東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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13 剣と亡霊

――しんしんと雪が降る中、一人の男が歩いていた。

その男は全身黒ずくめの、なんともな怪しい恰好をしている男だ。そして、その男の手には、桜の花びらのようなものが丸まって集まっていた。

 

 

「……春度(しゅんど)は、これくらいでいいか。()()()をおびき寄せるのにはちょうどいい」

 

 

 その声は、綺麗な美声だ。思わず聞きほれてしまうほどの綺麗な男の声。彼の名は【夜神 零夜】。異変を奪う者だ。

 

 

「……情報だと、冥界の門は空にある。だったら…『重力からの切り離し』」

 

 

 零夜は、『繋ぎ離す程度の能力』を用いて重力と言う概念から離れた。解放されたのだ。それにより零夜は宙に浮いた。

 しばらく飛んで、自身の手に持つ塊が集まっていく場所を探していく。――そして、発見する。

 零夜の目の前には、とてつもなく大きな門があった。鉄でできた扉、そしてその扉の片方が半開きになっており、そこから自身の持っている塊と同じようなものが入り込んでいる。

 

 

「あそこか。すげぇ目立つな…。あの二人が追って来られないように塞ぐか?…そうしよう」

 

 

 零夜は門の中に入る。案外あっさりと通れた。そう思いながらも、零夜は扉を閉める。ここで、門を閉めると言うことはここに流れ込んでくる『春度』の流通を止めると言う行為だ。つまり、()()()が来る。

 

 

「まぁ()()()をおびき出す目的はただの朝練と同じようなもん。気にすることではないか」

 

 

 ()()()を誘き出す目的は、簡単に言えば肩慣らしだ。()()()は剣術に関してはかなり精通していると言ってもいいだろう。本人曰くまだ半人前だが、能力的も肩慣らしにちょうどいい。零夜は改めて、『設定』の知識に助けられていると実感する。

 

 

「『門の接合』」

 

 

 零夜は門の扉と扉を『繋ぎ』、開かなくした。空間ごと接合したので、そう簡単には開くことはない。帰るときはまた能力でもとに戻せばいいだけ。なんの問題もなく帰れる。それに、時間稼ぎにもなる。

 零夜は後ろを振り返り、目の前を見る。そこには階段があった。ずっとずっと、長い長い階段が。その先にも、その先にも、ずっとずっとずっとずっと。階段ばかりが続いていた。

 

 

「長ぇ…。まぁ飛べば問題ないんだが」

 

 

 零夜は再び宙に浮き、階段の先へと向かって行く。

 途中、階段の道を進んでいくごとに階段の両脇にあるかがり火と桜の木が目立っていた。桜の木から花びらが舞っており、とても美しく感じる。

 

 

「――外は冬なのに、ここだけ春なんて、ずるくねぇのかねぇ」

 

 

 彼の言葉に、返答はない。なにせただの独り言なのだから。

 

 

「――『物語』通りじゃ、そろそろなんだがな…」

 

 

 そうポツリと言葉にする。ちなみに、『物語』であればこの先に待ち構えているのは―――

――突如、なにかの音が聞こえてくる。それは、騒音なのどの騒がしい音ではない。どちらかと言うと綺麗な音だ。それも、進むほどに音も大きくなっていく。

 そして、その音の原因を、見つけた。

 

 

「――見つけた」

 

 

 零夜の前には、三人の少女がいた。

 最初の少女は、髪はほぼストレートの金髪のショートボブヘア。前髪は少し真ん中分け気味。 瞳は金色。少しツリ目気味のキリッとしつつパッチリした目つき。

 服装は、白のシャツの上から黒いベストのようなものを着用し、下は膝くらいまでの黒の巻きスカート。ベストに二つあるボタンは赤。スカートにも同じボタンが付いている。 ベストやスカートの裾には円や半円を棒で繋いだような赤い模様があしらっており、 円錐状で返しのある黒い帽子を被っている。 帽子の先には赤い三日月の飾りがついている少女。

 

 二人目の少女は、髪は薄い水色。全体的に強いウェーブがかかった、軽そうなふんわりした感じの髪質。 髪型は、右半分は特に手を加えず肩くらいまで下ろし、左半分は左後頭部辺りでアップにしてまとめる、といった左右非対称の特徴的な髪型のをもち、青い瞳をしている。

 服装は、薄いピンクのシャツの上にこれまた薄ピンクのベストのようなものを着て、薄ピンクのフレアスカートを履いている。 ベストは前面ボタン閉じタイプのもの。二つあるボタンは青で、ベストやスカートの裾にはランドルト環を二つ並べて棒で繋いだような形の、青い模様があしらってある。襟の淵にはフリルが付いている。

 ベストの裾、スカートの端、襟の淵フリル手前、帽子の返しの淵フリル手前には黒いライン付きであり、基本色は薄水色、薄桃色。ワンポイントで青。幻想郷を見渡してもかなり明るいカラーである。

円錐状で返しのあるピンクの帽子を被っており、返しの淵にはフリルが付いている。

帽子の頂点にある飾りは、太陽のような青い球体に青い円柱状の棒が何本か突き立っている物体だ。

 

 三人目の少女は、かなり薄い茶色の髪。 毛先に行くに従って強い内巻きの癖がついており、少しふわっとした毛質のショートヘアである。 瞳の色は薄茶色。

服装は、白のシャツに赤のベストのようなものを着て、下は姉達と違い赤いキュロットを着用している。二つあるボタンは緑。三人の中では唯一、胸元を第一ボタン上まで開けている。

 ベストやキュロットの裾には白い模様があり、返しのある赤い円錐状の帽子を被っている。帽子の飾りは緑の星が飾られてある。

 

 この三人の少女はどことなく顔が似ており、姉妹なのではないだろうかと思うほどだ。―――実際『設定』では姉妹なのだが―――そしてその姉妹の周りには、楽器が浮いていた。しかも、楽器は引かれていた。音が響いているのだ。

 三人の少女は零夜が自身の演奏を耳にしていることに気付く。

 

 

「…あなた、誰?」

 

 

 金髪の少女が、零夜に問いかけた。

 

 

「この先に、用がある」

 

 

 零夜は包み隠さず目的を話した。情報漏洩を気にすることはない。なにせ、彼女らに話しても何の問題もないことは『知っている』から。

 

 

「へぇ…」

 

「お兄さん、この先に何の用なの?」

 

「…外で、冬が明けない異変が起きている。その対処だ」

 

「つまり、異変の解決をしに来たってことね」

 

 

 金髪の少女の対応は冷たいが、水色と茶髪の少女は零夜に友好的に接していた。

 

 

「――あぁ。それで、足止めするか?」

 

「いやいや、私たちはそんなことしないよ。管轄外だからね。私たちはここの主人に呼ばれて演奏しにきただけだから」

 

「そうそう。だから、お兄さんと戦うことはないよ」

 

「私たちは依頼をこなすだけだから」

 

 

 意外にも、彼女たちは零夜を止めることはなかった。それは零夜にとっても予想外のことであり、嬉しい誤算でもある。無駄な戦いをしなくて済むからだ。

 

 

「意外だな。雇い主を倒そうとする奴をそのまま見逃すなんてな」

 

「まぁ、本来ならあなたのような雑音は退治するんだけど――ッ」

 

「姉さん?」

 

「どうしたの?」

 

 

 二人の反応からして、金髪の少女が姉の立ち位置にいるのだろう。あまり言葉に出さないが、三人の中で唯一零夜を警戒している人物でもある。

 

 

「――如何(いかん)せん、相手が悪すぎるからね…」

 

 

 彼女の発言で、零夜は完全に理解した。彼女は、零夜の正体に気付いている。自身が、【究極の闇】だと言う事実に。他の二人は性格が明るく、人を疑うことをあまりしていないように思える。だが、彼女の性格は暗い。それ故に相手を警戒するのだ。警戒して、状況を整理する。

 まず、ここにいる時点で普通の者ではない。それに、【究極の闇】は異変を奪う者。異変が起きた場所に現れないはずがない。その情報から、彼女は零夜のことを【究極の闇】だと思っているのだ。そして、彼女の考えは正解だ。

 

 

「姉さん、この人知ってるの?」

 

「――知らない方がいいこともあるわよ。【メルラン】」

 

「なんで?せっかくだから教えてよ」

 

「【リリカ】…。私たち、まだ死にたくないでしょう?」

 

 

 どうやら、下の妹の名前は【メルラン】と【リリカ】と言うらしい。だが、零夜は()()()()()()()()。なぜなら、()()()()から。

 そして、彼女の恐怖が混ざった発言に、二人は困惑する。

 

 

「…それ、どういう意味?お兄さんが私たちのこと殺すって言ってるの?」

 

「まさかー。そんなに力感じないし。せいぜい魂がおかしいくらいでしょ」

 

「まぁ、確かにそうだね。目立つところがあるとすれば、魂がおかしいね」

 

「魂がおかしい?」

 

 

 二人から変な発言を聞き、考えもせず聞いてしまった零夜。魂がおかしいとはどういう意味なのだろうか?

 

 

「うん。なんか本当に変だよ、お兄さんの魂」

 

「私たち、霊だから分かるよ。お兄さんの魂は、異質」

 

「…あなたのような魂は、初めてみた」

 

 

 三人の指摘を受け、零夜は軽くショックを受ける。まさかそんなところがあったとは、思いもしなかった。その魂の異質さが、何を指摘しているのかが気になる。それで零夜は続いて質問をする―――。

 

 

「はッ!!」

 

 

 突如、声が聞こえた。その声は、零夜のモノでもない。そして、零夜の目の前にいる三人の声でもない。これは、真上から聞こえた。

 

 

「ッ!」

 

 

 零夜はすぐさまその場から離れた。それと同時に、零夜の立っていた場所が抉れた。石でできた道が壊れ、小石が散乱する。

 足に力を入れ、地面に踏ん張る。やがて勢いは止まり、零夜は攻撃が来た場所を見る。

 

 

「……侵入者、どうやってここまできた?」

 

 

 そこには銀色・白色の髪をボブカットにし、黒いリボンを付けている少女がいた。

眼の色は暗めの灰色~青緑色。人間に比べて肌は白い。白いシャツに青緑色のベストを着ており、下半身は短めの動きやすいスカートからドロワーズが覗いていて、白靴下に黒い靴か草履を着用し、胸元には黒い蝶ネクタイを付けている。ベストやスカートには霊魂を模した柄が描かれている。

そして、【半霊】と言う半身を、隣に添えていた。

 

 その少女は空を飛び、その両手には二本の刀を持っていた。特徴としては、一本は長く、もう一本は長刀と短刀の中間辺りの大きさの刀を持っていた。

 

 

「挨拶代わりに攻撃たぁすげぇご挨拶だな」

 

「黙れ。……【ルナサ】さん。どういうことですか?」

 

「――向かう途中に出会ったのよ。私たちは知らない」

 

 

 先ほど話してた金髪の少女、名はルナサと言うらしい。ルナサは細い目で乱入してきた少女を見続け、少女は睨む。―――その冷たい戦いは10秒ほどで終わった。

 

 

「分かりました。どうやらこの侵入者に関しては、あなたたちは関わってないようですね」

 

「分かればいいのよ」

 

 

少女の方から負けを認めた。少女は出来る限り情報を整理し、述べた。それは当たっており、ルナサから肯定の言葉が返ってくる。

 

 

「それで、あなたはどうしてここに?普段は頂上付近で待機してるのに」

 

「春度の供給が途絶えたので、様子を見に来てみたら…案の定でしたよ。あなたは―――いえ、聞くまでもありません。斬ればいいだけです!」

 

 

 少女は刀を振り回し、飛ぶ斬撃に似た弾幕を零夜に放つ。弾幕を避けるために再び移動をする零夜。砂ぼこりが舞い、零夜の体が隠れ、それが晴れると―――、零夜の腰に、瞳のようなドライバーが出現した。

 彼女も、いつの間にか零夜の腰に謎のものが装着されていたことに、疑問に思ったのか質問をした。

 

 

「――なんですか、それは?あの一瞬でそんなもの付ける余裕があるとは―――。舐めているんですか?」

 

「チッ、短気な野郎が。勝手に拡大解釈しやがって」

 

 

 零夜にとっては戦闘準備なのだが、彼女にはそんなものをつけている余裕があるのだと、逆に苛立たせる行為になっていたらしい。

 零夜は愚痴った後、いつの間にか手にしていた目玉のようなものを持っていた。持っている親指でボタンのような物を押し、瞳にマークのようなものが現れる。それをドライバーのカバーを開き、中に装着し、カバーを閉じる。すると、瞳からパーカーが出現する。

 

 

アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!

 

 

 独特な音声が響き、空中で今も、生きているようなパーカー―――【パーカーゴースト】が零夜を中心に踊りまわる。

 パーカーゴーストを見た、周囲の反応は独特だった。

 

 

「なんですか、あれは…?半霊と同じようなものを感じる…」

 

「お姉ちゃん、あれ、なに?」

 

「魂のようなものを感じるよ?」

 

「私に聞かれても…。とにかく、ここは危険。離れるよ!」

 

 

 様々な考えの中、ルナサは逃げることを選択していた。だが、彼女の行動は決して間違ってなどない。彼女の行動は正しい。それだけは間違いなく言えることだ。なにせここは今から――激戦区と化すのだから。

 ルナサの言う通り、他の二人もその場から離れていき、その場所には二人だけとなる。そして、レバーを引いて、押した。

 

 

カイガン! ダークライダー! 闇の力! 悪い奴ら!  

 

 

「姿が変わったッ…!?」

 

 

 零夜は、白と黒を基準とした、複眼が燃える炎のような形状をしている姿、【仮面ライダーダークゴースト】へと姿を変えた。

 そして、突如姿を変えたことに驚愕の表情を露わにしていた彼女は、時間が経つにつれて、納得と怒りの表情へと変わった。

 

 

「そうか…。貴様、見たときから魂が異質だ。と、いうことは――お前が『究極の闇』だな?」

 

『お前もそれを言うか。まぁ、いい。そうだ。俺が究極の闇。俺の判定基準は何なんだか―――』

 

 

 ダークゴーストが言葉を言い終わる前に、彼女は接近し、剣を振るう。

 咄嗟にダークゴーストは【ゴーストドライバー】から【ガンガンセイバー】を召喚し、剣を打ち合う。

 

 

『いきなり斬りかかってくるたぁとんだご挨拶だなぁ…【魂魄妖夢】ゥゥ……!!』

 

「貴様…私のことを知っているのか!?」

 

 

 彼女――【魂魄妖夢】は驚愕していた。なにせ名乗ってもいない相手に自分の名前を言われたからだ。それはある意味恐怖と言ってもいいだろう。初対面の相手に自分の名前を知られていることは、恐怖でしかない。例外として、有名人と言う者もいるが、魂魄妖夢自身はそこまで有名になったわけでもないことは自分でも分かっていた。故に、彼女はどうして目の前の存在が自分の名前を知っているのかが理解できない。

 

 

「どうして、私の名を…!?」

 

『予習復習は基本中の基本だろ?お前のことはあらかじめ調べておいた』

 

「くッ!」

 

 

 妖夢はもう片方の短剣――【白楼剣】を逆さに持ちダークゴーストに振りかざす。ダークゴーストはすかさずもう片方の腕で受け止め、ガンガンセイバーを持つ手に力を入れ、妖夢を力で押し、妖夢は後ずさる。

 

 

『その程度か?』

 

「そんなわけないだろう!」

 

 

 妖夢は剣を振り、弾幕を放つ。

 ダークゴーストはそれに対応するために空を飛び、迫りくる弾幕をガンガンセイバーで対応する。

 

 

「空を飛ぶか!」

 

 

 妖夢も空を飛び、お互いの顔が真正面になる。

 

 

「技量はなかなか…。流石は世界を壊すと言っただけはありますね…」

 

『半人前に言われても嬉しくないがな』

 

「―――ッ、どこまでも癪に触る…!」

 

 

 妖夢は怒り、一枚のカードを取り出す。

 

 

餓王剣「餓鬼十王の報い」

 

 

 妖夢はスペルカードを唱えると、刀を振るい、横一文字が飛ぶ斬撃兼弾幕として発動し、ダークゴーストを襲う。

 ダークゴーストはすかさず避ける―――が、その次の瞬間。

 

 

『ッ!』

 

 

 ダークゴーストは、背中に痛みを感じた。すぐさまその部分を見てみると、そこからは煙が舞い上がっていた。後ろを確認するが、そこには誰もいない。それは不自然だ。ダークゴーストは360度周りを確認する。すると、気づいたことがあった。すでに遅かった。なにせ、自身の周りに弾幕が展開されていたから。その弾幕は一斉に、一直線にダークゴーストへと直撃し、煙が舞う。

 

 

「……やりましたかね?」

 

 

 妖夢は煙の中は何も見えない。だが、自身の中で今発動したスペルカードは強力なカードの一枚。やられなかったとしても、無傷では避けられない――――

 

 

『なるほど、良い攻撃だった』

 

「ッ!」

 

 

 瞬間、煙が一瞬にして晴れる。こんな晴れ方は自然ではない。つまり故意。

 妖夢は何事かと、ダークゴーストの方を見る。そこには、見た目の変わったダークゴーストがいたのだ。

 

 

カイガン! ムサシ! 決闘!ズバット!超剣豪!

 

 

 その見た目は、顔が二本の刀が重なりあい、見た目は赤、鉢巻きや襷といった和風な外見となっていた。

 当然、見た目の変わったダークゴーストに、妖夢は困惑する。だが、妖夢が驚いたのは見た目じゃない。その中身の方だ。

 

 

「それは…!?どうして…!?【宮本武蔵】の魂!?」

 

 

 妖夢は、半人半霊だ。これは人間と幽霊のハーフであるが、人間と幽霊の間の子と言うワケではない。これは半人半霊体質の種族と言う意味である。

 故に妖夢は、ある程度の魂の判別ができる。そして、それが後の未来に語り継がれるほどの偉人とあれば尚更だ。

 ダークゴーストの体からは、その武蔵の魂を感じる。つまり、今武蔵の魂は、ダークゴースト(究極の闇)の手中にあるということを現していた。

 

 

『へぇ…分かるんだ』

 

「当たり前だッ!宮本武蔵は数々の功績を残したまさに偉人!そのような人物の魂を、何故お前が持っている!?」

 

『持ってるから。理由はこれで十分だ』

 

「貴様――――ッ!!」

 

 

 妖夢は怒り、ダークゴーストに突撃する。

 その間にダークゴーストはガンガンセイバーの上部ブレードを取り外し、収納されていたグリップを展開した小刀へと変形し、妖夢の刀と交える。

 

 

「二刀流…!」

 

『武蔵と言えば二刀流。よかったなぁ、憧れの武蔵さんと剣を交えられるぞ?』

 

「ッ!!貴様など武蔵ではない!」

 

 

 今の一言が妖夢の琴線に触れたのか、刀の振りを激しくする。

 そんな間にも、ダークゴーストはガンガンセイバーの【エナジーアイクレスト】をドライバーにかざす行為、【アイコンタクト】をする。

 

 

『遅い』

 

 

ダイカイガン!オメガスラッシュ!

 

 

「なッ!」

 

 

 ダークゴーストは妖夢の攻撃を難なく躱し、いなし、やがて、妖夢の体に攻撃が到達した。

 斬られたことにより、妖夢の体からは血しぶきが舞う。

 

 

「がッ…!」

 

『…………』

 

 

 妖夢は膝をつき、追撃のチャンスだった。が、何故かダークゴーストは後ろに下がった。あそこで追撃していれば、すぐに勝てただろう。斬られた妖夢自身、その自信があった。それなのに、なぜダークゴーストは攻撃してこなかったのか?

 

 

「どうして…追撃しない?」

 

 

 妖夢は斬られた部分を手で押さえる。少しの止血にしかならないが、やらないよりはマシだ。

 ダークゴーストは、しばらく無言を通し、仮面で隠れた口を開いた。

 

 

『少し、趣向を変える』

 

「…は?」

 

 

 その発言は、妖夢にとって予想外のものであった。

 ダークゴーストはドライバーのカバーを外し、どこからか【黄色い瞳】のようなものを取り出す。それを赤い瞳と取り換え、カバーを閉じ、レバーを引いて押す。

 

 

カイガン! エジソン! エレキ!ヒラメキ!発明王!

 

 

 ダークゴーストは黄色のパーカーを纏い、マスク部分と肩パッドは電球モチーフの装備、白衣をイメージした銀色、頭部には2本のアンテナを持つ姿となった。

 ダークゴーストはガンガンセイバーのブレードを前後に入れ替えて元に戻し、グリップ部分を傾ける。

 

 

「今度は一体…!?」

 

『エジソンだよ!』

 

 

 ダークゴーストはガンガンセイバーのトリガーを引き、電撃の弾を連射する。

 妖夢は刀で電撃を牽制し、ダークゴーストへと接近する。

 

 

「(あれはおそらく遠距離攻撃系!近づけば!)」

 

 

 妖夢はダークゴーストが銃ばかり使っていることから、そう判断したのだ

 そして、一枚のスペルカードを取り出し、発動する。

 

 

獄神剣「業風神閃斬」

 

 

 妖夢は駆けると同時に、青く光る巨大な弾幕を多数に(わた)ってダークゴーストへと放っていく。

 ダークゴーストはそれを見ると、ガンガンセイバーを【アイコンタクト】する。

 

 

ダイカイガン!オメガシュート!

 

 

 ガンガンセイバーの銃口に、電撃が溜まっていく。やがてそれは球体となり、バチバチと電気特有の音が鳴る。ガンガンセイバーのトリガーを引くと同時に、弾が発射され、青い弾幕へと直撃する。

 

――その瞬間、赤い弾幕が全方位に広がった

 

 

「かかりましたねッ!」

 

 

 妖夢がそう言う。本来、この弾幕の本質は、分裂にある。本来の発動方法は、先ほどのように青い巨大な弾幕を展開し、それを自らが斬る。巨大な青い弾幕は小さい赤い弾幕に無数に分裂し、全方位へと降り注ぐ…と言うスペカだった。

 本来自らが斬る弾幕を、相手が壊しても発動する必殺技。なにせ青い弾幕を壊せば発動するのだ。わざわざ自分で壊す必要もなかった。

 

ダークゴーストに無数の赤い弾幕が降り注ぐ――

 

 

カイガン! ロビン・フッド! ハロー!アロー!森で会おう!

 

ダイカイガン!オメガストライク!

 

ダイカイガン! ロビン・フッド! オメガドライブ!

 

 

 

――瞬間、緑の矢によってすべての弾幕が破壊された。

 

 

「何が…!?」

 

 

 弾幕破壊により煙が舞う。妖夢は目の前を見て精神を集中する。

 

 

「(必ずどこかにいる…!見た目からして矢だった。つまり今奴が装備しているのは弓矢!だが、弓は連発が効かないのが難点なはずなのに…。いや、今はそんなこと考えている暇はない!)」

 

 

 不意打ちを避けるために、妖夢は全方位を警戒する。そのために自身の周りに弾幕を展開し、発射する。

 煙が晴れていく。そして、そこには――

 

 

「なッ…!?」

 

 

 無数の、緑色のパーカーを着たダークゴーストが、妖夢の目の前にいた。

 それを見て、妖夢の中で先ほどの攻撃の謎が解けた。連射の効かない弓矢で、どうしてすべての弾幕を破壊できたのか。それは分裂していたからだ。一体一体が攻撃することで、実質的な連射を可能としていたのだ。

 

 

『『『『『ダイカイガン!オメガストライク!』』』』』

 

 

 ダークゴーストたちが一斉に必殺技を放つ。

 複数の緑色の矢が一点集中し、妖夢の胸の中心に直撃しようとする。

 妖夢は刀をクロスさせ、その矢を防ぐ。

 

 

「う、ぐ、ギグゥ…!!」

 

 

 流石に複数の技を一点集中した攻撃はダテではなく、それ相応の勢い、威力が存在していた。妖夢は出来るだけ早くこの攻撃をどこでもいい、跳ね返せねばならない。なにせ相手は自分が防ぎきるまで待ってくれない。待ってくれるわけがない。それ故に、早く、早く、早く―――!!

 

 

カイガン! ニュートン! リンゴが落下!引き寄せまっか!

 

 

――瞬間、妖夢の体が引き寄せられる。

 その謎の力に、妖夢は困惑する。抑えていた矢も、謎の力によって消滅した。妖夢はワケが分からないまま、目の前の敵を見る。

 一目で分かった。ダークゴーストはまた姿が変わっていた。今度は水色のパーカーを着たダークゴーストが両手にある球体のようなものの左手を妖夢に突き出していた。

 ワケが分からぬまま、妖夢はダークゴーストへと引っ張られていき―――。

 

 

ダイカイガン! ニュートン! オメガドライブ!

 

 

 ――右側の腕を突き立て、妖夢の腹に直撃させる。

 すると今度は引き寄せられるのではなく、その逆、跳ね返されたような感覚――と言うより、実際に体が跳ね返された。

 妖夢の跳ね返された体はそのまま空を切り、桜の木をなぎ倒しながら一直線に突き進む―――時、再び体が引っ張られる。

 妖夢の体はすでに中身がボロボロだ。なにせ先ほどの攻撃と言い、現在の引き寄せては攻撃による跳ね返しが行われたから。骨には相当なダメージがあるはずだ。これが続けられることはつまり、『残機の消滅』を意味している。

 やがて、桜の木の群衆を抜け、広い階段―――先ほどの場所に戻って来る。このまま次の攻撃が来ると思われたが、途中で引力が停止した。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ…!」

 

 

 妖夢は刀を棒替わりにして震える足を無理やり立たせる。

 その間にも、ダークゴーストの周りに茶色のパーカーゴーストが浮遊しており、ダークゴーストに被さった。

 

 

カイガン! ビリー・ザ・キッド! 百発!百中!ズキューン!バキューン

 

 

 ダークゴーストは【ガンガンセイバー・ガンモード】と【バットクロック】を装備し、妖夢に向かってトリガーを引く。

 

 

「くッ!」

 

 

 刀を用いて、自らに迫る弾丸を弾く。反動で手が痛い、が、ここで我慢しなければこの大量の殺意しか感じない弾を捌くことなど不可能だ。

 だが、無理やり体を動かすと言う行為は、危険極まりない。なにせすでに大量の外傷を負っている中で動くと言うことは、血の流れを加速させ、出血量をさらに多くする行為だ。

 しかし、彼女は『設定上』半人半霊。人間としての体の作りも半分だけだろう。半分は霊だとしても、半分は人間だ。十分に死ぬ可能性は否定できない。

 

 そして、今の間にもダークゴーストによる連射が続き――。

 

 

ダイカイガン! ビリー・ザ・キッド! オメガドライブ!

 

 

 ドライバーのレバーを押引(おしひき)する。同時にエネルギーの補充音のような音が二つの武器から聞こえると同時に、連射速度が上がる。

 

 

「なッ!?」

 

 

 急な速度上昇に対応しきれず、妖夢の服が、肌が徐々に傷ついていく。それでも、少しでも負担を減らすために抗う、抗い続ける。が、当然半分は人間なため、必ず疲弊の時がくる。

 

 

「…ッ!」

 

 

 いなした弾丸が、彼女の腕にかする。血が飛び、痛みに耐える。それが、油断だった。

 それと同時に弾丸の雨が止まったのだ。何事かと赤色に染まりかける景色の目の前には、自分に向けて銃を構えている姿があった。

 

 ダークゴーストは【ガンガンセイバー】と【バットクロック】を合体させた【ライフルモード】の銃口を、妖夢に向けていた。

 それと同時に出現させた目の紋章を模したスコープで狙いを付け、エネルギーを込める。

 複数の蝙蝠のエフェクトが現れ、時計が時を刻む音が聞こえる。

 

 

「お前は…お前は恥ずかしくないのか!!」

 

 

 突如、妖夢はそう叫んだ。意味のない叫びだ。なにせこれが一種の説得だったとしても、ダークゴーストは撃つ。必ず撃つ。だが、妖夢にそのような意図はない。彼女はただ、心の中にたまっていた感情を噴出しただけなのだ。

 

 

「お前の使っている力は、過去に人に感謝されたり!または来世に名を遺すほどの偉業を成し遂げた英雄!そんな人物たちの力を、このような悪行に使って!偉人たちに失礼だとは思わないのか!?」

 

『……………』

 

 

 ダークゴーストは答えない。答えるはずがない。

 

 

「そしてお前の魂は異質だ!今まで見たことのない、()()()()()()ような魂!命の冒涜者よ!この一撃に、私のすべてを賭ける!」

 

 

六道剣(ろくどうけん)一念無量劫(いちねんむりょうごう)

 

 

 妖夢は自分の周りに八芒星の形をした斬撃を繰り出し、その剣閃から楔弾が放たれる。

 この技には欠点があり、弾の速度が一瞬早くなるのだが、逆に『一瞬過ぎて集中が保てない』と言う点だ。

 その一瞬の速さを活かして直接斬りつけにくると、その一撃を外したときの隙が大きくなるため、その欠点を補うために、 自分の周囲を斬りつけることで隙を消しているのだ。

 

 だが、対してダークゴーストの技は、スコープで狙いをつける一点集中系の技。弾幕ごと貫通されればそこですべてが終わる。つまり、賭けに出ているのだ、妖夢は。

 そして―――トリガーが引かれた。

 

 光線にも似た弾は、小型の弾幕を破壊し、貫通し、要となっている斬撃へと到達する。

 電気の音と似た音が響き合い、ガラスが割れるような感じの不快な音が響く。そして―――

 

 

「あっ…」

 

 

 斬撃が霧散し、銃弾が妖夢に向かって行く。

 

 

「(……申しわけありません。()()。私は、一度死ぬそうです…)」

 

 

 妖夢は最早諦め、ただ銃弾が貫通するのを待っていた。

 弾が、貫通する――――。

 

 

 

時符「ザ・ワールド」

 

 

 

―――瞬間、時間が止まり―――時間が動く。

 弾が桜の木を貫通していく。妖夢がいない。あの場から消えた?移動した?否、移動させられた。

 

 

『……時の停止…。こんなこと出来んのは、お前だけだ。【十六夜咲夜】』

 

 

 ダークゴーストが違う方向を向くと、そこにはいつか見た、銀髪の美女。銀髪の美女――【十六夜咲夜】が、ナイフを片手で構え、その片方には妖夢を担いでいた。

 咲夜はそのまま頭上を見る。

 

 

「今よ!」

 

「えぇ!」

 

「任されたぜ!」

 

 

 瞬間、輝く陰陽玉と、七色の極太レーザーがダークゴーストに向かって発射された。

 ダークゴーストはすぐさま浮遊すると同時に、地面に弾を連続で撃つことによって反射を利用し移動速度を上げる。

 

 

『何故、お前たちがここに―――!』

 

 

 ダークゴーストは憤怒の混じった声で、そう目の前の人物に言う。

 確実に足止めしていたはずだ。門を閉じ、入ってこられないよう、外界から完全に遮断していたはず。それなのに、何故、何故―――!

 

 

「あんたの悪事、止めに来たわ。ついでに異変も解決する!」

 

「覚悟しやがれ!」

 

 

 そこには、博麗霊夢と、霧雨魔理沙が、各々の武器を持ち、佇んでいた―――!

 

 

 






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