東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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11 東方紅魔郷

―――世界に、空色が広がる。

至って普通のことだ。朝に空は空色になり、夜に黒くなる。これは一つの常識である。だが、今は違っていた。空は、紅く染まっていたのだ。そして、それは空に紅い霧が存在していたのが原因だ。そして、その原因であった空に蔓延していた紅い霧は、一冊の本に吸収されていった。

 

 

「異変を、奪ったですって…!?」

 

 

袖が無く、肩・腋の露出した赤い巫女と後頭部に結ばれた模様と縫い目入りの大きな赤いリボンを付けた少女、博麗霊夢が、驚愕の声を漏らした。彼女は、この【幻想郷】で異変を解決すると言うことを生業(なりわい)としている。そんな彼女の目の前で「異変」を奪われた。彼女が、いや、彼女でなくとも驚くだろう。事象そのものを奪われたのだから。

 

 

『あぁ、そうだ。この異変……呼称すれば、【紅霧異変】。きっちりともらった』

 

 

ダークキバは手に持った一冊の本。【東方紅魔郷ワンダーライドブック】を四人に見せた。

 

 

「それをどうするつもりだ!?」

 

『わざわざお前たちに言う必要もない。知りたければ八雲紫に聞け』

 

「なんであいつの名前が出てくるのよ?」

 

 

霊夢の疑問は当然だ。この場に関係のない名前が出てきたのだから。そして、その人物が相手の目的を知っているのか、と言う疑問から、霊夢の質問は来ている。

 

 

『千年前に、一度会ったことがあってなぁ。そのときに目的だけ教えてやった』

 

「へぇ。随分と律儀なのね」

 

『じゃないと不公平だろう?』

 

「お前から公平なんて言葉が出るのはなんだか遺憾だと私はなぜか思う」

 

 

魔理沙からの辛辣な言葉を、ダークキバは無視して続きを放す。

 

 

『まぁそういうこった。それじゃ、これからもよろしくな』

 

 

ダークキバの後ろに控えていたキャッスルドランの頭上に乗る。

 

 

「あ、まだ話は――!」

 

『お前にあっても俺はない。さらばだ』

 

 

キャッスルドランはゆっくりと、湖の中に沈んでいった―――。

二人はすぐさま湖に向かって走るが、すでに遅かった。

 

 

「逃げられた…!」

 

「どうする霊夢、追うか?」

 

「いいえ。追っても無駄よ」

 

「どうしてだ?」

 

「あいつが湖に入った瞬間、()()()()()()()()()()の」

 

「瞬間!?」

 

 

普通、水中に入ったとしても体は水の中にある。そのために気配などは感じられるはずだ。それに、気配があったのなら潜ってでも探しにいける。だが、気配が消えたのでは探しにはいけない。それに、この消え方も霊夢にとって不自然すぎた。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この周りを()()に例えて考えれば、一瞬にして()()の外側に移動してしまったようなものだ。

 

 

「まるで、その場から一瞬で消えたのよ」

 

「それって、私たちをここまで移動させたあの竜と同じようなことをしたんじゃないのか?」

 

「―――そう考えるのが、打倒ってことかしらね」

 

「なんだか釈然としない言い方だな」

 

「しょうがないでしょ、情報が足りなすぎるのよ」

 

 

そう言い、霊夢は青く光る空を見る。そこには毎日見ている太陽が出ていた。それを見届けた霊夢は、顔を下げる。

 

 

「さて、帰りましょうか」

 

「そうだな。あいつらは―――」

 

 

魔理沙はレミリアとフランを見る。二人は再び抱き合っていた。

 

 

「―――そのままにしとくか」

 

「えぇ。異変のことはあとでしっかりとOHANASHIしとくわ」

 

「それがなければいい終わり方だったんだがなぁ…」

 

「あんな訳の分からないヤツがいる時点でいいも悪いもないわよ」

 

「だな」

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

~時は進み、その日の夜~

 

 

 

――ワイワイガヤガヤ……――

 

 

 

博麗神社は、妖怪や人間で賑わっていた。この賑わいの原因は、宴会だ。

この宴会は異変が解決した際に、毎回恒例で行われるものだ。だが、今回は異変は解決したとは言えない。なにせ、奪われたのだから。

 

 

「…で、その仮面のヤツに、異変を奪われたのね」

 

「そう」

 

「傍から聞いたらなに言ってんだこいつって思うが、全部事実だぜ」

 

 

そして、場所は博麗神社の裏の縁側。そこでは二人の少女と女性がいた。

二人の少女は霊夢と魔理沙。そして、女性の特徴を上げるとすれば、長く伸びる金髪。紫にフリルのついたドレスを着用した美人だ。片手に紫の日傘を持っているのも、一つの特徴だ。

 

 

「それで、そいつのことを私が知っていると」

 

「あいつがそう言ってたぜ」

 

「それで、【紫】。なにか知らない?」

 

 

霊夢は、そう目の前の美人。【八雲紫】へと質問した。彼女は千年前に零夜と直接会い、目的も聞かされている。それが、今回と繋がったのだ。

 

 

「それで、その仮面の男の名前は?それが分からないと話は進まないわ」

 

「そうね。確か、【クロ】。そう名乗っていたわ」

 

「『クロ』…『仮面の戦士』…『千年前』…一つ、心当たりがあるわ」

 

 

そのとき、紫の表情は、美人が、いや、女性がしてはいけないような顔をしていた。その表情から、とてつもない怒りが露わにしていることは容易に想像できた。そして、その怒りに便乗して紫から妖力が漏れ出ている。

 

それをマジかに受け、霊夢と魔理沙の心臓の鼓動が早くなる。それは驚きと、圧倒的強者からによるプレッシャーからだ。

 

 

 

「ちょっと紫!どうしたの急に妖力なんて出して!ビックリしたじゃない!」

 

「本当にそうだぜ!」

 

「ッ!ご、ごめんなさい…。つい怒ってしまったわ」

 

「急にどうしたのよ?あんたがそんなに怒るだなんて」

 

「一体、あいつとはどういう関係なんだ?」

 

 

「……仮面の戦士。そして、そいつはクロと名乗った…。それで、目的は私が知っている。それだけでも、あいつしか浮かんでこないわ」

 

「それで、そいつは誰なのよ」

 

 

紫は一呼吸置き、その存在の名を語った。

 

 

 

 

「究極の闇」

 

 

「ッ!!!」

 

「究極の闇?それって「それって本当なの紫!?」うわぁ!」

 

 

 

魔理沙の発言を遮り、霊夢が大声を上げ紫に顔を近づける。

魔理沙はその霊夢の豹変ぶりに、理解ができていない。魔理沙は究極の闇について全く知らないようだ。

 

 

「おい、究極の闇ってなんなんだよ?」

 

「はぁ!?魔理沙あんた知らないの!?」

 

「おう。興味のないことは覚えないぜ」

 

「あんたねぇ…」

 

「私が説明するわ」

 

 

紫が、口を扇子で隠す。そして、語っていく。過去を―――。

 

 

「今から千年も昔の話よ。魔法の森で、一つの闘いが起きたの。それは後に『光闇(こうあん)大戦と呼ばれたものよ」

 

「光闇大戦?」

 

「そう。その光闇大戦は、幻想郷に甚大な被害をもたらしたわ。その痕跡も、今だ一部残っているほどよ」

 

「千年も経ってるのに、残ってるなんてすげぇな」

 

「舞台となったのは魔法の森。闘いの結果、半分以上の大地や草木が消滅し、近くにあった霧の湖もほぼ壊滅。攻撃が妖怪の山まで到達して、一部が山ごと抉れたの。その余波での被害者も少なくないわ。人里は直接的な被害はなかったけど、攻撃の衝撃波だけで歴代の博麗の巫女が管理していた人里を守る結界が破壊された。慧音が能力で人里を「隠して」くれたおかげで、人に被害はなかった。そして、竹林があるのは知っているかしら?」」

 

「あぁ知ってるぜ。でも一直線に竹が生えてなかったり、所々竹が生えてなかったりしてたな。通る度に、変だなって思ってたけど、もしかして…」

 

「えぇ。それも光闇大戦の影響。あそこからは二度と竹が生えてこなくなったわ」

 

「……聞くだけすげぇな。竹林にはそれ以外の被害はなかったのか?」

 

「あそこを使うのなんて、妹紅や兎妖怪くらいよ。それ以外は知らないわ。幻想郷のことはある程度私は把握しているし」

 

「だよな。それに妹紅は死んでも生き返るし、あんまり気に留めることねぇか」

 

「ほんと、不老不死って卑怯よねぇ…。………なんか話が変わってるんだけど」

 

 

そう。究極の闇の話をしているのに、いつの間にか竹林の話になっていた。

霊夢の指摘により、魔理沙はすぐに話を戻した。

 

 

「それで、その究極の闇はどうして闘ったんだ?」

 

「光の妖怪よ」

 

「光の妖怪?」

 

 

始めて聞く妖怪に、魔理沙は首を(かし)げた。

 

 

「あぁ、だから光闇大戦か」

 

「えぇ。そいつの名は【ゲレル・ユーベル】。一言でいえば最低のクズ野郎よ」

 

「うん。すげぇ分かりやすいけど分かりにくいぜ。もっと説明してくれ」

 

「あいつは、女を子供を産むためのだけの道具としてしか見ていなかったの。実際の犠牲者に話を聞いてみてけど、捕まったら最後、孕まさせるまで犯されたって話よ」

 

「ウゲェ…。なんだよその胸糞悪いヤツ!」

 

 

ゲレルの行った悪行の数々に、顔を(しか)める魔理沙。実際、ゲレルの行動はとても許されたものではない。それを聞いた魔理沙は嫌悪感を感じているのだ。

 

 

「他にも、あいつには奇妙で不明な部分があったんだけどね…」

 

「なんか言ったか?」

 

「いいえ、別に。話を続けるわね。当時、ゲレルは一人の妖怪と戦っていたの」

 

「妖怪?究極の闇は妖怪なの?」

 

「いいえ。それはまだ不確かでわからないわ。彼女は闇の妖怪で、ゲレルとは対極の存在だったわ」

 

「彼女…ってことは、そいつは女だよな?もしかして、そいつも…」

 

「実際そうなりかけたけど、そこに究極の闇が乱入したのよ」

 

 

 千年前、ゲレルがその闇の妖怪―――ルーミアを戦闘不能にしたときのことだ。

 そもそも、ルーミアの直接的な敗因はクウガとの対戦で負けたため、体力がほぼないに等しい状態だったためである。紫はそれも説明する。

 

 

「結局、自分の尻拭いをしにきただけじゃねぇのか?」

 

「まぁ極論すればそう思うわよね。でも、ルーミアは人喰い妖怪であると同時に、一歩能力の使い方を誤れば世界を破壊しかねない危険な存在でもあった。対して、対抗できたのが上位の存在である究極の闇。そして、対極の力を司っていたゲレルだった。そんな二人が、激突したの」

 

「それ…二人の闘いだけで幻想郷が滅びたりしなかったのか?」

 

「恐ろしいことを考えるわね…。でも、そう考えなかったことも否定はしないわ」

 

「考えてたのかよ…。お前は戦わなかったのか?」

 

「対極の存在同士、戦わせた方が楽でしょ?」

 

 

確かに、紫の言うことも一理ある。そのまま光を司るゲレルに対抗していたら、光特有の素早さに翻弄され、地道にダメージを与えて勝たれる…。あの男の性格上勝つためには手段を選ばないため、そういったこともやりそうだ。対して究極の闇であるクウガはそのとき始めて現れた存在。対策のしようがない。闇は次元にすら干渉する力。境界を操る能力と似たようなものなので、対策が難しいのだ。そんな危険な存在同士が潰しあっている。これ以上に最高のシチュエーションはないだろう。

 

 

「まぁそうだけどさ。ゲレルってやつは倒さなかったのか?そんな害虫さっさと倒した方が幻想郷のためになるだろ?」

 

「……もちろん、私だって動いたわよ。だけどね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からね…」

 

「は、どういうことだよ?」

 

「―――過ぎたことよ。さて、それでその後なんだけど、究極の闇はゲレルを倒した後、彼女を連れ去ったの」

 

「「は?」」

 

 

これには、魔理沙だけではなく、会話に参加していなかった霊夢でさえも素っ頓狂な声を上げた。紫の言っているいみが理解できない。

 

 

「彼女って、お前がさっき言った闇の妖怪だろ?連れ去られたのかよ!?」

 

「えぇ。彼女の行方はまだ分かってないわ。一体何のために連れ去られたのか、予測も交えると様々な考えが浮かんでね…」

 

「……まぁ、その予想を聞くのはまた今度にしとくわ。紫、続きお願い」

 

「なんで霊夢が仕切ってるのよ…。まぁいいけど」

 

「とにかく、究極の闇が残した爪痕は、まだまだたくさんあるのよ。いい例だと妖怪の山ね」

 

「確かに、闘いの巻き添え喰らって、仲間がお陀仏したんだろ?そりゃあいい思いしないよなぁ…。……今更だけどさ、魔法の森から妖怪の山って結構離れてるよな?そこまで届く射程範囲ってどれだけだよ」

 

「数百年くらいかけて埋め立てたんだけど、一部が一直線に(えぐ)れたからね。大変だったそうよ」

 

「そんなにかかったのかよ」

 

 

実際、妖怪の山の規模はデカい。そんな広い面積の山を一直線に抉られたのだ。抉られたときに闇の力で土は消滅し、一からまた埋め立てる必要が出てきたためのことであった。そこで、紫はまた気づく。話が変わっていたことに。

 

 

「―――話を戻すわね。それで、本みたいなもので異変を奪った。そして、ヤツの目的は、おそらく―――」

 

 

紫の口から語られる、あの時クウガから聞いた、目的を。

 

 

「世界の破壊」

 

「世界の破壊!?」

 

 

その単語を聞いた魔理沙は驚きのあまり立ち上がった。スケールのデカすぎる話だ。普通こんなことを聞いたことで誰も信用しないだろう。だが、相手が究極の闇であれば話は別だ。あれは、危険だ。

 

 

「それってヤバくねぇか!?」

 

「えぇ。千年も音沙汰がなかったから、もう諦めたのか、ただの脅しだったのかと思ってたけど…。異変が起きるのを待ってたのかしら?」

 

「それで、世界の破壊と異変を奪うことがなんの繋がりがあるんだ?」

 

「バカね。いい?この異変だけでも人間が体調を崩して、妖怪の力が上がったのよ。そんな異変を次々と奪われて、尚且つそれを一気に解放されたら――――。もう想像はつくでしょう?」

 

 

霊夢の話を聞いて、魔理沙の体が震える。

―――未来の話をしよう。今回の紅霧異変。そして未来に起こるであろう異変の数々。それがクウガに奪われていき、それを一気に解放すれば、簡単に言えば間違いなく世界が滅ぶ。異変はその名の通り異常な変事のことを指している。異常が重なり合えば、世界の均衡を揺るがしかねない事態になる。

 

 

「あぁ…。あいつがどれほどやべぇことしようとしてるのか、理解できたぜ」

 

「究極の闇は、代々の博麗の巫女に語り継がれてきたわ。そうでしょ、霊夢?」

 

「えぇ。私も先代に教えてもらったわ。当初は信じてなかったけど、未だに残る残状を見てからは、信じるしかなかったわ」

 

「結果として、一匹の害虫は消えた。けど安心できないことだってたくさんある。究極の闇がいい例よ」

 

 

紫の言葉を皮切りに、その場に沈黙が訪れる。

そして―――

 

 

「あー…今日はやめにしないか?」

 

 

魔理沙が突如そう言った。魔理沙は今までの空気を完璧に破壊するほどのことを、何食わぬ顔で言いのけたのだ。

 

 

「魔理沙…あなたねぇ」

 

「そうね。今は宴会の場。楽しまなきゃ損よ」

 

 

紫が魔理沙の行動に痺れを切らし、怒ろうとするが、魔理沙の考えを霊夢は肯定した。

 

 

「霊夢…」

 

「話ならまた後でしましょう。せっかくの宴会なんだから、私は楽しむわ」

 

「そうだなッ!いこうぜ霊夢!」

 

 

二人はそのまま宴会の場へと向かっていった。

 

 

「もぅ…。二人ったら…」

 

 

紫は呆れてモノも言えず、ただ座りつくしていた。

そして、突如紫の隣の空間が裂けた。

 

 

「…紫様」

 

「あら、藍」

 

 

その裂け目から現れたのは、金髪のショートボブに金色の瞳を持ち、その頭には角のように二本の尖がりを持つ帽子を被っており、服装は古代道教の法師が着ているような服で、ゆったりとした長袖ロングスカートの服に青い前掛けのような服を被せている。漢服のような中華風の服を着ており、腰からは金色の狐の尾が九つ、扇状に伸びている、身長の高い女性が現れた。その女性は紫に【藍】と呼ばれていた。

 

この女性は、八雲紫の式神である【八雲藍】だ。過去に究極の闇に奇襲を開けたが、謎の能力によって空間と固定されてた女性だ。

 

 

「ついに現れましたね。究極の闇が」

 

「そうね。――――一体、どうして世界を破壊しようとしているのかしら」

 

「それは私にもわかりかねます。相手の思考を読むなど悟り妖怪でなければ不可能です」

 

「そうよね。…どんな理由があろうとも、私の愛する幻想郷を壊そうというのなら、容赦はしないわ。究極の闇。それに、あいつはおそらく私たちの事を舐めているようだしね」

 

「……それはどういった理由からですか?」

 

「第一に、私の名前を挙げたことよ」

 

「…どういう意味で?」

 

 

藍には紫の言っている意味が理解できない。状況の整理をすれば、究極の闇は自らの目的を知っている紫に聞けを言っていた。そこで藍は理解した。紫がどこに怒っているのかを…

 

 

「自らの目的を、一番最初に明かした、という点ですか?」

 

 

つまり、藍の言っていることはこうだ。目的を明かす。それはある程度行動を予測させると言う行為に近い。本気で壊すつもりなら、情報漏洩などしないはずだ。つまり、情報漏洩はあえて行ったものであり、こちらに情報を与えることによって、自分たちがお前たちより上だ、と知らしめたようなものである。この推測で当たっているだろう、と確信を決めた藍。

 

 

「……それもあるけど、まだあるわ」

 

「他になにかあるのですか?」

 

 

だが、紫が気にしていたのはそこではなかった。では一体なんなのだろうと、藍は首をかしげる。

 

 

「実際、私の考えていることはあなたの言った通りよ。でも、その根拠がもう一つあるの」

 

「根拠ですか?」

 

「あいつ、偽名でヤミって名乗ったのよね。仮面の戦士、ヤミ、そして私。ここまでキーワードを出せば、誰なのか予測がつく。予測が付けるように、あえてその偽名を名乗った…と私は考えているわ」

 

「なるほど…」

 

 

紫の言う通り、彼がヤミと名乗り、その人物が仮面の戦士だったとなれば、究極の闇とのある程度の関連性は考えられる。しかも最後に紫に聞け、と言ったのだ。それは紫との関連性を示唆しているようなもの。それだけの条件が揃えば、例え情報が少なくとも究極の闇にたどり着く。

 

 

「あえてわかるようにそう名乗ってたんだわ。忌々しい…」

 

「そうですね」

 

 

藍は主人である紫の考えに肯定する。実際、藍も同じ考えだ。少し考えれば繋がるこの情報をあえて提示してきた究極の闇は、明らかにこちらを舐めているとしか思えないからだ。

 

 

「……ところで、紫様。彼女―――ルーミアのことをどう思っていますか?」

 

「……急ね。どうしたのかしら?」

 

 

急に第三者の存在を口にした藍に驚きつつも、その話を聞くことにした。

彼女は―――ルーミアは今も行方不明のままだ。その原因たる究極の闇が現れたのだから、考えればそれも不思議なことではない。

 

 

「しばらく気にしていませんでしが、究極の闇に連れ去られた彼女は、今一体どうしているのでしょうか?」

 

「……それについてはいろいろと考えたわ。それで、考えた最悪の結末があるんだけど、聞く?」

 

「……ぜひ、聞かせてください」

 

 

「ルーミアは闇の妖怪。そして、相手は究極の闇。声からして男。それで私が考えた最悪の結末。それは―――」

 

 

紫は一旦息を整えてから、その続きを口にした。

 

 

「―――無理やり犯されて、孕ませられているという結末よ」

 

「ッ……!!」

 

 

その紫の考えに、藍の心に動揺が走った。なにせ、それは聞かされた藍にとっても最悪の結末でしかない。子供と言うのは、両親の遺伝子を受け継いで産まれるものだ。どちらか片方が優れていれば、その方の遺伝子を濃く受け継ぐ。それが両方となれば、産まれる子供の脅威は計り知れない。なにせ両方が闇の力を持っているからだ。

 

これも予測の一つでしかないため、真実かは定かではない。

仮にそれが現実になって、脅威が一つ二つと増えていたら、もう洒落(しゃれ)にならない。

 

 

「……それは、最悪の結末ですね」

 

「これも、私の予想の一つでしかないんだけどね。それに、千年も経ってるんだからすでに遅いと思うわ」

 

「……それが現実だったとしたら、とても笑えませんね」

 

「えぇ。……究極の闇。あなたが一体何を考えているのかわからないけど、この世界を壊させたりはしないわ」

 

 

紫はゆっくりと顔をあげ、夜の大地を照らす月を見上げるのであった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――???――

 

 

 

「…クションッ!……風邪か?」

 

 

全身黒装束の男が、森の中を歩いていた。男は小さなクシャミをしながらも、歩みを止めることはない。

 

 

 

「………ここで、大丈夫か」

 

 

男は地面に尻をつき、背中を木に預けた。

そのとき、

 

 

「うッ…ゲホッゴホッ!!」

 

 

突如、男は咳をし、口を手で押さえた。

その手を口から放すと、掌には血が付着していた。そこから考えられるのはただ一つ。吐血したのだ。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

『やはりな』

 

 

森から、小さな蝙蝠が姿を現した。【キバットバットⅡ世】だ。

 

 

「蝙蝠もどき…」

 

『せめてキバットと呼べ。それより、俺の言った通りだっただろう。ファンガイアでもないお前が、俺の力を使うなど、無理がある』

 

 

そう、冷徹に、淡々と真実を述べていく。男――零夜はただそれを聞くだけだ。それが真実なのはわかっている。だからこそ、反論などできるはずがない。ダークキバは人間など資質がない者が変身しただけでも死亡してしまうため、変身するだけでもリスクが高すぎる。

 

 

「だから、それを能力で補ってるだろ…」

 

『さっきは解決していると言っていた癖にか?お前は実質ライダー擬きの力を使って補っているじゃないか。それで、『何体分』消費した?』

 

「……2~3体分だ」

 

『お前は本当に無理をする。今のお前は、()()()の能力でストックを『消費』して、生き長らえてる状態d――』

 

 

 瞬間、零夜の瞳がキバットⅡ世を睨んだ。

 

 

「その話はするな。不愉快だ」

 

『――そうだな。話を変えよう』

 

 

 キバットは零夜の肩に乗り、零夜の顔を見る。

 

 

『ところで、一つ気になっていた』

 

「なんだ?」

 

『なぜ、あの姉妹の仲にあそこまで介入した?』

 

「………なんのことかな?」

 

『嘘をつくな。ブラックウィザードラゴンにすら手回しをしていただろう』

 

 

キバットの疑問に零夜は惚けるが、嘘は通じるわけもなく、即座に見破られた。

キバットの質問は、スカーレット姉妹の仲にどうしてあそこまで介入したのかという内容だ。

零夜には彼女たちの中を取り繕う理由も意味もなかったはずだ。

 

 

『レミリア…と言ったか、あの小娘は。あの小娘の妹と、お前が『主人公』と認識している小娘二人。あれらが出てきたタイミングが小娘の叫んだ瞬間だったからな。それに、小娘があぁ叫ぶように、お前があの小娘の精神を誘導しただろう?』

 

 

キバットの推測は、ある程度当たっているのではと感じられた。事実霊夢たちは『大切な妹』という部分から聞いていたと言っていた。つまり最初からレミリアの本音を聞かせるために、ちょうど良いタイミングでテレポートを行ったのだろう、と、推測しているのだ。

 

 

「……それだけか?」

 

『無論。それだけではない。お前は姉妹の仲に関する言付けをしていただろう』

 

「………」

 

『先ほども言ったように、お前はあの小娘の本心を吐き出させただろう』

 

 

―――少し過去に戻ろう。零夜はレミリアにこう言っていた。『いい姉妹愛だ。それをずっと大切にしろ』と。それだけではなく、その前にはレミリアの本心を吐き出させるかのような、彼女の逆鱗に触れるような発言を多くしていた。キバットはその会話だけで、零夜の心情をある程度測ったのだ。

 

 

「―――本当に、お前は侮れねぇよ」

 

『つまり、認めるということだな』

 

「あぁ。お前の言う通りだ」

 

 

零夜は観念し、自身がスカーレット姉妹の仲を取り繕うために一芝居したことを認めた。

 

 

『何故あんなことをしたのだ?』

 

「別に、他意はねぇよ。ただ、強いて言うなら―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()。かな…」

 

 

零夜は切なさの残る声で呟きがなら、自分の頭上に輝かしく光る衛星を見上げた。

光が零夜の顔を指し、その顔には、哀愁が漂っていた。零夜はこの世界で家族を失っている。同意での運命であったとしても、涙を流すことのできない別れだったとしても、やはり家族と言う関係に溝が入るのを、捨ててはおけないのだろうか?

 

 

『…そうか。ちなみにだが、お前はあの時小娘に魔法を使用してただろう?あれはなにをしたんだ?』

 

「別に、あいつの狂気を封印しただけさ」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

シール プリーズッ!

 

 

 扉を締め切った後、ブラックウィザードは【シール】の魔法を行使した。

 この魔法は対象を封印する魔法だ。その魔法を使い、ブラックウィザードはフランの狂気を封印したのだ。

フランが狂気に囚われていなかった理由が、これである。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

『…理解した。……これ以上は追及しない』

 

「あぁ。そうしてくれ。お前も、ありがとうな」

 

 

零夜は、その場に物理的に存在しない存在に、お礼を言った。返事は返ってこなかった。

少し時間が過ぎ、零夜は懐からあるものを取り出した。

 

 

「にしても、これは何なんだろうな」

 

 

その『あるもの』とは、紅霧異変を奪った、【ワンダーライドブック】と言うデバイスだ。異変を奪った張本人が、奪う手段を疑問に思っているという矛盾が発生していた。

 

 

『俺も知らないな。また、新しく生まれたライダーの世界のものではないか?』

 

「…まぁ、そう考えるのが妥当か。……―――()()()は、これをどうやって持って来たのやら…」

 

『そうだな。()()()には謎が多い。お前にそいつを渡した際、()()()はこれを『すべてを(しる)す物』と言っていた。本が歴史や物語を記すのは当たり前のことなのだがな。なにせ、それが『本』だ』

 

「機能としてはライドウォッチみたいなもんか。……これで異変を奪えるなら、と、特に考えたことはなかったが…いざとなると不思議でしょうがない」

 

 

 ()()()に渡された通称【ブランクワンダーライドブック】。

 そのデバイスに様々なものを記すことによって、それを本として形成するのだろう。これが零夜が予想したこのデバイスの機能だ。例え、それが事象であったとしても。

 

 

「この調子で異変を奪って行けば、俺の目的も叶う」

 

『それで、お前の目的とは?』

 

 

「無論、世界の破壊

 

 

零夜は今までにない険しい顔で、そう言いのけた。その顔を何かで例えるなら、鬼、般若辺りだろうか?

 

 

『本気か?今のお前はまるでディケイドだ』

 

「なんとでも言え。俺のこの(こころざし)は千年で―――いや、最初から本物だったんだ。だから、誰にも邪魔させない」

 

『……いいだろう。俺は最後まで付き合おう。クイーンがいない世界に、意味はないからな』

 

「そこにファンガイアの、が入ってないが?」

 

『俺は()()()()()よりは出来てはないからな』

 

「そうだったな。―――さて、体も落ち着いたし、そろそろ行くか」

 

『最初から家に帰っていればよかったのではないか?』

 

「バカ野郎。それじゃ家が血で汚れるだろ」

 

『おっと、そうだったな。早く帰った方がいいのではないか?でないとお前の女が心配するぞ』

 

「誰が俺の女だ。ルーミアか?」

 

『逆に聞くが彼女以外に誰がいると言う?』

 

「もう一度言うぞ、バカ野郎。俺とルーミアはそんな関係じゃねぇつーの。ずっと一緒にいたお前も知ってるだろ?」

 

『そうか?あちら側は満更ではないと、俺は思っているが』

 

「揶揄うのはやめろ」

 

 

キバットの揶揄いを軽くあしらう零夜は、森の中に一つの光を見つけた。

それは、民家だ。森の中にあるのは、とてつもなく不自然な民家。

零夜はその民家の扉を開けた。

 

その扉が開く音を聞いてか、一つの足音が家の中で鳴る。

そして、そこから出てきたのは、一人の黄髪の美女。

 

 

「―――お帰り」

 

「ただいま」

 

 

 零夜は、捕虜(ルーミア)と、帰りの挨拶を交わしたのであった。

 

 

 

 




誤字脱字・感想お願いします。

究極の闇とゲレルとの闘いを、光闇大戦と名称づけました。
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