再会した女の子が放っておいてくれない話   作:黒樹

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前回のあらすじ。
美少女二人が遊びにきた。


圭の部屋

 

 

ベーコン、目玉焼き、レタス、トースト、珈琲の軽い朝食を提供されるままに口にして、ご馳走様と口にしたところで僕は放棄していた違和感を思い出していた。危うく流され掛けたが此処は僕の家だ。湊月が朝食の準備をしている理由もわからないし、そもそも何故いるのかも不明である。

 

「……いや、なんでおまえらが僕の家にいるんだよ?」

 

当たり前のように朝食を出されて流され掛けたが、休日にまで顔を合わせるとは思っていなかった人物の登場に僕は再度疑問を浮上させてしまった。

 

「……暇だったから?」

 

質問を疑問で返され、僕は湊月を見た。

何処となく焦っているというか、慌てているようにも見える。

 

「いや、暇にしても決断早いだろ。まだ朝の八時だぞ」

 

適当につけたテレビの端には八時少し過ぎの表示、これが嘘でなければ僕の睡眠時間は三時間ほどだ。道理で眠いわけである。そんな眠気すら覚ますような美少女の美貌はあまりにも刺激的過ぎて、どうにかなってしまうのは健全な男子高校生ならなおのことだろう。さっき自然に湊月に触れてしまった自分を殴りたい。

 

何故、僕はあんなことをしたのか。

 

寝起きで脳が働いていなかったか、ちょっとした欲望が顔を出した。

僕と湊月はそういう関係でもないのに。

頰に易々と触れるなどと、普通の男女友人関係ならないだろう。

あまりにも迂闊すぎる。湊月も僕も。

 

「いや、特に理由はないけれど」

 

「ないのかよ」

 

それがなかったことのように、僕達は会話を始めていた。

 

「……でも、会いたくなったんだ」

 

だが、初っ端から挫かれる。

湊月の迂闊にも大胆な告白によって。

 

思わず僕は頬杖をついていた手から、ずれて机に突っ伏しそうになった。いきなりの不意打ちに一度だけ、心臓が大きく跳ねたような気がした。

 

「緋奈は?」

 

乙女な反応を見せた湊月を見ていられず、その隣に座る緋奈を見ると珈琲カップを口元にニヤッと笑って、

 

「あたしは湊月の付き添い。榊原が湊月に変なことしないか見張り役」

 

と、ありがたいのかありがたくないのか判らない揶揄い混じりの説明を施される。まぁ実際、歳頃の少女と二人きりにされるのも困ったものなので、邪魔ではないが少しイラっとした。この娘、この状況を楽しんでやがる。

 

「……だけど、僕の家に来ても暇なことには変化はないぞ。おまえらが楽しめるようなものなんて一切ないからな」

 

ゲーム機や漫画の類はあるが、湊月はそれほど漫画やゲームには興味を示さないだろうし、緋奈だけなら漫画の一冊でも読み漁るのだろうが手持ち無沙汰になるのは目に見えている。そう忠告すれば、湊月が何やら固い決意を秘めた顔を上げた。

 

「け、圭の部屋、とか……その少し気になる」

 

「まぁ、別にいいが……」

 

何故、そこまで部屋に興味を示すのかは判らないが僕は適当に軽はずみに返事をした。

 

 

 

食器等を片付けて数分ほど、僕と湊月、緋奈の三人は僕の部屋に。そして、そんな僕達に引っ付いて妹の舞までがついてきた。

 

「なぁ妹よ、おまえ出掛ける予定じゃなかったのかよ」

 

「雨降ってるし面倒だからパスしたの。それにこんな面白い状況で遊びに出掛けるとか勿体無いし」

 

異性の部屋に同級生が訪れるイベントは確かに重要なイベントだろう。だが、僕の人生は見世物ではないし、娯楽の一つでもなければ寧ろこれは災難に近い。高校生になって青春っぽい何かが起こるとは思わなかったし、どちらかと言えば心労の方でストレスが溜まりそうなんだがきっと他の男子は羨ましがるような光景なんだろう。

湊月と緋奈はクラス、いや学年の中でもトップクラスの美少女だ。そんな二人が遊びに来るのだから、ある男子生徒は興奮し、ある男子生徒は狂喜乱舞するだろう。

 

その気持ちがわからなくもない。休日に美少女の顔を見るのは悪いことではない、そう思えるのだから。

 

「此処が僕の部屋だ」

 

二階の一角についた僕は扉を開けて中に入る。すると今朝と変わらない、物が整頓されて綺麗な部屋がそこにはあった。乱れているものといえば今朝起きただけのベッドのみだ。

 

「へー、意外。男子の部屋って汚いかと思った」

 

開口一番に言ってくれるのは緋奈だ。この様子だと男の部屋に入ったことはないらしい。

 

「泉と西宮の家に行ったことはないのか?」

 

「そんな不用意に男の部屋に行くわけないでしょ」

 

まるで当たり前のように言ってしまうあたり、それなりに警戒心はあるようだが、なら何故こいつは僕の部屋に来ているんだろうか。とても矛盾している気がする。

 

「多分、妹の部屋の方が汚いぞ」

 

「はぁ?そんなわけないじゃん!」

 

「いや、おまえ下着とかパジャマとかベッドの上に脱ぎ捨てたりしてるだろ。他にも本を散らばらせたり、プリントを地面に散らばったままにしたり」

 

「うぐっ、いやでもすぐに片付けるし……」

 

「母さんに言われてからな」

 

これ以上は喋るなと言わんばかりに脹脛を蹴られる。ゲシゲシ、と何度も繰り返して、不満そうに唇を尖らせる様は可愛い以外のなにものでもない。小憎たらしいが、許容範囲だ。

 

「いっぱい漫画があるな。こっちはラノベというやつか?」

 

目についた本棚や机に引き寄せられ、物色していく湊月の顔は真剣そのものだ。そこで一つ漫画を手に取って湊月は振り返った。

 

「例えば、圭は好きなキャラとかいるのか?」

 

「三ヶ月に一度は増えるな」

 

三ヶ月に一度の恋とはよく言ったもので、気に入ったキャラがいれば内容の好き嫌い関係なく最終話まで観た上で漫画やグッズを買い漁るだろう。その中でも生涯を捧げようと誓ったものは少ないが。

 

「参考までに教えてほしい」

 

「参考?」

 

「圭が好きなものを知りたいんだ」

 

参考とはいったい何のことやらと思ったものの、気にせず答える。その大半が清楚系の大人しいタイプのキャラであったり、人の寿命を超えるほどの年月を生きていたりと、タイプは様々だった。

 

「そうか、圭はそういう女の子が好み……」

 

実際、聞かれたキャラの大半は女性である。そこに何か思うところがあったのか、ぶつぶつと念仏のように唱え始める湊月は思考の海に深く潜っているようで、中々戻ってきてはくれなかった。

 

「他にも見ていいかな?」

 

ふと、意識を戻した湊月が再び部屋を捜索する。

今度はベッドの下に頭を突っ込んだ。

 

「な、ない……此処に大抵は隠してあると、ネットに……」

 

ベッドの奥を覗き見ているせいで突き出した形になってしまったお尻がふりふりと揺れる。目にして判る目のやり場のない扇情的な誘惑に、僕は思わず唾を飲み込んだ。

 

「なぁーに見てるの榊原」

 

「別に何も。……というかあれ、もしかしなくてもあれ探してるよな?」

 

「みたいねー。教えてあげれば、隠し場所」

 

「一応、言っておくが僕はエロ本なんて持ってないぞ」

 

男子高校生の何人が目にしている、もしくは所持しているのかは知らないが世間一般的にエロ本と呼ばれる書物は一切所持していない。だから家中探したって、一冊も見つかるはずがない。僕の持ち物でないのなら例外だが。

 

「湊月さん、うちの兄貴はエロ本も確かに読むけど、メインは……」

 

ごそごそと妹が人の部屋の棚を漁る。

綺麗に整頓された、棚の一角から大きな箱を取り出した。

 

「エロゲーだし」

 

ご丁寧にも十八禁とシールが貼られた妙に如何わしい箱だ。表紙の女の子はとても可愛らしく可憐ではあるが、裏返せばあら不思議、とても淫らな光景へと様変わりする。

そんな箱を高々と掲げて、悪戯げに笑う妹の姿は逞しいというかなんというか……それでいいのか女子中学生、とツッコミを入れたくなってしまうものであった。

舞もピュアな時はあったのだ。初めてあれを見た時は取り落として顔を真っ赤にして本気で僕を罵倒した。『変態』『すけべ』等々思いつく限りの言葉を武器にして。

まぁ、つまり何が言いたいのかというと妹がこんな逞しくなってしまったのは僕のせいかもしれないということだ。

 

「ふ、ふわぁっ、な、ななっ」

 

その被害者がまた一人増えようとしている。

湊月は頰を真っ赤にして、その箱を凝視した。

 

「け、圭は、やっぱりそういう願望があるんだな!?」

 

「答えづらいことをまたはっきりと。まぁ、ないわけじゃないな」

 

取り繕っても仕方がないので肯定すると、湊月の頰が更に赤く染まる。

 

「こ、こういう不埒なのは没収だ!」

 

そして、何故か僕のエロゲが没収される。

次から次へと、僕の棚のコレクションが……。

 

「ちょっ、おまえ何の権限があって……!」

 

「十八禁。つまり、十八歳未満が持っていていい品ではないだろう!タバコやお酒と一緒だ。法に触れるなら没収する!」

 

「あぁ、それバイト代が入ったから買った新作ぅ!?」

 

無造作に積み上げられていくタワーを前に、僕は決意する。

徹底抗戦(土下座)を開始した。

 


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