ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

※追記
大きなミスが発覚しましたので、一部修正しました。


外伝6 ユウト トリプルマルチバトル(前編)

 ナナシマ地方5の島の北方、通称『みずのめいろ』という道路を抜けた先。

 そこにはゴージャスリゾートという、云わばセレブ御用達のリゾート別荘地がある。お金持ちの別荘なので、何から何まで他のところとは違う。例えば、その辺に飾ってある調度品一つ取ってみても、他のそれとはケタが一つ、場合によっては二つ以上異なる金額が掛けられていたりもするのだ。

 さて、そんな別荘が乱立するリゾートの中に一際目立つ、別荘というよりはむしろ屋敷と言い換えてもおかしくはない装いを見せるそれがあった。そして、その“屋敷”のゲートの前に佇む、燕尾服で身を包んだ一人の男性。実は、彼はこの屋敷に訪れることになっている最後の客人を待っていたのだ。

 そうしてしばらくすると晴れ渡っていた空に黒い点がぽつんと一つ現れた。それはだんだんと大きさを増していく。

 彼は確信した。ようやく待ち人が来たのだと。

 

 そして、その最後の一人が、今ようやっと、騎乗していたボーマンダから降り立った。

 待ちわびた客人たちの到着に彼はその名を呼んで出迎えをする。

 

「ようこそ、おいでくださいました、ユウト様。ラルトス様、ボーマンダ様も」

「いえ、遅れてしまってスミマセン、コクランさん」

「ル、ラルラ」

「マン」

 

 男性の名はコクラン。イッシュ地方のとある大富豪の家で執事を勤めている人間である。そしてジョウトバトルフロンティアバトルキャッスルのフロンティアブレーンという顔も併せ持っていた。

 

「皆さんもう来てるんですか?」

「はい。ユウト様以外の皆様は全員お揃いですよ」

「うーん、しまった。また遅刻か。まーた、シロナさんとかシルバーとかになんか言われそうだ」

「主役は常に遅れて来るものですよ。では、参りましょうか」

 

 ユウトはコクランの先導に従い、屋敷の敷地内に姿を消した。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

 どーも。主人公なのに外伝にはコトネよりも後に初登場したユウトです。

 さて、今回はイッシュ地方でカトレアちゃん(年下)が四天王への就任が決まったので、そのお祝いのパーティーをしようという“名目”で、このゴージャスリゾートにあるカトレアちゃんの別荘にお呼ばれしました。

 ちなみにカトレアちゃん家って世界的な大富豪らしく、それこそ世界中に別荘があるんだ。

 で、さっき“名目”っていう風に強調したのは――

 

「(ユウト、なんか周りから『今日こそ私がキミのことを負かせてみせるわ!』とか『俺が初勝利をもぎ取ってやる!』って感情がビシバシ伝わってくるんだけど)」

「……まあ、いつものことだし」

 

 そう。ここはオレにとっては旅やバトルを通して知り合った連中しかおらず、そしてそいつらがオレから何とか初勝利をもぎ取ろうとして、大勢(下手すると全員?)オレにバトルを挑んでくるのだ。尤も、カトレアちゃんの別荘には必ずバトルフィールドがあり、かつポケモンの回復設備や交換設備もあるとはいえ、そんなにバトルはできねーよと過度な連戦はお断りしている。(ちなみにそのときにはオレ以外の誰かにバトルを挑んでいる人が多い)

 

 しかし、今日は何やら様子が違っていた。

 

 

「悪いんだけど、今日の一番手は僕とあともう一人でいいかな」

 

 

 明るい茶髪を立てて黒を基調とした服を身に纏う男性。しかし、それは彼を特徴づけるものではない。それならばまさしくこの肩書きの方が良いだろう――カントーリーグ元チャンピオンにして現カントートキワジムにおけるジムリーダー――

 

 

「グリーンさんですか。グリーンさんとは久しぶりのバトルな気がしますね。よろしくお願いします」

 

 

 “最強のジムリーダー”という称号を持つグリーンさんだ。

 しかし、グリーンさんの言っていたもう一人って?

 

「それは僕だ」

 

 その声が聞こえてきたところを見て、思わず呻いてしまった。

 上は赤いジャケットに、正面にモンスターボールをモチーフとした赤い帽子、下はそれとは反対に青いズボンを纏ったグリーンさんと年も背格好も似た男性。

 口数が少ないことが玉に瑕だが、史上最年少でチャンピオンの座を獲得し、“最強のチャンピオンマスター”とも呼ばれた少年。

 

 

「レッドさん、いらしてたんですか!」

 

 

 カントー地方チャンピオンマスター、レッドさんだ。ちなみに、普段はこういう集まりがあってもなにかと欠席しがちな(というよりほとんど来ない)レッドさんがここにいたのは、オレ的にはかなりビックリである。

 

「僕たち二人とダブルバトルで――」

 

 しかし、そこでグリーンさんの言葉に待ったがかかった。

 

「ハイハイハイ! そのバトル、ちょっーと待ったー! あたしも参加しまーす!!」

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「で、本当にそれでいいんですね?」

 

 確認の意味で対戦相手の一人であるグリーンさんに問いかける。

 

「まあ、仕方ない。彼女の功績も認めなければね」

「トーゼンよ! うふふ、これでレッドといっしょにバトル出来るわ!」

 

 まあ、オレも認めているから、あちらも断るのも難しいかというところか。

 さて、どういうことなのかというと、まず「待った」を掛けたのはカントーリーグ四天王のリーフさん。そして彼女の要求はこのバトルに自分も参加させろというものだった。

 「いきなりなんだ」とも言いたくもなる話でもあるが、実はレッドさんを連れてきたのが、何を隠そう、このリーフさんらしい。普段顔を見せないチャンピオンをこの場に連れてきたことには、「非公式とはいえ、おおっぴらにチャンピオンとバトれる」とのことで周囲もその功績を認めていたらしい。そしてその褒賞としてこれに参加するということが認められたというわけである。ちなみに、レッドさんは不服そうな顔をしているが、レッドさんが普段からこういうところに顔を出していればこんなことにはならなかったのだから、はっきり言って自業自得である。

 

「では、ルールを確認します!」

 

 審判はコクランさんが務めるらしく、その他の連中は観覧席の方で見物をしている。

 

「今回行いますは、変則的なトリプルマルチバトルです! グリーン様、レッド様、リーフ様の使用ポケモンは二体ずつ、一方ユウト様の使用ポケモンは六体全てです!」

 

 つまり、一人対一人ではなく、複数人対複数人で戦うという(尤も、こっちは一人で、向こうは三人なので変則的な)マルチバトル形式と、お互い三体ずつをフィールドに出して戦うというトリプルバトル形式を融合させたバトルである。トリプルバトルはお互いの手持ちが六体なので、オレからしてみたら、フルバトルという形式になる。

 

「ルールはポケモンリーグ公式ルールに則ったものとします! またミラクルシューターの使用は認めません! 以上です!」

 

 ポケモンリーグ公式ルールとは、こういうものだ。

 

 一,ポケモンに持ち物を持たせることが出来る。

 二,ポケモンの交代はあり。

 三,ポケモンや持ち物の重複は認めない。

 四,トレーナーはポケモンに対して如何なるアイテムも使用してはならない。

 五,最後に自爆技(じばく、だいばくはつ、みちづれ、いのちがけ)使うと、自爆技を使った方が負ける。

 六,最後のポケモン同士で相打ちになった場合、先に倒れた方が負け。

 

 オレからすれば至極普通というか当たり前なルールである(ちなみにフロンティアルールというものもあって、そちらは、基本的には上と同じルールだけど、『ポケモンの重複についてはあり』という点が違いとして存在していたりする)。

 そしてミラクルシューター、これは単純にいえば、バトル中、トレーナーがポケモンにアイテムを使うことを許可するというものだ。尤も、これには制限があり、まずそれ専用の装備をトレーナーが身に付けると、バトル開始後の時間経過とともにパワーが溜まっていき、そのパワーによってトレーナーが使用してもよいアイテムを表示させるというものだ。そして使うとそのパワーは消費されて溜め直しとなる。しかも強力なものほどパワーが必要というものだ。つまりは『何でも』、そして『いつでも』使えるものではないのだ。そして、これもやはり、『いつ』『なに』を『どのポケモン』に使うのかというところで、トレーナーの戦略性が試されるものである。

 今回はこっちが一人で向こうが三人ではあきらかに不平等ということで、なしにしてもらった。

 

 さて。オレもトリプルということで、ここに備え付けられた施設を使い、ポケモンの入れ替えも行った。若干不安はあるけどそのときはそのときで臨機応変である。

 

「それでは双方、準備はよろしいですか?」

 

 最初に繰り出す三体が入っているボールを三つ、両手に収めた。すると肩に乗っていたラルトスがピョコンと頭の上に乗っかる。

 

「ん、なにすんだ?」

 

 上を見上げると、ちょうど見下ろしていたらしいラルトスのその赤いクリクリッとした瞳と目と合った。

 

「(わたしが投げたい)」

「あー、まあいいぞ」

「(やった!)」

 

 嬉しそうなラルトスがサイコキネシスでそのままオレの手からモンスターボールを持っていく。ラルトスの周りにそれらがちょうど正三角形をつくるかのようにプカプカと浮かんでいる。

 

「では、バトルスタート!」

 

 コクランさんのかけ声がかかった。

 

「(みんな! 頑張るのよ!)」

 

 ラルトスがジャンプしてオレの頭から飛び上がると、サイコキネシスをうまくコントロールしてそれら三つのモンスターボールを、目の前に横たわるフィールドに投げ入れた。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 どよめきが場内に広がる。もしオレのポケモンのせいだったのならごめんという思いと共に苦笑いが零れてしまった。

 さて、フィールドの出ているポケモンだが、レッドさんがピカチュウ、グリーンさんがカメックス、リーフさんがフシギバナである。どれも三人のパーティの中ではエース級の実力を誇るポケモンだ。

 

「ちょっとレッド、なんでリザードン出してくれないのよ?」

「……戦略上。それに頼りになるといえばコイツだから」

「あのな~、確かにお前とピカチュウは一番付き合い長いけど、そこはリザードン出そうぜ。そうすれば博士からもらったポケモンで全部揃うじゃん。まったく。空気読もうぜ、そこは」

 

 ……なんだろう。相手の三人は同じマサラタウン出身で家も隣の幼馴染。しかも、同時期にオーキド博士からポケモンをもらって旅に出たとか聞いていたから、てっきり夢のタッグとしてチームワークがいいと思ってたんだけど、大丈夫なんだろうか?

 

「(チャンスじゃない。今の内にさっさと先手をもらうのよ)」

 

 それもそうかもな。

 さて、一方のオレのポケモンはというと。

 

「バリヤードか。いや、バリヤードはいいとして残りが――」

「……ソーナンス、プリン……」

「プリンっていうのが意外すぎるけど、ソーナンスはヤバいわよね」

 

 ということである。見渡せば、他のみんなもプリンの意外性とソーナンスに結構注目が集まっているように感じられる。まあ、リーグでもバトルフロンティアでも、プリンでバトルに挑むトレーナーは見たことないし、ソーナンスはその特性の厄介さが知られているからだろう。

 

「たしかソーナンスの特性は『かげふみ』だったか。これでは交代が出来ないぞ」

「……かといって迂闊な攻撃では、相当手痛い反撃を食らってしまう……」

 

 二人の言うとおりで、ソーナンスの特性『かげふみ』の効果はゴーストタイプ以外、ポケモン交代や逃げるが出来なくなるというものだ。そしてレッドさんの言うとおり、ソーナンスはカウンターとミラーコートという反撃技を持っている。カウンターは受けた物理ダメージを、ミラーコートでは受けた特殊ダメージをそれぞれ二倍にして返すという技で、HPの種族値が高いソーナンスは、そのHPの高さと防御と特防の低さも相まって、これら二つの技のダメージ量が他のポケモンのそれよりも格段に多いのだ。下手をすると、一発カウンターやミラーコートを食らっただけでダウンもあり得るくらいである。

 

「でも、とにかくダメージは気にせず、あのソーナンスをみんなで集中攻撃して倒すしかないんじゃない?」

 

 しかし、それにも限界はあって、一度に集中攻撃をされてはさすがのソーナンスも耐えきれない。今リーフさんが挙げた方法が一番ダブルトリプルにおいて使える突破方法だろう。

 しかししかし、『かげふみ』にだけ注目しててもダメなんだよな~。ということでラルトスの進言通りに行こうか。

 

「先手行きます! バリヤードはフシギバナにねこだまし! プリンはほろびのうた! ソーナンスは適宜任せる!」

 

 ズバリ、今回のオレのテーマは俗に言う『滅びパ』である。これはほろびのうたという技を基点として攻める戦法だ。今回、ほろびのうた始動役をプリン、場に縫い付ける役割をソーナンス、補助をバリヤードという風に割り当てた。ちなみにソーナンスは、アニメのムサシのように、指示がなくてもカウンターとミラーコートを使い分けることができる賢いヤツなので、完全にお任せである。

 これは上手く機能したようで、フシギバナはねこだましによる怯み効果で僅かの時間だが行動不能に陥り、ソーナンスの交代を縛る特性がプリンから攻撃の目を逸らす働きをしてくれたおかげで、プリンはほろびのうたを成功させた。

 

「フシギバナ、しっかり!」

「マズイぞ! 早くソーナンスを倒さないと、このままではほろびのうたのおかげでこちらがやられてしまう!」

 

 向こうは交代を縛っているソーナンスを先に倒させようとしていたため、バリヤードとプリンの行動に虚を突かれたようだった。しかし、フシギバナはいくらねこだましの威力が低いとはいえ、ほとんどダメージを受けていないように見える。それにそのダメージも現在進行形で回復しているようだ。とすると、持ち物はくろいヘドロ辺りか。

 

「ピカチュウ、ソーナンスにボルテッカー!」

 

 そして、いち早く復帰したピカチュウが身体に多量の電気を纏いながら、ソーナンスに向かって一目散に迫る。そのスピードたるや、「でんこうせっかの間違いなんじゃないの?」と言いたくなるほどである。運動エネルギーは速さの二乗で強くなっていくので、ソーナンスの受ける衝撃たるや相当なものとなるだろう。

 

「ソーーナンスッ!」

 

 しかし、ソーナンスはピカチュウのボルテッカーによる突進を弾き飛ばされることもなく、受け止める。そして、その威力を完全に殺し切ることに成功させた。尤も、やはりあのボルテッカーの威力はすさまじかったようで、ソーナンスの足がズザザザザーッとフィールドを削った跡がピカチュウの後方に長く深く刻まれている。

 

「そんな……!」

「えー!? レッドのピカチュウのボルテッカーは伝説のポケモンだって、耐え切れないで吹っ飛ばされるほどの威力があるのよ!?」

 

 さて、反撃技を得意とするポケモンの真骨頂を味わってもらおう!

 

「レッド! ピカチュウを後ろに下げろ! カウンターが来るぞ!」

「ピカチュウ! でんこうせっかで跳び上がれ! ソーナンスから離れろ!」

 

 グリーンさんとレッドさんの声に反応していち早く離脱を試みるピカチュウ。

 

「逃がすな! ぶちかませ、ソーナンス! カウンター!」

「ソーーナンスッ!」

 

 ソーナンスのカウンターが発動する。カウンターによるエネルギーの塊がピカチュウに迫った。しかし、ピカチュウもレッドさんの指示通り、でんこうせっかで宙に跳ぶことでうまく離脱した。かすっただけでは大ダメージはあまり見込めないだろう。

 

「ピカチュウ、大丈夫か?」

「ピッカ!」

 

 ムリがある体勢で離脱と着地をしたためか、頭をぶるぶると振って気付けを行ったピカチュウ。その瞳には力強さが一段と宿っていた。

 

「おかしい。でんきだま持ちで、かつ、レッドのピカチュウなんだ。ボルテッカーのダメージがあんなもんで済むはずがない」

 

 グリーンさんの言うことも、それはそうだろうと思う。ソーナンスはまだまだ全然堪えているという様子を見せていない。せいぜい焦げ跡が少し付いたぐらいだ。尤も、こちらもそういう戦略を組み込んでいるのだから、当然だったともいえるのかもしれないが。

 

「ダメージを抑えた秘訣には、勿論ソーナンスの耐久を上げていることもさることながら、実はプリンが関係します」

 

 その一言でプリンに注目が集まった。

 

「オレのプリンの特性は『フレンドガード』。これはダブルトリプル専用の特性で、効果は自分以外の味方ポケモンのダメージを四分の三に抑えるというものです」

「そっかそっか、そういうことね。ほろびのうただけじゃなかったんだ」

「でもどうせ、プリンの持ち物はしんかのきせきで耐久も上げているから、プリンを倒すのも少々厄介。違うか……?」

 

 うん。この夫婦はやっぱり素晴らしい。オレの言いたいことをすぐさま述べてくれる。

 

「でもよ、なにもどっちも倒す必要はないぜ? カメックス!」

「ガメーッ!」

 

 グリーンさんの不敵な笑みを携える。

 はてさて、何を狙うのか。

 

「カメックス、ソーナンスにほえる!」

「ガメ!」

 

 しめた!

 

 カメックスはやや胸を反らし、大きく息を吸い込む。ほえるという技は、いわゆる相手を強制的に交代させる技の一つで、発動までの時間がやや長いという特徴を持つ。

 

 グリーンさんの狙いは普通なら当たりだと思うんだけど、今回はお生憎。

 というかこれこれ! これを待っていたんだ!

 

「いけ、プリン、やつあたりだ! ソーナンス、合わせろ!」

「プリッ!」

「ソーーナンス!」

 

 その合図とともにプリンがソーナンスの頭上に躍り出る。

 

「プリュ!」

「ガー、メーーーッ!」

 

 プリンがやつあたりで以ってソーナンスを弾き飛ばした。いや、正確には、プリンのやつあたりの向かう方向にソーナンスもジャンプしていたことで、威力が低いやつあたりであっても、弾き飛ぶと言えるほどにプリンとの間に距離を取ることが出来たのだ。

 そして、それと同時にカメックスのほえるが発動する。しかし、すでにカメックスが狙いを定めていたところには、ソーナンスはいない。いるのはプリンだけだ。

 そうしてそのままプリンはソーナンスに行くはずだったほえるをもらった。

 

「くっそ! しまった!」

 

 指を弾きながら悔しがるグリーンさんをよそに、プリンはボールに戻っていった。

 ゲームなら、技が四つという制限がある以上、交代が封じられている状態においてほろび始動役が戻るには持ち物等も含めた戦略が狭められてしまうが、ここにはそんなものはない。そして交代を封じられているのなら、今みたいな強制交代技でソーナンスを交代させてしまえば、それも解除される。強制交代技は『かげふみ』では縛れないからだ。

 フレンドガードの掛かっているソーナンスは相当に硬いので、倒すには時間もかかる。しかし、このほろびのカウントが迫る状況下でそれに掛かりきりでは致命的ミスへとつながる。

 相手が普通のトレーナーだったら、この手は使えなかっただろう。しかし、相手が天才と言わしめても過言ではない、かつ、知識も蓄えてきている彼らならば、きっとそう動いてくれるハズ。そうした読み、いや、半ば確信があったのだ。そして結果は予想通り、ドンピシャだった。

 

「(ユウト、結構悪役みたいな顔になってるわよ、それ)」

 

 おっと。顔に手を当てて確かめてみると、たしかに口元がニヤァといった感じにつり上がっていた。変なキャラ付けがされるのもそれはそれで嫌なので元に戻す。

 

 うん、でもやっぱり読みがハマるとすっごく爽快です!

 

「コーン!」

 

 そして出てきたのは六本の尻尾がとってもチャーミングで、たまに「けしからんモフモフサセテー」なんて声も聞こえてくるほどの愛らしいきつねポケモンのロコン。タイプは炎でキュウコンの進化前のポケモンである。

 そして――うん、マジでオレの方に運が向いてきたんじゃないかと思う。

 

「バリヤードはカメックスにでんじは、ロコンはふういん!」

「みがわりだ、カメックス!」

 

 カメックスの体が一瞬ぶれる。ロコンのふういんが決まる前にいち早くみがわりが出来たようだ。おかげででんじはは無効化されてしまった。 

 

「フシギバナ、大丈夫!?」

「バーナッ」

 

 そしてひるんで身動きが取れないでいたフシギバナが復活したようだ。

 

「コーン!」

 

 そしてこちらもふういんが完了した。これでロコンが覚えている技の大半を相手方は使えない。おそらくピカチュウ以外は持っているだろう強制交代技のほえるはこれで封じられた。あとはカメックスのドラゴンテールのみ。それにちょうはつ(補助技を出せなくなる)対策もソーナンスのメンタルハーブで対処できるし、ドラゴンテールも併せて、バリヤードやロコンのかなしばりで封じることもできる。

 

「でも、どうしよう!? ふういん使われたんじゃ、こっちの補助技はほとんど使えないんじゃないの!?」

「いや、たしかにこっちが不利だが、でもロコンにだって覚えられないものもあるし、オレのカメックスにも他にソーナンスを突破する手もある。レッド!」

「でんじふゆう……!」

 

 それによってピカチュウの体表が淡く黄色に光出すとともに、ピカチュウの体が宙に浮かび始めた。

 

「チュウウウ」

 

 いや、ピカチュウがその浮かび始めた身体を今度は沈め始めた? ピカチュウの足がフィールドに着く。そしてまたゆっくりとだが、浮かび上がる。まるで重力がそこだけ急に軽くなったかのような感じの浮かび方だ。そして、またゆっくりと浮かび上がっていたものが上昇を止めて下降し始めて、足がフィールドに着く。

 

「そうか。ピカチュウはでんじふゆうの状態を維持しながら、早く動けるようにコントロールしているのか」

 

 当たり前だが、ピカチュウは空を自由に飛ぶことが出来ない。しかし、地面ではその身軽なフットワークを生かして素早く動き回ることが出来る。なるほど、やはりレッドさんのピカチュウは強敵だ!

 それになんででんじふゆうを……まさか!?

 

「そういうことね! フシギバナ、じしんよ!」

「ピカチュウ! フシギバナにてだすけ!」

「カメックスは全体にしおふきだ!」

 

 そういうことか! じしんは威力は通常よりは下がるが、フィールド全体に攻撃できる。カメックスはもともと高い耐久を持っている上、ピカチュウはでんじふゆうで効果なし。おまけにピカチュウのてだすけでじしんの威力が上がっている。コンボとしては成立している。一方こっちはロコンはじしんが弱点で、きせきも持っていないから耐久はあまり高くない。そしてじしんで物理攻撃を、しおふきで特殊攻撃をとすれば、ソーナンスの返し技は片方は成立しない。おまけにしおふきは相手全体に攻撃する技なので、ソーナンス以外へのダメージも見込める。

 ただ、やりようはある。あとは間に合ってくれれば――!

 

「バリヤード、ワイドガード! 急いで!」

「バリッ!」

「ソーナンスはミラーコート!」

「ソーーナンス!」

 

 これであとはなんとかなるのを祈るか。そうだ、ロコンは――

 

「ロコン、カメックスにやきつくす!」

「コーン!」

 

 カメックスの持ち物は“こだわって”いないハズだから、オボンとかの木の実か水のジュエルとかのジュエル系統か。他にもあるかもしれないが、このやきつくすは木の実やジュエルを使えなくする技だ。技のタイプは炎で相性は最悪だが、それらを封じられれば御の字だろう。

 ちなみにカメックスならばメガシンカすることも考えられたが、現状その可能性はほぼないと考えている。カメックスの場合、メガシンカする戦法で来るなら、早々にメガシンカした方が元の状態で同様の戦法をするよりも強力だからだ。ところが、その様子は一切見られなかった。

 

 さて、結果的にはどうなったのかというと――

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「ロコン、ソーナンス、フシギバナ、カメックス、ピカチュウ、戦闘不能!」

 

 コクランさんの宣言通り、フィールドにはオレのバリヤードを残して全員がフィールド上に伏せっていた。バリヤードは「バリィバリィ!」と元気いっぱいだ。

 

「よくやってくれたな、みんな。ゆっくり休んでくれ」

 

 そうしてオレはバリヤード以外の倒れている二人をボールに戻した。

 

「ありがとう、フシギバナ」

「ご苦労だった、カメックス」

 

 リーフさん、グリーンさんもそれぞれのポケモンをボールに戻す。

 

「ピカチュウ、大丈夫か?」

「ピカピカチュ~、チャー」

 

 レッドさんがフィールドの中に入って、ぐったりしているピカチュウを腕に抱えている。そのままレッドさんはピカチュウを抱えながらフィールドから出て、トレーナースクエア脇にあるベンチにピカチュウを横たえて休ませる。レッドさんのピカチュウはモンスターボールに入りたがらないらしいので、そうしているようだった。

 

 さて、一体何が起きたのかというと。

 まず、ロコンのやきつくすとバリヤードのワイドガード(全体攻撃を防ぐ)が同時並行で発動した。尤も、やきつくすはいい感じに何か(ジュエル系統。色を見るに、おそらくは水のジュエル)を、技名通り、焼き尽くしてくれたが、ワイドガードは完全には成功せず、バリヤードにしか張ることが出来なかった。そのため、ロコンとソーナンスに、てだすけ(技の威力を一.五倍にする)によって強化されたじしんが直撃。しんかのきせきはプリンに持たせていたために、それによる耐久上昇の恩恵を受けられず、かつ弱点攻撃ということも手伝って、ロコンは耐えきれずにダウン(ちなみにきあいのハチマキを持たせていたが、クオリティ(ゲームにおいて起こるCPUにとってあまりに有利な展開)は発動しなかったようだ)。しかし、ソーナンスは耐えきってみせた。

 次にカメックスのしおふきがその後タッチの差でソーナンスを襲う(ちなみにバリヤードはワイドガードのおかげで無傷)。ダメージは多かったようだが、これはミラーコートではね返すことには成功。今度はさっきのピカチュウのように避けられるということもなく、かつ、じしんのダメージもあり、カメックスをダウン寸前というところまで追い込んだ。尤も、ソーナンスも既に威力が高い技をいくつも受けており、あと一撃耐えられるかギリギリというところであった。そこをダメ押しとばかりにピカチュウがでんこうせっかで以てソーナンスに攻め上がった。そしてあと一歩、そんなところでほろびのうたの効果が発動。

 そうしてバリヤード以外が戦闘不能という今の状況が出来あがったのだ。ちなみにほろびのうたは音による攻撃なので、特性『ぼうおん(音による技のダメージや効果を受けない)』によって初めから効果はなかったりする。

 

「(でも、ロコンには感謝よね)」

「だな」

 

 ラルトスの言いたいことは、ひょっとするとの話だが、やきつくすが決まっていなかったら、という場合だ。その場合、もしかするとタイプ一致+水のジュエルでの強化しおふきでソーナンスがダウンしてしまって、ほろびも不発に終わっていたかもしれない。ほんの僅かの行動によって天秤が簡単にひっくり返る。それに、些か怖いというよりも背筋をビリビリとした感触が走るのを感じた。それが腕を伝わり、手にもその感触が伝わる。思わず、拳を握る力が増した。

 

「(だから、顔)」

 

 ラルトスのその指摘はもう些細なことのように思えた。少なくともさっき考えていたことなど抜け落ちていた。

 

「それでは次のポケモンを出してください!」

 

 バリヤード以外がすべていなくなったフィールドにコクランさんの声が響き渡る。

 さて、向こうは三人だからそれぞれ一体ずつで、こっちは二体。ついでに向こうはもう交代もできず、後がない。戦略はドンピシャだったわけだ。よし、このままいこう!

 

「プリン! それからピッピ! キミたちに決めた!」

 

 ということで、もう一度ほろびを決めるためのプリンと、技が豊富なために攻撃役とサポート役を同時にこなせるピッピを繰り出す。ちなみにこのピッピだが、今回は迷いに迷って特性は相手の攻撃以外で、ダメージを受けない『マジックガード』を選択した。特性カプセルという便利なアイテムがあるので、バトル前はいつもどの特性にするか悩むポケモンである。

 

 んで、向こうは交代できないという不利な状況なため、ちょっとは有利かなと思っていたんだけど――

 

 

「出番よ、フリーザー!」

「出てこい、ファイヤー……!」

「いってこい、サンダー!」

 

 

 さすがにカントー地方の伝説の三鳥がここで出てくるとは正直思いもよらなかった。

 

「(えー? ここで伝説ぅ?)」

「別にルールに反しているわけじゃないぞ。それだったら、最初からそういうルールにしとけって話だ。それにしてもやばいな。伝説のポケモンをあの三人が扱うんだからこれはマジのマジにならないと、ここから一気に逆転されるぞ」

 

 やっぱりあの三人は強敵だとも思った。




手持ちポケモン
・ユウト
バリヤード(????)、プリン(しんかのきせき)、ソーナンス(メンタルハーブ)、ロコン(きあいのハチマキ)、ピッピ(????)、残り1体

・グリーン
カメックス(水のジュエル)、サンダー(????)
・レッド
ピカチュウ(でんきだま)、ファイヤー(????)
・リーフ
フシギバナ(くろいヘドロ)、フリーザー(????)


※本来トリプルバトルには他にも単体技の攻撃指定についての制約やポジション替えのムーブというものがありますが、ここではなしとしております。

※特性カプセルは隠れ特性への変更や隠れ特性からの変更も可能という形に変更しております(ゲームでもこの仕様になってほしい。それに必要BP上げてくれていいから大事なもの扱いにして消耗品でなければ良かった)。

※『ソーナンスの防御特防は低い』としつつ『ソーナンスは相当に硬い』という表現を使っていますが、相手の攻撃を耐える耐久についてはHPと防御or特防の高さによって変わります。ソーナンスの場合、防御特防の種族値は低いのですが、HPの種族値はべらぼうに高いので、相対的に耐久は高くなっています。

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