KAN-SENをよく知らない指揮官が着任するそうです 作:平凡な指揮官
「失礼いたします」
男はドアを開け、一礼して執務室に入った。部屋の中央、重厚な木製の机で大臣は何かの書類を書いていた。
「おお来たか。まあ、とりあえず座ってくれたまえ」
大臣は顔をあげると、男を机の前にあるソファーへ導いた。男がソファーに腰かけると、大臣もその真正面へ座った。
と、男はここでふと違和感を感じた。
「大臣、副官はどうされたのです?」
海軍大臣には通常1人以上の副官がつくことになっている。しかし、今日はその姿がない。
「ああ、副官には席を外してもらっている」
「……とすると、今回は何か重大なお話があるということですね」
大臣は苦笑しながら言った。
「さすがに鋭いな……まあ、そこまで重大というわけでもないがな」
そこまで言うと、大臣はいつもの真面目な顔に戻り、男に用件を告げた。
「単刀直入に言おう。君に、前線へ戻ってもらいたい」
「……理由を伺ってもよろしいですか?」
「至極単純な理由だよ。『指揮官の不足』これが全てだ」
指揮官不足。近年海軍を悩ませ続けている問題だった。KAN-SENの誕生により、確かに人類はセイレーンに対抗することができるようになった。しかし、KAN-SENの運用には1つ重要な要素が必要だったのだ。それが「指揮官」である。
KAN-SEN達を指揮し、寝食を共にする者。理由は不明だが、KAN-SENはこの「指揮官」の存在によって持てるパワーを最大限に引き出して戦う事ができるのだ。この指揮官も、世界ではKAN-SENと同じく「英雄」として称えられている。
これだけの存在であれば、当然指揮官を目指す者も海軍内外に多数いる。だが、指揮官になるまでの道のりはとてつもなく厳しいのだ。
組織の管理能力はもちろん、軍人としての知識や作戦の立案力、個性的なKAN-SEN達と不和になることなく日常を送るためのコミュニケーション能力。指揮官という職は、ベテランの軍人であってもなかなかこなすのが難しい内容になっている。これらが、現在の指揮官不足問題に繋がっているのだ。
「……だからこそ、先代の大臣はそれを解消するためにわざわざ士官学校に特別コースを設けたのでしょう?」
「ふん。あんな詰め込み型の付け焼き刃な教育で指揮官が勤まるなら苦労はしないよ」
大臣は話を続けた。
「とにかく、現場はベテランを必要としているんだ。君のようなね」
「しかし、私は前線を退いて久しい身です。KAN-SENのこともよく知りませんし」
「それは十分承知の上だ。 出来る限りの援助は約束しよう! だから頼む!」
大臣に頭を下げられ、男はまた大きなため息をついた。
「大臣。頼むとは言っていますが、これは決定事項なのでしょう?」
「…………」
大臣は頭を下げたまま沈黙している。
「……わかりました。その任務。慎んでお受けいたします」
そこまで言うと、男は立ち上がり扉へと向かった。
「ありがとうな」
ドアノブに手をかけたとき、背後から大臣がそう呼びかける。
「はあ、……今度、酒奢れよな」
そう返すと、男は自分の上官であり、士官学校の同期でもある大臣の部屋を後にした。
「貴様と俺」の関係ってちょっといいなーって思ってる。