さえながら、そう言って取りだしたもの。

 

「これ、ライブキャスターじゃないですか」

 

 それは以前『シロナさんに返しておいて』とユウトさんにあたしが頼まれていたものだ。一旦その通りにしたけど、あたしたち二人で話し合った結果、いつでも連絡が取れるように持たせておこうという話に落ち着いたのだった。

 

「私たちからの餞別ってことで受け取ってちょうだい。それとあなたのためにも基本的には私たちの方から連絡はしないから、たまにはあなたの方から私たちに連絡寄こしなさい。できれば会って、バトルもしたいし、あなたの“ポケモン講座”も聞きたいわ」

「二人にはもう基本的なことは全て教えましたよ。二人はもう、自分自身で戦法を探って戦略を立てるという段階です」

「バカね、まだわからないの? そういうことじゃないわ、ちょっとこっち来なさい。ヒカリちゃん」

「ハイ!」

 

 そうしてシロナさんがユウトさんの腕をつかんだ。あたしも反対の方をつかむ。

 そしてシロナさんと同じタイミングでユウトさんの腕を引いた。

 ここまでを自分でも驚くほどのスピードで成し遂げ、そしていきなりのことでバランスを崩したユウトさんはあたしたちに寄り掛かってしまい――

 

 

「――今日はこれでカンベンしてあげるわ」

「――です!」

 

 

 一歩引いたあたしたちをよそに、何をされたのかわからないといった様子のユウトさんは、自分の額、それから頬を撫でるように触る。

 

「マ、マジ?」

 

 ようやく絞り出したというその言葉に返す言葉は決まっている。

 

「マジよ、マジ。わるい?」

「本気ですよ」

 

 これしかない。

 

「……い、いや、ごめん。正直ずっと一緒に旅してたけど全っ然気がつかなかったよ」

 

 そんなのはもう知ってましたよー。でも、申し訳なさそうに言うその姿勢に少しは溜飲が下がる思いだった。

 

「そうだ。ホントは手紙だけ渡そうと思ってたんだけど、これも渡しておくよ」

 

 そう言って渡してくれたものは――

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

 

ヒカリちゃんへ

 

 

 いきなりで悪いけど、旅に出ます。

 理由? 理由はそうだね。別にリーグの仕事がイヤってわけじゃないんだよね。それはそれで大切な仕事だし、むしろオレはリーグに戻ったら、今のポケモンバトルの主流を変えていこうと勤しんだりするんじゃないかって思ったりもしてるよ。

 たださ、知ってる? 以前ポケモンは五百種類近くいるって教えたけど、それはカントー・ジョウト・ホウエン・シンオウ・ナナシマに生息してる数だけであって、この世界中で数えると七百を超える数のポケモンが生きているんだ。そしてそれに伴って新しい技、特性なんかもどんどん見つかってる。それに今までに知られてるポケモンでも、新しい技を覚えたり、今までと違う特性を持っていたりすることもあるんだ。メガシンカだってその一つさ。それにホウエンには新しくゲンシカイキなんてのもあるらしい。

 で、オレはそのポケモンたちに会ってみたい。そしてゲットしたポケモンたちで、「いかにしてその捕まえたポケモンたちでバトルに勝つことが出来るのか」っていうのをいろいろ試して考えてみたいんだ。

 それだけあれば、きっと今までじゃあ考えられないような戦略や戦法だってきっとできたりするよ。

 だから、それを駆使してオレはバトルに勝つ。

 

『強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手。トレーナーなら、自分の好きなポケモンで勝てるよう努力するべき』

 

 これがオレの信念だからね。

 

 そういや、ヒカリちゃん、トレーナーならいろんな地方を旅してみるといいよ。それまでには見つけられなかった新しい発見とかがあるかもしれないから。

 それにいろんな地方を旅してればオレと会ったりするかもね。そんときはまたこの前のときみたいな燃え上がるようなバトルしよう!

 

 じゃ! 元気で!

 

P.S.

 ちょっとした頼みなんだけど、シンジ君にオレが教えたことを教授してあげてくれないか。シンジ君の頼みを途中で投げ出してしまったようなものだからね。

 それに人に教えるということは、ヒカリちゃん自身のためにもなるからね。なんだったら、ジュン君やコウキ君にも教えてあげてもいいかも。二人ともヒカリちゃんと幼馴染なんだから、ヒカリちゃんにおいていかれることはライバルとして悔しいはずだからね。

 んなワケで一つ頼むよ。

 

 

 

 ハァとため息をつきながら綺麗に手紙を折りたたんだ。まぁ、あの人の頼みだから引き受けることも吝かではない。

 そしてあたしは、ユウトさん、あなたに絶対に追いついてみせる!

 

 あたしの目標はあなたみたいになることだから――!!

 

 

 

 

「なんて書いてあった、手紙?」

「えっ?」

 

 文面に落としていた視線を上げて、横を見てみればシロナさんがいた。周りには誰もいない観客席。

 

「いえ、おそらくシロナさんと同じなのでは」

「そうよね。彼のことだもの、なんとなくわかるわ」

「で、随分と長い間耽ってたわね。隣にいたシンジ君て子が心配してたわ。で、彼だけど、私と二人で話をするってことで先に宿に帰したわ」

 

 聞いた自分の醜態とフォローに痛み入る思いだった。

 

「何考えていたの?」

「いっちゃったなぁ、と」

「そうね」

「それとあたしも頑張らなきゃ、と」

「そうね」

「それと……たとえ一時(いっとき)でも別れるのは……ツライです」

「うん」

 

 いままではすぐそばにいてくれた。とても頼もしい人だった。厳しいときもあったけど、でも、とても優しい人だった。いろいろ助けてくれた。だから魅かれた。

 そんな人が今は隣にいない。いてくれない。湧きあがる寂しさは消えなかった。

 

「でも、また会えるわ。あなただって言ったじゃない、絶対に会いに行くって。なにも永遠の別れじゃないんだから。そして会ったときに、それをぶつけてやればいいのよ『なにあたしみたいな良いオンナを放っておいてるんだー!』って」

 

 その最後の叫びに、妙に気迫が籠もっていて、あたしは思わずクスリと漏らしてしまった。

 

 うん、会いに行こう! そして会って

 

「一発ビンタですね!」

「二十発ぐらいでいいんじゃない? 私は馬鞭でも持っていくけど」

 

 ……馬鞭って、それ死んじゃうんじゃ――

 

 ――あっ! 一つ、思い当ることがあった。あって、しまった。

 

「シロナさん、聞いてください」

「なに?」

「あのヘタレ」

 

 

 

 ――あたしたちの告白に返事してくれましたかね?

 

 

 ――してないわね。あのクソガキ

 

 

 

「シロナさん、あたしの分も用意しておいてください」

 

 いやさ、プレゼントもらって浮かれてたのはともかく、なんで気がつかなかったのかしら。

 

「わかったわ。知り合いにそういうの詳しいのがいるからすぐ用意できるわ」

 

 

 よかった。

 とにかく。

 

 覚悟しておけよ、あのヘタレ!!

 

 ぜってー、追いついてやんからな!!

 




シロナ
×ルカリオ(カムラの実)、×ガブリアス(ラムの実)、×ロズレイド(くろいヘドロ)、×ミロカロス(たべのこし)、×サーナイト(サーナイトナイト)、×バルジーナ(ゴツゴツメット)

ユウト
カポエラー(ノーマルジュエル)、×モンジャラ(しんかのきせき)、×ギャラドス(たつじんのおび)、×ボーマンダ(ヤチェの実)、ラルトス(こだわりメガネ)、×ヤミカラス(きあいのタスキ)


ようやく、シロナ戦も終わりました。
この5話で文字数が45000字越えとか思った以上に長かった。
フルバトル書くのきつ過ぎワロタwww

ワロタ......

そしてこんなバトルばっかのSSにお付き合いいただき、本当にありがとうございます。

正直、しばらくバトルはもうお腹いっぱいです(でも、前のはバトルけっこう続いているんですよねー)
まあ、あとで考えましょう。

さて最後はかなりふざけてしまい、スミマセン。彼が変な趣味に目覚めないように祈りましょう。

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