再会した女の子が放っておいてくれない話   作:黒樹

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夏季休暇の予定

 

 

 

夏季休暇前、最後のテスト結果が掲示板に張り出された。上位五十名までの成績優秀者の順位と名前、そして合計点数が書かれている。今のところは僕には関係のないものなのでスルーしていた。そして、問題はその隣にある。A4サイズの小さな紙のタイトルにはこう書かれていた。

 

『補習・追試対象者』

 

そこに名を連ねるのは約五名ほどの赤点を取った者達。今回は平均点が高かったらしく赤点のラインも繰り上げられており、普段の赤点のラインを下回ったものは容赦なく呼び出される。そしてもう一つ条件があるとすれば、教師が設置した簡単な罠のような問題を解けなかった者達は点数が高くても例外として補習対象者となってしまうのだ。

 

念のための確認をすれば自分の名前は見当たらない。しかし、見知った名前を見つけてしまった。

『泉健吾』の名前が載っていたのである。赤点のラインは回避したと喜んでいたが、簡単な問題に引っ掛かってしまった男の命運は夏季休暇が削られることとなった。

そうして時間を潰している僕のところに、湊月と緋奈の二人が戻ってくる。

僕は彼女達の付き添いで廊下に出て来たのだ。

 

「何見てんの榊原?」

 

「補習対象者の連絡。一応、念のためな」

 

補習があると夏季休暇が潰れる。そのため少し全力を出さなければならなかったのだが、それは杞憂に終わったようだ。あってもサボるつもりだったが。しかし、僕の返答に湊月は首を傾げる。

 

「圭が補習対象者なはずないじゃないか。赤点のラインだって余裕で超えてるし」

 

「それにあんたも上位五十名の中じゃない。端っこの方だけど」

 

掲示板の学年順位表を見てみれば、ギリギリ四十九位に名前が挙がっていた。しかし、上位五十名といえど学年には二百名ほどしかいないので順位が良いとはいえないわけだ。

 

「じゃあ、おまえらは何位だったんだ?」

 

「あたしは八位」

 

「ふふっ、私は十五位だ」

 

緋奈が八位、湊月が十五位。これを聞いて四十九位で威張れる奴がいるのなら見てみたいものだ。

 

「……それで圭、あの約束は……?」

 

妙に得意げだった湊月がもじもじとしながら僕に催促する。

『約束』といえば浮かんだのはテスト期間に入る前のことだ。もし湊月が期末テストで二十位以内に入ったら『なんでもいうことを一つ叶える』という賭けをしたのだ。

当然、受けるメリットなんて無かったのだが、適当に流した結果がこれだ。

因果応報とはまさにこのことである。

 

「……いったい僕に何をさせる気だ?」

 

「その……夏季休暇はずっと一緒にいたいというか……」

 

あまりに普通なお願いに拍子抜けする。とはいえ、そう簡単なことでもない。夏季休暇は絶好の稼ぎ時である。夏季休暇を利用してバイトに励む生徒は多数存在するだろう。僕もその一人だ。

 

「バイト以外の時間帯であれば、好きにしろよ」

 

「と、泊まりに行きたい」

 

「まぁ、別に構わないが……」

 

「毎日でも?」

 

「それは親御さんが許さないだろう」

 

現実問題として許可されないだろう。一日のみならず毎日とくれば娘を送り出す親御さんもいい顔をしない。その前に現実的な問題があったはずなのだが、なんだったか……。

 

「そういえば湊月、あんた外泊禁止にされてるんじゃないの?」

 

緋奈の指摘に空気が凍る。湊月はスーッと顔を逸らした。指で髪先をくるくると弄び必死に言葉を探している。

 

「えっと……その……」

 

「確か、僕が湊月の御両親に会わないと解除されないんだったか」

 

「……うん」

 

「わかった。近いうちに行く」

 

夏季休暇の前から、死刑宣告を受けた気分だった。

 

 

 

夏季休暇の予定は大半が埋まってしまった。一日中、惰眠を謳歌する休日というものも体験してみたかったがバイト以外の殆どの時間を恋人に割くことになってしまったのである。それもそれで一興と諦めてしまっている辺り、もう既に恋人に毒されているのかもしれないが。

 

「問題はバイトにいつ入るかだな」

 

正直に言って働きたくないが、働かなければ金がないというジレンマに悩まされるわけで、働かないという選択肢はない。湊月とのデートも金が入り用で出費も嵩む。

 

「ねぇ、ちょっと……」

 

今後の金策を考えていると横から声が掛かる。

緋奈が顔を寄せて来た。

 

「あんたちゃんと湊月の誕生日覚えてるんでしょうね」

 

こそこそと耳打ちするが耳打ちしたこと自体は湊月の目に入っている。しかし、自分が除け者にされていることが判ったのか近づいてこなかった。

 

「……あぁ、オボエテルヨ」

 

一瞬忘れていたとか言えない。

 

「誕生日プレゼント何あげるの?」

 

「……」

 

困ったことにそれが思い浮かばないのである。恋人に贈る誕生日プレゼントとして適当なものを検索してみたはいいが、そもそも湊月の欲しいものを知らない。

 

「直接聞くか」

 

「少しは考えなさい」

 

サプライズを仕掛けるという行為はあまりにもハードルが高すぎるためそう提案してみたら、緋奈に全力で制止された。腕を掴まれて椅子から立ち上がれない。

 

「なら、選ぶの手伝ってくれないか?」

 

「はぁ……!?」

 

素っ頓狂な叫び声が上がった。

視界の端で、湊月が首を傾げる。

 

「何をそんなに驚いてる?」

 

「……もうわかったわよ。一緒に行けばいいのね」

 

流石に我慢の限界だったのか、湊月が此方に近づいて来ていた。これで話は終わりとばかりに諦めた緋奈が「詳細は後で」と言ったところで湊月が声をかける。

 

「二人で何の話をしていたんだ?」

 

「えっと、ほら、夏だから海とか祭りとかプールとかいいんじゃないかって話してたのよ!」

 

「……僕はあまり外に出たくないんだが」

 

机の下でガンッ、と足を蹴られる。

話を合わせろとのことらしい。

 

「なになに海行くの!?オレも行く!」

 

「当然、参加させてもらおう」

 

外野から話を盗み聞いていた泉と西宮まで話に加わる。

段々と話が大きくなり、もう後にも退けない状態になった。

何より厄介なのは、湊月本人がいい笑顔ということ。

もう既に緋奈と水着を買いに行く話をしている。

 

「……そうだ。先輩も誘ってみるか」

 

死なば諸共、先輩も道連れにしよう。そう決めた僕は早速、スマホにて連絡を取ると速攻で返信が返って来た。凄く食い気味で「行く!」と一言。

今更ながらに大丈夫か心配になる。

一応、他にも人が来ることは伝えたつもりだが、あの対人弱々の先輩が何処まで耐えられるか……もしかしたらそのことは頭に入っていないかもしれない。

 

「騒がしい夏になりそうだな」

 

諦めたように口に出してみたが、思いの外、嫌でないことに自分でも気づいていた。

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