「よくよく考えたら、九と四分の三番線なんてあるわけないよな……」
俺は一人、キングズ・クロス駅で立ち尽くしていた。
周りを見れば、大荷物を抱える俺に対して、すれ違う際に怪訝な目を向ける始末。
きっと、茶髪に茶目という純日本人が、異国の駅でヒヨコを連れているという様子が珍しいのだろう。
「ピヨッ」
──この私が、入学祝いとしてこの子を貴方に預けるわ! いい? ちゃんと大切にするのよ?
別れ際、アクアが俺にプレゼントとしてくれたのが、このまん丸と太った黄色いヒヨコだ。
アクアは、全身を体毛に覆われたシャギードラゴンだと言い張って聞かなかったが。
名をキングスフォード・ゼルトマン。通称、ゼル帝と言う。いずれドラゴン達の帝王になる、とはアクアの言葉だ。
ただのヒヨコのくせに、随分と偉そうな名前ではあるが、一応は貰いものだから大事に飼っている。
ペットはカエル、フクロウ、猫のいずれかと書いてあったが、フクロウもヒヨコも多分同じようなもんだろう。
何か言われたら、アクアに責任転換すればいい。
まあ、そんなことよりもだ。
「ホームが全然分からん」
アクアから渡された切符には、九と四分の三番線、ホグワーツ行きとはっきり記されている。
正直、アクアが間違った切符を渡してきた可能性もなきにしもあらずだが、今更そんなことを考えても仕方がない。
と、その時だった。
「──おや、もしかしてホームが分からないのですか?」
どことなく気怠げな、眠そうな赤い瞳。
そして、黒くしっとりとした質感の、肩口までの長さの髪。
後ろから声を掛けてきたのは、学校指定の黒いローブに黒いブーツ、手には魔法使い特有の杖を持ち、黒い魔女帽子を被った、典型的な魔法使いの少女だった。
背丈は俺の首元くらいだろうか。
どう考えても、10歳にすら満たない見た目をした、片目を眼帯で隠した小柄で細身なその少女は、突然バサッとマントを翻し、
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の天才にして、いずれ爆発魔法を操りし者!」
「…………からかってるのか?」
「ち、ちがわい!」
少女の突然の自己紹介に思わず突っ込んでしまった俺に、その子は慌てて否定をする。
いや、めぐみんってなんだよ。
「……どうやら、あなたはマグルのようなので少し説明しておきますと、私は紅魔族という純血の一族の一員なのです。その証拠に……ほら、瞳が紅いでしょう?」
どうやら、真紅の瞳が紅魔族としての証らしい。
「ほーん。めぐみんってのは? 何かの愛称か?」
「いえ、歴とした名前ですが」
……成る程。学校のローブを着ているし、魔法使いなのは間違いないだろう。
しかし、めぐみんか……。
「……因みに、両親の名前を聞いても?」
「母はゆいゆい、父はひょいざぶろーです」
「…………」
成る程、紅魔族ってのはネーミングセンスがいかれてるらしい。
思わず黙り込んだ俺に、めぐみんとやらは顔を近づけてくる。
「おい、私の両親の名前に言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」
「いや、悪い。てっきりからかってるのかと。それと、俺はサトウ・カズマだ。よろしくな。それで、九と四分の三番線のホームって知ってるか?」
「……私から言わせればあなたたちの方が変な名前をしていると思うのです。……まあ、いいでしょう。九と四分の三番線ですね? ついてきて下さい」
そう言って、めぐみんは九番線の柱に向かって指を指した。
*****
「まさか、壁をすり抜けられるとは。魔法使いなら皆んな出来るのか?」
「いえ? あそこが特殊なだけで、壁をすり抜ける魔法はかなり難しい筈ですよ。カズマや私が通り抜けられたのは、その切符を持っていたからです」
めぐみんが教えてくれるには、あそこだけではなく他にも隠された番線が色々とあるらしい。
紅魔族だけが住む、紅魔の里に行くにもその番線を使えば行けるのだとか。
汽車で同じコンパートメントになっためぐみんには、それから魔法界の常識などを教えてもらった。
「──ええ! ですから、やはりカズマも私と同じ爆裂魔法を覚えるべきだと思うのですよ! さあ、私と共に爆裂道を歩もうではありませんか!」
「ちょ、落ち、落ち着けって……! てか、魔法なんて一回も使ったことの無い俺がそんな難しそうな魔法使えるわけないだろ」
顔を近づけるめぐみんを引き離していると、ふと、コンパートメントの扉が開いた。どうやら車内販売のようだ。
めぐみんの家は貧乏らしく、結局買ったのは好奇心に負けた俺だけであった。
「──おい、めぐみん。大変だ! このカエル、チョコのくせに動くぞ!」
「何を当たり前のことを……あーあ、勿体ない。逃げちゃいましたね」
異物混入だ、と騒ごうとしたが、魔法界ではチョコが動くのはどうやら普通らしい。
窓の外から逃げたカエルチョコを目で追いながら、コップにさした野菜スティックをめぐみんはぽりぽりとかじっていた。
これなら大丈夫だろう、と俺も野菜スティックに手を伸ばす。
クイッ。
野菜スティックは俺の手から逃れるように、ひょいと身をかわした。
…………おい。
「それにしても、ありがとうございます。カズマが買ってくれたお菓子がなければ、危うく飢え死にするところでした」
めぐみんは、コップをデコピンし、一瞬動かなくなった野菜スティックを、そのままつまむ。
「通学途中で飢え死にされたら、俺だって困るからな。こういう時はお互い様だ」
めぐみんの見よう見真似で、コップにデコピンをし、野菜スティックに手を伸ばす。
スルッ。
「……………………やるよ、それ」
「本当ですか!? カズマはなんと太っ腹なんでしょう! ありがとうございます!」
「誰が全部やるって言った! 野菜スティックだけだ! このロリっ子!」
「ロ、ロリっ……! この我が、ロリッ子……」
俺が買ったお菓子全部持っていこうとする、めぐみんに野菜スティック如きに舐められた怒りをぶつけていると、再びコンパートメントの扉が開いた。
「おい、一体何を騒がしている」
そう言って入って来たのは、一人の金髪の少女であった。
猫にすると、めぐみんのちょむすけに被るのでゼル帝を出しました。
何分、作者がオリジナルのものを考えるのが苦手なもので…。