ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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誤字報告大変感謝いたします。

エレキフィールド下でのしぜんのちからの効果を誤っていたので、修正しました。


第6話 ミアレシティ その①

 わたしたちがカロス地方に着いてしばらく。

 

「とうちゃ~く! ミアレシティ!」

 

 フウジョタウンから15番道路、16番道路と通ってきたわたしたちは、カロス地方一の大都会、カロス地方の技術と芸術の中心地、ミアレシティに到着した。

 

「うわぁ、オシャレー!」

 

 ゲートを潜り抜けた先に広がっていた光景は大都会ヒウンとはまた違った一面を見せてくれていた。

 足元に広がるはアスファルト舗装された大地ではなく、石畳が敷き詰められたそれ。心なしか、それに合わせて石造りの建物も散見される。目の前の大通りを歩く人は誰も彼もオシャレというか、スタイリッシュで洗練されている気がする。観光案内にあった通り、流石芸術の町といったところか。そして、大通りの先には小舟の浮かぶ運河。更にその先、恐らくはミアレシティの何処からでも目に付く建物、いやタワーというべきか。

 

「あれがミアレシティ名物のプリズムタワーだな」

 

 あのギンギラギン具合はまさに“the 都会”って感じだ。さりげなさなどは微塵もない。

 

「さて、ミアレシティに来たからにはまずは?」

「ミアレガレットです!!」

 

 ミアレガレットはミアレシティ名物の洋菓子。是非とも一度は食しておかないとね!

 

「うきゅ」

 

 すると目の前にはユウトさんのラルトスの姿。彼女に両頬をその両の手で挟まれた。そのまま彼女にウリウリされる。ちなみに今のこれは痛くないので正直助かる。

 

ばびぼ(なによ)バブボブ(ラルトス)?」

「いや、まずは町に着いたらポケモンセンターの確認だからね。ポケモンたちの旅の疲れを癒してあげるのが先だから」

 

 うっ!? スマン、それはたしかに。正直ゴメンナサイでした。

 

「デーデデ、デデテ!」

「コマ!」

「ラルー!」

「ンキー!」

「モンメーン!」

 

 すると今のわたしの手持ちのポケモンが全員出て来た。皆が皆、何かを訴えているみたいな気がする。

 

「ラルラル」

 

 ユウトさんのラルトスがユウトさんに飛び乗った。

 

「あー、どうやらみんなトウコちゃんの言ったミアレガレットを食べてみたいらしいな。ま、そういうことなら先にそっちに行きますか」

 

 ユウトさんの突然の方針転換にちょっと驚きもしたけど、それ以上にわたしのポケモンたちから更なる歓声が上がった。先導するようにほんの少し先を歩くユウトさんにみんな喜んで付いていく。

 

「これはあれかな。トレーナーの好みがポケモンに伝播したのかな?」

「いいじゃないですか。そういうのってなんだかステキだし、それにみんなで楽しめますよ」

「ちがいない。オレもそういうのはスキだな」

 

 からかい交じりなニュアンスの言葉にそう返したら、ど真ん中ストレートな返しが戻ってきた。

 

「あら、意外にユウトさんってロマンチストなんですか?」

「そうとは思わないけど、でも、ポケモンとトレーナーが一心同体になる感じがして素敵じゃない?」

「それは感じます」

 

 ままそんなやり取りをしていたら、一匹のポケモンがわたしの肩に乗っかってきた。さらにもう一匹が空いていた左肩に漂い始めた。

 

「てか、お願い痛いからタンマタンマ! 食い込んでる、刃が食い込んでるから!」

「ラル!」

 

 するとわたしの悲鳴を聞き付けたラルトスが右肩の子を素早くねんりきで浮かせてくれた。

 

「コマー……」

 

 うっ! そのションボリする様子に罪悪感を覚えるのだけど、でも、痛いものは痛いのよ。

 

「ゴメンね、コマタナ」

「コマー……」

「デーデデデデデデデー!」

「こーら! ロトム!」

 

 落ち込むコマタナを笑っていたような気がするロトムを叱る。

 

「デデ。デデー」

「コマ!」

 

 ロトムがコマタナに謝り、コマタナもそれを了承する。

 どの子も良い子ばかりで本当に助かるわね。

 

 そうそう。この二匹がわたしのポケモンの新メンバーだ。どちらもこのカロス地方でゲットしたポケモンなの!

 

「コッマ」

 

 一匹目ははものポケモンのコマタナ、15番道路でゲットしたポケモンね。

 ちなみにこのコマタナ、ちょっと変わったところがあって、ユウトさん曰く、

 

『これで特性は『まけんき』とかうせやろ? まだ『てつのトゲ』か、デフォでゴツゴツメット所持してるって言った方が信じられるわ』

 

とかで普通のコマタナよりも体中の刃が鋭くなっているらしい。お陰で今みたいに引っ付かれると非常に痛い。

 

「デデデデデデデー」

 

 二匹目がプラズマポケモンのロトム。こちらは15番道路と16番道路の間に跨っているで荒れ果てホテルに寄ってみたときにゲットした。

 

『火曜日でもないのになんでロトムがいるわけ? しかもなんで一つ目のゴミ箱で見つけちゃうわけ?』

 

 てな感じで、ユウトさんが唖然としてたのは記憶に新しい。

 これに伴って、タマゴも含めると持ち歩ける最大数の六匹を超えてしまうのだけど、そこはアララギ博士と事前に話をしていて、博士の研究所に自動転送されるようになっている。

 と、いうことで、七匹目にゲットしたコマタナの代わりに誰を送ろうかとユウトさんたち、それからアララギ博士にも聞いてみたら、

 

『お願い、一生のお願い! ミロカロス、送って!!』

「あんたの一生はそんな何べんもあるんかいな!」

 

ユウトさんとのそんなやり取りを経てミロカロスを研究所に送ったことで、コマタナがパーティに入った状態となったわけである。

 ちなみに博士は世にも珍しいとされるミロカロス、しかも普通では滅多に見ることのない色違いの個体を間近で初めて見たらしく、寝食を忘れてしまうほど研究に没頭してしまっているらしい。

 

『すごいわよ、トウコちゃん!!』

 

 さっき連絡を取ったときなんかは終始こんな感じのハイテンションで、ホロキャスター越しなのに、少々痩せこけ、化粧ですら隠し切れていないほど目元には隈をはっきりと認識出来たほどだった。

 

(手持ちに復帰しちゃったら、居なくなっちゃうからムリしてるんだろうけど)

 

 折角カロス地方に来たんだから、ミアレガレットの他に、シャラシティ名物だというシャラサブレも買って今度労いにでも行こうかなと思いつつ、わたしたちはミアレガレットのお店に向けて足を向けた。

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 さて、ミアレシティに着いたオレたち。トウコちゃんたちの要望に従ってまずはミアレガレットを食した後、ポケモンセンターに寄って、「さあ、次はどうする?」と聞いたところ、返ってきた答えは

 

「では、ジム戦をやりたいですね」

 

ということだったので、なら折角ならと挑戦させてみることにした。

 

「本来ならトウコちゃんはまだこのジムに挑戦する資格を有してない。だから、断られることも考慮に入れてね」

 

 と、前置きをしてミアレジムの傾向と二、三注意すべき電気技を教える。ポケモンの入れ替えも含めた対策等を練っているだろう間にホロキャスターを起動、彼の主に連絡を入れた。

 

「よっす、シトロン。あ、ユリーカちゃんも」

『おや、ユウトさんではないですか!』

『ユウトお兄ちゃん! 久しぶりだね!』

 

 ホロキャスターのホログラムには二人の兄妹、丸メガネとツナギが特徴のシトロンにノメルの実をモチーフにした髪留めの似合うユリーカちゃんの姿が映った。

 

「二人共久しぶり。元気そうだね」

『ええ』

『うん。元気だったよー』

 

 ユリーカちゃんなんかはピョンピョン跳ねて自分の元気さをアピールしてくれている。本当にかわいい子だな。

 

「実は今ミアレシティに来ててさ」

『おお! そうなんですか! なら、是非ジムに寄っていってください!』

「うん、そうするよ。で、そのときなんだけど、今超有望株な新人の子と旅をしててさ、そのトレーナーにジム戦を受けさせたいんだけど、ダメかな?」

『ふーむ、バッジの数はいくつですか?』

「カロスのバッジは一つもないね。他の地方のは一つあるけど」

『う~ん』

「シトロンが設けてるバッジ四つ以上って基準には全然足りてないけど、今回はそこを曲げてなんとかならないかな。今回カロスに来たのは偶然だし、それにたぶんこの子ならシトロンの期待以上のことをしてくれるから」

『ユウトさんにそこまで言わせる新人トレーナーさんですか。……わかりました。ではこちらも条件を課す代わりに特別に許可しましょう』

 

 よし。これで何とかなったか。

 提示された条件を了承して、「じゃあまた」とホロキャスターが切ると、シトロンが提示した条件とトウコちゃんに伝えるべきことを改めて確認する。

 

「(少しトウコに助言してあげてもいいんじゃないかしら)」

「ん~、大丈夫そうだけど、一応は新人さんなんだしそうしておくか。シトロンの条件も言っておかなきゃだし」

 

 ということで、オレはポケモンセンターの通信機器でアララギ博士とやり取りをしているトウコちゃんの元に向かった。

 

 

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 

 

「では、これよりミアレシティジム戦を始める! 審判はこの私、バシャーモ仮面が務めるぞ! ハハハ、両者ともに正々堂々頑張りたまえよ!」

 

 そんなこんなでプリズムタワーのミアレジム内。挑戦者は言わずもがな、トウコちゃん。対するはミアレシティジムリーダーのシトロンと、なんとその妹のユリーカちゃんだ。

 これはシトロンの提示した条件が、ユリーカちゃんとシトロンを相手にしたマルチダブルバトルを受けるということだったため。なんでも、そろそろ妹のユリーカちゃんに公式戦の体験をさせたいとのことだったらしい。元々無理を承知で頼んでいるのはこちらだったので、その条件で了承して、この特別ジム戦をやるということに相成ったわけである。

 ついでに審判はメガバシャーモの仮装をしたバシャーモ仮面ならぬ、ミアレシティで電気屋を営んでいるあの兄妹の父、リモーネさんだ。

 

「シトロン、ユリーカちゃん」

「たはははは……」

「んもう、パパ恥ずかしい……」

 

 二人に声を掛けると二人とも顔を真っ赤にして視線を逸らす。前に聞いてみたところ、以前ハロウィンであの仮装をしてから本人がアレが大好きになりすぎて言っても聞いてくれないんだとか。近頃はご当地ヒーロー的なこともやっているらしい。……あれ? これってオレのせいなんだろうか……?

 

「リモーネさん」

「わははは! ユウト君、私はリモーネなどという電気オヤジではない! 愛と正義とミアレシティの平和を愛するバシャーモ仮面、だっ! はっはー! ではルールの確認といこう!」

 

 とりあえずオレの言は軽く流されてルール説明。

 試合形式はマルチダブルバトルで、シトロンたちの手持ちは一匹、トウコちゃんの方が二匹。あとは道具使用なし、持ち物ありの至って普通のルールだ。……余談だけど、このルールを『至って普通』といえるまで随分と掛かった気もする……。

 

「よーし! では両者、モンスターボールをフィールドに投げ入れてバトル開始だ!」

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

『エレザード  はつでんポケモン

 エリマキを広げて発電する。エレザード1匹で高層ビルで必要な電気をすべて賄える。

 電気で筋肉を刺激すると100メートルを5秒で走る脚力にパワーアップする。』

『デデンネ  アンテナポケモン

 尻尾で発電所や民家のコンセントから電気を吸い取り、(ひげ)から電撃を撃ち出す。

 また(ひげ)には、電波を送受信して遠くの仲間と連絡を取り合う、アンテナとしての役割もある。』

 

 図鑑を向けてみたところ、シトロンさんがエレザード、ユリーカちゃんがデデンネってポケモンを出してきた。図鑑説明にはどっちも電気に関することが書かれているし、ここは電気タイプのジム。ならば電気タイプは確定として、次にあの二匹のポケモンが複合タイプなのかどうかだけど――

 

「んなのぶっちゃけわかんないわよ」

 

 生まれて初めて見たんだもの。んなのわかるわけない。ついでに特性も知らん。全くの完全な初見で百発百中でタイプも特性も当てられる人がいるなら連れてきてほしいわ。

 

「デデンネ、モンメンに向かってほっぺすりすりよ!」

「エレザード、エレキフィールド!」

 

 さて、バトル開始! 先手は相手方だった。

 エレザードが上空に電撃を撃ち上げたけど、すぐにそれが地面のフィールドに落下してきて着弾。そこからフィールドを電気が駆け巡ってフィールド全体が黄色く発光し始めた。そしてデデンネがほっぺすりすりのために四足走行でモンメンに駆け寄ってくる。

 

「モンメン、しんぴのまもり! コマタナはモンメンの前に出張っててっぺき!」

 

 エレキフィールドは電気タイプの技の威力を上げて眠りを無効にする効果があるし、ほっぺすりすりは必ず相手を麻痺させる攻撃技。どちらもシトロンさんが相手なら注意すべき技ということだった。それに電気タイプは相手を麻痺にさせる手段に長けているということもユウトさんが言っていたので、麻痺やついでに混乱を防ぐしんぴのまもりは絶対に必要だと思っていた。ヒウンジム戦の後に状態異常対策としてユウトさんの技マシンを借りて必死に覚えたのが早速役に立つときね。

 

「うっそ! あたしたちの方が早かったのに!」

「となるとあのモンメンの特性は『いたずらごころ』ですか! 聞いていた通り中々やりますね!」

 

 モンメンの特性『いたずらごころ』。この特性持ちということでユウトさんからはかなりのレクチャーを受けたと思っている。変化技を悪タイプ以外に対してノータイムで即行撃てるモンメンはサポートにはもってこいだ。

 そしていきなりしんぴのまもりがモンメンとコマタナに張られ、さらにコマタナがてっぺきを使い終えたところでデデンネのほっぺすりすりがモンメンをかばったコマタナに命中した。

 

「コッマ!」

 

 しんぴのまもりが効いているので、麻痺はしない。さらにほっぺすりすりは接触攻撃。エレキフィールドで威力にブーストが掛かっていようと、てっぺきによって防御の上がったコマタナにはそれほどのダメージではない。

 

「デデネー!?」

 

 どちらかといえばダメージを負ったのは攻撃を受けたコマタナではなく、攻撃を仕掛けたデデンネの方だ。

 考えてみてほしい。コマタナははものポケモンの名の通り、全身が刃物だ。これはポケモン図鑑にもはっきり記載してある(というより、『獲物にしがみついて、刃を食い込ませて痛めつける』とか結構エゲツナイことが書かれていたりする)。そしてわたしのコマタナは他のコマタナよりもその刃が鋭い。そして、てっぺきという技は全身を固くして防御を上げる技。

 つまり、これらを組み合わせると全身の鋭い刃物が硬さを増して、結果その刃物が接触してきた相手に対して傷をつけるダメージソースとなるわけなのだ。

 

「なるほど。つまりはそういうことですか。たしかにこれはユウトさんの言ってた通りの大型新人だ。というよりももはや怪物ですね」

「褒め言葉として受け取っておきますよ! コマタナ、デデンネを仕留めるわ! ひっかくからのダメおし!」

「デデンネ、頑張って! でんきショックだよ!」

「エレザード、デデンネを援護です! 10まんボルト!」

「モンメン、エレザードに妨害! 連続でしぜんのちからよ!」

 

 それぞれがそれぞれのポケモンに懸命に指示を送っていく。だけど、その中で一番最初に動き出したのが、わたしのモンメンだ。なぜならしぜんのちからは攻撃技ではなく変化技なので、『いたずらごころ』の効果が乗る。なので、あっという間にしぜんのちからによって発生した10まんボルトがエレザードに向かっていった。一発目がエレザードに着弾。これにより、エレザードの行動が阻害されて、若干10まんボルトの出が遅くなる。

 そして次に動き出したのがコマタナ。デデンネの方はコマタナの刃が思ったよりも効いているらしく、さっきのほっぺすりすりのための疾走よりも動きに精彩を欠いていたように思う。コマタナのひっかく攻撃で一回デデンネを斬り付け、そして反対の手で掌底を突き出すかのような動作で威力が倍になったダメおしを決めてデデンネをふっ飛ばす。さらにコマタナがうまいことをやってくれたようで、モンメンの二発目のしぜんのちから(10まんボルト)によって弱められたエレザードの10まんボルトにデデンネが激突した。

 

「デデンネ、戦闘不能!」

 

 最後は自滅っぽいし、たぶん10まんボルトが当たってなくてもダウンだったと気もするから死体蹴りっぽい感になったんだけど、これでデデンネはダウン。

 

「さあ、次! コマタナ、あなたの新しい技で勝負を決めるわよ!」

 

 あと一匹。全力で行きまっしょい!

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「すごいすごいよ、トウコお姉ちゃん!」

「いやあ、ユリーカの言う通りです。見事としか言い様がありません」

「熱くなるスゲー戦いだったぞ! はっはっは!」

 

 マルチダブルバトルのミアレジム特別ジム戦。

 デデンネが倒れた後、回復も込みでエレザードが範囲攻撃技のパラボラチャージを撃ってきたが、コマタナの、トウコちゃんが言っていた新技、メタルバーストでダメージを一.五倍に増幅して反射させ、さらにモンメンのようせいのかぜとさらに間髪入れずに放たれたしぜんのちから(10まんボルト)でエレザードを倒して、トウコちゃんに軍配が上がったのだ。

 

「(あの子、だんだん反射技の使い方が上手くなってきたわね)」

「やっぱりミロカロスの影響が大きいんだろうな」

 

 道中のトレーナー戦も含めて、今まで事あるごとにミラーコート使ってたからな。

 そして、そんなこんなな間に三人が握手を交わす。

 その後シトロンはバシャーモ仮面(リモーネさん)からバッジとバッジケースを受け取った。

 

「さて、ジムリーダーの僕に勝って、なおかつあんなバトルを見せてくれたキミにはこのバッジを渡さなければなりませんね」

 

 そうしてシトロンからミアレシティジムリーダーが認めた証、ボルテージバッジとカロス用のバッジケースを授与されたトウコちゃん。

 

「みなさん、ありがとうございます!!」

 

 彼女にとっては二個目のバッジだが、自分の力で勝ち取った初めてのバッジなので、言動の端々に嬉しさが滲み出ている。

 

「あ、トウコお姉ちゃん」

「ん? 何かな、ユリーカちゃん?」

 

 ユリーカちゃんに呼ばれたトウコちゃんは、ユリーカちゃんの目線に合わせるように膝を屈めた。

 

「トウコお姉ちゃんキープなの!」

「えっ?」

 

 ……あぁ~……。

 

「シルブプレ~。お兄ちゃんのお嫁さんになってくーださい!」

 

 そうしてユリーカちゃんは片膝をつき、何処から取り出したのか、薔薇の花束をトウコちゃんに向かって掲げる。

 

「ユ、ユリーカ! は、恥ずかしいことしないの!!」

 

 シトロンは顔を赤く染めながら、背中に背負うメカからエイパムアームを伸ばしてユリーカちゃんを摘み上げる。

 

「えぇ、だってあんなに美人さんだしかわいいし、それにバトルも強いんだよ? お兄ちゃんのお嫁さんにピッタリじゃない?」

「小さな親切、大きなお世話! 余計なことしないの!」

「はっはー! あんな娘だったら、オレは大歓迎じゃのー!」

 

 摘み上げる兄と摘み上げられる妹との口論とそれに便乗するバシャーモ仮面(リモーネさん)。父親が絡むパターンは初めて見たけど、兄妹のやり取りの方はこの二人が揃えばしょっちゅう見かける、この兄妹を象徴したもはや鉄板のお約束だ。

 

「えぇー……」

 

 しかし、そんなことは全く知らない、花束を貰っていったいどうすればいいのかわからずに困惑するトウコちゃん。

 

「……あの癖まだ治ってなかったんだ」

「(ていうか昔は美人だったら矢鱈滅多らそこいら中に粉掛け捲ってたんだからだいぶマシになったんじゃない?)」

「いや、美人だけじゃなくてステータスも気にしてたから、余計に強かになったんじゃないか?」

 

 そんなことをラルトスと言い合いつつ、しばらくぶりにそんな様子を見たので、もう少し見守ろうと思ったオレたちだった。

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 ――このあとちょっと寄りたいところがあるんだけど、シトロンたちも一緒にどう?

 

 ジム戦が終わってなんだかんだの後、ユウトさんがそんなことを言ってきてくれたので、ボクはユリーカと一緒に同伴することにしました。

 

「このシャラサブレもおいしいわね!」

「でしょ! 本当はシャラシティ名物なんだけど、このミアレでも最近買えるようになったんだよ!」

 

 ユリーカが今日ジムに挑戦しに来たトレーナー、トウコさんとシャラサブレを食べながら楽しそうにしている。ウチには(ボク)は居ても姉は居ないからか、ユリーカにとってみればお姉ちゃんみたいな存在なんでしょうかね。

 

「それにしても」

 

 ボクは改めて彼女を見やって、すると思い起こされるは先程のバトルのことです。聞けば彼女は初めてのポケモンをもらってまだ一月も経っていないのだそうです。ポケモンの勉強はチョコチョコっとしていたそうですが、本格的にやり始めたのはユウトさんと一緒に旅をするようになってからだそうですね。

 基本そうした新人の子たちは特にダブルバトルでの指示はなかなか覚束ないですし、連係プレーなんてのは以ての外、まだまだ出来るわけがないという部類に値するはずなのです。

 

(しかし、彼女の場合は違う。違い過ぎる)

 

 彼女は個々のポケモンの特性と技、そして連係プレー、果ては自分のポケモンにしかない特徴を存分に生かし切ってバトルに勝利しました。これは正直、いくらユウトさんの師事があったとはいえ、凄まじいことだと思います。

 

「才能、いえ、もはやポケモンバトルの申し子、とでもいうべきなのでしょうか」

 

 そんな彼女に出会えたこと、そしてバトル出来たこと。

 

「シトロン、ちょっと!」

 

 それらについて、ボクは肩を組んできたやや年上のこの兄的な人に感謝は奉げたいですね。

 

「どうかしました?」

「これからミアレのIDクジを引きに行くわけじゃん?」

「まあ今から行くエテアベニューにはそれっぽいのしかありませんからね」

「ああ。でさ、トウコちゃんなんだけど実はすんごく運がいいわけよ。いってみれば超ラッキーガールだな」

 

 そうしてこれまでのことで彼女の逸話を語ってくれているユウトさんですが、うん、確かになんというか豪運の持ち主という気がしますね。連続すごいポロック記録もそうですが、色違い一発遭遇とかなかなかないですよ。ボクはまだ色違い個体なんか出会ったことすらありませんし。

 

「つまり、何が言いたいかっていえば彼女にクジを引いてもらえればクジ引きの一等商品がもらえる可能性が高いわけよ!」

 

 なるほど。それで彼女に。

 でも、ユウトさん、一つ問題がありますよ?

 

「あのIDクジって一人一日一回しか引けませんよ?」

「……あっ! しまった、そうだった!」

 

 ……稀にこういうところを見てると、この人本当に“全国チャンピオン”なのかと疑ってしまいたくもなりますね。そして彼のラルトスも同じ気持ちだったのか、トレーナーと同じくムンクの叫びのようなポーズをとって硬直してしまっていました。

 

「いや、大丈夫だ! トウコ大明神様がお傍にいらっしゃるんだ! 大明神様に肖ればあるいは!」

「ラル! ラルラルラ!」

 

 そして復活したかと思えば彼女に対して手のひらを擦り合わせて拝み倒す二人。

 

「ま、まあ気負わずに頑張りましょうよ。」

 

 とりあえずボクもちょっと肖りたいなぁと内心でトウコさんに拝みつつ、見れば、目指すIDくじセンターの看板が見えてきたところでした。

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

【余談】

 

ユリーカ「あ、クジの結果? あたしがふしぎなアメで、お兄ちゃんがモーモーミルクで、トウコお姉ちゃんが一等の珍しいボールと木の実詰め合わせセットだったんだよ! すごいよね!! あ、ちなみにユウトお兄ちゃんがいいきずぐすりだったんだって」

 

 邪なことを考える者にはそれ相応のものしか得られません。

 




ユリーカの名前の由来は「レモン(檸檬)」の品種の一つ「ユリーカ(ユーレカ)レモン」なのだそうで、彼女の髪留めの形をレモンをモデルにしているだろうノメルの実をチョイスしてみました。

コマタナがメタルバーストを使っていますが、進化形のキリキザンが覚えますので、覚える素養はあるかなと思い、このようにしています(プラチナ編 挿話10でも同じ設定が登場します)。

ちなみに珍しいボールと木の実詰め合わせセットの中身は特殊ボール・各ガンテツボール5個セットとチイラ・リュガ・カムラ・ヤタピ・ズア・サン・スター・ナゾ・ミクル・イバン・ジャポ・レンブ・アッキ・タラプの各2個ずつのセットです。

そして申し訳ありません。
外伝の特別編の方は3話分だけ完成していますが、ここでストックが切れました。

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