気がついたら碇シンジだった   作:望夢

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何も考えずに勢いで書いてるから統合性とかは未来の自分に丸投げする!ついてこれるヤツだけついてこいスタイル。


魂のルフラン

 

 三度目のエントリープラグ内とプラグスーツ。未だにコスプレしてる感が抜けきらないのは、20年以上も創作物のアイテムとして見ていたからからだろうか?

 

 そんな間抜けな事を考えてないと別の事で頭が一杯になりそうだ。

 

 冬月先生に頼んで繰り上げて貰った零号機の起動実験。いや準備してた技術課の皆様方申し訳ない。ただシャムシエルが来る前に自分が本当にエヴァに乗れるか否かを確かめたかったのだ。

 

 しかしこれからエントリーするのは零号機。旧劇の公式ではコアに魂が入っていないとされている。レイが動かせるのは、彼女がリリスの魂の持ち主だから。

 

 零号機はリリス由来のエヴァであり、そのリリスの魂を持つレイだから、コアに魂が無くても動かせた。

 

 つまり零号機IN綾波レイはもうひとつのリリスとして成り立つ存在だったのだ!!

 

 アルミサエルに侵食されて最悪サードインパクト起こってた可能性が微レ存。おっかねぇ……。

 

 話を戻す。

 

 魂の無いエヴァと接触するとどうなるのか。

 

 それは初号機とユイさん、弐号機とアスカのお母さんのキョウコさんで実証されている。つまりエヴァに取り込まれてしまう。

 

 シンジ君が相互互換実験で零号機に取り込まれなかった理由は、思い出せない。ただ取り込もうとして暴走したとは公式設定だったはず。

 

 ならば自分が試せばどうなる?

 

 良くて暴走。悪ければ取り込まれる。魂の無いエヴァとのシンクロがどんな感覚かはわからないが、良い結果に終わらせる事は難しいだろう。

 

 それでも、やるしかない。

 

 奇跡を待つより捨て身の努力──。

 

 ミサトさんのセリフが過る。

 

 多分、そうなのかもしれない。そうするしか方法がないのなら、当たって砕ける覚悟で挑むまで。

 

 エントリープラグ内に外の景色が映る。第二次コンタクトに入った。あとは第三ステージで異常がなく絶対境界線(ボーダーライン)をクリアすれば起動できる。

 

 今の所感覚に異常はなし。というより、初号機で感じていた誰かが近寄ってくる感覚がない。

 

「絶対境界線まであと1.0…、0.8…、0.6…、0.4…、0.3…、0.2…、0.1……」

 

 フフ……、ウフフフ──。

 

「なに……? 誰──?」

 

 いよいよ零号機が起動するというタイミングで聞こえた笑い声。

 

 その笑い声の出本を探す為に左右に視線を泳がせても誰も居ない。そして視線が正面に戻った時……。

 

「アナタ──ダァ、レ……?」

 

 目の前にレイの顔がドアップで映っていた。

 

「ッ────!!!!」

 

 いきなり目の前に人の顔があれば誰でも驚くが、驚きと共に抱いたのは恐怖。

 

 見れば綾波レイであるけれども全体的に色素が薄い。というより白い──。

 

「ネェ──ワタシトヒトツニナリマショウ……?」

 

 そう彼女が、聞く者全てに安らぎを与える様な柔らかく、しかし全く熱の無い虚無感すら感じる声で囁きながら、その白い手で自分の手に触れた時──手の感覚が消え去った。

 

 マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ──。

 

「…や、めろっ、お、れ…は、…消え、る、わけに、は……っ」

 

「ドウシテ──? ツライコトバカリノセカイニコダワルノ……?」

 

 そう、彼女が問い掛けてくる。何故?ドウシテ? そう問い掛けながらも身体を這う手は上へ上へと登っていき、触られている端から身体の感覚が無くなっていく。

 

「ニゲダシタノニ、ニゲダシタイノニ、ドウシテ? ヒトツニナレバ、ツライコトモナクナルノニ──」

 

「それ、は……ッ──」

 

 続きを放つ事は出来なかった。残りの身体を包み込む様に、彼女が此方を抱き締めたからだ。

 

 自身を失い、紅い液体になる寸前の耳が最後に捉えたのは、自身が液状化する音だけだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ここは──」

 

 見えたのは揺れる水面を海の中から見上げている様な琥珀色の海の中の風景。

 

「ここは、すべての生命(いのち)が還る場所。巡り廻る場所。すべての生命が、ひとつになる場所──」

 

 横になっている自分に馬乗りになっている女の子──綾波レイ。

 

「違う、お前は──」

 

「零号機──。アナタの知識を私の認識に当て嵌めればそうなる。これも、アナタの知識の借り物──」

 

 ハッキリと人の言葉を流暢に発する零号機。

 

 その腕は胸板を貫いていて、下半身は互いに融け合う様になっている。何処からか自分で、何処からか自分ではないのかわからない、曖昧な状態。

 

「どうして、こんな──」

 

「言ったわ。私と、ひとつになろうって」

 

「だからって。ひとつになって何の意味があるんだ」

 

 零号機へと問い掛ける。ただ見下ろす彼女の表情から感情を読み取る事は出来ない。まるで彼女も人形の様に表情が無いからだった。

 

「私は、人形じゃない。造られた存在でも、心がある」

 

 人形の様だと思った時、彼女の言葉に初めて色が生まれた。それは確かな憤り。

 

「なら、どうして俺を取り込むなんてしたんだ。心があるのなら、心が消えてしまうことの意味だって解るはずだ」

 

 零号機が此方の知識を使って綾波レイを象った様に、此方の思考を拾い上げた様に、心を無くしてしまう事の意味も伝わるはずだ。

 

「そう。でも、ひとつになればアナタは永遠になれる。一緒に居ましょう? ひとつになって、一緒に、永遠に、ずっと──。苦しみも、悲しみも、辛さもないのよ」

 

「ッ、だか…らァ!!」

 

 横になっていた身体を起き上がらせて、そのまま彼女を押し倒した。手が、彼女の胸を鷲掴みにしているが知るもんか。今はそんなことどうだって良い。

 

「何をするの?」

 

「こうやって触れたり会話してなくちゃ、一緒に居たって意味がないだろ!!」

 

 そう叫ぶと、彼女はその眼を見開かせた。

 

 下半身の感覚も戻ってくる。自我の境界線を少しずつ取り戻していく。

 

「何故? 辛いことしかない世界で、どうして生きようとするの?」

 

「それは──」

 

 そう、自分には関係無い。世界が一つ滅んだって知らん振り出来る。シンジ君に憑依してしまったから、ただ彼の代わりをしようと自分に役割を押し付けただけだったんじゃないのか?

 

「アナタは背負う必要も無いものを背負おうとしている。何故、辛いと解っていて自分から傷つこうとするの?」

 

 わからない。どうしてだなんてハッキリと言えない。でもそれでも自分が戦う理由を挙げるのなら。

 

 口の中に広がる苦味と香ばしさを思い浮かべた。

 

「それが、アナタの理由?」

 

「わからないさ。でも思い浮かべるんだから、今はそうなのかもしれない」

 

 なんとも俗っぽい理由だと我ながらに思う。もっとこの世界を守ってやるだとかカッコいいことを考える前に、毎日飲んでいるコーヒーの事を思い浮かべる。

 

 いやそりゃこの約二週間カウンセリングとかの為にリツコさんのデスクに入り浸って、旨いコーヒー飲ませて貰ってたけどねぇ。

 

 そもそもどうしてシンジ君はサキエル戦後に眠ったままだったのだろうか。どうして自分はシンジ君に憑依する事になったのか。

 

「それはアナタの魂の波長が彼と近かったから。彼はもう、エヴァの中から出る気が無いから。魂の無い器に器の無い魂が入り込んだだけ」

 

「そんな、……いや。そうだよなぁ……」

 

 画面越しにしか見たことはないとは言え、あんなに恐くて痛い思いをしたのなら、逃げ出したくなっても誰も文句は言えない。それがこの世界では家出とかじゃなくて、エヴァの中に逃げてしまっただけ、そういうことなのか。

 

「空の器はATフィールドを失ってカタチを保てなくなる。でも彼の身体の生存本能が、アナタを呼び寄せた。アナタはただの被害者」

 

 そうか、そうだとしても、仕方無いよなぁ。

 

「何故? アナタはそう思うの?」

 

「逃げ出したのは俺だって同じだから、シンジ君の気持ちはわかる。とは言えない。当事者じゃないから本人の苦しみは本人だけにしかわからない。でも逃げ出したくなる程の苦しさとか辛さは解ると思う。あとは、一応こんなんでも、大人になった人間だからかなぁ……」

 

 正直引き篭もり生活とかしてて社会経験まるで足りてない心はモヤシのガキであるけれど、それでも大人であるから子供を赦してやれるのだろう。泣いている子供を煩いと叱るのではなく、どうしたのだろうか? なんで泣いているのだろうか? 泣きたいことがあったんだろう。子供なんだから仕方がない。

 

 それは諦めではなく、何処まで他人を赦せるかということなのだろう。

 

 大人は自分で自分を赦せるし、律する事も出来る。でもそれを子供にまでさせられるかとなると難しいだろうし、そうなれば子供は誰に赦して貰うんだって話になってしまう。

 

 誰にも赦して貰えないのだとしても、だったら俺が赦してあげる。だから──。

 

「ひとつになる事なんてしなくても、一緒に居る事は出来るんだ」

 

「あ……っ」

 

 彼女の腕を引いて、その身体を抱き締めてやる。

 

「くるしい、わ」

 

「そうだよ。ひとつになったら味わう事なんて出来ないんだ」

 

 そう答えて、少しだけ力を緩めてやると、彼女からも腕を回された。

 

「抱擁──ひとつになる方法。でも、他者が居なければ成立しない行為。温かい……。そう、私は──」

 

 ひとつになりたい。その想いこそ悪いとは言えない。それこそ人間は大切に想う異性とひとつになりたいという願望を抱くものだ。

 

 しかし彼女の様に本当の意味でひとつになってしまうやり方はダメだ。存在の消失は人間では死と同義であるからだ。

 

「寂しい──。寂しいのね、私は──」

 

 グッと抱かれる力が増した。背中に回した腕を上へと上げて、その頭を撫でてやった。

 

「愛撫──。愛情を込めて撫でること──。何故、ひとつになろうとした私に愛情を抱くの?」

 

 何故と訊かれたら、可愛いからと答えるかな。

 

「な、何をいうのよ……」

 

 まるで子供のように純粋無垢だからそう思うのかもしれない。同化されかけて危うく死ぬところだったけれども。

 

「それでも君は今、他者とひとつになる事に他人の存在の不可欠さを知った」

 

 例え人の心の壁が他人を傷つけても、それを人は赦して解りあっていく生き物であると自分は思っている。その為に言葉があり、感情があり、身体があり、存在がある。

 

 他者との相互理解、それを重ねて培われた他者との繋がりの果てこそがヒトの心の補完に繋がっていくのだと思っている。

 

 その相互理解を取っ払って結果だけを取る人類補完計画は、確かに苦痛なんて感じないだろうし悲しくも辛くもないのだろう。

 

 それでも、自分本意ではない、他人の御大層な独善的な理由で自分を消されるなんて真っ平御免なので、やっぱり人類補完計画はクソ食らえである。

 

「アナタは、そう願うのね」

 

「ああ。だから君の力を貸して欲しい。俺一人じゃ使徒と戦えない。辛いし痛いだろうし恐いだろうし。それでも俺は、君に頼む」

 

「望み、願い、こうあって欲しいという思い。希望を他者へ願い望むこと。希望──未来に望みを掛けること。なら、私の願いは──」

 

 彼女が身体を離す気配がしたので、自分も身体を離し、改めて彼女と向き合った。

 

「アナタと、一緒に居たい」

 

「……もちろん」

 

 それが彼女の願いであるのなら、自分はそれを受け入れよう。

 

「──アダムの仔が向かってきているわ」

 

「わかるのか?」

 

「起源は同じものだもの……。でも、私はワタシ。リリスでもない、綾波レイでもない。アナタはワタシを選んでくれた、見つけてくれた、導いてくれた。望んでくれた。だからワタシはアナタの願いをカタチにする」

 

 ふわりと身体が浮かび上がっていく。それでも彼女の手を握って、2人で紅い水面の中を浮かび上がっていく。そして──。

 

「大丈夫。離さないから──」

 

「ええ」

 

 グッと手を握り締めたまま、エントリープラグの中へと還ってきていた。

 

 通信回路を繋ぐ、ただし音声だけだ。

 

「リツコさん! 居ますか? リツコさん!?」

 

 彼女の言葉通りならシャムシエルが向かってきているはずだ。結局大トラブルを起こしてしまっておそらく初号機とレイの起動実験は見送られているはずだ。

 

『ええ、居るわ。還ってきて早々悪いけれど、使徒が現れたわ。今はレイが初号機で対応しているけれど』

 

 まじですか? 既に戦闘始まってると言いますか!?

 

「出ます! 地上へのルート開いて下さい!!」

 

『先ずは背に腹は代えられないということね。でも万が一の為に機体は硬化ベークライトで固めてしまったわ』

 

「ウソぉ!?!?」

 

 いや、安全対策という面ではそれが正しいわけだ。一度融けたという事は、シンクロ率400%行ってた可能性もあるわけで、それにしては周りは何も壊れちゃいないが、何時爆発するともわからない爆弾を抱えるのだから考え得る対策を施すのは理解出来る話だ。

 

『まだ硬化し始めて間もないから実力で排除して!』

 

「了解!!」

 

 とにかく抜け出す為に足を動かそうとするが、ビクともしない。

 

「S2機関解放。これなら壊せるわ」

 

 そう彼女が言った途端。胸の奥底からまるでマグマの様に熱が全身へと行き渡って行くのを感じる。ビクともしなかった硬化ベークライトに亀裂が入り、さらに内側からATフィールドで押し出せば砕け飛んで脱出成功である。しかし事態は一刻の猶予を争う。

 

「アナタなら翔べるわ。ATフィールドをどういうものか知っているアナタなら」

 

 プラグの中でエヴァを動かすためにインテリアに座る自分の膝に乗せている彼女がそう言い放った。

 

 そういうことならば遠慮は無しだ。

 

 ATフィールド展開。重力の枷からエヴァを解き放ち、フィールド推進で零号機は宙を翔び、硬化ベークライトに悪戦苦闘していた合間に開いていたルートを飛んで行く。

 

 頭上に円環が出ているが知ったことか! 今は何よりも現場への到着を第一とする。

 

 実験棟を抜け、ターミナルドグマを抜けてジオフロントに飛び出し、さらに天井都市に向かって飛んで行く。

 

 ゼロ地点のエヴァ射出口からいよいよ地上へ出る。眼下に広がる街並み。そして光のムチを蠢かせて山の斜面に横たわる紫の鬼神へと迫る使徒を捉える。

 

 最大望遠で初号機の左手の合間に奇跡的に収まる2人の姿も認める。

 

「はああああああぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

 雄叫びを上げながら急速降下。

 

 横たわる初号機へとムチを振り下ろそうとしたシャムシエルへ、横から飛び蹴りを食らわせて排除する。

 

 そのまま初号機を守るように着地し、彼女と共に昼の使徒を睨み付ける。

 

「いくよっ」

 

「ええ…っ」

 

 2人で手を重ねながらインダクションレバーを握り締め、シャムシエルへ向かって自分達は駆け出した。

 

 

 

 

つづく。


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