呼んでますよ、嫉妬さん R   作:ちゅーに菌

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いつかの契約です

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 

 悪魔になってから数日が経った頃。俺はペダルを全力で漕ぎながら自転車で公道を疾走していた。

 

 下積みではあるけどこれも悪魔の仕事。端末に表示される家のポストに魔方陣の書かれたチラシを入れるだけの簡単なお仕事だ。

 

 最も――。

 

「ほら兵藤さん、そこ右です」

 

「はいッ!」

 

 右手に携帯端末を持ち、なぜか左手に小さめのダンベルを持ちながら自転車の後ろに乗っている辻堂先輩(約65kg)が居なければの話ですけど……。

 

 確かに先輩みたいな美人と毎日一緒にいれるのは純粋に嬉しい! 持ち物検査の日にエロDVDを持ち込まなくても会えますし!

 

 でも先輩は間違いなく、ただ自分を重石代わりにしてエロDVDなどを持ち込む俺に日頃の鬱憤を晴らしているんだろうな……ダンベルも1kgでも重石を増やす嫌がらせだな!

 

 くっそ……悪魔になったから筋力とかも上がっているハズなのに寧ろ前より直ぐに疲れるような……?

 

「あっ、言い忘れてましたけど、このダンベルはひとつで180kgありますから」

 

180+65=245kg

 

 ち、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、チラシ配りは強敵でしたね……」

 

「はぁ……! はぁ……! 先輩の鬼! 悪魔!……あ! 悪魔か!」

 

 悪魔になった最近の日課のチラシ配りを終え、学校に戻って来た兵藤さんに労いの言葉を掛けると、なぜかそんなことを言われました。失礼な、こんなに後輩思いの先輩はいませんよ。

 

 とりあえず兵藤さんとオカルト研究部の部室へと戻ると、そこには誰もいませんでしたが、明かりは付いたままでついさっきまで誰かがいたような痕跡があります。主に食べ掛けのショートケーキとか。彼女ったらイチゴは最後に食べるタイプみたいですね。

 

「あれ? 皆契約に行って…おわっ!?」

 

 とりあえず、兵藤さんは邪魔なので足を弾いて床に倒しました。

 

 その次の瞬間、真上から金髪の男子生徒が西洋剣を、バスタブの中からは白髪の小柄な女子生徒が、メリケンを手に私へ向かって一直線に飛び掛かって来ます。

 

 まずは、動きの早かった彼の剣先を指二本で挟んで止めました。

 

「ははは……嘘ですよね……?」

 

もうどうしたら一太刀入れられるんだとでも言いたげな顔をしている金髪の男子生徒。とりあえず、私は微笑んでおきましょう。

 

 また、この隙に私へ全力のボディブローを叩き込もうとしている白髪の小柄な女子生徒には剣を止める方とは逆の手の小指一本で止めて見せます。

 

「にゃ!?」

 

「さて、如何に勝てないからと言ってこの際プライドは抜きだと言わんばかりの戦法を取ってきたあなた方には少し、お灸を据えるべきですね」

 

 まず、金髪の男子生徒に目線を合わせました。絶妙な表情で苦笑いしながら汗を流しています。

 

「無抵抗の女性に剣を向けるとは何事ですか」

 金髪の男子生徒にそう呟き、魔力を込めて彼の剣を覆い。覆った直後に剣が跡形もなく分解され、支えを失った彼は重力により、頭から私に落ちてきます。

 

 そして、コークスクリューブローの要領で、回転の乗った私の拳は彼の鼻頭を正確に捉えました。

 

「男女平等ぱーんち」

 

 ふわふわした掛け声とは裏腹に殴られた金髪の男子生徒は絵に描いたようなきりもみ回転で部室の窓ガラスをぶち抜き、外へと飛んで行きました。元気そうで何よりですね。

 

 それを見て驚愕に目を見開きながら唖然としている白髪の小柄な女子生徒へは指先から魔力を発生させ、彼女に一時的なバインドを掛けます。私が解除するまで顔以外動かす事は難しいでしょう。

 

 うーん……今日は何を書きましょうか? 猫さんは額が広いので何でも書けちゃいます。

 

「キュポッと」

 とりあえず油性マジックで額に"持たざるもの"と文字を書き、ほっぺにクラブと木板の盾の絵を描いたら完了です。

 

 そして、部屋にあるソファーに挟まれている机の上にある食べ掛けのショートケーキが乗っている皿を手に取り、彼女の前まで戻りました。

 

 彼女は何か察したのか口をパクパクとしていますが、私による状態異常バインドが付加されているため、話すことも叶いません。

 

 私は笑顔でショートケーキのイチゴを手に取り……自分の口に放り込みました。

 

「うーん、酸っぱいですね。時期が早かったんでしょうか?」

 

 特に美味しそうな様子も見せず、食べた適当な感想を吐きます。

 

「にゃああああああああああああああああああああ!!!!!?」

 

 モグモグとイチゴを租借しながら彼女のバインドを解くと、悲痛な叫び声が上がりました。ああ、いい表情と声……心なしか口の中のイチゴが甘くなったような気がしますよ。

 

「あなたたち……なにやってるのよ……」

 

 丁度、グレモリーさんがこの部屋に戻ってくるとそんなことを呟きました。あなたの眷族をちょっと可愛がっているだけですね。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「イチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられたイチゴ食べられた」

 

「イッセーくん。僕の鼻はまだ付いているかい? 前がよく見えないんだ」

 

「木場お前!?…………先輩! イケメンだって人間なんですよ!?」

 

「悪魔に人権はありません」

 

「くそっ! 何て酷い社会なんだ!?」

 

 私はレイプ目でイチゴの無いショートケーキの皿を持ちながらぷるぷると小刻みに震えている白髪の小柄な女子生徒――塔城小猫さん。そして、顔面が血だらけな金髪の男子生徒――木場裕斗さんの2人を横目で見ながら、ティーポットから紅茶をカップに注ぐとグレモリーさんの前へと置きました。

 

「お茶が入りましたよ」

 

「あら、ありがとう」

 

「いえいえ」

 

 そもそもの事の発端は兵藤さんが悪魔になってから次の日の顔合わせで、私の実力がすこぶる高く、槍なども使うと言うことがグレモリーさんの騎士である木場さんに知れたことが原因です。

 

 剣で槍に挑む時点で既に前提から間違っている気もしますが、まあ、経験を積むぐらいなら良いだろうと思い適当に相手をし始めました。そうしたところ、明らかに加減をしているにも関わらず、私に傷ひとつ与えられないことに木場さんは衝撃を受けたらしく、それ以来毎日相手になって欲しいと言ってきたのです。

 

 ただし、私も条件を付けました。"悪魔なら殺す気で掛かって来なさい"と。

 

 その結果、日に何度か木場さんが強襲を掛けてくるようになったと言うことです。最近、面倒になり始め、私のカウンターが雑になったと言うか、手加減が雑になったような気がしないでもありませんが、きっと気のせいでしょう。

 

 ああ、塔城さんの方は3日目に私が彼女の取って置きのおやつを食べてしまってから木場さんに混ざって攻撃してくるようになりました。まあ、彼女は原因が原因なので物理的なダメージは一切、与えていません。私、超優しい。

 

 なぜか昨日、姫島さんに真剣な顔でお姉さまと呼んでも良いでしょうか?と聞かれましたが、意味がわかりません。私はとても親切で優しい悪魔をポリシーにしています。

 

「私の眷属で遊ばないでくれるかしら?」

 

「前向きに検討しておきます」

 

「…………そんなんだから友達が居ないのよ……」

 

「今、何か言いましたか?」

 

「い、いいえ……何も……」

 

 そんな会話をしていると姫島さんがひょっこりと部室に現れ、現在のオカルト研究部のほぼフルメンバーになったようです。まあ、私はリアスさんの眷族でもないので、部員とは言え、部外者と言えば部外者なんですがね。

 

 そう言えば、私が風紀委員として使っている事務室の鍵を掛けたか覚えていない事に気が付き、本校舎の方に向かいました。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 鍵はしっかり掛けてあった事を確認し、部室へと戻ると、部屋の中央にあるグレモリー家の紋章の上で兵藤さんが、膝と手を突きorzになっているのが嫌でも目に入りました。なにやら面白そうなので私も混ざりましょう。

 

 彼のいる場所と、彼の稚児以下の魔力量から大体の事は想像がつきますが、とりあえず近くにいた姫島さんに聞いてみると案の定、彼の魔力が足りな過ぎた為に魔方陣から直接ジャンプする事が出来なかったらしいです。

 

 仕方なく、自転車で契約者の元に行くことにしたのか彼は立ち上がりましたが、次の瞬間、私の手元を見て叫び声を上げながら再び両手量膝を突きorzになります。

 

「ぐっ!? 先輩いいいいい!!」

 

 何と無く微笑みながらちょっと重めのダンベルを持ちたくなっただけだと言うのに相変わらず面白い反応をしますね。

 

「いつも疑問だったんですけどそのダンベルは何なんで……うっ!? …………ああ、これはひどい」

 

 顔の怪我は治した様子の木場さんが疑問を投げ掛けてきたので、ダンベルを投げ渡しました。片手で受け取った直後、彼はダンベルに沈み込まされるように床にダイブし、とあるクソゲーの冒頭で言われる迷ゼリフを呟きました。

 

「…………これひとつ貰えませんか?」

 

「いいですよ。その大きさでなら10t程まで用意出来ますが?」

 

「10t!? と、とりあえずこれと同じものを……」

 

「そのまま、差し上げましょう」

 

 "鍛練に熱心な事は良いことですね"などと思いながら木場さんから目線を外し、まだ魔方陣の上にいる彼に目を向けます。

 

「はぁ……友人の(よしみ)ですよ?」

 

「うわっ!?」

 

 仕方がないので溜め息を吐きながら彼に近付き、肩を掴んで立たせました。そして、私の魔力を魔方陣に注いで無理矢理機能させます。すると魔方陣は蒼く光出し、蛍火のような光が部屋中を飛び交い始めました。

 

「どうせ直ぐに成長するんですから……それまではこのような形で転送すればいいと思いますが?」

 

「あ、あなたどれだけの魔力を使ったら登録していない魔方陣を……!」

 

「行きますよ。兵藤さん」

 

「は、はい!」

 

 グレモリーさんが何か言っていますが気にせずに魔方陣を起動しました。こういう簡易的な形式の悪魔のお仕事を実際に目にするのは初めてなので、少し楽しみな自分がいるのは否定はしません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、初仕事は強敵でしたね……」

 

「また、その口調ですか先輩……」

 

 何故か周囲に黄味がかった魔力の霧を撒きながらそんなことを呟く辻堂先輩。基本的には真面目な人なんだがプライベートに入ると直ぐこれだよ……。

 

 今は悪魔としての初仕事を終え、帰りはあの方法は難しいらしいので先輩と徒歩で帰っているところだ。まあ、でも思ったよりも先輩が気さくで悪戯好きな性格だったのを知れたのはよかったかな。

 

「しかし、ああいう依頼は困りますね」

 

「ああ、そうですね……」

 

 先輩がそんなことをぼやいた。確かコスプレした小猫ちゃんにお姫様だっこされたいだったか……悪魔への願いとしては酷い内容だったと言うと、先輩は首を横に振るう。

 

「いえ、個人指定が困ると言っただけですよ。内容に文句はありません」

 

「そうなんですか?」

 

「そんなものでしょうよ。現代はね。大昔なら悪魔を喚ぶなんてよっぽどの事でした。復讐とか、過ぎた恋慕とか、永遠の命とか。そんなことを頼まれても今の兵藤さんは出来ますか?」

 

「そ、それは確かに……」

 

 ちなみに依頼の方は鉄歯車というゲームに出てくるフォーチュンと言うキャラのコスプレを先輩がすることで代わりに達成できた。貧乳派を豪語していたが、巨乳派向けのコスプレ衣装ももってたらしい。なんか先輩が終始ノリノリに見えたのが一番気になったけど……。

 

 まあ、俺はその人とドラグ・ソボールを語っていただけだけどさ……。

 

「まあ、私はメイドとか、元聖女とか、猫とかとそういう契約を交わしていますが……」

 

「えっ、猫……?」

 

「――失礼、話を戻します。だからわざと呼び出しもチラシにしているのですよ。やろうと思えばもう少し厳粛というか、高級感ある方法も取れたでしょうに。インスタント感覚なら身に余る事を頼もうと言う気も起きませんからね。対価もそれ相応ですし」

 

「ああ、なるほど……」

 

 相変わらず先輩は何でも知ってるなー。見た目通り、俺とは比べ物にならないぐらい頭もいいからなー、ハハハ。先輩はこう見えて――いや、見た目通り全国模試でトップクラスとかそのレベルに頭がいいからなぁ。

 

「俺、悪魔の事、誤解してましたよ。もっと怖いと言うか、恐ろしいモノだと……」

 

「それは違いますよ。兵藤さん」

 

 俺がそう呟いた言葉を聞いた途端、先輩の雰囲気が一変した。いつもに比べれば遥かに重苦しいと言うか、棘があるような感覚だ。

 

「悪魔は人間を悪魔に転生させてまで、種族を存続させているのに人間を敬わず、見下すのはおかしい。まあ、よく言われている事ですね」

 

「え?」

 

「ですが、考えても見てください。悪魔にとって必要な人間とは?」

 

  先輩は足は止めずにその雰囲気のまま、さっきよりも棘がある口調で言葉を吐いた。

 

「神器持ちは一体全人類の何%に当たりますか? 例え神器を持っていたとしても当たりの神器保有者と外れの神器保有者のどちらが多いと思いますか? 単体で悪魔以上の戦闘能力を持つ異常な人間が一体どれ程の数がいるのでしょうか? そんな人間をあなたは日常的に見たことがありますか?」

 

「それは……」

 

 つまり先輩はこう言いたいのだろう。価値のある人間など一握りすらいないと。

 

「それでも尚、悪魔に転生した個人ではなく人類種を敬えと言うのならそれこそ傲慢というものでしょう。実際、悪魔と人間が本気で戦争をしたら一週間どころか三日で片が付くでしょうしね」

 

 先輩は"まあ、誰も得をしないので今のところはありえませんが……"と閉め、更に言葉を続けた。

 

「そもそも悪魔の中でも私やグレモリーさんのような貴族の血を引く強力な悪魔から、神器を勘定に入れてない状態の兵藤さん程度の一般貧弱悪魔までピンキリです。勿論、冥界ではどの層が圧倒的に多いのかなんて言わずともわかりますね。悪魔の貴族は強い。そんなものは当たり前です。人間の王族が美男美女が多いのと同じ理由で、悪魔の貴族は代々強力で容姿の良い悪魔同士を掛け合わせてき続けたのですから」

 

 先輩はつまりと言葉を繋げると、更に言葉の棘を強めたように感じる。

 

「悪魔の種族としての存続に人間などそもそも必要無いんですよ。必要なのは貴族の存続のためです。大戦で強力な悪魔が減った結果、貴族としての体裁が保て無くなった苦肉の策でしかありません。つまるところ悪魔が必要な人間とは、一時的な苗床の事です」

 

「な……!?」

 

 あんまりな言葉に思わず、俺の足が止まり、それを感じたのか先輩も足を止めた。

 

「都合の良い部分だけを教えられ、それを信じてしまった転生悪魔にはおあつらえ向きです。歯向かわれた場合でもはぐれとして殺せば全て解決しますしね。現魔王は体制を変えようとよくやっていますが、一時代が過ぎれば直ぐに転生悪魔は用済みになるでしょう。見下す、敬う、それ以前に結局、人間は今も昔も悪魔の食い物でしか無いのですよ。所詮、人は人、悪魔はつとまりません。そして、"悪魔は悪"なのです。だから……」

 

 先輩の背を見ながらただ絶句する俺に、先輩は振り向きもせずに言葉を続ける。

 

「私はあの時、あなたに選択させました。死ぬか? 生きるか?……と。そして、あなたは生きたいと言った。だから今こうしてここにいます。我ながら酷いことをしましたね……」

 

「はい……」

 

 俺はやっとそう返すと、先輩は後ろから見てもわかるほど珍しく悲しげな雰囲気をしており、俺のことで負い目に感じていたことがわかる。そして、先輩は暫く考え込むように星空を見上げてから言葉を紡いだ。

 

「酷なようですが……あの場で死んだ方が幸せだったかも知れませんよ。この世界はそれほどに嘘まみれで、非情で、残酷です。死にたくなったらいつでも言ってください。友人としてせめて痛み無く、葬りましょう」

 

 先輩はその場でゆっくりと振り返る。俺はその動作がありえないほどスローに感じ、その表情が酷く辛そうに見えるのが、

 

「ですから兵藤さん」

 

 何故か久し振りに見たような錯覚を覚える先輩の表情は晴れやかでいて、酷く寂しそうに俺の目には映った。

 

「その身に余る夢を叶えたければ強くなりなさい。主人よりも、最上級悪魔よりも、そして……」

 

 一瞬、そう一瞬だ。一瞬だけ世界全てが先輩の蒼一色に染まったと俺は認識していた。これが先輩の全ての魔力なんだろう。

 

 一人の認識する全ての感覚を染め上げる程莫大な魔力。まだ、悪魔の事をよく知らない俺でもこれがどれ程篦棒な事なのかと言うことはわかった。

 

 その中で確かに先輩はハッキリと、そして心に刻み込まれるようにその言葉を吐く。

 

 

 

「私よりも……ね」

 

 

 

 気付けば先輩の雰囲気はいつも通りに戻り、風景はいつもの夜中の星空に戻っていた。灯りの付いている家も極少数だ。

 

 先輩は付け加えるように言葉を続ける。が、その言葉にはさっきまでの威圧感も何も無かった。

 

「それと……リアス・グレモリーさんは信用に足ります。私よりよっぽど優しく、思い遣りのあり、愛のあるお方ですよ。ええ、悪魔としては異常な程に」

 

 先輩はそう言うと俺に向けていた身体を正面に戻し、足を進めようと一歩踏み出す。

 

「先輩、俺。夢がもうひとつ出来ましたよ!」

 

 が、俺がそう言った事で先輩はまた足を止め、こちらを振り向いた。

 

「ほほう、何ですか?」

 

「先輩が……」

 

 なんでそんなことをパッと言えたのか、俺の最大の謎だ。

 

 高嶺の花。悪魔になったことでその本質的な距離はかなり延びた気がする。でも、数日過ごしてそんなことよりも人として先輩との距離が縮まったように感じたからかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の"女王"になってくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………はい……?」

 

 多分、俺が生きていて先輩がここまで呆けた顔をしたのを見たのはこれが最初で最後だと思う。それぐらいその時の先輩は変な顔をしていた。

 

「あなた私の話を聞いていたのですか……?」

 

「俺、難しい事よくわかんないッス。成績悪いし、悪魔になっても落ちこぼれみたいだし、だから難しい事は先輩が考えて欲しいなって思って。ダメですかね」

 

「……………………」

 

 先輩は半眼で暫く俺を見つめてから小さな溜め息を吐くと、口を開いた。

 

「わかりました」

 

「ホントですか!」

 

「ただし、これは悪魔(わたし)との契約ということにしておきます。対価は10年先でも100年先でも1000年先でも構いません。あなたの実力でこの私を倒してみなさい」

 

「え゛……!?」

 

 最上級悪魔がどうのとか言われていた先輩を……? 俺が……? そんで契約……?

 

「返事は?」

 

「わ、わかりました!」

 

「よろしい」

 

 そう言うと先輩は年相応、容姿からすれば子供っぽく見えるような悪戯っぽい笑みを浮かべてこう呟いた。

 

「精々足掻きなさい。"人間"」

 

 俺は話の流れでとんでもないことを契約したのかもしれない。でも後悔はない。だって少なくともさっきよりも先輩が寂しそうでないから今はそれでいいと思うんだ。

 

 よし! 打倒先輩だ!

 

 

 

 ………………何百年掛かるかな……?

 

 

 

 






 リメイク前と相違点がほとんどない話もあると思いますが、ご容赦ください。なん――
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