「ははは……負けたか……」
俺は、コアガンダムの状態で空に浮かぶセシリアに手を伸ばしていた。
勿論、そんなものは届かない。
負けた。
だが、そんな事はどうだっていい。
思い出したんだ。
俺が飛ぶ理由を。
「この世界の、全部の宙が見たいんだ」
「……呆れた。負けたというのにどうしてそんな清々しそうな声なんですの」
「お」
セシリアが俺の傍に降りてきて、手を取った。
「サンキュー」
「…………」
「ん?どした?」
セシリアがきょとんとした顔になる。
「……悔しくありませんの?」
「悔しいさ。でも……飛んだ」
「???」
「飛べたんだ。俺は」
ISを解除する。
コアガンダムが俺の左腕に戻る。
ありがとう、コアガンダム。
「俺は前に進めた。今日はこれで良いんだ」
「はぁ……」
「ありがとなオルコット。今度は、負けねーぞ」
俺は、アリーナを後にした。
「は、はぁ………………???」
――――――――――
夜。
少女……セシリア・オルコットは自室のシャワー室に居た。
(……星海、那由太)
今日戦った男性IS搭乗者。
時代遅れな全身装甲の第1.5世代型ISでこのわたくしの前に現れ……奇妙な仕組みで追い込んできた。
わたくしの勝ちではあったものの、向こうのエネルギー切れによる勝利であった。
勝ちは勝ち。
ですけれども。
「……煮え切りませんわ」
そして、彼の態度。
微塵も悔しがってはいなかった。
普通の男性なら負け惜しみの一つでも言うのではないのか?
だが、彼はそんな気もなく……わたくしではなく、空を見ていた。
そもそも、わたくしは彼の眼中にすら入っていなかったのではないか?
自分の中にある男性像と言うのは、いつも母に頭を下げていた父の姿しかない。
そんなに仲が悪いのにどうして夫婦なんて続けていたのか。
……そして、そんなに仲が悪かったのに、どうして二人一緒に逝ってしまったのか。
わからない。
わからない。
星海那由太と言う存在も。
こんなにも苛っている理由も。
「訳が分かりませんわ……」
この日、結論は出なかった。
――――――――――数日後。
「……クラス代表?」
ある日の昼休み。
食堂で相席になった女子からそんな話を聞いた。
尚、これは致し方無い状況なのだった。
毎度毎度一夏と俺だけで席を占領するのはよろしくないのと、奇跡的に席が空いてる事が無いからだ。
4人掛けのテーブルに俺とクラスメイトの3人が座る。
「そそ。誰にしようかって話よ」
「要するに委員長だろ?誰ってやりたい奴少なからずいるだろ」
「でも、きっと一組は織斑くんだよ」
「星海くん、戦いたいんじゃない?」
「……いや」
聞けば代表、という立場にクラス対抗トーナメントの出場義務まであるとか。
「どうして?」
「暇さえあればあいつと模擬戦してるし……お互い手の内は知ってるから」
「おお、これが友情……」
「多分違う」
「オルコットはやらないのか?正直、俺のISは1.5世代……旧式だ」
そう、一夏と比べると俺はどうしても純粋なパワー勝負に弱い傾向にある。
装備自体堅実で、悪く言えば爆発力が無い。
不利な状況からの一発逆転が狙いにくいのだ。
「そうかな……」
「まぁ、期待されてるって意味ならやぶさかではないけど」
「「「………………」」」
「な、なんだ」
3人からじっと見られる。
困るんだが。
「いや~、星海くん最初ツンツンしてると思ったけど」
「何か親しみやすくなった?」
「いじり甲斐あるよね」
「……ごちそうさま。お先」
「「「えっ」」」
一人でさっさと離脱する。
しかし、親しみやすくなった?
そうだろうか。
……何となく、やるべきことを思い出して余裕が戻ったって事なんだろうか。