3日でクリアして、その後タイムアタックに挑戦していたらこんなに時間が過ぎていて……。
ともかく!悪正記17話、お楽しみください!
2021/3/24 後半を変えました。
―――ドクドク、ドクドク、ドクドクと、赤黒いものが、人の体から流れる。
ジワジワ、ジワジワ、ジワジワと、体から体温が奪われていく。
クラクラ、クラクラ、クラクラと、意識が遠のいていく。
「紫殿!!藍殿!!お二方を離せ!下郎ォォオオ!」
そう叫び、憤慨するのは胸に
女性は両手に短刀と長剣の二本の刀を持ち、一気に振り下ろす。
斬撃が飛び、男へと向かって行く。
その斬撃が、突如現れた石の壁に阻まれる。
「急に危ないじゃないか」
「黙れ!御二方を離せ!」
「別にいいよ。これ荷物だったし」
そう語った後、男は潔く二人を投げ捨てる。
「大丈夫ですか!?」
美女―――レイラは男への警戒を怠らずに即座に二人の元へと駆け寄る。
近づいてもなにもない。どうやら罠などはないようだ。
「どうすれば…!私の能力は治療に向かない…!」
『おい!シロ!』
今まで傍観していたフィフティーンが、男へと駆け寄る。
どうやら男は【シロ】と言うようだ。おそらく服が白いからシロなのだろう。とても安直で、偽名だと言うことがすぐにわかる。
フィフティーンはシロに駆け寄りシロの襟を掴む。
『出しゃばってきやがって…!!
「まぁまぁ落ち着きなよ」
突如出てきたシロに、フィフティーンは憤怒する。
どうやら意味不明なことが怒りの原因らしく、なにが原因で怒っているのかが分からない。だが一つわかることは、フィフティーン――零夜はシロの登場が予想外で、それに怒っていると言うことのみ。
「なくなったらまた補充すればいいだけじゃないか」
『そういう問題じゃ―――!!』
「それに、その
『……チッ!』
フィフティーンは舌打ちをしながら襟を離す。
シロとフィフティーンはどこからか取り出した包帯などで紫と藍に対し応急処置を行っているレイラを見る。
「そろそろいいかな?」
シロは再びレイラへとフードで隠れた見えない顔を向ける。
それを聞いて二人を睨む―――否、シロを睨むレイラ。
レイラは二人を桜の木の下へ移動させていた。
「貴様……!よくもお二人を――!」
「そっちから喧嘩売って来たんだ。正当防衛だよ」
「ふざけるな!ここまで完膚なきまでにしておきながら!」
「それで、続けるかい?」
「無論だ!御二方の仇を、必ず取る!」
「定型的な返し文句だなぁ。それしか言えないの?」
「バカにしているか…!」
「うん、してる」
「貴様ァ!」
あくまで自分は優位にいるかのように、平然とそう言い放つシロ。
その態度に、レイラの怒りは溜まっていくばかりだ。
『……そういえば、お前、どうしてここにいる?』
空気を読まない疑問の言葉が、雰囲気を破壊する。フィフティーンにとって空気を読む必要などないため、自分の思ったことをそのまま言っただけ。
だが、周りから見ればどうなのだろう。そんなこと知る由はないが、シロは淡々と答える。
「彼女相手じゃ、君には荷が重いと思ってね」
『ふざけんな!俺一人で十分だ!』
「ダメダメ。事実、君は彼女相手に苦戦しているだろう?だから、俺の出番ってワケ」
シロが出てきた理由は、「参戦」だそうだ。
苦戦しているフィフティーンを見かねて、手助けをしに来たのだろう。
『いらん心配を…』
「するさ。
『それはお前の事情――と言いたいところだが、俺も死ぬわけにはいかねぇからな』
「素直なのは好きだよ。――――さて、待たせたね、レイラ」
「気安く私の名を呼ぶな…!」
シロの目線が、今まで待っていたレイラへと向けられる。
レイラは今、殺気全開の目で二人を睨みつけ、刀を強く握り締めていた。
「じゃあなんて言えばいいかな?名前で呼ばなかったら、何て呼べばいいのか分からないよ」
「言う必要などない…。なぜなら、貴様らが今日の命日だからだ!」
レイラは地面を脚で踏み抜き爆発的な瞬発力を生み出す。スピードにそのまま乗って長刀の方を振り下ろす。先ほどと同じく極めて単純だ。
この攻撃に即座に反応したのはフィフティーンだ。フィフティーンは振り下ろされる先に黄泉丸を突き出す。だが、その防御も案の定、レイラの長刀は黄泉丸をすり抜けてシロへと到達し、シロは手を突き出すと、そこから見えない壁のようなものだろうか、それが盾となりレイラの攻撃を防ぐ。
「くッ…!」
『はァッ!』
フィフティーンは大橙丸を突き出してレイラの腹を貫こうとするが、短刀によって防がれる。そのまま短刀を力づくで下方へと下げ、フィフティーンへと足蹴りを炸裂させる。
「ッ!」
だが、それをシロが許さず、フィフティーンの足元から斜めに長剣が生えてくる。レイラの脚と剣先がぶつかり合うと同時に、雷が巻き起こる。
「グゥ、アグゥ…!!」
レイラの体中に電撃が走る。どうやらこの雷はぶつかり合った衝撃で起こったものではなく、剣に流れている電撃だったようだ。
感電から逃れるために剣から足を離しそのままその勢いで後方へと飛んだ。
だが、その間にシロはどんどんと追撃を掛けるために、とある
『おま、それありかよ!?』
「勝つためだったらなんでもありさ!」
シロが装備した武器、それは【ガトリング砲】だ。六つある銃口を回転させながら銃弾を放つ凶悪な武器。だが、悪夢はこれで終わらない。
シロがガトリングを片手で持ち、もう片方の手で指を鳴らす。それと同時に、空中にガトリングが
無数のガトリングがレイラに向けてロックオンされる。
「ファイア!」
気軽に放ったその一言とは裏腹に、狂気の連続攻撃が炸裂する。
レイラはこの危険性を直感や本能で感じ取ったのか、横に疾走する。
案の定、弾丸が着弾した部分は破壊の限りを尽くされている。だが、
「なッ!?」
疾走するレイラの顔が、驚愕に包まれる。
問題点は、着弾した部分。そこは、炎上していた。それだけではなく、電撃が走り、凍結もしていた。床が溶けていたりもした。
弾丸になにかが付与されている。見た目からして付与されているのは『炎』『雷』『氷』『毒』などだろう。他にもまだある可能性だってある。レイラはそれらに注意しながら、疾走する角度を90度変える。つまりは接近だ。
「また斬撃かい?それはもう見飽きたよ」
「私の攻撃方法が斬撃だけだと思うな!」
レイラが空高く飛ぶ。それと同時にガトリングの銃口をそちらへと向け、銃弾を放つ。銃弾はレイラの体をすり抜け―――
それは別に普通のことだ。勢いをつけて飛べば自由落下すると同様、斜めに落ちる。だが、その
普通、落ちるときは放物線を描きながら落ちるのが普通だ。だが、レイラは一直線斜めに落ちていた。
これは異常なことだ。簡単に例えれば、ボールを投げたら放物線を描いて落ちる。レイラをボールとして例えれば、そのまま重力で放物線状に落ちる。だが、そのボールは斜め一直線に落ちている。それだけでその異常性が理解できる。
『自由落下の法則はどうした!?』
「今それを気にしてる場合じゃないよ」
自由落下の法則―――物体が空気の摩擦や抵抗などの影響を受けずに、重力の働きだけによって落下する現象のこと。
そしてその間に重力下で投射した物体の運動が描く軌跡のことが放物線だ。
地表には必ず重力が存在する。だからこそ人類は地上に留まっていられる。
だが、レイラはその法則を完全に無視して斜め一直線に降りてきている。
人は空から地面に落ちるとき、必ず自由落下の法則に従って落ちている。だからこそ、その法則に伴っていなければおかしいのだ。
「はぁああああ!!」
そんなことを考えていても、レイラは落ちてくる。考えていても仕方ないと、刀を振り下ろすレイラに黄泉丸と大橙丸をぶつける。
「邪魔をするな究極の闇!」
『相手はこいつだけじゃねぇんだよ!』
そのままフィフティーンは黄泉丸に紫色のエネルギーを纏わせ、縦に振るう。
その攻撃に落下していたレイラは体を真横に逸らして攻撃を避け、地面に足が付いたと同時に体を回転させ長刀を振るい、フィフティーンは体を下げてその攻撃を避け、その体制のまま大橙丸で突く。
『チッ!』
だが、その攻撃もフィフティーンの手ごと、レイラの体に貫通したことにより、攻撃が透けていたことを即座に理解した。
フィフティーンはすぐに手を引き抜くが、その前にレイラはその手を掴み、回し投げを繰り出しフィフティーンを地面に叩き落とす。
「私が剣しかできないと思ったら大間違いだ」
「その手を離してもらおうか」
レイラが地面についているフィフティーンにそう言うと、落ち着いた声でシロがそう呟き、レイラに向かって無数の剣、槍などが放たれる。
それと同時にモーニングスターを装備し放たれる武器とともに鉄球部分を投げつける。
『おまっ!?』
だが、モーニングスターを振り下ろした先には地面に背中をつけているフィフティーンがいる。このままではレイラが避けてしまった場合、モーニングスターがフィフティーンに直撃してしまう。
案の定、予想通りと言ったところだろうか。レイラはそのまま放たれた武器たちを己の刀で一掃した後、鉄球がぶつかる瞬間に後ろへと飛ぶ。
「
その言葉と同時に、フィフティーンの体を粉砕するのではないかと言うほどの勢いのあった鉄球は、フィフティーンに当たる直前に
当たる直前に90度曲がったのだ。
『なんだその曲がり方は!?』
ありえない起動変換に流石のフィフティーンも驚愕の意を示している。
「僕の攻撃は必ず敵をロックオンするんだよ。だから、味方には当たらないってことさ!」
シロの能力。それはおそらくホーミング能力。だが、それだけでは武器の召喚や付与などの効果が説明がつかない。この力はシロの力の一部でしかないのだろう。
そのまま、モーニングスターの鉄球はレイラを狙い様々な方向に軌道変換する。
「貴様にだけは負けてたまるかぁッ!」
対してレイラも自らをロックオンした鉄球に刀を振るい、鉄球を真っ二つにする。すると、その場所から一気に地面が削がれる。刀を振るい鉄球を斬ると同時に、斬撃を放ったのだろう。そのまま斬撃はシロに向かって行き、当たった直前に霧散する。
「たった一撃で僕にダメージを与えられるとでも―――あれ、どこいった?」
シロの目の前には、すでにレイラはいなかった。周りを確認してみるも、そこにレイラの姿はない。逃げたのか?いいや、あの女がそんなことするはずがない。と、なれば―――
そのとき、シロの後ろで金属音が響く。
『油断すんじゃねぇよ…!』
「あぁ、ごめん。君がいたからつい」
刀をぶつけ合っているフィフティーンとレイラがいた。
あの一瞬で移動し、シロの背後に回ったが、フィフティーンに防がれたのだろう。
『はぁ!』
黄泉丸と大橙丸に、紫のオーラが纏われ、最初に大橙丸を振るって斬撃を放つ。
―――が、斬撃はそのままレイラをすり抜けていく。
その次に、黄泉丸の斬撃を放つと、その斬撃をレイラは刀で受け止め、弾く。
『―――?(どうしてこの攻撃は能力で避けなかった?)』
「―――活動限界があるんだよ」
フィフティーンの心を読んだように、シロがそう言い放った。
あの必殺技は先ほどの通り斬撃を放つ技。それをあえて二段階に分けて攻撃することでフェイントを狙う――それがフィフティーンの狙いだった。攻撃が透ける可能性とて十分があるが、それでも牽制にはなるかと思ったからだ。
だが、初撃は避けて、なぜ二撃目では避けなかった?
レイラの能力なら二つの攻撃をそのまま回避することはできたはずだが、レイラはそれをしなかった。
そこからシロが導き出した答え、それは『活動限界』。
おそらくレイラが攻撃を透けることができる時間には限界がある。空間系の能力で、何が原因でそんなデメリットが存在しているのかは分からないが、とにかくこれは有益な情報だ。
『小癪だが……』
「二人で畳みかければいいのさ」
その言葉と同時に、フィフティーンは地面を駆ける。
大橙丸を爆発的な速度で投擲し、再び黄泉丸で斬撃を放つ。
「小癪な!回避するまでもない!」
レイラはそのまま疾走し、大橙丸を体を逸らして避け、斬撃はそのまま刀で斬り伏せ、フィフティーンと対峙する。
「貴様に用はない!」
もう片方の短剣を逆手に持ち、黄泉丸にぶつけ、フィフティーンを押し出す。それは一撃だけでは足らず、もう一撃、一撃と連続で短剣を黄泉丸にぶつける。
一方のフィフティーンはこれに抵抗することができない。今の状況は黄泉丸とレイラの長刀がぶつかり合っている状態だ。もし黄泉丸を離してしまえば、今現在も衝撃を与え続けているこの状態で黄泉丸を離せば体制がずれて倒れてしまうため、反撃できずにいた。
『おいシロッ!早くしろ!』
今は共闘だ。つまり2対1の状況。こちらが圧倒的に有利なため、今の状況を打開するためには、シロの助けが必要―――
「……悪いけど、もう少し耐えてて」
『はぁ!?ふざけんな、クソ!』
だが、シロの助けは得られなかった。なにかをしているように見えるが、なにをしているかはわからない。
耐えればいいのだろうが、レイラの一撃が重すぎるためにいつまで耐えられるか不明だ。
「よそ見をするなッ!」
レイラからの強烈な足蹴りがフィフティーンを襲い、フィフティーンは後ずさるが、レイラは
「ハァ!」
それと同時に、レイラは斬撃を放つ。
今までと同じように、黄泉丸を振るって斬撃を霧散させる―――が、それをしようとした直前に、斬撃が剣すらもすり抜けた。
つまり、このままいけば―――。
斬撃がフィフティーンの、黄泉丸を持つ右手が繋がれている右肩と胴体の間へと侵入し―――
『あがッ!?』
フィフティーンの右腕はそのまま宙を舞い、黄泉丸ごと地面にボドッと言う音とともに落ちる。
『どういうことだ…!?斬撃が、
フィフティーンはその原因にすぐに気付いた。
何度もすり抜ける斬撃を目にしたからこそ、すぐに気付けたのだ。
当初、レイラの能力は『空間系能力』であると仮定し、本人もそれを認めている。
それらの情報をかけ合わせれば、レイラのこの斬撃は空間、と言うより次元をずらしているのだろう。
フィフティーンやシロの攻撃がすり抜けたのも、自身の身を別の次元に移すことでその攻撃をかわしている――と言うのがフィフティーン――零夜の仮説だ。
だが、それだとアレの説明がつかない。
アレとはそう、『自由落下の法則』のことだ。
先ほども説明したように、質量があるものは本来落ちる際、放物線を描きながら落ちる。だが、レイラは一直線斜めに落ちていた。
これは明らかに『自由落下の法則』の法則を無視している。
それだけではない。
先ほどの追撃の際もそうだ。
あのときレイラは連続攻撃をしていて、力に押されフィフティーンは後ずっていたのに対し、レイラにはなんの負担がなかった。
だっておかしいだろう。それは明らかに『作用・反作用の法則』を無視している。
作用・反作用の法則とは二つの物体が互いに力を及ぼし合うとき、それらの力は向きが反対で大きさが等しい経験則である。
つまり、なにが言いたいかと言えば、前に力を入れれば少しは力が自身に跳ね返ってくるのだ。だが、あのときのレイラはそんな様子はまるでなかった。
この法則が通用するしないでは大きな違いがある。
何故なら先ほども述べた通り前方に力を入れればその力が少量跳ね返ってくる。その負担がないと言うことは、その反動を気にせず戦えると言うことだ。
その跳ね返りがなければ、骨に衝撃が響いて痙攣する、と言う不測の事態も起きることはない。つまりは身体的に有利になるのだ。
だが、レイラはその法則さえも無視している。
法則の無視、それは『空間系能力』の言葉だけでは片づけられない。
レイラ本人はそんな法則のことなど微塵も知らないだろうが、今までの戦闘経験でそう言ったものを自力で感じ取り、謎の能力で無効化しているのかもしれない。
『法則を、完全に無視してやがるのか―――!』
「なにをブツブツと!」
レイラはそのままの勢いでフィフティーンへと突撃する。
利き手どころか武器を失ったフィフティーンに、何ができるというのか?
できるのは、ただ攻撃を受けるのみ―――
「諦めるのは早いよ」
だが、そこに先ほどまで傍観していたであろうシロが割り込む。
シロの手には盾が装備してあり、それでレイラの攻撃を防いでいた。
『おま、今更…!』
「ごめんね。
『…チッ!!』
「実に好機だ!貴様にはいろいろと聞かなければならないからなぁ!!」
どこか落ち着いているようで、焦っているようで、怒っているような分からないレイラの感情と言葉は、そのままシロに牙をむく。
レイラは両手に力を入れて刀を強く握り締めながら、再び剣を振るい、二つの斬撃を放ちながら、空を疾走する。
『空を走ってるだと!?』
「空を飛ぶことの応用かな?まぁ僕には関係ないけどね!」
シロが手をかざすと、空中から大量の武器が生える。
空を疾走しているレイラにとってそれは邪魔でしかないため、道を阻む武器たちを根こそぎ切り刻んで道を作る。
「小細工ごときで、私の道を阻めると思うなぁ!」
レイラはそのまま放物線を描きながらシロへと疾走し、刀を振り上げる。
そのままシロの頭上へと刀を振り下ろし、シロはそれを指で挟んで受けとめる。
「彼の怪我が治るまでの間、君の相手は僕だ。まぁ本来は僕一人で十分なんだけど―――」
小さな声でそう呟く。
どうやらフィフティーンには聞こえていたようで、仮面越しで分かるほどの
なんとしてでも、レイラは自分が倒したいらしい。しかし、このフィフティーンだけでは不利な状況で、それは単なる
今までの零夜の性格からして、零夜は冷静に事を起こす知恵者だ。普段冷静な彼が、ここまで感情的になるなど、おかしいのだ。
考えられる可能性があるとすれば、『ただ単に強くなりたいだけ』。まずこれはない。零夜は地道な努力家でもあるため、強くなることにそんなに急かす必要はない。
だとしたら、考えられるのはただ一つ、『シロの存在』。
これが一番有益だ。理由は簡単。シロが現れてから、零夜の態度は明らかにおかしい。なにか、理由があるはずだ。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「でも、それだと彼が満足しないし、それに、彼にも強くなってもらわないと。強者との戦い、またとない機会かもだからね」
「貴様らの都合など、知ったことか!」
「なら僕たちも君の都合なんて知ったこっちゃないよ!」
シロも剣を装備し、レイラの刀とぶつかり合い、金属音を響かせる。
レイラが短剣を横に、剣を持つシロの腕へと振るう。それはそのまま、シロの腕へと到達する。
―――が、
「な、に…!?」
短剣の刃は、シロの肌を―――否、服すらを傷つけることすらできなかった。
その装備の防御力に、流石のレイラも驚愕を隠せない。
―――そして、なにかの音が響き、レイラの腹に、強烈な痛みが生じる。
「が、は…!」
腹を見る。
そこには血が垂れていた。服に血が滲み、それはどんどんと広がっていく。
それだけではない、体の中に感じる「異物感」。これは―――
「隙を見せてくれて、ありがとう」
シロの感謝の言葉とは裏腹に、シロはフード越しでも分かるほど、笑っているように見えた。
そして、そのシロの手に握られている、一つの金属製のモノ。
剣士にとって、冒涜に近い、戦の在り方を、変えた武器――――!
「そ、それは…!?」
「拳銃。まぁ君に分りやすく言えば、火縄銃をコンパクト化したものだよ。あぁ、君にはコンパクトの意味すら分からないか」
そう、拳銃だ。
レイラがシロの服の防御力に驚いている隙に、シロは拳銃を取り出して、撃ったのだ。
「ひ、卑怯者が…!剣の勝負に、そんなものを…!」
「外道?卑怯?そんなの知らないよ。だって、闘いは命の奪い合い。使える手段はなんでも使うよ」
とてつもなく、外道、卑怯と蔑まれても構わない。
なにせ、殺し合いと言うルール無用の戦いでは、外道な方法だろうと、卑怯な方法だろうと、使っても文句は言わない、言わせないのだから。
「それに、君がこれだけでやられるはずがないし、わざわざ用意した罠も不発にならないよう、作動させよう」
「罠、だ、と…!――――!!」
地面に伏せているレイラが、シロを見上げることでようやく気付いた。
今まで、「無機物」だったから、気づかなかった…。『無数の狂気の雨』に。
「あ、ようやく気付いた?君と彼が戦ってる間に、空中に無数の鋭利な武器を召喚させてもらったんだ」
「あれは、そういう、こ、と…」
あのとき、フィフティーンのピンチだと言うのに助けなかったのは、これが理由だった。
この時のために、ずっとずっと、武器を作っていたんだ。
「あ、あと―――『爆弾生成』」
シロがそう呟くと、シロの手に定型的な黒い丸型爆弾が出現する。
「確実に殺るためには、念に念を押さないとね」
「外道がぁあああああグフッ!!」
レイラの腹に、強烈な足蹴りが入る。
そのままレイラは宙へと舞い―――
「キメは君がやりなよ」
『言われなくともなぁ!!』
シロの後ろの空中を、フィフティーンは飛んだ。右手は繋げてあるため、どうやら問題なさそうだ。
フィフティーンはそのままキックの体勢をとり、右足に紫色のエネルギーを纏い、レイラへと直撃する。
「アガッ!!!」
蹴りの反動で元の位置にジャンプしたフィフティーンを見届けたシロは、同時に爆弾を上空へと投下し、無数の武器の雨がレイラへと降り注いだ。
―――声にならない声が、響き、今ここで、レイラの敗北は決定した。
* * * * * * * *
―――血を流して、倒れている一人の女性がいた。
それを見ている、黒服と白服の男性が、二人。
「さて、零夜。今の気分はどうだい?」
「―――最悪な気分だ。これじゃ弱い者いじめのなにものでもない」
「でも、それが悪と言うモノさ。悪人になるのなら、それくらいは受け入れないと」
「―――そうだな」
「まぁでも、君の気持ちも分からなくはない。本格的な悪に目覚めれば、君は
「――――――」
「まぁでも、本当の悪人にならなければならないときが来る。今の君はさしずめ―――偽善者ならぬ、【偽悪者】、かな?」
「―――黙れ」
黒服―――零夜によって、殺気が放たれる。
偽悪者、と言う言葉が逆鱗に触れたようだ。
「おっとごめんよ。君の気分を害する気持ちはなかったんだ。許してくれ」
「―――どうだかな」
その言葉とともに、零夜は白い本―――【ブランクワンダーライドブック】を取り出し、上に上げる。
桜へと向かっていた春度が、そのまま本へと吸い込まれていき、やがてそれは一つの物語を完成させた。
本に『色』が、『物語』が宿る。
【東方妖々夢ワンダーライドブック】を完成させ、懐へとしまう。
「これで二つ目だ。もう用はない。帰るぞ。聞きたいことが色々とあるからな」
「僕はまだ用があるから、先返ってて」
「―――好きにしろ」
零夜はオーロラカーテンを出現させ、その場から消えて行った。
そして、一人残されたシロは、倒れている女性、レイラへと目を向ける。
「殺すとかなんとか言ったけど、君には一つ君に用があるからさ。回復くらいさせないと…」
シロがゆっくりと、歩きながらレイラへと駆け寄る。
――そのとき、レイラがゆっくりと起き上がった。
「はぁ、はぁ…」
「おぉ…まさかあの状態から意識が回復するまでこんなに早いだなんて。僕もビックリだよ」
「き、貴様らは、なにが目的だ…!?」
刀で自分の身を支えながらも、レイラの意思は、闘志は消えていない。瞳の炎は消えていなかった。
「すごぉ…自分の感情なんて後回し。まずは周りのために動くなんて、ある意味異常だねぇ」
「質問に…答えろ!!!」
レイラはものすごい気迫と形相でそう叫ぶ。
その顔にあるのは、怒りだろうか、悲しみだろうか、それとも―――
「う~ん。俺としては言えないなぁ。だって当たり前でしょ?自分の敵にわざわざペラペラと情報を喋る訳ないじゃないか」
「だったら、お前を倒すまでだ…!」
「無駄、無理、無意味。この三原則が、今当てはまっている以上、君は僕には勝てない」
シロの言う通り、今のレイラではシロを倒すことなど不可能だ。
今のレイラのポテンシャルは最低レベルだ。それに、実力差がありすぎる。
「それじゃ、バイバイ」
「ま、待て!」
シロの背面に、オーロラカーテンが出現し、シロはその中へと消えて行った。
「くッ……くッそぉおおおおおおお!!!」
レイラは、悔しさのあまり咆哮を轟かせた。
今回は大分、シロと言う謎のキャラクターが関わってますね。
感想お待ちしております。