ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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挿話3 ポケモンバトルの意味 ヒカリ シロナ

 はてさて、谷間の発電所でギンガ団を撃退して、ハクタイの支部もハンサムさんやシロナさんたちが潰して、ようやく旅に戻ろうかといったところで、

 

「ユウトさん、あたし、力が欲しいんです! バトルに勝つための、ユウトさんにも劣らないような力が!」

 

 そんなことを言われました。

 ……あー……どこをどう間違えてしまったのか。ひょっとして、ギンガ団とのやり取りはまだ早過ぎたのか?

 

 んー、まあいい。

 ヒカリちゃんの言う『勝つこと』自体、オレは別に悪いともなんとも思ってはいない。

 ただ、オレが考えるに、ポケモンバトルとは、自分の、そしてポケモンたちの力を出し切った上で、かつ、そのことを全力で楽しみ、そして結果、バトルの勝敗が転がり込んでくるものであるとオレは考えている。

 このことを強制したくはないけど、できればヒカリちゃんには少なくとも『勝つためだけのポケモンバトル』はしてほしくない。

 そうなれば、きっと本人もそしてポケモンたちも辛くて苦しいだけだ。しかも、それがヒカリちゃんの歩む道の先にずーっと続いていくことになる。いわば、ゴールのないマラソンを走っているようなものだ。

 

「うーん、どうすっかなー」

 

 ソノオタウンのポケモンセンターの宿泊所ベッドでそのことを考えていると、

 

「(なら、ユウト)」

 

二段式の木製の木枠でできたベッド、その縁に腰掛けていたラルトスがそこから飛び下りた。

 

「(あなたに出来ないのであれば出来る人に任せるのが賢明よ)」

「出来る人? それって一体誰だ?」

「(あら、あなたは最近うってつけの人物と知り合っているじゃない。しかも、その人はヒカリからしてみれば年上の女性で、かつヒカリも良く知っている)」

「――おお! なるほど! その手があったか!」

 

 それからオレはすぐに連絡を取り、お願いすることにした。

 

 

「(さて、ひとまずこれで経過を見ましょう。その間に)」

 

 ライブキャスターの通信が終わったところで、ラルトスがなぜかサイコキネシスをやりだした。

 対象は――

 

「いだっ! ちょ!? オレ!?」

 

 サイコキネシスにより身体がだんだんと捻じれ始める。

 

「あだだだっ! ちょっ、なぜだ!? 理不尽だ!? オレがいったい何をしたっていうんだ!?」

「(あんたが女の子の私物をわたしに抜き取らせたからよ! あの発電所のカードキーはヒカリが持っていたものでしょうが! それを必要だからって勝手に持ち出させて!)」

「だ、だけど! やったのはオレじゃなくてお前だろ!」

「(そういうことをトレーナーがポケモンに命令することがおかしいのよ!! しばらくその状態で反省しなさい!!)」

 

 その日、オレは一歩もベッドの上から動くことが出来なかった。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

「……わからない。……わからないよ……」

 

 昨日、あたしはフタバタウンに飛ばされて、そのまま自分の家に戻った。

 お母さんはただいまの一言しか漏らさないあたしを、何があったのかも聞かずに、ただ

 

「おかえりなさい、ヒカリ」

 

その一言で以って迎え入れてくれた。

 あたしはそんなお母さんの優しさに甘えた。ものすごく、その気遣いが心地よくて温かったからだ。

 そのままあたしは自分の部屋に上がり、ベッドの中に身体を投げ出す。ポスッという音と共に身体全体押し返される感覚を感じた。そしていまビーダルの枕の感触が顔を撫でている。

 

「ポチャ……」

「カゲ……」

「ムクバー……」

 

 みんなも心配して、モンスターボールの中から出てきてくれているが、どうにもあたしが何も反応を返さないことに、どうしていいかわからない様子、らしい。

 

「はぁー……」

 

 何気なく枕元の時計を見やる。時計の針はもうすぐ九時になろうかという時刻を差していた。

 

「ヒカリー!」

 

 階下からのお母さんの声が耳に届いた。

 

「ヒカリにお客さんよー! 上がってもらうからねー!」

 

 お客? あたしに? しかもこんな夜遅い時間に?

 そんな疑問に駆られているうちに階段を上がってくる二つの足音が聞こえる。

 その足音たちはあたしの部屋の前で止まった。

 

「ヒカリちゃん、ちょっといいかしら?」

 

 あたしは木のドアを叩くノックの音と共に聞こえてきたその声に思わず、半身を起こしてしまった。

 

「えっ、シ、シロナさん!?」

「そうよ。ねえ、ヒカリちゃん、入ってもいいかしら?」

「は、はい! どうぞ!」

 

 目に飛び込んできたのは、いつもの黒いコートを身に纏ったシロナさん、それからシロナさんのポケモンのルカリオだ。二人の手にはお盆とその上に白い湯気を上げている食器類が見える。

 

「ヒカリちゃん、まだお夕飯食べてないんですってね。私もなのよ。だから、一緒に食べましょうか。ルカリオ、お願い」

「グッ」

 

 そしてルカリオは部屋の隅にあった簡易テーブルをサイコキネシスで広げて、その上に二人は持っていたお盆を置く。

 クリームシチューの良い香りを漂い、さらにその中にふっくら柔らかそうだが、歯ごたえがしっかりありそうなパンの香りが混じる。

 

「とりあえず、空腹だとどんどんネガティブな方向に思考が回ってしまうわ。だから、ひとまず、食べちゃいましょうか」

 

 お母さんと同じようだけど違う、柔らかくて包まれてしまいそうな言葉を受けて、あたしはまず、皿の脇に置かれているスプーンを手に取った。

 

 

 

 *†*†*†*†*†*†*†*†

 

 

 

 私は今フタバタウンにあるヒカリちゃんの実家に来ている。

 始まりは一本のライブキャスターの通信からだった。

 相手の名前はユウト君。本人は隠したがっているけど、ホウエン・ジョウト・ナナシマリーグでのチャンピオンマスターであり、カントーでも準チャンピオンマスターといった具合の、驚異的な経歴を持つ少年である。

 その実力はその経歴に見合う、いえ、それでもまだ及ばないのではないかとも私は思っている。

 というのも、先に彼のジム戦を見させてもらったが、それは今までのポケモンバトルとは一線を画する、いってしまえば“革命”という言葉がしっくり収まるのではないかと思ってしまうのではないかと思った。

 そして実際、彼をシンオウポケモンリーグに呼び、シンオウの各ジムリーダーや四天王の前で彼の話を聞いた私は、ますますその思いに確信を抱いた。

 それからは論文の資料集めよりも、彼と彼の理論が常に頭の中心に渦巻いていた。

 昨日はポケモンに持たせることによってポケモンが自分で使うことのできる道具とその効果、それからそれらに伴う戦法についての考察を聞かせてもらった。その時間は非常に有意義で、いや、まさしく『ポケモンバトルはここまで進化するのか』といった、視界一面に広がりを見せるような新たな世界が開かれた、そんな気がした。

 そしてハクタイシティで彼の頼み事を済ませた後、家に寄ったときも彼といるときのことに思いを馳せていた。

 そんな折に来た彼からの連絡。いったいなにを私に見せてくれるのか。逸る気持ちをよそに、中身はかけ離れたものだった。

 私たちがハクタイのギンガ団アジトに押し入ったときと並行して、彼とヒカリちゃんは205番道路にある谷間の発電所に攻め入っていたのだが、そこで起こったヒカリちゃんに関する一件のようで、そのことについて助けてくれないかというのが大まかな内容だった。

 なにやら相当困っている様子だった上、彼の頼みだったので、断るつもりは毛頭なかった。

 既に空には満天の星空が輝いている時間だったけど、なるべく急ぎということで早速フタバタウンのヒカリちゃんの家に飛んだ。

 ちなみにその際、

 

「こんばんは。夜分遅く申し訳ありません。ヒカリちゃんを訪ねて来た者なのですが」

「あら、あなたシロナちゃんじゃない! 久しぶりね!」

「えっ、アヤコさん!? なぜアヤコさんがここに!?」

「あら、あたしはヒカリの母親なんだから当然でしょう?」

「そうだったんですか!? それは知りませんでした!」

 

暫く会っていなかったポケモンコーディネーターのアヤコさんと再会できた。

 このアヤコさんだが、七年前にシンオウグランドフェスティバルで十五連覇を達成した途轍もない人だ。妊娠しながらも出場した回もある。その際は特別に豪奢な腰掛けが用意されてそれに座ってポケモンに指示をしていたみたいだが、その様はまさに女王様の風格を携えていて、そのプレッシャーは今でも伝説だと聴く。

 実際、私は初めてシンオウチャンピオンマスターになったときからリーグとコンテストの交流ということで、彼女が出場を止める大会まで見てきたが、それも頷ける話だ。

 ちなみにポケモンコーディネーターとは、ポケモンコンテストというリーグとは別の組織が運営・開催する大会に出場するトレーナーのことで、グランドフェスティバルとは、ノーマル・グレート・ハイパー・マスターと上がっていくランクの中で、マスターランクのみが出場を許されるポケモンコンテスト大会のことだ。

 ランクを上げるには現在いるランクの大会に出場し、上位三名の中に入らなければならない。ちなみにランクを維持するために三年に一回はコンテストへの出場が課されていたりする。

 つまり、グランドフェスティバルはその地方でのポケモンコーディネーターのチャンピオンを決める大会なのだ。

 

「あなたの活躍は聞いているわ。ところで、今日はどうしたのかしら?」

「はい。実はアヤコさんの娘さん、ヒカリちゃんのことで――」

 

 かなり脱線してしまったが、ここに来た目的を話す。

 

「そう。あなたなら安心して任せられるわ。親には話せないこともあるでしょうし、同じ女性だしね。それにコーディネーターのあたしよりトレーナーのあなたの方がいいでしょうから、ヒカリをお願いね。ついでに、あの子まだご飯食べてなくて。いらないって言うんだけどなんとか食べさせてあげてくれないかしら。シロナちゃんの分は――」

 

 そのとき、まだ夜を食べていなかったことに加えて、ヒカリちゃんの家に漂う美味しそうな匂いによって、キュルルルルとお腹がなってしまった。

 

「あら。じゃあシロナちゃんの分も用意しておくわね」

「す、すみません。いただきます」

 

 そうして私は恥ずかしさから、いそいそと彼女の部屋に上がり、遅い夕飯となった。

 アヤコさんの温かな料理はヒカリちゃんの表情を和らげていくのがはっきりと見て取れた。一つ一つの気遣いに、親の子に対する深い愛情がはっきりと感じられる。

 ちなみに、私の胃と心にも沁み渡った。

 

(……昨日のカップめんとは全然違うわね……)

 

 料理が出来ない自分をちょっと呪った。

 そして当たり前だけど、残さず完食。

 

「うん、うん。なるほど。それからどうしたのかしら?」

「はい。その後――」

 

 食べ終えた私はヒカリちゃんの話を聞くべく、彼女の右隣りに肩と肩が触れ合うほど密着して座っている。

 ちょうどヒカリちゃんのかわいらしいピンクのベッドを背にする形なので、二人一緒に後ろに少しもたれかかるには最適な位置だった。

 

 ヒカリちゃんの話を聞いている内に、私はユウト君の言っていた言葉を思い出す。

 

 

『強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手。トレーナーなら、自分の好きなポケモンで勝てるよう努力するべき』

 

 

 この言葉に込められた意味として、『勝てるよう』とあることから一見すると、勝つために頑張るととれるかもしれないけれど、私には彼が勝ちにそれほどまで固執しているとは思えない。

 よく人は言う、

 

『好みのポケモンだけではバトルに勝つのは困難である』

 

と。

 強いポケモンによる強い技を使い、相手を倒す。

 それがこの地方での今までの傾向だったと思う。おそらくこれはこの地方だけでなく、他の地方でもそうだったはずだ。

 だけどきっと彼はそれが嫌だったに違いない。

 だから、彼はそれに反発した。

 そして、好きなポケモン、いや、自分を慕ってくれるポケモンたちだけで戦い抜くために、ポケモンについての様々なことを研究し、知識として積み上げ、実践してきたからこそ、彼の今があるのだと思う。

 その過程で負けることなんて数えるのも億劫なほどあったはずだ。でも、彼はそれらも糧としてきたのだろう。

 

 

「――ヒカリちゃん」

 

 

 もう最後まで話し切ったというのを彼女から感じた私。

 

「私はユウト君のような格言――とまではいかないかもしれないけれど――でも、常に念頭に置いていることがあるの」

「――それってなんですか?」

「あのね――」

 

 

『相手がトレーナーなら、勝負すればどんなひとかわかる。 どんなポケモンに、どんな技を覚えさせているのか、道具はなにを持たせているのか、その時言葉はいらないの』

 

 

「ヒカリちゃん、私はね、ポケモンバトルはトレーナー同士の最強のコミュニケーションツールだと思ってるの」

 

 人と人とのコミュニケーションに手を抜くというのは、少なくとも私にとってはあり得ない。常に全力でありたい。

 だから、ポケモンバトルは私は手加減なんてせずに全力で挑み、『そのバトルをいかに楽しむか』と考えていたりする。そこに勝つ負けるという思考は挟んではいないのだ。そんなものはあくまで結果に過ぎない。

 

「それからヒカリちゃん、これだけは絶対覚えておいてほしいことがあるの」

 

 その上で強さを求めたい。

 そうなのであれば――

 

 

「――ずっとポケモンを好きでいてあげて」

「――!」

 

 

 ヒカリちゃんの求めるもののために必要な答え。

 それはたったこれだけ。

 だけど、これこそが最も大事だと思う。

 それに、あんな言葉を言ったユウト君のことだ。

 きっと私のこれに諸手を挙げて賛同してくれることでしょうね。

 

「――ハイッ!」

 

 そしてこのことだけは大丈夫だろう。

 なぜなら、以前それをハクタイの森で見れた上、

 

「ありがとうございました、シロナさんっ!」

 

 この眩しいほどの、先程の沈み込んでいたときとは百八十度対照的で憑き物が落ちたような顔を見せられれば、もう心配もいらないでしょう。

 

「あの」

 

 なんとなく、私が立ち上がりそうな雰囲気を察したのか、ヒカリちゃんが服の袖を掴んでうつむきながら私を呼びとめた。

 

「あの……今日、一緒に寝てくれませんか?」

「…………どうしたの?」

 

 するとうつむき加減が余計濃くなり、心なしか、さらにキュッと袖をつかむ力が強くなった。

 

「あの、あたし、一人っ子で、あの、その……シロナさんがまるで……お、お姉ちゃんみたいだったから……。だから……!」

 

 お姉ちゃん、か。

 久しぶりに言われた気がするわね。

 そっか……。

 

 

「いいわ。今日はずっと一緒にいてあげる。ね?」

 

 左手を伸ばして肩を抱く。

 

「あっ」

 

 さらに力を込めて私の方へ身体を倒させた。

 膝枕のような体勢だ。

 

「……ありがとう。シロナさん……」

 

 心安らかで嬉しそうで、でも少し恥ずかしそうなその様子は、私のもう一人の妹のように思えてならなかった。

 

 

 

 後日、ヒカリちゃんはユウトさんと仲直り。

 その際、ユウト君からたくさんの謝罪の言葉を受け取ったと聞いた。




という形になんとか落ち着けました。
にしてもこの2話は難しかったです。

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