「はぁ~やっと着いたな」
「うわ~、ここがヨスガシティですか!」
クロガネシティから207番道路とテンガン山、208番道路を経由してようやく到着したヨスガシティ。
テンガン山を通過するから予想はしていたとはいえ、山道は険しいし、足元は悪いし、アップダウンは激しいし、深い渓谷に架かる吊り橋と足を踏み外せばすぐそこは激流の川という細い通路が怖いのなんの。正直、道路って名前をつけるんなら、もっと舗装をしろっての。
まあそれはさておき、ようやく着いたヨスガシティ。ガイドブックによれば、シンオウ地方東部の大都市で『心がふれあう場所』というのをテーマに、“人にもポケモンにも優しい町”というのを目指した町作りが行われているそうだ。そうしたことから特に福祉が充実しているらしく、たしかに道を行く人の中にはお年寄りや赤ちゃんを連れた人をよく見かける。来る途中でバトルをしたトレーナーの話によると、この町は“シンオウで一番住みたい都市ナンバー1”に毎年選ばれているらしい。
「(何だかステキね。この街灯とレンガの地面の組み合わせって)」
「ガス灯っぽい雰囲気で、ノスタルジーさが漂うな」
「なんか不思議な感じですよね」
ポケモンセンターに寄った後、レンガが敷き詰められた地面の硬いようなでも柔らかい、そんな感覚を覚えながら、町を散策する。この町は少し奥まったところに行かないと主要な施設がないためだ。
「いきなりジム戦もいいけど、ここにはいろんな見所がある。まずはそっちに寄ってみないか?」
「いいですね。行きましょう。どこにします?」
「そうだなぁ」
大好きクラブにふれあい広場、ポフィン料理ハウス(だったっけ?)もある。シンオウのポケモン預かりシステムを管理するミズキさんの家もたしかこの町にあったはずだ(一利用者として挨拶はしておきたい)。
ただやっぱりここは――
「コンテスト会場に行ってみよう」
このヨスガシティのコンテスト会場ではすべてのランクのコンテストが開催される。そのため、他の町にあるどのコンテスト会場よりも規模が大きいのだとか。
「いいですね。行きましょう!」
「ああ! えーっと、どうやらコンテスト会場は町の奥の方みたいだな」
マップを確認してみると、ゲームと同じように中央部真北の一番奥に位置しているらしく、そこに向かって歩みを進めていく。
すると、サーカスのテントのような、されどしっかりとした石造りのドーム状の建物が見え始めた。
「おお~、大きいなぁ!」
「ポケモンセンターとかよりもよっぽど大きいですよね」
近づいてみると、その大きさがよりはっきりとわかるくらいだった。
とりあえず、入口を見つけそこから入ろうとしたら、
「あら、ヒカリ?」
知らない女性の声に呼び止められることとなった。
振り返ると頭の倍ほどもある独特な髪型(というより頭が髪の中に、巻貝のごとくすっぽりと入っているような)をした女性がいた。
(ユウト……ものの言い方には気をつけなさい!)
「いだっ! ちょっ、やめっ!?」
肩に乗っているラルトスがそのままオレの耳を引っ張った。
で、結局この女性って――
「えっ!? うっそぉ! ママ!?」
…………まじ? ヒカリのお母さん??
* * * * * * * *
「あなたがユウト君ね! ヒカリがお世話になってるそうで。これからもヒカリのことよろしくね!」
「いえ、こちらこそお世話になってます」
そういえば、アニメでヒカリのお母さんってこんな感じだったよ。
挨拶を済ませた後、オレはそんなことをボンヤリと思い出していた。
「ママ、どうしてママがヨスガシティに?」
「ええ、ヒカリのポケモンの話とかを聞いているうちに、ポケモン熱が疼いてきちゃって。だから、ママ久しぶりにコンテストに出ようかなって思ったから、それでヨスガにね。期限切れちゃったから、ノーマルにしか出れないけど、勘を取り戻すにはちょうどいいのよね。ちなみに元マスターランクよ、ほら」
そう言ってヒカリのお母さんが見せてくれたトレーナーカードを三人(二人と一体)で覗く。
(たしかにマスターと書かれているわね)
(でもこれ、古すぎて失効っぽいぞ?)
たしかにラルトスの言うとおり、コーディネーターランクはマスターと表記されているが、それの刻印は七年も前のもの。だから、このマスターランクは、残念ながら既に無効になってしまっているはずだ。尤も、元マスターランクがブランクがあるとはいえ、ノーマルで勝てないということはないと思うけどね。
で、それはさておき――
『ユウト君、ヒカリちゃん。シロナだけど、あなたたち今何処にいるの? ヨスガシティ? コンテスト会場前? 了解、十分で着くわ』
といった感じで、さらにシロナさんもトゲキッスで乗りつけ、ヒカリのお母さんのコンテスト大会を見学することになった。
結果はというと、言わずもがな、もうダントツでヒカリのお母さんが優勝。はっきり言って他の参加者がかわいそうなくらい、演技もバトルも格が違っていた。ていうか初めて知ったぞ、グランドフェスティバル十五連覇なんて! もはや生ける伝説か何かだろ!
「まだちょっと勘が戻らないわね。まっ、それはさておきっ! 今度はヒカリの勇姿を見届けましょうか!」
しかし、当の本人はあっけらかんとしていた。
*†*†*†*†*†*†*†*†
あたしとユウトさんがコトブキシティで再会してから、あたしたちは、途中途中で寄り道を繰り返しながら、ユウトさんの手解きを受けつつ、旅を続けていた。
その間でわかったことは、ユウトさんのそのポケモンに対する知識と理論だ。
きちんと系統だって、それでいてきちんと噛み砕いて話してくれるから、わかりやすい。今や、あたしの旅の思い出ノートは最早ユウトさんの理論を書き留めた一つの参考書のようなカタチになってきている。
そして、それらが正しいことも、あたしたちのような旅のトレーナーとの実戦、それからポケモンたちの様子から見て取ることができた。
そうしたことの繰り返しであたしはクロガネシティでジムリーダーのヒョウタさんにリベンジを叶えた。
その後も教わる内容は違えど、同じことを繰り返し、そして、クロガネシティから何日も歩き通して、ようやく辿り着いたヨスガシティ。
そこで、
「あら、ヒカリ?」
「えっ!? うっそぉ! ママ!?」
なんとあたしのママに出くわした。
何でも、これからコンテストに出場するんだとか。
確かに家にはママの賞状がたくさんあるからすごいコーディネーターなんだとは知ってたけど、ママのトレーナーカードを見せられて、それが改めて実感させられた。
ちなみにユウトさん曰く、ママみたいな人のことを“トップコーディネーター”というのだそうだ。
そしてまるでそれが既定路線だとでもいうかのごとくママが優勝した。
「さっ、今度はヒカリの勇姿を見届けないとね!」
ということで、ママもあたしのジム戦を見守るためについてきた。
「ねぇ、ヒカリ。ユウトくんとはどういう関係? どこまで進んだの? 手? それともキス?」
あー、ママ。
ユウトさんとは今のところそんな関係じゃないから。
あくまでユウトさんはあたしの目標であり、師匠だから、勘違いしないように。
尤も、将来はどうなるかは分からないけどね、とは言わなかった。
さらには
「やれやれ、ようやく抜けられたわ」
『用事を済ませた』というシロナさんもあたしたちに合流していた。
……ちなみにライブキャスターであたしたちの現在地を聞き出してきたときは何か妙なプレッシャーがあった。
それはともかく、あたし自身この前のことで、恥ずかしさからシロナさんのことを少し直視しづらい気持ちがあった。
ただ、
「この前はありがとね」
「いえいえ、ぜんぜん。ヒカリちゃんご自身の力で立ち直ったものですよ」
そんな話をあたしのママと話していたときに、時折あたしに向けられるあの太陽のような微笑みを見ていたら、「ああ、だいじょうぶ」という気持ちになれたからか、胸を撫で下ろすことができた。
さて、そうこうしているうちに、町の北東部に位置するヨスガジムに着いた。
受付を済ませてルール説明を受けた後(ハクタイやクロガネと一緒で使用ポケモンも三体)、あたしはバトルフィールドのトレーナースクエアに入る。
ママたちは観客席の最前列に三人並んで腰をおろしていた。ラルトスはユウトさんの膝の上に座っている。
ふと、ママがあたしを見ていることに気がつく。
――がんばってね! ママがあなたのこと、しっかり見ているから!
あたしには、ママの視線がなんだかそんなことを言っているように覚えた。
あたしはママに向かって頷いた。
「……いっよし!」
ママに自分が変わった、成長したという姿を見てもらうんだ――!
そう思うと、拳を握り込む力が一層強くなった気がした。
――心は熱く、だけど、頭はクールに。トレーナーとして判断を下すときには必要なことだ、とオレは思うんだ
以前、ユウトさんとの模擬バトルのときにポロっとユウトさんの口を吐いて出た言葉。ユウトさん自身、大したことは言っていないって認識があるかもしれないけど、あたしには「なるほど、たしかに」と感じ入った。
「――心は熱く、だけど、頭はクールに……」
だから、あたしはそれを自分に言い聞かせるように呟いた。
「オーホッホッホ!! お待ちしてました!!」
突如、前方から聞こえるハキハキとした声。それはまるで、舞台役者が発声をしているかのようで、非常に耳に残るような印象的なものだった。
そして、ライトが当てられているトレーナースクエアに颯爽と登場した女性。紫の髪をその特徴的なスタイルでまとめ、その紫のドレス、白のフィンガーレスグローブを飾る、数々の光り輝くアクセサリー。恰も中世の貴族が舞踏会に参加するのを彷彿させるような格好だった。
「アタシ、このヨスガジムジムリーダーやるメリッサ、です」
やや片言な口調ながらも、結婚式で新婦がやるような、品のいい挨拶をしてくれたメリッサさん。ていうか、あの人外人さんなんだ。知らなかったよ。
「アタシ、この国、来て、いっぱいべんきょー、しまシタ。この町、コンテスト、しまス。だから、アタシこんな格好。オウフ、それにしても、助詞助動詞難しいネ」
なるほど。コンテスト用の衣装なのね。結構品が良くてステキだわ~。ママには「あなたにまだ紫は早い」っていわれてたけど、いいなぁとは思うのよね。
それはそうと、外人さんはこの国の言語習得で一番わかりづらいのが助詞助動詞っていうから、やっぱりメリッサさんも苦労してるのね。
「そして、ポケモンのことも、べんきょー、シタ。そしたら、ジムリーダー、なりマシた。だから、――」
……! ここでなんかメリッサさんの雰囲気が変わった。よくよく見てみると、さっきのそれよりも口角が釣り上がっている。
「――アナタ、チャレンジしなさい。アタシ勝ってみせます。それがジムリーダー……!」
メリッサさんはさっきまでとは違って流暢な言葉を喋り、さらに、まるで「あなたは私に勝つことはできない」とでもいうかのような不敵な笑みを浮かべている。
勝つか負けるか。そんなのは知らない。でも、負けるつもりでバトルを臨む人なんて誰もいやしない!
あたしだってそうだ!
「――お願いします!!」
きっと今のあたしはさぞ好戦的な表情をしているでしょうね。
「良い目ね。では、いきましょ!」
『これよりヨスガジムジム戦、挑戦者ヒカリとジムリーダーメリッサの試合を始めます! 両者、フィールドにポケモンを一体投入してください!』
*†*†*†*†*†*†*†*†
「メリッサがサマヨール、ヒカリがムクバードね。ヒカリはノーマルタイプでゴーストタイプを封じる作戦かしら」
ヒカリのお母さん(というか以下ママさん)はヒカリちゃんの狙いに気がついたようだ。流石はトップコーディネータ―といったところか。
それによく見てみるとさっきまでよりも目つきが鋭くなっている。自分もトレーナーの一人な上、ひょっとしたらコンテストバトルで使えるものがあるのかもしれないとして、きちんとバトルを分析しようって腹積もりなのかもしれないな。
「ですが、ヒカリちゃんもノーマル技が通用しません。お互いのタイプ一致が封じられている以上、痛み分けに近い形ですよね。いえ、タイプが二つあるムクバードの方が有利といえば有利なのかしら」
「どうですかね。ヒカリちゃんのムクバードはまだ飛行タイプの攻撃技はつばさでうつとつばめがえしぐらいしか習得してなかったハズなので、あまり変わらないと思います」
「タイプ一致? 二人ともそれってなにかしら? 初めて聞く言葉なんだけれど」
シロナさんとオレとでバトルの優劣を考えていたとき、ママさんのその耳は聞き慣れないものを拾ったと興味を持ったようだ。
「タイプ一致とはポケモンのタイプと同じタイプの攻撃技を撃つことですよ。そうすると、普通よりおよそ一.五倍技の威力が増すんです」
「ええ! そんなこと初耳よ! ほんとなの!?」
「はい。とあるトレーナーが発見しました。彼は一.五倍としていて、私たちポケモンリーグでも検証を行っている最中ですが、彼のいう数値に限りなく近い値が出ているとのことで、ほぼ間違いないと確信しています」
タイプ一致に関しては以前リーグでも話したし、ヒカリちゃんに教えていたときも一緒にいたから、シロナさんの答えは完璧だった。
ていうかリーグでも検証って、そんなことやってたんだ。まぁ傍から見れば、研究者でもない一個人の意見だしね。
(ていうかシロナ、あなたの意を汲んでくれたわね)
(そうだな)
オレの膝の上に座りながら見上げるラルトスに、思わずオレはその緑の頭部に手を置いた。そのままスリスリと動かす。
(ちょっ、ちょっと、どうしたのよ)
(いや、なんとなくこうしたくて)
(ば、バカ。ちゃんとヒカリのバトルを見なさい)
といった具合に窘めるんだけど、手を止めると、
(あ……ゆ、ユウト)
(んー?)
(も、もっとやってくれても、い、いいのよ?)
……くふふ。
このいじらしさがまたかわいいんだよなぁ。
「Goネ、サマヨール! かみなりパンチ!」
「ムクバード! 頑張って耐えてみやぶるよ!」
さて、ちゃんとバトルも見ていないとね。
しかし、かみなりパンチにみやぶるか。こいつはなかなか面白い!
「……ムクッ、バードッ!」
「耐えたッ! よく頑張ったわ、ムクバード! ここから反撃よ!」
あの様子だとムクバードは相当ギリギリで耐えたってところか。『いかく』が決まったハズなのにスゴイな! やっぱり、ジムリーダーは粒揃いだ。
まあそれはさておき、ここからが見物だな。
「特性『いかく』のおかげで、いくらムクバードの弱点を突いたとはいえ、下がった攻撃力では倒しきれなかったわね」
「はい。加えて、タイプ不一致、それからサマヨールの攻撃の能力値――いえ、アヤコさんなら大丈夫でしょう――攻撃の種族値、これがそれほど高いものではないというのも原因でしょうかね。相当の大ダメージは負ったようですが」
「……また聞き慣れない言葉ね」
横ではシロナさんがママさんにいろいろと解説している。
ていうかシロナさん、今の攻防で一つ重要なポイントを忘れているよ?
オレなら、この状況に持ち込めたら――
「今よ! ムクバード、がむしゃら!」
「ムクバーッド!!」
そして、ノーマルタイプの技のがむしゃらがゴーストタイプのサマヨールにヒットする。
「そんな!? バカな!? ナゼ、なぜ
「待って!? 待ちなさい! こんなことあり得ないわよ!?」
「一体なにが……!?」
メリッサさん、ママさん、シロナさんの驚愕が手に取るように伝わってくる。さらにはジャッジの人たちまで口をあんぐりと開けている。ママさんなんて思わず立ち上がっちゃってるし。
一方、タネを仕掛けたヒカリちゃんの方は、
「いっよっし!!」
満面の笑みを浮かべて両拳を握り込み、喜びを
「……あ、そうか! みやぶるよ!」
この中で一番先に答えに辿り着いたのはシロナさんだった。
「正解です、シロナさん」
自ずとオレやシロナさんに視線が集まるのを感じた。
「ノーマルタイプの技がなぜゴーストタイプに当たったのか。それはヒカリちゃんが指示をしたみやぶるという技による効果です」
みやぶるは通常の効果としては、かげぶんしんなどで相手の回避率が上昇していた場合、その効果を無視するという技だが、これがゴーストタイプに当たったときにはまったく違った効果を見せる。その効果はゴーストタイプに対して無効だったノーマル・格闘タイプの技をゴーストタイプに等倍で当てられるようになるというものだ。いってしまえば、相性でゴーストタイプを打ち消すようなものなので、例えばヤミラミ・ミカルゲのような悪・ゴーストタイプには格闘技は効果抜群となる。
(まあ、かなりマイナーな技だもんね)
(そうだな。ただ、ゴーストに技が当てられるとなりゃ、ひょっとしたら大流行するかもな)
現実では通常の効果の方は当てられなければ意味がなく、ゴーストの方は一ターン使ってこれを使うほどの価値が見出せない上、先の二タイプではない他のタイプの技で対処が可能なことから、どマイナーもいいところだ。
でも、この世界ではターンもないし、技の数も制限されてないから、後者の方は超有効な手段として広がりそうな気がする。ちなみに同じ効果の技として他にかぎわけるという技もあったりする。
「さらに面白いのが、このがむしゃらという技です。がむしゃらは自分と相手のHPを同じにするという、いわば定数ダメージの技。ムクバードがダウン寸前の大ダメージだということは、この技によって、サマヨールもダウン寸前の大ダメージを負ったことになります」
元々、がむしゃらは不利な形勢からのイーブン、あるいは一発逆転を狙いにいくような技である。だが、その他に、防御・特防が異様に高いクレセリアやハピナス・ヨノワールなどの、生半可な攻撃が通用しない相手に大ダメージを与えるという使い方もできる技でもある。
今回のサマヨールの場合、ヨノワールの進化前でやはりそれら二つがかなり高い部類のポケモンなので、普通に攻撃をするよりもそういった定数ダメージを与える技が効果を発揮したりする。勿論、これ以外も有効な戦法もあるだろうが、守備型のポケモンに対したときに、定数ダメージ技はそういった相手に対して大きな突破口となるだろう。
「ムクバード、トドメのでんこうせっかよ!」
「ムクッバードッ!!」
みやぶるの効果はまだ切れていないから、でんこうせっかもヒット。
そして――
「サマヨール、戦闘不能です!」
メリッサさんのポケモンは一体減り、残り二体となった。
*†*†*†*†*†*†*†*†
「マージ!」
フィールドに現れたメリッサさんの二体目のポケモン。
それは紫の魔法使いを連想させるポケモンだった。
「マージ……!」
ボールから出てきたそのポケモンは、まるであたしのムクバードを威嚇しているように見えた。
「さっきはナカナカでした! アタシ、びっくりしたネ! でも、アタシのこのムウマージにはさっきのような手は使えマセンよ!」
たしかにジムリーダーが同じ手を二度も食らうとは思えないし、第一あたしのムクバードもそれが出来る体力も残されていないと思う。
となれば――
「Here we go! ムウマージ! 10まんボルト!」
ムクバードにムウマージが放った10まんボルトが迫りくる!
「ムクバード、こらえる!」
ムクバードの残り少ない体力でアタシがとる戦法は――
「なんですって!? 10まんボルトを耐えきったデスか!?」
「今よ、ムクバード! ふきとばし!」
――後続に繋げるのみ!
そして、ふきとばしによって巻き起こった突風により、ムウマージがボールに戻され、代わりにフィールドに登場したのは、
「ゲンガー!」
メリッサさんの三体目のポケモン。
そして――
「ムクバードを気絶と判断します! よって、ムクバード、戦闘不能!」
体力の尽きてフィールドに倒れ込んだムクバードをあたしはボールに戻した。
「ありがとう、ムクバード。ほんとうによくやってくれたわ。ありがとう……」
あたしは手のひらに収めたそのボールに向かって呟いた。