一之瀬花名は表裏一体である   作:伝説の超三毛猫

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作者の悪い癖「思いつき」がまた出ました。


親友と書いて戦友と読ませたい

 とある一軒のアパート『てまりハイツ』。

 そこで一人の少女が本を読んでいた。ピンクがかった髪をショートに揃え、一部をリボンのような独特な結びをしている。

 彼女の名前は一之瀬(いちのせ)花名(はな)

 

 そこに、一人の女性が制服を持ってやって来る。

 

「はなちゃーん、高校の制服できたわよ~」

「え?」

「はい、はなちゃん。早速だけど、着てみせて?」

「えっ…ええっ!」

 

 いま、花名に「着てみせて」といった女性は、名を京塚(きょうづか)志温(しおん)といい、てまりハイムの管理人である。また、花名の年上のいとこでもあり、面識と親交も家族ぐるみであったりする。ロングヘアーとエプロンが似合うおっとり系の女性だが、一番の特徴はやはりおっぱいがデカいことだろう。

 志温の言う通り早速高校の制服を着てみせる花名。

 

「ど…どう、かな?」

「はぁぁぁぁ~~~、カワイイ~!」

「そ……そうかな…だ、大丈夫かな?」

「勿論大丈夫よ!可愛い可愛い!」

「と………と言うか志温ちゃん!あのね……私、ちゃんと高1に見えるかな…?」

「大丈夫大丈夫!高1どころか中1にだって見えちゃう!」

 

 だが、やはり入学というものは緊張するものなのだろう。花名はそわそわしっぱなしだ。新しい装いの自分を恥ずかしがっている様子が隠しきれていない。志温もそのことはなんとなくわかっているようで、「中1にだって見えちゃう」と冗談を言ってみる。「それはちょっとやだなぁ……」と苦笑いする花名。

 そんな花名を見て「そうだわ!」と何かを思い出したように引っ込む志温。数分後に戻っくると、彼女は高校時代の制服を着こなしていた。たわわなおっぱいがいまにもはち切れそうである。桁違いの戦闘力に花名は固まる。

 

「じゃーん!」

「………」

「高1に見えるかしら?」

 

 志温はいたずらっぽく微笑む。花名の戸惑う姿を予想していた。しかし―――実際に返ってきた反応は、それとはかなり異なるものだった。

 

「見えないよ〜志温ちゃん、そのおっぱいで高1は無理だよ〜!」

 

 今度は志温が固まる番だった。

 花名の様子はというと、さっきまでのおどおどとした様子は微塵もない。

 志温の冗談に対するおかしそうな笑顔。

 堂々とした立ち振る舞い。

 身内でなければ引かれてしまうほどに気安い口調。

 まるで別人のようだ。

 

「は…はなちゃん?」

「あぁ、ごめんね志温ちゃん。先輩っぽく見えるよって言いたかったんだ。ねぇ、写真撮ろうよ!」

「え、えぇ、そうね……」

 

 そんな別人のような変化に志温は戸惑うのみ。

 

「ねぇ、はなちゃん」

「なに?志温ちゃん」

「やっぱり、ずいぶん変わったわよ」

「そうかな?最後に志温ちゃんとあったの、ずいぶんと昔だからそう思うだけじゃない? 私も久しぶりに会った志温ちゃん結構イメージ変わったって思うもん」

「そう…ね。それもそうね。じゃ、こっち来てはなちゃん。撮るわよー」

「わかったー」

 

 嬉しそうにツーショットを撮る制服姿の女の子二人は、本物の女子高生のようだ。一人はもうすぐ本物になるけど。そんな楽しいひと時を過ごすうちに、志温はさっき感じたいとこへの違和感などすっかり忘れちゃうのであった。

 

 


 

 

 …翌日。入学式の日。

 アパートから出た花名の携帯に通知が届く。先程花名が送った『そろそろ入学式です。行ってきます』というメールの返信だ。宛名はもちろん、花名の母親である。

 

『行ってらっしゃい。()()()()頑張って、気を付けて。』

 

 それを確認するが早いか再び携帯が震える。今度は、父からのメールだ。

 

『父さんは()()()成功を祈ってるぞ!』

 

 それを読み終わった瞬間、母から更にメールが届く。…………3通も。そして父からメールを1件受信したかと思えば、今度はその通知の上を母のメール5通の上書きだ。流石に送りすぎでは?そろそろやめてやれ?

 そんな賑やかな携帯電話を見つめていると、()()()()()()()声がかかってきた。

 

『…相変わらず、花名のことになると過保護だね、二人とも』

「うん………お父さんもお母さんも、こんな私を気にかけてくれているんだね」

『おのれの娘なんだから当たり前でしょーが。さ、携帯をしまって行くよ。葉月(はづき)さんも(たける)さんもこうなったら20分はメール合戦だぞ』

 

 

 花名は勝手に体が動く感覚を覚える。1()()()()()()()()。手にあった携帯はしまわれ、足がひとりでに動く感覚にももう慣れた。そんな事象を引き起こしているもう一人の存在――否、()()()()()花名は声をかけた。

 

『(ねぇ、()()。学校への道のり、分かる?)』

「(当たり前でしょ。私も花名も、基本的に記憶は共有しているんだから)」

『(あ、そっか)』

 

 

 ―――読者の皆様はもうお分かりいただけただろうか?

 今から高校の入学式に向かおうとしているこの一之瀬花名という少女、1つの体に2つの人格を宿している……いわゆる二重人格者というものなのである。彼女がこうなった経緯は、後で語る故容赦はして欲しい。

 この物語は、2つの人格を持ち合わせた人見知りな少女・一之瀬花名の青春の物語である。

 

 

「お、そこのお姉さん。いいお胸してますね。揉んでもいいですか?」

『(ちょっと!私の体でなんてこと言うのぉぉぉぉ〜!!)』

 

 ……オイ油売ってねーで高校へ行けや。青春の物語とは言ったけど青春(ナンパ)とか現役JKがやっていい事じゃあないからね。入学式から遅刻とかマジふざけた真似すんなよお前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もカナが色々な見目麗しい女性に声をかけるせいで流石の花名も不安になり、先を急ぐことでかろうじて間に合った入学式。星尾女子高等学校では、つつがなく厳かな式は終わる事ができた。

 とある事情で地元の高校には行かなかったため、右の人も左の人も知らない人ばかりの花名。あっという間に馴染んでいく新入生―――例えば、小学生に見間違えそうな小柄でリボンがトレードマークの女の子が背の高くスタイルの良い女子に抱き着くなど―――に戸惑うばかりだ。

 

「(そっか……みんな、小学校や中学校からの友達が……もう仲良くなってる…)」

『(まぁ、しょうがないよね。私はひとり星尾に来たんだから、周りがみんな初対面さんに決まってるか)』

 

 花名は誰とも話すことができない。もしこれが遅刻寸前まで知らない女性に声をかけまくっていたカナであったならば、遠慮なく声をかけることが出来ただろうが……カナは第二人格であることを自覚しており、無理やり体のコントロール権を奪うことはしない。そう、制御権を奪うこと()しないのだ。

 だが……それゆえに今花名の表面に出てきているのは主人格(花名)なのだ。突然あいさつをかけられても、驚きのあまり挨拶を返すこともできない。

 

 

「(すごいなぁ………みんな、もう仲良くなってるなんて…)」

 

「おーい。教室入れ。ホームルーム始めるぞー」

 

 

 悩む花名だったが、一人の女教師のそんな声によって我に返って一番窓際の席に着くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホームルーム。

 

「えー、まずは入学おめでとう。このクラスの担任になりました榎並(えなみ)です。よろしくなー」

「「「「「よろしくお願いしまーす」」」」」

 

 教卓に立った女教師・榎並清瀬(えなみきよせ)が端的に必要事項だけを述べる。花名はクラスメイトと共に返事をしながら、この後起こるであろう出来事に不安を感じていた。

 

「(やっぱりあるよね。自己紹介………)」

 

 花名は自己紹介が不安でしょうがなかった。上手く話せるか?緊張で変な声が出ちゃうか?否。そんなレベルの心配事を持っているのではない。もっと大変なことになると思っている。なぜなら花名は、こういう状況になったら間違いなくもう一人の自分が暴れることを今までの1年間で学んでいたからだ。

 

 

『(花名!自己紹介、私に代わってよ!)』

 

 …そう、この第二人格・カナである。

 花名は頭を抱えたかった。女の人にナンパしまくり、両親にも突拍子のない行動で迷惑をかけた存在を今ここで解き放ちたくはない。

 

「(…だめだよ、カナ。これは私の自己紹介なんだから。……それに、初めて切り替わった日にお母さんに『ママ~~』って甘えまくったの、覚えてるんだからね)」

『(じゃあ、花名はここでなんて言うつもり? 「一之瀬、花名です……よろしく…お願いします」で終わりにするつもりだった?)』

「(うっ…)」

 

 図星だった。

 出席番号1番、席も一番前。一之瀬という苗字の宿命なだけに辛いと思っていた自己紹介だ。花名は目立たないように済ませたかった。もしこのクラスに「あいかわ」やら「あさくら」やら「あやせ」やら「いいだ」やらそういう苗字がいてくれればその限りではなかったが、いない人ねだりをしても仕方ない。

 

『(第一印象それじゃあ友達できないよ?今までと何も変わらないよ?それでいいの?)』

「(―――っ!)」

『(別に私は花名に意地悪したいんじゃあないんだ。ただ、花名に笑ってほしいだけなんだよ。……自分自身に言うのも変だけどさ。…だから花名が言いたくないことは絶対に言わない)』

 

 カナは優しく、心配していると言外に主人格を励まそうとする。………自己紹介権を手に入れるために。騙されるんじゃないぞ花名、カナは嘘はつかないし花名を裏切りはしないだろうが、それ以上に厄介なことをしでかすぞ。

 ……だが根は優しく真面目な大天使花名ちゃんは、カナを信じることにする。

 

「(…信じるよ?)」

『(だいじょーぶ!! このカナちゃんに任せなさいって!)』

 

 

「それじゃあ全員に自己紹介してもらおうか。 一之瀬ー。」

 

 

 担任の榎並の声が届いた瞬間、花名の意識が切り替わる。

 キリッと立って「はいッ!」と一言。清々しい返事だ。実に好感が持てる少女である。

 そして―――

 

 

 

 

 

 

 だん! と椅子に足をかけて………

 

 

「――それがし…一之瀬花名と申す者!ここらの地理には明るくない故、色々と教えてくれると助かる! …これから、宜しくお願い申し上げる……!!!」

 

 やっちゃったZE☆。確かに第一印象は大事であるし、それが自信のないおどおどとした、名前だけを言う自己紹介では良い印象は持たれないだろう。だから自己紹介にはオリジナリティという名の味付けが必要だ。だがここまで濃い味にしろとは言っていない。

 

「……あ、あと誕生日は今日で、16歳になりまーす!よろしくお願いしまーす」

 

 そして最後に爆弾情報を流して自己紹介を締める。ただでさえ濃い自己紹介が忘れられない程に濃くなった瞬間だった。全員がポカーンとしてしまうが、クラスメイトの一人がぱち…ぱち…と拍手を始めると、それに倣って拍手が大きくなる。更に口々に「おめでとう」と声がちらほらと聞こえる。みんな寛大だなぁ。ただ一人、担任の先生だけは花名をしばし見つめて……

 

 

「……………一之瀬。足を椅子から下ろせ」

「はっ! ご…ごめんなさい!」

 

 そりゃそうだよ。とりあえず足を椅子や机にかけるのは駄目だわな。

 座る際に、花名(カナ)は後ろにいる女子生徒―――今井千尋(いまいちひろ)にウインクをした。まるで「この流れをよろしくね」とでも言うかのように。

 それを察知したのか彼女は、あろうことかそのあとの自己紹介で「い、今井千尋でござる!」とか言ってしまった。しかも、ノリの良い出席番号3番の岩崎(いわさき)(けい)まで古風な自己紹介のノリに乗ったのである。

 おかげでその次の女子生徒、出席番号4番の内田(うちだ)麻理絵(まりえ)は絶望した。え、嘘、私もこのよく分からないノリに乗らないといけないの!? と。かわいそうに。そんなことないからね?

 

 結局、その絶望を察知した榎並教諭の助け舟によってそれ以降は普通の自己紹介と相成ったが、一番印象深い自己紹介はといえば間違いなく花名のそれだとクラスメイトは口を揃えて言うことだろう。

 

 そんな印象に残りまくった花名本人の心の中は、まるで嵐だった。

 

 

『(カナちゃん!私信じるよっていったよね!? なにあの自己紹介!!恥ずかしくて明日から学校に行けないよ!!)』

「(早速引きこもり宣言しないでよ花名ちゃん……信じるって言ってくれたじゃん)」

『(私は無難にお願いって意味で言ったの!誰があそこまで目立てって頼んだの!!?)』

「(でもほら……あそこ見て。百地さんの自己紹介。アレと同じくらいだと思うよ。派手さは)」

 

「百地たまてと申します!気軽にたまちゃんとお呼びください!!

 百地のたまちゃん、百地のたまちゃんでございます!! 1年組の皆様、どうか百地のたまちゃんをよろしくお願いします~~!!」

 

『(…いや、私の方が目立ってたと思うよ!? 悪い意味で!)』

 

 いやいや、まったくもってごもっともである。可哀想な花名ちゃんだ。とある出来事が理由で人に対して自信が持てない気持ちも分かる。カナの「第一印象が強烈なら万事上手くいく」という言い分も分かるが、ショック療法にもほどがあるのではないだろうか?

 

 

 

 

 …そして、放課後。

 

 

「お誕生日のお侍さん」

 

 なんと、花名のところに自己紹介で選挙活動をしていた百地のたまちゃんが話しかけてきたのである。素晴らしい勇気だ。花名自身もまさか初日から話しかけられるとは思っていなかったので驚いてしまう。花名の心の中ではカナが「計画通り」としたり顔をしているが、お前のお陰じゃないからな?むしろお前が戦犯である。「お侍さん」と言われた時点で確定事項だ。

 

「あ…百地さん」

「気軽にたまちゃんで良いですよ。あの~これ。誕生日プレゼントです」

 

 たまてが差し出したのは交通安全と書かれた絵馬の携帯ストラップだった。

 

「あ、誕生日プレゼント? じゃあ、私からも」

「私も」

 

 そして、驚くべきことに花名に話しかけてきたのはたまてだけではなかった。自己紹介で「十倉(とくら)栄依子(えいこ)」と名乗ったスタイルの良い女子生徒と「千石(せんごく)(かむり)」と名乗ったちんまい女子生徒からもプレゼントだ。……交通安全の絵馬ストラップの。被りすぎである。

 

 

「お誕生日と知らなかったもので、こんなものですみませんが……来年はもっと良いもの、用意しておきますね」

 

「というか、後でちゃんとしたもの渡すわ」

 

「ん。ホールケーキがいいと思う」

 

 

 たはは、と笑うたまてに改めて誕生日を祝うと約束する栄依子、そしてヘビーな食べ物をぶっこむ冠。誕生日プレゼントを駅前で配っていたヤツにするのはやや複雑だが、それでも祝ってくれたものは嬉しいのだ。花名はその嬉しさを携帯にストラップ全てをつけることで表現する。

 

 

「あ…あの!

 ありがとうございます! これ、大事にするから!!」

 

「「「……!」」」

 

 

 主人格の花名、いい子すぎだ。花名は徒歩通学であり駅を通らないからストラップを貰わなかった事を差し引いても良い子である。

 たかだか駅で配っていたストラップでここまでしっかりお礼が言えるのは高校生では珍しい部類である。たまてや栄依子、冠の人の良さもさることながら、花名も中々に真面目な子だ。とあることがきっかけで人格が分裂しても尚、根っこにある優しさと感受性の高さは忘れてはいないのだ。

 

 

「あはは、すっごく事故りたくない人みたいになってる~!」

「コレで登下校も安心ですね~!」

「ありがたや」

「あれ……?」

 

『(花名、良かったね)』

「(え?)」

 

 

 カナの声が一層優しくなる。

 花名は戸惑っていた。自分なんかが、このままついて行って良いのかと。本当にここまで仲良くなれていいのか……と。

 カナにとっては取るに足らない感情だった。友達になるのに資格なんぞ必要ない。誰かと仲良くなるのに理由なんてなくても良い。

 でも……カナはただ花名を祝って、背中を押すだけである。何故なら、カナは自分の事を何よりも、誰よりも知っているから。

 

 

『(ほら、この3人、私に交通安全ストラップあげちゃったじゃん? 今度は3人が事故っちゃうかもよ?)』

「(ええええっ!!!?)」

 

 花名は慌てだす。はたから見ればいきなり慌てだすのを見るようなものだから、3人は何事かと思うだろう。

 

『(慌てないの。何のためにいっぱい交通安全つけたと思ってるの。……目の前の3人、誘っちゃえば?「一緒に帰ろう」って)』

「(えっ……?)」

 

 それは、帰りの誘いだった。

 カナにしては珍しい、花名への気遣い。ここまでやっても、なおカナは表に出てきたりはしない。お膳立てはしたから後は自分でやるべき、という事だろう。

 

『(ほら、3秒以内に誘わないと私が誘っちゃうよ〜? 3、2…)』

「(ええええええぇぇぇっ!!? うわわわ、ちょっと待って………)」

 

 …前言撤回、案外あわあわする主人格をからかいたいだけかもしれない。

 

 

「え……えぇと…よかったら………一緒に、駅まで、帰りません…か?」

 

「…良いの?家とか用事とか大丈夫?」

 

「徒歩で学校に来ているので…駅までになります、けど……」

 

「おお!丁度交通安全ストラップがなくて困っていた所なんですよ!」

 

「あ、徒歩通学ってことはさ、駅前の桜並木、まだ見てないんじゃない?」

 

「おおお~!! そりゃスゴいんですよ!ブワアアアアアって桜のトンネルが!!」

 

「すっごく綺麗」

 

「……うん!」

 

 


 

 

 ……さて、ひと段落ついたところで、この一之瀬花名という少女についてここで語ってしまいたいと思う。

 

 彼女――もちろん、第二人格の馬鹿(カナ)の方ではなく、主人格(オリジナル)の花名のほうだ――は、もともと人格は一つだった。性格は、主人格に近い感じだ。だが……ある悲劇がきっかけで変わってしまう。

 それは、彼女が15歳の冬に…おたふく風邪にかかってしまったことである。

 15歳……それは、義務教育で中学3年生の年頃だ。その冬といえば……言わずもがな、受験シーズンである。そんなタイミングでおたふく風邪にかかってしまうなど、もはや不運としか言いようがない。

 だが、当時の花名にとってその不運は「運がなかった」の一言で片づけるには、あまりにも酷な現実だった。

 花名のおたふく風邪はその季節の受験シーズン中ずっと長引き、卒業式と二次募集さえ終わるまで続いた。その間、感染防止と療養のため受験することもできず。

 ―――彼女は、中学浪人になってしまったのである。

 

 その後、花名にとって()()()()()衝撃的な悲劇が起こったわけだが……花名本人は思い出したくないと思っている。それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()には。

 

 そうして生まれたのが第二人格『カナ』である。ちなみに、名付け親は花名である。同じ名前のまま、読み方を変えたのが由来だ。

 

 カナは最初、花名の体を勝手に奪い取って好き放題することにした。

 だが、両親に甘えようとしたところで、母に一瞬で見抜かれてしまった。続いて父にもバレ、カナは自分自身が花名から生まれた別人格であることを白状した。

 両親はそこまで花名が苦しんでいる事を受け入れ、いとこの志温のアパートに一人暮らしを勧めた。地元にいたら思い出が彼女を締め付けると思った故の気遣いである。

 それから花名は、必死に勉強をして、星尾女子高校に首席で合格。晴れて高校1年生になれたのである。また、カナはカナで花名と会話を進め、ある程度自重を覚えた。「ある程度自重を覚えた」でアレだから花名にとってはちょっと悩みの種だけれど。

 ただ、中学浪人や例の悲劇からある程度立ち直った後も、花名の人格は元に戻ってはいない。今のところは。

 

 

 

 でだ。そんな花名は今なにをしていたのかというと………

 

 

「綺麗な名前よね、『たまて』って」

「うん。私もかわいい名前だと思うよ」

「いやいやいやいや! 玉手箱ですよ玉手箱! 実はアレ、玉手・箱と切るのではなく玉・手箱と切るんです! あぁもう両親!名付ける前にしっかり調べろと!」

 

 栄依子と一緒にたまてを口説いていた。

 いや何してんのお前。朝の一連の行動でまだ懲りてなかったのかよ。というか花名ちゃん、カナちゃんに体のメインコンソールを奪われちゃってますけど!? 今の間に何があったし。口車に乗せられたか?

 

「玉手箱って由来が嫌なのかと思ったから。ほら、開けるとおばあちゃんになっちゃうから。」

「うわ、嫌な理由が増えた気が…」

「でも、私は好きだよたまちゃん。『たまて』って名前」

「な…ななななっ!! も、もう~花名ちゃんったら上手なんですから…栄依子ちゃん並みに上手い人、初めてですよ?」

「え~、そうかな~?」

 

 真っ赤になりながらも「でも名前を褒めてくれてありがとうございます」と話を終わらせようとするたまて。しかし。

 

「あ……分かった」

「分かったって、何が?」

「玉手箱から『たまて』って名付けるのは、肉団子から名付けようとして『肉団』って名付けるようなもの」

「「ぶふっ」」

 

 完成間近のトランプタワーを爆撃するかのような冠の発言に栄依子とカナは吹き出してしまう。この中で「肉団」に衝撃を受けている子は現在表に出ていない花名だけだ。

 

「肉団……それは確かに嫌だ………っ、あははは…」

「百地…肉…団………ぷふぅっ」

「栄依子ちゃんも花名ちゃんも笑いすぎです!何ですか百地肉団って!お笑いグループか何かですか!!」

 

「おわらっ……ぶふぉっ」

「たま……もう、やめ………お腹、が………!」

「もう笑わないでください!しまいには怒りますよ!!」

『(そうだよ!笑うなんて失礼だよカナちゃん!!)』

 

 

 半分くらいたまての自爆だが、主人格にも怒られたのでそろそろ笑い終えてたまてに謝ることにしたカナ。同じタイミングで栄依子も謝罪する。

 たまては、まだ触れていない冠の話題にシフトチェンジする。これ以上肉団の被害を受けないためだ。

 

 

「そういえば、かむちゃんのお名前も珍しいですね」

「冠と書いてかむりだからね」

「冠!? ティアラ……もしかしてかむちゃんって、とてつもなくやんごとなき血筋のご出身だったり!!?」

 

 たまてとカナの脳内に召使いと臣下に囲まれて『愚民どもがー』と言っている冠が連想される。

 

「多分、カンムリワシからとってる」

「強そう!」

「カンムリワシって冠被ってるの?」

「ん。冠羽(かんう)って羽がある。つまりこれ」

 

 冠の頭に結んだリボンがぴょこりと跳ねる。

 

「リボン!?鷲ですか~。それに比べたら我々は小鳥ですね~。栄依子鳥ちゃん。栄依子鳥ちゃん。」

 

「捕食対象だそれ!」

 

「きゃー!栄依子ちゃんが食べられちゃう〜! …でも、栄依子ちゃんはどっちかというと捕食する側っぽいよね?」

 

「ええ〜?そう? 捕食されてみる?」

 

「……後悔しても知らないよ?」

 

「何を張り合ってるんです?」

 

 冠の名前の話題だったはずなのに、栄依子と花名がバチバチと視線をぶつける。生粋のたらしである栄依子とダイナミックおバカ攻めキャラのカナのぶつかり合いだ。どうしてこうなった。

 

 この後、桜並木を堂々とド真ん中をたまてと踊りながら歩いたり、てまりハイツで大家のいとこと二人暮らしをしているので良かったら遊びに来て欲しいことなどもカナは話したりした。なお、この間花名が必死になって暴走した馬鹿(カナ)を止めようとしていた事は、誰も知ることはない。

 

 


 

 

 所変わって、てまりハイツ。

 カナに振り回されながら帰った花名は、志温に夕食に呼ばれるまで部屋の人が駄目になるクッションに埋もれていた。

 

 

「はなちゃん、話があるの」

 

 夕食前にそう告げる志温は、至極真面目だった。花名はそのあまりの態度の急変にこれから怒られてしまうかと不安になる。

 

「あぁ、別に怒ってるとかじゃないの。ただ…ね。

 ………はなちゃんの心の事、葉月さん達から聞いたわ」

 

 花名はその一言で、己の秘密の1つが志温に知られてしまった事を悟る。何を次に言われるのか、恐怖でいっぱいになる、が。

 

「辛かったのね。今まで、心から嬉しそうな顔は見せてくれなかったから。でも……私にとっては、どっちも大事なはなちゃんよ」

 

「しおん……ちゃん…っ……」

 

 志温からの本音に、涙腺が決壊してしまった。

 心の外からも中からも花名を慰める声がする。花名の頭を、温かい手が撫でた。だが、花名の涙は止まらなかった。ただただ、嬉し涙を流し続ける。

 

「うぇぇ……しお、しおんちゃあん………うわあぁぁ……!!」

「よしよし。大丈夫よ、はなちゃん」

 

 慰めて数分程。ようやく花名は泣き止んだ。目が腫れるかというレベルで真っ赤になっているが、志温は気にもとめていない。

 

「……見苦しい所をお見せしました…!」

「良いのよ、いとこなんだし。…ちなみに、今はどっち?」

「…カナです。花名ちゃんは泣きつかれて引っ込みました」

「かなちゃんって…花名ちゃんから生まれた、あの?」

「はい。第二人格のカナです」

「そっかぁ………今はかなちゃんなんだぁ……」

「あ、あれ?」

 

 

 表にカナが出た途端、雰囲気が怖くなる志温。さすがのカナもあれ?と訝しむ。一体、自分が何をしただろうかと。今まで隠してた事については何も言ってないし、マジで思い当たる節がカナにはないようだ。だが、カナは忘れていた。……今朝、志温になんて言ったのかを。

 

 突然、志温が花名の体を抱きしめる。身長差と豊満な胸を利用して、花名の頭をめいっぱい胸に押し付ける。性別が違っていたらご褒美には間違いないのだが、何故だか…心なしか抱きしめる力が強すぎると思った。

 

 

「かなちゃん……高1に見えないおっぱいで悪かったわね………??

〜〜〜〜(そ、それ〜)!? 〜〜〜〜〜〜〜(ご、ごめんなさい志温ちゃん)!!!」

 

 うん。まぁ自業自得だわな。ちなみに冒頭にて、志温のデカすぎるおっぱいをややカーブでディスったのは当然カナである。人の良い花名には到底できない言動だ。カナは謝るが、志温の締め付ける圧が強すぎて言葉にできていない。

 

 そして、花名が復活して表に出てくると、ちょっと遅くなった入学&誕生日祝いも兼ねた夕食に突入することとなった。

 ……ちなみに、カナは夕食が終わるまでは花名が呼びかけても表に出てくることはなかった。

 

『誕生日も入学祝いも、もともと花名のものよ。受け取る権利は花名にあるわ。私はちょっと、花名ちゃんにお邪魔しているだけだもの』

 

 ……とのこと。

 コイツ、基本的に馬鹿のくせに変なところで義理堅いよな。

 

 

 

 ――――夕食もお風呂も終わっていざ寝ようとするわずかな時間にて。

 瞳を閉じた花名はカナに話しかける。

 

「ねぇ……カナ」

『ん? なーに』

「話、合わせてくれてありがとね」

『何のこと?』

「ほら、自己紹介の時。誕生日で16歳になるって言ってくれたじゃない」

 

 一之瀬花名、本当は1()7()()。おたふく風邪さえなかったら、今頃高校2年生にして、今の同級生たちの1つ年上である。しかし……もしおたふく風邪が無かったら、たまてや栄依子、冠とは一生出会えていなかっただろう。

 

『何度も言ったでしょ、私は花名の第二人格。花名の秘密をいつ、誰かに話すかは…花名が決めるべきもの。その時になったら私は説明のお手伝いくらいするわ』

「ありがとう、カナちゃん」

『……本当に、いつか言わないとって思ってる?』

「…うん。本当の友達にはいつか教えたい」

『分かった……私は、花名ちゃんの意志を尊重するよ』

 

 本当に、とても義理堅い第二人格である。この手の存在では珍しい部類だろう。

 

 

 一之瀬花名、17歳。皆とは違うスロウで二人三脚のスタートになったが、これからも彼女は頑張っていく。

 

 

「あ、おはようございます〜、昨日誕生日のお侍さん!」

「ん、昨日誕生日の侍」

「いや、知ってるからね、名前。一之瀬花名ちゃんでしょ」

「お、いたいた。一之瀬、ちょっと話がある。……昨日の朝の話だ。色んな人に話しかけてるお前が目撃されたみたいでな」

 

 

「…………カナちゃん。私、怒ってもいいかな?」

『ごめんなさいでした……』

 

 …いやほんと頑張って花名ちゃん。第二人格の馬鹿に振り回されっぱなしになると思うけど、きっと悪い人生にはならないはずだから……

 

 

 




一之瀬花名……主人格。原作通り気弱で泣き虫だが、カナのお陰で苦労人ポジションも得た。まったくもって嬉しくない。

カナ……花名に芽生えた第二人格。主人格とは正反対に突拍子もない社交性と行動力、常人にはない発想力を持ち、主人格を含め周囲からは馬鹿だと思われている。花名の秘密を本人の意思で守るなど、最低限の義理は通している。

花名とカナが共有していること
・五感
・知識的な記憶(勉強の成績など)
・時系列的な記憶(昨日の夕食や過去の記憶など)

共有していないこと
・人格および感情(それぞれの性格など)
・一部の記憶(特に、花名が封じ込めてしまったことなど)



百地たまて……カナに名前が好きだよ(カワボ)と口説かれたり、桜並木をダンシングクイーンされたりしたムードメーカー。ツッコミ役を担うが、多分カナのせい。

十倉栄依子……カナになんかライバル視された天然ジゴロ。地味に花名とカナのギャップに気づいている。ただし、正体には気づいていない。ちょっとした違和感だし、そもそも気の利く天然ジゴロはそれを口にしない。

千石冠……栄依子についてく形で花名を知った大器晩成ガール。カナにはまったく気づいていない。というか、そういう子なんだと思ってる節がある。

皆のイチオシは誰かな?

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  • かむちゃん
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