ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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この話は本編の挿話4と挿話5の間のお話ですので、ラルトスが話せるということはヒカリやシロナには知られていません(初めて知ったのはギンガ団関連でテンガン山に登るとき)。このシリーズではその点に留意を置いていただきたく存じます。



外伝11 ヒカリ ときわたり

 あたしたちは彼らにあたしたちの事情を説明することにした。

 

「へぇ、オレたちとは違う世界ね」

「平行世界か。夢があっていいな」

「まるでSF映画みたいなお話ね」

 

 あ、今ヒカリがあたしが言ったことと同じことを言った。同一人物なんだから似た部分も多いのかしら。……でも、あっちもヒカリでこっちもヒカリじゃ区別しにくいわよね。

 

「スミマセン、ちょっと」

「……あ、あたしも」

 

 こっちのあたしは少し遅れたようだけど、でもほとんど同じタイミングで席を立ったあたしたち。同じ歩幅同じ歩き方で歩くあたしたち。左を見ると本当にあたしと瓜二つなもう一人のあたし。

 

「ピカ、ピカチュウ」

「ルー、ラルラー」

「ポチャ、ポチャチャ?」

「ポッチャ!」

「ビィビィ~♪」

 

 あたしたちより少し離れたところでは、人もポケモンも、世界が違っていようとも「でも、そんなの関係ぇねぇ!」とばかりに親交が深まったらしい。

 

「…………」

「…………」

 

 一方、こちらはさっきからこんな感じ。化粧室の洗面台の鏡の前に立つあたしたち。

 

(どうすればいいのかな)

 

 普段はそんなことはないのだが、あたしはもう一人の自分に対してかける言葉が見当たらなかった。化粧室に立った一番の理由はそれだったりする。たぶんだけどそれはきっと向こうも同じなんじゃないかと思う。世界が違うとはいえ、あくまで“自分”のことだからなんとなくわかる。

 しかし、なんとかしなければいけないのもわかっている。あれだ、ポケモンをゲットした後みたいにまずは挨拶をしよう。そこからすべてが始まる、ハズ。

 とにかく内心深呼吸をして落ち着かせる。

 

 よし――

 

 

「「…………あ、あの」」

 

 

 !?

 

 

 声が重なり合ったせいか、お互い怯んでしまった。な、なんとかしないと。

 

「「……え、えと、お先に」」

 

 

 !?

 

 

 シンクロし過ぎだよ、あたしたち。

 

「……あ、ホントあたしは後でいいから」

「い、いいよ、わたしの方が後で!」

「いや、ホントあたしが後でいいから」

「いやいや、わたしが――!」

 

 いったいどのくらいそんなやり取りを繰り広げていたのか。ちょっと少し楽しくなってきたので、

 

「じゃああたしがやるよ」

「じゃあわたしが先に」

 

 と言ったら言われたので、すかさず、

 

「「あ、どうぞどうぞ」」

 

と返したのだが、これまたピッタリのタイミングで返されてしまった。

 

「……プッ」

「……アハハ」

 

 そして、笑いあって

 

「なんかあたしたちバカみたいね」

「ねー。あ、そういえば今気になったんだけどさぁ、そっちにダグトリオ倶楽部なんてあるの? それダグトリオ倶楽部ネタだよね?」

「え? ううん、ないよ。これはドードリオ倶楽部のネタだよ。ダグトリオ倶楽部は聞いたことないなぁ」

「へぇー、逆にわたしはそのドードリオ倶楽部の方が初耳だよ! じゃあさじゃあさ――」

 

 打ち解けあって

 

「ってわけなのよ!」

「うわー! わかるわかる!」

 

 深い友誼を交わしあっていた。そして確かに外見は同じでも、違う考え方や異なる趣味嗜好を持つ別個の人間なんだという認識を持つことができた。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「あなた達どうしたの? 遅いから来てみたんだけど」

 

 うわっ。だいぶトイレで話し込んでたみたいだ。シロナさんが化粧室の扉を開けて中をのぞき込んでいた。

 

「あ、ごめんなさい、シロナさん。今戻ります」

 

 そうしてあたしたちはユウトさんやサトシ君たちがいるところに戻る。

 

「(ありがとうございます、シロナさん)」

「(気にしないで。でもよかったわ)」

 

 後ろでこの世界のあたしがシロナさんにお礼を言ってるのが聞こえた。きっとシロナさんがヒカリに何か後押ししたのだろう。小声だったけどしっかりと聞こえてきたそれからそう判断したあたしは機会を提供してくれた二人に感謝した。

 

「遅かったね、ヒカリちゃん」

「もうこっちのヒカリとはうまくいったのか?」

 

 ユウトさんとタケシさんにも声をかけられた。こちらにも心配かけたようだ。

 

「だいっじょうぶ! わたしたちもう親友だから!」

 

 後ろから抱きつきのしかかるようにしてヒカリが言う。

 

「ホントかぁ~、ヒカリの「だいじょうぶ」は全然「だいじょうぶ」じゃないからなぁ」

「もう~、サトシィ~!」

 

 ニヤツいた顔でからかうサトシに対してヒカリは頬をプクッと膨らませていた。尤も、怒っているという感じではないことから、どうやら普段からもそうからかわれているのかもしれない。

 まあ、親友の誼として一応手助けはしておこう。

 

「うん、バッチシだよ。ありがとう、サトシ君。タケシ君もありがとう!」

「うわっ。こっちのヒカリからそう呼ばれてる気がしてなんだか違和感ありすぎ。オレのことはサトシでいいぜ!」

「俺のこともタケシでいいよ。よろしく、ヒカリちゃん」

 

 その日は夜遅くまで笑い声が絶えなかった。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 明くる日。

 ペンションのオーナーの言った通り、天候は昨日とは打って変わって、雲一つない快晴だった。そんな中、あたしたち六人とそれからピカチュウ、ポッチャマ、セレビィがエイチ湖のほとりの一角に集まっていた。

 

「ではこれより、バトルを始めます! ジャッジは不肖、元カントーニビジムジムリーダーのタケシが務めます!」

 

 トレーナーなら出会えば即バトルなんていうのもザラではあるが、誰と誰がバトルをするのかというと、

 

「ヒカリ、手加減なしの本気でいくからね」

「わたしだって負けないんだから!」

 

 それはあたしとヒカリのバトルだ。ヒカリはコーディネーターを目指しているらしく、バトルの方はそれほどでもないらしいのだが、戦ってみたいということだったので、こちらも断る理由があるわけもなく、ヒカリの申し出を了承した次第だ。ちなみにこの後にはサトシとシロナさんのバトルをする予定だったりする。異世界とはいえチャンピオンであるシロナさんにどれだけ今の自分が通用するのか確かめてみたいとのこと。ついでにいえばサトシはバッチが六つでキッサキシティを目指していた途中だったらしい。

 

「ルールの確認をします! 使用ポケモンはそれぞれ一体のシングルバトル! 道具の使用は禁止とします! 以上!」

 

 基本的にはあたしたちの世界でのルールと同じ。一応『道具を持たせるのは禁止』とは言われてはいないですけど、『ポケモンに道具を持たせる』という概念はあたしたちぐらいしかないようなので、道具を持たせることはしていない。

 

「双方準備はいいかい!?」

 

 ボールポケットの右手を当てる。その指先に触れるは繰り出そうとしているポケモンが入ったモンスターボールだ。

 

「ではバトルスタート!」

 

 あたしはその手でボールを掴み取ると、それを大きく振りかぶった。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「あのポケモンは」

 

 ヒカリがポケモン図鑑を取り出してあたしの繰り出したポケモンに向ける。

 

『レアコイル じしゃくポケモン 電気・鋼タイプ

 コイルの進化系。三体のコイルが強い磁力で繋がったポケモン。たくさん集まると電化製品に異常をきたす。ばらけると元のコイルに戻る』

 

 こっちの世界って図鑑で何の進化形だとかタイプとかまでわかるんだ。何気に羨ましいじゃない。

 

「電気・鋼ね。わたしのマンムーとは相性はまあまあ良いってところかしら」

 

 たしかに。

 マンムーのタイプは地面・氷で、レアコイルの電撃が効かず、逆にあちらの地面技は四倍弱点として効果抜群で突き刺さる。尤も、レアコイルの鋼技があちらにも効果抜群で突き刺さるけど、相性でいえばやはり若干悪いとは言わざるを得ない。

 ただ、バトルは相性だけで決まるものではない。それはイヤというほどユウトさんやシロナさん、ラルトスに教えられた。それを見せようじゃない!

 

「レアコイル、いやなおと!」

「リRRRRRRRRRR!」

 

 キーンというやや甲高いような、だけどかなり不快な音波攻撃で相手の防御を二段階下げる。

 

「ムー! ムー!」

「がんばって、マンムー! とっしんよ!」

「ムー!!」

 

 いやなおとを首を振ってかなり嫌がっていたマンムーだが、ヒカリの指示でそれも治まり、レアコイルに突っ込んできた。

 

「宙に浮かび上がって回避!」

「させないわ! マンムー、こおりのつぶて!」

 

 とっしんしながらのマンムーに、こおりのつぶてがばらまかれる。こおりのつぶては早さが売りの攻撃技なので、逃がさないようにといったところなのか。

 それにしても二つの技を同時にこなすかなり器用なマンムーなようだ。けれども、

 

「レアコイル、てっぺき!」

「リRRRRR!」

 

技の効果として防御二段階アップ、おまけにこおりのつぶてもとっしんもレアコイルには効果いまひとつ。これなら、いくら攻撃が高いマンムーでもレアコイルを倒し切るには至らないハズ。

 ただ、ここで少し予想外なことが起こった。

 

「マンムー、もう一度こおりのつぶてで例のアレよ! いっけぇ!!」

 

 『例のアレ』なんて気になる言葉を耳にしたけど、それはすぐさまお目にかかることとなった。ヒカリのその言葉に、眼前で氷塊をつくり上げたマンムーは、その角でそれを砕いて先程と同じようにこおりのつぶてを飛礫として飛ばすのではなく――

 

「はいぃぃ!?」

 

 なんとそれを大口を開けて飲み込んだのだ。直後、マンムーの体毛が白く変化し、そして背骨付近の体毛の一部が氷柱のごとく立ち始めた。

 

「な、なに……!?」

 

 こおりのつぶてを飲み込むだの、直後の変化などに驚くやら呆れるやら。

 一方、

 

「おお! いいぞ、ヒカリ、その調子だ!」

「ピカピカー!」

 

 タケシはジャッジを務めていたのであからさまな応援などしていないが、それでもこの世界のヒカリを知る面々には今のナニカの成功を喜んでいるようだった。

 そしてなんと、こおりのつぶてを飲み込んだマンムーはとっしんのスピードが、どう見ても、増しているようにしか見えなかった。

 

「マン、ムーッ!」

「レアコイル、もう一度てっぺき!」

「リRRRRRRRR!」

 

 直後マンムーのとっしんがレアコイルに決まる。マンムーはスピードの他にパワーも増していたようで、レアコイルは思いっきり後方に吹っ飛ばされた。

 

「レアコイル、後ろに向かってチャージビーム!」

「リRRRRRRRR!」

 

 てっぺきを二回積んだおかげでダメージはあまり負っていなかったみたいだけど、このままではそのまま近くの木に激突してしまいそうだったので、チャージビームで勢いを落とした。

 なぜチャージビームを選択したかと言うと、特攻が七割の確率で一段階上がるからだ。ずっと撃ち続ければ二段階も三段階も上がる可能性もあったりはする。元々特攻の高いレアコイルにはありがたい恩恵だ。

 それにひょっとしたらあのマンムーは地面タイプの技を覚えていないのかもしれない。だってあたしとヒカリが逆のシチュエーションなら、絶対地面技を繰り出すから。

 ヒカリちゃんはバトルに関しては、あたしがいうのもなんだけど、未熟な部分がある上、お互いのポケモンの数が一対一のこの状況で決定打となる技を隠すということはしないはずなので、この予想は間違っていないことだろう。

 それになんだか、マンムーとレアコイルの距離も開いたことだし。

 

「レアコイル、いばる!」

「リRRRR!」

 

 いばるは相手を混乱させるけど、相手の攻撃を二段階上げてしまう技。

ただ、さっきも言ったようにマンムーとは少し距離があるので、いきなりスピードが増したさっきとは違って、とっしんを避けるのは可能なはず。

 こおりのつぶてはてっぺきを積んだ上、相性も良くなく、威力も高いとはいえないので脅威ではないし、特攻の上がっただろう今なら、ほうでんなどのテキトーな特殊技で破壊してしまうこともありだと思う。

 

「ム、ムー! ムーッ!ムーーーーーッ!」

「マンムー!? マンムー、どうしたの!? 落ち着いて!?」

「ムーッ!ムーーーーーッ!」

「マンムーーーー!?」

 

 混乱したマンムーはヒカリのいうことを聞かず、暴走している。

 

「ムッ! ムーーーッ!」

 

 そのままレアコイルに向かって猛然と、暴れ牛か何かのごとく、とっしんしてくる。

 

「レアコイル、宙に浮かび上がって回避!」

 

 ただ突っ込んでくるだけのマンムーの単純単調なとっしんをレアコイルは容易に回避。一方、避けられたマンムーは勢いが緩まず、そのまま近くの木々に激突。根元がへし折れるのは一本に留まらず、四、五本を砕いたところでようやく止まった。

 

「レアコイル! トドメのラスターカノン!」

「リーRRRRRRRR!」

 

 灰色の光線のようなラスターカノンがマンムーに直撃する。鋼タイプの技は氷タイプには効果抜群で突き刺さる上に、特攻の高いレアコイルでのタイプ一致特殊技、さらにとっしんの、ある意味の自滅のダメージをマンムーは負っていたので、

 

 

「マンムー、戦闘不能! レアコイルの勝ち!」

 

 

あたしがヒカリをくだしたことで、バトルの決着がついたのだった。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「あーあ、わたしの負けか」

 

 若干気落ちした風なヒカリのもとにサトシたちが駆け寄る。

 

「そんなことないぜ」

「ああ、いい勝負だったと思う」

「ピカピカ!」

「ポッチャ!」

 

 たしかに。

 ヒカリはバトルよりはコンテストの方向にベクトルが向かっている。あのマンムー自体は良く育てられているし、なによりあんな『こおりのつぶてを飲み込んでのパワーアップ』にはメチャクチャ驚かされた。

 

「だから自信持っていいと思うわよ」

 

 シロナさんの言葉にうんうんと首を縦に振り同意する。世界は違えど、チャンピオンであることに変わりはないシロナさんの言葉にヒカリは感動しているみたいだ。

 

「さて、次はオレとシロナさんの番ですね」

「そうね、ヒカリちゃんとは違って、キミはバトルの方が本業だからフルバトルでいいかしら?」

「ハイ! お願いします!」

 

 ということで、今度はサトシVSシロナさん。ジャッジは今度はユウトさんがやる。ルールは交代ありが追加されただけで、基本的にはあたしとヒカリとのバトルと同じ。

 

「いきなさい、サーナイト!」

「ハヤシガメ、キミに決めた!」

 

 で、いよいよバトルが始まる。そんなときだった。

 

 

「ビィ! ビィビィ~!」

 

 

 セレビィの助けを呼ぶかのような叫び声が耳に届いた。反射的に全員がそちらの方に振り向く。

 そこにいたのは、胸にRの文字を印字された奇妙な格好をした男女の二人組とニャース、それから透明ななにかのケースに入れられているセレビィだった。

 




アニメからいろんな人が出張参加しています。そしてマンムーの体毛が白くなるというのは独自設定です。
ちなみにシロナのサーナイトはユウトから譲り受けたタマゴから孵ったもので、チャンピオン決定戦でメガシンカしたあの個体です。

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