正直反対されると思っていたが、うちの両親は俺がホグワーツに行くことに対して積極的に肯定的ではなかったものの、否定はしてこなかった。
「じゃ、イギリスまで飛ぶから私に腕に捕まりなさい」
お父さんもお母さんも、どうやらこのアクアとかいう先生に懐柔されてしまったらしい。お父さんに関しては、「こんな美人な先生に教わるだなんて羨ましいぞ」なんてことを言って、お母さんに折檻されていた。
息子に何言ってんだ。
しかしだ、俺にはどうしても気になることが。
「えっと、聞きたいんですけど、向こうの言葉ってどうなるんです? 俺、英語なんて喋れないんですけど」
「その辺は安心しておきなさい。この超優秀で、エリートなアクア様があなたの脳みそに魔法を掛けて一瞬で英語を習得させてあげるわ。勿論、文字だって読めるわよ? 副作用として、運が悪いと頭がパーになるかもだけど」
「今、すごいことが聞こえたんだけど。運が悪いと頭がパーになるって言ったか?」
「言ってない」
「言ったろ」
まあいい。自慢ではないが、これでもジャンケンでは負け知らずな程には運に関しては強いのだ。
俺が言われた通りアクアの腕に捕まると、何を勘違いしたのか、こちらに向かってパチンとウィンクをしてきた。
「安心しなさいな。さっきも言ったけど、私は超エリートなのよ? 姿現しくらいチョチョイのチョイよ!」
……不安でしかない。
*****
「おえぇぇぇぇ……」
「なっさけないわねぇ。あれくらいで酔うだなんて……。……あ、ちょっと待って。うっぷ……」
「お前も吐いてんじゃねえか」
喉元まで出掛かった酸っぱいものをなんとか飲み込み、アクアと共に街中を歩いていく。
辺りを見回すと、アクアと同じようなローブを着た、いかにも魔法使いといった人々がたくさん。
「なあ、アクア。ここどこだ?」
「ねえねえカズマさん、忘れてるかもしれないけど、私は先生なのよ? それであなたは生徒なの。もうちょっと敬いの気持ちを持ったらどうかしら?」
敬われたければ、もうちょっとちゃんとしろと言いたい。
「おっ、あれ見ろよ。昼間っから、フクロウが飛んでる」
「あー、そう言えばペットも買わなきゃだったわね。カズマさんはフクロウがいいの? ヒキニートのカズマさんにはヒキガエルの方がお似合いだと思うけど」
「ヒキニート言うな。これでもちゃんと学校通ってたんだからな、クソビッチ。引きこもりでもニートないんだ。足し算するのはやめろ」
クソビッチ呼ばわりされたアクアが首を絞めてくるのを無視しながら、入学案内書を読み進める。
成る程、確かに希望者はペットは飼ってもいいみたいだ。フクロウ、ヒキガエル、猫の内から選べるみたいだ。
俺はアクアに聞こえるかどうかの声でボソッと言った。
「……カエルをデッカくしてアクアにけしかけるのもアリだな……」
「!?」
*****
アクアに連れられ、もれ鍋とかいうパブを抜け、ダイアゴン横丁という魔法使いや魔女が必要とするありとあらゆる魔法道具が売られている横丁に着いた。
そこからが大変だった。
買うものはたくさんあるというのに、アクアがあっちへふらふら、こっちへふらふらと、関係のない場所に好奇心で入りたがるものだから、一向に買い物が進まなかった。
大方の買い物を済ませる頃には、かなりの時間が経過していた。
「あと必要なのは……魔法の杖か」
「杖ならあそこのオリバンダーの店ね。私の杖もあそこで買ったのよ」
「一気に不安が増したな」
なんでよー! と騒ぐアクアを放置しながら、“紀元前382年創業”と掲げられたその店に入っていく。
ドアについてる小さな鐘が、チリンチリンという心地よい音を立てると、程なくして店の奥から店主であろう老人が現れた。
「いらっしゃいませ。……おや、これは……もしやアクア先生、あなたが生徒の引率をなさっているので?」
「ええ、そうよ。全く、校長ったら人づかいが荒いのよねぇ。……この店はお茶はないのかしら」
「アクア先生は相変わらず冗談がお好きなようだ」
アクアの要求は冗談として取られたようだ。本人にはそのつもりはないようだが。
杖屋なんてものは初めてな俺が店内を物珍しくキョロキョロとしていると、しばらくして店主が一本の杖を持ってきた。
「杖腕はどちらで?」
「杖腕……? 利き腕なら右手ですが」
はじめに、カシの木から作られたという杖を握らされた。
「……?」
「振ってみるのよ、カズマさん」
隣のアクアからアドバイスを受け、適当に振ってみる。
が、何も起こらない。
杖の振り方が悪かったのだろうかと心配していると、今度は別のヒイラギという木から作られたという杖を握らされる。
同じように振ってみる。が、またしても何も起こらない。
「おっかしいわねー、何も起こらないなんて」
「……アクア先生、ほんとに彼は魔法使いなので?」
「……その筈、だけど」
「おいやめろ。自信なさげに言うなよ。これで、実は魔法が使えないとか、悲しすぎんだろ、おい」
目線を逸らす二人。
どうしよう、不安になってきた。
ここまで来て魔法が使えないとか、そんなお預けだけはやめて頂きたい。
「ふむ。……ならば、あっこれでいいか。レッドオークで作られた杖です」
「……なんか適当じゃありません?」
「…………」
目を逸らした店主への追求を諦めて、渡された杖を振るう。
途端に、風もない家屋にも関わらず、ランプの火が仄かに揺れ始めた。
机に散らばっていた本も、パラパラとめくれていく。
「……え、ショボ」
その光景に、ふと口からそんな言葉が漏れ出てしまった。
いや、なんというか……魔法ってもっと凄い感じだろ。火が揺れるとか、本がめくれるとか……。
なんか、期待していたものと全然違った。
二人の表情を伺い見れば、同じように微妙な顔をしている。どうやら、思っていることは同じらしい。
こちらを気遣うかのように微笑んだ後、押し黙っていた店主が口を開いた。
「どうやら、その杖のようですな。いやはや、マグルに杖を押し売りしてしまったのかと……」
「……あれね。何も起こらなかったのは、カズマが絶望的に魔法の才能がなかったからね」
ポツリとアクアがとんでもないことを言ってくる。
……まあ、何にせよ。
こうして、俺の魔法世界での生活が始まったわけだ。
カズマさんの杖は結構迷った末に、レッドオークの杖にいたしました。
器用で、身軽で、機転の効く所有者に向いてるとのこと。
また、独自の魔法を編み出す所有者が多いらしいです。
カズマさんには、とある魔法を制作してもらわなければならないので、これにいたしました。
とある魔法とは、みんな大好きな「ス」から始まるあの魔法です。