ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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外伝14 流星の滝(後編)

「ありがとう。みんなのおかげで助かったよ」

「ラルール」

 

 ゴルバットたちとのバトルで川に落ちて流されたユウトとラルトスだったが、今彼らは無事岸に上がっていた。

 

「ンベイベイ!」

「ノンモ!」

タンベイタッべタンべ

 それに手を貸したのがこの二人、タツベイとモノズを中心としたクリムガンやピッピ、トサキントやドジョッチといったこの洞窟に住まうポケモンたちの一団である。

 彼らは流されていた二人を岸に引き揚げ、木の実を分け与えたり、火を起こしたりなどをして二人の手当てを行っていたのだ。

 

「ンベイ! タッべタンべ!」

「モノ、モンーノ。モノ」

「ベイ!? ベ、ベベイ、ベイ! タッべ!!」

「モノ、モノズ」

「ベイ! ベ、ベイ、タンベイ!!」

 

 タツベイは胸を反らしていたが、モノズに何かを指摘されたのか、途端に顔を赤く染めてモノズに詰め寄っている。その様子に周りのポケモンたちは一様に笑みを浮かべているようだった。

 

「なあ、タツベイたちは何話してんだ?」

「(なんかタツベイはツンデレみたいね)」

「はぁ?」

「(うーん、そうね。……うん、こんな感じでどう?)」

 

 すると、ユウトにしてみれば、つい今し方までは単なる鳴き声として耳から入っていた音の羅列が、頭の中でそれとは異なる“会話”に変化して響き始めた。

 

【だから、そういうことじゃない!】

【またまた~。そう意地張らなくたっていいのに~】

【いや、だから違う!】

 

「なんだこれ?」

「(なんかタツベイは随分私たちのことを心配してくれてたみたい。で、それを弄られてるというところ)」

「ふ~ん、それでツンデレねぇ。でも、いい奴じゃん」

「(“てれや”なのかしらね)」

「さあなぁ。意外にお前みたいな性格でも“ひかえめ”だし、後で性格が変化することもあるだろ?」

 

 ユウトたち二人もそんな彼らに倣って、二人のじゃれあいの様子を見守っていた。

 

 

【ちょっと! 大変だよ!】

 

 

 しかし、そんな時間も終わりを告げる。

 全員が声をした方を振り向けば、そこには全身に傷を負っているピッピを抱えた一体のクリムガンがいた。

 

【ピッピ!?】

【おい! 大丈夫か!?】

【また、あいつらなのか!?】

 

 皆が二人に駆け寄り、声を掛ける。ユウトたち二人も例外ではない。しかし、ピッピは弱く声を上げるだけの力しかなかった。

 

「戦闘不能一歩手前ってところか。ひどいな。ラルトス」

「(オッケー、任せて)」

 

 木の実等の回復出来るものは、ユウトたちの回復のために使われてしまっている。

 ここで二人が何もしないという選択肢はなかった。

 掛けられた恩は返すのが礼儀である。二人はそう思った。

 

 そしてラルトスがねがいごとを発動させる。少しすると、ピッピの上を小さな流れ星が流れ、そからこぼれ落ちた淡い星屑が、柔らかな淡い青の光を伴って、ピッピの全身を包み込んだ。

 すると、包み込まれた先からピッピの怪我が癒えていく。その幻想的な光景を、ユウトを含め、周囲が見とれていた。

 そして、それらが全て消え失せると、ピッピは先程までとは打って代わり、起き上がって元気一杯に跳び跳ねる。それには周りもワッと盛り上がった。

 

【ありがとう!】

 

 口々にそう声を掛けられる二人。

 

「ああうん。ただ詳しい話を聞かせてくれないか?」

 

 ここでピッピの怪我を回復させたところで、それは一時凌ぎでしかない。根本を解決させなければ、ただこれが繰り返されるばかり。

 ユウトは野生の生態に人間が介入するのは良くはないと思ってはいたが、先のそれにより、目の前の彼らに自分たちの力を貸すことにした。ラルトスもそれを追認する。

 

「さて、詳しい話を聞かせてくれないか?」

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 元々この流星の滝は個々の喧嘩等からのバトルはあれど、特に何事もなく、またここを通り抜ける人間たちにも特に何もせず、所謂平和的な状態であった。

 ところがあるとき、ある一体のゴルバットがやってくる。そのゴルバットは瞬く間に洞窟に生息する同族たち、果てはソルロックやルナトーンたちも合流して、“人間排斥”を唱える一大派閥となった。

 勿論この動きを察知したポケモンたちもおり、今ここにいるタツベイとモノズを中心とした派閥がまさしくそれである。

 しかし、派閥を築き上げるまでの時間とその後の時間の差が響き始める。片や、着々と準備を拵えてきた方と、片や急造で拵えた方、果たしてどちらに軍配が上がるか。

 それは火を見るよりも明らかなことである。

 

「なるほど」

「(話はわかったわ)」

 

 だいたいの経緯を把握した二人。

 

「(さっきも言ったけど、あなたたちに加勢することに異論はないわ。ただ)」

「そうだな。みんなはどうしたいんだ? 何を望んでる? どういう状態にしたいんだ?」

 

 抗争を行うことにおいて最も大切なことは、勿論兵力や物資の集積も必要なことだが、それを終結させること、つまり、所謂“落とし所”をどこにするのかということを決めることである。何を目標とするのかがわからなければ、下手をすれば、片方の塵も残らないほどの殲滅ということにもなりかねない。しかし、さすがにそこまで行くのはやり過ぎであり、ユウトたちもそれを望まない。

 

【ボクたちは今みたいな何につけてもギスギスして争うという感じじゃなくて、ただ前みたいにある程度は皆仲の良い状態に戻したい。それに人間の完全な排除も反対だ。この中には外に興味を持つポケモンもいるし、気に入った人間となら一緒に旅をしたいってポケモンもいる】

 

 それは彼らも同じで、リーダーの片割れであるモノズの言にタツベイが強く頷くのを始め、ここにいる全員が首を縦に振った。

 

「よし! これで目標は定まったな。んじゃ、作戦を決めようか」

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 流星の滝115番道路側口。ここは洞窟内の高低さからくる階段状の地形となっている。一度降りた段差を再度登るのには困難を伴う箇所もあるほどである。

 さて、そんなところには現在、この洞窟内に住まう多くのポケモンたちが一堂に会している。尤もそれは左右どちらかの組に属して相対しており、その醸し出される雰囲気からは決して友好的なものは感じられなかった。

 そして、双方の組の代表が歩み出た。

 

【ふむ、まさかそちらから来るとは。こちらから出向く手間が省けたぞ。ついに決着をつけようというのか】

 

 ゴルバットのもののような声がユウトの脳内に響き渡る。

 

【ああ。決闘だ。そして、この決闘で勝った側に負けた側は従う。異論はないね?】

 

 それにモノズが応えた。

 

【ふむ、了解だ。で、そこの人間はなんだ? 先程私たちを邪魔した人間のようだが?】

 

 その言によって双方の視線がユウトに集まる。それを受けてユウトは軽い会釈を返した。

 

「さっきはドーモ。ゴルバット=サン。とりあえずオレはモノズやタツベイたちの方の人間、つまりアンタとは対立する立場の者だ」

【キミたちは人間の排斥を訴えているけど、ボクたちは違う。人間とポケモンが協力すればきっと大きな力になるだろう。彼はキミたちにそれを見せるために手を貸してくれるそうだ。普段キミたちは人間を蔑ろにしているんだ。たかが人間の一人の参加ぐらいわけはないだろう?】

【当然だろう。序でにそこのラルトスがたかが一匹増えた程度も私たちにとっては造作もない】

 

 モノズの言にゴルバットはまるで問題ないといった感じに返す。

 

「じゃあ問題ないついでに、代表者と他で別けてバトルしないか? こっちの代表はタツベイとモノズ、あとついでにオレだ」

【ふむ。何を企んでいるか知らんが、私たちの派閥の方がレベルが高いことに変わりはない。故に私たちの勝ちも変わらんか。いいだろう。その提案、乗ってやろう】

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 そして、決闘が始まる。

 先制を取ったのはレベル的に高いハズのゴルバットたちではなく、タツベイたちの方であった。

 

「こわいかおだ!」

「(こごえるかぜよ! 出来ないのはなきごえやしっぽをふる、にらみつけるをしなさい!)」

 

 ゴルバットやソルロック、ズバットたちが一斉に攻撃に移ろうとしていたところに、相手の能力を下げる技が一斉に突き刺さる。ユウトやラルトスの指揮が見事に決まった形だった。

 しかも、こわいかおはともかく、他の技は範囲技である。ごく初期から使える技だが、レベルが高くなると使われなくなる技でも、ダブルバトル以上の集団戦闘では途端に使い勝手のある技へと変化する。ちなみに、他にもいとをはく(素早さ二段階ダウン)もこのタイプの技である。

 

「タツベイとモノズは引き続き、こわいかおだ! 相手の素早さを徹底的に下げろ!」

「(こっちは作戦通り、攻撃班とサポート班に分けるわよ! 攻撃班は得意技か弱点技に切り換えて攻撃! ズバットには電気や氷、岩技メイン、ソルロックとルナトーンは水、地面、悪、草技メイン! サポート班は引き続き、サポートの継続よ! 教えた通り、相手の能力を確実に下げる技なら何でも使っていいわ!)」

 

 ユウト、ラルトスの指揮の下、タツベイたちは確実にゴルバットたちを翻弄し、ダメージを与えていく。ゴルバットたちは立ち上がりの変化技で出鼻をくじかれたためか、終始タツベイたちに翻弄されていた。

 ユウトはトレーナーとしてダブルバトルでの戦い方や変化技・攻撃技を使い分けるのもお手の物だが、さて、ラルトスの方は、

 

「(サポート! ピッピ班Aはなきごえ、ピッピ班Bはでんじは! トサキント班しっぽをふる、クリムガンはにらみつけるよ! ドジョッチ班はどろばくだんでサポートよ! 攻撃! トサキント班、防御の下がった相手にたきのぼりにつのでつく! ドジョッチたちはたいあたり、ピッピ班はチャージビーム!)」

 

自身はあまり攻撃に参加せず、全体の指揮を取っているが、変化技の指示や集団戦の指示などはトレーナー顔負けの様相を呈している。

 これはひとえにユウトとの訓練の成果であった。

 この世界は『ガンガン攻撃して相手を倒せばそれでOK』という価値観が支配しているが、それは何も人間たちの間だけではない。多かれ少なかれ、ポケモンたちにもその風潮は存在しているのだ。尤も、人間ほどで極端ではなく、また麻痺や眠らせる等の変化技も使われるが、それでもユウトやラルトスが使う比率よりは大幅に少ない。

 ここでもその差は現れていて、ゴルバット派閥は全員が闇雲に攻撃を行おうとしているが、タツベイ派閥はラルトス指揮の下、攻撃役とサポート役に分かれての、即席ながらも連携してバトルに臨んでいる。そのため、

 

「(そこ! 一対一の状態にならない! 必ず複数対一の状態にしなさい! なんのためのサポートだと思ってるの! サポート班もしっかりなさい!)」

 

 また、役目を分けることは自分のやるべき仕事を明確にすることにも繋がる。ゴルバットたちは全員が攻撃をしようとして、しかし、その全員が出来るわけではない、つまり、無駄が生まれているのに対し、ラルトスたちは、役割付けからこのような効率的な動きを可能としていた。

 

「(その調子よ! 最後まで気張りなさい!)」

 レベルは確かにタツベイたちの方が低いが、それだけがバトルの絶対的な勝敗に繋がるというわけではないのだ。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「よし、攻撃に移るぞ! タツベイ、ルナトーンにハイドロポンプ! モノズはゴルバットにあくのはどう!」

 

 二人にこわいかおを指示してきたユウトはここで攻勢に出ることに決めた。こわいかおの素早さ二段階下降効果により、ルナトーンはともかく、ゴルバットの、素早さという特徴を完全に殺しきったとの判断からだった。ちなみにユウトはこの二人がハイドロポンプ、あるいはあくのはどうを使えることからさすがは派閥の長を務めているだけはあると感じていたりする。

 ただ、ここでユウトにとって一つ誤算があった。

 

「うぇ!? 弱点なのにほとんど効いてない!?」

 

 タツベイの放ったハイドロポンプがルナトーンにほとんど効果がないということだった。

 

「ルナ、ルナトーン」

 

 ルナトーンは平然としながら、お返しとばかりにタツベイにサイコキネシスによるダメージを食らわせる。

 

「大丈夫か、タツベイ!?」

「タンベ!」

 

 タツベイは首をブルッと振り、「なんでもない!」とばかりに力強く声を上げた(ちなみに、タツベイの言葉が翻訳されて脳内に響かないのはラルトスが一時戦闘のため、その能力を切っているからである)。

 ユウトはモノズの方の何の問題もないと判断した。素早さを限界まで下げたことで、ゴルバットはモノズに技を決められず、逆にモノズの技が決まっていくからだ。このまま押していけば、なんとかなる。

 問題はタツベイの方である。ほぼ水タイプ最強技であるのハイドロポンプの効果が薄いということは他の特殊技も効果が期待出来ないということである。

 

「……待てよ? そういやさっき……」

 

 ユウトはタツベイたちに助けられたときのことを思い出す。

 

(ラルトスはタツベイのことをツンデレって言ってたけど、あれって“てれや”から来ていたからじゃなくて違うところから来ていたんじゃ……たとえば)

 

 そうしてユウトは自身の直感に従ってみた。

 

「タツベイ、今の借りはずつきからのかみつくで返せ!」

「タッタンベ!」

 

 タツベイはグワッと目を見開くと足のバネを精一杯使って大地を蹴る。そのままルナトーンに向かって、ロケットのごとく飛んでいった。

 そしてずつきがルナトーンに直撃する。さらにそこから大口をグワッと開けてかみつくへと移行した。

 

「うわっ、こいつはスゲェ!」

 

 ユウトの驚きの理由、それは、タツベイのずつきとかみつくが固いルナトーンの表面にヒビを入れたからだ。ルナトーンはそれらの強烈な攻撃で目を回してしまっていて、ほぼノックアウトされた状態になってしまっていた。それを確認したタツベイはゆっくりと口を離す。倒れてしまった相手にこれ以上の追撃はしてはいけないと感じたからだ。

 さて、ルナトーンの体表にヒビを入れるなど、通常ならここまではいかない。ユウトは先の勘が正しかったことを確信した。

 

「いいぞ! タツベイ、お前すごいじゃないか!」

「ンベイ! タンベ!」

 

 ユウトの賛辞を手放しで喜ぶタツベイ。

 

「よし! この調子でいくぞ!」

「タッベ!」

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 先ほどまでの、バトルによる喧騒とは打って変わって静かな洞窟内。

 

【負けたよ。完敗だ。ここまで一方的だとケチのつけようがない】

 

 ユウトの脳内にはゴルバットのその言葉が響き渡る。

 彼女の言葉通り、集団戦はタツベイたちの方に軍配が上がった。やはり最初の変化技による一手と集団戦を指揮出来る存在の有無が決め手であった。

 今はお互い怪我を負ったところを新たに木の実を取ってきたり、ラルトスやピッピたちのいやしのはどうで治療して回復している。あのルナトーンも、ラルトスの手によってすっかり元通りに戻っていた。

 

【それにしても人間の指示あるなしでまさかここまで結果が変わろうとは】

【そうだよ。これが人間の力、というより人間とポケモンの融和したときの力だよ。まあ、ここまでのものとは思ってもなかったんだけどね】

「(あ、多分それはユウトだったからよ。でも、人間と一緒に努力していくことはわたしたちポケモンの力を百パーセント、ううん、それ以上引き出すことに繋がると思うわわ。わたしもユウトと鍛練して随分変われたから)」

 

 ゴルバットは和やかにラルトスと談笑している。先程までの険悪な態度とは打って変わってのものだった。見れば、他にも今まで争い合っていたというポケモンたちも同じような光景を繰り広げていた。

 

「ふぅー、雨降って地固まるって感じになったか。何はともあれ、良かった」

 

 二つのグループが抗争を繰り広げていた場合、一番その仲が融和するのは、共通の敵を作り上げ、願わくはそれを撃破することだ。しかし、今回ユウトはそれを用意することは出来なかった。

 そこでユウトは昔の漫画によくある『川原で喧嘩して「お前やるなぁ」「いやいやお前こそやるなぁ」となって互いを認め合い、友情を深め合う』というパターンを画策した。結果は見ての通りである。

 

「人が手を加えるのは良くないとは思うが、これで誰も悲しまなくなるなら、まあいいかな。……ん?」

 

 ふと気がつけばタツベイがそれらの輪に加わらず、ユウトの方を見つめている。しばらくそうしていたら、ついにはトコトコとユウトの元に歩み寄った。

 

【なあ】

「ん? どうした?」

 

 そこでタツベイは一旦言葉を区切る。そして一息入れると、自身の一番言いたい感情をぶつけた。

 

【おれを連れてってくれ】

 

 その言葉にユウトは思わず目を二度瞬きをする。次にタツベイの全身を頭部から胸部、脚部、爪先と見下ろしていき、また脚部、胸部、頭部へと視線を移していった。

 

「いったいどういうことだ?」

 

 ユウトのその言葉に答えを返したのは、タツベイではなく、さっきまでゴルバットやラルトスと談笑していたモノズだった。

 

【簡単な話だよ。彼は元々外の世界に興味を持っていたし、人間にも並々ならない関心を寄せていた。それに今日のバトル、ボクは君の指示に従ってのやつだけど、ワクワクしたんだ。『たのしい』って】

【ああ。だからおれはアンタと一緒にいたい。人間は大きくなったら、いろんなところに旅をするんだろ? おれもそれに付いていっていろんなポケモンとアンタの指示でバトルしたい。だから、おれを連れていってくれ】

 

 モノズの言葉を引き継いだタツベイの真摯な言葉。それはユウトはもちろん、それ以外にも心を動かした。

 

「(いいんじゃないの?)」

【ふむ、そうだな。聞いていれば、いろいろな連中とバトルして強くなるということか。なら今度相見えるときにまたバトルしようぞ】

 

 ラルトスやゴルバット、更には他のポケモンたちまでもユウトとタツベイの周りに集まってくる。皆が皆、タツベイの気持ちを応援したいという思いに溢れていた。

 

 

 

「そっか。ん、じゃあオレと、いやオレたちと一緒に行こうぜ、タツベイ!」

 

 

 

 その言葉と同時にタツベイはユウトの胸に飛び込む。ユウトはそれをガッチリと受け止めた。

 

 

 この日この瞬間、ユウトのベストパートナーの二人目がユウトの仲間になった。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 ――それから幾年か経った流星の滝。

 

 そこに二人組の人間が現れた。

 全身を黒い全身タイツのような格好で身を固めた二人。最も特徴的なのが胸元に印字された赤い『R』の文字。

 彼らは、世界征服を目論む悪の組織、ロケット団に所属する構成員であり、彼らは今日、この流星の滝に生息するというドラゴンポケモンを乱獲に来ていたのだ。

 

「よし、ここだな。強いドラゴンポケモンがいるという話は」

「ああ。いくぞ」

 

 二人は洞窟の入り口を見据える。先程からズバットが何やら大量に出入りしているが、二人はあまりそれに気を取られず、歩を進める。

 そしていざ洞窟内に進入しようとしたときだった。

 

 ダンッ、ダンッ、ダンッ。

 

 一組の足音が二人の耳元に届いてくる。

 二人は洞窟の入り口に向けていた足を止めた。声を立てず、手の振りで互いのやり取りを行う。二人は頷き合うと素早く入り口横の壁面に背を預けて息を殺す。ズバットたちの洞窟の出入りがはさらに多くなった。

 ここに来て、二人はさすがになにかがおかしいと感じ始めた。足音は変わらず、寧ろ大きくなってくる。

 

《撤退するか?》

《そうだな。一度様子を見よう》

 

 手振りで合図をしてそう結論付けた二人が、それを行動に移し始めたとき、それまで飛び交っていたズバットたちが突如二人を中心に半円を描くようにして囲い始めた。全員が全員、二人に牙を見せつけて威嚇している。ズバットたちは二人の上を飛んでいて下はがら空きだったが、この様子では、そこを通り抜けようとしたときに攻撃を受けてしまうことは容易に想像出来た。

 そうこうしているうちに、足音の主が二人の前に現れた。それは青と黒の二色を身体に配し、三つの長い首、二本の尻尾を持つドラゴンポケモン、サザンドラだった。サザンドラの後ろにはピッピにピクシー、クリムガン、ソルロックにルナトーンの集団が続く。

 さらにズバットたちの後ろから数体のゴルバットと一体のクロバットが姿を現す。

 ここに来て、二人は彼らの虎の尾を踏んでしまったのだと自覚した。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 ロケット団二人を撃退した洞窟のポケモンたち。

 

『彼は元気にしているだろうか』

 

 洞窟の外で雲間から見える青空を、ふと見上げるサザンドラ。彼はあのとき、ゴルバットと対峙していたモノズであり、彼はついに最終進化形にまで進化していた。

 

『なに、大丈夫さ』

 

 その傍らを飛ぶは一体のクロバット。彼女も元はゴルバットとしてモノズやタツベイと対峙していた。

 

『それについこの前会ったではないか』

『あれ? あれってそんなに最近だっけ?』

『そうだぞ。まったく、お前ときたら』

 

 やれやれという具合にため息をつくクロバット。それにゴメンゴメンと返すサザンドラ。

 二人の様子からあれから仲睦まじく過ごしていたことが容易に伺えた。 事実彼らは手を取り合い、ときにはライバルとして己を高め合い、ときには協力して、今回のような洞窟の危機を乗り越えるということを繰り返してきた。そこにはユウトやラルトスの助力もあり、その結果が進化という形へと繋がったのだ。

 

『にしても昔のタツベイのときのいじっぱりな性格はずいぶんを成りを潜めたな』

『いやいや、そうでもなかったみたいだよ』

『……お前はアレのことになると、なんだか目敏いというかよく気がつくというか。なんだ、お前はアレのオカンか? それともホの字なのか?』

『どっちも違うよ!』

『フッ、冗談だ』

 

 

 

 彼らの様子を見ればこれからも仲が拗れることなく、そして洞窟も守られていく。

 それだけは間違いのないことだろう。




本当はタツベイとの出会いをメインに書きたかったのに、書いていたら、それが脇に追いやられていました。

ちなみに文体が所々違う箇所がある場合、かなりの長い時間を掛けてしまったからだと思われます(この後編だけで2ヶ月以上掛かりました……)
もし、そのような箇所やおかしな箇所がありましたら、ご指摘願います。

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