気がついたら碇シンジだった   作:望夢

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なにがどう大変かってアスカの扱いが今一番大変だったりします。ある意味何も知らない綾波シスターズがチョロいだけだったかもしんない。


アスカ、ココロの中

 

 第3新東京市は弐号機を輸送護衛中である国連軍太平洋艦隊が謎の物体から攻撃を受けているという情報が入り次第即時第一種戦闘配置に移行した。

 

「3分前に地上にて遺骸解体作業支援中の零号機をロスト。以後の消息は不明!」

 

「3分前の観測映像出します!」

 

 青葉と日向両名は己の仕事をこなしながら報告を上げる。

 

 第5使徒の遺骸解体作業の支援を行っていた零号機は、ふと何処かを見るように顔を上げていた。

 

 そしてその頭上に光の輪を発すると、キラキラと発光する光を撒き散らして忽然と姿を消してしまったのだ。それこそロボット物のアニメで時として登場するワープの様に。

 

「空間位相、マイナスを示しています。これってやっぱり」

 

「空間跳躍…。あり得そうな事象としては量子跳躍かしら。座標計算は、ピンがあるから必要なさそうね」

 

 零号機が消えた瞬間のモニターから拾える情報を解析するのはマヤとリツコだった。

 

「ただ初号機が大人しいのが意外ですね」

 

 使徒襲来と、零号機ロスト。その因果関係は考えずとも答えを導き出せる。故に初号機が身動きもしないで大人しくケイジに収まっていることがマヤには違和感を覚えるものだった。

 

「そうでもないわ。彼、あの子に留守番を任せるって言い聞かせて出掛けて行ったもの。あの子からすれば、その言いつけをしっかり守ろうとしているのよ」

 

 見た目はレイと変わらない年齢に見えるものの、情緒が豊かである代わりに我が儘であるシオン。

 

 シンジはそんな彼女に、小さい子供に言い聞かせる様に留守番という役目を与えて言うことを聞かせたのだ。

 

 その様子を見ているからまだ初号機は安心して見ていられる。

 

 しかし消えた零号機の中に居た2人に関しては──特に何も言う所を見ていない。

 

 シンジはシオンの方が手が掛かると言うが、リツコからすればレンの方が何をするかわからない。

 

 レイはそんな2人に比べればまだどっち付かずの中間ではあるけれども、我が儘を言うことを覚えたり、自らの我を通す強かさというものを身に付け始めている。たった数ヶ月前には人形の様で自己主張などまるでしなかった頃とは激変していた。

 

 そんな彼女達に自我を持たせて育んだ彼の身に何かが起これば彼女達は周りなど一切気にも止めずに行動を起こし始めてしまう事は、彼女達と関われば想像に難しくはない。綾波姉妹は綾波シンジが世界の中心となって回っているのだから。

 

 忽然と姿を消してしまった零号機の行き先は1つしか考えられない。

 

 心配にはなるが、今のところ出来ることはいつでも出せるように初号機の発進準備を整えておくことだけだ。

 

 形振り構わず想う相手のもとへと飛び立ってしまえるその純粋さは羨ましくもあり、だがその行動に伴う関係各所への説明の手間が掛かる大人の事情を少しは察して欲しいとも思わざるを得ないが、人間性という意味ではまだまだ未成熟の彼女達には難しい事であるのもわかってしまう。

 

 物を知っているだけの子供というのが今のところの彼女達の総評である。

 

「シグナル確認! 零号機の座標は──太平洋洋上! 国連軍太平洋艦隊と同一!!」

 

「監視衛星からの映像来ました。最大望遠です」

 

 使徒出現を監視する為に日本の直上にはいくつもの監視衛星が静止衛星軌道で待機している。

 

 直上から見る洋上にはいくつもの煙が立ち上ぼり、海面を水柱を上げて何かが泳いでいる様子が映し出された。

 

 そして展開する艦隊の中に、頭上に光の輪を発する零号機が存在していた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 洋上での使徒襲来。

 

 想定していなかったわけでもないものの、それがいざ現実となると、挨拶の時に無理矢理にでも弐号機の引き渡しを了承させるべきだったかとも考える。

 

 海面下を高速で移動しているらしい使徒に短魚雷や対潜ロケットが発射されて命中するが、直撃しても意に介していないように悠々と海を疾走して、再び護衛艦を体当たりだけで真っ二つにした。この程度の火力じゃATフィールドを破る事は出来ない。

 

 使徒が何故此処に現れたのか。第3新東京市に向かうでもなくこの艦隊を襲っている理由は?

 

「まさか弐号機?」

 

 それくらいしか思い当たらず、弐号機を運ぶ輸送艦に視線を向けた時、海面から現れたオレンジと白の色を持つ巨人。その頭上には光の輪があった。

 

「なんだアレは!?」

 

「アレは我々ネルフが所有するエヴァ零号機です!! 敵ではありません!」

 

 艦長が零号機を敵と判断する前に所在を明らかにしておく。それでもどうして海の中から現れたのかはわからない。タイムスケジュールからして零号機は第3新東京市に擱坐している第5使徒の遺骸解体作業支援をしている真っ最中のハズだ。

 

「艦長、無線を1つ借りられますか? 使徒が現れた以上、我々ネルフは使徒と戦う義務があります」

 

『オセローより入電! エヴァ弐号機、起動中!!』

 

 零号機が現れたのならば、ネルフとして動かせる戦力があるというワケで、無線を1つ借りようとした所に輸送中の弐号機も起動しているとの報せが入る。弐号機の権限がまだ艦隊持ちであるのはこの際どちらでも良い。エヴァを指揮系統に入れた対使徒戦の経験はこちらにある。

 

 そして零号機が現れたということは──。

 

『こちらエヴァ零号機パイロット、綾波シンジです。これより使徒殲滅戦へ移行します』

 

 零号機からシンジ君の声で通信が入る。零号機の指揮権はネルフ──つまり現時点ではアタシが持っている事になる。

 

 艦長が目配せすると、1つ無線を手渡された。艦長に1つ会釈してから通信を繋ぐ。

 

「シンジ君、聞こえるわね」

 

『感度良好。バッチリです』

 

「結構。零号機で海中を移動中の使徒を殲滅、良いわね?」

 

『了解。と、言いたいところですが、零号機単独では周辺被害がバカになりません。使徒を海の上に引っ張り上げます。弐号機でATフィールドを中和、火力を集中して使徒を撃滅するプランを提示します』

 

 シンジ君の乗った零号機であれば使徒を単独で殲滅するのも難しい事ではないのは第4使徒戦を振り返れば判る通りだ。

 

 しかしそれを洋上で友軍が密集している中では難しく、まだ要救助者の多い海域での戦闘も憂慮している。零号機が第4使徒戦で使用した光線攻撃や電撃攻撃はどちらもそうした要救助者の居るところでは使えない。

 

 人類を滅亡させ得る存在を前にして人命など少々目を瞑っても許されるだろう。その人命を優先した事でエヴァが使徒に敗北するのならば、その責任は誰が取れる。大を救う為に小を切り捨てるのは往々にしてあるものだ。

 

 しかしそれを彼に強要するワケにも行かない。それは作戦指揮官である自分が判断すべき事である。

 

 だから現場から他の命を気遣って戦闘を展開する要望が出たのならば、命を選ぶのはこちらの仕事だ。

 

「わかったわ。出来る、のね? シンジ君」

 

 それでも言い出したからにはやれる自信が、アテがあるのだろう。でなければ言い出さないだろう。 

 

『はい』

 

「よろしい」

 

 ならばあとは此方の仕事だ。

 

「艦長。弐号機の出撃を要請します」

 

 弐号機はまだ国連軍太平洋艦隊の管轄下にある。つまり出撃権限は彼方にあり、弐号機を戦わせるには艦隊司令でもある艦長に許可を取らなければならない。

 

「フン、要請もなにも、勝手に動き出しておるわ」

 

 既に起動して立ち上がっている弐号機の様子も見える。使徒が輸送艦へと向かっていく。

 

 それを見た零号機が海の中へと入っていった。

 

『ATフィールド、全開ッ!!』

 

 海の中に入った零号機から、シンジ君の声が無線で聞こえてくる。そして零号機の沈んだ海の中で激しい衝撃が起こり、周りの海水が爆発した様に舞い上げられる。

 

 割れた海面の中、零号機は巨大な魚の様な特徴を持つ使徒を受け止めていた。

 

『うおおおおおおおっ!!!!』

 

 そのまま受け止めた使徒を巴投げで海上へと投げ出した。

 

『アスカ合わせて!!』

 

『アタシに指図すんな!!』

 

 輸送艦から飛び上がった弐号機はそのまま使徒に取り付く。

 

『ミサトさん! 非常用電源ソケットは!?』

 

「艦長…」

 

「……わかった、用意させる」

 

「ありがとうございます。シンジ君、電源は用意するからアスカをこっちに寄越して!」

 

『聞こえてるわよミサト! でもこのバカデカクジラどうすんのよ!?』

 

『ATフィールドで陸揚げさせる! 叩きつけて!!』

 

 弐号機を運んでいた輸送艦の上に降り立ち、七色に光るATフィールドを展開する零号機。艦隊の上空をカバーして被害を抑える気なのか。

 

『どぉぉぉりゃあああっ』

 

 使徒に取り付いていた弐号機が零号機が展開したATフィールドへ向けて蹴り出した。

 

『予備電源出ました!!』

 

『リアクターと直結完了!』

 

『飛行甲板退避ーっ!!』

 

『エヴァ着艦準備よし!!』

 

 オーバー・ザ・レインボーの甲板には直ぐ様EVA用外部電源ソケットが運び出され、艦のリアクターと直結するケーブルへと接続された。

 

 そして使徒を蹴り飛ばした勢いを乗せて飛んでくる弐号機が迫る。

 

「総員対ショック姿勢!!」

 

「デタラメだッ!!」

 

 かなりの高度から降ってくる弐号機。着地に艦が耐えられるかどうかは一か八かだ。

 

『ちょっと、何したのよ!?』

 

『その勢いで突っ込んだら艦が割れるでしょ!!』

 

 着艦間際、弐号機の足元に七色に光るATフィールドが展開されていた。そしてそのATフィールドが消えて着艦する弐号機は、ほとんど揺れを起こさなかった。

 

「ありがとう、シンジ君」

 

 助けられた事に胸を撫で下ろしながら礼を言う。

 

『外部電源切替終了!』

 

『くそ、暴れるな!!』

 

 外部電源へと弐号機が切り替える最中。零号機の張ったATフィールドの上、まな板の上の魚の様に使徒が跳ねていた。

 

「アスカ、シンジ君とATフィールド張るの代わってあげて!」

 

『ハァ? そんなの代わってどうすんのよ』

 

「ATフィールド張るので精一杯で攻撃出来ないのよ!」

 

 他の使徒戦の例を見るなら大きいだけで特に特殊な能力を持っているようには見えない目の前の第6使徒に対して零号機が遅れを取るハズがない。しかし使徒をATフィールドで抑えつけているだけで、零号機は攻勢にまわろうとしない。

 

 あの巨体を支えるので手一杯なのだろう。

 

 つまり少しでも良い。零号機が攻撃に移ることが出来れば勝てる。

 

『あんなヤツ、アタシが三枚に卸してやるわよ!』

 

「ちょ、アスカ待ちなさい!」

 

 止める間も無く弐号機は飛び上がり、零号機の展開するATフィールドの上に着地した。そしてそのまま暴れまわる使徒へと向かっていく。

 

『うっ、ごぉぉぉ、お、重いぃぃっ』

 

『何言ってンのよ。男なんだから我慢しなさいよ!』

 

 アスカの独断専行で予定が狂った。B型装備の弐号機に、零号機を上回る攻撃力は期待出来ない。

 

「アスカ、命令よ! 戻りなさい!」

 

『別にフォースの手を借りなくたって、アタシ1人で充分よ!』

 

 そういうことを言いたいんじゃない。弐号機よりも零号機の方が確実に使徒を倒せる見込みがあるからATフィールドの展開を代わって欲しかったのだ。

 

『うぐぐぐ、っ、うわあっ!?』

 

『なに!? キャアアア!!!!』

 

 弐号機がATフィールドに乗った所為か、それとも使徒が暴れていた所為か、零号機を支えていた輸送艦が大きく沈み込んでバランスを崩した。零号機のATフィールドが消失。そのまま使徒も弐号機も零号機も海の中に落ちてしまう。

 

「シンジ君! アスカ!」

 

『んもぉー! ドジ!! トドメ刺そうとしてるのに力尽きてるんじゃないわよ!』

 

『そんなこと言われたって』

 

「いい加減にしなさい!! アスカ、あなたが今作戦行動に支障を出しているのよ? このまま使徒殲滅を邪魔するのなら後方に下がってなさいっ」

 

 シンジ君に落ち度はない。命令無視をしたアスカの方にこそ非がある。その所在を擦り付けようとするアスカに気づいたら声を荒立てていた。

 

『な、なによ。アタシは邪魔だって言いたいの!?』

 

「使徒を倒さなければ世界は滅ぶのよ? 子供のワガママの為に私達は戦っているのではないの」

 

『っ、くっ』

 

 あまり言いたくはないけれども、言わなければならない事もある。嫌われ役になるだけで使徒を倒せるのならば安いものだ。

 

「シンジ君。もう一度使徒を捕捉出来る?」

 

『出来はしますけど、その後が問題です。ATフィールドで抑えつけるので精一杯で』

 

 やはり零号機が攻撃出来なかったのはそういう理由だったらしい。

 

『使徒を抑えるのはわたしがやるわ』

 

「レイ? レイも乗ってるの?」

 

『はい。解体作業中に此処へ来ましたから』

 

 確かに解体作業中にどうやってだか現れた零号機にレイが乗っている事は想像に難しくない。今まで静かだったから乗っていないものかと思っていた。

 

『っ、目標接近、迎撃開始します!』

 

「了解。あとは頼んだわシンジ君」

 

 海の中という状況。さらには動かせる戦力もない。ともなればあとはシンジ君とレイに任せるしかない。

 

 それでもシンジ君なら心配は要らない。

 

『ATフィールド、全開!』

 

 グオオオオオオオーー!!!!

 

 レイの声が無線を通して聞こえてくると、海面を割って聳える光の翼。そして響いた雄叫びは零号機のものだろうか。

 

 それは15年前の悪夢。けれどそれは私達を守るために戦う彼等の翼だから。信じるだけ。祈るだけ。どうかこの翼が人類の明日を切り開いてくれるものであることを。

 

『アスカ! 零号機の周りをATフィールドで囲って!!』

 

『なによ。アタシの助けなんて要らないんでしょ』

 

『そんなことない。今アスカにしか頼めないんだ!』

 

 此処からは戦況がどうなっているのかは見えない。ただ通信だけが限定的に様子を伝えてくれる。

 

『ハン! このアスカ様を顎で扱おうなんて10年早いのよ!』

 

 無線でアスカに物申そうかとした時──。

 

『ありがとうアスカ。これで全力で戦える!』

 

 そうシンジ君の言葉で無線を下げた。

 

『ちょっと、口の中に入ってどうすンのよ!?』

 

『こんな巨体じゃ外からより中からの方が効き易いでしょ!』

 

 どうやら零号機が使徒の口の中に入ったらしい。確かにATフィールドの上に陸揚げされた使徒はエヴァの何倍もの巨体をしていた。となればシンジ君の判断には一理ある。

 

 割れた海面から迸る稲妻。つまりそれは使徒の口の中で電撃攻撃を放つという事。使徒を受け止めるATフィールドはレイが、自分を守る為のATフィールドをシンジ君自身が張るなら、あの電撃から周りを守るためには確かに弐号機の──アスカの協力は必要だった。

 

「総員対閃光防御!!」

 

「なんだと!?」

 

『ダブルバスタァァァコレダァァァッ!!』

 

 念のためにと通告すると瞬間、世界が光に包まれたかの様に真っ白になった。

 

「っ、ぐぅぅ、なんというデタラメな兵器だ」

 

 艦長が頭を振りながら悪態を吐いていた。

 

 ATフィールドのお陰で外部に影響は出なかっただろうが、零号機を中心にして海にぽっかりと穴が空いていた。それはつまり今の電撃攻撃で海の水までも蒸発した事になる。

 

『零号機より旗艦オーバー・ザ・レインボーへ。敵性体殲滅を確認。これより帰投します』

 

「お疲れ様、シンジ君」

 

 光の翼を広げ、海の中に空いた穴の中で浮かぶ巨人に人々は何を思うのだろうか。ただ1つ言えることは、海の中の魔物をしとめた事で、成す術もなくいた兵たちから歓声が上がったのは確かだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 弐号機で使徒を倒すものだと思っていたけれど、零号機が──レンが来てくれた事で話が変わった。

 

 結局は宇宙怪獣を受け止めたガンバスターの様にガギエルを受け止めて、その口を抉じ開けてダブルバスターコレダー──両腕と両足から放出した電撃を浴びせて殲滅した。

 

 アスカの見せ場を悉く奪ったから嫌われるのも覚悟の内である。

 

 ATフィールドをワンクッションに弐号機を着地させたから傷みも殆ど無いオーバー・ザ・レインボーの甲板には、降り立った時の様に戦闘機が駐機されている光景は無く、二機のエヴァが座っていた。

 

 弐号機はともかく零号機は予定に無い荷物なので露天駐機は致し方なし。弐号機にしても輸送艦のオセローが損傷したともあって戻すことは出来ない。よって二機とも艦の甲板に座らせて置くしかなかった。

 

 零号機を降り立った自分を待っていたのは、物凄い目付きで睨んでくるアスカだった。

 

「なんだったのよ。さっきのアレは」

 

「あ、アレって言われても」

 

「惚けんじゃないわよ。アンタのエヴァがおかしいって言ってンのよ。そもそも5分以上経ってるのに電源も無くならない、使徒を焼き殺す電撃を放つわ、あんなのエヴァじゃないわよ。アレじゃまるで──」

 

 アスカが何を思っているのかは察する事が出来る。エヴァという存在に長く関わっているから、ある意味エヴァという存在に関しては自分よりも実感として知っている事は多い。

 

 だから零号機が異常であることも見抜いている様子だった。

 

「それはあなたがエヴァにココロを開いていないから」

 

「なによアンタ」

 

「レイ?」

 

 自分とアスカの間に入ったのはレイだった。

 

「エヴァはもう1人の自分。ココロを閉ざしていてはエヴァは動かないわ」

 

「なによ。アタシはコイツと話してるのに偉そうにして。アンタはなんなのよ」

 

「わたしはわたし。綾波レイ、あなたと同じ。でもあなたはただエヴァに乗っているだけ。エヴァと身もココロも1つになっている彼とは違う」

 

 零号機の秘密を溢すレイに少し心配になる。周りに誰も居ないとは言え、その手の話題を話せる場ではないし、話しても良いかどうかは自分たちの判断では出来ない。少なくともリツコさんに相談してからの方が良いだろう。

 

 ただそれよりもアスカはレイに興味が向いているらしく、レイを値踏みする視線を送っていた。

 

「綾波レイ。成る程、アンタがファーストチルドレンね。顔色も変えないなんて人形みたいなヤツ」

 

「わたしは人形じゃない。わたしはわたし。わたしは綾波レイ」

 

 無意識なのかなんなのか、レイがあまり触れて欲しく無いだろう話題に触れるアスカに、レイの声も険しくなる。

 

「アスカ。この事は簡単に話せる話題じゃないから、詳しくはまた別の時に話すよ。それより助けてくれてありがとう。アスカがATフィールドを張ってくれたお陰で僕も周りを気にしないで使徒を倒すことが出来たよ」

 

「フン、そんな見え透いた言葉に喜ぶと思ったら大間違いよ。バカにしないで」

 

 バカにはしていないけれど、今のアスカからすれば使徒を自分の手で倒すことに意味があるから、やっぱり受け答えはキツい。思春期であり色々と拗らせている上に更に敵意を持たれている立場だから自分に対する態度が辛辣なのはこの際仕方がない。思ったよりもアスカとの会話は難しいと思い知らされる。

 

「それでもアスカのお陰で助かったのはホントの事だから」

 

 だから感謝をきちんとアスカに伝える事は無駄にはならないと思う。

 

「……ホント、バカの上に間抜けで能天気でドジでアホね」

 

 そう言い捨てて、アスカは行ってしまった。

 

 これから先、自分はアスカと上手くやって行けるのだろうかと思い耽っていると、ふと視線を感じて不思議に思うと、その視線を感じて行き着いた場所は──弐号機だった。

 

 弐号機にはアスカの母の、子を想う部分が──魂の一部が取り込まれている。

 

「レン…」

 

「難しいと思うわ。アナタの知識の通りなら、サルベージしてもココロは欠けてしまっている」

 

 ユイさんとの違い。それはヒトとしての魂の在処だろう。ユイさんの場合は心も肉体もすべて初号機に取り込まれていた。

 

 アスカの母──キョウコさんは肉体が無事で、魂の一部を弐号機に持っていかれてしまっている。そして欠けた魂の入った肉体だけが残った。

 

 もし弐号機からサルベージをしても欠けた魂が戻ってくるだけになってしまうだろう。レンの言葉からサルベージは出来てもその結果はあまり良い事にはならないかもしれないということだった。

 

「お疲れ様、シンジ君」

 

「あ、お疲れ様です」

 

 アスカと入れ違いでミサトさんがやって来た。

 

「アスカとなにかあったの?」

 

「まぁ、色々と」

 

 何があったかまでは濁しておく。今態々話す内容じゃないだろうと思ったからだ。

 

「そ。まぁ、気長にやってちょうだい。あの子も根っからの悪い子じゃないだろうし」

 

「どうでしょうかねぇ」

 

 敵意バリバリな彼女とこの先どうやれば仲良くなれるのか。今考えてもその答えは見つからなかった。

 

「レイもレンちゃんもお疲れ様」

 

「はい」

 

「ワタシは彼が危険だから来ただけ。でも勝手に来たから迷惑を掛けてしまったかもしれない」

 

「ま、お陰で使徒も倒せたから結果オーライでしょ」

 

 零号機籠城事件から自らの非を思慮する様になったレンは、今回勝手に零号機ごとやって来てしまったことに一定の非を感じているらしい。そんなレンの頭を自分は撫でてやった。

 

「悪いと思っているなら、必要な時に謝れば良いさ。レンのお陰で助かったよ。ありがとう」

 

「ええ…」

 

 礼を言うとポッと頬を染めるレン。此処が人前じゃなければ抱き締めてしまいそうな愛らしさだ。

 

「レイ?」

 

「…………」

 

 レンを撫でていると、無言でレイが此方を見ながら手を取ってふにふにと触ってくる。

 

 その手を頭にやって撫でてやると、気持ちよさげに目を閉じる。

 

「レイもありがとう。助かったよ」

 

「ええ…」

 

 実際、ガギエルをレイが受け止めてくれたことで、自分はダブルバスターコレダーを放つ為のエネルギーを束ねる事に集中出来た。だからレイとアスカのお陰でガギエルを倒せたようなものだ。

 

 こんな風に素直に受け取ってくれる綾波シスターズの相手ばかりをしているから、アスカみたいな子に対する態度がなっちゃいないんだろうなと心の片隅で思い浮かべずにはいられなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「あーっ、もうっ!!」

 

 胸の中を荒れ狂うのはワケもわからない怒りだった。

 

「なにがアスカのお陰よ。なんなのよあのボンクラ!」

 

 零号機のあのワケもわからない力もそうだ。あんなのはエヴァじゃない。エヴァだなんて認めてやらない。あんなの資料映像で見た使徒そのものだ。

 

 しかも1つのエヴァにパイロットが3人も乗っているのだって知らないし気にくわない。元々エヴァは1人で乗らないと神経接続にノイズが混じるデリケートな兵器なのに、なんで零号機は3人を乗せていても問題なく動くのか理解できない。そして3人乗っているということは一機で3人分の働きが出来る事になる。だったらやっぱりズルしてる事になる。1人でエヴァに乗っている自分には、1人じゃ自分相手に追いつけないから3人もパイロットを乗せて自分を上回らせている。デタラメなエヴァの正体見たり。

 

 そもそもただのロボットに心なんてあるわけがない。エヴァはアタシがアタシでいるための道具に過ぎない。そんな道具に心を開くなんてチャンチャラおかしい話しもあったもんじゃない。

 

「そうよ。あんなヤツの言葉なんてどうでも良いんだから」

 

 なのにあのムカつく笑みが頭を過るのが腹立たしい。

 

 これじゃあまるであんなヤツの言葉を嬉しがっているみたいで余計に腹が立つ。

 

 それでも、どうして、あんなヤツの言葉が心地良いなんて感じた自分がわからない。

 

 わからないから、余計にムカつく。ホントになンだってのよ。

 

 

 

 

つづく。


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