再会した女の子が放っておいてくれない話   作:黒樹

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『榊原圭』
黒髪黒目の十五歳。身長は175㎝。
鹿島湊月曰く、顔は悪くない。
ただし普段の姿から、周りからは隠キャだと思われている。


部活見学

 

 

 

鞄を片手にグラウンドへ出る。放課後のグラウンドは野球部とサッカー部、それから他の部活までもがフィールド内で色々なスポーツをしており、その傍には新入生であろう他一年生の姿も窺えた。何処か懐かしい光景に目を細めて突っ立っていると、ぽんと手を合わせて湊月が皆の意識を集めた。

 

「さて、今日は何処から行く?」

 

希望を問うているのは僕に対してらしく、間違いなく双眸が僕を見つめていた。

 

「そりゃ野球部っしょ」

 

「サッカーだ」

 

別のところで意見が分かれる。泉と西宮の二人が睨み合うようにして対立していた。それを嘆息して額に手を当て、文字通り落胆を示す湊月は隠しもせずこう言う。

 

「君達には聞いていないんだが……」

 

恐ろしくばっさりと切り捨てた言葉に二人は気付いていないらしく、なおも睨み合ったままだ。それでと僕に向き直り、改めて聞いて来た。二人の意見は聞く気がないらしい。

 

「どっちでもいいんじゃないか?遅いか早いかの問題だろ?」

 

単純にそれだけだったのでどっちでもいいと言うと、話は並行して進まない。正直、どっちにも興味がないので好きにして欲しいのだが、何がそんなに二人を急き立てるのか睨み合ったままだった。

 

「はぁ、榊原が決めなさいよ」

 

緋奈も僕に全部投げてしまったようで投げやりにそう言う。

 

「じゃあ、野球部でいいんじゃないかな」

 

僕は適当に言い放ち、興味なさげにグラウンド向こうを見やった。

 

 

 

こうして最初の見学先を決めた僕達はグラウンドの隅の方へ来た。今は新入生向けに軽い試合を見せているようで、観客には多くの一年生がいたようだがその中には別の学年の女子生徒の姿も確認できる。既に入部した者もいるようで、練習にはジャージ姿のまだ幼い顔立ちの者達もいた。

 

そして、女子生徒達だがその多くの目的がマウンドに立っているあの男だろう。見るからに好青年そうな男がピッチングをする度、きゃあきゃあと歓声が上がる。ズバン、というキャッチャーミットの音が綺麗に響いた。

 

「ふーん、誰?」

 

「なんだよ。榊原君、東堂先輩のこと知らないの?」

 

泉が自分自身の自慢をするかのように語り始めた。この学校の野球部のエースらしく、その実力は全国でも指折りだとかなんだとか説明されても野球については知りもしないし、興味もないのだ。まして野球部に入るわけでもあるまいし。

 

「鹿島ちゃんは知ってるよな?」

 

「いや、知らないな」

 

「同じ中学出身だよ!?」

 

どうやら湊月達は同じ中学校の卒業生らしいが、湊月本人は然程興味が沸かなかったらしく、冷淡に考える素振りも見せず断じた。

 

そんな噂話をしながら野球部の試合を見学していると、終わったようで真ん中で選手達がお互いに号令をして試合を終えるところだった。そうして解散したと思いきや一人の選手が走ってくる。東堂先輩と呼ばれた人だった。

 

「よお、泉。久しぶりだなぁ」

 

ちらっと女子陣に視線を向けた東堂先輩だが、順に巡っていきその視線はやがて僕で止まった。

 

「ん?そっちのやつは初めて見る顔だ」

 

「鹿島ちゃんの友達らしいっす」

 

「友達、ねぇ……?」

 

値踏みするかのように視線を彷徨わせた後、何やらひそひそと泉に耳打ちし始めた。それから黙々と二人は会話を続け、二言くらい言葉を交わすと突然ある提案をする。

 

「そうだ。久しぶりだし投げてくか泉?」

 

「いいっすね。オレ昔より上手くなりましたよ」

 

「じゃあ、俺が監督に口添えしてやるからちょっとした余興も兼ねて、ミニゲームといこうか」

 

まるで予定調和のように二人は滑らかに会話を進めると東堂先輩だけが他の練習を始めた者達のところへ戻り、監督らしき人物と会話するとすぐに戻ってくる。

 

「オーケーってさ」

 

「よっしゃ。見ててよ鹿島ちゃん、倉橋ちゃん」

 

 

 

その十数分後、泉はジャージに着替えてマウンドに立っていた。軽く肩慣らしに投球やキャッチボールをしている姿が目に入る。それを促した東堂先輩といえば、僕達のもとから去ることはなく此方に残ったままだ。

 

「何が始まるんですか?」

 

別段興味もないがただ見ているのも退屈なのでそう問い掛けると、待ってましたと言わんばかりに彼が楽しげに口を開く。

 

「ちょっとした余興というか新入生歓迎かな。入部希望とレギュラー集めて、実力の測りあいってやつよ」

 

それに東堂先輩は出なくていいのかと思う。口に出すのも無意味かと思ったので、胸の内に留めておいた代わりに僕は適当な推論を持ち上げることにした。

 

「ふーん、そうですか。僕は女子生徒にいいとこ見せたくて見せ場を無理やり作ったように感じますけど?」

 

「おお、案外キレるな。その通りだよ」

 

「女子マネでも募集してるんですか?」

 

「いたらやる気でるだろ?」

 

泉はそれに便乗して緋奈か湊月のどちらかに良いところを見せたくて参加したのだろう。つい裏を掻くあまり、そういった魂胆が透けて見えてしまう。

 

ほどなくしてバッターボックスに一人、ユニフォームを着た選手が立った。金属バットを片手にヘルメットを被っている。その立ち姿もさることながら慣れているように感じた。

 

「お、始まるぞ」

 

バッターが構えると泉は大きく振りかぶる。綺麗に洗練されたフォーム、オーバースローで投げられた球は投手から捕手へ真っ直ぐ正確に飛んでいく。初球は見送ったようで打者は微動だにせず球を眺めていた。

 

「ほー、随分球速が上がってるな」

 

先輩の見立てでは中学の頃から成長しているらしく誰に説明するでもなくそう呟く。というか、泉の凄さを説明するために態々残ったのではなかろうか。

 

続く二投目、泉が投げた球に合わせて打者はバットを振った。キンッ、と掠めた音がしてボールが捕手の背後に飛ぶ。

流石に入学したての高校生と現役の高校球児では分が悪かったのか、はたまた泉が凄いのかファールとなってあと一つでアウトを取れるだろう状況になる。

 

そして、三投目。

ズバン、と乾いた音が鳴った。

ミットが球を捕球した音だ。

打者は空振り、驚いているようだった。

 

「変化球ですか」

 

「あぁ、使ったみたいだな」

 

「む、あれが見えたのか圭は?」

 

「この距離だから、少しブレたように見えただけだ」

 

バッターボックスから一塁ほどの距離で観戦しているため、感覚的なことに過ぎずそう言うと湊月はうんうんと頷いた。

 

「さすがは圭だな」

 

買い被りすぎだ。何処か誇らしげにしている彼女に僕は何も言えない。

 

一人討ち取り、調子が上がった泉の前に新しい打者が現れる。その打者は先程の打者よりもガタイがよくパワータイプのようだ。見るからに長打者というのが判る。

 

続く二人目の打者は強そうに見えたもののストレートで三振になる。

 

「次で最後だな。って、次はあいつかよ……」

 

入れ替わるようにバッターボックスに立った選手を見て、東堂先輩は額に手を当てた。泉の応援をしている先輩としては勝って欲しい、というよりも後輩が女子に良いところを見せる手助けをしたいのだろうか。憎々しげに溜息を吐いた彼は、帽子を深く被り直した。

 

「あいつはうちの四番打者だ。泉も相手が悪かったな」

 

打ち取れずとも仕方ない、といった風に装ってフォローするあたり、上手い言い訳だ。まず中学校を上がってすぐの一年がレギュラーと勝負できるあたり、十分な成果であると言えるが。

 

一投目を泉が投げる。渾身のストレートはミットを穿ち、スパンと小気味いい音を響かせた。相変わらず一投目を打者は見送る傾向にあるらしい。慎重なのか花を持たせようとしているのか、まるでわからないが二投目の前に打者は構えた。

続いた二投目。泉が投げた球に合わせて打者が振ると、キンッと音が鳴ってボールはあらぬ方向へ飛んでいった。

三投目、打者は振らず見送った。

 

「あいつ焦ったな」

 

ボールだったらしい。続いて四投目、五投目も。

最後の渾身の一撃、とばかりに全力の六投目。

 

キンッ、と甲高い音がなった。

当たった–––そう認識した時、誰かが叫んだ。

 

「危ないッ!?」

 

誰の声かは判らない。それでも打球は飛んできた。観戦している僕達の方に、空を切って地面に落ちることもなく、バットから跳ね返ったボールがそのままに。そして、運が悪く直線上にいたのは湊月だ。

 

「……え?」

 

気づいた時にはもう遅い。僅か数メートル先まで打球が飛んできていて、彼女は驚き反射的に目を閉じた。




『泉健吾』
茶髪。中学時代は野球部に所属していた。身長は170㎝。
倉橋緋奈曰く、軽薄そうなやつ。
榊原のことを警戒しているが、恋敵になるとは思っていない。
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