再会した女の子が放っておいてくれない話   作:黒樹

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プールの日『恋人の自爆』

 

 

 

長期休暇始まって二週目の水曜日、僕達は集合場所の学校に集まっていた。学校に入るには似つかわしくない私服姿で佇む僕達を校門を通る部活に来た生徒達が不思議そうに眺める中、はしゃいでいるのは泉と西宮の二人だ。

 

「やべぇ、今日楽しみ過ぎて全く眠れんかった」

 

「ふん。眠れないとは子供みたいじゃないか」

 

「とか言いつつ、直人も眠れなかったんじゃねぇの。倉橋ちゃんの水着姿が楽しみ過ぎて」

 

「そ、そんな下品なことを俺が考えるわけないだろう!」

 

泉の弄りに反応しつつもその目の下にはしっかりと隈ができている辺り、見当違いのような泉の予想も実は大当たりしている可能性は否定できない。そんな風にさっきから騒ぐ馬鹿二人を見て、緋奈は呆れたように言った。

 

「男子って本当に馬鹿」

 

「あはは。……でも、圭はいつも通りなんだ」

 

緋奈の愚痴も流し気味に湊月は拗ねたようにそう言って、すぐに僕の腕を絡め取る。夏の暑さにも負けない湊月のイチャイチャにご馳走様と意味不明な感想を緋奈が述べたところで、学校の前に屯する僕達の前に一台の大きな車が停車した。

窓ガラスがゆっくりと開き運転手が顔を見せる。そして、開口一番に僕を見て一言。

 

「全員集まってるわね。乗りなさい」

 

と、命じた。

 

「おはようございます藤宮先生。小鳥先輩もおはようございます」

 

その助手席には小鳥先輩の姿も見えた。

藤宮先生が乗ってきたのは七人乗りのファミリーカーだ。適当に挨拶をしながら乗り込む。

藤宮先生と先輩が一番前、その後ろに湊月、僕、緋奈。そして、最後尾に泉と西宮の二人が。

 

「乗ったわね。行くわよ」

 

総勢七人が乗り込んだ車はすぐに発車した。

 

 

 

 

 

 

それから一時間程車に揺られて目的地の『白崎ウォーターガーデン』に到着した。車を駐車するとすぐに入場し、脱衣所の前で別れた。着替えは数分で終わり、身支度に時間がかかると言われている女子を待っている間、僕に泉が声を掛けてくる。

 

「なぁ、榊原君ちょっち聞いていい?」

 

「くだらない内容だったら叩き潰すぞ。で、何?」

 

「いや、藤宮先生をどうやって連れて来たのかなって」

 

泉や西宮的にはかなり珍しい光景らしい。教師が生徒と遊びに来るということは。それが常識的な反応、僕は放課後に先輩に付き合って青春の真似事をさせられている時にたまに藤宮先生もいるから疑問に思わなかったが、言われてみれば確かに変な感じである。

実を言うと小鳥先輩を誘った時点で藤宮先生が車を出してくれる事を期待していた面もあり、ついてくるだろうなと予想はしていたから驚きは少なかったが、当時、藤宮先生も参加すると言ったら他の面子が驚いたのである。今も半信半疑のようだ。

 

「そういうもんだ。慣れろ」

 

「まぁ、いっか。藤宮先生の水着姿見れるしぃ!そこは榊原君に感謝!」

 

泉は非常に短絡的な性格のようで、水着が見れるなら問題なしと判断したようだ。女性用の脱衣所の辺りを今か今かと凝視している。西宮も泉を嗜めるがその視線は女性用の脱衣所に視線が向きがちだ。

 

それから十分くらい待ったところで、見知った女性達が脱衣所から出て来た。その姿を見るや泉と西宮は既にクライマックス状態、興奮を抑える様子もなく「うぉぉ!」と叫び始めた。その頭をパンと弾いて、強制的に煩悩を叩き出した。その拍子にプールに突き落とすことになったが僕は何事もなかったように女性達を出迎える。

 

「け、圭、その……お待たせ」

 

第一声を発したのは湊月だった。背中の方で腕を組んで不安げな表情を見せる。彼女が着けているのは黒のホルターネックビキニだ。惜しげもなく晒し出した生脚が眩しく、もじもじと擦り合わせる様が目に毒だ。どうして海でナンパなんてしたくなるのか他の雄の気持ちが少しなりとも分かった気がする。確かにこれは持って帰りたい。

 

「……取り敢えず、おまえはこれ着てろ」

 

「えっ、あっ、うん……」

 

「それと今日、空いてるか?」

 

「……うん」

 

僕は着ていたパーカーを脱ぎ、湊月の肩に掛けた。頰を真っ赤にして俯く様がなんとも可愛らしい。

 

「ちょっとお持ち帰りの約束とか今しないでくれる?先生見てるんだけど」

 

そんな親友の姿に呆れ混じりの溜息を吐き、緋奈が後方を指差す。そこには同じくらい顔真っ赤の教師の姿があり「不純異性交遊」が何と呟いている。大丈夫。正気じゃない。

 

「いいだろう別に。おまえもいるかパーカー」

 

緋奈は白のオフショルダーレース付きビキニ、そのレースから透けて見える肌が余計に彼女の魅力を引き立て、道行く男の視線を奪っており家族連れのお父さんもプールから上がれなくなっている。

 

「予備あるなら貰うわ。なんか視線が鬱陶しいし」

 

同じく肩に掛けてやると頰を弛ませ上機嫌になった。

 

「ね、ねぇ、榊原君。流石に男女でのお泊まりは先生感心しないわよ。ま、まして不純異性交遊なんて!」

 

「不純異性交遊って何をやると思ってるんですか先生は」

 

「そ、それは……あれよ」

 

ゴニョゴニョと言い淀む。藤宮先生が着ているのは至って普通の青いビキニに同色のパレオを腰に巻いている足を極力見せないスタイルだ。そしてそのパレオを握り締め、わなわなと震えるところを見るにそういう耐性は殆どないらしい。ゲームの時に子供がどうのと言っていたが実はこの先生、見た目通り堅実に生きてきたためかなり初心だ。

 

「取り敢えず、先生もどうぞ」

 

「あ、ありがと……気が効くのね。私も欲しかったところよ」

 

同じくパーカーを肩に掛けてやる。

その後で、小鳥先輩に向き直った。

小鳥先輩が着ているのはフリルのついたワンピースタイプの水着。

制服の上からでもわかる発展の乏しい壁に僕は嘆息した。

 

そして、視線を逸らす。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

「え、えぇ!?なんでわたしには聞かないの!?」

 

「いや、先輩には必要ないかと」

 

「けーちゃんのいじわる!」

 

この後、先輩はめちゃくちゃ拗ねた。

 

 

 

それから数分後、流れるプールに落とされた二人は一周して戻って来た。僕に文句を言ってくるかと思ったが美少女・美女達の水着姿に夢中で怒りは遥か彼方へ。現金な奴らだな、と呆れたところで僕の腕が引かれる。その犯人は小鳥先輩だった。

 

「ねぇねぇ、けーちゃんどこ行く?」

 

もう片方の手には白崎ウォーターガーデンのパンフレット、それを広げて楽しそうに見始めた。周りから覗き込むように全員が見る。

白崎ウォーターガーデンは日本最大の水着で遊べるレジャー施設らしく、夏のプールだけでなく水着で入れる温泉まで完備されている。敷地の広さは東京ドーム四個ほど、軽食から本格的な食事までできるらしい。更には近くにホテルまであり、どれだけ金をかけた施設かわかるくらいの規模であった。

 

「波が出るプール?」

 

「サーフィン体験と書いてあるぞ」

 

男ども二人が興味を示したのは『波が出るプール』だ。それもかなり激しい感じでサーフィンが体験できるらしい。ミニサーフボードの貸し出しもやっているらしい。写真には小型のプールにサーフィンをする男性が写っていた。

 

「流れるプールだってお姉ちゃん」

 

「足着く?大丈夫かしら?」

 

小鳥先輩は子供みたいに大はしゃぎだ。

もはや、藤宮先生は姉というより保護者である。

『流れるプール』はそれほど珍しくもないが、学校にはない。

そこそこ規模のでかい施設にしかない代物だ。

 

「ウォータースライダーだって湊月」

 

「このフリーフォールってやつ、スタート地点が殆ど直角に見えるんだけど……?」

 

「いいじゃない。恋人に抱き着いて滑れるウォータースライダーもあるわよ」

 

「そ、そっか……二人で……ふふ」

 

パンフレットを見て緋奈は湊月を唆す。

小悪魔的と呼ぶか、蠱惑的と呼ぶか、僕はどうしたらいいのだろうか。

こういう絶叫系は苦手なのか、湊月は敬遠気味。

僕はパンフレットを眺めて、ある一点を指差した。

 

「おまえらはこういうの好きそうじゃないか?」

 

僕が指差したのは『温泉プール』の区画。それに三人の女子が目を輝かせた。

 

「ジャグジーとかあるのね」

 

「意外だわ。男の子ってウォータースライダーとか好きだと思ってたのに。榊原君って意外なところがあるのね」

 

「ミストサウナというのもあるな。普通のサウナと何が違うんだろ」

 

疑問を覚えた湊月が、何かを思いつく。

緋奈の方を見て、悩ましげに呟いた。

 

「でも、混浴かぁ……私は圭と一緒にお風呂に入るから慣れているけど、緋奈はいいのかな?」

 

「そうよね。混浴なのよね……ぇ?ごめん、今なんて言った?」

 

「だから、混浴って……」

 

「その次!」

 

「私は圭と一緒に入っていて慣れてるから……」

 

「……」

 

「え?」

 

「えぇ!?」

 

「……あっ。待って今のナシ!今のナシ!聞かなかったことにして!」

 

盛大に自爆した湊月は頰を抑えてその場に座り込み、頬を赤らめるだけではなく耳まで真っ赤にした。混浴というインパクトが強過ぎて男子二人が聞いていなかったのが幸いか。

 

「あんた達、そんなことしてたの?」

 

「だ、だって、圭が一緒に入りたいって言うからぁ」

 

批難がましい視線が緋奈から。全ての罪をなすりつけられたが否定はしない。確かに一緒に入りたいとは思う。美少女が恋人ならなおさら一緒にいたいと思うだろう。

 

「不純異性交遊よ榊原君。生活指導させてもらうわ!」

 

よりによって厄介な人(教師)に聞かれてしまった。しかし、その目はぐるぐると挙動不審に泳いでおり頰は赤い。経験がないからか打たれ弱くも教師としての責務を果たさんとしている。

 

「では、先生。不純ではない異性交友とはなんですか?」

 

「そ、それは、その……異性間での接触は禁止よ!」

 

「手を繋ぐのもダメと」

 

「ちょっと榊原君、何よその馬鹿にしたような顔は!」

 

「いえ、先生は初心で可愛いなぁと思って」

 

「か、可愛いって馬鹿にしてるの!?」

 

「綺麗の方がよかったですか?」

 

その言葉がトドメになったのか藤宮先生はそれっきり言葉を発さなくなった。代わりに妹の方、小鳥先輩にフォーカスする。

 

「小鳥先輩、先生ってこんなのでしたっけ?」

 

「お姉ちゃんクール系に見えるけど、それはスーツでいつも武装してるから。スーツ脱ぐとこんなのだよ。可愛いとか綺麗とか言われ慣れてないからすぐにこうなっちゃう」

 

「小鳥先輩は大人ですね」

 

「わたしはほら、人間の汚い部分いっぱい見て育ったから」

 

「実話怖すぎるんですけど」

 

人の心を理解できるということは、それだけ見たくない部分も見ているのだろう。普段の子供っぽい言動もあるから忘れていたが、実は姉より神経が図太い妹だった。

 

「あんたさ、ちゃんと湊月の気持ちとか考えてる?」

 

既に二人が戦闘不能の状況で、わざわざ距離を詰めて緋奈は耳打ちしてきた。肌色成分多めの美少女の接近に少し胸が高鳴る。偶然か発育のいい胸が腕に当たっている。

 

「嫌がる湊月に強要したように思うか?」

 

「いや、そこは心配してないけど」

 

「じゃあ、何が不満なんだよ?」

 

「……なんか腹が立ったから?」

 

「えぇ……」

 

明確な理由もなく僕は緋奈に責められているらしい。

あまりにも理不尽だが、緋奈はあまり本気でも言ってないようだ。

多分、きっと緋奈は何も言わない。

湊月が幸せな限りは見守るスタンスだ。

 

喧嘩したら、絶対に何か文句を言ってくるだろうな、というのがわかる。未来永劫、僕が怒るビジョンが見えないが。

 

「混浴……」

 

「混浴、かぁ……」

 

それより男子二人の伸びた鼻の下、どうにかしてくれないだろうか。

 

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