呼んでますよ、嫉妬さん R   作:ちゅーに菌

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はぐれ悪魔と説明です

 

 

 

 

 山間にある忘れられた大きな廃屋。

 

 そこに入ると鼻をつく程の血の臭いが漂ってきますが、それ以上に感じるのは生き物の焦げる何とも言えない臭いでした。

 

 それを無視し、薄暗い中を進むと無数の黒い剣で壁に磔にされ、黒焦げになっている巨大な何かの前に出ました。見ればそれを見上げるように佇む私と近い年齢の女性がいます。

 

「まだ、満足出来ませんか?」

 

「ねぇ、アンタみたいな加虐趣味と一緒にしないでくれないかしら?」

 

 私の声に肩を震わせた黒衣を纏う白髪の少女――ジャンヌ・ダルクは、ぶっきらぼうにそう言い返して来ます。この惨状を見たら誰だって一言声を掛けたくなると思いますけどね。

 

 彼女は我が家に住む"元聖女"であり、名前の通りにジャンヌ・ダルクの魂を受け継ぐ英雄です。そして、アルトリアさんと同様に私と悪魔の契約を交わしている間柄でもあります。

 

 願いはジャンヌさんの場合は"復讐"、アルトリアさんは"衣食住の提供"。そして、2人の対価は"お手伝い"です。我ながら対価とも余り言えないような契約をした気もしますが、それもまた悪魔と言うものでしょう。悪魔にとって重要なのは、対価ではなく契約そのもの過程だと私は信じていますからね。

 

 ちなみにその過程で面白いのが、2人の"お手伝い"という認識の差ですね。アルトリアさんはお掃除メイドになるお手伝いさんと化し、ジャンヌさんは普通に私の金銭目当てのはぐれ悪魔狩りや料理の手伝いをしてくれます。意外とジャンヌさんの方が常識人なんですよ。

 

「……後始末しといて」

 

 ジャンヌさんはそれだけ言うと私の隣を通り抜け、何処かへと行ってしまいました。

 

「よくもまあ……こんな状態でまだ生かすことが出来ますね」

 

 彼女が居た場所に立ち、そう呟きながら黒い炭――はぐれ悪魔だった肉塊を見上げます。

 

 本当に僅かに息があるようですが、最早死んでいるのとそう違いないでしょう。精々後、数時間程度だけ苦しみもがく声すら上げれずにここにいるだけです。生かしておくだけ酷というものでしょう。

 

「許しは乞いませんよ。ただ、あなたは弱かった。それだけです」

 

 私は溜め息を吐いてから魔力を練り上げて三又槍を造ると、それをはぐれ悪魔の頭部だと思われる部位に放ちました。三又槍はピクリとも動かないそれに吸い込まれるように刺さり、その直後はぐれ悪魔の身体は燃えるように消滅します。

 

 はぐれ悪魔の消滅した後に身体を磔にしていた十数本の黒い剣と、特に理由もなく刺さっていた多数の剣や槍は床に落下し、ガラスが砕け散るように霧散しました。

 

 そして、全てが夢だったかのように何もかもが消えた場所にポツンと取り残されているモノがふたつ落ちており、それに近付いて拾い上げます。それは古ぼけた家族写真と、悪魔の駒。家族写真には両親と思わしき人に囲まれて笑っている女性が写り、悪魔の駒はたったひとつの歩兵の駒でした。

 

 家族写真を私の魔力に晒し、火葬するように存在を消すと、兵士の駒を人差し指と親指で持ちます。

 

「狂っていますよ。悪魔も、世界も、何もかも……ね」

 

 歩兵の駒は私が力を込めると、いとも簡単に砕け散り、悪魔と同じように消えていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャンヌさんと駒王町の治安維持も兼ねて、はぐれ悪魔を討伐した少し後――。

 

『失礼ですが……ぶっ飛ばさせていただきますわァ!』

 

「おー」

 

 私は部室に持ち込んだPS4をテレビに繋いで、最近やり込んでいるSDなガンドゥムのゲームをしています。

 

 チラリと部室の窓の近くにいる兵藤さんと、グレモリーさんを横目に会話の内容を聞いたところ、どうやら彼が道に迷っていた教会所属のシスターを教会に送り届けて来たようですね。流石兵藤さんと言うべきか、教会や天使の知識も入れておいたハズなのですが……。

 

『あらあら、お尻が丸見えでございますわよ?』

 

 悪魔と天使は、堕天使以上に相容れないモノ。悪魔が教会に近付くなど即光の槍で穿ち殺されても文句は言えません。

 

 まあ、私なら投擲された光の槍を逆に投げ返す事も可能ですが、今の彼ではそれは酷――と言うか下手すれば下級相手にも殺されるのがオチでしょうね。がめおべらー。

 

『ブッ殺ォォォッス!』

 

「おー」

 

 そのために彼が出歩くときは私も夜間は同行しているわけですが、今回は昼間だったのでここでゲームを勤しんでいたわけです。なぜか白音――じゃなくて塔城さんが私の隣に椅子を置いてそこに座り、物珍しそうに見て来ますが、そろそろ反応してあげた方がいいでしょうか? まあ、彼女の姉が家で日柄ゴロゴロしているゲーマーなので遺伝というか、素質があるのでしょう。

 

 そんなどうでもいい話は兎も角、彼は非常に危険な行為をしたわけです。シスターだって彼が悪魔だと気が付けば懐から聖水をぶっかけるとか、十字架で目を突くとか、聖書の角で頭を殴るぐらいはしてきたかもしれません。まあ、私なら何れもイラッとする程度ですが、彼には洒落にならないでしょう。

 

 ただの聖書だって悪魔にすれば、強力な祝福が施された上質な武器となりえるのです。アストラの騎士は頭を下げてはいけません。

 

『女王様とお呼び。喰らえってんだよォ!』

 

「カトレア、音を止めてちょうだい」

 

「先輩、ゲーム音量を落としてくれませんか……?」

 

 注文の多い悪魔ですね。最近のSDガンドゥムなんてキリシマ姉貴を悪役機体に乗せ、遊ぶぐらいしか楽しみがないんですからこれぐらい勘弁して欲しいものです。

 

 しかし、妙です。この町の教会はとっくの昔に廃れ、天使どころか聖職者ひとりすら居ないはずなのですがね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほほう、魔法と神器について詳しく知りたいと?」

 

 小猫ちゃんに何故か猫じゃらしでも向けるように、ハンディクイックルワイパーを向け、フリフリと振っている先輩に俺は声を掛けた。

 

 勿論、小猫ちゃんは先輩に嫌そうな目を向けている。でも、逃げないところを見ると心底嫌っていたりするわけでは無いんだと思う。ああ見えて面倒見もいいしなぁ。

 

「まずは魔法から教えましょうか」

 

 そう言うと先輩はハンディクイックルワイパーを机に置き、小猫ちゃんを持ち上げると膝に置いた。本当の猫みたいに扱ってますね……。

 

「悪魔にとっての魔法とは概ね兵藤さんが考えているようなマジカルでリリカルのようなモノと捉えて問題はありません。簡易な催眠のような小さな暗示から、魔弾やら魔砲やらを撃ったりと出来ますね」

 

 先輩は右手の掌をこちらに向けると、その五本の内の四本の指先の上に親指から火の球、薬指から水の球、中指から電気の球、人差し指から風の球が現れた。

 

 それぞれが赤、青、黄、緑ときらびやかに輝いており、それが次第に膨張するとひとつに纏まり、四色の紙風船のような球が完成する。

 

「ほえー……スゴいなぁ……」

 

「触れてみますか? 兵藤さんを消し飛ばすぐらいの威力は軽くありますよ」

 

「危なっ!?」

 

「悪魔家固有の能力を行使する事と、光力を生成すること以外なら万能の力。それが魔法です。要するに悪魔はだいたいの事は魔法で出来ると言うことですね」

 

 それなら"俺も何か出来るようになるのかな"等と考えていると、それを読み取られたのか、先輩は口を少し尖らせつつ大袈裟に肩を竦める。

 

「しかし、それが良い事ばかりでもありません」

 

「そうなんですか?」

 

「魔法は万能の力。そして全ての悪魔が等しく使える力でもあります。つまりは悪魔にとっての才能とは魔力の量や、質に当たるのですよ。兵藤さんは才能が無いなどというレベルではありませんからねえ。控え目に言えばゴミ。酷く言えば悪魔の恥ですね」

 

「は、恥!?」

 

 相変わらずの先輩の手厳し過ぎる言葉が痛いぜ……ぐぬぬぬぬ!

 

「ですから強くなりなさいと言ったのですよ。悪魔の才能の有無は魔力によって決まりますが、実力は魔法だけが決めるものではありません。魔法、肉体、能力。それらから生み出された実力こそが悪魔の本質です」

 

「そ、そうだったんですか……」

 

「だから有名な言葉を借りれば、百聞は一見にしかず、百見は一考にしかず、百考は一行にしかず、百行は一果にしかずと言ったところ。いくら言葉を飾ろうと、考えようと、行動に移そうとも結果の伴わない努力など全て無意味です。やるなら必ず実を結びなさい。まあ、要は……」

 

 先輩は造り出した魔球を握り潰し、膝の上で借りてきた猫のようにじっとしている小猫ちゃんをひと撫ですると更に続けた。

 

「気に入らない存在は全てブチのめし、最後に立っているのがあなたなら良いのですよ」

 

「………………先輩って思ったより脳筋だったりします?」

 

「知らないんですか兵藤さん。ロードランでは頭の良い脳筋が一番厄介なんですよ」

 

 何故か真顔でバットを振りかぶる構えをして見せる先輩。の、脳筋とはいったい……?

 

「それと魔法には適性と言うものもあります」

 

「適性ですか?」

 

「ええ、例えば私は魔力量も、質も、大概の事はなんでも出来ますが、一番得意なのは水に関する事ですね。小猫さんゴー」

 

「!」

 

 先輩がそう言うと小猫ちゃんは膝の上から飛び上がり、部屋の外へと飛び出して行った。暫くすると空の洗面器と、水を張ったグラス、最後に一枚の青々とした葉っぱを持ってくると先輩の膝の上に戻って寝転んだ。

 

 そして、ご褒美とばかりに先輩は小猫ちゃんをそっと撫で、気持ち良さそうに目を細めている小猫ちゃんが印象に残る。

 

「よしよし……」

 

「にゃぁ……」

 

「先輩と小猫ちゃんはどういう関係なんですか……? というか数日で何が……」

 

「失礼な。どこからどう見ても優しい先輩と、先輩を慕う後輩の図でしょうに」

 

 俺の知ってる先輩後輩と違う……完全に猫扱いじゃないですか……。まあ、いつの間にか名前で呼び合ってるし、仲がいいのは良いことなんだろうけどさ。

 

「イッセー先輩にはわからないんです……カトレア先輩のテクニシャンっぷりが……!」

 

「ここですか、ここがいいんですね? うりうり、うりうり」

 

「にゃぁん……!」

 

 ソファーの上で辻堂先輩に膝枕されつつ頭や身体をやや強めに撫でられながら、蕩けた表情で少し艶っぽい猫みたいな声を上げる小猫ちゃん。くっ……! どっちでもいいのでそこを変わって欲しいッ!!

 

「私、猫又の扱いはちょっと慣れてるんですよ。好きなところも知り合いと似てますし」

 

「ごろごろ……」

 

「へー、猫又?」

 

 猫又と言えば、猫が長生きして妖怪になった存在だったような……はッ!? ということは小猫ちゃんは合法ロリ!?

 

「違います。天使や悪魔のように猫又という普通の種族です。小猫さんは妖怪の猫又が転生して悪魔になったみたいですね。見る者が見れば誰でもわかります」

 

「そうなんですね……」

 

 うーん、また少し先輩に夢を壊されてしまった……。まあ、こうして先輩と放課後に駄弁るのが既に夢みたいなものだからいいけれどさ。

 

「それはそれとして早速、やりましょうか」

 

 そう言うと先輩は洗面器の中心に水の張られたグラスを置き、水面に葉っぱを浮かべた…………………あれ? どこかで見た光景のような……。

 

「後はグラスに向けて魔力を練れば……」

 

 次の瞬間、グラスから水が溢れ出し、洗面器はグラスから溢れた水で一杯になってしまった。

 

「私ならこのように水が溢れます」

 

 先輩はどこか誇らしげにそう言うと眼鏡を直していました。よく見れば小猫ちゃんが口を押さえて笑い声を漏らしているような気がする。

 

「ははは、そうですか! ところで先輩?」

 

「はい?」

 

「後輩弄って楽しいですか?」

 

「はて? なんのことでしょうか?」

 

「そうですか。強化系凄いですね」

 

「それほどでもありません」

 

 こ、この先輩は全く……!

 

「ちなみにこれは魔法ではなく、私の家の血族のみが持つ特性です」

 

 そう言うと先輩はグラスの中身を洗面器に捨て、グラスの上で片手の指を鳴らしてから人差し指を立てる。すると直ぐに指先が湿り、チョロチョロと音を立てて水道の蛇口を少しだけ捻ったような水が滴り落ち続けた。

 

「すげぇ!? 手品みたいに水が!?」

 

「まあ、生み出すことも可能ですが、これはただ空気中の水分を指先に集めているだけですね。加湿か、除湿が必要ならいつでも言ってください」

 

「あっ、はい」

 

 キラリと眼鏡を輝かせながらそんなことを言う先輩。冷静に考えるとそんなに格好いいことでもないんだけど、先輩が言うと無駄に様になるのが反則だと思う。

 

「はい、どうぞ」

 

「えっと……飲めと?」

 

 先輩はグラスに半分ほどまで水が溜まったところで、指先から水を出すのを止めて俺に手渡してきた。更に飲むように手と目で促して来ている。

 

 まあ、先輩が作った水なんだから汚くもないし、毒もないだろうと思いつつ俺は水を呷った――直後、驚きと共に水を吐き出そうとするが、まるで意味がなくたった一杯の水に溺れそうになった。

 

 み、水が!? 顔と口に張り付いてる!? 息が死ぬぅ!!!?

 

「ガバッ!? ガボフボボボボボボ!!!?」

 

「他にもこのように周囲の水を操ることも可能です。そのため、宇宙空間での水のように人の顔に張り付けて、窒息させて殺すことも容易ですね」

 

「――――ぶはぁぁぁ!? 殺す気ですか!?」

 

「うふふ……やですねぇ。そんな物騒なこと私はしませんよ。生きていないと苦しめられないじゃないですか?――というのは可愛い冗談です。この程度のことは魔法でも普通に可能なので、気を付けてくださいという教訓ですよ」

 

 先輩は心底愉しそうな様子で、そう言ってゾクゾクと身を震わせる。いやいやいやいやいやいや、絶対冗談じゃないでしょ先輩!!!?

 

「それで神器についてですね」

 

 先輩はいい笑顔のまま話を露骨に切り換えると、神器を出して欲しいと言ってきたので、仕方なく言われたままに俺は自分の神器を出した。

 

「まあ、大まかの事は頭に入っているでしょうから省きますが、要するに神器とは人間にしか発現しない脱着式の能力、或いは才能と言ったところですね」

 

「脱着式ですか?」

 

「ええ、例えば兵藤さんのその神器。別にやろうと思えば兵藤さんから引き剥がして私が使うことも可能ですから」

 

「え! そうなんですか?」

 

 へー、それだったら他の奴に貸しても――。

 

「まあ、多分あなたが死ぬのでやりませんけど」

 

「え゛!?」

 

 取られたら死ぬ……?

 

「神器は保有している人間の重要な内蔵の一部のようなものでもあります。例えば心臓を今この場で抜き取られたら誰だって死ぬでしょう? つまりはそういうことです」

 

「な、成る程……」

 

 これって生きるのにそんな重要な物だったのか……。

 

「でも方法次第では生かしたまま抜けない事もありません。例えば心臓なら人工心臓と丸々取り換えてしまうような感じですね。まあ、大掛かりになりますし、そんな面倒なことをするぐらいなら直接抉り出して神器だけ頂くか。転生悪魔にして眷属にしてしまうのが手っ取り早いでしょう。ちなみに最近の主流は後者です」

 

 そう言うと先輩は俺の神器に手を置き、手の甲に当たるところを撫で回し始めた。 嵌まっている宝玉を中心に撫でている気がする。

 

「まあ、それはもう置いておき神器の話に戻ると、兵藤さんのその"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"は、10秒毎に力を2倍にする効果を持つ神器です」

 

「10秒に2倍?」

 

「ええ、兵藤さんの実力を1とすると、10秒で2、20秒で4、30秒で8と繰り返すと、100秒後には1024になりますね」

 

「1000倍越え!?」

 

 すげぇ……この神器はそんな神器だったのか……。これがあれば早く先輩とも戦えるようになるんじゃ――。

 

「まあ、確かに理論上は私をワンパンすることも可能でしょう。しかし、今のあなただと別にそれがあっても特に脅威でも何でもありませんが」

 

「えっ?」

 

「兵藤さんは私相手に何秒持ちますか? いいえ、こう聞きましょう」

 

「――――――ッ!?」

 

 次の瞬間、俺の首筋に何かが突きつけられ、ぞわりと頭から爪先へ抜けるように嫌な感覚が通り抜ける。

 

 マラソン後のようにバクバクと鳴る心臓を落ち着かせながらそれを見ると、先輩の背中から一枚の悪魔の翼が俺の首に突き付けられていると言うことに始めて気が付いた。

 

「何秒で私は兵藤さんを殺せると思います?」

 

「あ……」

 

 そう言うことか……。

 

「冗談でもなんでもありません。戦闘中の10秒という時間はあまりにも長い。更に神器の効果で強くなると言うことは能力を持続させるには神器の発動を維持し続けなければいけないと言うことです。それに今のように少し殺しに掛かっただけで竦み上がったり、意識が飛ぶほどの激痛を与えられたりすれば神器は直ぐに初期状態に戻ってしまいますよ」

 

「なるほど……」

 

 やっぱり先輩は凄い人……いや、悪魔だ。利点から弱点までもなんでも知ってるし、平悪魔の俺でもわかるぐらい明らかに強い。きっと本当は隣にいるだけでも奇跡なんだろうな。

 

「まあ、奥の手が使えれば多少話はかわりますが……」

 

「奥の手ですか?」

 

「その話はまた今度にしましょう。まだ殆ど覚醒すらしていない現状では夢のまた夢ですしね。まあ、ちなみに参考までに教えておきますが、私が10秒あればあなたとグレモリーさんを含め、グレモリー眷属を皆殺しにてもお釣りが来ますよ?」

 

「は、ははは……冗談キツいですよ先輩……」

 

 そんな風に先輩との話を終えると、勢いよくドアが開かれた。

 

「カトレア!!」

 

 そして、明らかに怒ってますと言った表情の部長と、いつものようにニコニコと笑っている姫島先輩が部室に入って来る。更に部長は辻堂先輩の前まで来ると、強く机を叩いた。

 

「やっとわかったわ! はぐれ悪魔狩りの犯人はあなたね!」

 

「はて? なんの事でしょうか?」

 

 それに対し、先輩は明らかに棒読みな様子でそんな回答をする。

 

「惚けないで! いつもいつもわざわざ現場にあんな濃くて蒼い魔力の残滓を残せる悪魔なんてあなたぐらいしか居ないでしょう!?」

 

 そう言うと先輩は脚を組み直してからソファーに寄りかかり、顔を上げて天井を暫く見つめてから部長に顔を向けた。その表情はなんと言うか……とてつもなく寒いボケをかました時の俺を見るような表情だった。

 

 あ、これダメだ。もう勝負ついた。

 

「お言葉ですが貴族様。一般人に及ぶ被害を未然に防いでいるのだから寧ろ感謝されても良いぐらいだと思いますが? それにはぐれ悪魔には大小差はあるとは言え、賞金が掛けられています。あなたが思っている以上にお金は大事なんですよ。フリーの悪魔が貴族の領内にいるはぐれ悪魔を狩ったところで、潰れるのはあなたのメンツと信用ぐらいでしょう?」

 

「ぐッ……!? だからその信用が問題なの! それにこれまでは兎も角、オカルト研究部に入ったし、形式上は私があなたを保護したことに手続きはしてるんだから一言でも言ってくれたって――」

 

「確かにこの部の部員ではありますが、それはあくまでもこの部員だと言う程度の話。それに手続きに関してはそちらで勝手に進んでいる話で、自衛出来る私にとっては商品の値札を付けられたような気分以外の何物でもありません。また、グレモリー家の傘下に入った覚えもありませんし、あなたの下僕になった覚えもありません。あれですかあなたは? ケーキ屋のショーケースの中のケーキをただで食べさせろとごねる子供ですか? 泣きつくのは親御さんかお兄ちゃんだけにしてください」

 

「う゛……!?」

 

「一体誰のお陰で今の今まではぐれ悪魔による死亡者をほぼゼロにまで抑えれたんでしょう? まあ、領主様曰く、賞金首であるはぐれ悪魔の討伐はルーチンワークらしいですし、さぞ、迅速かつエレガントな貴族の義務を果たしてくれているハズでしょう。まさか、まさか、自分の領内にはぐれ悪魔が入ってきた事をイチイチ現場に居るわけでもないデスクワークが中心の大公殿から報告されなければ気付くことすら出来ないなどと言う事は有り得ないでしょうね? グレモリーさん」

 

「……う……ぅぅ……」

 

 そこまで言うと先輩は座ったまま片手を、完全に硬直している部長のおでこに伸ばした。すると人差し指を親指に添えて輪っかを作り、人差し指を軽く弾く。

 

 要するにただのデコピンを放った。

 

「まあ、グレモリーさんの頼みですし、今度からはそちらに一度は委託しますよ。けれどこれだけは覚えておいてください」

 

 遅れて部長のおでこが赤く染まり、止めと言わんばかり辻堂先輩はツンツンとおでこをつついている。

 

「確かにあなたはあらゆる意味でとても良い悪魔です。私が見てきた中でも間違いなくかなりマシな部類ですね。しかし、あらゆる意味で詰めが甘過ぎます。中途半端な優しさはそう遠くない内に誰かを破滅させますよ? まあ、それはそれでとても悪魔らしいとも言えますがね」

 

「……う……うぅ…………朱乃……」

 

「ああ、リアス……よしよし可哀想に……」

 

 半べその部長は手を広げて抱擁の構えをした姫島先輩に吸い込まれるように崩れて行った。

 

 …………辻堂先輩をそれなりに長い期間見てきたからわかりますが、姫島先輩……何故か眼が笑ってますよ…………ああ、この人も辻堂先輩と同じ人種か……。

 

 いつも通りの対応でこれだもんなぁ……改めて辻堂先輩だけは怒らせないようにしようと誓い、友達が出来ない訳だと失礼なことも考えてしまった俺だった。

 

 

 

 

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