東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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 どうもお久です。

 東方悪正記、見ていってください。


93 再開(はじめ)空間(ばしょ)

 

「――――」

 

 

 目覚めたら、真っ白な空間にいた。それが最初に夜神零夜が思考したことだった。零夜は立ち上がって、空間を見渡していく。

 この空間には、見覚えがある。ここは――

 

 

「目覚めましたね」

 

 

 背後から、女性の声が聞こえた。零夜はゆっくりと後ろを振り向くと、そこには見覚えのある女性がいた。全身を黒い装いで統一し、顔をベールで隠している、謎の――

 

 

「はい。神です」

 

「……思考を呼んでくるのは相変わらずだな」

 

 

 そこには、零夜を【東方project】の世界に転生させた女神がいた。

 女神はゆっくりとこちらに歩いてきて、零夜との距離が1メートルあたりになった時点で、止まる。

 

 

「誉め言葉として受け取っておきます。……体の調子はどうですか?」

 

「――絶好調だよ。もう死んでるからな」

 

 

 体に、なんの不調も不備も感じない。ボロボロだった体も完全に元通りになっている。それはそうだろう。今この場に、実体はないのだから。今の零夜は、魂だけの存在だ。零夜の魂が、【夜神零夜】を形成して、見て、聞いて、喋っているだけに過ぎないのだ。

 

 

「さて、本題に入りましょう。あなたは、また死にました」

 

「分かってること言わなくていいっつの…」

 

 

 あの、心臓を貫かれた感覚。忘れるはずがない。正直って元の世界の絞首刑よりも、一瞬で終わった気がした。

 そして、自分の膝に置かれていた、彼女だった、肉の塊が――

 

 

「――ウプ」

 

「あぁ。ここで吐かないでくださいね。吐くものすらお腹にないでしょうけど、私の気分が駄々下がるので」

 

 

 転生直後に見せたあの女神はどこへ行ったのか。零夜には目の前の女神が別人に視えた。最初に見せてくれた謙虚さは既にない。

 いっそのこと、顔なんて最初から分からないのだから別人説があっても不思議ではない。むしろ別人であれ。

 

 

「あらあら。別人だなんて。酷いことを仰いますね」

 

「そーだったな。お前は心が読めるんだったな」

 

「はい。さとり妖怪以上に読めますよ」

 

 

 憎まれ口だ。口が達者のようだ。適格に零夜を煽っている。

 しかし、死んでしまった以上、出来ることなどほぼ皆無だろう。零夜は落ち着いて、口を開く。

 

 

「……お前に、一つ。聞きたいことがある」

 

「はい。なんでしょう」

 

 

「シロが最後に言った『我らが女神様』って……お前のことか?

 

 

「あら、随分と直球なんですね」

 

 

―――女神はベールで隠れている顔で、かすかに口で笑みを浮かべた。

 

 

「俺が知っている女神ってのは、お前しか思いつかない。それに…お前の前じゃどんな隠し事もお見通しだ。だったら最初から切り出した方がいいだろ」

 

「思い切りが良いのですね。では私もあなたの質問に真摯に答えなくてはなりません。答えはYESです

 

「――――」

 

 

 なんの躊躇いも、躊躇も見られず、ただ作業のように、女神は肯定した。

 今となっては隠す必要などないということか。

 

 

「……詳しく説明しろ」

 

「……口は生意気ですが、話が早い方は好きです。立ち話もなんですので、座って話をしませんか?」

 

 

 女神が両手をパチンと叩くと、零夜と女神の目の前にガーデニングチェアが二つと、丸いガーデンテーブルが現れる。神としての力だろうか、流石は零夜に『創造』の能力を与えただけのことはあるようだ。

 女神が率先して座ると、零夜も対面になるように座る。女神は先ほどまでなかったはずの、テーブルに置かれているティーポットを持ち、二人分のティーカップに紅茶を注ぎ、片方を零夜の方までずらす。

 

 

「どうぞ」

 

「神のくせに随分とご丁寧なんだな」

 

「これでも神ですので」

 

 

 零夜は紅茶が注がれたティーカップを豪快に持ち、豪快に飲み干す。警戒なんて微塵もない、無骨で猪突猛進な行動だ。そして最後に乱暴にティーカップを机に置いた。

 

 

「お前は、なにが目的だッ!」

 

「まぁそう焦らないでください。焦ると、余計知る時間が遅れますよ」

 

「―――」

 

 

 零夜は女神にそう言われ、黙るしかなくなった。正直言って、この行動すら零夜にとっては茶番にしか感じなかった。だからこそ女神の行動一つ一つが鼻につき、癪に障る。何よりこの女神は自分と大事な人を殺した(シロ)の仲間だ。見ているだけで虫唾が走る。

 女神はゆっくりとティーカップを持って、湯気が出ている紅茶に、息を吹きかける。

 

 

「フーフー」

 

「―――」

 

「フーフー」

 

「――――」

 

「フーフー」

 

「―――――」

 

「フーフー」

 

「――――――」

 

「フーフー」

 

「――長いッ!いつまで冷ましてんだてめぇはよッ!!」

 

 

 ここで堪忍袋の緒が切れた。

 長い、長すぎる。かれこれ十秒以上紅茶に息を吹きかけている。内心イライラしている零夜にとって、怒りメーターが頂点に行く理由には、申し分なかった。

 

 

「仕方ないでしょう。私は猫舌なのです」

 

「なんだよ猫舌の女神って…!……だったらアイスティーでも良かっただろうがよ…!」

 

「あぁ!その発想はありませんでした。頭がよろしいのですね!」

 

「おめぇに褒められてもうれしくねぇし、それは褒めてるというより貶してるだろ」

 

 

 この女神、アホなのかと思った。それともどこかヌケている。

 こんな程度で褒められるなんて、屈辱以外に何物でもない。いつになったら話が進むんだと、零夜は心の中で憤慨する。まぁこの感情も女神には筒抜けだろうが。

 

 女神がようやく紅茶に手を付け始め、チビチビとゆっくり飲んでいくシーンを、零夜はただイライラしながら見ていた。

 

 

「では、まずなにから聞きたいですか」

 

「ようやくか…。じゃあまず一つ目。なんで俺を転生なんかさせた

 

「―――それは、最初に話したはずですが。まだ説明不足でしたか?」

 

「いいや違う。そんなことを言ってるんじゃない…。なんで転生者なんてもんが存在しているんだ?

 

「――と、言うと?」

 

「俺は……転生なんて、しない方が良かった。今になって、気づいたよ」

 

 

 高ぶった感情から一転、感情が抑圧される。

 零夜がこの考えに至った理由――それは【綿月臘月】だ。転生者が一人いるだけで、不幸になった存在がどれだけいたほどか。輝夜、永琳、豊姫、依姫、月夜見、玉兎、元ヘプタ・プラネーテスの7人、アヤネ、月の民――圭太。

 たった一人の存在で、これだけの数の犠牲者が出ていた。全て、一人の野望によって生まれた犠牲だ。いくらなんでも被害が大きすぎる。

 さらに零夜は存在だけ知っているが、かつてレイラを襲おうとした転生者がいた。レイラのズボン(今のライラのズボン)は、その転生者を殺してからはぎ取った戦利品だ。ズボンなんて、文明レベルに差がありすぎるから、すぐに気づけた。

 

―――そして、自分。若さゆえの過ちとでも言うのだろうか。それゆえに、多くの人間を、妖怪を、神を、惑わせ、傷つけた。

 

 

「転生者は害悪な存在だ。世界の癌だ。いるだけで損でしかない」

 

「――ですが、転生者と言う存在の介入で本来死ぬはずだった人が生存していたり、闇墜ちを回避したりもできますよ?それらを考慮してでの発言ですか?」

 

「そんなの、あってないようなものだ。転生者なんて、結局自分勝手に行動して、他人に迷惑をまき散らすウイルスでしかない。俺は身をもって知ったよ。だから、俺のようなウイルスと一緒にいたから、アイツは――」

 

 

 ルーミアは、自分を庇って死んだ。

 庇う必要なんてなかったのに。お前は本来死ぬ必要はなかったのに。死ぬのは、自分だけで良かったのに。

 俯いて、独り言のようにブツブツと呟いていく。零夜の瞳にハイライトなんてものは存在せず、ただひたすらに闇のみを見続けていた。

 

 

「困りましたね…ここまで傷心してるなんて。……否定できない部分があるのが、辛いところですね」

 

「なぁ……なんでお前は俺を転生させた?俺を憐れに思ったからか?両親の願いだからか?それとも――転生者(俺たち)の人生を、弄んでいるのか?」

 

 

 最初から不思議に思うべきだったんだ。自分が不幸にあったから、転生して順風満帆な異世界生活を送る?そんな漫画やアニメのような展開、現実であってたまるか。

 自分の転生のきっかけに、神の落ち度なんて言うベタな展開もありはしない。ただ、目の前の女神が、「あなたはもっと幸せに生きるべきでした」と言って転生させたのだ。虫のいい話だった。最初から、気づくべきだった。人間を誰も信じられなくなっていた、牢屋生活で失った心を、あそこで発揮していれば良かった。

 

 生気のない瞳で、なおかつ怒気を孕んだ瞳で零夜は女神を見た。どう反応する。逆切れするか。それとも、素直に謝るか。どちらに転んでも、零夜にとってはもうどうでもよかった。ただ、どんな反応をするか気になる。その程度の考えしか持っていなかった。

 しかし、零夜の予想はどっちも外れた。

 

 

「―――私を、あんなクズと一緒にしないでもらえますか?」

 

 

 その時、零夜の全身の血液、全細胞、全肉体が震えあがった。咄嗟に椅子から身を放り投げ、後退した。

 なんだ今のは。突如氷河期へと身を放り投げられたように、寒気で体が震えあがり、冷や汗が止まらない。これは殺気だ。今までののほほんとした雰囲気からは考えられない、研ぎ澄まされた殺気!

 

 

(これが、神か…)

 

 

 零夜は改めて目の前の女神の力を再確認する。五百年と言う長い時を生きてきた自分にとって、殺気なんていつでも耐えられるものだろうと自負していた。だが自惚れだった。自分なんてまだ、金魚のフンレベルじゃないか。

 

 

「あ、失礼しました。ついさっきを……。それにしてもやっぱり、あの程度の処置では(わたし)の殺気には耐えられませんでしたか

 

「―――処置?なんのことだ?」

 

「え、気づいてないんですか?あなたさっきから平静(たも)ててるじゃないですか

 

「―――ッ!!」

 

 

 零夜は慌てて全身を確認する。意味のない行為だが、なにかしていないと落ち着かなかったからだ。

 そうだ。確かにそうだ。目の前でライラが、紅夜が、ルーミアが。皆倒れて、死んだ。そんな光景を見たというのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 自分の心が、自分のものじゃなくなったような、そんな感覚に、突如襲われる。

 

 

「あなたに施した処置とは、心の修復です。あなたは仲間の死を直接見て、精神崩壊75%と言った感じでした。それだとお話にならないので、私が勝手に修復しておいたんです。ついでに感情の方も弄っておきました、今」

 

「……人の心にまで、干渉出来るのかよ」

 

「もちろんです。神ですので。まぁ私の司っているものがソレに似たようなものなので

 

「――あんたは何を司ってるんだ?」

 

「はーい。無駄話は終わりにして、そろそろ本題へ戻りましょう」

 

 

 あからさまに話を逸らされた。女神にとってそれは知られたくないものなのか、はたまた――。

 しかし、そんなことを考えても分からないものは分からないため、これ以上考えても無駄である。そもそも女神に強気で喋ってはいるが、力関係では零夜は圧倒的に弱い。自分の心すらも操っている存在に、勝てる自信がない。しかし、そんな弱者にもそれを容認しているのは女神の懐の広さ故か、それとも、面白がっているのか。

 

 零夜は倒れた椅子を立て直し、再び座る。

 おかしい。本来であれば、自分の心を制御されているなんてこと、激昂して怒鳴りつけているところだ。だが、そんな気が微塵も起きない。これも、心を制御されている影響だろう。

 先ほどは怒ることはできたのに、今はできない。感情を制御されたのが原因だろう。

 

 

「……それで、さっき言ってたやつってのは一体なんだ?」

 

「……やっぱりその質問はしますよねー。正直言ってあのクズの話をすると私の機嫌が最高潮に悪くなるので、これをどうぞ」

 

 

 そう言われ、女神から一冊の本を机に置いた。

 

 

「――これは?」

 

地球(ほし)の本棚にある本と同じ本です。私の権限と力でできる限り閲覧可能にしたので、参考にしてください」

 

「ふーん…」

 

「ちなみに、これからは地球(ほし)の本棚ではなく異界(ほし)の本棚と呼ぶことにしてください。舞台(ココ)、地球じゃなく幻想郷なので」

 

「なんの話をしてるんだ。ていうか全然言い方変わってねぇじゃねぇか」

 

「失礼な。“ほし”の部分が地球から異界に変わっています」

 

「分かるか」

 

 

 このような雑談を繰り広げ、零夜は本を手に取り、中身を見る。文字の重要な部分のほとんどが■で埋められており、とても読めたものではない。だが、女神ができる限り閲覧可能にしたと言っていたので、これで最高待遇と言うことか。

 

 

「私もできれば口頭で説明したいのですが、ヤツだけはどうしても……」

 

「…あんたが嫌うって、相当なクズってことか」

 

「はい。ていうか綿月臘月(ろうげつ)を転生させた張本人ですね

 

「―――ッ!」

 

 

 驚愕の事実に、零夜は勢いよく立ち上がった。あのクズを転生させた、張本人?と言うことは、そのクズはこの女神と同じ『神』のレベルであることには間違いない。

 

 

「――複数いたんだな。転生の神って」

 

「おや、以外と冷静…あぁ。私のせいでした」

 

 

 本来なら激昂して、もっと問い詰める場面なのだろう。だが、目の前の女神に心と感情を制御されているため、そういった感情が一切湧いてこない。

 だが、これで良かったのかもしれない。元の精神状態でこんなことを聞けば、平静を保ってはいられなかっただろう。

 

 

「ほんと、あのクズには困ったものなんですよね。考え方はまぁ…過去の龍神と似たようなものでして。まぁ龍神よりもっと酷いんですけど」

 

「あぁ…」

 

 

 メモリーメモリで過去の龍神を見ている以上、呆れ声しか出てこなかった。あの龍神よりも酷いとは、一体どれほどなのだろうか。あのクズ(臘月)を転生させるような神だ。ろくでもないことは確かだ。

 

 

「それにアイツ、私が一から設定と構築を重ねて作ったシステムをコピペして盗んでいきやがったんですよ。あの時はマジでぶっ殺してやろうかと思いましたね。龍神さんに止められましたけど」

 

「龍神…アイツと関わり持ってんのか?それに、作ったシステムって?」

 

「龍神さんとの関わりの話は端っこ、もといブラックホールの中に捨てて――」

 

「捨てるな」

 

「―――システムの話をしましょう」

 

「おい」

 

 

 龍神との関わりの話を完全になかったことにされた。話したくないのか話せないのか分からないが、とにかくこの話はもう聞けない。

 

 

「まずは『権能』について話をしましょう」

 

「――なんでここで『権能』が出てくるんだ?」

 

「その『権能』こそが、私が創ったシステムだからです」

 

「へぇ………ハァアアアアア!!!?」

 

 

 あまりの驚きに再び勢いよく立ち上がる。感情の制御を完全に突破し、零夜は驚きの声を上げ、感情を高ぶらせることができた。

 いや、問題はそこではない。今この女神は何て言った?『権能』を創った?システム?結論は出ているはずなのに、頭での理解が追い付かない。

 

 

「え、いや、あの、え!?」

 

「落ち着いてください。うるさくて仕方がないです」

 

「あー……なんか落ち着いた…」

 

 

 先ほどまで感情の高ぶりが凄かったのに、無理やり抑圧されて気分が悪くなる。

 おそらく制御レベルが上がったのだろう。もう大抵のことでは驚かなくなったような気がする。

 

 

「とりあえず座ってください。でないと話が進められません」

 

「す、すまん……」

 

「コホン。さて、話の続きですが、『権能』とは私が創り上げたシステムです。その目的は私の管轄の転生者やその影響を受けたものたちの管理と監視です」

 

「管理と監視?」

 

「そう。『権能』は強力な力を持つと同時に危険な力。それ故に管理と監視が必要です。ただの転生者であれば“とりあえず見ている”程度の監視がつくだけですが、『権能』を持てば本格的に監視されます」

 

「監視ってのは…穏やかじゃねぇな」

 

「仕方ありません。それほど強力で危険と言うことなのですから」

 

「なら、なんでそんな危険なシステム創りやがった」

 

 

 創った女神本人が管理と監視が必要だというほど危険なものだ。ならば最初から作らなければいいだけの話だ。

 創らないといけない理由でも、あったのだろうか。

 

 

「創らないといけない理由があったからです。それに仮にも私が創ったシステムですよ?致命的な欠陥を除けば、ほぼ完璧です。そのためにも覚醒条件を定めたのですから」

 

「致命的な欠陥がある時点で完璧じゃねぇだろ。それで、その欠陥を埋めるために覚醒条件を設けたのか?」

 

「あぁいえ。覚醒条件とその欠陥はほとんど関係ありません」

 

「ねぇのかよ」

 

 

 今のはどう考えても、その欠陥と覚醒条件が何かしらの関係性を持っているというのを示唆しているようにしか聞こえなかった。どうやらこの女神、言葉選びが少し杜撰のようだ。

 

 

「『権能』持ち以外による肉体ダメージの完全無効化。体の『権能』に耐えられるレベルまでの身体能力の大幅向上。Excel。権能の力をあそこまで強大にするためには、致命的な欠陥は必要不可欠でした。メリットとデメリット。それが釣り合っていないと、システムを安定させることは、不可能だったんです」

 

「で、結局その致命的な欠陥と覚醒条件ってのはなんだったんだ?」

 

「それはネタバレになっちゃいますよ」

 

「俺はもう死んだんだから別にいいだろ。心残りができて死んでも死にきれない」

 

「――あなたの目的が達成されていないという点の方が、よほど心残りだと思いますけど?」

 

「……もういいんだよ。アレは」

 

 

 零夜はぬるくなった紅茶にゆっくりと口をつける。零夜があそこまでして、『悪』に固執した理由の一つ、『計画』。その計画の達成によって果たされる悲願。こんなところで死ぬ時点で、達成できるわけがないとすでに諦めていた。

 もう、零夜にはあの計画を進める気力なんて、残っていなかった。

 

 

「―――そうですか。少し、残念です」

 

「おいおい。神様がそんなこと言っていいのか?大量殺戮が起こる残虐非道な計画だぞ?」

 

「良いのです。私は形式上カルマ値はマイナスなので。まぁあの野郎はマイナスどころか最悪を天元突破してますがね!」

 

「その、時々出てくるな。ソイツへの恨み言」

 

「当たり前ですッ!アイツ、私からシステム情報を奪った挙句に自分なりに改造したんですよ!?まぁ覚醒条件のシステム辺りはセキュリティ厳しくしておいたので、そう簡単に突破できない――はずだったんですけどねぇ~」

 

「おいそれでいいのか女神」

 

 

 一番大事で厳重に管理するべき場所を突破されては意味がないだろう。女神の言い方だと、ソイツは権能の覚醒条件すらも弄ることができるようになったということだ。

 

 

「先ほども言った通り、強力な力を発現させるシステムを構築するには、それ相応のデメリットを設定しなければなりません。あのクズは悪知恵は働くのですが、それ以外はからっきし。アイツは覚醒条件の“パターンを追加”するだけで、他はなにもしていません」

 

「パターンの追加?それは一体…?」

 

「あなたも見ているはずです。ゲレル・ユーベルは、デンドロン・アルボルの人工魂をヤツに捧げて【強制覚醒】に至りました。その条件とは己に近しい魂を生贄に捧げることです」

 

「己に近しい、魂……」

 

「えぇ。家族などがいい例です」

 

 

 だから、ゲレルは権能に覚醒できたのか。こちらにはない、“ソイツ”女神から奪っ(コピペし)たシステムに追加した【強制覚醒】の方法を用いて、ゲレルは権能に覚醒した。

 ゲレルとデンドロンの場合、臘月に創られた人口生命体と言う共通点があり、同じ体に定着させられたと言う共通点がある。条件としてもピッタリだ。

 

 

「アイツは今、とにかく権能持ち(自分の駒)を創ることに固執しています。実際、権能持ちは数人いるだけで十分驚異ですからね。それらを排除するために、私の配下――もとい権能持ちを使っているんです。例えばシロさんですね。彼には抑止力として活動してもらっています」

 

「―――ッ」

 

 

 シロ。その名を聞いて、米神が動く。心と感情を高レベルまで制御されたこの状況で、ふつふつと少しずつ感情が燃え上がっているのが感じる。それでも、叫び散らかすなどと言う思考に辿り着くことはない。この処置がなければ、自分はどれほど荒れていたのだろうか。知る術などないが、己のことながら気になってしまう。

 

 

「……その抑止力が、今現在暴走してるが?」

 

 

 あぁ、今ここで怒りのままに叫びたくなる。だが、精神が抑圧されている現状ではそれはできない。ただ、気味が悪いほど冷静に、話を進めることしかできない自分が、不甲斐なく、心を失っているのではないかと感じる。残っていた、人間の心が。

 

 シロが抑止力であるとするならば、ライラだって権能持ち=女神の配下だ。同じ配下を、自らの手で粛清している。ライラはなにも悪いことはしていない。ただ、家族思いなだけだ。恨まれるような行動も、独りよがりな行動も、全て家族を想ってのことだ。何故、それを“死”で咎められなければならないのか。

 

 

「え、暴走?――すみませんがそれは私の管轄外ですね。彼には彼の目的があるので」

 

「暴走が管轄外って、おかしいだろ。そこらへん全部お前が管理してるはずだろ」

 

「あぁ。どうやら互いの意識に齟齬があるみたいですね。すみません。私、今シロさんが私の配下だとおっしゃいましたが、それは正しくないんです」

 

「……どういうことだ?」

 

「彼は形式上私の配下ではありますが、実際は同列の存在として扱っています」

 

「――それは、シロがお前と同じ『神』ってことなのか?」

 

「いいえ。違いますとも。私が勝手に自分と彼を同列に見ているので、実際主従関係はあってないようなものなのですよ。あ、もちろんそれにはあなたも含まれてますよ」

 

「――道理で俺がタメ口で話してもお咎めなしなわけだ。どこで判断してんだお前は」

 

 

 零夜の言葉遣いが粗暴でも、それが許されている理由が判明した。どうやらこの女神は零夜とシロを自分と同列に扱っているらしく、だから女神はタメ口を許しているらしい。これが零夜とシロ以外だったら、一体どうなっていたのか、身震いがする。

 

 

「それくらいは自分で考えてくださーい。さて、話を戻しちゃいますよ」

 

「――あぁ」

 

「正直言って、ヤツと私の争いは平行線なんですよねー…。できることなら今すぐにでもアイツを殺したいです」

 

「だったらさっさと殺ればいいじゃねぇか。なんでやらないんだ?」

 

「殺れるならとっくに殺ってます。やりてくてもできないんですよ」

 

「それはまた、なんで?」

 

「――実は、ここだけの話なのですが、ヤツは私と対極に位置する神でして、互いの存在が弱点みたいなものなのです。だから手を出したくてもお互い出せないんです」

 

 

 光と闇。火と水。マグマと氷河。天と地など。対極に位置付けられるものは多数存在する。この女神が何を司っているのか分かれば、そこからその神の司っているものが予測できただろう。しかし、分からないものは分からない。

 

 

「だから拮抗してるんです。互いの権能持ち(配下)を潰し合わしている…。それが現状ですね」

 

「なるほど。つまり、俺たち転生者や俺たちが巻き込んだ奴らはお前ら神のいざこざのための道具…ってことか」

 

 

 持っているティーカップにヒビが入る。もはや感情でこの怒りを発散することなどできない。ならばこそ、器物破損と言うのが、この怒りを発散させる唯一の手段だった。

 

 

「ちょっと、壊さないでくださいよ!」

 

「――――」

 

「――はぁ。あなたの質問ですが、平たく言えば、そうなります。しかし先ほど言った通り、私はそのようなつもりは一切ありません。――しかし、そう言ったことを強要してしまっているのも、また事実です」

 

「結局、なんの変わりもないってことだろ」

 

「そうなんですよね…お恥ずかしい限りです」

 

「自覚してんなら、直す努力をしろ」

 

「簡単に言ってくれますね。できてたらとっくにやってますよ」

 

「―――」

 

「―――」

 

 

 互いに沈黙が続く。これは威嚇だ。お互い顔は笑っているが(女神は顔は見えないが)、目が笑っていない。

 零夜の顔は“てめぇらのいざこざに俺たちを巻き込んでんじゃねぇよ”と言う顔で、女神の顔は“こちらにもやむを得ない理由があるんです。分かってない癖に余計な口出ししないでもらえます?”と言った顔だ。

 お互いに顔で威嚇しあっているところで、終止符を打ったのは、零夜だった。

 

 

「――これ以上無駄な冷戦はやめよう。時間の無駄だ」

 

「そうですね。私もそう言いたかったです」

 

「そうか。ならさっさと“本来の本題”に入らせてもらうぞ

 

「本来の本題とは……権能の覚醒条件とデメリットの話ですか?」

 

「違う。てめぇも気づいて言ってるだろ。俺の今後の話だ

 

 

 そう、結局のところ【夜神零夜】は2回死んだ。これは覆らない事実として存在している。1度はあっても2度はないだろう。自分は確実に死にゆく存在として、あの世へ行く。

 零夜が聞きたいのは、女神の口からの“地獄行き”だ。

 

 

「あら。てっきりその話かと思っていたのですが…」

 

「てめぇと会話してると、こっちがバカらしく思えてくるんだ。それに、どうせ死ぬんだから俺には関係ないことだ」

 

「――心残りとか、ないんですか?」

 

「――あるにはある。だがてめぇが俺の感情を制御してくれたせいで、感情より理性の方が圧倒的優位に君臨してるんだよ」

 

 

 自分の感情を制御している本人に、心残りがないかとか、聞かれたくなかった。

 心残り?あるに決まっている。正直言って今すぐにでも復活させろと怒鳴りたい。でも感情が支配されているこの状況では、とてもそんなことができなかった。

 

 

「そうでした…。あなたの精神が壊れないための措置だというのに、あなたが人間らしさを失っては意味がありませんでした。反省文ものですね」

 

「その反省文を誰に提出するんだよ」

 

「あ、それもそうですね。私、またやっちゃいました。てへぺりんこ♪

 

 

 女神はわざとらしいポーズで可愛らしく言い放った。しかし、それが零夜の感情の支配を突き破った。零夜の顔は般若寸前のところで止まり、黒いベールで隠れている女神の顔を今にも殺さんばかりの眼で睨みつけた。その血走った眼は、老若男女問わず人間が見れば卒倒し、気を失、妖怪などが受ければ萎縮し、後ずさりするほどの殺気を放っていた。

 ついでに持っていたティーカップを握り潰した。もう人間レベルの握力に戻っているはずなのに、恐ろしい力である。

 

 

「おい。次それを俺の目の前でやったら……刺し違えてでもぶっ殺す

 

「えー……制御レベルはかなり高く設定したはずなんですけど…。やっぱり逆鱗に触れちゃいました?

 

「当たり前だクソボケ。逆に何を間違えたら怒られないと誤認した?」

 

「ほんの冗談のつもりだったのですが、受けなかったようですね。では本題に入りましょう。座ってください」

 

「――――」

 

 

 零夜はそのまま無言で座る。今絶賛現在進行形で込み上げている怒りの感情が、沈静化されていくのを感じている。制御レベルがまた高まった。再び、自分と言う存在が遠く離れていくように感じる。自分の地雷が、地雷ではなくなり、更地と化していっている。

 女神は、先ほどとは違った重々しい口調で、本題へと移った

 

 

「単刀直入に言いましょう。あなたの地獄行きは免れないでしょう」

 

「だったらすぐに送ってくれ。もう生の世界への未練が増幅しないうちに」

 

 

 この感情が制御され、支配下に置かれている状況でも、生への未練は徐々に大きくなっていく。あぁ最後に、せめて、あの男だけでも、自分の手で殺したいと、シロへの怒りが込み上げ、抑圧される。

 最終目標まで到達したかったのは確かだ。でも、それだけで【東方project(この世界)】の住民たちを、これ以上巻き込むわけにはいかない。自分の都合で、一体どれだけの生き物が不幸になったことか。零夜はその数を知らない。分からない。だから、この程度の考えで済ましてしまっている。もっと、深く考えるべき内容を

 

 

「俺も、知らないうちに、身勝手な(ヤツ)に成長しちまったな…。両親(ふたり)に、叱られちまうよ。いや、むしろ「お前をそんな子に育てた覚えないッ!」ってぶん殴られそうだ…」

 

「まぁ普通はそうだから、悲観的な考えになりますよねー。ですがそれは許しません。あなたには再びあの世界で活動してもらいます

 

「―――はぁ?」

 

 

 口がぽかん、と開いた。開いた口が塞がらない。素っ頓狂な声を出し、固まる。

 今、なんと言ったのか、零夜の耳には確実に聞こえていた。強制的な理性が、それを聞き逃さなかった。再び、あの世界で活動してもらう、死ぬことは許さないという、赤紙(アカガミ)*1にも等しい宣言だった。

 

 

「どういう――ことだ?」

 

「そのままの意味です。あなたは転生します。再びあの世界へと」

 

「――なん、で、だ」

 

 

 冷静に、冷徹に、平坦な声で、声を返した。あぁなんで、どうしてここへ叫べない!もっと怒りのままに狂いたい。本能に忠実になって叫んで、あの女神の顔をぶん殴ってやりたい!

 あぁ出せ、肺から空気を、喉から声を!出ろ、出ろ、出ろ!何故でない!?怒りの言葉を叫ぶことすら許されないというのか!

 

 

「ぶん殴るだなんて、怖い人ですねぇ」

 

「いいから、質問に答えろ」

 

「はーい。いいですか?あなたにはやってもらわねばならないことがあります。あなたはそれを全然完遂できていません。だから、完遂できるまで、地獄行きは保留です」

 

「ふざけんな…。そんなの、お前が許しても他の神々(ヤツラ)が許すわけ――」

 

「残念ですが、私。コレでも結構(くらい)の高い上位の女神なのです。そこら辺は地獄の女神と直談判しましたので、ご安心を。愛想笑いで了承してくれましたよ」

 

「地獄の女神が愛想笑いって…どんだけ上位の存在なんだよ、てめぇは…!」

 

 

 地獄の女神――【ヘカーティア・ラピスラズリ】。彼女は一言で言えば“公式チート”だ。

 その力は幻想郷や月の都というレベルを完全に越えており、地獄では閻魔大王――【四季映姫・ヤマザナドゥ】が『ヘカーティア様』と呼ぶほど偉い。そして強い。別格の実力者である。

 零夜が一方的に知っているだけだが、この女神に勝つには【ハイパームテキ】か【オーマジオウ】の力でもないと勝てないんじゃないかと思っている。

 そんな女神が、愛想笑いするほどの存在――それがこの女神。只者ではないとは思ってはいたが、まさかそれだけ強大な存在だとは考えもしなかった。

 

 そしてつまり、この女神と対極の力を持つ臘月を転生させた神も、ヘカーティアを超える力を持っていてもおかしくはない。

 一体自分たちは、どんな相手と、知らぬうちに戦っていたのだろうかと、身震いしてしまう。

 

 だが、その身震いは今はしなくていい。問題はもう一度転生させてくるということだ。

 

 

「いや、今はそれは問題じゃない。なんなんだ……その事項は?俺はなにをさせられている?」

 

あなたには補完してもらっています。しかし、あなただけでは到底あの量を補完できるとは私も考えていません。近々人員を追加する予定です

 

「ほかん…?保管?補完?」

 

「あぁ。補う方の補完です。仕舞う方の保管ではありませんよ」

 

「―――」

 

 

 思考を完全に読み取られているため、零夜が何を考えているのかを理解している女神は零夜の戸惑いを解消した。零夜は今、“ほかん”と聞いてはいたが、それが“保管”か“補完”のどちらかが分からなかった。

 女神のアレは、完全に理解してでのことだった。

 

 

「それで、なんの補完をしている?俺はいつそんな作業をしていた?」

 

「それはですね――秘密です」

 

「おい」

 

 

 零夜は少し威嚇するが、効果はゼロに等しい。

 この女神が秘密にしたいと言えば、その情報は確実にこちらには入ってこない。何度聞いても無駄だ。それぐらいは、二度しか会っていなくとも、その二度で印象が違っていても、零夜には理解できた。

 

 

「あなたはただ、戦っているだけでいい。それを少しだけ、量はプールの中に水滴を垂らしているようなものですが、貯めているのです。だから、あなたは戦うだけでいい」

 

「戦うだけ……ただの殺戮マシーンになれってか?」

 

「いえいえ!もちろん、生き物には休息も必要。豪華な食事、上質な睡眠、ハーレム作ってセックス三昧の毎日なんてのも、私は許します!」

 

「――生憎と三大欲求は事足りてんだ。食欲も睡眠欲も十分。性欲は…まぁないとは言い切れないが、問題、ない」

 

「あれれ~~随分と歯切れが悪いですねぇ~どうしたんですか?なにか隠し事でもしちゃってるんですか?」

 

 

 あぁ、なんで俺はこんなバカみたいな会話に付き合っているんだろうと心底呆れる。心のほとんどが女神の支配下にある以上、自分の意志などあってないようなものであった。

 それゆえに、本来であれば乗らないような会話にも、乗ってしまっている。そして、自分の墓穴を少しずつ掘り下げていっている。

 

 女神はようやく席から立ち、零夜の隣に立って腰を掲げ、座っている零夜と自身の高さを合わせるように(かが)み、唯一分かる口元が、とてもニヤニヤと笑っているだけは分かった。

 

 

「私はずっと気になっていたんですよ。あなた、ルーミアさんのこと、どう思っていらっしゃったんですか?

 

「な――ッ!」

 

「だって~気になるじゃないですか。500年もひとつ屋根の下で暮らしてたんですよ?お互い、タまりにタまってたはずだから、セックスの一回や二回、してたんじゃないですか?」

 

「お前さっきから思ってたけど女神なのによくそんな下品なワード恥ずかし気もなく言えるな?」

 

「減るものなどありませんので」

 

 

 事実、零夜が人前では決して口にしないようなワードを、女神はなんの恥ずかし気もなく口にしている。豪胆なのか、ただの考えなしのアホなのか。

 だが、零夜にはこの豪胆さに思うところがあった。一人の少女が、零夜の脳裏に映る

 

 

(―――)

 

 

 それをすぐに拭い去り、零夜は真っすぐな瞳で女神の顔を見る。

 

 

「一切ないな。そもそも彼女は俺が無理やり連れてきた、いわば誘拐の被害者だ。今はまぁ――良好な関係を築けてはいるが、それは結果論。そんなことしてらレイプになるし、何よりこの結果は生み出せなかっただろう。まぁ、一番の最善は、俺とルーミアが出会わないこと、だったんだろうけどな」

 

「――それ、本気で思ってたりします?」

 

「――そうだが」

 

「はっはは~~……今更嘘ついて、何の得があるんでか?」

 

「―――」

 

 

 一瞬笑ったかと思ったが、その次の瞬間、女神の声があり得ないほど低くなった。今まで彼女の低音の声など聴いたことなどなく、普通であれば聞いただけで寒気が止まらないほどの重圧を抱えていた。

 しかし、今の零夜にはそれが効かない。何故なら、他でもない女神によってその感情を封印されているのだから。

 

 

「どういうことだ」

 

「え、分からないんですか?自分のことなのに?」

 

「言ってる意味が分からん。お前はなにを伝えたい?」

 

「えーこれ私が直接言わないと駄目ですか?答えは既にあなたの中にあるというのに。まぁ知らないと突き通すのであれば、私は優しいので答えますが」

 

「――――」

 

 

 煽ってくる女神に、零夜は何も言えない。何故なら、女神の言っていることは的を得ていたからだ

 零夜はその本心を隠している。何故なら、零夜自身。この心は墓場まで持っていくつもりだったからだ。

 

 

「まぁあなたが話さない理由なんて当に分かり切ってますし。恥ずかしいですよねー。実は彼女にすっごく欲情してたなんてー

 

「――言ってくれるな」

 

 

 そう、夜神零夜。肉体年齢19歳。精神年齢約534(+3)(537)歳。一言で言えば、彼はかなりタまりにタまっていた。

 自慢でも何もないが、彼はDT(童貞)だ。19歳で死ぬ前、投獄されたのが17歳。青春の真っただ中であった。そんな時期に彼女などできるはずもなく、そのまま死んだ。

 

 ゆえに女性経験皆無!ましてや男のロマンの結晶ともいえる金髪紅目のボンキュッボンな巨乳美女との同棲生活!零夜の精神が無事であるはずがなかった。

 そもそも零夜が“やっちまった”と気づくのが、監禁(どうせい)生活初日の夜である。正直言って、ルーミアを連れてきたのは間違ってはいないと思ってはいるが、初心(ウブ)な男にはハードモード過ぎた。

 金髪巨乳美女と一つ屋根の下での生活。これを実感して零夜は“俺、このままやっていけるか?”と思った記憶は懐かしい。よく今まで理性を保ち続けていたなと感心できる。

 

 そんな中でも、零夜が理性を保ち続けていたもの、悪への根本的な忌避が理由だ。悪人を演じ続けていた零夜にとって、この感情は皮肉以外のなんでもなかった。だが、零夜は後悔はしていない。

 

 彼女(ルーミア)からのアプローチも度重なるほどあったが、それでも零夜は理性を優先していた。計画への執念を胸にして。

 

――しかし、そんな零夜の鎖ともいえる“計画”は既にご破算だ。つまり、零夜の理性を縛るものは既に何もない。

 

 

――つまるところだ。

 

 

「――あぁそうだよ。俺は正直言うとアイツに欲情はしてた。お前に分かるか?男のロマンともいえる金髪紅目の巨乳美女。興奮しないわけがないだろ。あぁそうさ正直に言うよ俺は溜まりに溜まっていただがしかしそれは“計画”があったからだ。“計画”が第一目標と決めている中、恋愛なんてものに(うつつ)を抜かしている暇なんてない。そもそもアイツは俺が無理やり連れてきたんだぞ?監禁生活を強要したんだ。そんな状況で恋愛感情なんて芽生えるわけがない。じゃあなにか?悪人らしく無理やり手籠めにとって性奴隷にでもしたらどうだって思ったか?んなことできるわけないだろ。俺は結局“悪人ごっこ”をしていたに過ぎないんだ。この際はっきり言うが俺は根本的に“悪”と言うのが大嫌いだ。だからと言って“正義”を掲げるわけではない。自分の正義なんて他人から言わせれば悪だなんてパターンザラにある。正義の定義なんて曖昧で、この世で絶対的揺るがない定義なんて、俺は『悪』しか知らない。まぁ少し話は変わったが、この500年間、俺は本当に自分の感情と理性を戦わせてきたんだ。本当に苦労してきた。特に目のやり場に!途中からアイツ、風呂上がりに俺の目の前で全裸徘徊するようになったし、なんなら寝るときも全裸だし!もう少し俺のことも考えろ!まぁあんなのどう考えてもハニートラップでしかなかったから、引っかからなかったけどな。よく考えてもみろ、自分を拉致監禁した相手に好き好んで素っ裸を見せに行くか?俺だったら絶対にしない。どう考えても逃げるための罠だ。まぁそんなのやめさせればいいだけの話なんだが、――正直言うと眼福だから見逃してた。なぁ、頼むから500年間理性を保ち続けていた俺を褒めてくれ。ていうか褒めろ。あの度に部屋で前かがみになる俺の気持ちも汲み取って慰めてくれ。いや、もう過ぎたことはどうでもいい。あの後からボディタッチも増えたからな。さらに俺の理性は蒸発寸前までいったよ。本当に俺を褒めてくれ頼むから。挙句の果てにライラや紅夜にすら焚き付けられるしよォ。あいつらは俺をなんだと思ってるんだ。俺はただのちんけなチキン野郎だぞ?『僕悪い奴なんだ。かっこいいだろ』とか主張してたガキだぞ?なにが“いい加減くっつけ”だ!なにが“なんで零夜さんとルーミアさんってまだ結婚してないんですか?お似合いなのに”だ!くっつけるワケないだろ!お似合いなわけないだろ!俺みたいなクズを婿(むこ)にってどんな罰ゲーム?どんな地獄だよ!アイツもアイツだ。なに顔を赤らめてるんだ!なんで嬉しそうなんだよ!俺なんかとくっついても不幸になる未来しかないからな!?」

 

 

「――とりあえず一言言わせてください。GO TO HELL(くたばりやがれ)

 

「はぁ!?」

 

 

 長ったらしい零夜の独白が終わった次の瞬間、女神はサムズダウンをして低い声での『ゴートゥーヘル』。間違っても女神がしていい動作ではない。

 

 

「なんでそうなる!?俺はただ自分の気持ちをありのまま口にしただけだぞ!?」

 

「うわー開き直りやがりましたよ。これだから男っていうのは。ていうかキャラ崩壊酷くありません?途中から話も変わってきてるし、長すぎると読者の目が疲れるので分けてもらえませんか?

 

「お前は一体誰目線で話をしてるんだ」

 

 

 女神の第四の壁(にんしき)のことは放っておいて、女神はガーデンテーブルに置かれている紅茶を一杯飲み干す。そのまま置いて、零夜を指さした。

 

 

「まぁ言いたいことはいろいろありますが、最後の部分。あなた気づいてるじゃないですか。彼女のお気持ち

 

「逆に何故そこまで頑なに彼女の気持ちを受け入れないのか不思議でありません」

 

「――決まっている。不幸になると分かっていて、誰が好き好んでくっつくか?だから今まで無視(スルー)してきたってのに…あのバカ。俺なんかを庇って死にやがって。俺は良かったが、お前はまだ生きるべきだったんだ…」

 

 

 あの、死ぬ間際の彼女の顔が忘れられない。最後、彼女は自分になんと言った?分からない。分からないが――あの表情(かお)で、言いたいことはなんとなくわかっていた。おそらく彼女が伝えたかったのはあの二文字。

 でも、自分にその二文字を聞く資格はない。結果的に、あの結末は、良かったのかもしれない。

 

 

「俺は心のどこかで期待していた。一度目の人生で出来なかったこと。この世界で全部できるんじゃないかって…。でも、結果的に俺は自らの手でその期待(ゆめ)を壊したんだ。チャンスを、俺は無碍にした。そんな俺に、戦うだけの機械になれってのは、戒め、ってやつか…」

 

「――あなた本当にクズですね。なに一人で納得してるんですか?」

 

 

 突如零夜の耳に響いた、暴言――。その出処は他でもない、女神だ。

 零夜の表情が曇る中、女神は唯一見える口元を笑顔にしていた。それが、零夜の感情を逆なでさせ、今できる限りの怒りを発現した。

 

 

「んなこと分かって――「彼女の行動を無駄にしてますよね?せっかく彼女が命を賭してあなたを守ったのに、あなたはその命を放棄した。それって、彼女に対する裏切りになりません?」

 

「それは――」

 

「良かったじゃないですか。あなたはなれたんですよ。裏切者と言う悪に。悪人になりたかったんでしょう?良かったじゃないですか」

 

「違うッ!!」

 

 

 感情が制御されている状況で、よく叫べたと思う。それほど、零夜の感情(こころ)は揺らいだ。

 違う。違う。違う。俺は裏切ってなんかいない。そう心の中で叫び続ける。そもそも無理だ。あの状況で、生きろと?無理だ。無理だ。無理だ。夜神零夜はそんな強い男ではない。強い外見を、取り繕っていたに過ぎない。中身は弱い、子供のままだ。

 悪魔(シロ)に完全論破されたあの状況で、精神崩壊間近の状況で、生きる意味なんて、見いだせるわけがない。そんなことができるほど、夜神零夜は強くない。

 

 

「知ったような口を聞くな!もとはと言えば俺の弱さが招いたことだッ!ルーミアが、ライラが、紅夜が死んだのも、アイツ(シロ)に論破されたのも、今こうして死んだのも!全て俺の弱さが招いたことだ!アイツは関係ない、全て俺の責任だッ!」

 

「……言ってることの矛盾、自覚してます?あなたの主張は全部自分が悪い。だが、ルーミアさんは関係ない…。バカなんじゃないですか?」

 

「な…ッ」

 

「そうやって逃げてるから、大事なものばかり失うんですよ。どれほど強力な力を与えられようとも、人間(ひと)は一人では生きてはいけない。その先に待っているのは、孤独と破滅のみ。どこまで行ってもバットエンド直行ルート。いいですか?あなたが今までここまで生きていけたのは自分一人の力ではない。分かっていますか?」

 

「それは――」

 

「そう。今のあなたはルーミアさんと、シロ。この二人の交流によって成り立っている。このどちらか一つが欠けてでもしたら、今のあなたは存在していない。IF(もしも)はないんですよ」

 

「――――」

 

「ここで、優しい言葉(アメ)の一つでもかけてあげるのが常套句のように思えますが、私はそこまで優しくありません。ですので、もっと辛い目(ムチ)にあってもらいます。もう、感情制御《保護》はいらないですね」

 

 

 女神が指パッチンをする。それと同時に、零夜の精神(こころ)に、強烈な痛みが炸裂した。

 

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!」

 

 

 零夜は奇声と間違われても仕方がない雄叫びを挙げ、瞳から大粒の涙を流す。寝ころびながら、叫ぶ。叫ぶ。叫び続ける。両手で顔を覆い、それでも隠し切れないほどの声量と涙が、白い空間に木霊した――。

 

 

 

 

*1
軍隊が在郷の者を兵士として召集するために個人宛に発布する招集令状




 夜神零夜(悪役に憧れた子供)

 死んだと思ったら女神と再会。女神とシロが繋がっていたことにショックを受けるも、その時点ですでに女神に感情制御を施されていたので、思考に発現することはなかった。
 女神から数々の事実を聞かされ、怒り、憤慨したくとも感情制御のせいで冷静に話すことしかできない。
 だが、何度かその制御を突破するほどの怒りを示し、そのたびに制御レベルが上がっていくため、最終的には一時的とはいえ人間の心を失っている状態に。
 特に女神の“てへぺりんこ”でブチギレた。普通ならただイラっとするだけだが、この時点で制御レベルは100が最大だとすると50まで上げられていたので、よほどのことでもない限り怒りを表に出せない。それゆえに、なにか別の理由があったことは確実。

 最後に女神が感情制御を完全に解除したことによって、零夜の精神が本来のものへと戻り、崩壊が始まった。


 ルーミア(今話一番の被害者)

 今回は出てきてはいないが、最後らへんに話題にされた。
 彼女は羞恥心で零夜を一回殴ってもいいと思う。


 女神(猫舌の黒幕?)

 零夜を転生させた張本人。1話と性格が全然違うが、同一人物です。むしろ今回の方が素に近い。零夜の感情を制御したり心を支配したりと、散々やらかした。
 神のレベルとしてはヘカーティアを超えている。超絶ヤバイ。

 権能と言うシステムを創り上げたすごい実績の持ち主。しかしどこか抜けており、そのせいで毛嫌いと言うか嫌悪している対極に位置する神にシステムをコピペされた挙句改造された。戦争一歩手前だったらしい。
 その神とは互いの存在が弱点でお互い手が出せないとのこと。
 零夜に“てへぺりんこ”をやったためガチギレされる。反省の色はなし。たまに下品な言葉を使った。セックスとかね!!

 最後にムチとして零夜の感情制御を解除した。
 鬼畜な面も見せたが、猫舌と言う可愛らしい場面も見せた。

 表現されていないが、首に大きめのほくろがある。


 ヘカーティア(苦労人)

 存在だけ登場。実は零夜を地獄へ迎え入れるか、そのあとの裁判をどうするかなど考えていたところ、女神に介入されて案件を無理やり取られて愛想笑いした。
 シロにはコレクション盗られて使われるし*1、自分より上の女神に介入されるしで、今回の一番の被害者ともいえる。


 女神と対極に位置する神(テメー黒幕だろ)

 存在だけ登場。対極に位置する神だけあって、その力は未知数。超絶ヤバイパート2。この神が臘月を転生させた張本人であることも、今回で明かされている。
 女神から権能システムをコピペして奪い、一部改造を加えた。それこそが自分に近しい魂のものを生贄に捧げることで発動する【強制覚醒】である。



 とりあえずまとめとして書いてみました。
 どうでしょうか?分かりやすいっすかね?


 評価:感想よろしくお願いします!


*1
47話参照

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