「う~ん、ヘラクロスか。ちょっと厳しいな。よし、戻れ、ボスゴドラ! もう一度頼む、ニドクイン!」
そうしてボスゴドラとニドクインを入れ替えた。というのも、
「ヘラクロス、大丈夫か!?」
「ヘ、ヘラクッ!」
ヘラクロスはどくびしで猛毒状態になったからだ。ヘラクロスの特性は『こんじょう』『むしのしらせ』『じしんかじょう』の三つ。『こんじょう』は状態異常になると攻撃が一.五倍になり、『むしのしらせ』は自分のHPが三分の一以下になると、虫タイプの技の威力が一.五倍になるというもの。また、『じしんかじょう』は相手を倒すと攻撃が一段階上がる、いわゆるヘラクロスにとっての隠れ特性に当たるものだが、他の隠れ特性同様、野生では滅多にいないので候補外でいいだろう(特性カプセルを使うことで隠れ特性に変更はできる)。
そうすると、もしあのヘラクロスの特性が『こんじょう』だった場合が問題になる。仮にそうだったとして、何らかの格闘技を使ってきた場合。タイプ一致により一.五倍、特性により一.五倍、さらに鋼・岩タイプのボスゴドラに使用する場合、格闘タイプに対して岩・鋼はそれぞれ弱点となるため二倍二倍で四倍。これらが掛け合わされると合計九倍となり、これがボスゴドラに襲い掛かるのだ。さすがに耐久が自慢のボスゴドラでもそれは耐えられない可能性が高い。
その点ニドクインなら、毒タイプがあるため、虫タイプや格闘タイプの技を半減できる上に耐久もあるという、グライオンに次ぐ、ヘラクロス受けとも言うべきポケモン。サトシのヘラクロスはツノの先端がハート型ではなく、普通のカブトムシのツノみたいな感じなので♂のヘラクロスだとわかる。『とうそうしん』によりニドクインの攻撃技の威力は弱まってしまうが、博打としてそのままボスゴドラで攻めるよりは、堅実にニドクインでダメージを積み重ねていく方がいいだろう。
「ヘラクロス、いけるか!?」
「ヘラクロッ!」
一方、ステルスロックで一定ダメージを受け、おまけに猛毒状態のヘラクロス。猛毒状態は時間が経つほどダメージが増えていくという厄介な毒状態である。交代すればダメージ量の増加は抑えられるが、ねむるなどの技や特性“しぜんかいふく”などがなければ、持ち物を使えないルール上、根本から治す手立ては存在しない。サトシのポケモンがいやしのねがい(使えば瀕死状態になるが、その後、控えから出てくるポケモンの状態異常を回復+HP全回復)やアロマセラピー(味方全員の状態異常回復)などの技を覚えているとは考えられないし、覚えられるポケモンでもない。
とするとサトシは
「くっ、猛毒だとそんなに長い時間はかけられない。この際一気にいってやる!」
という戦法を取る以外はなくなると考えるんじゃないかと思う。
「ヘラクロス、からげんきだ!」
「ヘラクロッ!」
ヘラクロスがからげんきを決めるためにニドクインに急速に接近する。このままからげんきをたたき込むつもりかもしれないが、そうは問屋が卸さない。
「ニドクイン、メロメロ!」
ニドクインに攻撃が刺さる手前で、ニドクインのウインクによって発生したハートがヘラクロスに吸い込まれた。メロメロ成功である。
「ああ! ヘラクロス!」
ヘラクロスは目がハ−ト型になっていてからげんきを放つことが出来なかった。
「いまだ! つばめがえし!」
つばめがえしは飛行タイプなため、ヘラクロスには四倍弱点技として突き刺さる。威力的にはだいもんじと同じだったが、このニドクインは物理アタッカーかつヘラクロスの特防はなかなか高いため、こちらにした。
それがメロメロ状態で無抵抗なヘラクロスを直撃。
「ヘラクロス、こらえる!」
「ヘ、ヘラクロッ!」
ヘラクロスはつばめがえしに当たる直前、身体をやや前傾姿勢に倒して両腕を組む。さらに、片足はピンと伸ばして地面を突っ張り、もう片方を軽く曲げるという姿勢で以ってつばめがえしの勢いを殺し、耐えきった。
「ヘラクロス、今度はこっちの番だ! カウンター!」
まあ、つばめがえしを耐えることは計算済み。だけどそろそろ――
「ヘラ!? ク、ロ……」
「ヘラクロス!?」
ヘラクロスはカウンターを放つことなく、膝をついて、そしてその身体を地面に横たえてしまった。
審判役のシロナさんがヘラクロスに近寄る。そのまま懐からモモンの実を取り出すとそれをヘラクロスに食べさせた。
「ヘラクロスは猛毒のダメージも合わさり、戦闘の続行は不可能と判断しました! よってヘラクロスを戦闘不能と判定します!」
うん。とりあえず毒についてはシロナさんが治療してくれたから大丈夫だろう。あとはポケモンセンターの方でなんとかやってくれるはずだ。ただ、見た感じステロがなかったら、カウンターが決まっていてダウンしたのはニドクインの方だったと思うから、そこはステロの偉大さと、あとはサトシのヘラクロスの強さに感服である。
* * * * * * * *
シロナさんが毒状態を回復させて最低限の処置を施した後に再開されたバトル。
「頼むぞ、カビゴン! 君に決めた!」
「カ~ビ~~」
サトシの三番手として出てきたのは、いねむりポケモンのカビゴン。HPと特防の高さが相まって非常に高い特殊耐久を誇る。また攻撃の高さも相当なものなので、物理攻撃の威力はかなり高い。これらから、防御が硬くかつ物理攻撃が得意な子で攻めていきたいところである。尤も、サトシが覚えさせているのかはわからないが、物理ダメージを二倍にして返すカウンターも覚えられるため、注意は禁物である。また、特性も『あついしぼう(氷・炎タイプの技の威力を半減させる)』、『めんえき(毒状態にならない)』、『くいしんぼう(木の実をいつもより早く食べる)』のどれかで、隠し特性である『くいしんぼう』を考慮に入れなくて済むとなると、あとは『あついしぼう』か『めんえき』のどちらかだが。
「カ、カビィ。カビッ」
「カビゴン、頼むな!」
「カビィ!」
うん、どうやらステロのダメージも入った上に、どくびしで猛毒状態にもなった。ならば、特性は『あついしぼう』の方か。
「サトシ、がんばって!」
「カビゴンか。サトシのカビゴンは相当クセが強いからな。期待できるぞ」
タケシたちのそんな声が耳に届いた。アニメでもたしかにサトシのカビゴンは結構な強さを誇っていたし、ここでもそれは健在か。
「よし。戻ってくれ、ニドクイン!」
先に挙げた条件『防御が硬くかつ物理攻撃が得意な子』ではニドクインには厳しい。ただ、今ならうってつけなやつがいる。
「もう一度頼むよ、ボスゴドラ! キミに決めた!」
このボスゴドラだ。
「またボスゴドラなの?」
「カビゴンは攻撃が高くて物理アタッカーとしての面が強いから、防御の高いボスゴドラには相性がいいわ。逆に特攻はそれほど高くないから、特防の低いボスゴドラでもそこそこ耐えることが出来る。あたしでも同じ判断を下すと思うわ」
うんうん。ここの世界のヒカリちゃんとこっちの世界のヒカリちゃんの会話なんだけど、こっちのヒカリちゃんはいい感じに知識が身についてきているね。
「ふふ、どっちもヒカリなんだけど、ママとしてはなんだかおかしな感じがするわね」
いえ、ママさんの思いは間違ってはいないと思います。確かに両方ヒカリだから少しおかしい気もする。おまけに見た目の判別が髪色以外、つかない。ちなみに青みがかった黒い方がこっちのヒカリちゃんで、かなり青みがかった紺の方がここのヒカリちゃんだ。いわゆる
「さあ! いくぞ、カビゴン! 今までの分、何倍にもしておかえししてやろうぜ! まずは、すてみタックルだ!」
「カ~ビ~!」
ドスドスと地響きを鳴らしながら、迫り来るカビゴン。
「げっ!? なんちゅう速さだよ!」
そのスピードはカビゴンにしては、あり得ないほどの速さである。まるでその体重と大きさも相まって、速度の乗ったトラックが迫ってくるような威圧感を受ける。正直、それは世の中でのカビゴンに対するイメージとはかけ離れた姿だった。
「ボスゴドラ、まもるだ!」
威力がどれほどのものかというのを見るための他には、あまりの迫力に思わずといった感じで指示してしまった。ボスゴドラはそれを受けて、まもる特有の薄緑色をした半球形の壁をボスゴドラを中心に展開させる。
「まもるだろうがなんだろうがかまうな! いけぇ カビゴン!」
「カ~ビ~~!」
ふとサトシをよく知るタケシたちの方を見れば、「サトシとカビゴン押せ押せ!」というムードだったのに対し、シロナさんやヒカリちゃんの方を見ると、「いくら規格外っぽいカビゴンとはいえ、岩・鋼タイプに対してのすてみタックルなのになんで、まもるなんて指示したのか」的な疑問が顔に浮かんでいるように見える。通常ならば、それが普通だ。なにせノーマルタイプは岩・鋼タイプには四分の一までダメージ量が抑えられるのだから。
ただ、結果は――
「えええええ!?」
本来なら、すてみタックルはまもるの薄緑色の壁に阻まれてのダメージはゼロに抑えられるはずだったのが、
「ウソでしょ!?」
ヒカリちゃんの驚きの通り、すてみタックルはまもるの壁を、硝子の破片が粉々に砕かれるかのような音とともに、アッサリと突き破った。そのままカビゴンはボスゴドラに突進する。
そしてさらに――
「はいいいい!?」
これにはオレもビックリだった。なんと、あのすてみタックルは、ボスゴドラに直撃した瞬間、ボスゴドラを吹っ飛ばしたのだ。正直、タイプ一致といえども、まもるのガード(破られたとはいえ)とボスゴドラのバカ高い防御力、その上ダメージは四分の一にまで抑えられる。そこまでこちらに優位な要素がかみ合っても、ボスゴドラが吹っ飛ばされてしまったのだ。
「おいおい! なんだよ、あのカビゴン!? どうなってるわけ!?」
そう叫びたくなってしまっても仕方がない。
「いいぞ、サトシ!」
「いけー! そのままやっちゃえ、カビゴン!」
「がんばって、サトシ君!」
そして、それに併せて非常に盛り上がるサトシ側の応援。
「とどめだ! カビゴン、もう一度すてみタックル!」
さらに追い討ちをかけるべく、サトシは再度すてみタックルを指示。猛毒状態で苦しみながらもドスドスと疾走するカビゴン。
ただ、思った。あれだけのすてみタックルである。オレの狙う効果は十分に望める、と。
「来るぞ! ふんばれ、ボスゴドラ!」
吹っ飛ばされたボスゴドラは体勢を立て直すと、地を力強く踏みつけ、膝を折った。相撲取りが四股を踏んで構えるかのような格好だ。それに「二度と吹っ飛ばされてたまるか!」という気概が、ボスゴドラの背中から溢れ出しているのが見て取れる。そのためか、ボスゴドラの足が地面にやや沈みこんでいた。
「今だ! いけっ、カビゴン!」
「カッッビィィィ!!」
サトシの掛け声でカビゴンが一層強く
「決めろ、ボスゴドラ! メタルバースト!」
「ゴオオアアアア!!」
ボスゴドラもカビゴンに負けぬとばかりに
直後、すてみタックルがボスゴドラを直撃した。
*†*†*†*†*†*†*†*†
「か、カビゴン? カビゴン! しっかりしろ、カビゴン! がんばってくれ、カビゴン!」
サトシはカビゴンに必死に呼びかけている。一方、ユウトさんはそれを見て不敵に佇むだけ。
今ので、さっきまでのカビゴンいけいけムードをユウトさんは木っ端微塵に吹き飛ばした。
「カビゴン、戦闘不能!」
地に倒れ伏すカビゴンに立ち上がる余力はなしと判断したシロナさんが裁決を下した。
「い、今のは――」
「メタルバーストですよ」
ママの言葉に合わせるかのようにユウトさんが言葉を紡いだ。
「メタルバースト。自分が攻撃する前に最後に受けた技のダメージを一.五倍にして相手に返すという技です。あれほどのすてみタックルならば、そのダメージを返せれば、こうなるのも当然です」
そうだ。あのすてみタックルならばボスゴドラといえども、大きなダメージを負うだろう。それをカビゴンに返すとならば、すさまじいまでのダメージ量を誇るだろう。おまけに、カビゴンはステルスロックに猛毒状態のダメージも蓄積していた。
「正直、ねむるで回復していれば、カビゴンの体力の高さなら倒れるまではいかなかったかもしれませんね」
ユウトさんは暗にサトシの指示ミスとそれから見通しの甘さも指摘している。
「っ! 戻れ、カビゴン! ……くっ…………」
サトシはそれに、一瞬熱くなるものの、すぐ治まったみたい。
ただ、あたしは思う。あの人がそう指摘するということは、そこを改善できればきっとさらに高みに登れるのだ。あたしもそうやって今まで来た。それは今も続いている。ユウトさんもサトシにそうなってほしいと思ってのことなんだろう。
*†*†*†*†*†*†*†*†
「次はコイツです! ジュカイン、君に決めた!」
気持ちを切り替えて、サトシが四体目のポケモンを繰り出してきた。草タイプのポケモン、ジュカインだ。たしかサトシのポケモンではリザードンやカビゴンに並ぶエース格だったかな。そしてジュカインもステロのダメージを負い、猛毒状態となった。
「今のメタルバーストには正直かなり驚きました。でも、ボスゴドラも二度のすてみタックルでかなりのダメージを受けたはずです」
「たしかに。それはサトシの言うとおりだ」
「そして倒してしまえばメタルバーストを食らうこともない」
「それもそうだ」
「なら、ここでボスゴドラを退場させる! ジュカイン、リーフブレード!」
あ~、それはどうかな。できれば、サトシにはそこで違う技を選択してほしかった。
「ジュッ!?」
リーフブレードがボスゴドラに炸裂するも、ボスゴドラに大したダメージは与えられなかった。
それも当然。
リーフブレードは物理技。そしてボスゴドラは物理防御に関してはメチャクチャ高いというのはさっき話したが、逆にジュカインの攻撃の高さは平均よりやや高いかといったところ。これではダメージはあまり見込めない。
「ボスゴドラ、がむしゃら」
そして接近したジュカインに対してのボスゴドラのがむしゃらが決まった。がむしゃらは相手の残りHPから自分の残りHPを引いた分のダメージを与えるという一風変わった技だ。
ボスゴドラはカビゴンの二度のすてみタックルにジュカインのリーフブレードのダメージによってかなりHPを減らしている。一方ジュカインはステルスロック以外のダメージは負っていないため、ボスゴドラの残りHPと鑑みると相当のダメージを受けることになる。
「がんばれ、ジュカイン!」
「ジュ!」
するとここでジュカインの身体に赤い光が走った。おそらく特性『しんりょく』の発動だ。『しんりょく』は自分のHPが三分の一以下になると、草タイプの技の威力が一.五倍になるという特性だ。
「ジュカイン、今度はリーフストームだ!」
「ボスゴドラ、ストーンエッジ!」
サトシもオレもこの二体は最後の技の出し合いというのはわかっている。あとはどちらが先に相手の技にヒットするかだけど、
「ジュッ、カインンッ!」
素早さ的には圧倒的にボスゴドラより速いジュカインの方が先に決まる。今までのダメージ+『しんりょく』で威力の高まったリーフストームにより、三百キログラム以上の重量を誇るボスゴドラの巨体は大きな音を立てて地に沈んむことになった。
「ボスゴドラ、戦闘不能!」
とりあえず、オレのポケモンは一体失ったことになる。ジュカインの方は、リーフストームに阻まれてボスゴドラのタイプ一致ストーンエッジの礫は僅かしか到達しなかった。
しかし――
「ジュ、ジュカ……」
ジュカインの方もその場に倒れ伏した。
「これは……」
シロナさんがジュカインの様子を見るべく、ジュカインに近づいた。
「ジュカイン、猛毒のダメージにより、戦闘不能!」
サトシもポケモンを失うこととなった。
ここに来て、ステルスロックとどくびしの影響が俄かに出てきた。
*†*†*†*†*†*†*†*†
「す、すごい……」
「なんてレベルの高い、いえ、計算しつくされた戦いなの……」
「たしかに。まるで詰め将棋を見せられているような感じです」
タケシの言うとおりな気もするけど、実際はサトシがユウトさんの仕掛けた罠というか術中にまんまと嵌まっている感じ。でも最初にニドクインを出したときはきっとこんな戦法ではなかったと思う。
昆布(どくびしやステルスロック、他にもステルスロックと似たような技のまきびしを使った戦法)をするなら、エアームドやドラピオンなどの耐久が高いポケモンを使う方がいいと教わった。ニドクインはそこそこ耐久は高い方で昆布などによってパーティをサポートをすることも出来るけど、あのニドクインの特性は今は『とうそうしん』のはずだ。そうすると、メスキラー的な感じの物理アタッカーで、決してサポートが得意というわけではないハズ。でも、最初のオーダイルへのおだてるによって、ステルスロックやどくびしを撒く時間、というか隙は出来た。
「そうか。きっと混乱している間に戦法を変更したんだ」
あんな、ほんとに僅かな時間で戦略を一から組み立て直したのか。
いや、違う。
『確立されているような戦法はだいたい頭の中に入っているから』
以前、ユウトさんは“ポケモン講座”の中でそんなことを言っていた気がする。そのときあたしとシロナさんは『いったいいつどこでそんなのが確立されたのよ』と思ってしまったこともあるが、それは事実なんだろう。
きっと、あの人はいろんな状況を想定してその膨大な知識から、『コレ』という戦法を選び出した。
『すごい』という言葉で言い表すことなんかできない。
そんな言葉では不敬だとすら思えてしまう。
「まだまだ先は遠いのね」
あたしの夢への道の険しさを思い、あたしは思わずポロっと零してしまったが、
「これでわかったことがある」
ユウトさんの言葉により聞き咎められることはなかった。
*†*†*†*†*†*†*†*†
「サトシ、キミはバトルを行う上で、ポケモンに対する知識がなさすぎるんだ」
カビゴンにしてもジュカインにしても、なんであれ、いきなり突っ込むとかは拙かった。
「メタルバーストにがむしゃら。がむしゃらは予想できなくても、ボスゴドラが出てくればメタルバーストを警戒するのは当然のこと」
この世界はどうだか知らないし、オレたちの世界ではそれはかなり怪しいが、少なくとも現実世界では当たり前のことだった。尤も、それを彼に要求するのは酷なことかもしれないが。
「そしてジュカインの最初に指示をしたリーフブレード。これはボスゴドラの特徴を知っていればまず選択などしない。リーフストームを覚えているなら、迷わずリーフストームを選択するべきだった」
ボスゴドラは防御が高い代わりに特防がかなり低い。等倍特殊攻撃なら下手をすると一撃で持っていかれることもあるほどだ。
さっきならばリーフストームをブチかましていれば、たとえ、ラルトスの張ったひかりのかべの効果で特殊技が半減される状況であろうと、ジュカインはノーダメージでボスゴドラを突破することもできていた。下がった特攻は一旦交換すれば元には戻る上、ゲームとは違って、交換直後にダメージを食らうということはない。リスクはほぼゼロだ(リーフストーム後に特攻が下がることを知っていればだが)。
「リーグで準優勝したことは大変素晴らしいことだし、奇抜な戦法も大いに結構だけど、基本を疎かにする者にこれ以後伸びるモノはない。勝利の栄光もない。できればそれをサトシには知ってほしいんだ」
サトシの持ち味はアニメでも知っていたし、このバトルでも改めて実感したが、その奇抜な発想と戦術である。それはもちろん大事だ。ただ、基本を熟知していれば、その持ち味はさらに活かされる。基本があるからこその
サトシは現実ではなんだかんだ「十何年経ってるのにまだチャンピオンになれない(笑)」なんて言われていたが、やはり天才だ。今回のシンオウリーグでは準優勝だったらしいが、できれば、それらを修めて是非とも優勝してほしい。十何年主人公やってるんだから、オレもやはり彼のことが好きなのだろう。
「戻れ、ジュカイン」
モンスターボールの白いスイッチから放たれた赤いレーザー光線がジュカインを直射して、シロナさんによってモモンの実を食べさせられたジュカインがボールに戻った。サトシはそのボールに伏見がちに視線を落とす。
「ありがとう、ジュカイン。よく頑張ってくれたな。あとはゆっくり休んでてくれ」
やっぱりサトシはどこに行ってもやっぱりサトシで、ポケモンに対する愛情・慈しみは変わらない。
「確かにオレには知識は足りてないかもしれません。コイツらのことも含めてポケモンたちのことをまだまだ知らないと思うし、これから知っていかなきゃいけないと思います」
そこでキッと目線を上げてその強い眼差しをオレに送ってくる。
「だから、これが終わったら、オレに教えてください! そしてもう一度バトルしてほしい! お願いします!」
サトシは腰を九十度近くまで曲げて頭を下げる。正直そこまでされると心苦しくて申し訳ないのだけど、ただ、サトシのすっぱりとした思い切りの良さとポケモンに対する
「それから、オレはこの勝負を諦めるなんてことは絶対にしませんよ! 最後まで全力で戦います!」
最後にそうニヒルな笑みも添えてその言葉も付け加えた。
うん! いいねいいね! この前向きさがいい!
バトルは諦めなければ、最後の最後までわからない。諦めなければ何かいい手段が見つかるかもしれない。
尤もそれは保有する知識量に左右される。
彼に足りていないのはそれのみ。
この一見アニメの中の、されど現実の世界ならばアニメBW版のような『リセット』なんてこともきっと起こらないだろう。
さっきも言ったが、オレはサトシを全力で応援してあげたい。
「ああ! ポケモントレーナーならそうこなくちゃな!」
尤も、このバトルについてはオレが勝ってみせるけどね。
ユウト「ボスゴドラが出てくればメタルバーストを警戒するのは当然のこと」
ヒカリ「えっ、そうなの!?」
シロナ「それが当然とか生まれて初めて聞いたわよ」
どこで切るか苦労しました。