ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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本日2話同時投稿しております。前話の「その5」からよろしくお願いします。

この話は本編の挿話4と挿話5の間のお話です。またヒカリのときわたりシリーズ後となります。


その6 スノーリゾート事件解決

 閃光弾による目くらましから回復したオレたちはダムの様子を見るために、ダムの上部、堤頂路へと上がった。

 

「おお! よくやったぞ、みんな! ありがとう!」

 

 そこには、伸びて動けなくなっているさっきの二人の姿があった。あちこちに傷などが見受けられたため、彼らには相当痛めつけられたらしい。それに逃げられないようにと、ガブリアスとトゲキッスが彼らを雪の積もっている堤頂路面に抑えつけている。ムクホークはセレビィを保護してくれていた。

 さらに驚くことに、彼ら二人の脱出と退却を支援するためなのか、他にも四人のエアロ団員がいた。ちなみにそう判別がついたのもあの男女二人の格好と同じだったからだ。彼らはラティアスのサイコキネシスで床に縛り付けられている。それをラルトスが引き継いで、ラティアスはラティオスの元に寄る。

 

「(ユウト)」

「ん? どうした、ラルトス?」

「(ラティオスたちがこれどうすればいいかだって)」

 

 そうしてラティオスとラティアスは協働してサイコキネシスでダムの下流側から勢い良く引き上げたもの。

 それは一見すれば、翼端にプロペラ付きの主翼と尾翼のある飛行機に見えるが、プロペラが地面と鉛直方向ではなく水平方向についた状態である。

 

「も、もしかしてこれってヘリコプターなの!?」

「……いえ、分類的には航空機です。しかし、これはティルトローターシステム搭載のやつですので、ヘリとしての特性も備えています」

 

 流石なのか、軍事に明るいらしいJがシロナさんの言に修正を加える。

 ちなみにティルトローターシステムとは、簡単に言えばプロペラが〇度から九〇度まで可変することによって、垂直(短距離)離着陸が出来る手法のことだ。とりあえずなんだかんだ言ったが、非常にわかりやすくいえば、外見的にはオスプ○イである。そしてあまりに恐ろしいことだが、ご丁寧に下部に機関砲が搭載されている。……オメエはどこと戦争する気なんだよ……。

 

「……いやはや。エアロ団はこのようなものまで持っているのですか。あの過激思想に軍事兵器が結びつくとなると、末恐ろしい未来しか想像できませんね」

 

 Jの言うことにオレは諸手を挙げて賛成である。一組織がこんな軍用機なんて持つようでは、かなり大きな組織なのだろうし、なによりもヤバすぎる。

 とりあえず、さっきの爆破スイッチも併せて、これも証拠物件の一つになりそうだったので、ひとまずラティオスたちにはダムの駐車場にそれを運んでもらっておくように頼む。彼らは一声鳴いてからヘリと共に飛び立っていった。

 その間にシロナさんはサトシたちやダンディさんの手も借りて、ダンディさんに用意してくれたロープでエアロ団員たちを縛りあげていく。

 

 そしてそれらを遂行している途中――

 

 

 ドォン! ドォン! ドォン!

 

 

 恐れていた事態が発生してしまう。

 

「しまった!!」

 

 爆弾が作動したのだ。それは、まるで巨人にこのダムを殴りつけられたかのような衝撃で、音に併せてそれらがダム全体を駆け抜けた。

 

「みんな、急いでここを走り抜けるのよ! さあ、早く!!」

 

 シロナさんの合図ですぐさま全員が一斉に岸に向かって走り出した。

 

「ラルトス、頼む!」

「(任せて!)」

 

 オレはラルトスを抱えて走り、ラルトスはサイコキネシスで捕まえたエアロ団員たちを運ぶ。

 その間も爆発音は鳴りやまず、そのたびに走り抜ける衝撃によって皆の足がもつれる。しかし、それでも全員が全員、必死で足を動かして岸を目指して駆け抜けた。

 

「きゃあ!」

「ポチャチャ!?」

「ヒカリ!」

「ピカカ!」

「大丈夫か!」

 

 その衝撃で転倒してしまったヒカリちゃんを助けるべく一度足を止める、サトシやタケシにポッチャマとピカチュウ。

 

「サトシ!」

「おう! そら!」

 

 一刻も早くこの場を離れなければならない。彼らはヒカリちゃんの手を取って勢い良く引っ張ることで無理やりにでも彼女を立たせた。

 

「あ、ありがと、みんな!」

「よし、いこう!」

「ああ、気をつけろよ!」

「ピッカ!」

「ポチャ!」

 

 そのまま彼らは走り抜ける。

 

 ドォン! ドォン! ドォン!

 

 爆発音が鳴り響く。

 

「うわぁっ!」

 

 クラルテ(ヒカリ)ちゃんも同じく衝撃によってバランスを崩しかけて転倒しそうになった。しかし、上手く片手を突いたその反動で体勢を起こして立て直し、転倒を防いだ。

 

「ま、マズイですよ、このままじゃこのダム、決壊どころか下手すりゃ崩壊しちゃいますよ!?」

 

 彼女の言うことも尤もだ。こうしている間にもまだ爆発は続いている。ていうかいったい何発の爆弾を仕掛けてんだよ!

 

「ん……!? ちょっと大変、っきゃああぁっ!?」

 

 オレの隣にシロナさんが走り寄ってきたのだが、突如としてそれまでよりも大きな爆発が起きた。

 それによってついにダムの上部の通路が一気に上下にずれる。

 

「しまった!」

 

 目の前にはとても短時間では登りきるのが無理そうなそり立つ壁。こちら側に取り残されたのはオレ、シロナさん、クラルテ(ヒカリ)ちゃん、Jの四人。他は全員向こう側のようだ。

 

「ユウトさん!!」

「シロナさん! ヒカリ!!」

 

 サトシとヒカリちゃんがオレたちが付いて来ていないことに気がついたようだ。

 

「気にするな! こっちは何とかする! 走りぬけろ!」

「ユウトさんの言うとおりだ! さっ、二人ともいくぞ!」

 

 タケシも加わってくれてサトシたちはまた走り出したようだ。タケシは本当にいい男である。

 

「どうしますか? この高さでは向こう側に行けません」

「それよりちょっと。周りによく耳をすませてみて」

 

 シロナさんがJの言葉を退ける。この状況でそんな悠長なことをしている場合じゃないと思うんだけど、彼女が何の理由もなしにそんなことを言う人ではない。

 

 ――……

 

 ――……パラ……――パリ……

 

 ――……パラパラッ……――パリパリ……ッ!

 

 ――……パラパラパラッ……――パリパリパリッッ!!

 

 なんだ、この、凍っている水面に亀裂が入っていくような音は?

 

「な、なんですか、この音? す、すっごいイヤな予感しかしませんよ……?」

「こっ、これって!? そんな、まさか!?」

 

 ……!? そうか! シロナさんはこれが言いたかったのか!

 

「これはもしや、ダムの外壁が砕け始めているのですか!?」

「おそらくそうなんでしょうね」

 

 そうシロナさんがJに返答している最中にまた新たな音が加わった。まるで火薬が炸裂したときのような音だ

 

「これはたぶん、砕けた外壁の亀裂から水が噴射し始めた音ね」

「ウソ~~!!」

 

 クラルテ(ヒカリ)ちゃんが頭を抱えてパニクッているおかげか、幾分冷静でいられる。でも、打開策なんかまったく思いつかない。

 くっそ! マジでどうすりゃいいんだ!

 

「くっ、このままではエアロ団の計画通りの状況に進んでしまいますよ……!?」

 

 あのいつも冷静沈着だったJですら、焦りの色を浮かべている。

 遠くにカサハナタウンの街並みが見える。そしてここからは見えないがキッサキシティもある。

 でも、このままじゃホントにこの水に全てが押し流されて流失してしまう……っ!

 

「(ユウト!)」

 

 オレたちもダムの崩落に巻き込まれて終わりだ……っ!

 

「(ねえ、ユウト!)」

 

 どうする……っ!

 

「(ユウト! 聞いてってば!)」

 

 そのとき、

 

「フゥオオオウ!」

「フゥウウ!」

「ガブァ!」

「ビィィ!」

「チィーッス!」

 

目の前の壁を飛び越えてオレたちのよく見慣れたやつら現れた。

 

「「「あっ」」」

 

 そのとき、三人の声は一様に重なった。

 

「(もう! だから、私たちのことを頼ってくれればいいのに!)」

 

 そしてオレの脳内にラルトスの愚痴みたいなものが流れた。みんなパニックになっていて完全に抜け落ちていたらしい。ちなみに後から聞いた話では、捕まえたエアロ団員たちはラルトスからトゲキッスとセレビィ、ガブリアスに受け渡して運んでいったんだとか。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「う、うそでしょ!?」

 

 車でリッカダムに向かっていたスズナ、ジュンサーとその部下の運転手は目の前の状況を信じられない面持ちで見ていた。

 

「ダ、ダムが、決壊?」

「そ、そんな!? このままじゃ、カザハナタウンは水没しちまうぞ!?」

「それどころじゃないわ! 下手したらキッサキシティにまであれが押し寄せてくるわ!」

 

 視線の先にあるのは、ダムの中央部から勢いよく水を噴き出している様子である。この状態では水は周りの外壁をどんどん侵食していき、いずれあのダムは大崩壊を起こしてしまう。そうなれば町は水没、そしてその周囲の道路や下手をすればここから一番近くの都市であるキッサキシティにまであの水が押し寄せてしまう。

 即座に身を乗り出して警察無線機を引ったくる。

 

「き、緊急! 緊急よ! こちら緊急通報! リッカダムが決壊! リッカダムが決壊!」

 

 キッサキシティを見守ってきたジュンサーとして、そして何より、一人の警察官として、多くの人命やポケモンたちの命が失われてしまうようなことは絶対に看過できない。

 

「リッカダムが決壊! リッカダムが決壊! 周辺の自治体はただちに避難命令を出してください!! 繰り返します!! リッカダムが決壊!! 周辺の自治体はただちに避難命令を出してください!! お願いよーーー!!」 

 

 彼女の悲鳴のような叫びを無線機に叩きつけるのに呼応して、他の二人も我に返った。

 

「ここは一旦引き返すのよ!」

「わかりました! 目一杯とばします!」

 

 自分たちのやるべきことを思い出す。今はただそれだけだ。それだけで十分だった。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「ひいい!? ついに決壊しちゃいましたよ!!」

 

 おそらく最後というか、ひときわ大きな爆発が起こった後、ついにダムに大穴があいたのか、決壊が起こってしまった。

 たぶんだけど、これでもう爆発は収まったのだと思う。しかし、それはイコールとして後はこのダムが崩壊するのをただ黙って待つだけということになるのである。

 

「このままじゃ町が……!?」

「もう、手遅れなんですか……!?」

 

 シロナさんやJの悲痛な叫びが耳に届いた。

 

 

『「ん? この何にも書かれていないけど、なんかやけに広いのはなんですか?」

 「ああ、これは今は使われていないスキー場です。あとは、一旦廃業したスキー場が買い取られて改装されている途中のものもあったりもしますね」

 「えっ、でもここはスノーリゾートですよ? 観光客もいっぱいいるし、なぜ潰れるんでしょう?」

 「スキー場内で雪崩が多かったり、急に地盤が崩れたりする危ない事故が多かったからですよ。改装工事中のところはそれらの対策を行っているところですね」』

 

 

「えっ?」

 

 唐突にだが、ホテルでのタケシとジュンサーさんのやり取りが思い浮かんだ。

 

 

『「そういえば、この雪どのくらい降ってるんですか?」

 「確かもう一週間降り続いていますね」』

 

 

 次にクラルテ(ヒカリ)ちゃんとジュンサーさんのやり取りもだ。

 

 

『「一旦全部の水を抜いてダム壁の補修をするなんていう大規模な改修をする予定なんだ。だから、今は、流す水の量を普段よりも多くしている』

 

 

 ダム管理事務所のダンディな作業員の人のお話。

 

 

(使われていないスキー場……降り続ける雪……閉鎖しているスキー場……危ない事故……放流する水の量は増えている……ということは普段よりダム湖の水は減っているはず……)

 

 雪はさっきよりは弱くなったが、それでもまだまだ降り続いていた。止む気配は一切見えない。

 

 

「……――そっ、そうか! これだっ!」

 

 

 ハラリと舞い落ちる雪を見ていると突如として頭の中に電気が走り抜けた感覚を覚えた。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「あの四人……大丈夫かな」

「ポチャ……」

 

 彼ら四人はついぞこの岸壁に現れなかった。

 

「なに、大丈夫さ、ヒカリ。ラティオスやガブリアスたちも戻っていったし、彼らに乗って脱出すればきっと無事だ」

 

 タケシがそっとヒカリの肩に手を置いた。いや、ヒカリはタケシの手が強張っているのを肩越しに感じた。

 彼が思い浮かぶはラルトスの手から離れたエアロ団たちを運び終えたガブリアスとセレビィが、ラティ兄妹とともにパートナーのところへ戻っていく力強い姿だった。

 彼らなら大丈夫。タケシはそれを見て自身に強く思い込む、そのためのそれであった。

 

「そうだぜ、ヒカリ。オレたちが信じてやらないで誰が信じてやるんだ? あの人たちは大丈夫。絶対に無事に帰ってくるさ」

 

 サトシもタケシとは反対の肩に手を置く。

 

「ピーカ」

 

 ピカチュウがポッチャマに手を差し出す。

 

「サトシ……タケシ……ありがとう」

「ポチャア」

 

 二人に幾分元気が戻った。

 

 そのときだった。

 

 

「ああ! た、大変だ!!」

 

 

 サトシたちを案内していた男性の叫びを耳にする。

 

「ダムが! ダムが決壊してしまった!!」

 

 ダム中央部からは彼の言うとおり一分間に何億トンともいうべき、いや、それ以上の水量が流れ出し始めた。

 

「ああ!?」

「ポッチャ!?」

「大変だ! それにポケモンたちが!?」

 

 ダムの人造湖に住んでいただろうポケモンたちが激しい水流に乗って流され始めたのだ。

 

「あ、見て! あそこ!」

 

 ヒカリが指し示す先には、あの四人がそれぞれのポケモンに乗って猛スピードで飛んでいく姿があった。

 

「まさか、あの四人、この水を止めるつもりなのか!?」

 

 半信半疑で欄干を掴みながら身を乗り出して叫ぶタケシ。しかし、ポケモンバトルというトレーナー同士のコミュニケーションを通して、サトシは深く彼らを理解していた。

 

「よし! オレたちはオレたちのやるべきことをやろう! ポケモンたちを助けるんだ!」

 

 彼らが絶対に水を止めてくれる。そう確信を持っていた。サトシのそれに当てられ、他の面々もダム管理事務所の人にエアロ団の見張りを頼んで、全員がポケモンたちの救助に向かっていった。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「いそげっ!! とばせっ!! とばすんだっ!! めいいっぱいっ、とばせーーーーーーーっっ!!」

 

 普段のユウト君からは考えられないような荒々しい言動。やはり彼も不安に駆られているのだ。

 

「お願い、ガブリアス! 限界まで飛ばして!!」

「ガブ!? ガブブ!」

「私なら大丈夫! それに、私たちがここでムリでもしないとこの先の町が!! お願い、ガブリアス!!」

「ガブ。ガァァブゥゥゥ!!」

 

 そして私の意も酌んでくれたガブリアスは、さらにその飛翔速度を上げる。

 彼に併せて飛ぶ私たちの顔や全身には、風に舞って降っている雪が叩きつけられているのだけど、それが『叩く』というよりはむしろ『殴る』という言葉が適切なほどに変わった。

 

 

『「協力してくれ、みんな! この水を止めることが出来るかもしれない!」』

 

 

 先程聞かされた彼の考え。

 

「頼む! たぶんもうこれしか方法がないんだ! イチかバチかの危険な賭けなんだけど、乗ってくれ!」

 

 彼自身の慟哭。そして、現状彼が述べた案以上のものは思いつかない。確かに一歩間違えれば命の危険もあった。でも、私たちはそれをベットにして賭けて、彼の案に乗ったのだ。

 

「シロナさん! 行ってきます!!」

「私も!!」

 

 リザードンとボーマンダに乗ったクラルテ(ヒカリ)ちゃんとJが離れてある場所に向かっていく。眼下を見れば、まだあふれ出る鉄砲水は到達しておらず、平穏なまま。ダムの下流なので、河床が著しく低い。

 しかし、後ろを見やれば、昔からの川の流れ、あるいはたび重なるダムの放流によって削られた渓谷を覆い尽くすかのような大蛇のような水が、駆け下りてきている。

 私たちはあの鉄砲水を追い抜いたのだ。これは、水が自然によってつくられた渓谷を流れてきているので、川が、そして渓谷が大きく蛇行している分のロスが私たちに時間をくれたのだ。

 このほんの数秒。しかし、今の私たちにとってはこの数秒には値千金の価値がある!

 

「ユウト君! 私も行ってくるわ!」

「シロナさん!」

「なに不安そうな顔してんのよ! 絶対うまくいくわ! 信じてる! 私たちはあなたの案を信じているの! 自信を持って! じゃあ、またあとでね!!」

 

 そうして私はユウト君から離れて、少し飛行したのちに降り立った。

 その降り立った場所。それは“今は使われていないスキー場”だ。

 

「トゲキッス、ガブリアスにてだすけ! ガブリアス、最大威力でじしん!!」

 

 トゲキッスが手を叩きガブリアスを煽る。それを受けてのガブリアスのじしんが発動した。

 するとスキー場一帯に縦横無尽に走る亀裂と鳴り響く地響き。

 

「ガブリアス! トゲキッス!」

 

 その声で二人は私を掴み上げて上空に飛び立った。そして、そのすぐ後にそれは発生した。いったい何が発生したのかというと、それは――

 

 

 ――雪崩だ

 

 

 亀裂によって生まれた雪のブロックが斜面をずり落ち始める。そして下のブロックずり落ちるとその上のブロックが、そこがずり落ちればまたその上のブロックが。そうした連鎖からほんの僅か経つと、そこには大規模な雪崩が形成されていた。そしてそれは加速度的に速さと質量を増しながら斜面を駆け下りていく。

 

「サーナイト、スターミー、トゲキッス! サイコキネシス!」

 

 さらにサイコキネシスを使って少しでも雪崩のコントロールを試みる。雪崩はうまい具合にそのままそれは川沿いに走る道路を横断して一気に水量溢れる川に一斉に流れ込んだ。

 

「やった! 川の流れが弱まった!! 成功よ!」

 

 彼の考えた策。それはスキー場で強制的に雪崩を起こして水の流れを堰き止めようというものだった。

 このスノーリゾートにはその名の通り、スキー場がたくさんある。

 本来スキー場は雪崩が起きないように、雪を上から押し固めているが、逆にその固められた雪は硬く、それが川に流れ込めば、少しはバリケードの役目も期待できること。

 また、使われていないスキー場や閉鎖しているスキー場などはそうではない上、営業していたスキー場もこの一週間降り続いて尚、現在進行形で降っているこの雪、そして特にこの三日間はすべてのスキー場が閉鎖されていた。このことから、雪が固められていない、またはそれが不十分なために、雪崩が普段よりはずっと起きやすいこと。これらの要素から、ポケモンの力でも雪崩が起こせると考えての案だった。

 そして、ダム湖の水はダムの改修工事の計画によって水量が常のときよりも減っている。つまり、防ぐ水の量は仮に通常時に決壊したときなんかよりもかなり少ないはずなのだ。

 以上から、これは十分に勝てる要素のある賭けだった。

 

 そして結果は今目の前にあるとおり。流れは明らかに変わった。私たちは賭けの勝ちに近づいたのだ。さらに、うまいタイミングでJ、ヒカリちゃん、そしてユウト君の方でも雪崩が発生して同じように大量の雪の塊が川に流入した。

 

「よし! 次っ!」

 

 川の流れはまだ止まらない。しかし、スキー場はまだまだある。私は次に狙いを定めたスキー場に向かった。

 

 

 

 そして、それらを何度か繰り返しているうちに一時的にだけど、魚道のようなところを作った以外、水をほぼ完全に堰きとめることに成功した。

 しかし、このままではこの『雪のダム』は決壊してしまうことは間違いない。

 そこで、最後の仕上げを行う。

 

 

「「「「全力のれいとうビーム!!」」」」

 

 

 その『雪のダム』をガチガチに凍らせて強度を上げるのだ。

 

 結果、これにて『雪のダム』の崩壊を心配する必要はなくなった。

 私たちの命を賭けた賭けは、私たちの勝ちに終わったのだ。

 

 これで、無事に事件解決である。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「いやぁ、それにしても今回は大変だったなぁ」

 

 あたしたちの目的地であるラルースシティ、そこに向かう連絡船の手すりに身を置いてそう零すユウトさん。たしかに今回は、久々に、死ぬかもしれない、という思いを味わった。

 そうそう。あのエアロ団のテロ事件。動機や方法としてはユウトさんが言っていた通り。主犯はあのダムの管理事務所であたしたちと対峙した男女だ。あとで聞いた話だけど、カサハナタウンのすべての通信機器の基地局の爆破もされたらしいけど、それをやったのももちろん彼ら。犠牲を多くするための布石だったようである。引き起こそうとした事が事だけに、今後は捕まえた団員から詳しく事情を問いただし、警察と公安が協力体制を組んで、エアロ団の壊滅に向けて取り組むそうだ。あたしとしては今回のことから一刻も早いそれを望む限りだ。

 それから、あの即席で造った氷のダムだけど、まず、水を抜くスピードを早めるために、テンガン山キッサキシティ側の入り口と216番道路、217番道路を閉鎖。一時的にそこを流れる川の流量を増やして海までの道を通し、水を抜いたようだ。

 総じて犠牲者は一人も出ずに済んで本当に良かった。

 

「やーれやれ、平和な旅を願いたいもんだ……」

「本当にそうね……」

「はい。これほどの危機的状況などもうたくさんです」

 

 三人がシミジミとごちているけど、あたしもそれに激しく同意する。てかそもそもの話、セレビィが変なことしなければこういうことにはならなかったことを忘れている気もする今日この頃。

 晴れ渡る空の下、穏やかな海を船は進んでいく。




ということで、雪のちらつく冬のダムなので絶体絶命都市2……ではなく、コナン映画『沈黙の15分』ネタ(パクリじゃないよ、オマージュだよ)でお送りしてきました。
この映画なんだかんだで叩かれているらしいのですが、私は好きです。

軍事は全然詳しくないので何かありましたらやさしくご指摘お願いします。

そして第二部はこれにて終了。

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