ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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本日2話同時投稿しております。こちらの「その5」からよろしくお願いします。

この話は本編の挿話4と挿話5の間のお話です。またヒカリのときわたりシリーズ後となりますので、ラルトスが話せるということはヒカリやシロナには知られていません(初めて知ったのはギンガ団関連でテンガン山に登るとき)。このシリーズではその点に留意を置いていただきたく存じます。


その5 遭遇! エアロ団!

 オレたちは二台の車に分乗して、ホテルの脇を流れていた川――実は位置関係的には隣だったのだが、川辺に降りていくためには急峻な高低差のある崖に設置されている階段を下りていく必要がある――を、川に沿って遡り、上流を目指していた。因みにこっちにはオレとラルトスとJ、それからサトシとピカチュウが乗っている。他はもう一台の方だ。

 

「リッカダムはこの辺一帯の電気や水を供給しているダムなんですわ」

 

 運転しているのはダムの管理事務所の人だ。中年の厳ついダンディなおじさまである。そして助手席には若いお兄さんが座っている。

 さて、今名前の挙がったリッカダム。これはホテルの脇の川の上流に位置しているダムだ。ちなみにダムの名称の由来は六花(りっか)であり、これは雪の別名なんだそうだ。つくづく、ここは雪に纏わる地であり、地元の人はそれを大切にしているということがうかがえる。

 おっと、話がずれてしまった。なんでオレたちがそこに向かっているかというと、簡潔にいえばオレがそう提案したからだ。まさかという考えが浮かんだのだが、確証は持てなかったため、そのことについては話していない。皆にはイヤな予感がしたと言っただけである。他のシロナさんたちは元より、ジュンサーさんやスズナさんも手詰まり感を覚えていたため、オレたちのダム行きを賛成してくれて事務所に連絡して車を寄こしてもらったのだ。

 

「ただ、ダムを見学したいってことらしいんだけど、あいにくリッカダムは老朽化が随分と進行していてね。悪いんだけど、キャットウォークはもちろん、ダムの上を歩くのもほとんどできないよ」

 

 若いお兄さんがそうすまなそうな様子で謝った。いや、別にそこまでしてくれることはなかったので、少し心苦しく思った。ちなみに、キャットウォークというのはダム下流側の外壁に設けられている巡視路のことだ。

 

「えー、そりゃあ、残念だなぁ」

「ピーピカチュ」

 

 サトシとピカチュウが後ろ頭で手を組んで深くシートに背中を預けてのけ反った。あれか、長い付き合いの相棒は動きがシンクロするんだろうか。てか、若干失礼なんだけど、まだサトシはやっぱり子供なんだということだろう。

 

(でも、私たちだって長さは負けないわよ。でも、女の子と男の子だからその辺は同じすぎると気持ち悪いし)

 

 ラルトスの声が頭の中に響いてきた。内容に関してはオレも賛成だ。

 

(そういえば、その古くなったのってどうやって直すのかしら?)

 

 ああ、たしかに。そいつは謎だ。そういうことで、老朽化したダムをどうやって修繕するのかも聞いてみた。

 

「そうさな。改修の方法はいろいろある。メンテナンスで済ます場合もあれば、上流や下流に新しくダムを造り直して今まで使っていたダムを水力発電に特化させて廃棄したりとかもあるな。下流につくる場合は、元のダムは水没させてそこを溜まった土砂を抑える貯砂ダムにする方法もある。ダムの貯水量も増えるから最近はこっちの方が多いんだ」

 

 ダンディな人はこの仕事に就いてから長いそうで、随分と詳しい。それにしてもダンディさんは声も渋くてカッコいい。で、貯砂ダムという言葉だが、まず前提として、ダムは常に土砂が堆積流入し、貯水量が年々減っていくものなんだそうだ。そして新しく下流にダムをつくった場合、元のダムを土砂流入を防ぐダムとして活用すれば、新しい方に入る土砂をかなり軽減できるということらしい。

 

「へぇ、おもしろいですね。でリッカダムはどうするんですか?」

「ああ、ここは下にすぐカサハナタウンがあるからそれじゃあどうにもならんということで、一旦全部の水を抜いてダム壁の補修をするなんていう大規模な改修をする予定なんだ。だから、今は流す水の量を普段よりも多くしている。さ、あれがリッカダムだよ」

 

 そんな話をしているうちにダムの全景が見えてきた。

 

「おっほー! でっかいなぁ!」

「ピーカ!」

 

 サトシとピカチュウは窓にかじりついて車窓から見えるダムを眺めている。形はなんだか富山県にある黒部ダムそっくりで、なんだか形が弓なりに湾曲しているような気がした。

 

「はは、気のせいなんかじゃないさ。ああいう風に曲げて水圧を分散させないと、壊れてしまうんだよ」

 

 へえ、これまた面白い。

 そうこうしているうちに、車は駐車場に着いた。もう一台の方も既に着いていて、シロナさんたちが外で大きく伸びをしていた。シロナさんたちの方にもここの人間が二人いたはずだが、今はいないようだ。

 管理事務所に寄ると言って若いお兄さんが走っていく姿を見送りながら、オレたちは彼女らと合流した。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

 一方、その頃――

 ここカサハナタウンでは――

 

 

「被害状況を確認して! 早く!」

 

 

 ジュンサーが大声で指示を飛ばす。

 つい今しがただが、立て続けに爆発があったのだ。爆発の規模自体はそれほどでもなく、それに人的被害はなさそうだった。

 しかし――

 

「どう!? つながった!?」

「ダメです! ライブキャスター、ポケギア、ポケナビ、ホロキャスター、どれもつながりません!」

「固定電話もインターネット回線もダメです! 完全に死んでます!」

 

 自分たちの持つ通信機器、及びホテルの固定電話のスピーカーから発せられる音は完全に無音であった。 

 

「ジュンサーさん!」

 

 そこにスズナが走り寄って来た。

 

「今爆発みたいなのが起こりましたけど、なにが起こったんですか!?」

 

 その顔は脅迫状に書いてあったことがついに始まったのかという風に書かれているようであった。

 

「いえ、まだ具体的にはわかりません。ただ、ん!? ちょっと待って!」

 

 するとジュンサーが耳に付けているインカムをより自身の耳にぐりぐり押し付け始めた。その様子はまるでどんな小さなことでも聞き漏らさないという気迫に溢れていた。

 

「どうだったの!? 報告して!」

『――……す……――……し……かん……――……すぎて……――……!』

 

 スズナには音質の悪さと音割れのひどさから、どんな内容なのかがほとんどわからなかった。目の前の彼女のことだから、すぐに教えてくれるだろうとは思うが、それでもそれまでの時間すら惜しいとすら今は思えた。

 

「そう。わかったわ。ありがとう。引き続き状況確認と現場検証よろしく」

『――……かい……!』

 

 ふう、と一つ息を吐くとジュンサーは告げた。

 

「何者かが通信機器と固定電話の基地局を破壊したようです」

「何者かって間違いなくエアロ団ですよね」

「おそらくは。とにかくこれで通信機器は一切使えなくなりました。かろうじて使えるのが我々警察が使用している無線とトランシーバーぐらいです」

 

 ついに予告状で告げられたときが来た。二人はそう確信した。

 

「シロナさんたちを呼び戻すべきです。私が向かいます」

「わかりました。では、キッサキのジュンサーと一緒に行ってもらいます。私はここに残り、指揮を執ります。それでは! 誰か車を出して! これよりジムリーダーのスズナさんがリッカダムに向かいます!」

 

 スズナの進言で彼女らは二手に分かれることになった。

 

 しかし、異常はここだけで発生していたわけではなかった――

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「ぐあああああ!」

 

 施設の中をダンディさんの案内で歩いていたオレたちの元に聞こえてきた男性の叫び声。

 

「なに、今の悲鳴!?」

 

 ヒカリちゃんを始め、サトシたちは一様に不安げな表情を浮かべている。一方オレたちの方はいろいろトラブルに巻き込まれてきたせいか、場慣れしている感がある。……イヤなものだが。

 

「くっそ!? 今の悲鳴どっから聞こえたんだ!?」

 

 明らかな異常事態。何かが起こっている。イヤな予感が頭から離れない。いや、すでに警鐘がガンガンと頭の中に響いている感覚だ。

 まずは何が起こっているのか確かめることが先!

 

「管理室は!? ダムの管理室はどこですか!?」

 

 ダムの制御はおそらくそこですべて行われている。誰かはそこに必ず常駐しているはずだし、さっきのお兄さんもそこに向かったはずだ。ならば、そこに行けばわかることもあるかもしれない。

 

「あ、ああ。こっちだ!」

 

 ダンディさんの先導でオレたちは管理室に向かってひた走る。そうして階段を駆け上がり、管理室のある階の廊下に出た。

 

「あそこだ! あそこが管理して、ってなに!?」

「え!? ウソ!? 人が倒れているの!?」

 

 無造作に開けられたドアからは中の光が薄暗い廊下に向かって零れ出ている。しかし、異常はそれだけではなかった。その光の中には、クラルテ(ヒカリ)ちゃんの言うとおり、人の足が横たわっていて、その部分だけがその光に影の部分を作り出していた。

 

「シロナさん、頼んだ! J!」

「オッケー!」

「了解です!」

 

 扉の前にたどり着いたオレたちは全員でそこに突入した。シロナさんは倒れている人を診て、オレとJが先頭を切って進入した形だ。

 

「な、なんだと!?」

「!?」

 

 そこには何人かの作業服を身に付けた職員が倒れている姿と、

 

「ウソでしょ!?」

 

さっきオレたちの車に乗っていた若いお兄さんとシロナさんたちの方の車に乗っていたお姉さんが佇んでいた。しかし、ただ茫然とそうしていたのではない。彼ら二人の手にはスタンガンらしきものが握られていたのだ。

 

「どうやらお出でなすったようだ」

「そのようですね」

 

 彼らは先程まで滲ませていた優しさなど欠片も見受けられないほどの雰囲気を醸し出していた。

 

「ど、どういうことだ、きさまら!? いったいなにを!?」

 

 オレたちをここまで案内してくれたダンディさん。同僚であり仲間であったはずの彼らがなぜこんなことをしているのかがわからず混乱していた。

 

「あら。そういえば自己紹介、まだでしたわね」

 

 そうして彼らは自分たちの身を包む、ダンディさんも着ている職場着であるジャケットに手を掛けると、それをそのまま放り投げる。上も下もすべて投げられたようで、それらは放物線を描くようにして床に静かに落ちていった。で、彼らが裸になった、ということはなく、代わりに彼らの身を包むのは、全身薄い空色の一色の中に肩や手首の一部にシルバーの色がアクセントとして施された、身体に密着するようなライダースーツのような格好であった。

 

「私たちはエアロ団。以後お見知りおきを」

 

 そうして彼らは執事が礼をするかのごとく、優雅にお辞儀をする。

 そうか。こいつらがエアロ団って奴らか。たしかに頭はとびっきりにイカレている気がする。

 

「な、なんだと!? き、きさまらが、あの!?」

「ああ。プッ、まったく、アンタの滑稽さには相当笑えたぜ」

「ええ。私たち別に、ここに赴任してきた新人などではなくて、ただのスパイなんですもの。それに教育とか。本当に失笑ものでしたよ」

 

 くつくつと笑う彼ら。オレは少しの時間しか接していなかったが、この人のことは少しはわかる。仕事に厳しく、一筋であるが、とても面倒見が良くて真面目な方だ。それをあいつらは……!

 ここに彼らに怒りを覚えない者など誰もいなかった。

 

「おい、あんたたちいったいどうするつもりだ!?」

 

 しまったな。タケシの言葉とこの状況から判断して、オレの予測は半ば以上は当たり、といったところだったか。先入観を与えてそれに凝り固まってしまうのを防ぐために、理由をわざわざでっち上げたんだけど、こんなことなら確定していない単なる憶測だったとしても、みんなに話しておけばよかったと思った。

 

「お前たちがこの下流にあるカサハナタウンを消失させようとしていること、このダムの老朽化、そしてここの職員に入り込んだこと、すべてはつながっている。違うか?」

「あ、あの、ユウト、さん?」

 

 オレの言葉にあの二人以外はキョトンとした様子である。逆に、その二人は面白そうに続きを促した。

 

「まずは先にお前たちの目的を述べておこう。お前たちの目的、それは――」

 

 

 ――ダムを決壊させて、その猛烈な水量の鉄砲水で以って下流のカサハナタウンを押し流し、消滅させること

 

 

「職員として入り込んだことはおそらくこのダムに爆弾を仕掛けるためだ」

 

 職員としてここにいれば、そのチャンスはいくらでもある。

 

「このダムは老朽化が激しいそうだな。普通のダムは水圧に耐えるためにとても強固に造られていて、それを破壊するには多大な量の爆薬と緻密な計算が必要だろう。しかし、ここならそれらをかなり抑えることが出来る」

 

 ダンディさん曰く、このダムは水を抜いてダム壁の修理をすると言っていた。つまり、それだけダム壁が脆くなっているということだ。

 

「ただ、本当はこの計画はもう少し後に実行されるはずだった。しかし、ここで一つ誤算が生じた。それがこのダムの改修計画だ」

 

 先に言っていたが、このダムの修繕計画は『水を抜いてダム壁の修繕を行う』というもの。そのために常よりも川にダムに溜まった水を放流する水量が多くなっている。つまり、一気に流れ出すはずの水量が刻一刻と減っていってしまっているのだ。

 

「これにはあんたたちは焦ったはずだ。計画を前倒しなければならない。しかし、自分たちの脅威となる勢力の力も削いでおきたいので、彼らの犠牲も多くしたい。そこで考えたのが脅迫状だ」

 

 エアロ団は、彼らの言い分はどうあれ、環境テロリストの名で世間では通っている。そんな連中からの脅迫状だ。警察や近隣のジムリーダーたちが動かないわけがない。

 

「おっほー、ブラボー! すばらしい!」

 

 男の方から人をあざ笑うかのような笑みを浮かべながらの賛辞が飛んだ。

 

「やめろ。不快でしかない」

「いやいや、実にすばらしい。ついでに付け加えることが二つある」

 

 まず一つ目、と言いながら男は人差し指を立てる。

 

「今日実行しようと思ったのはチャンピオン、あんたがここに来たからだ。バレる前にやっちまおうと思ったんだが、まさかこんな子供に見破られてしまうとはなぁ」

 

 そして続いて二つ目、と中指が立つ。

 

「この鉄砲水はキッサキシティにも到達する予定なんだ」

「そうですね。ここからキッサキシティまでは山峡の地形が続いています。我々の計算では、間違いなくこの鉄砲水はキッサキシティを浄化してくれることでしょう」

 

 ……本当におぞましい。そんなことになれば町に住む人々やポケモン、そしてその水が流れる経路に住むポケモンたちまでもが犠牲になる。こいつら人の、ポケモンの命をなんだと思っているんだ!

 

 

「なぁるほど。半分は私のせいなわけぇ? いい度胸じゃん。つぅまぁりぃ、テメエらを片づければすべて終わるということだな? あ?」

 

 

 そのとき身も凍るような声が後ろから届いた。カツカツと靴音を立てながら、オレの真横に立ったシロナさんだ。

 

(「ここの職員は無事よ。)(どうやらただ気絶させられただけみたい」)

 

 そう小声で告げてきたシロナさん。オレは一つだけ懸念事項が消えたことに胸を撫で下ろした。

 

「あらら、チャンピオン様ご乱入ですか? ですが、その前にこれをご覧になってくださいな」

 

 ニッコリと笑みを浮かべるエアロ団の女の掲げた手の中にあるもの。それは何かのリモコンのようなもので上部に何かのランプみたいなもの、中央に赤い大きな丸型のものが付いている。

 

「ま、まさか!?」

「は~い、爆破スイッチです。では、ポチッとな」

「ラルトス!!」

 

 ラルトスのサイコキネシスで奪おうとしたが、一瞬早くスイッチは押されてしまった。リモコンだけはラルトスの元にあるが、上部に付いているランプには赤い光が点灯していた。

 

「では最後の仕上げと行きましょう!」

「よし、いくぞ!」

 

 そして男がなにかを地面に叩きつけた。途端、それは強烈な光を発光させた。

 

「ぐあああ!」

「ま、まぶしい!」

「目、目がああ!」

 

 皆がその光に苦しむ中、

 

「では、ごきげんよう」

「アディオス! ついでにこのセレビィももらっていくぜ!」

「ビィィ! ビィ、ビィビイビィイイ!」

 

 そんな彼らの声とセレビィの嫌がる声が後ろから聞こえた。

 

 ……後ろ?

 

 つまり、あいつらはここから出ていったのか。

 

「――逃がすかよ。絶対に逃がしてたまるかよ!」

 

 あんなのを野放しになんてできない。セレビィも取り返す。

 

「ラティオス、ラティアス! キミたちに決めた!」

 

 モンスターボールを投げて二人を呼び出す。

 

「お前たちはそこの窓をたたき割って、空色の変な格好をした連中を見つけ次第捕まえてくれ!」

 

 二人は了解したとばかりに一声鳴くと、硝子が割れる音と共に外に飛び出していったのがわかった。

 

「ガブリアス、あなたも行って! セレビィを助けるのよ!」

「よし! ムクホーク、お前もだ!」

「トゲキッス、お願い!」

 

 それにシロナさん、サトシ、ヒカリちゃんが続いた。

 


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