東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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10 姉妹

「フ、フラン…?」

 

「お姉さま…それって本当なの…?」

 

 

紅魔館から少し離れた場所。そこには、五人の人影がいた。蝙蝠を模した装甲を纏う、仮面の戦士。顔立ちが似ている、青髪の少女と金髪の少女。白黒を基準とした服を着ている少女。巫女服を着た少女だ。その少女たちと戦士は、それぞれが硬直していた。

 

 

「フラン…どうしてここに…?」

 

「そ、それは…「私から説明するわ」霊夢?」

 

 

切り出したのは、霊夢だった。霊夢は一度息を吸って吐いた。

 

 

「はぁ~~。実はね―――」

 

 

 

 

―――時は少し遡り―――

 

 

ギェエエエエエエエエ!!!

 

 

「きゃぁ!」

 

「うわっと!」

 

 

赤・金・銀・黒のメカニカルな風貌をした西洋のドラゴンが、二人の少女を襲っていた。その名は【ウィザードラゴン】―――ではなく、【ブラックウィザードラゴン】。ブラックウィザードが召喚したドラゴンだ。

 

 

「どうする霊夢ッ!?こいつとてつもなく強いぞ!」

 

「そんなこと分かってるわよッ!」

 

「これでもくらえッ!恋府『マスタースパーク』ッ!」

 

 

魔理沙は八卦炉をブラックウィザードラゴンに向け、七色の極太レーザーを放った。ブラックウィザードラゴンは首を上にあげ、四つの魔法陣を展開した。そこから『火』『水』『風』『土』の魔法エネルギーが混ざり合う。口から魔法エネルギーをそのまま魔理沙と同じレーザー―――ではなくビームとして放った。レーザーとビームがぶつかり合い、空中で爆発する。その爆発の中にブラックウィザードラゴンが飛び込み、霊夢と魔理沙に急接近する。

 

 

「くッ!」

 

「うわッ!」

 

 

ドラゴヘルクローで図書館の床を斬り裂いた。そのままブラックウィザードラゴンの目がロックオンしたのは―――

 

 

「私かよッ!?」

 

 

魔理沙にブラックウィザードラゴンは急接近し、体を後ろに逸らして【ドラゴンテイル】で横に薙ぎ払う。

 

 

「グハァ!」

 

「魔理沙ッ!」

 

 

ギェエエエエエエエエ!!!

 

 

ブラックウィザードラゴンは追い打ちと言わんばかりに魔理沙に立ち向かい、その重たい体で魔理沙を押しつぶそうと迫る。魔理沙は体を横に逸らしてその攻撃を避ける。

 

 

「私を無視してんじゃないわよッ!」

 

 

霊夢は封魔針をブラックウィザードラゴンに投げる。針はブラックウィザードラゴンに当たるが、跳ね返る。

 

 

「だったらッ!」

 

 

霊夢は弾幕を放つ。色とりどりの弾が、ブラックウィザードラゴンに被弾する。煙が舞うが、ブラックウィザードラゴンは無傷だ。ブラックウィザードラゴンが霊夢のいる方向を、唸り声をあげながら見る。

 

 

「ようやくこっちに気が向いたわn―――ッ!!?」

 

 

―――突如()()が霊夢の体を突き飛ばした。背中に強烈な衝撃を受け、霊夢は地面に倒れる。

 

 

「霊夢ッ!」

 

 

それを見た魔理沙が霊夢に駆け寄り、心配の声を荒上げる。一体なにが霊夢を吹き飛ばしたのか、それを魔理沙は確認するために辺りを確認する。そこに映ったのは……

 

 

「あれ、あいつが(またが)って動いてたヤツじゃねぇか!」

 

 

その魔理沙が示す『あいつ』は、エンジンの排気音を鳴らし、ライトをチカチカと鳴らしている存在――と言うより物。その名は【マシンウィンガー】。マシンウィンガーが自動で動いて霊夢と突き飛ばしたのだ。

 

マシンウィンガーはその後も自動で動き、ブラックウィザードラゴンに近づき―――合体した。

ブラックウィザードラゴンに翼が生まれた瞬間だった。

 

 

「嘘だろッ!?翼になった!?」

 

 

ギェエエエエエエエエ!!!

 

 

ブラックウィザードラゴンは咆哮を上げ、翼を前に押し出し、黒い風を巻き起こした。その風は竜巻となり床の板や本を巻き添えにして二人に急速に接近する。

 

 

「やばいッ!」

 

 

 あれほどの強力な風を、魔理沙はすべて防ぐ自身がない。即座に回避の行動に移す。―――が、その直後に図書館の地面が隆起し、地面が壁となり、三方面が塞がれた。退路は最早竜巻が向かってくる方面のみとなったのだ。

 

 

「マジかよ!?クソッ!防ぐしかねぇ!」

 

 

 弾幕は無意味。ただすり抜けるか、逆に巻き込まれるだけだ。マスタースパークは?無理だ。先ほど撃ってミニ八卦炉の魔力がすでに尽きている。上空は?これも無駄だ、隆起した壁が天井にまで突き刺さっている。壁を破壊する?弾幕を撃ってみてもビクともしない。もういっそのこと竜巻を飛び越えるか?無理だ。風が刃となって自らの体が崩壊する。なら防御魔法を使う?そもそも魔力を攻撃にほぼ使ってあまり残っていない。使えたとしても霊夢にもかけなければならないために、脱出までに時間が掛かる。もし仮に脱出できたとしてもこの先にブラックウィザードラゴンが待ち構えている。だったら天井を突き破って上に逃げるか?魔理沙は上を見るが、なんと天井さえも壁と同じく塞がれていた。だったら下に穴を掘って避難するか?否。あの竜巻を回避するためには深く穴を掘らなければならない。それほどの魔力は残っていない。できても浅いものしかできない。つまり―――

 

 

「万事、休すじゃねぇかよ…!!」

 

 

やられた。窮地にまで追い詰められてしまった。一体どうすればいいのだと魔理沙の頭は混乱する。一体どうすれば―――

 

 

「バカ…私を忘れてんじゃないわよ…」

 

「霊夢?」

 

 

そのとき、霊夢がある程度回復したのか、魔理沙に語り掛けた。

 

 

「だってよ!もうどうすればいいんだぜ!?」

 

「冷静になりなさい魔理沙。私の力、舐めないでよね」

 

「うっ…」

 

「こんなことしている間にも、あの竜巻はこっちに向かってきているわ」

 

「そんなことはわかってるっ!でも今の状況はまさに八方塞がりだぜ!」

 

「あのねぇ。私の能力忘れた?」

 

「霊夢の能力?【空を飛ぶ程度の能力】だろ?それがどうしたんだよ!?」

 

 

博麗霊夢の【空を飛ぶ程度の能力】。この能力は空を飛ぶこと、つまり無重力。地球の重力も、如何なる重圧も、力による脅しも、彼女には全く意味が無い。身も心も、幻想の宙をふわふわと漂うことなのだ。つまり―――

 

 

「私なら、ここを突破できるわ」

 

「おいおい私は!?」

 

「自分を守るくらい造作もないじゃない」

 

「私の魔力は、あのマスタースパークでほぼ使っちまったよ!」

 

「バカッ!こういう時くらい温存しておきなさいよね!はぁ、じゃあこれ使いなさい」

 

「これは…?」

 

 

霊夢から渡されたのは、一枚のお札。

 

 

「そのお札には、結界が封じられてるわ。それを解放すれば、魔理沙の周りに結界は出現するから。それで身を守りなさい」

 

「あ、ありがとな」

 

「お礼なんていいのよ。さて、じゃあ行ってくるわ」

 

 

霊夢が足に力を入れる。足の力と能力を用いて、竜巻を強制突破する―――!!

 

 

 

ドゴォォオオオオオオオオンッ!!!

 

 

 

「「……えっ?」」

 

 

 

―――壁が破壊され、竜巻が消滅した。

二人は理解しきれず間抜けな声を上げてしまっていた。壁が()()され、竜巻が()()したのだ。突然の出来事に、二人の思考は停止した。

 

 

「い、一体何が…?」

 

「どういうことだぜ…?」

 

 

二人はなにが起きたのだと周りを見渡す。そして―――一人の少女に目が行った。

 

 

「あ、あんた…」

 

「あの魔法使いにぶっ飛ばされた―――」

 

「…大、丈夫?」

 

 

ボロボロになった服を纏い、こちらに手を向けている少女――【フランドール・スカーレット】がそこにはいた。彼女の姿は痛々しい。無理やり体を動かしているようにも見えた。そんな状態でも、彼女は能力を用いて二人を救ったのだ。

 

 

「あんた…!そんなボロボロの体で動いてたの!?」

 

「あ、おい!」

 

 

霊夢の叫びが響いた後、フランはゆっくりと倒れ、魔理沙に抱えられる。

 

 

「お前、あんなにボロクソやられて、無理すんなよ!」

 

「大丈夫だよ?」

 

「大丈夫なわけないだろ!?待ってろ、今回復魔法を!」

 

 

魔理沙の手から、暖かな緑色の光が放たれる。

 

 

「暖かい…」

 

「あなた、どうして私たちを…?」

 

 

霊夢が、回復途中のフランに投げかける。あんなボロボロの体を無理に動かしてまで二人を助ける理由が分からない。

 

 

「…なんでだろう?」

 

「え?」

 

 

フランから返ってきた言葉は、疑問だった。

 

 

「分かんないけど、助けなくちゃって思ったから。…私、普段そんなこと思わないのに。とっても不思議」

 

「……よしっ!これで応急処置は終わったぜ!」

 

 

魔理沙の治療を受け、フランはゆっくりと立ちあがる。

 

 

「…ありがとう。でも、私吸血鬼だから、自力で回復できるんだけどね」

 

「吸血鬼?そうなのか?」

 

「うん。ところで…あなたたちは?」

 

「私たちか?私たちは――――」

 

 

 

ギェエエエエエエエエ!!!

 

 

 

言葉の途中に、ブラックウィザードラゴンの咆哮が、図書館に鳴り響いた。

 

 

「そういえばいたわねあんた…!」

 

「自己紹介の途中で鳴き声出すんじゃんぇよ!」

 

「あの龍さん…。ヤミと何か似てる?」

 

「ヤミ?誰の名前だ?」

 

「それはね――」

 

「おい、来るぞっ!!」

 

 

ブラックウィザードラゴンに、水と土の魔力が纏われる。

それをそのまま地面に投下すると、床が泥水で徐々に埋まっていく。

霊夢たちは即座に空を飛んで回避する。

 

 

「泥水なんて、姑息な真似をして…。一体なんのつもり?」

 

「あぁ~~本が浸水しちまったッ!」

 

「あんたはこんなときに何口走ってんのよ!――――って、あんた、その手に抱えてるのは…」

 

 

霊夢の目が、フランの体に止まる。フランの手には、二人の人物が抱えられていた。

その人物とは、先ほど霊夢と魔理沙が戦っていたパチュリー・ノーレッジ、そしてその秘書の小悪魔。

 

 

「確か、断片的でしかわからないけど、こいつがあなたが出てきたことに驚いていたってことは、あなたがあそこにいる事態が予想外の出来事だったってこと。私の勘だけど、つまりあんたは出てきちゃいけないってことだったってことじゃない?」

 

「…そうだよ」

 

「なのに、なんで助けたのかしら?」

 

 

『設定上』。フランは紅魔館の住人全員の意向で閉じ込められてた。そして本人も引き籠り気味だ。それなのにフランが何故そんな住人を助けるのかが分からない。

 

 

「…私の、意思もあるけど、閉じ込められたのは変わりないよ。私の能力は危険だからって。でも、大事な家族だから」

 

「……そう。それじゃあ仕方ないわね」

 

 

そう話を認め、理解し、霊夢はブラックウィザードラゴンの方に向き直る。それでもなお、フランに言う。

 

 

「そういったドロドロな話、私はあまり好きじゃないの。でも、私から一つ言うとすれば、そんな過去の話いつまでも引きずってんじゃないわよ。その能力が危険だとか言ってるけど、現にあなたはそのわけわかんない能力で私たちを()()()くれたでしょ」

 

「そうだぜ。詳しくは知らないが、誇っていいことだぜ!なにせ、私たちを()()()んだからな!」

 

「――――ッ!」

 

 

二人の言葉が、フランの心に刺さった。悪い意味ではない。侮辱など、そう言った意味ではない。フランの能力、【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】。ただ破壊しか能がないと思っていた能力。破壊と救済は違う。根本的に違うのだ。そんな破壊の能力で救われた、その言葉はフランに多大な衝撃を与えたのだ。

 

 

「あ、ありがとう…ありがどう…!」

 

「こんな時に泣くんじゃないわよ。お礼ならちゃんと全部終わった時に聞くわ」

 

「そうだぜ。だから、まずは全員であいつを倒そうぜ!」

 

 

魔理沙が、ブラックウィザードラゴンに向かって叫ぶ。フランは二人を安全であろう場所に置いた後、霊夢たちの場へもどる。霊夢はフランの方を見て―――

 

 

「それで、手伝ってくれるかしら?」

 

「うん!」

 

「それじゃあ行くぜっ!」

 

 

三人はブラックウィザードラゴンへと向き直り、それぞれの武器を構える。それを開戦の合図と受け止め、ブラックウィザードラゴンはしっぽに冷気を纏い縦に振るった。

 

三人はそれぞれ左右に避ける。尻尾が振るわた部分に氷柱が生み出される。泥水が()て付き冷気が漂う。

 

 

「喰らいなさいッ!」

 

 

霊夢の色とりどりの弾幕が、ブラックウィザードラゴンに向かって行く。ブラックウィザードラゴンの目の前に魔法陣が出現し、それを防ぐ。煙が漂う中、その煙を一つの影が高速で動き、煙を払っていた。その影は手に燃え盛る炎の剣を持ちし吸血鬼―――フランだ。フランは縦に一閃、レーヴァテインを振るう。ブラックウィザードラゴンの荒い銀閃たる爪がその刃を受けとめる。

 

フランとブラックウィザードラゴンの口が近くなった今、ブラックウィザードラゴンはフランに向けて火炎放射をしようと口で炎を溜め――

 

 

「うわぁ!」

 

 

―――発射した。フランはレーヴァテインで炎弾を受けとめながらも、後ろへと飛ばされていく。フランは精いっぱい力を籠め、炎を天井へと投げ出したッ!

 

 

「おい大丈夫か!?」

 

「大丈夫、平気だよ。人間さんのおかげ」

 

「おいおい、私は人間さんって名前じゃなくて、ちゃんと【霧雨魔理沙】って名前があるんだぜ?ちなみにあっちは霊夢な?」

 

「分かった!霊夢と魔理沙ね!」

 

「おう!」

 

「あんたたち雑談してないでこっちに集中しなさい!」

 

 

ブラックウィザードラゴンの爪による炎の飛ぶ斬撃が霊夢を襲っていた。それを見た二人は即座に各々の弾幕を放ち、霊夢を援護した。直撃するが、無傷で空を飛ぶブラックウィザードラゴンを見て愕然とした。

 

 

「やっぱり弾幕じゃあまり効かなねぇのか!」

 

「防御力高すぎでしょ…」

 

「だったら私に任せて!」

 

 

フランが前に出る。それを阻止せんとブラックウィザードラゴンは炎弾を放つ。七色の翼を羽ばたかせながら、(あか)く燃えさかる剣を振るい、自らの行く手を阻む炎を二つに斬る。

 

 

ギェエエエエエエエエ!!!

 

「はぁあああああ――――!!!」

 

 

今こそ使おう―――自分の、破壊しか能がなかった力で、誰かのためになれるというのなら!

その(こころざし)を胸に、フランはブラックウィザードラゴンより上の位置を取り、レーヴァテインを縦に振るう!

 

ブラックウィザードラゴンはそれを阻止しようと黒い水の魔法陣を頭上に描き、炎の剣をガードしようとする。

 

 

「邪魔っ!」

 

 

レーヴァテインと防御がぶつかり合った瞬間―――魔法陣が「破壊」された。

そのままレーヴァテインはブラックウィザードラゴンに直撃し、ドラゴンは地面にそのまま勢いよく直撃した。だが、あまり威力は期待できない。理由としては先ほどブラックウィザードラゴンが出した泥水が威力を緩和しているのが理由だ。

 

 

「やったッ!」

 

「すげぇじゃねぇか!」

 

「やるわね、あなた」

 

「私の能力は破壊する能力だから。あいつの防御を破壊したの」

 

「なるほどなるほど…。これで、勝率が一気に上がったな!」

 

「そうね」

 

「―――うん!それじゃあ、行こっか!」

 

 

三人は、泥中に佇む―――隠れていたドラゴンへと目を向けた。

ブラックウィザードラゴンは咆哮を上げ、自らの巨体を隠していた泥を払った。そして咆哮を上げながらそのまま霊夢たちへ黒い風と土が混ざった砂嵐を放った。

 

霊夢たちは今よりも高く飛びそれを回避する。ブラックウィザードラゴンは砂嵐をそのまま突破して霊夢たちに急接近する。

 

 

「霊夢たちには手を出させない!!」

 

 

フランがブラックウィザードラゴンの頭を吸血鬼自慢の腕力で抑える。その隙にブラックウィザードラゴンの腹を霊夢が下から蹴り飛ばした。

 

 

「せいやっ!」

 

 

衝撃音が鳴り、ブラックウィザードラゴンは天井に打ち上げられる。

天井に激突したブラックウィザードラゴンは体勢を立て直す―――

 

 

「喰らえッ!」

 

 

――が、それを魔理沙の箒に乗っての突進が入った。巨体のブラックウィザードラゴンを動かすのには威力は足りないが、ここは空中だ。空中で体を無理やり動かすのなら、それなりの威力でも可能である。突進を喰らったブラックウィザードラゴンは一瞬怯むも、すぐに尻尾を魔理沙に振るう。

 

 

「はぁ!」

 

 

そこにフランのレーヴァテインが入り、ドラゴンテイルとレーヴァテインがぶつかり合う。衝撃で跳ね返り、ブラックウィザードラゴンは翼を前方に羽ばたかせ風の刃を放つ。

 

 

「結界ッ!」

 

 

霊夢の結界が二人の目の前に張られる。風の刃を結界が阻み、ピシピシと、音が鳴る。

ブラックウィザードラゴンは別の方向に移動し、霊夢の上空を取り、()()()()()()

 

 

「しまった!」

 

 

泥水が先っぽに棘を作りながら、氷柱(つらら)のように伸び、霊夢を拘束した。その際に氷柱から水分を蒸発させ、完全に固くした。霊夢の上空を取ったブラックウィザードラゴンはそこで体を回転させ、雷嵐(らいらん)を起こした。

 

雷と竜巻が混ざり合い、霊夢に着々とダメージを与える。

 

 

「霊夢ッ!」

 

 

魔理沙とフランが霊夢を救出しようとブラックウィザードラゴンに近づく。

だが、それ故に二人は()()()()()()()()()()()()に気付くことはなかった。

 

 

「がっ!」

 

「魔理沙ッ!?」

 

 

突如、()()()()()が、地面に落下した。フランはすぐに自分の上にある魔法陣に気付いた。そこでフランは気づく。|()()()()()()()()()》に使われた、重力の魔法だと。そのまま魔理沙は地面に向かって働く強制的に生まれた重力に逆らうことなく、泥水の中に落ちて行った――

 

 

ドゴンっ!ガラガラガラ!バコンっ!

 

 

―――が、どう考えても泥水からは聞こえてくるはずもない音が響いた。魔理沙が落ちた周りの場所だけ、周りに土塊(つちくれ)が生まれていた。これは、魔理沙の落ちる部分だけ水分を抜き取って完全に地面にしたのだ。本来泥水によって緩和されるはずの衝撃が、土となってそのまま残った。つまり魔理沙は今大ダメージを受けている状態だ。

 

 

「はぁああああ!!」

 

 

フランはすぐに行動に移した。あのドラゴンを倒せばなんとかなると。今もなお雷嵐にダメージを与えられ続けている霊夢も、土の中に実質的に埋まっている魔理沙も、あのドラゴンを倒せばすべてが元通りになると、そう信じ。フランは自身の周囲に弾幕を展開し、放つ。無論これに意味はあまりないことはフランでも理解している。だが、助ける一心で、攻撃を行ったのだ。

 

 

「喰らえッ!」

 

 

フランの破壊の能力が加わった攻撃。対してブラックウィザードラゴンは自身の周りに、四重に魔法陣を張った。それは、黒い火、水、風、土と言った、四大元素で構成された魔法陣。おそらく防御魔法だと直感し、そのまま魔法陣ごと破壊しようと、そのまま剣を振り下ろした。―――が、その直感は見事に外れた。

 

ブラックウィザードラゴンは体を縮こませ、そのまま魔法陣ごと突撃したのだ。

 

 

「ッ!」

 

 

ブラックウィザードラゴンの狙いは、防御ではなかった。攻撃だったのだ。四大元素の魔法陣をその身に纏い、勢いよくフランに突撃していくブラックウィザードラゴン。フランはすぐに守りの体勢に入ろうとするが―――遅い。

 

ブラックウィザードラゴンの巨体はそのままフランに直撃し、一直線に後ろに吹っ飛ぶ。そのまま壁に激突したフランは、なんとか、ヨロヨロと言った風に飛んでいた。

 

 

「うぅ…」

 

 

自分の破壊する能力も、当たらなければ意味がない。そこを突かれ、フランはブラックウィザードラゴンの攻撃をまんまと喰らってしまったのだ。

 

ほぼ満身創痍のフラン。フランはブラックウィザードラゴンをかすれた目で見据える。どうすればあれに勝てるのだろうか?今も現在雷嵐は霊夢を中心に起こり続け、魔理沙も地面に埋まったままだ。パチュリーや小悪魔も気絶している。この状況を打破できるのは自分しかいない。いったいどうすれば―――

 

 

 

 

『所詮、この程度か…』

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

その時、男の声が聞こえた。とても風格のある、思わず聞きほれてしまうほどの、(おとこ)の声だ。

 

 

『娘よ、貴様はその程度なのか?』

 

「あなたが、喋ってるの…!?」

 

 

そう、この漢の声は、フランの目の前にいる、ブラックウィザードラゴンから発せられた声だ。今まで戦っていた存在が、意思疎通が可能であったことに驚きを露わにするフラン。

 

 

『左様。私が語り掛けている。小娘、あまり私を失望させるな』

 

「うるさいッ!そんなのお前の勝手だ!勝手に期待しといて勝手に失望するなッ!」

 

 

ブラックウィザードラゴンはフランの怒りに触れ、炎の剣を振り回す。

 

 

『型がなく滅茶苦茶な攻撃…。先ほどの攻撃の方がまだマシだ』

 

「黙れっ!」

 

 

「禁弾『過去を刻む時計』ッ!!」

 

 

フランから青い回転十字レーザーと、赤弾が発射される。

このスペカの難関は、左右逆の回り方をするレーザー型弾幕があることだ。簡単に言ってしまえばホイッパーのような回り方をしている。ぶつかりそうでぶつからない絶妙なタイミングで回るレーザーが回り続けるのだ。

 

 

『笑止千万』

 

 

ブラックウィザードラゴンの体を、黒い魔法陣が通過する。この魔法陣は特に目立つ特徴はなく、強いて言えば『無』とも言えるだろう。

 

―――瞬間、ブラックウィザードラゴンはその場から姿を消した。

そして――

 

 

「ッ!」

 

 

フランの、自身の吸血鬼の勘が、感じた。後ろになにかいる――

 

 

「あがッ!!」

 

 

フランの体が、地面に落下した。―――突然の出来事だ。突如後ろから感じた()の気配。振り返る前に攻撃されたのだ。地面に激突する際、魔理沙が地面に落下させられた時と同じ音が鳴り響いた。あの時と同じ要領で、フランの落下する部分だけ、完全に水気を取ったのだ。自らの体を覆い隠している土塊をどかし、羽を羽ばたかせ外から脱出する。

 

 

「な、なにが…?」

 

『わからぬか、小娘』

 

「お前…!」

 

 

自らの頭上、そこにはブラックウィザードラゴンは見下ろしていた。

 

 

「何をしたの!?」

 

『簡単な話。魔法を使えば一瞬にして別の場所へ移動することができる』

 

「ッ!?」

 

 

ブラックウィザードラゴンが供述したこと。それは簡単に言えばテレポートだ。ウィザードの魔法にもあるテレポート。ウィザードの力の源であるドラゴンが、それを使えてもおかしな話ではない。

 

 

『貴様は俺に勝つことはできない。まぁこれ()()()()がな。さて、そろそろ終わりにしよう』

 

 

ブラックウィザードラゴンの口に、漆黒の炎が充填されていく。先ほどの炎とは比べ物にならない、一回りも二回りも大きい炎だ。確実に、この一撃で仕留めるつもりだ。

 

 

「負けない…!絶対に!」

 

 

フランは全身に魔力を纏わせ、レーヴァテインを装備する。レーヴァテインではあれにあまりダメージを与えられないことは理解している。だが、相手は次の一撃で確実に仕留めにくる。だったらこっちもやってやると、自身の魔力を攻撃力、身体能力にすべてつぎ込んだ。フランは膝を曲げ、そして―――

 

 

「はぁあああああ!!!」

 

 

強靭な脚力で、ブラックウィザードラゴンに向かってジャンプした。それと同時に、漆黒の炎弾が放たれた。レーヴァテインを横に一閃!振るい!激突しあう!

 

 

「あぁあああああああ!!!!」

 

『足掻くがよい。足掻くか否かは、お前の自由だ』

 

 

フランはブラックウィザードラゴンの言葉など耳に入っていない。ただ、目の前の漆黒の炎弾を受けとめるばかりだ。

 

 

「はぁあああああ!!!」

 

 

この炎弾、絶対に押し切らせてはならない。この炎弾が地面に投下されれば、この図書館一体が炎の海になる。それに、今だ雷嵐の中に囚われている霊夢、そして今だに気絶しているのか、姿を現さない魔理沙。さらに今も気絶しているパチュリーと小悪魔。自分の失敗で、四人が犠牲になる。そんなことしたくない、させたくない―――!

 

 

「あぁあああああああ……!」

 

 

だが、元々ブラックウィザードによって体力などを削られていたフラン。本来の力を出せず、徐々に押し切られている。

 

 

『小娘。貴様になにができる?力は削られ本来の力を出せず、現に困窮状態。諦めたらどうだ?』

 

「嫌だッ!!」

 

『何故だ?貴様は吸血鬼故に再生能力がある。このくらいでは死なぬだろう』

 

「でも、二人が…!」

 

『たかが人間二人。しかも初対面だ。何故そこまでして助けようとする?』

 

 

そう。ブラックウィザードラゴンの言う通り、二人とフランは初対面だ。初対面の相手に、普通命を賭けてまで守る義理などない。

 

 

「助かったって言ってくれた!私の、破壊しか能がない能力でも、助けることができた!だから助けたいんだッ!」

 

(こころざし)は見事。だがそれを実現させるための力がない。今の貴様にそれはない。それでも、助けるか?』

 

「助けるっ!!何がなんでもっ!!!」

 

 

フランの、心からの、理性からの叫びが響いた。破壊の能力を助けるために使う。そのために、ここで引くワケにはいかない。だが、そのための力がない。今のフランに全力を出すことはできない。徐々に押し切られていくフラン。そのまま、黒炎に飲み込まれ―――

 

 

 

 

 

 

「よく言ったわね」

 

 

 

 

 

 

―――そうなとき、ありえない人物の声が聞こえた。その人物は、今も雷嵐の中に囚われていたはずの…

 

 

「おらっ!」

 

『なにッ!?』

 

「結界っ!」

 

 

その人物は、フランが抑えている炎弾を()()()()()()()()()。炎弾はそのまま形を保てなくなり、結界の中爆発する。そして、その人物は、フランを見る。

 

 

「時間稼ぎありがとうね」

 

「霊夢…!」

 

「おっと。私のことも忘れちゃ困るぜ」

 

「魔理沙…!」

 

 

その人物とは、霊夢のことだった。それと同時に、魔理沙も姿を現した。

 

 

「どうしてここに…?」

 

 

現に、今も雷嵐は発生しているままだ。

 

 

「簡単よ。まずね、私を拘束してた土を破壊した後、私の能力で切り刻まれる対象から「浮いて」その場から逃れたのよ。あれをそのまま残したのは私が脱出したのを悟られないため。それで、魔理沙を助けに行ったんだけど…」

 

 

霊夢は魔理沙を白い目で見る。

 

 

「おいおい。私は私で、ちゃんとやってたぜ。ちゃんとミニ八卦炉に魔力を溜めてたんだぜ?」

 

「そうじゃなくて、私は助けに行って損したって思ってんのよ」

 

「おいおい、そりゃあないぜ!」

 

「どういうこと?」

 

「こいつね、私が助けに言ったら、普通に返事してきたのよ?」

 

「私があの程度で気絶とかするわけないだろう?」

 

 

―――否。普通の人間であれば固い地面が陥没するほどの衝撃を受けたらタダでは済まない。

それを同意するかのように、

 

 

『普通の人間ならば、あれで死ぬところなのだがな…』

 

「おいおい。お前もか。この魔理沙様はそんな簡単に死ぬタマじゃないぜ」

 

「ていうかあんた、喋れたのね」

 

『無論。お主たちとは言葉を交わす理由がなかった故』

 

「でも今がっつり喋ってるじゃねぇか」

 

『それは、今は必要であると判断したまで』

 

「理由はわからないけど、喋れるってんなら話は早いわ。あんたをぶっ倒していろいろと聞かせてもらうわよ」

 

 

霊夢はお祓い棒を、ブラックウィザードラゴンに向けて、そう言い放つ。

 

 

『そのような戯言は結果を出してから言え』

 

「だったら、出させてもらうわ」

 

「いこうぜ、フラン!」

 

「うん!」

 

 

三人の目が、ブラックウィザードラゴンに釘付けになる。どちらが先に動くか、それが重要になってくるからだ。霊夢が動く―――

 

 

 

 

『――時間だ』

 

 

「え?」

 

「は?」

 

「どういうこと…?」

 

 

 

突如、ブラックウィザードラゴンがそう言った。「時間」。そう確かに言った。一体なんの時間が来たのか、不理解により、霊夢たちの思考は一時停止する。

 

 

『できれば、最後まで戦いたかった。だがそれもできぬ。もう時間だからな』

 

「おい!時間ってなんなんだよ!?」

 

『そのままの意味だ。貴様らはもう()くが良い』

 

 

三人の周りが、魔法陣によって阻まれる。実質的に閉じ込められた。そして、光が差す。

 

 

「な、なにを―――」

 

 

霊夢のその言葉は最後まで言われることなく、三人はその場から姿を消した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「で、気づいたらここにいたってわけ。そのときが、あんたが叫んでたときだったのよ」

 

霊夢の説明が終わり、場は静寂に包まれる。話を要約すれば、ブラックウィザードラゴンが霊夢たちをここに飛ばしたのだ。しかも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ち、ちなみにいつから…?」

 

「えーと、大切な妹辺りかしら?」

 

 

つまり、最初から聞かれていたということになる。その事実にレミリアは顔を赤くするが、すぐに元の顔色に戻った。

 

 

「それより、いろいろと確認したことがあるんだけど…。まず、あんた」

 

「なによ…?」

 

「それで、あんたがこの異変の首謀者?」

 

「え、えぇ…」

 

「そう。本来なら私が直々にぶっ飛ばしてやりたかったんだけど…。フラン」 

 

「うん」

 

 

フランは、ゆっくりと、レミリアの元に歩いていく。そして、お互いの顔が近づく。 

 

 

「お姉さま…」

 

「フラン…。どうして、ここに?それに、狂気は…」

 

「それなら、全部なくなっちゃった。私、なんとなくだけどわかるんだ」

 

「なくなったって…。感情がそんな簡単になくなる訳――」

 

「でも、私平気だよ?」

 

 

フランは、レミリアを心配する顔で、レミリアをずっと、曇りなく(まなこ)で見ていた。そして、レミリアもそのフランの表情が信じられないといった表情をしていた。自分の妹はずっと、ずっと狂気に(むしば)われていた。暗い顔の妹しか見たことない。狂気に染まった笑顔しか見たことがない。そんな妹が、今、自分の前で綺麗な笑顔をしているのだ。平常でいられるわけがない。

 

 

「フラン…。本当に、フラン?これは、幻?あいつに見せられてる、幻なの?」

 

「幻じゃないよ、お姉さま。本当に、ほんとの本当に、フランだよ。フランドール・スカーレット。お姉さまの妹だよ」

 

「フラン………フランっ!!!」

 

 

レミリアは涙を流しながらフランに抱き着いた。対してフランの対応のレミリアと同じだ。

 

 

「お姉さま、私ね、今まで、ずっとお姉さまは私のこと嫌いだから、閉じ込めてるって思ったの」

 

「そんなことあるわけないじゃない!ごめんなさい…ごめんなさいフランっ!」

 

 

お互いが涙を流し、抱き合っていた。

そんな慎ましい光景に、霊夢も魔理沙も、ただ傍観しているだけだ。二人も、この姉妹の仲直りに水を差すようなことはしなかった。お互い、気が済むまでやらせてあげようと、そう思っていた。―――。

 

 

 

パチ、パチ、パチ……

 

 

 

そんな静寂を破るかのように、拍手の音が響いた。一斉にその音の原因を見た。その拍手を鳴らしていたのは、やはりダークキバだ。ダークキバは今もなお拍手を続けている。そして、拍手の音が、終わった時…

 

 

 

『いいモノを、見せてもらった。とてもいい姉妹愛だった』

 

「あんた、空気読むことってできないワケ?―――ていうかさっきと声変わってない?」

 

「そうだぜ!あの霊夢でさえも空気読んでんだ!お前もちゃんと読めよ!」

 

「魔理沙、後でじっくりとOHANASHIしましょうか?」

 

 

魔理沙の発言が、霊夢の怒りに触れた。その後も今はそんなことをしている場合ではないと、ダークキバを見る。

 

 

「大丈夫よ。もう」

 

「うん。ありがとね」

 

「いいってことよ。それよりも、今は目の前のこいつよ」

 

 

霊夢はダークキバにお祓い棒とお札を向ける。戦闘態勢だ。他の三人もそれぞれの武器を持つ。

 

 

『お前たちと今回はもう戦うつもりはない。言っただろう。俺には目的がある、そして、この異変にようがあると』

 

「異変に…?ねぇ、あんたがこの異変起こしたのよね?」

 

「そうよ。あいつ、異変を起こした()じゃなくて、()()()()()()に用があるって言ってたわ」

 

「異変そのもの…?どういうことだぜ?」

 

「それは私にもわからない」

 

『まぁ、いいモノを見せてもらったお礼だ。俺も一つ見せてやろう…!」

 

 

ダークキバは、どこからか、()()()を取り出した。

それの色は白。本のような形をしており、成人男性の手に収まる程度の大きさのものだ。

 

 

「なに、それ…?」

 

「本…にしては小さすぎるぜ」

 

『見せてやろう』

 

 

ダークキバはその本を開き、空に掲げる。

―――そのときだった。

 

 

紅い空が、突如一か所に集まり始めた。

 

 

「紅い霧が…!」

 

「集まっていくのぜ!?」

 

 

紅い霧はやがてダークキバの真上に集まり、霧が肉眼で見えるほどの綺麗で小さな粒子状に変換される。その流離がすべて本に吸収されていき、やがて、本に『文字と色』そして―――『物語』が完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これで一つ、()()()()()()()()()()()ぞ…!!』

 

 

 

 

かつて、一匹の吸血鬼により、世界が紅く染まった…

 

 

 

その本―――【紅霧異変】…否、【東方紅魔郷】の【ワンダーライドブック】が完成した瞬間であった。

 

 

 

 




奪う…。それは略奪と言う行為。
異変を略奪した零夜…。彼の目的とは?

次回:執筆中。


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