カネキ(女)のヒーローアカデミア   作:青青

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USJ・2

広場へと駆ける。

 

 

悪意の元へと。

 

ーーー

 

「脳無やれ」

 

脳みそがむき出しの大男に体の至る所に手の模型を付けたひょろひょろの男が言う。

すると、その脳無と呼ばれた大男は目の前に居る標的(イレイザーヘッド)を殺さんと駆け出す。

駆ける、とは言うがその速度たるはまるで新幹線だ。

普通の人間なら反応も出来ず轢き殺されミンチにされるだろう。

だが、仮にもプロヒーロー。幾つもの修羅場を超えPlus ultra(更に向こうへ)して来た戦闘のプロだ。目は肥え、感覚は研ぎ澄まされている。

イレイザーにとって()は最大の武器。

動体視力や反射神経、この場にいる誰と比べてもイレイザーの()は抜きん出ている。

だから、新幹線のような速度のその拳も巨体も、イレイザーにとってはただの()()()()()()()()()()()()()()()であり()で、

()()では無い。

 

「残念、俺の目に写ってる時点でお前は終わってんだ。」

 

そう言って個性を発動、飛んでくる拳をスレスレで回避し空いているボディに拳を突き入れる。

しかし相手からの反応は鈍く、あまり効いていない。

大幅に距離を取り目を紅く染め、髪を逆立てて敵を威圧するイレイザー。

 

「うーん、やっぱりそれ強いなぁ。普通に性能だけ見たらチートだし。その個性厄介だよなぁ。経験値もレベルも他よりずば抜けてる。」

 

頸を掻きながら手を付けた男はブツブツと何かを語り出す

 

「うん。うん?いや、待てよ。そんな強い能力でデメリットなし?いや有り得ないよな。きっとMPか反動がある筈だ。なら、時間をかけて分析しよう。よし、そうだ。ゆっくり観察して突破口を見つける。はは、RPGの醍醐味だよな。よしよし。」

 

この襲撃をゲームかなにかだと思っているのか、子供大人な手を付けた男はニヒルな笑みを浮かべながらイレイザーに対する分析を始める。

 

「1.2.3.4...」

 

その間にもイレイザーと脳無の戦いは続いている。

戦いと言っても、脳無の攻撃をイレイザーが躱し続けるという単調な物だが。

 

「ッ、クソ。視えてるから何とかなってるがこれは不味い。アイツに対する決め手が無い。このままじゃあ削りきられて終わりだ。折を見て離脱するのが合理的だが、教師としちゃあそりゃあ出来ない。」

 

攻撃を避けながら、今も逃げ、戦っている生徒達のことを思い浮かべる。

 

「全く本当に、教師ってのは大変だ...!取り敢えず時間を稼ぐ...!なるべく早く、頼みますよオールマイトさん...!!」

 

そうして、脳無を見据えて首元の捕縛布を掴む。

 

ーーー

 

手を付けた男は、脳無と戦うイレイザーを観察している。

 

「21.22.23.24...見つけたァ」

 

そして、何か数を数え出したと思えば何かを見つけたと口元を緩める。

 

「髪が落ちるタイミングが、あるな。それも一定の間隔で。」

 

「ッ!!」

 

その表情を言葉で表すなら、まさに悪者の笑み。ニヤァと笑みを浮かべた顔でイレイザーへと語り掛ける。

 

「そして、その間隔も段々短くなりつつある。おまえ、無理して個性使ってるだろ。そんな強個性、デメリットがないわけない。お前の場合使えば使うほど目が乾くとかそんな所だろ。目が乾けば目を閉じなきゃあ行けないよなぁ?でも目を閉じればその分自分が後手に回るよなぁ?お前それ、致命的だろ。」

 

言い終わると同時に駆け出しイレイザーの肘を掴む。

 

「ぐっ」

 

「残念、ヒーロー。お前の負けだ。」

 

そして、掴まれたその肘からポロポロと崩れて皮膚が落ちていく。

皮膚が落ち、肉が落ちようとしていたその時手を付けた男は手を離した。

 

「ククッ、ここで崩してやっても良かったんだがまぁそれじゃあ面白くないよなぁ。生徒がその姿を見て、絶望に悶え苦しむ姿を見なきゃあ面白くないよなぁ!脳無!死なない程度に壊せ!」

 

愉快そうに笑い声を上げながら脳無へと司令を出す。

その脳無は、のそりと歩き出しイレイザーの腕を掴む。

 

「グッ...ァ!」

 

そうして、掴んだその手を握り潰す。

右手、左手と潰されそのダメージで身動きも取れない。

 

 

「ハッハッ!コレで!イレイザーヘッドの!ヒーローとしての!生命は!終わっ「らせないッ!!SMASH!!!」

 

緑色のイナズマが、脳無の右手を焼いた。

緑色のイナズマも焼いたというのも比喩だ。だがその一瞬、そう見えた。

そうとしか見えなかった。

そのイナズマの正体とは...

 

「み、どりや...おまえ...なぜ、きた...」

 

正義感、ヒーロー感、価値観、()()()()で有りながら雄英でヒーローを目指す、いわば主人公のような男。

 

緑谷出久だ。

 

血を吐き、地を這う相澤を抱えた緑谷は涙を浮かべた顔で無理矢理笑顔を作りこう言った。

 

「ヒーローは、綺麗事実践するお仕事です!!」

 

「この、バカが...」

 

相澤はそこで限界が来たのか、目を瞑り意識を落とした。

 

「あっす梅雨ちゃん!相澤先生をお願い!」

 

後ろに着いてきていた蛙吹と峰田に相澤を渡し、敵と向き合う。

 

「分かったわ、緑谷ちゃん。無茶だけはしちゃダメよ。」

 

「うん、大丈夫。頼むよ!」

 

その様子を見ていた手を付けた男は、緑谷に向かって言葉をかける。

 

「あぁ、うん。学生の援軍か。うん。面倒だね。それより、君SMASHって、オールマイトのフォロワーかい?趣味悪いから辞めた方がいい。イライラして、殺しちゃうからね」

 

キッと音が出たかと錯覚するような憎悪の籠ったその眼力に睨まれ、腰が引けてしまう緑谷。

しかし、緑谷の目指すものはヒーローである。しかも、ただのヒーローではなくオールマイトの様な最高のヒーロー。

そんな彼が、クラスメイトの前で、敵から逃げるなんて言語道断。

 

「負ける...もんか!」

 

ファイティングポーズを取り、睨み返す。

 

「脳無、殺せ。」

 

しかし、無慈悲な一言。

感情も色もない無情な瞳が緑谷に向く。

そして、踏み込み、走り向かってくる。

 

「ッ!」

 

オールマイトの様な巨躯、力。

イレイザーならば躱すことが出来るその攻撃も、この前まで非力の無個性で、中坊だった緑谷が躱すのは至難だ。

 

「しっ!」

 

なんとか1発目を躱すも2発目が飛んでくる。

その2発目に対し緑谷は懐へと飛び込む。

いきなり、自らの元へ飛び込んできた事に対応出来ず脳無は拳を空に振り切ってしまう。そして、拳を振り切ったことにより無防備になったその体に、緑谷は今持てる全ての力を持って、殴った。

 

「SMAAAAAAAASH!!!!!!!!!!!」

 

オールマイト並みのパワー、それを持ってして脳無を殴った。

衝撃で地面が蜘蛛の巣状に割れ、空気が巻き上がり、砂埃を巻き起こした。

 

「がぁ!」

 

反動により右手を失ったが、その損失もあの凶悪な敵を討ち取った事と比べれば少なくとも分の悪い物じゃない。

 

()()()()()()()()()()

 

「は?」

 

砂埃が晴れたその先には、今までと変わらぬ姿で立つ脳無が居た。

その姿に思わず滑稽な声で呟いてしまう。

 

「ハハハ、物凄い威力だった。オールマイトにも匹敵するようなね。でも残念、そいつの個性はね。ショック吸収。攻撃を食らってもその衝撃を吸収して無かったことにできる。オールマイト用のサンドバッグさ!残念だよ本当に!じゃあ脳無、トドメだ。」

 

手の男は喜々嬉嬉と自分のおもちゃを自慢する子供のようにはしゃぐ。そして、無傷の脳無に指示を出した。

 

ここで緑谷の運もツキたかと、思われたその時だった。

 

キィィィィン!と甲高い音と共に氷山が脳無へと襲いかかった。

 

「悪ぃ、遅くなった。」

 

その氷山を出した主がそう言うと後ろから爆撃音が響いてくる。

 

「オラァ!どけやクソデク!足でまといのクソナードは黙って死んどけぇ!」

 

「かっ、ちゃん...」

 

緑谷の幼なじみである爆豪と、推薦入学者の轟であった。

 

「言ってる場合か、前見とけ。」

 

「うるせぇ半分野郎。てめぇこそ邪魔すんじゃねぇぞ。あの敵ヤローは俺がぶっ殺す。」

 

さすが爆豪、糞を下水で煮込んだ性格なだけあって暴言の嵐だ。

 

「またチートが出てきたよ。うん、そろそろ面倒臭いし飽きてきた。脳無、今度こそ殺せ。」

 

「あぁ!?飽きただぁ!?てめぇその口燃やしてやっからそこで死んどけやァ!」

 

爆豪、お前もうヴィランよりヴィランらしいぞ。

 

 

 

 

そして、爆豪&轟対脳無の勝負が始まった。

 

 

と、思われた。

 

「ガッ!」

 

「グアッ!」

 

轟と爆豪は見誤っていた。

敵が脳無と手の男だけだと。

 

「よくやった黒霧。」

 

そう、この場には、3人目の敵がいた。

 

「すみません死柄木弔。1人逃げられました。」

 

そう言う黒霧。

 

「はぁ!?はぁ...お前、ゲートじゃなきゃ殺してるぞ。はぁ、仕方ない。帰ろうか、ゲームオーバーだ。」

 

天を仰ぎ、地に俯き、そして、告げた。『帰る』と。

 

「帰る?カエルって言ったのか!?」

 

「そう聞こえたわ。」

 

水難ゾーンの端、壁の裏で相澤を手当していた峰田と蛙吹がその会話を聞いて安堵する。

 

「でもまぁ、雄英の面子を少しでも潰して置いても、遅くない。脳無、転がってる奴らにトドメを刺せ。黒霧、後始末だ。この施設内に残ってる残党と死んでねぇ奴らを連れて行け。終わり次第すぐに戻ってこい。俺たちの情報は少しでも抑えておきたい。」

 

死柄木はそう指示を出す。

そして、脳無はトドメを刺しに。

黒霧は味方を拾いに動き出した。

 

「まだ僕が居る!かっちゃん達はやらせないぞ!」

 

潰れていない左手を構え、敵にそう言う緑谷

 

「お前、利き手右手だろ。利き手もまともに使えねぇのに何粋がってんだ?あ、良いこと思いついた。脳無あいつの足と残ってる腕壊せ。」

 

目にも止まらぬスピードで緑谷へと迫る脳無。

べキィ!バギィ!

 

「ぐガァァ!!!!!」

 

万全の状態の緑谷ならまだしも腕が砕け、疲弊している状態、躱せる訳もなく、なすすべなく四肢が使えなくなってしまった。

 

「お前はそこでお前が救えなかったガキ共が死ぬのをよく見とけ、お前は生かしといてやるよ。お前のせいで死んだヤツらの恨みと怒りを背負ってこれから生きてくんだ。楽しそうだなぁ!!」

 

これまでにないほど、口が裂けそうなほどの笑みでそう言う死柄木。

 

「クソ!クソ!オール...マイトォ...」

 

涙を流して、今ここに居ない平和の象徴へと縋る緑谷。

 

「ハハハ、そうだ!オールマイトが全部悪いんだ!あいつがヘラヘラ笑ってるからこうなるんだ!憎むなら俺らじゃなくてオールマイトを憎むんだなぁ!」

 

「...ク...ソ...」

 

緑谷は、戦意を喪失し今にも精神が壊れてしまいそうな顔をして涙を流す。

 

 

 

 

 

幸か不幸か、その涙は、血塗られた光を、黒と白と言う相反する色が混ざった希望を呼び立てた。

 

 

 

ーーー

ここからは脳内で『unravel』を流してお楽しみ下さい。

ーーー

 

そして、脳無は轟へと足を進め、その頭を踏み潰さんと、足を上げた。

 

 

 

 

 

 

しかし、その足が振り下ろされることは無かった。

 

 

 

 

それは、紅く、黒く、そして美しい、『赫子』によって斬り飛ばされてしまったから。

 

「君が、コレを、したの?」

 

赫子を仕舞い、マスクを外しながらそこにいるヴィランに問い掛ける。

 

「ッ、何者だ!お前、生徒か!?クソ、なんでこんな所にまだ!いや、脳無!そいつを殺せ!」

 

明らかに動揺し、焦った死柄木。

きっと、トドメをさして援軍が来る前に逃げる算段だったのだろう。

しかし先に援軍が来てしまった。一見優秀な参謀、いや指揮官に見えるがまだ成熟しきっていないのが見て取れる。

 

「君がしたんだ」

 

金木は単調に、真顔で言う。

 

「ハ、ハハ!そうさ、俺がやった。コイツらが弱いから!弱いくせに出しゃばるからなぁ!脳無!」

 

脳無を使い、金木に特攻を仕掛ける。

 

「そう。それが分かれば十分。この肉ダルマを殺したら、君の番だから。」

 

そう言って、金木は脳無を見据える。

 

「パキッ」

 

右手の人差し指を、同じ手の親指で鳴らす。

 

知っているだろうか、『ルーティーン』というものを。

何かをする前に事前に決めておいた何かで集中力を極限まで高め、パフォーマンスを最高に発揮するための行為。

 

これは金木のルーティーン。

指を同じ手の親指で鳴らすという独特なもの。

この動作をしている時、彼女は自覚がない。

所謂癖だ。

 

戦闘に入る前や、戦闘中等に、自分の意識の外で起こってしまう。

 

様はこれでスイッチを入れているのだ。

戦闘のためのスイッチを。

 

 

脳無はそれを隙と見て突撃し、拳を打ち込む。

 

ダァン!

 

もろに食らった金木はボール球のように飛んでいき、広場の外の木にぶつかり止まった。

 

「っ、なんだよビビらせやがって。やっぱりただのガキじゃねぇか。殺すとか抜かすからどんな奴かと思った...!?」

 

期待はずれと言わんばかりの瞳で金木を一瞥し、手を仰ごうとしたその時、捉えてしまった。

 

オールマイトですらダメージを受ける脳無の拳をもろに食らって

 

何一つ傷を負わずに、澄ました顔で立っている金木を。

 

 

「何ィ!?」

思わず素っ頓狂な声を上げる死柄木。

 

「ありえない!オールマイトですらダメージを食らうんだぞ!それを無傷だと!?チートがァ!」

 

 

「次は、僕の番。」ポキッ

 

そう言って指を鳴らし、笑顔をうかべる。

その左目は、黒く、そして紅く染まっていた。

 

そして、脳無へと駆け赫子で脳無の腹を打ち抜く。それの連打。

どこか別の人間にやれば『死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!』

と、悲鳴をあげそうなそのラッシュ。

 

「なんだよ、それ。なんなんだよその触手はァ!脳無は、超再生だぞ!?ショック吸収だぞ!?なんでいとも容易く脳無を穿いてるんだァ!?」

 

そして、脳無は数分と経たずにバラバラになり、再生することもなく息絶えた。

 

「次は、君の番。」

 

脳無の返り血を浴び、髪は所々、体は半分以上紅くなっている。

 

笑みを浮かべながら歩いてくるその姿は、まるで幽鬼の様で...

 

「黒霧ィ!撤収だァ!いそげぇ!」

 

気付けばワープゲートで逃げ出していた。

 

ーーー

 

「はぁ、はぁ、なんだあいつ、俺が言えたことじゃあねぇが、俺以上に敵やってやがる。血を浴びながら笑顔でこっちに向かってきやがった。先生!なんだアイツは!脳無を瞬殺しやがった!」

 

早口で、思ったことを全て吐き出す。

 

「へぇ...」

 

先生と呼ばれたその男は、それ以上何も言わなかった

 

ーーー

 




今回は少し長めですね。

感想と評価よろしくお願いします。

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