夜が明けて。
取り敢えず寝よう、そう言って話を切り上げたものの俺の頭はさりとて切り替わってはくれなかったようで。
ずっと朝から悩み続けて授業は上の空。
先生から何度指摘されたものか。
そのたびにクラスメイトの失笑にかつてのトラウマを思い出しかけて脂汗を垂らすのだった。
「……那由太さん、大丈夫ですの?」
昼休み。
セシリアが俺に伺うような声音で話しかけてきた。
「大丈夫って、何が」
「今日、朝からずっと上の空でしてよ?気付いてませんの……?」
「あー、まぁ……別に大したことない。考え事だ」
「何か悩みでも?相談ならわたくしいつでも聞きますわ」
「え、あー、いや……」
「フフフ、セッシーってば甲斐甲斐しいねぇ」
他のクラスメイトが集まってきた。
背筋がぞわっとする。
相変わらず距離を詰められると体が拒否反応を起こしかける。
「このお年頃の男子は特有の悩みがあるってよく言うのよ」
「待て、ソースはどこだよ」
「え、漫画」
「絶対に違う」
「中二病ってやつ!!」
「ざけんな!違うわ!!」
「えー?じゃあ何?」
「無論ナニじゃない?」
「やめろそのニュアンス!」
「えー、じゃあ何?」
「聞くな!俺は飯に行く!」
これ以上喋っているとあらぬ疑いが掛けられそうになる。
流石に看過できないので慌てて立ち上がり隙間を縫って逃げ出したのだった。
「……那由太さん」
――――――――――
夕方。
セシリアはアリーナへと来ていた。
(……全く、何なんですの。今日の那由太さんは)
ISスーツへ着替えながら、彼女は憤慨していた。
(わからないことが有るのなら、まずクラス代表補佐であるわたくしを頼るべきですわ)
ちなみにそんな役職は無い。
(そうでなくともあの人は……あら)
はたと立ち止まる。
(わたくし……何故こんなに怒っているのかしら)
「あれ、セシリアじゃん」
「あら……鳳さんではありませんか」
アリーナには先客が居た。
一年の一組……鳳鈴音の専用機、甲龍だ。
「鈴音で良いわ。珍しいじゃん、セシリアが来るなんて」
「ええ……少し、そう、少し気に食わない事がありまして」
「へぇ……奇遇ね。私も」
鈴音の甲龍が戦闘態勢に入る。
セシリアも無言でブルーディアーズを戦闘モードへ切り替えた。
「では……お付き合いして頂きましょうか」
「はっ!行くわよ!!」
……その瞬間、黒い衝撃がアリーナを震わせた。
「何!?」
「あ、貴女は……!!」
「………………」
黒いIS。
ラウラ·ボーデヴィッヒ。
彼女がアリーナへと舞い降りていた。
「出たわね!いきなり何すんのよ!」
「………………」
「何とか言ったらどうなの!?」
「五月蝿い。吠えるしか脳が無いのか貴様は」
「なんですって!?」
「代表候補生と言っても種馬に群がる木っ端の一つということか」
「んなっ……!アンタねぇ!!」
ラウラの瞳がセシリアに移る。
「そちらのISも未完成品か。第3世代型が聞いて呆れる」
「なっ……」
「それに、ISもまともに動かせない素人に負けたそうだな。代表候補生の名が泣くぞ」
「那由太さんは代表候補生に匹敵する実力を持っていただけの事。確かにわたくしの落ち度ではありますが……彼を貶める発言は撤回して頂けて?」
「フン。奴なら私を前に手も足も出なかったぞ」
「………………」
「何だ。何も言えないか。ならば実力で黙らせてみろ」
「……………っ」
……一触即発。
もはや戦う以外の選択肢は無かった。