正直疲れた...
あの後、馬車に連れられて王城の中に入った我々は扉の前の衛兵に止められている。
「リンガ係...ですか。」
目の前の衛兵隊の指揮官であろう緑色の髪を持つ歳のいった兵が隣にいるスバルを怪しげな目で見つめる。
「そうじゃ。妾に赤く染まったリンガを献上する事に縛られた哀れな道化の類よ。」
と、女の方...プリシラ・バーリエルがスバルの説明をする。
「ふむ...。」
スバルの方を見据えると、隊長であろうその者は次に私に目を向けてきた。
だが明らかにスバルよりも訝しんでいる。
顔は竜車に乗る時、黒い仮面をつけておるため見られていない。
「こちらの輩は私に永らく仕えている呪術師じゃ。
気にせんで良い、後ろの護衛 アルデバランと似たような境遇じゃよ。」
突如、この私 イムホテップにも弁護が入った。
(...この女 プリシラ嬢はどうしても我々を中に入れたいようだな...。)
とは言っても、何かこいつの思う通りに面白おかしい事を起こす事はまあまずないと思うが。
ナツキ・スバルの方はわからんがな...こいつはまだ若造...
それに死者の世界を管理していた神官として、コイツには死への恐れを感じ取れない。
私と同じように、一度下界へ送られてから、再び蘇ったようにすら感じる。
「皆様、中でお待ちです。どうぞお入りください。」
こちらを長く見つめていたが、了承したらしく、我々を中に入れようと、衛兵に門を開けさせる指揮官。
(...エジプトに居た頃を思い出す。)
堅牢に守られた王宮の扉が、どことなく故郷と重なるのだ。
「凡族を待たせるのも、妾の優越よ...。」
ニンマリと笑いながら、とにかく自己の利益としか
現実を見ないこのプリシラ嬢には少し畏敬の念を示したいくらいだ。
「時にアルデバランよ...このお嬢方は本気であの様な事柄を言っているのか。」
キィィィ...
扉が開く高い音が鳴り響き、中の様子が見えてきながら
低い声帯を使わない、呪いと共に発せられた声で後ろにいたアルデバランという彼女の従者に小声で聞く。
「あー、まぁ気にせんでくれや、兄弟。あのお方はいっつもあーなんだわ。」
と、アルデバランは気の良い中年期の男といった形で返答してくれる。
「そうか...。二つ目に、なぜ我を呪術師と認定した?」
コツッ コツッ コツッ
歩く音が鳴り響きながら、アルデバランに質問を繰り返す。
「おいおい、質問攻めは女にされたいもんだぜ?
...ともあれ、言えるのはプリシラ嬢の目はごまかせれないってことだ。
その声も呪術で作ってんだろ、えぇ?
あまり派手な行動はしないでくれよ?」
アルデバランが自慢げに耳打ちしてくる。
(...そこまでの目があるとは...それにアヌビスからの呪いを理解している...。
この世では呪術が確立されているのか。)
一般の知識の如く言い放つアルデバランに少し戸惑いを感じながらも、外には出さない様にする。
コツ コツ コツ コツ
4人で中に入っていくと、周囲には招集された人間で溢れかえっていた。
右手には文官、左手には武官であろう騎士達が整列しており、中央を歩いて謁見しようとしている、
派手な化粧をした高身長の男と、銀髪で耳の長い...確かハーフエルフだったか...その2人が居た。
そんな中で急に遅れて入ってきた我々に対して周囲は奇妙な眼差しを向ける。
「何もんだあいつら...。」
「今謁見している人がおるだろうに...。」
「あの赤いドレス...そして扇子...もしやプリシラ・バーリエル嬢ッ...。」
「血染めの花嫁まで...隣にいる従者達も何者だ...?」
周囲が騒がしくなる中で、中央にいた銀髪のハーフエルフがこちらに気づき振り返り、
「スバル...!?」
と、驚愕の顔持ちで隣に立つスバルに向き合うが、当の本人スバル自身も気まずい感じであり
「ぇ...エミリア、その...俺は...。」
と、口ごもるが、
トスっ
と、軽い音と共に隣にいた女 プリシア・バーリエルがスバルの右腕を自身の豊かな胸に抱きしめて
「妾の駒使いをじっと見て、何かあったか?半端者。」
と、明らかに相手への挑発と共に声を発する。
「えっ、ちょぉ!な、なになになに!?」
スバルは異性の胸に飛び込む形となり、驚きを隠せずに動揺している。
「は、離れろ!エミリアたんに誤解されるっ。」
スバルも冷静に判断し、目の前のエミリア...たん?への弁明を行う。
(たんとはなんだ...敬称か?)
自身との言語の齟齬が生じるが、たいした問題ではなさそうだった。
「これは、こぉぉぉーれは。このたびは当家の使用人が飛んだ迷惑を...。」
と、2人のうち、もう1人いた恐らくこのハーフエルフの立役者であろう
濃い化粧で顔を塗りたくった高身長の例の男がこれまた変な口調で話しかけてきた。
「(ここには変わった輩が集まっているな。)」
と、内心で呟く。
「ふんっ。」
と、プリシラが鼻を鳴らす。
目の前の奇妙な高身長の男に...スバルを使用人と言っていたな、その所有権を巡っているのか?
まあともあれ、嗜められているのを尺に触ったのか、プリシア嬢はハーフエルフを通り過ぎてその厚化粧の男に近づいていく。
すると、それを横目に目の前のハーフエルフ...いや、前名乗っていたな...エミリアが不安な表情で
「どうしてスバルがここにいるのッ...?大人しく待っていてって言ったよね...覚えていないの?」
と、非常に不安な声でスバルに突き詰めていく。
スバルはそう咎められて、少しバツの悪そうな顔になっている。
「これより、賢人会の方々がお見えになられます。」
強く引き締まった声がこの王宮の部屋の中一杯に広がり、エミリアもスバルも思考を停止させられ、一旦この広い室内の端に寄ることになる。
部屋の中央の方向を見てみると、10名ほどの、長老的な存在が現れていた。
威厳のありそうな、いかにもという雰囲気が感じられる。
生前のセティに及ぶ権威体制でもある。
そんな中、我々は既に中央から端側に退き、賢人と呼ばれる老人達の登場を見ている。
「賢人会って...確か王のいない国を代わりに運営してる人たちって...。」
と、スバルが彼なりの記憶を辿っていって察し始める。
「んで、俺たちが並ぶのはアッチだ。」
アルデバランがそうスバルと私に捕捉する。
「え、俺もついてっていいのか?」
スバルは自身の立場が余り高位のものでは無い為、
自身がいてもいいのかわからなかったことから微妙な顔で聞いてくる。
「あぁぁ〜、面白そうだからそこの人達についていってもいいよぉ〜?」
と、この目の前の男が...この厚化粧の男、恐らくスバルの本当の主人であろう男が許可を出す。
(...達、ということは私も従者と勘違いされているのか。)
そこら辺はまあ、雰囲気の都合上黙っておくことにする。
「ちょっとロズワール!こんな場所に同席させたらスバルがっ...!」
エミリア嬢がそう彼のことを心配してロズワールと呼ばれたその男に食い下がるが、
「エミリア様。議会が始まります、中央へ。」
と、有無を言わせない態度で、彼女の取るべき行動を指示する。
「っ...。」
エミリア嬢は無言で、心配と不安の顔を隠せずにいる。
(...そこまでの主従関係...それ以上の関係をスバルとあのエミリア嬢の間にあるのか...。)
それはまるで私の若かりし頃...アナクスナムンとの恋に似通っていた。
「絶対に...あとでちゃんとお話するからね...!」
エミリアが今度こそ、恐らく先ほどの【大人しく待つ】という約束を破られて、
色々と考えが巡っている顔でスバルに訴える。
「ぁ...ぉぅ...。」
スバルは展開の早さについて行けてないのか、それとも
恐らく彼の目的であるエミリアに会う事で他の事は何も考えられないのかで答えが曖昧になる。
そのままこの謎の、私には王候補の後継者の発表としか知らされていない議会が始まった。
「つまりあそこにいるのは王選候補者...未来の王様達ってわけか。」
私の前にいるアルデバランの更に前のスバルが従者の整列場に着きながら、そう小声で漏らす。
「やっぱり君がきたね、スバル。エミリア様がご出席なされると聞いて、君が来るのを期待していたよ。」
突如、新たな人物がスバルの更に前から話しかけてくる。
「ラインハルトっ...探したぜ...。」
スバルと、その前にいる赤毛の者とは知り合いの様で、スバルも彼を探していた様だ。
「ヤッホー、スバルきゅん!」
更にもう1人...
(...猫耳?...アヌビスの使いか...?)
猫の耳...いやジャッカルの耳なのだろうか、それを頭からはやした若い綺麗な...
正直男には見えないその女性がスバルに対して挨拶をしてきた。
「お、お前!」
スバルは声をかけられただけあって、知り合いの様で、彼女に面を向けた。
「にゃっはは〜。」
(...仕草が猫にしか見えん。)
ジャッカルではなさそうだな、あの耳は。
エジプトにおける
《エジプトではアヌビス神を祀っており、その容姿はジャッカルの頭部と人間の身体を繋げた様な形であるとされている。》
「スバル、彼を知っていたのかい?」
と、赤毛の者...ラインハルトと呼ばれていたな。
また情報が増えて嬉しいが、彼とこの猫耳の女性とスバルの関係はいまいち不明のままだ。
そっと聞き耳を立てながら彼らの話を聞く。
「なッ...か、彼?」
スバルが驚いた様に話す。
三人称が彼、とは変だ。たしかに私 イムホテップもこのお方を女だと思っている。
この場合は彼女、では?と。
「そう、騎士 フェリックス・アーガイル。こう見えても立派な男性だよ。」
と、騎士 ラインハルトが捕捉する。
「この見た目で猫耳まで生えてて実は男とか誰得だよッ。」
と、スバルは 【彼】 の容姿をぐるりと見回す。
「そーんな事言われても、勝手に勘違いしたのはスバルきゅんの方だしね〜。」
と、彼 フェリックス騎士は言いながら自分の整列場に歩いていく。
少し近い所を通ったのを見て、
(...一応、敬を払っておく必要があるな。)
と、前世の神官時代に崇めていた、そして管理していた死者の世界での頼みの神でもあった
そのアヌビスへの敬意を表すために、彼の前に出て跪く。
「?」
いきなり目の前に出てこられ、跪かれた彼 フェリックスは目を点にして我に視線を落とす。
『Ai Lige Yato.(冥界神 アヌビスに捧げる。)』
と、自身の体内に隠し持たされている【死者の書】に書かれていた一節を読み上げる。
「...え、えーと...あんた誰?」
と、割と戸惑いがかった声で自身の発した訳の分からない言語と行動に不信感を抱く彼。
その誤解を解くためにも、彼に再び仮面越しではあるが、この身を立たせて対面する。
「申し訳ない、いきなりで。
又、唐突ではあるものの、余り容姿については聞かないでおいてもらいたい。
今のは一種の礼だ。自身が信仰している...していた宗教に、
貴官の様に耳を生やす神がいたので、同族とあらば敬わねば、と。」
少々省いたが、獣の中でも犬猫やジャッカルの類はかなり崇拝の対象とされている。
故に、その風習をいまだに捨てきれずにいた。
「そ、そっか...まぁなんだか良くわかんにゃいんだが、ぼくはそういうのとは無関係だから。
あんま気にしなくていいにゃ〜。」
と、彼は自身の言動に一応の納得を得てから気を許してくれた。
「あー、イムホテップさん、宗教なんて信仰してたんすね。」
スバルが奥から私に言ってくる。
「スバルきゅん、知り合いなのかにゃ?」
フェリックス騎士が順当に問う。
「あ、あぁ、その人とは何度か...。」
と、スバルが言いかけてやめた。
コツ... コツ...
なぜならばスバルの前に更にもう1人、紫色の髪をした...容姿からして騎士の者が現れたからだ。
スバルは彼を知っていたのか、明らかに顔を不満げにして彼の方を向いた。
彼も、スバルのことに気づいた様子で、一礼をする。
「ぐぅぅ...ッ。」
彼の礼の仕草にすら過剰に反応して、睨み返すスバル...恐らく彼との間に何かあったのだろう。
「ん...スバル、どうかしたのかい?」
ラインハルトが彼の態度を気にした様で問いかける。
「俺の故郷じゃ、恋敵って虫を見つけたらこう言う顔をするって言うならわしだッ。」
スバルは語気を荒げながらそうラインハルトに返す。
「それでは僭越ながら、近衛騎士団団長の私 マーコスが、議事の進行を務めさせていただきます。」
漸く人物が揃った様で、この大規模会議は信仰していく。
というより、あの緑色の髪をした中年の兵士、近衛騎士団だったのか...。
我も少し驚く。という事は、ここに集まっているのは国内でも精鋭中の精鋭。
それほどの有事であろう。
「事の始まりは半年前、先王のお方々が次々と亡くなられた事に起因し... 」
と、着々とこの議会の開かれた経緯を説明する。
なるほど、王不在というのは、王家が絶滅したからということか。
すーーっと静かなこの進行をよく耳で聴き捉えていると、不意に
「あんな...団長さんがビシィ〜ってお話進めたいんはわかるんやけど、うちも忙しいんよ。
カララギでは、時間とお金は価値が一緒や、ゆうてなぁ。」
と、妙になまりのきついこの世界の言語で流暢に話し始める
中央に並んだ4人のエミリア含む女性らのうちの、一番右奥の薄いピンク色の着物を着た女が口を挟む。
「おいおい...関西弁とか嘘だろ。」
スバルがあの女の言葉に違和感を感じ、【関西弁】と言う。
関西弁...聞いた事のない単語だった。
だが方便なのはわかる。
エジプトでも、遠方ではアラブ人の言語と入り混ざったエジプト語が入ってきていた。
「西のカララギって国じゃ、あの訛りが当たり前らしいぜ。」
前にいたアルデバランが口を挟む。
「通りだな。」
次に、一番右奥の女から一つ左の女...よく見てみれば女しかいないが、
黒を基調とした軍服を着こなし、緑色の髪を携えるその女が同意を口にする。
「クルシュ様...カルステン家の当主がその様なことを...。」
と、団長のマーコスが宥めるが、
「格式を重んじるのも重要なことだが、時間が有限であるのも事実だろう?
我々が集められた理由に、早々に触れるべきだ。」
はっきりと、物言いを下す彼女に私は称賛の意を覚えた。
彼女の合理的判断は、国家指導者として申し分ない。
格式は古代文明から引き継がれる上下の威信関係を示すものではあるが、
それを差し置いてでも国家事項の最優先を取るのは指導者としての合理的判断に値する。
ファラオ・セティも、その様に答えただろう。
無論、私はただ仕えていた神官に過ぎないが。
「最も、おおよその想像はついているが。」
クルシュ・カルステン そう名が呼ばれた女は、我も認知している王選候補者の招集の案件を問いただそうとしている。
すると、目の前の三段、いや四、五段は上の段に上がっている賢人達の中でも長老そうな髭の長い老男が口を開き、
「既にこの召集の意味がわかっておいでですか?」
と、問う。
彼女は、クルシュ嬢は自身ありげに
「あぁ、マイクロトフ卿。酒宴だろう?
我々はいずれ競い合う身となるが、
同じ卓を囲み、杯を交わせば、自ずから人柄も知れようと。」
自信満々に言う彼女の目は長老に真っ直ぐである。
が、しかしながら
「...いや、違いますな。」
と、クルシュ侯はどうやら趣旨を誤っていたようだ。
なんとも、少し抜けている所があるが、それは彼女の情報媒体の問題だ。
余り気にしないようにする。
「ぁ...フェリス、聞いた話と違うが。」
と、彼女の従者と思われる先ほど出会ったフェリックス騎士に問う。
なるほど、彼女が諜報機関か。
すると彼は難癖をつけられたかのように
「やだなぁもう。フェリちゃんはただ、
酒宴でも開くのではないかと、言っただけじゃないですか〜。」
少し間の抜けた声が会場に響き渡る。
「そ、そうか。私の早とちりか...。
すまない。さっきまでの発言は取り消させてくれ。」
クルシュ嬢 いや、侯は所謂前言撤回を詫びと共に申し入れる。
そこに、一番右奥の、カララギからの女が
「こらこらぁ...クルシュさんが引いても、うちの意見は変わらんよ。
今から王選の上部のことなんか話さんでも、みんな知ってることや。
せやろ?」
と、そのカララギ方便の女は言う。
エミリア嬢は、同意を求められたかの様に言われ
「わ、私は、ちゃんとお話は聞くべき
「悪いけど、うちはあんた様の意見は聞いてないんや。」
と、エミリア嬢の意見を彼女は突っぱねた。
彼の従者であろうスバルは、今目の前で驚きと怒りを憤らせている。
「なッッ...てんめぇ!」
と、スバルがあと一押しで怒りを爆発させようとするところで
「ぁ...はぁ〜〜い!!
王選がどうとか聞きたくなかったりすっから、先が聞きたいっすな!」
と、アルデバランが彼を暴れさせないためにも声を大きく上げて妨害する。
(...能動的だな、少年よ。賢く、賢く賢く、あれ。)
と、彼に心の中で念ずる。
すると、先ほどの年配であろう長い髭を持った老男が
「プリシラ様、彼はあなたの騎士とお伺いいたしましたが。
王選の説明は...?」
と、彼女に彼の説明を促す。
「妾がせずとも、話語り好きな貴様らがするじゃろう?つづけよ、マーコス。」
と、彼女は完全に興味なさげに放任した。
マーコスは、それに応じて再び進行させる。
「では...龍の韋護をお持ちになられる皆様がこうしていらっしゃったのは、
龍歴席に刻まれた新たな予言によるものです。
そこには、新たな国の導き手になられる5人...その内の1人を選び龍との盟約を臨むべし...と。」
その説明を聞き、スバルが
「5人...?」
と、明らかに中央に4人しか集まっていない様子に変だと気づく。
「そう、5人だ。」
そこにラインハルトが注釈を入れる。
「現状候補者の方々は4人だけ...王選は始まってすらいなかったんだ。
...だけど、今日歴史が動く。」
彼は力強くそう言う。
「(...5人目を連れてきたと言うことか。)」
心の中で呟く。
心内語とよく呼ばれる、他人と一切話をしない主義は一見内気ではあるものの、情報統制に優れる。
「騎士、ラインハルト・アストレア。ここにッ。」
と、団長 マーコスから突如彼に名が下る。
「はっ。」
(...ラインハルト・アストレア、そうか。スバルとあの大男 巨人族と聞いたが、
あいつが言っていたのがアストレア、貴様のことだったのか...。)
と、話と単語がつながっていくのを感じた。
ラインハルトは、彼ら中央の4人組の後ろに跪き、敬意を払いながら
「栄誉ある賢人会の皆様。
近衛騎士隊所属、ラインハルト・ヴァン・アストレアが、任務報告をさせて戴きます。」
と、高らかに申し上げる。
「龍の巫女、王選候補者...最後の5人目。」
そこまで申し上げると、賢人会の中の先ほどの長老的存在の老男が目を見開きこちらを見据える。
「見つかりましてございます。」
ラインハルトがそう言うと、後方の扉が開き、その人物が姿を現し、こちらの人と人に挟まれた中央通路を歩いてくる。
コツ コツ コツ コツ
その人物はラインハルトの前まで行くと、そこで足を止め彼に振り向いた。
「フェルト様、ご足労いただき、ありがとうございます。」
ラインハルトは敬意を払いながら頭を垂れる。
「ラインハルト...。」
そう言うと、その金髪の整えられた服装の女の子...まだ相当若いだろうその子はラインハルトの元まで歩いてゆき、
ブンッ!!
と、足を彼の顔に高く蹴り上げた。
「てめぇッ、なんの説明もなしに連れてきてんじゃねーッ!!」
と、怒涛の怒りを彼にぶつける。
(...言葉遣いからして、これは明らかな庶民からの出身だ。
この赤毛の騎士は何を考えているのか...。)
仮にも、こんなに情報量の多い場所に連れてこられたなら、自分のいるこの国の情勢ぐらいは掴んで置きたかった。
故に、彼の行動の奇怪さに仮面越しに目を細める。
「驚きましたよ、出会ったらいきなり何をなされるんですか。」
彼は力強く蹴りを浴びせてきたその女の子 フェルトと呼ばれた者の足を掴み取る。
その後、一悶着あり、スバルとそのフェルト嬢が知り合いであったということが判明する。
その軽々しい口の聞き方はやはり共通点だな。
そうして、騎士団長のマーコスに宥められて、フェルトは中央の王選候補者の4人組に合流する。
「で、あたしに何をさせてぇんだって?」
フェルトが指揮系統上、上位の者達を前にして何の躊躇いもなく軽率な口を回らす。
(...ある意味、民衆の中の王というのも、その親近感故に良いかも知れんな...フハハ...。)
黒い仮面越しに彼女の様な稀な王候補を見て笑ってしまう。
「淑女としての振る舞いを、と言いたいところですが 先にこれを。」
と、ラインハルトが彼女の前に再び出て、あるものを手渡す。
「...術式が組み込まれている...。」
と、余りにも強烈な、呪いとは異なる術式が施されたその三角形の黒い物体を見つめてしまい、つい低い声が流れる。
「ん?ずっとダンマリだったのに、あんたわかるのか?」
と、前に立っているアルデバランが効いてくる。
なぜかは分からないが、呪い、という類ではないもの、この世界の【魔法】というものだろうか、
それが表す術式が見て取れた。
「相当な時間と労力をかけて整合された美品であることは見て取れよう。」
と、アルデバランに応えると、
「そうだ。ありゃ王選候補者の証さ。」
と、流暢に語る。
フェルト嬢が手渡されたその手に再び視線を返すと、
その三角形の美品は中央の赤い宝石から光を放ち赤く輝いていた。
「「「おぉぉッ...。」」」
周りはその輝き具合に驚いている。
「この通り、竜示は確かに、フェルト様を巫女として認めました。
彼女を候補者として承認した上で、此度の王選は本当の意味で開始されると思われます。」
(やはりあの竜示という美品は、後継者かどうかを判別するものだったか。)
ラインハルトは彼女の王選立候補を宣言した。
その瞬間、騎士達は王政への忠誠を表すために、皆一同にマーコス団長を含め敬礼を申し上げた。