再会した女の子が放っておいてくれない話   作:黒樹

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人生占いゲーム

 

 

 

「……だから、このゲームは嫌いなのよ」

 

急遽、参戦が決まった藤宮先生は死んだような目で呟いた。時間もないということで僕達と同じ社会人ルートまで到達するために延々とルーレットを廻していたのだが、ようやく辿り着いた台詞が絶望に満ちている。

それもそのはず、社会人ルートに至るまで、学生ゾーンからの度重なる突然死と転生ルートを通った上で、さらに浪人ルートという僕達が進んでいないマスまで体験して来たのだ。その顔色は疲労が色濃く浮き出ており、深窓の令嬢のような雰囲気さえ放っている。ルーレットを廻した数なら僕達の倍で、事あるごとに不幸マスを踏むものだから、積み重なった不幸ポイントも大きい。

 

「……どうして私ばっかり不幸なのかしら」

 

深い溜息には別の含みもあり、薄幸な様子がありありと浮かんだ。

 

「ゲームですから気にしないでいいと思いますよ」

 

「せめてゲームくらい幸せになっていいと思わない?」

 

言外に現実世界での不幸を認めた藤宮先生の愚痴に付き合うつもりはない。苦笑いをして、さっさとルーレットを廻した。

 

「えーっと、子供ができる……扶養家族一人追加」

 

「……けーちゃんのえっち」

 

「ゲームの話です。小鳥先輩」

 

小鳥先輩の恥ずかしげな抗議を無視して駒に棒人間を増やす。

人を殺せそうな視線を放つ藤宮先生の視線も無視だ。

僕と小鳥先輩は今や運命共同体。次は藤宮先生の番だ。

カラカラと廻る音だけが資料室に響く。動くマスを確認すると駒を動かした藤宮先生は、止まる予定のマスを見て微妙に顔を痙攣らせた。

 

「あぁ全く嫌になるわね」

 

『ストーカーの被害に遭う。一回休み』また不幸なマスを引いたようだ。なんなら、幸運なマスの一つ踏んでいないかもしれない。

 

「きっといつかいいことありますよ」

 

「本当にあると思う?そんなこと」

 

「僕の信条からすればないですね」

 

慰めに言ったつもりで、本心ではそう思っていない。藤宮先生はそんなくだらないことでさえ見通していたのだろう、隠しても無駄だと思った僕は取り繕うことをしなかった。

藤宮先生は一回休みなので今度は小鳥先輩がルーレットを廻す。出た目だけ駒を進めて、止まったマスを読んでいる小鳥先輩の顔が薄らと赤くなり……。

 

「けーちゃんのえっち」

 

二度目の罵倒ともいえない、非難がましい目。

『双子が産まれる。家族が二人増える』のマスに止まったようだ。

黙々と棒人間を刺すと、駒は一杯になった。

五人、十分な大家族ではないだろうか。

 

「少なくともさっきルーレット廻したの先輩ですよね?それはつまり、僕からではなく小鳥先輩から誘ったということになると思うんですけど」

 

「ち、違うもん!けーちゃんが勝手に発情したんだもん!」

 

「ねぇ妹に何したの?場合によっては訴訟するわ」

 

「誰がこんな幼児体型……」

 

現実的に考えて、僕はある程度ある方が嬉しい。と誰に告白するでもなく反論する。つい条件反射だったとはいえ、ちょっと言い過ぎかなと言葉を止めて、そこで気づいた。

 

「……いつか、わたしもお姉ちゃんと同じ大人の色気ある女になるんだもん」

 

涙目で、小鳥先輩が震えている。怒りか、悲しみか、ふつふつと罪悪感が沸いてしまうのは確かなことで。

 

「……でも、先輩は可愛いと思いますよ」

 

小鳥先輩を見ていると、何か熱いものが……端的に言うと何かに目覚めそうだった。頭をぶんぶんと振って思考から振り払う。僕としては理想は理想であり、小鳥先輩は範囲対象外ではない。あくまで好みではないだけで。

 

「うぅ〜、けーちゃんのばーか」

 

ぷいっ、とそっぽを向いた小鳥先輩は頬を赤らめる。どうやら照れているようだ。

 

それからもゲームは進み、終盤に差し掛かった頃。事態は急変する。藤宮先生にターンが廻った、そのルーレットでのことであった。もう何を踏んでも驚かないというスタンスでプレイしていた彼女の駒が止まった先は、結婚マス。借金や不幸マスを踏み荒らし続けた末の割と良心的なイベントだ。

因みにだが、結婚マスはNPCをパートナーにすると収入が倍になる。そのシステムさえあれば、あとは時間が人生ゲームで手に入れた教師という職種が輝くことだろう。

 

「このタイミングで……でもまぁいいわ、結婚なんてくだらないもの」

 

そうは言っても気にはなるようで、熱心にマスを読み進め……その顔が青褪めた。

 

「ごめんなさい、小鳥……お姉ちゃんばかな女で」

 

急にしおらしくなった藤宮先生の読んでいたマスを見る。

すると、そこには–––『略奪婚』

そんな不吉な文字が書かれていた。

『結婚を誓い合ったパートナーが実は既婚者だった。慰謝料を払い、結婚しているプレイヤーからパートナーを奪う』

マス目にはそんな解説。

 

「つまり先生は妹の夫を……」

 

「屈辱だわ、どうしてこんな男を……」

 

「それ生徒に言っていいセリフじゃないですよ?」

 

少なくとも子供の頃にやった人生ゲームはもっとこうバラエティ性のあるゲームであって、こんな生々しいマス目などなかったはずだと僕は一人呟いた。

小鳥先輩の駒から棒人間を一本引っこ抜き、今度は藤宮先生の駒にお邪魔する。

 

「けーちゃんの裏切者」

 

「それ僕のせいじゃないと思うんだけど……」

 

慰謝料を払えとある、僕は黙ってゲーム内紙幣を差し出した。

 

「無職ですがよろしくお願いします」

 

「ヒモだったと思うと引き取って良かったわね」

 

妹の脅威は極力排除するスタンスらしい、これでは校内の害虫共は小鳥先輩に近づくことすらできないだろう。ロリコンとかロリコンとか

ロリコンとか。

 

そこから大きなイベントは殆どなかったと言ってもいい。

ただ、僕が……。

 

「ねぇ、どうしてあなたがルーレットを廻す順番になるといつも子供が増えるマスに止まるの?」

 

–––毎ターン子供を増やすマスに止まっているくらいか。

 

このゲームで子供の数というのも重要で、最終的に一人につき幸福ポイントとゲーム内紙幣が増える仕組みだ。損はないが批難がましい視線が痛い。

 

「それだけ先生が魅力的ということでは?」

 

「子供が一人増えるごとにあなたの課題を倍にするわ」

 

「ゲームの話を現実に持ち込まないでください!」

 

職権乱用にも程がある、と抗議する。

勿論、冗談であるのだろうが。

次はまた小鳥先輩が強運を発揮して、金を増やし、次は藤宮先生の番だ。

廻したルーレット、これで運命が決まる。

もう既にゴールは目前だった。

 

「あら、残念……」

 

残念ながらゴールマスには止まらなかった。そして、読み進める藤宮先輩。無表情で何を考えているか判らないが、どちらにしても終わりだと先生は呟く。

『パートナーが事故死、多額の保険金が手に入る』というマス。

その、パートナーとは。

 

「……僕じゃないか」

 

なんか死んだことになった。しかも、今回のパターンは転生ゾーンに行けないらしい。それほど魂をズタボロにされたのか僕、いやまぁゴール直前で放り出されても困るけど。

このゲームは一人がゴール、つまりは死を迎えるとゲームは強制的にクリアしたことになるらしい。小鳥先輩と藤宮先輩の二人は既に金勘定を始めていた。

 

「まぁわかっていたことだけど、小鳥の圧勝ね」

 

財産も幸福ポイントも幸運も呼び寄せた小鳥先輩の圧勝、まるでわかり切っていたゲームを締め括るかのように藤宮先生が結果を発表して、パンパンと手を打ち鳴らした。

 

「さぁ、ゲームはもう終わり。片付けて帰るわよ」

 

時刻は既に、夕方の六時を過ぎていた–––。

 

 




一方、その頃。
湊月「圭が他の女と仲良くしている気がする」
緋奈「あいつに女友達とかほかにいないでしょ」
不機嫌そうな美少女の姿があったらしい。
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