ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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その8 ラルースに訪れる危機

 翌朝。

 セレビィと時の波紋探しをするために、オレはヒカルちゃん、セレビィと共にトオイやサトシたちとは別行動をとっていた。 そしてさらにここに加わる、昨日保護した――

 

「ミュウミュウ」

 

 しんしゅポケモン、ミュウも加わっていた。

 

「ミュウミュウ」

「ビィ、ビィビービィ」

 

 ほんの少しの時間で二人は随分と仲がよくなったようだ。

 ただ、一つ問題があった。それは――

 

「記憶がないとはまったく以って厄介な話だな」

「無い物はもう仕方ないですよ。前向きに考えましょう?」

 

 オレのボヤキに律儀に返してくれるヒカリちゃん。

 そう。このミュウ、なぜあんな怪我を負って倒れていたのか、覚えていないらしい。

 ミュウは幻のポケモンに類するのだから、種族値は並のポケモンより相当高く、何よりデオキシスやミュウツーのような例外を除いて、並のポケモンよりも長く生きていることが多いので、それに見合った実力を持っている。そうそう滅多に他のポケモンに遅れをとることはないのだ。しかし、現実はその滅多に起こらないことが起きてしまっているわけで、相当な厄介事がこの先に起こりそうな気がして仕方ない。

 

「まあ、確かに今考えても仕方ないよなぁ」

 

 想定することが難しく、また仮にそれができたとして、逆にその想定の外の事態が起こった場合、それに対処するためにも心構えだけはしておこう。あとは臨機応変に。

 

 あ、そうそう! セレビィ捜索の名の下にヒカリちゃんのポケモンも全てモンスターボールから出させてある。たしかデオキシスのおかげでモンスターボールの開閉ができなくなっていた覚えがあるからだ。併せてシロナさんやJにも、「ミュウのことも含めて 何か襲撃のようなものがあったら、手持ちの全力で以って応対しましょう」と言った感じのことを言って、そうしてもらっている。ミュウのこともあるし、戦力は多い方がいいしね。

 

「ん~、地図によるとここら辺かな」

 

 今朝方早くにラルースの役所で購入した地形図を見ながら周りを確かめる。ただし、この地図はただの地形図などではなく、およそ四十年ほど前のものだ。

 昨日のシロナさんの結果がダメだったので、なら、闇雲ではなく些かでも当たりを付けてやってみた方がいいハズ。そのやり方として思いついたのがこの方法である。相当古くからそこそこ有名だったのならば、誰かがきっと社や石碑などを立ててたりするのじゃないかと思ったのだ。なら、今の地図にはなくとも、開発が行われるずっと以前の地図にはそれらが載っていてもおかしくはない。

 そういうことで、そういったものを探して今日は歩き回っている。といっても、そんなのは案外少なくて、既に三つあった候補のうちの二つはダメ。

 

「こりゃあ当てが外れたかな」

 

 そう独り言ちていたときだった。

 

 

 ドォン!

 

 

 何か、爆発音のようなものが少し遠くの方で聞こえたのだ。

 

「な、なんだいったい?」

 

 少し開けた場所に出て、音の聞こえてきた方に目を凝らす。なにやら、黒煙と下の方に赤い炎のようなものが見えた。

 

「ミュウゥ……」

「ビィー……」

「なにが起こってるんでしょうね……」

 

 皆の不安もわからなくはない。何が起きたのかわかったときよりも、何が起こっているのか分からないときの方が不安は増すのだ。にしてもわからない。エアロ団が絡んでいる以上、あんまり原作は当てにできない。なんとかして調べに行くしかないか。

 

(おかしい。おかしいわ、ユウト)

 

 ラルトスのなにか訝しむかのような声が脳内に響いた。

 おいおい。今度はなんなんだ……?

 

(どうした、ラルトス?)

(此処って海上の島でしょ?)

(まあそうだな)

(海風が止むなんてありえる?)

 

 ……言われてみれば。

 ここらはこの森を東へ向かえばすぐそこは海。つまり、風を遮りそうなものはこの森の木々だけだが、それだけで全てのそれを遮断することなぞは出来はしない。それに確か映画ではデオキシスのおかげで風が止んで風力発電が止まっていたような。

 つまりは――

 

「これはなにかもう始まっちまったな」

 

 オレたちはいったんここで探索を打ち切り全員と合流することに決めた。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

 ラルースシティ植物園。

 オーロラが輝く晴天の下、バトルタワーにて昨日サトシ君と一緒にバトルをやったというトオイ君が「友達を紹介したい」ということで案内された場所である。入口はIDカードをセキュリティロックにかざすことによって開かれるタイプらしく、さすがはと思うと同時になんだか「電気がなくなったらどうするのかしら?」という得体のしれない不安も抱いた。この町はすべてを電力に頼っているところがあって、昨日もそんな思いから調べてはみたのだけど、『風力発電と太陽光発電、原子力発電によって電力を賄っているため、大丈夫』的なことに行き当たった。三つすべてが止まるようなことは想定外ということかもしれないが、万が一のためにも人力で作動させられる何かを用意しておくべきなのではないかとも思うのは間違いなんだろうか。ちなみに私とJは、念のため朝ユウト君が言っていたように、全てのモンスターボールからポケモンを出した状態のままにしている。

 

「おーい! 出てきてよ、僕の友達!」

 

 あら、話がずれてしまったわね。戻しましょう。そして彼の紹介したいという友達なんだけれど――

 

「き、綺麗だけど、ちょっと変わってるわね」

 

 クラルテ(ヒカリ)ちゃんの言葉がしっくりきそうな――というよりも、奇妙という言葉がしっくりとくるような――そんな友達を紹介された。

 

 さて、ここまでは別に何事もなかったのだけども――

 

 

 ドォン!

 

 

 何か、爆発音のようなものが微かに聞こえたような気がしたのだ。

 

「シロナ」

 

 聞き間違いかと思ったのだけど、Jのその真剣な表情からそれが間違いではないのだと確信が持てた。

 

 そして事態はさらに進行する。

 

 

 ヴィー ヴィー ヴィー

 

 

 耳障りな音の警報システムが作動する。

 

「おいおい、なんだよ、この音?」

 

 サトシ君たちも何かが起こったのだとさすがに気がついたようだ。

 

「トオイさん!」

「は、はい。なんでしょう、Jさん?」

「我々は一刻も早くここから避難するべきです。避難経路とかはわかりますか?」

 

 言い忘れていたけど、トオイ君はこの町の研究所に勤めるロンド博士という方の息子さんらしい。そのおかげでこの町についても詳しいのだ。

 そしてJのそれに促され、ここを離れるべく移動を開始した私たち。

 

「あれ? おかしいな。なんでなんだろう?」

 

 トオイ君がIDカードをかざして、それに端末が反応したのはいいんだけど、さっきは端末がそれで自動で扉が開いたのだ。しかし、今はうんともすんとも動かない。そこで、無理矢理自動扉をこじ開けようということで、皆で協力して外に出るも、

 

「な、なによ、これは!?」

 

 そこには幻のポケモン、デオキシスとその――幻影。しかもその幻影は入口から空を見渡せば、それこそウジャウジャと宙を漂っている。

 

「みんな、戻れ!」

 

 タケシ君の声とほぼ同時に、それら、いえ、幻影の方が私たちに襲い掛かり始めた。

 

「バシャーモ、かえんほうしゃ!」

「ピカチュウ、10万ボルト!」

「バッシャーーー!」

「ピィカチューーー!」

 

 リュウ君のバシャーモのかえんほうしゃにサトシ君のピカチュウの10万ボルトが幻影に直撃し、そうなったそれらは光の粒子のごとく消え去っていく。しかし、右も左も上も、それこそ植物園の天井部に張り付き、私たちを見下ろしてくる大量の幻影たち。

 これでは、どうにもこうにも――!

 

「サトシ!」

「サトシ、避けて!」

 

 ――数が多くて手が足りない!

 タケシ君とヒカリちゃんの声で今の自分の状況が分かったようで、避けようとするも、相手の方が速い。

 

「ライボルト、ほうでん! バクフーンはふんか! 他は援護よ!」

「ラーイ!」

「フーン!」

 

 ほうでん、ふんかによってサトシ君を捕獲しようとしていたものは消滅させた。

 

「ほっ、助かったぁ」

「まだよ油断しないで。今のうちに中に入りなさい!」

「はい! にしてもなんだよ、このデオキシスの群れは!?」

 

 デオキシスの幻影の群れ以外に気にかかることは他にもある。さっきの爆発、あれはこれに関係するにしろ、しないにしろ、嫌な予感は拭いきれない。あまり私たちにとっては良くないことのような予感がして仕方がないのだ。それにユウト君たちの方のことも心配だ。

 でも、こっちもなんとかしないことには、マズイことに変わりはない。

 

「シロナ。少し見てきましたが、外はどうやらあの幻影が数え上げるのを放棄するのが賢明なほど存在しています。この人数での脱出は不可能でしょう」

 

 Jがいつのまにか外を調べ上げてきたようだ。

 たしかに彼女の言うとおりかもしれない。ガラス張りの植物園からでも、数えるのが億劫なほどの幻影体が飛んでいるのが見える。この植物園のガラスにピッタリと張り付いている個体もいて、もうそろそろそのガラスを破って中に侵入をしてきそうな感じも覚える。

 一刻も早くここから立ち去る必要があった。

 

「トオイ君、他にどこか出口はないかしら?」

「たしか下に非常口が」

「なら、みんなをそこに案内して」

「は、はい! わかりました!」

「あの、シロナさんはどうするつもりですか?」

「私たちはみんなの殿(しんがり)よ。少し時間を稼ぐからそのうちに脱出しなさい」

 

 ということで、子供たちを守るのは私たち大人の役割。サトシ君とリュウ君はそれについて食い下がってきたのだけど、

 

「いけません。私たちは大人、あなた方は子供です。危険な役目は大人がするべきです。あなたたちは脱出口に向かってください。ここは私たちが引き受けます。さ、早く!」

 

と、Jに素気無(すげな)く断られていた。でも、それはやはり子供たちに危険なことをしてほしくはないというJの思いからの行動なのだと思う。ほんと、Jって記憶がなければ普通、というかまともな大人だったのね。

 とにかく、そんなセリフで皆がトオイ君の後に付いて駆け出していく中、

 

「……わかりました。――ん? おいサトシ?」

 

リュウ君はそれで先に行く皆を追いかけようとしたけど、サトシ君はまだそこに留まったままだった。

 

「ピカピ」

 

 彼のピカチュウが彼のズボンをクイクイっと引っ張るが動こうとしない。

 

「シロナさん、でも、オレ、シロナさんたちを見捨てることなんて……!」

「ねえ、サトシ君」

 

 私はサトシ君と目線を合わせた。サトシ君と私とではやや身長差があるため、やや私が屈む格好になる。

 

「サトシ君のその気持ちはとても嬉しいわ。でも、Jも言ったとおり、あなたは子供、私は大人。大人は子供を守る義務があるのよ。それに大丈夫。私たちはあのぐらいでやられることはないわ。もし、心配なら脱出した先で待っていてくれるかな。大丈夫。絶対追いつくから」

「シロナさん……わかりました。この先で待ってます!」

 

 そしてようやく納得してくれたか、彼は彼を呼ぶ大勢の声により地下への階段を走り出していった。

 

「良い子ですね」

「そうね。さて、私たちのお仕事よ」

 

 上を見ると、デオキシスの幻影が何体か、植物園のガラスにヒビを入れていた。

 そして、ついにガラスが砕け散る音が幾度も鳴り響く。天井のガラスは粉々に砕け、破片が舞い落ちてきた。そして、元あったガラス部分に出来た大穴から何体ものデオキシスの幻影が侵入し始める。

 

「スターミー、れいとうビームで穴を塞いで! サーナイトはシグナルビームで援護!」

 

 一時的だけど、開いた穴を塞ぎ、時間を稼ぐ。 

 

「ボーマンダ、かえんほうしゃ! ドラピオンとアリアドスはクロスポイズン!」

 

 入口からも相変わらず侵入してきているけど、それはJがどうにかしてくれていた。ただ、さっきガラスを割って侵入したのは、あの子たちが逃げていった先に向かって飛んでいくのが見えてしまった。さっきのセリフ通り、私たちは彼らを守らなければならない。

 

「ガブリアス、トゲキッス! 迎撃なさい!」

「グゥオオ!」

「キーッス!」

 

 自由に空を飛び回れる子たちを向かわせる。かえんほうしゃやエアスラッシュで次々と撃墜していく手前は見事だけど、相手は多数。取りこぼしがどうしても出てしまった。

 

「させないわよ! スターミー、サーナイト! シャドーボールに切り替えなさい!」

「フーゥッ!」

「サーナ!」

 

 それらを狙ったこの子たちの攻撃は狙いを違えず、見事に幻影に着弾。幻影が消滅したのと同時に、無事に彼らは非常口へと続くだろう通路を走り抜けていった。

 

「アリアドス、入り口にクモのすです! 一時でもバリケードを築きなさい! ドラピオンはミサイルばりです!」

「ガブリアスはたつまき! スターミーはなみのりに切り替えなさい! 他のみんなも各自の判断で迎撃よ!」

 

 Jと行動を共にし出してから、こんな感じにピンチに陥ることも間々あった(正確に言うとこの四人が四人ともなんらかのトラブルに巻き込まれてしまった)けど、そのたびになんだかチームワークがよくなってきている。

 私たちはなかなかにいいコンビなのかもしれない。

 

「ボーマンダはあやしいかぜ、アリアドスはミサイルばりに切り替えてください!」

「サーナイトは私たちを守りつつ、でんげきはでライボルトをメインに援護よ! ライボルトはそのままほうでん!」

 

 さて、いい加減この状況をどうするか。

 とりあえず、あの幻影は一撃でも当てられれば消滅するようなので、こちらはとにかく連続、もしくは範囲攻撃で勝負している。ただ、いい具合に消滅させていけているけど――

 

「しかし、やはりと言いますか、キリがありませんね」

 

 Jのつぶやきの先には無数ともいえるほどの幻影の群れ。一匹一匹はラクに倒せるけど、このままだとポケモンたちを含め、こちらの体力も精神力も続かない。

 

「シロナ、提案があります」

「なに?」

 

 指示を下してこちらも動きつつ、かつ、目を細部に配らせながら、Jの提案に耳を傾ける。

 

「もうあの子たちも完全にこの建物からは脱出した頃合いでしょう。で、ここは撤退してもよろしいかと」

「そうね」

「ところで、ラルースシティの動力はすべて電気で賄っています。とするとこの町のすべての電子設備がうまく反応しない今の状況だとおそらく大規模停電のような何らかの不測の事態が起こっているのではないかと思われます」

 

 なるほど、可能性は大いにあり得るわね。仮にそうだったとしたら、非常電源は作動しているだろうけど、それがどの程度までこの町の電力をカバーしているのかはわからない。

 

「とすると、水や食料の調達が著しく困難かもしれません」

「……そっか。仮に停電だったら、少なくとも水の確保は困難ね。それはまずいわ」

「ですので、ここは二手に分かれませんか? 私が食料・水等を探してきます」

「とすると私があの子たちに付いていくと?」

「はい」

「ん。異論はないわ。あ、でも待って」

 

 そう言って私はスターミーの入っていたモンスターボールを投げ渡す。

 

「テレポートを使えるポケモンがいたほうがいいでしょ。アリアドスはサイコキネシスは使えてもテレポートは使えないから」

 

 以前ユクシー(+ラルトス)が言っていたこととして、J自身は昔のポケモンハンターの頃の記憶を取り戻すことは百パーセントないそうなのだ。それに、私たちもいっしょに時渡りならぬ、世界渡りという旅をしてきた中で、彼女がもう一度ポケモンハンターのような非合法なことをするような人間ではないと信頼していた。

 

「感謝します! ではご武運を! いきますよ、みんな! スターミー、あなたもよろしくお願いします!」

「フーゥッ!」

 

 そして彼女は入口から幻影たちを突破して脱出した。

 Jは並はずれた運動神経の持ち主だからどうにかするでしょう。

 あとは私か。

 

「サーナイト! 飛ぶわ! よろしく!」

「サーナ!」

「みんなもついてらっしゃい! ガブリアスとライボルトは殿よ!」

 

 非常口はこの植物園の地下部分にあるらしく、しかし、その階段を駆け降りるより飛び下りた方が速そうだったので、私はサーナイトのサイコキネシスに頼った。ガブリアスとライボルトは、ライボルトのほうでんは全体範囲攻撃なため数相手には有利だけど、味方にも被害が及ぶ可能性もあるのだが、ガブリアスは電気技を無効化するので、この場では一番良い組み合わせだ。

 そうして地下まで降りると、地下で待っていてくれたサトシ君とリュウ君に合流。植物園からの避難は成功したのだった。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「うっそっ? あのポケモンは……」

 

 木陰からやや遠くの方を窺ってみると、黄色い幾何学模様の線が走る緑色の武骨な外皮で覆われた龍のようなポケモンがいた。

 

「おそらくレックウザだ」

 

 レックウザはなにやら雄叫びを上げながら体当たりを敢行しているが、空には不可視の壁のようなものがあって入り込めないようだ。さっきラルトスが風が止んだと言っていたが、海上の島でそんなことが起こるなんてことはこの星が自転をしている限り、あり得ないことだ。とするならば、風が止んだ原因はあの壁が海風を遮っているからだろうし、逆にこの点に関しては映画と同じである。

 とすれば、とうとう始まったわけだ。

 たしか映画では、デオキシスは仲間を探しにこのラルースへやってきた。そしてそれを追うレックウザ。彼らの出会いは何年も前だったハズだが、なぜレックウザが執拗なまでにデオキシスを追いかけ回すのかまでは語られておらず、理由も憶測は立てられても、「コレは」というしっくりしたものは思い浮かばない。

 

「……さて、こっちも急がないとな」

「(そうね。早くみんなと合流しましょ)」

 

 とにかくオレたちは、頭上に飛び交っているデオキシスの幻影を木陰から木陰に身を隠しながら、ラルースシティ中心部の方に向かうしかない。シロナさんたちと合流を果たすためだ。隠れながらなのは、あの幻影、やはりオレたちを連れ去ろうとしたからである。

 

「そういえばなんでアレらはあたしたちを連れ去ろうとするんでしょうかね?」

 

 オレたちの頭上を飛び交うデオキシスの幻影を木漏れ日の中から見上げながら、ヒカリちゃんが言った。

 

 あー、っと。なんだっけか。たしか――

 

「それはデオキシスの誕生の秘密が関係するんじゃないかな」

「誕生の秘密?」

「ああ。デオキシスは、宇宙のウイルスの遺伝子がレーザーを浴びたことによる突然変異を起こしたことによって誕生したポケモンなんだ。もともと宇宙由来の生物だから地球上で誕生した生き物とは根本で違うことがある」

「それって、例えばどんなところがですか?」

「ビィ」

「ミュウ」

 

 話を聞きながらも、常に木漏れ日の中からヒカリちゃんたちが上を窺う。こうしてるのは理由があって――

 

「あっ、ユウトさん! また来ましたよ!」

 

 デオキシスの幻影が上空を飛び回っているのだが、たま~に“はぐれ幻影”ともいうべきか、通常から外れる何体かの幻影がこうして地上付近をうろつき始めるのである。

 

「ゴウカザル、マッハパンチ!」

「エルレイド、かげうちよ!」

 

 そして速攻を目的とする様な攻撃技であっさりと撃破した。

 

「別に鈍色でテカテカ光ってるわけでもないし、経験値もたくさん持ってるわけじゃないぞ」

「なにを言ってるんですか、ユウトさん?」

「(ついでに誰に言ってるのよ?)」

 

 まあなんとなく、言ってみただけだ。気にしないでほしい。

 

「で、話を戻してデオキシスが地球で誕生した生物と根本で違うところだけど、それは電磁波を視認できるという点だ」

 

 電磁波は空間内で電場と磁場の変化によって形成された波である。磁場に関しては地球自体がある種の棒磁石である(方位磁針はこの特性を用いている)ため、地球上はどこでも一定の磁場が存在している。電場については、電気を帯びている周りには電気的な力が働く(それを電場という)のだが、発電施設からは絶えず生み出された電気が送電され、また、動物は身体を動かすのに電気信号を脊椎を通して身体の各所に送信するといった形で使用しているし、身体を動かせば、皮膚と皮膚、服と服とがこすれ合うなどして電気が溜まる(放電する)。つまり電気の流れが起きて電場は変化する。またそれに併せて磁場も変化する。以上から生物はその身体から電磁波を(本当に微弱ながらも)発生させるのだ。

 

「たぶんだけど、なんらかの理由でそれを嫌ったデオキシスがオレたちを隔離しようとしてるってとこじゃないか?」

 

 たしかこんな感じだった気がするな。

 

(随分とまあ具体的よね。ユウトひょっとして最初から知ってたんじゃない?)

(まあまあいいじゃん、別に)

(あーそうですか。言う気はないってわけね。でも、ヒカリの方はみておいた方がいいんじゃない?)

 

 ん? ってうお。なんかヒカリちゃんポーッとしている。

 あんまりボケっとしてられると咄嗟のときに動きが出来なくなるし、それでは困る。ということで、目の前で手をパチンと叩いてきつけを行った。

 

「ほら、ヒカリちゃん。どうやら森を抜けるみたいだぞ」

「え? あっ、ホントですね」

 

 前方を見ると、前後左右に続いていた青々とした木々だけでなく、それらのさらに先に開けたスペースが現れる。

 

「無事に森を抜けられたはいいけど、此処から先は身を隠す場所が極端に減るな」

「みんながどこにいるかもわかりませんしね。あーあ、電子機器全滅ってどういうことなんですかね」

 

 そうなのだ。オレたちはシロナさんとはライブキャスターで互いに連絡が取り合えるはずなのだが、それらはまったく作動しない。

 

「でも、不幸中の幸いだったのは、ポケモンたちが全員外に出ていたことですよね」

 

 ヒカリちゃんはカチカチと自分のモンスターボールの開閉スイッチを押す。しかし、それはただ単にスイッチを押した際に発される音が返ってくるだけで、やはりそれ以外の反応は一切返ってこなかった。この辺のモンスターボールの開閉についても変わりはないようだ。

 

「(ちょっと、だれか来るわよ?)」

 

 ん? だれかってだれだ? あ、あれか島から脱出できなかった遭難者か? 

 

「ビィ? ビィビィッ」

「ミュ、ミュウミュウ!」

「レイ、エルレイッ」

「(隠れた方がよさそうよ。普通の人間じゃないし、なにか悪意を感じる)」

 

 エスパータイプを持つポケモンが騒ぎ出し、とくに人の気持ちを感じ取るラルトスやその進化系のエルレイドが警告してきたのだ。

 

「隠れよう。なにかこいつらはやな感じをしたみたいだ」

「はい! みんなこっちにおいで!」

 

 そうしてオレたちは森の中に戻って身を隠した。ただ、いったいだれが現れるのかは見届けておきたい。オレたちは息を潜めながら、様子を窺った。

 

「――あいつら……っ!?」

 

 それは忘れもしない。久々に死ぬかもしれないと自覚したつい先日の事件を想起させる――

 

「おい、この変だったよな。なんだか妙な輩がうろついていたというのは」

「そのはずだ」

 

 ――あの空色のライダースーツか全身タイツかの区別が若干つきづらい格好の男二人組。

 

「――うそっ、あれってエアロ団、ですよね……っ?」

 

 環境テロリスト集団、エアロ団、その下っ端と思しき連中であった。




スターミーはテレポートを覚えませんが、初代ではテレポートの技マシンで覚えることが出来ました。ですので、特別に使えるということにしています(多分この処置は二度と出てこないでしょう)。「Jに誰か別のポケモンを持たせればいいじゃん」とも思ったのですが、Jに対する信頼を表現したく、このような形にしました(サーナイトは実際にシロナが移動で使っているので不可)。
バトルでもありませんので、その点はご容赦願います。

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