再会した女の子が放っておいてくれない話   作:黒樹

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鹿島湊月の髪色を黒髪に修正しました。


鹿島湊月と愉快な仲間達

 

 

 

新入生特有の騒がしくも緊張感のある時期も過ぎ去った頃、学校内は新たな熱に包まれ始めていた。

 

「えー、では今日から一週間、部活見学が実施されるので興味のある者は各々見に行くように。入部届の提出は今週中、金曜日までに提出してくれ」

 

女教師は号令をすると教室から足早に去って行く。担任も顧問をしている部活があるのだろう、それだけ告げ退出したかと思えば生徒達は開放感から一気に気を抜いた。

部活見学に行く者、帰宅する者、散り散りに散開する中で僕は一人さっさと帰り支度を始めていた。この学校は部活動は強制参加ではないので、入部しない人種も微かに存在するのだ。その筆頭が僕である。

 

「圭」

 

そんな時、僕を呼ぶ声が隣から。振り返らずとも判る、鹿島湊月だ。彼女は既に帰宅準備を終えたようで手荷物を手にして僕の横に立っていた。

 

「なんだ?」

 

「何処に入るか決めた?」

 

なんだそんなことかと僕は嘆息する。

 

「何処にも所属する気はないよ。バイト探さなきゃいけないし」

 

まず高校に入って目標としていたのが金だ。故にバイトは必須。ゲームを買うにも漫画を買うにもお金がいる。今までまともな金銭を親から貰えなかった僕としては、最大級の重要事項なのだ。

 

「せっかくの高校生活だろう。部活動に興じてみるのもいいじゃないか」

 

そんな枯れた青春を送ろうとしている僕に対して、説教じみた説得を試みる湊月。彼女は僕の腕を掴むと逃さないと言わんばかりで、さらには上目遣いで見つめてくる。しかも美少女が様になっていて余計に腹立たしい。不覚にも少しドキッとしてしまった。

 

「はぁ……。何故そう拘る」

 

部活がやりたければ勝手にすればいい。そう伝えれば、当然とばかりに彼女は言う。

 

「私が圭と楽しい学校生活を送りたいんだ。だから、せめて見学だけでも……」

 

強気に誘いにきたくせに、最後はどうも締まらない。そういうところがどうも琴線に触れたようで、僕が妥協してしまうまでがお決まりのパターンだ。

 

「わかったわかった。部活見学くらい一緒に行ってやる」

 

「本当か?」

 

嬉しそうに笑みを浮かべて湊月は僕の手を引く。

 

「じゃあ、取り敢えず私の友達を紹介しよう」

 

「は?」

 

そんなことを言われて、首を傾げた。

僕は人が苦手なのだ。

みるみるうちに引っ張られて教室の隅に移動すると、そこには二人の男と一人の女がいた。茶髪の男、金髪の男、それと生意気そうな亜麻色の髪の女の三人。

 

よし、回れ右だ。

 

「ちょっと待つんだ、何処に行く?」

 

慌てたように僕の腕を掴んで抵抗の意思を見せる湊月に対して、僕は引っ張られたままにぴたりと止まった。

 

「じゃあお友達と楽しんできてください。それではまた明日」

 

「今更逃すとでも?」

 

掴んだ腕を離さないように湊月が腕を掻き抱く。そうすれば必然的に、湊月の小さくない胸が当たるわけで、上腕二頭筋が幸せの絶頂に至り始めた。

早い話が腕が硬直してしまうわけだ。

そのままお仲間の元まで引き摺られて行った。

 

「緋奈、連れて来たよ」

 

「ふーん。あんたがあの榊原ね」

 

顔を合わせるなり睨みつけるように下から覗き込んでくる女子生徒、身長差もあって仕方ないことだがずいっと顔を近づけて、じっと見つめてくるもんだから僕は慌てて顔を逸らす。緩く開けた胸元から胸の谷間が見えてしまった。

 

「久しぶり、元気だった?」

 

倉橋緋奈、昔の顔を覚えてはいないが確かに知っている。特に湊月と緋奈の二人は色々とあったからか、忘れたくても忘れられないわけで、名前を言われれば薄らと記憶が蘇る。凍りついて溶けて消えそうだった記憶の一部、まるで今まで忘れていたことが嘘かのように鮮明に。

 

「元気に見えるか?」

 

「そうね、濁りきった腐った目をしているわ。昔のあんたと比べたら、今のあんたってまるで別人だから驚いちゃった」

 

会うなりそんな賛辞とも取れないことを言って、僕の心臓のあたりを突いてくる。指先は嫋やかに突き立てられたが、悪意のようなものは感じられず友好的なのが判る。昔から、こいつは言いたいことをはっきり言う裏表のないやつだった。

 

「で、あいつらは?」

 

四人のうちの二人は知り合い。じゃあ、残りの二人はと視線を向けると困ったことに二人からは敵意に近い感情を読み取ってしまう。十中八九綺麗な友達関係とかではなく、少なからずどちらかの二人に恋心を抱いているのだろう。突然、横から出て来た僕という存在が気に食わないらしい。

 

「この二人はまぁ……なんだ、腐れ縁というやつか?」

 

「ちょっ、そりゃないでしょー鹿島ちゃん」

 

「中学の頃からの付き合いだ。今は友達、と言っておこうか」

 

自分達は長い付き合いだと言わんばかりに主張し始めたが、どうやら二人とも恋人とかそういう関係ではないらしい。そんな関係性なら正直、このグループに入ることは絶対に嫌だったのだが少し気持ちが軽くなる。

 

「オレは泉健吾、よろしくな榊原君?」

 

「俺は西宮直人、是非とも仲良くしてくれ」

 

茶髪が泉健吾、金髪が西宮直人、二人が差し出して来た手を仕方なく握ると思いっきり握り潰された。敵意剥き出しな時点でもう既に仲良くする気なんて全くないのだろう。裏表がない分まだマシだが。

 

「短い付き合いになることを祈るよ」

 

皮肉を隠さず、僕はそう言って握り潰し返した。

 




キリがいいところで切りたかったので今回は短め。

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