東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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18 東方妖々夢※

 ―――とある、神社。

 そこには、複数人の人物が集まっていた。

 

 一人目は紅白の巫女服を着用する、黒髪の少女【博麗霊夢】

 二人目長い金髪に、特に強要される胸部を持つ絶世の美女【八雲紫】。だが、その見た目は本来とは違い、所々に傷が残り、包帯が巻かれていた。

 三人目はショートカットの桃色の髪を持ち、扇子で自らの顔を仰ぎ、紫と同じ大きさの胸部を持つ美女【西行寺幽々子】。彼女も所々に傷がある。

 そして、四人目。長い金髪で、胸に(サラシ)を巻いて紅い法被を身に纏い、長いパンツをはいている美女【レイラ】。

 

 この四人が、幻想郷にある神社、【博麗神社】へと集まっていた。

 その雰囲気は重苦しく、誰も一言も喋らなかった。

 なにせ、それは仕方のないことだ。ここにいる全員が、完敗したのだから。

 

 今回、この四人が集まったのはとある議題の会議のためだ。

 もちろん内容は『究極の闇』への対処。だが、そんなこと思い浮かべるだろうか?否である。

 

 ちなみに、魔理沙、咲夜、妖夢、藍は療養のためにこの場にはいない。

 

 

「―――さて、お互いの情報を共有すると、『究極の闇』を名乗る存在は二人います。黒い服の者と、白い服の者。黒服の者はあまり脅威とは言えませんが―――問題は白服の方です」

 

 

 今口を開いたのは、レイラだ。

 究極の闇を名乗る存在が二人いた。

 一人の黒服は様々な姿に変身し、それぞれが特別な力を持っている。

 そして脅威である白服は、能力自体が謎。どんな能力なのか、想像がつかない。唯一分かっていることは、その能力は、『八雲紫』や『レイラ』を倒せるほどの力を持っていると言うことと、断片的な情報のみ。

 

 

「―――でも、それはあなたからすればの話でしょう?私たちからすれば、黒い奴の方も十分脅威だと思ってるわ」

 

「――そうですね。この世は、力だけでは語れません。ご無礼をお許しください、霊夢殿」

 

 

 この中でも、レイラは強者に該当する。レイラ目線では、白服しか脅威に見えていなかったようだが、実際は黒服の方も、脅威になりえる存在なのだ。

 この場合だと霊夢の言い分が正しい。

 

 

「私、そういう堅苦しいの苦手だから、やめてくれない?」

 

「―――分かりました。それでは霊夢。あなたの口から黒服の脅威について語ってくれますか?」

 

「敬語は変らないのね。まぁいいわ。あいつは様々な姿を持ってるでしょ?」

 

「えぇ。それで力を使い分けてました。ですが、それのどこが脅威だと?」

 

「中には想像を絶する力だってあるわ。それこそ、千年前の『光闇大戦』でヤツの脅威はしっかりと把握している。ま、話を聞いた程度だけどね」

 

 

 千年前の『光闇大戦』。そこで、究極の闇――ライジングアルティメットクウガは幻想郷に多大な被害をもたらした。その傷跡は今も残っており、その時代を生きていた者には、過去を思い出させる場所だ。

 

 

「つまり、霊夢が言いたいのは、姿によっては十分脅威となりえる、と言うことですか?」

 

「そうよ。そしてあいつは、戦う相手によって姿を使い分けている。三回しか出くわしてないけど、三回とも姿が違った。予想だけど、戦うヤツの相性を考えて戦っている」

 

 

 霊夢の言う、三回とは、『フラン戦』『レミリア戦』『妖夢戦』で出会った、【ブラックウィザード】【ダークキバ】【ダークゴースト】の三種類。

 いずれも違う姿、異なる力を使用しているため、霊夢の『戦う相手によって戦う姿を変えている』と言う説は、信憑性も倍増する内容だった。

 

 

「確かに、私と戦った時は完全に死を克服するために、『体が死んでいる』状態で勝負を挑まれたわ。〈死〉のバランスが崩れている状態だと、私の能力は『既に死んでいる者』として考えるから、能力が効かなかったんだと思うわ」

 

「つまり、あいつは幽々子の能力を既に知っていた、と言うことになるわね」

 

「ですが、私と戦った時、ヤツは私にとっても有利な姿で勝負を仕掛けてきました。一体あれはどういう意味でしょうか?」

 

「そこが謎なのよね。他のヤツ等の能力は知っていたのに、レイラの話じゃあいつはレイラの能力は知ってなかったんでしょ?戦うかもしれない相手がいる場所で、そういう情報収集を怠るかしら?」

 

 

 霊夢の言う通り、究極の闇―――黒服は能力者について調べていたはずだ。でなければわざわざ姿を変える理由にはならない。

 個人に対して有利な姿になっていたと考えた方が、納得もしやすいし説明もできる。

 だからこそ、そんな人物が戦うかもしれない人物の情報収集を怠っていたとは考えずらかった。

 

 

「―――今考えてみると、あいつは私が出た時、驚愕していました。あれが演技ではなく、本心だったとしたら――」

 

「あいつにとって、レイラが出てくることは予想外だった、ってこと?」

 

 

 事実、レイラが現れた時、黒服は驚愕していた。まるで、()()()()()()()()()()()かのように。

 

 

「黒服はなんらかの事情で、レイラのことを知らなかった。―――ってことしか、今は分からないわね」

 

「ですが、話し合ってここまでのことが分かったことは収穫です」

 

「そうね。それと――紫」

 

「――――――」

 

 

 霊夢は、今まで話に参加していなかった人物、【八雲紫】を見る。

 今まで見てきたその美しい姿や立ち振る舞いはどこにもなく、ただ瞳が虚空を向いていた。

 それが、霊夢の呼びかけでようやく現世へ舞い戻ってきたようだ。

 

 

「……何かしら?」

 

「―――この際だから聞くけど、あんた、どうして負けたの?」

 

「――――――」

 

 

 今まで、誰も触れることのなかったことだ。

 紫は沈黙を通すが、しばらくしたのち、口を動かした。

 

 

「―――能力が、通用しなかったわ」

 

「ッ!どういうこと!?紫の能力が、通用しなかった…!?」

 

 

 その事実に、霊夢は驚愕した。

 紫の能力は【境界を操る程度の能力】。

 境界とは、この世のものすべてに存在し、それを操れると言うことは、言うなれば神に近い。そんな存在の能力が通用しなかったという事実には、驚愕するしかない。

 

 

「何度も、何度も行使した。精神を破壊するために境界を弄ろうとした。体そのものを切断するために空間に境界を増やした。息ができないように周りの空気を境界で遮断した。それでも、倒せなかった―――!」

 

 

 紫の手に力が入り、血が垂れる。

 敗北。それがどれほど紫にとって屈辱的なことなのか、霊夢には予想がつかない。

 そもそも敗北した時点でそれを割り切るのは難しい。それが、心と言うものなのだから。

 

 

「―――それでも、その時の状況を話して。それが、ヤツへの対策になるかもしれないから」

 

「紫、親友の私からもお願いするわ。異変を起こしたのは私でもあるし、今回の元凶は私でもあるから」

 

「辛いのは理解できます。紫殿。ですが、ここは幻想郷のため、お話しては頂けないでしょうか?」

 

「――――分かったわ」

 

 

 三人の説得により、紫は潔く承諾した。

 『究極の闇』の目的は『世界の破壊』。彼女にとってこの幻想郷は何よりも、誰よりも愛している楽園であるため、幻想郷のためならば個人的な事情は挟まないのだろう。

 敗北の後だと言うのに、こういったところで、彼女の心の強さが伺える。

 

 

「それは、あの時のこと―――」

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

 

 

 

―――ドクドク、ドクドク、ドクドクと、赤黒いものが、人の体から流れる。

ジワジワ、ジワジワ、ジワジワと、体から体温が奪われていく。

クラクラ、クラクラ、クラクラと、意識が遠のいていく。

 

 

「―――――」

 

 

 人が、見てる。それを人の形をした何かが見てる。なにかを呟いているような、いないような、そんな動作をしている。

 それはやがて人の体を形成していき、白いフードを深々と被った、謎の人物へと変化する。

 

 

「ふぅー。()()()()()()()()()()、声が出せないのは難しいな」

 

 

 その人物の声は、かん高い声をしていた。男性なのか、女性なのかわからない、中性的な声の持ち主だ。

 だが、その佇まいから、男性だと判断できる。

 彼は目の前で血を流して倒れ伏している()()を見つめていた。

 あの一瞬。あの一瞬で目の前の()()は倒れた。彼によって、満身創痍の状態へと陥ったのだ。

 

 

「で、君には効かなかったか、【博麗霊夢】」

 

「―――――――」

 

 

 あの謎の攻撃―――衝撃波の中、一人だけ、無事な人物がいた。

 それこそが、博麗の巫女、博麗霊夢。彼女だけは、なぜか無傷で佇んでいた。

 霊夢はただ、お祓い棒を目の前の男性に向けて構えている。それでも、血を流して気絶している二人への注意も欠けてはいなかった。

 

 

「君の能力―――【空を飛ぶ程度の能力】。一見聞くだけじゃああんまり大したことはない能力だけど、その実質は規格外レベル。あらゆるものから浮くことができ、それは瀕死レベルの攻撃でさえも攻撃の対象外にする能力」

 

 

 突如として語られた、霊夢の能力。

 霊夢の能力―――【空を飛ぶ程度の能力】は、あらゆるものから浮くことが可能で、それは「攻撃」「威圧」「重力」などなどから浮くことができ、つまりは対象外になる能力。

 殺し合いに使ったら、間違いなくチートレベルの力。

 なにせ、自分側だけが一方的に攻撃することが可能で、こちら側は攻撃を受けることもないのだから。

 

 実際、倒れている二人―――魔理沙と咲夜だけが攻撃を受けて、霊夢だけが無傷な理由もそれだ。

 だが今、目の前の人物はそれを語り始めたのだ。不審以外のなにものでもない。

 

 

「それが…なんだっていうのよ」

 

「いやぁ?ただ言ってみただけさ。だけど、とても強力な能力であることは変わりないけどね」

 

「――――あなた、何者なの?」

 

究極の闇

 

「――――ッ!!」

 

 

 その答えに、霊夢の顔が驚愕に染まる。そして、それと同時に憎悪で塗りつぶされていく。

 

 

「あなたが…!」

 

「あぁ。この姿じゃあ初めてだったね。ごめんね?千年前は暴れちゃって」

 

「そんなことは今は関係ないわ。今、ここであんたを―――」

 

「出来るかな?今の君に。仲間が死にそうなこの状況で」

 

「―――ッ!!」

 

 

 そう、今霊夢は『究極の闇』を名乗る存在を相手にしている暇はない。

 妖怪ならともかく、魔理沙と咲夜は人間だ。血を流し過ぎれば、その時点で(アウト)。今戦っている場合ではないのだ。

 だが、それを目の前の存在が、許してくれるかどうか―――。

 

 

「今のところ、君の相手をしている暇はない。()()()()()()()()()である君程度なら、いつでも殺れる。それに、今は()()()()がいるからね」

 

「―――どういうこと?」

 

「出てきなよ、いるのは分かってるからさ」

 

 

 少しの沈黙が続いた後、彼は違う方向へと向く。

 ()()()()以外の、()()()()へと。

 

 

「初めまして…」

 

「…………」

 

 

 彼の目の前には、金髪の美女がいた。その美女は扇子で口を隠し、紫にフリルのついたドレスを着用している女性。その女性の第一人称は、胡散臭く、どこか不気味。この一言だ。

 何故なら、その女性は上半身しか存在しないからだ。下半身は、女性が現れている()()()の下に存在している。

 彼女の名前は【八雲紫】。この幻想郷を創りだした賢者の一人だ。

 

 

「紫―――!!」

 

「嫌な気配を感じて来てみれば…まさか、あなたに出会うなんてね」

 

「…………」

 

 

 紫の持つの感情は、不満、不服、不愉快、不快と、悪感情で埋め尽くされていた。

 理由は明白だ。目の前の存在、『究極の闇』への怒り。

 

 

「藍。霊夢たちと一緒に二人を安全な場所で治療を」

 

「畏まりました!」

 

 

 三人の近くへ裂け目が開き、そこに(あお)い法師のような服を着た九本の狐の尻尾と狐耳を持つ美女――【八雲藍】が表る。

 

 

「ちょ、私も戦――――」

 

 

 霊夢の言い分を完全に無視した藍は、颯爽と二人と霊夢を回収し、裂け目――スキマの中へと消える。

 

 

「さて…これでお構いなく戦える。よくもまぁ…やってくれたわね。【究極の闇】」

 

「…………」

 

 

 ここで、究極の闇について、説明しよう。

――【究極の闇】。かつて【光闇大戦】にて闇の力を使う存在。大戦と言う言葉を使うほどには人数は少ない戦い。1対1の戦いだったが、大戦と言う言葉を使うに値する傷跡を残した戦い故の名称だ。

 むしろ、あの戦いでどこも完全に消滅しなかったこと自体が奇跡と言っていいだろう。

 そんな『究極の闇』を名乗る存在と、幻想郷最強の賢者が今、会合した。

 

 

「にしても、もっと早く来てもよかったんじゃないかな?そのせいでぇ、二人も大怪我しちゃったんだから」

 

「自分でやったクセによくそんなことが言えるわね。それに、私の能力を妨害したでしょ?」

 

「あちゃ、バレた?」

 

「私の能力を妨害できたり、する理由を持つ者なんて、あなたしかいないわ」

 

「そりゃあそうか…。君と言う存在は厄介だしなぁ。消したいところなんだけど―――()()()()()()()し。」

 

「優しいことね。殺さないなんて。でも、こちらとしては好都合。覚悟しなさい、【究極の闇】。あなたを始末して平和な幻想郷を取り戻す。異変も奪わせない。この妖怪の賢者、【八雲紫】が、直々にあなたを滅ぼす!」

 

「君に出来るかなぁ?一度取り逃がしたクセに」

 

 

 紫は真っ直ぐな、本心の言葉を平気で煽る究極の闇。紫は怒りを孕んだ瞳で彼を見る。

 

 

「いやぁ志は立派だよ。志は」

 

「バカにしているの?言っとくけど、私が手加減するとは思わないことね」

 

「いや、君は始めっから全力で来ると思ってたから。今更だけど」

 

「どうやら、心の準備だけは出来ているようね。それを聞いて安心したわ。弱い者いじめにならなくて済むから」

 

「弱い者はどっちかなぁ?」

 

「その減らず口、黙らせてあげるわ」

 

「舐めてもらっては困るなぁ」

 

「安心しなさい。あのとき(千年前)のようなヘマはしない。今度こそ確実にあなたをこの世からも、あの世からも消してあげる」

 

「そっかぁ。じゃあ今している攻撃は、無効ってことでいいよね」

 

「ッ!!」

 

 

 彼の発言に、紫の顔が一瞬変わる。すぐに冷静を取り戻すも、顔に出てしまっては意味がなかった。

 

 

「気づいてないとでも思った?この攻撃はおそらく―――境界による「精神破壊」。実質的に死を与える攻撃だね」

 

「…………」

 

「時間稼ぎをしていたつもりで、実は姑息に攻撃。本当に賢者のやることなのかねぇ?あぁでもそんな賢者様は幻想郷を守るためなら、どんな卑怯で外道な手を使おうが、プライドなんて関係ないってことか」

 

「――――ギリッ!!」

 

 

 淡々とした彼の精神を揺さぶる言葉に、紫は歯ぎしりをする。

 ――「精神破壊」。それは実質的な死だ。

 生き物は「心」で成り立っている。心があるから、生きていける。心とは精神だ。その精神が破壊されてしまったら、それはただの人形、廃人だ。

 だが、彼の言っている攻撃内容が本当だとしたら、何故彼は無事なのか。それが分からない。

 

 

「勝手にストック使っちゃったし、彼も怒るだろうなぁ」

 

「――なにを言っているかはわからないけど、もう話はいいわ。死になさい!」

 

 

 そこで、カタリアイは終わった。この先に広がるのは、血を血で洗う地獄。

 先に行動に出たのは、紫だった。紫はまず初めに小手調べとして弾幕を放つ。弾幕が彼に着弾し爆発するが、彼に効いている様子はない。それを見た紫は顔を顰める。

 

 

「やっぱり、この程度じゃ効かないようね…」

 

「これだけじゃないでしょ?

 

「えぇ。これだけで終わるわけないでしょ!」

 

 

 紫は宙に浮き、自身の周りに弾幕を展開する。

 彼はそれをじっと見つめているのみで、動きもしない。ただフードのポケットに両手を入れている。それ以外の動作は全くしていない。つまり、避ける意味がない。その意志表示なのではないか。その考えが紫の精神をさらに逆なでしていく。

 

 

()ねぇ!」

 

 

 紫から放たれる弾幕が様々な形状へと変化し、彼を襲う。

 彼が右手を払う。それと同時に風が舞い弾幕がすべて破壊される。

 

 

「衝撃波…!?だったらこれなら!」

 

 

 紫は空間と空間に境界を断裂、彼のいる空間境界を作り、不可視の斬撃を生み出す。

 時空間を斬り裂く防御不可避の斬撃。彼は動かない。そのまま胴体が斬り裂く―――。

 

 

「…………」

 

「き、効いてない…!?」

 

 

 はずだったのだが、直撃しても彼は無傷だった。

 防御無視の不可視の攻撃が、効かなかったのだ。困惑するのも当然である。

 

 

「僕は時空間系の干渉には耐性があるからね。効かないよ」

 

「そんなはずは!時空間系の攻撃は、防御を無視するはずよ!?」

 

 

 本来防御無視の攻撃は、その名の通り防御を無視して相手にダメージを与える攻撃だ。それを防ぐとなれば、同じく時空間系の能力か、それとも単純な―――。

 

 

「どうやら、一筋縄ではいかないようね」

 

「同じ技には対策してるしね」

 

「そうね。この技は千年前に見切られていたわね。だったら!」

 

 

 次に彼が立っている地面と地面に境界を消失させ、底なしの落とし穴を作り出す。当然のように彼は空へと浮き、落ちることはなかった。だが、それももちろんのこと想定内。

 重力の境界を捻じ曲げ、歪曲させる。

 その結果、その部分の重力が異常なほどに上げられ、底なしの落とし穴へと堕とす―――。

 

 

「…………」

 

「落ちない…!?」

 

 

 だが、彼の体は動かなかった。そこから全く動じずに、ずっと浮いているまま。重力に全力で逆らっている―――否、そんな風には見えなかった。

 なぜなら、彼は余裕そうに欠伸(あくび)の動作をしているから。

 

 

「あぁあと、『重力への耐性』もあるんだよ」

 

「あり得ない!そんなの、もう常識のレベルじゃないわ!」

 

「ここは常識が通用しない世界だろう?」

 

「だったら!溺れ死になさい!」

 

 

 彼の頭上に大量の水が降りかかる。これは重力とは違う、水圧による地中への強制落下を狙った攻撃。

 先ほどの落とすことだけに集中したモノとは違い、攻撃と落下を同時に行っていた。

 

 

「これなら…」

 

 

 警戒を解かずに、目の前の滝を見る。

 これならどうだ?手ごたえは確かにある。現在進行形で存在している。―――そして、気づいた。()()()()。手ごたえのある時間が、長すぎる。

 この量ならば人間どころか妖怪ですら長く持たないはずの水圧なのに。なんで今も手ごたえがあるんだ?

 その疑問が紫の頭をよぎった瞬間、水が弾ける。

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 水はそのまま全身へと広がっていき、全体を濡らして、飲み込んでいく。

 紫は自身の周りに境界を作って別の空間を生み出し、水をガードした。

 水を放出していたスキマを閉じ、水がなくなるを伺う。やがて、すべての水がなくなったとき、そこにいたのは―――

 

 

「…………」

 

 

 ()()()()()()()()彼だった。この時点でおかしい。

 あれほどの水だ。服が濡れていないはずがない。いや、無事でいられるはずがないのだ。だが、それ以前に彼の体が一切濡れていないことに紫にとっては不可解だった。

 あの服は防水性なのか?いや、だとしても皮膚も一切濡れていない。それはポケットからいつの間にか出していた手が証明している。もしかしたら、わざと見せつけているのかもしれない。だがそんなことは今はどうでもいい。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

「君の番は終わりかな?」

 

「くッ…!」

 

「だったら次は僕の番だ。」

 

 

 彼が紫に何かを告げると、彼は拳を強く握る。それと同時に一回、地面を踏み出した。

 瞬間、その場から彼が姿を消し、紫の目の前へと移動していた。

 即座に反応した紫は腕をクロスさせて咄嗟にガードし、拳が直撃する。

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 紫の体が後方へと吹き飛ぶと同時に、腕の肉が衝撃で響き、骨からピキッと嫌な音がする。たったの一撃、一撃だ。その一撃だけで上級妖怪である紫の腕を負傷させた。それだけでその一撃がどれほどのものなのかが容易に想像できる。

 彼の攻撃は一度では終わらない。もう一撃、もう一撃と、連続して紫へ拳が放たれる。

 

 

「アッ、グっ!!」

 

 

 しかも、放たれる拳の一撃一撃が、放たれるごとに大きくなっている。紫には苦し紛れにも感じられた。

 連撃が始まって2秒のこと―――。

 

 

 

ボキッ

 

 

 骨が砕かれる音が響いた。

 

 

「―――――ッッッ!!!!」

 

 

 声には出さなかったものの、紫の腕は強烈な痛みに苛まれているはずだ。妖怪なために時間が経てば勝手に再生するのだが、その間、痛いものは痛いのだ。

 紫は苦肉の策として自身の痛み――痛覚の境界を消した。これを使えば痛みを感じることはないが、それだと自分の体の異常に気づけないと言う欠点が存在する。それでも、今目の前にいる存在を倒すことに比べれば、安い代償だ。

 骨が修復するまでの間、腕は使えない。それならばと、スペルカードを手に持つ。幸い、手の骨は安全なため、使うことができる。

 

 

 

廃線「ぶらり廃駅下車の旅」

 

 

 

 紫がスペル宣言をすると同時に、紫の後方から巨大なスキマが開き、そこから廃電車が召喚される。そのまま電車は彼へと向かって行く。

 彼は動かず、ただじっとしているだけだ。おそらく、このスペカも彼によって弾かれるだろう。

 何故ならこの弾幕は打撃系の攻撃であるため、直接触れることが可能なのだ。今までの弾幕のように、触れたら爆発と言うタイプのものではないが、それでも当たれば本来は無事では済まない部類の攻撃。

 

 彼が掌を電車へと向ける。

 何か来る―――そう思った矢先だ。 

 

 彼の目の前に巨大な黒い穴が出現し、電車を跡形もなく呑み込んでいった。

 

 

「ッ!」

 

 

 その突然の出来事に紫の思考が一瞬停止する。

 この黒い穴―――通称はブラックホールと言うものだ。重力の塊で、すべてを吸い尽くす落とし穴。そんな凶悪な落とし穴が空間に出現し、電車をすべて飲み込んでいった。

 電車を飲み込み、ブラックホールは姿を消す。

 

 その顔を見た彼は、どことなく笑っているように見えた。

 彼が手をかざすと、地面から光が差し、そこから槍が出現する。

 その槍は綺麗な装飾を施しており、造形も見事なものだ。その槍を片手に持ち、――投げる。

 

 

「単純な!」

 

 

 今までの時間ですでに腕の粉骨した骨は完治している。

 紫は手をかざして目の前にスキマを出現させ、放たれた槍をどこか違う場所へと移動させようと展開する。

 槍はそのままスキマの中へと入っていき―――景色とスキマを破壊し、紫へと向かって行く。

 

 

「なッ!?」

 

 

 景色とスキマを破壊して速度を上げていく。

 ―――そんなバカな!紫は内心で焦りを感じた。彼の一撃一撃ごとに上がっていく攻撃力が、身体能力にも反映されていたら、あの武器の投擲だってバカにならないほどの威力に違いない。

 そもそも紫は接近戦は苦手だ。それこそ今まで自身の強力な能力で、ある程度の敵はすべて屠ってきた。それに冬はほぼ冬眠しているために体力が通常より低下している。

 空間を分裂()けて殺す方法は彼には通用しなかった。

 それどころか今現在は彼が投擲した武器が空間移動のスキマを破壊して自分に向かってきている。

 いろいろと脳内で試行錯誤し、とにかく思いつく方法を試してみる。

 

 

「はぁああ!!」

 

 

 何重にも結界を展開し、止めようとするが、槍は結界をすべて破壊する。

 そして、槍はついに、紫の脇腹を抉った。

 

 

「アガァアアアアアアアア!!!」

 

 

 絶叫が響く。脇腹を貫かれた痛みの現しだ。

 考えてみれば、八雲紫がこれほどまでの絶叫をするのは、物珍しい。なにせ、今まで幻想郷最強と言っても過言ではない実力だったからだ。

 そんな紫が今、脇腹を抑えて地面に膝をついていた。

 

 

「まさかこれだけで膝をつくなんて、弱いね。君じゃ俺には勝てないよ」

 

「それ、でも…!私は、諦めない…!」

 

「健気だなぁ。元気でいいねぇ。じゃあ次はこれ」

 

 

 彼が片手を突き出すと、銃のような形―――人差し指を突き出した。その手を反動が起こったように上に上がると―。

 

 

「グっ!!」

 

 

 紫の体に、小さな穴が開いた。

―――なにが起きた?その一言が紫の頭をよぎった。相手はただ手を銃の形にして、それを動かしただけ。ただそれだけだ。だが、それで紫の体はなにかによって貫通した。

 

 

「『空砲』。これが本当の空気の弾、ってね」

 

「空圧、で…!」

 

 

 今の攻撃の正体。それは『空砲』だった。

 一見それを聞くと無害な弾だと思うが、今彼が言っている空砲とは、空気を圧縮してそれを撃ち出した、鉛玉よりも厄介な弾だ。

 まず第一に、見える見えないの差がある。

 視力が人間よりずば抜けている妖怪だからこそ、銃弾の速度など止まって見える種類もしるかもしれない。効かない相手だっているだろう。

 だが、空砲ならば見えない以前に実体が存在しないため、対処が不可能なのだ。

 

 

「他にも、周りの空気を全部酸素にして、酸素中毒にしたり?逆に空気をなくして酸欠にしたりしたりするものいいかもね!どう思う?」

 

「よく、ないわよ…!」

 

「そっかぁ残念だなぁ。――――無駄だよ。無酸素状態にしたって」

 

「――――ッ!!」

 

 

 突如、何を言い出すのかと思えば、紫も苦虫を嚙み締めたような顔をする。

 この状況は、先ほどと似ている。

 それは、紫が時間稼ぎをしている間に彼に行っていた精神の境界を操ってでの精神破壊。そしてそれが見破られたときの状況と、全く同じ。

 

 紫は彼の周りの空気の境界を操り、空気を完全に遮断していた。

 だが、それは効かないだけではなく、普通に会話ができていた。

 

 これでは、理解できてしまう。いや、してしまう。

 ここまでくれば分かってしまうのだ。

 精神破壊も効かなかった。空間ごと断ち切ろうとしてもそれも効かず、ましてや空気を遮断しても無意味。

 これらが示す、一つの答えは―――

 

 

「私の、能力が、効いていない…!!?」

 

「せい、か~い!!よく分かったね!」

 

「そんな…!存在するものには、必ず境界があるはずなのに…!」

 

「うん。あるよ。でも、それも()()()してしまえば話は別さ」

 

「無効化…!!?」

 

 

 無効化。それはとてつもなく強力な力だ。どんな強力な能力でも、どんな凶悪な能力でも、効かないのだから。それは能力者にとって害悪でしかない存在だ。

 ―――だが、同時に紫は分かっていた。

 

 目の前の存在は、「能力を無効化する能力者」ではないと―――。

 

 それにはいろいろとな根拠が存在する。

 能力を無効化するだけだったら、あの衝撃波はなんだ?確実に別の能力があるはずだ。

 あの水圧での攻撃はなんだ?あれはただの水を呼び寄せただけであり、能力ではないため、その能力封じの対象には入らないはずだ。それに、服が濡れていなかったのもおかしかった。

 あの武器の召喚はなんだ?

 あの武器の投擲だけで移動能力のあるスキマを破壊した能力はなんだ?

 あの空砲はなんだ?空気を圧縮する以外にあの攻撃は不可能だ。

 

 以上のことから、紫は分かった。

 目の前の存在の能力は、「能力を無効化していた」のではない。「能力を能力で無効化していた」のだ。

 

 何を言っているかはわからないと思うが、つまりはだ。

 紫の「境界を操る程度の能力」を上回る、別の「能力」によって紫の力は無効化されていたのだ。

 

 

「私の力を、上回る能力…!?」

 

「再び正解。つまりは最初から、将棋で言う積みの状態だったってワケ」

 

 

 神にも等しい能力を上回る能力、それは一体どんな能力なのか、想像もつかない。

 そんなことを聞いただけで、普通なら戦意を喪失してしまうだろう。

 だが、紫は違う。

 

 

「―――!」

 

「あれ、まだ立ち上がるんだ。もう体力は限界のはずなのに」

 

「それでも、私は諦めないわ」

 

「ご立派なこと…。一人じゃ無理だよ、諦めな」

 

「そうね―――一人だけならね!!!!」

 

「はい、紫様!!」

 

「ッ!!」

 

 

 彼の両腕が、何者かによって脇の間に手を入れ、肩を腕で掴むことによって拘束された。

 彼は自分を拘束している者が誰なのか、すぐに理解できた。

 

 

「八雲、藍…!」

 

「あぁそうさ!八雲紫様の式、八雲藍さ!紫様、今の内に!私のことは気にせずに!」

 

「―――えぇ、分かったわ」

 

 

 藍の協力により、彼はほぼ無防備状態。

 能力を行使するにしても、彼の力で無力化される。

 ならば―――! 

 

 

「扇子――?扇子で何ができるって言うのさ?」

 

「あなたに、私の能力は効かない。なら、物理ならどうかしら?」

 

「―――考えたな」

 

 

 彼の態度が、ヘラヘラした今までの態度とは真逆の態度となった。

 それを聞いた紫は、確信した。「物理までには干渉できない」と。

 

 

「でも、扇子ごときで僕を傷つけることなんて―――」

 

「えぇ、そうね。だからこそよ」

 

「―――?」

 

 

 彼は紫の言葉の意味が分からなかった。

 紫は疑問を残したまま、扇子を振り下ろし―――。

 

 彼と、藍の体を斬り裂いた。

 

 

「グフゥ――!!」

 

「グガッ!!」

 

 

 二人の重々しい声が響き、そのまま、二人は地面へと倒れる。

 彼はそのまま、骨ごと断ち切られ、体が二分し、血が流れている。

 対して藍は、彼が盾となり傷は表面的な部分のみだ。

 

 

「ハァ…。なんとか、やれたわね。まさか、扇子を戦いに使う時が来るなんて…。割と、お気に入りの扇子だったんだけど…」

 

 

 紫が行ったこと。それは扇子を鋭利な武器代わりにしたのだ。

 まず、射程範囲についてだが、これは単純だ。彼と扇子を振り下ろす間隔の境界をつなげて、実質距離間をゼロにしたのだ。

 そして肝心な攻撃。その正体は完全な腕力。

 意味不明に思えるが、順を追って説明していこう。まず最初に、紫には現在それを行えるほどの力はない。だからこそ、境界を操って「体力の前借り」を行った。

 未来の自分の体力を使った荒業。それがこの攻撃の正体だ。

 簡単に言えば、紙をビリビリと破くようなもの。紫の扇子は手であり、彼と藍は紙だった。ただそれだけのことだったのだ。

 だが、たかが扇子。限界をとっくに迎え、扇子は塵と化してしまった。

 

 

「なんとか、殺すことができた―――。藍。ごめんね」

 

 

 自分の家族に反省し、ゆっくりと歩みを進める。

 

 

「待ってて、藍。今すぐ治療を…」

 

 

ゆっくりと、足を引きずりながら藍へと向かう。

 自身の式神を、家族を助けるために。自分で傷つけてしまったとはいえ、これは藍の意思。自らのためにやってくれたことだ。嘆いている暇はない。

 

 藍に手を伸ばし、境界を繋いで傷を塞ぐ―――。

 

 

「グフゥッ!?」

 

 

 ―――なにかが、紫の腹を貫いた。

 紫は口から吐血し、地面に膝をつく。

 

 

「な、に、が…?」

 

 

 自分の腹を、貫いているものを見る。それは槍だった。先端が鋭利な槍。

 そして、その槍の作りは見たことがある。なにせ、これは先ほど見た―――

 

 

「いやぁ参ったね。まさかそんな強引な手を使ってくるなんて」

 

「なん、で、生き、て……!?」

 

 

 そして、その槍を投げた人物。

 それは紛れもない、先ほど己が真っ二つにしたはずの男、【究極の闇】だった。

 

 彼は、先ほどの攻撃で真っ二つになったはず。血も大量に流していたために、無事であるはずがなかった。

 それに、この者からは妖力といった人外の力は感じないため、人間であるはずだ。人間であるからこそ、再生なんてありえない。

 一体、どうして体が、魂が、心が復活できたのか、紫には理解できなかった。

 

 

「その認識には語弊があるなぁ。僕は再生したんじゃない」

 

「ま、さ、か…!」

 

 紫の心を読んだように、彼はそう答える。

 では、再生でなければ一体なんだと言うのか?

 そして、その答えは、すぐに出た。だが、そんなことありえない。あっていいはずがない。紫の、自分でもバカらしいと思う、そんな、予測に過ぎないものが、予想として表面化していく。

 

 

「あり、えない…!そんなこと、あっていいはずが…!!」

 

「ところがどっこい!あるんだよなぁ」

 

 

 彼の言葉で、紫のバカげた予想が、現実となった。

 

 

「死んで、生き返った――!?」

 

「ベリーアンサー!使い方合ってる?」

 

 

 これしか考えられなかった――『蘇生』。

 死んで、生き返った。

 だが、そんなことあり得るだろうか?否、そんなの生命を冒涜している。

 生まれて、成長して、美しく最後に散る。それが生命だ。生き返ってしまえば、それはもう生命ではない、別のナニカ。

 

 

「おかげ様で、ストックを使っちゃったなぁ。あぁ~確実に怒られる。怖い怖い」

 

 

 両手で顔を隠して、誰かわからない人物への恐怖を語る。

 彼が何を言っているのか、まるで意味が分からない。

 なにせ、今の紫には彼が『生き返る』と言う事実が、驚愕すぎて、他の話が一切頭に入って来なかったからだ。

 だが、それでも怖がっているようには見えない。むしろふざけているようにしか見えない。

 

 

「でもまぁ、この子の怪我が確実な無駄になっちゃったね。それはごめんね」

 

 

 子バカにしたように、現在も血を流して地面に伏している藍に謝罪する。

 だが、その謝罪は藍には聞こえていない。何故なら、気絶しているから。

 

 

「さてと―――。ここに置いておくのもアレだなぁ。―――レイラの所に持っていったらどうなるんだろう?」

 

 

 ―――今、彼はなんと言った?『レイラ』?

 何故彼が、この男が『レイラ』のことを知っている?レイラの存在を知っているのは、自分を含めた極一部の者だけだ。なんで、レイラを知っている?

 

 

「その際に意識があると邪魔だから―――」

 

 

 彼が、指を鳴らして―――紫の意識が、途切れた。

 

 

「さて、行くか」

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

「――――と、言うのが、私が覚えているすべてよ」

 

「「「――――――――」」」

 

 

 三人は黙って聞いていたが、その内容はとんでもないものだ。

 神と言っても過言ではない紫の能力を、上回る能力の持ち主であり、その能力の可能性は未知数。

 レイラからの情報をかけ合わせれば、その男―――シロの能力は『見えない壁のような物の生成』『武器の召喚・生成』武器への「炎」「氷」「雷」「毒」などの『自然物の付与』『攻撃のホーミング』『魂の保管』『空間移動』『衝撃波』『時空間系・重力への耐性(その他の耐性もあると思われる)』『水を一切寄せ付けない力』『黒穴(ブラックホール)の生成』『境界の破壊』『空砲』。そして――、

 

 

「―――殺しても、生き返る力」

 

 

 そう、『蘇生』。

 それが一番厄介な能力だ。

 あのとき、藍を犠牲にして、殺したはずのシロが、復活していたのだ。

 あの殺し方は単純な力技。自身の体力を前借りしてまで放った攻撃だ。現に、今紫の手には力が入らない。自身の能力を用いた技ではないために、攻撃は通ったはずだった。

 だが、生き返った。なんらかの能力なのだろうが、もし際限なしで生き返ったのなら、それはもう対抗する術がない。

 

 

「だけど、あいつの―――シロの生き返りには、限度があると私は思っているわ」

 

「―――その根拠は、なんなの?」

 

 

 絶望的で圧倒的な力に、生き返る力。文字通り成す(すべ)がないこの力に、限度があると紫は仮説する。

 当然、それには理由があるだとうと、幽々子が訪ねた。

 

 

「あいつは幾度となく、『ストック』と言う言葉を使っていた」

 

「そういえば、あいつもその言葉で怒鳴っていたな。「勝手に使った」と言っていた」

 

 

 戦いの最中だと言うのに、幾度となく言っていた言葉を覚えていた二人。

 それが一体なにを意味するのか。

 

 

「ストック―――。意味を言えば、「ためる、蓄える」と言う意味よ」

 

「使った、ってことは、蓄えてた何かを白服が勝手に消費したってこと?」

 

「そうなるわね。でも、何を消費したのかしら?」

 

「―――一つ、心辺りがあります」

 

 

 そう言ったのは、レイラだ。

 その言葉に三人の視線がレイラへと降り注ぐ。

 

 

「奴は、ゲレルの魂を所持していました」

 

「ゲレルの魂を!?」

 

「道理で、閻魔の所どころか、冥界にも来なかった訳だわ…」

 

「魂を所持…そういえば紫!光闇大戦の時代に大量の妖怪が死亡して、て昔言ってたわよね!?」

 

「そうだけど…――――ッ!!もしかして、ストックって、そういうこと!?」

 

 

 霊夢と紫、二人は何かに気付き、同時に幽々子とレイラも、その意味に気付き始めた。ここまで来たら、誰にだってわかる。

 

 

「―――おそらく、究極の闇が言っていた『ストック』とは、『魂』のことを指している…そういうことですね」

 

 

 レイラのその言葉が、その場を沈黙させた。

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 ――――沈黙がその場を支配する。

 この場所は、とある一軒家のリビングだ。明るい色をした木材を使用された、モダンな作りで、自然を彷彿とさせる、心が落ち着くようなその場所で、似つかわしくない沈黙が訪れていた。

 

 

「―――――――」

 

「―――――――」

 

 

 その沈黙の原因は、二人の男性。

 お互い向かいあって木製の椅子に座っている。

 その内の一人、全身が黒服の男性は、向かい合っている白服の男性を、黒い瞳で睨んでいる。

 この二人の違いは、フードを被っているかかぶっていないか。

 黒服の方はかぶっておらず、白服の方はフードを被ったまま。

 

 

「――――――」

 

「――――――」

 

「あの…お茶、持って来たんだけど…」

 

 

 その沈黙を破った女性が、一人。

 白黒の洋服、黒を基準としたロングスカートを着用し、腰まで伸びた長い黄髪。大きな胸と引き締まった腰、大きな下半身と、女性として理想の体型を持っている美女だ。

 その女性を一斉に見る二人。それに思わず、女性はしゃっくりのように肩を上げてしまう。

 

 

「置いとけ」

 

「置いといて」

 

「わ、分かった…」

 

 

 その二人から出された声は、男性的な声と女性的な声。

 黒服の彼からは、とても威勢を感じる男の声を。

 白服の彼からは、聞いてて安らかな気分になる女性の声が出ていた。ちなみに、先ほども言った通り、彼は男性である。

 女性は机にお茶―――と言っても紅茶だ。紅茶を二人の前に置いて、二人はそれを一斉に飲み干す。

 

 

「フゥ―――。で、説明してもらおうか」

 

「喜んで」

 

 

 彼女の紅茶が起点となり、話が始まった。

 白服の可愛らしい声が、上機嫌なテンポで響く。

 紅茶だけで沈黙が破られるなんて、どれだけ破れやすい沈黙なのだろう。だが、そんなことはどうでもよく―――。

 

 

「まず、なにを話せばいいかな?」

 

「いろいろ聞きたいことはあるが―――まず初めに、どうして出しゃばってきた?」

 

「やだなぁ。言ったじゃないか。君を助けるためだって」

 

 

 女性の声を放ちながらも白服の男―――シロは、そう答える。

 だが、その簡単に言った答えが、黒服の男―――零夜をさらにイラつかせる。

 

 

「お前の助けなんていらねぇ」

 

「ずいぶんと、嫌われたものだね」

 

「当たり前だ。お前に俺の気持ちが分かってたまるか」

 

「―――そうだね。僕に君の気持ちは分からない」

 

「それに、体を酷使してでも、ライジングアルティメットクウガになってあの場を切り抜けてた

 

 

 確かに、アルティメットクウガどころかライジングアルティメットクウガでならあの場くらい余裕で切り抜けられただろう。

 闇の力を舐めてはいけない。

 

 

「駄目だよ。そんなの僕が許さない」

 

「…お前の許しが必要になった覚えなんてねぇ」

 

「そうだね。でも、もっと自分を大切にしてくれ。君は自己犠牲の考えが強すぎる。もちろん、悪い意味でだけど」

 

「余計なお世話だ。俺の体がどうなろうと知ったこっちゃないし、第一、ストックがある」

 

「ストックも無限じゃないんだけどね…」

 

「その無限じゃないストックを勝手に使ったのは誰だよ」

 

「はは、ごめんね」

 

 

 二人は雰囲気が曇りながらも、どこか楽しそうに会話していた。

 いや、そう見えるのはシロだけだ。零夜は相変わらずで不機嫌そうでしかない。

 

 

「とにかく、僕が出しゃばった理由は君に無理をしてほしくないから。あの状況で八雲紫の相手をしていたら、君の体がもたなかったからね」

 

「―――まぁ確かに、あの二人相手はきつかったが…」

 

「そういうことさ。君のそういった潔いところは好きだよ。ルーミアちゃん、お代わり」

 

「…あ、うん」

 

 

 シロは紅茶のカップを女性―――ルーミアへと渡し、ルーミアは再びそのカップに紅茶を()む。

 紅魔館のメイドとまではいかないが、彼女が紅茶を淹れるところは、一枚の絵になるほど綺麗で美に満ちていた。

 だが、その芸術が分かるような二人ではない。

 

 

「―――で、一番気になっていることだ」

 

「【レイラ】の存在だね?」

 

 

 零夜が今現在一番疑問に思っていることは、レイラの存在だ。

 あんな人物、本来の歴史(原作)には登場していなかった。

 つまりは零夜やシロと言った存在、イレギュラーだ。

 

 

「やっぱり、そこが一番気になるよね」

 

「あんな奴、本来の歴史にはいなかったはずだ。同名の奴は設定上存在してるが、あんな見た目じゃない。なんであんな奴がいるんだ?」

 

「―――とあるところから仕入れた情報と、現在の状況を組み合わせての予測だけど、聞く?」

 

「聞かせてくれ。一番有力なやつをな」

 

 

「―――彼女は、『準イレギュラー』だ」

 

 

「準イレギュラー…」

 

 

 『準イレギュラー』。この言葉に反応した零夜が、こめかみをピクピクと動かす。

 そして、この話を横で聞いているルーミアは、何故か知っているような顔をしていた。まるで、知っているかのように。

 

 

「そう。僕たちイレギュラーの介入によって、イレギュラーになってしまった人物。それを『準イレギュラー』と呼んでいるのは、前に話したよね?」

 

「あぁ。ルーミアも、すでに準イレギュラーだからな」

 

「―――――――」

 

 

 彼女は本来の歴史では、歴代の博麗の巫女によってリボン型のお札によって力と記憶を封印されている運命をたどっていたはず。

 だが、それがイレギュラーである零夜の手によって回避したため、準イレギュラーになっていたとしても、不思議ではない。

 

 

「で、レイラを準イレギュラーにしたのが―――」

 

「予想がついている通り、【ゲレル】だろうね」

 

 

 【ゲレル】。その単語を聞いたルーミアが、顔を顰める。ルーミアにとってゲレルの存在は不快でしかないからだ。

 この世に妖怪としての生を受けて、女を凌辱することだけを生きがいとしているような男だ。不快にならないワケがない。

 そして、そんな人物もまた、聞いたことのない人物だ。

 逆に、こんなR18キャラクターがいたら速攻お蔵入りされるに決まっている。

 

 

「予想はしていたが―――あいつ、【転生者】、だよな?」

 

「100%そうだろうね。逆に、それ以外のイレギュラーはありえない」

 

 

 そう、零夜が転生者であるように、他の転生者がいてもおかしくはなかった。

 そして、それがゲレル。

 元々転生者自体がイレギュラーな存在であるがために、辻褄は合うのだ。

 

 

「つーかそもそも話は戻すが、レイラなんて人物はいなかっただろ?」

 

「ただ『物語』に登場しなかっただけで、存在している可能性なんていくらでもある。よく二次創作でオリキャラなんて言われてるけど、よくよく考えれば、その人物も背景キャラ(モブ)以下の存在としては、存在していたんじゃないかな?」

 

「――あんな反則級能力持ってる時点でモブもクソもないだろ」

 

「ははは、そうだね。それで、準イレギュラーであるレイラは今後の活動で脅威となるだろう。君はどうする?」

 

「邪魔をするならぶちのめす―――と、言いたいところだが、あいつの能力はなんなんだ?」

 

「あぁそれならとっくに分かってるから。教えるよ」

 

「―――――マジかよ」

 

 

 あれほど戦って、『空間系能力』と言うことしか分からなかったのに、シロはすでに分かっていたようだ。

 その速さに驚きながらも、冷静にその内容を聞いた。

 

 

「レイラの能力は、『ずらす程度の能力』」

 

「――『ずらす程度の能力』?」

 

 

 シロの口から語られた、レイラの能力。その能力名は、【ずらす程度の能力】。

 ずらす、この言葉から連想されるのは、普通に「なにかをずらす」と言うこと程度だ。

 だが、零夜はその能力の意味を徐々に理解し、歯ぎしりする。

 

 

「そういうことか。それで全部納得がいった。ずれてたのか」

 

「そういうこと。法則や概念からずれれば、ありえないであろう動きをすることができる。博麗霊夢と似たような能力だね」

 

 

 その能力なら、すべてのことに納得がいく。

 まず、いくら攻撃しても、攻撃事態がレイラをすり抜けたのは、零夜たちがいる『次元』からずれていたのだ。その次元からずれれば、その場にいるように見えても、実際はその場にいない。

 簡単な例を挙げるとするなら立体映像だ。立体映像はその場にいるように見えて、本人は別の場所に居るのだから。

 

 

「カブトのクロックアップや自由落下の法則、作用・反作用の法則すらも無視してたのも、その能力の影響か」

 

 

 クロックアップ、自由落下の法則、作用・反作用の法則。この三つの法則を打ち破っていたのも、この能力だった。

 クロックアップの法則からずれることで、自身もクロックアップしたかのようにその世界へと入り込める。

 自由落下の法則のからずれれば、どんな方法で落下することができる。タイミングも自由自在だ。

 作用・反作用の法則からずれれば、相手に一方的に衝撃やダメージを与え、自分に対しての衝撃波、完全に無効化することができる。

 

 

「博麗霊夢の能力も大概だけど、レイラの能力もこれまた厄介なんだよねぇ」

 

「だが、博麗の巫女とは違ってレイラの能力には時間制限があるんだろ?むしろ【空を飛ぶ程度の能力】の劣化版じゃねぇか」

 

「―――あぁあれね。あれ、嘘」

 

「―――――は?」

 

 

 シロからの嘘の言葉に、零夜は呆然とした。

 レイラの能力には時間制限があると言った、あれは嘘だったのか?その事実に、零夜は憤慨する。その影響―――威圧によるものだ。威圧によって地震が起きたかのように家具が、物が揺れ、ルーミアも冷汗をかいている。ただ、なにも影響もなく、座り込んでいるのはシロだけだ。

 

 

「てめぇ…!なんで嘘をついた!?」

 

「ごめんね。でも、言うじゃないか。『敵を騙すならまず味方から』って。それに、あの場限定で真実だったんだから、嘘はついてないよ、嘘は」

 

「言ってる事矛盾してるぞ!結局はどういう意味かって聞いてんだよ!」

 

「僕の能力で、限定的にレイラの能力を解除していたんだ」

 

 

 今だに不明で全貌が掴めていないシロの能力。その能力でレイラのずれを強制的にこちらへと戻していたとすれば、納得がいく―――とは言いずらい。

 その際にどうして完全に封じなかったか、疑問が残るからだ。

 

 

「この戦いを得て、君は経験的にも成長した。強くなった。それでいい。君が強くなれば、君が強くなれば目的も叶えられる。僕はその手伝いをする。そうだっただろ?」

 

「つまりは、自分で考えろってことか」

 

「そういうことさ」

 

「―――――分かった」

 

 

 そう言って、零夜は豪快に椅子に座り、紅茶を飲み干す。

 

 

「本当に、君のそういう(いさぎよ)いとこ、僕は好きだよ。自分の怒りよりも、目的を優先するその心意気。僕はそれを大変好ましく思ってる」

 

「声が女の男に褒められても嬉しかねぇ」

 

「そうかぁ、残念」

 

 

 そう言って、ティーカップを口につける。

 ズズズ…と音が響く中、ルーミアが零夜の耳元で、こう言った。

 

 

「ねぇ、零夜」

 

「―――なんだ?」

 

「あいつってさ、なんで()()()()()()()?」

 

 

 ルーミアから、質問が飛んでくる。

 シロは、今まで出てくるごとに声が変化している。レイラとの戦いでは男の声に。紫との戦いでは中性的な声に。そして、今話をしていたときは女性の声に。

 いろいろな声に変化しており、なぜわざわざそんなことをするのか、ルーミアは疑問に思ったからだ。

 

 零夜は小声でその質問に答える

 

 

「―――俺が最初にヤツにあったときも、全然違う声だった。なんでも、奴は自分の()()()()が知られないように、毎回声を変えてるらしい」

 

「本当の声?」

 

「俺もそれについては知らん。一度も聞いたことないからな。もしかしたら、今まで聞いた声に本当の声が混じってるかもしれんが…」

 

「まぁ、分かるワケないか…」

 

「そう言う訳だ。とにかく、疲れたんで俺は寝る。片付けとけ」

 

「…分かった。じゃ、おやすみなさい」

 

 

 彼女はそう言い残し、カップを台所へと片付ける。

 その様子を、少し見て、零夜はその部屋から出て行った。

 

 

「さてと、僕もそろそろ行くか」

 

「どこに?」

 

「僕にもいろいろあるんだよ。ルーミアちゃんは、どうするの?」

 

「私は後片付け。あと家事。それ以外にやることないし」

 

「はは、もう完全に専業主婦だね。もうこの際だから零夜に夜這いでもやったら?」

 

「なななな、なにバカなこと言ってるのよあんたは!」

 

「いたッ!」

 

 

 ルーミアはシロと拳骨(ゲンコツ)を叩き落した。

 シロはその痛みに(もだ)え、自身の頭をさする。

 

 

「痛いじゃないか…」

 

「あんたが変なこと言うからでしょうが!それ飲んだらさっさと出て行ってね!」

 

 

 プンスカと怒りながら、零夜の飲んだティーカップを台所へと持って行った。

 

 

「はは、かわいいなぁ。それと…痛い。本当に痛い。……そう言えば、レイラの攻撃も、痛かったなァ……もう治ったけど」

 

 

 そう言い、シロは微笑した。

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

~零夜の部屋にて~

 

 

 零夜は、ある二つの本を見ていた。

 それは、今までの経緯で手に入れた、【東方紅魔郷】と【東方妖々夢】のワンダーライドブックだ。

 

 このデバイス―――【ワンダーライドブック】。これはもともと、【仮面ライダーセイバーの世界】のデバイスだ。

 だが、零夜が転生の際に女神から譲り受けた力は【平成ダークライダー】の力のみ。

 そして、【仮面ライダーセイバー】は【令和】と言う新しい時代のライダー。

 本来もらっていないはずのものを持っていることは、後に渡されたか、奪ったか。この二択しかない。

 

 

「異変をすべて奪えるライダーのデバイス。いつ見ても不思議でしかない」

 

 

 実際、異変を奪うとなったときは、どうするか零夜は考えたのだ。

 奪うと言ったら連想されるのは【ブランクウォッチ】だ。だが、ブランクウォッチが奪えるのは、あくまで【個体の記憶・歴史】のみ。

 だが、零夜が奪いたいのは『異変』と言う『事象』そのもの。ライドウォッチでは不適任であった。

 そこで、ワンダーライドブックが役に立った。アレには本来奪う機能など存在していないが、そこら辺は改造するだけでなんとかなった。

 アレが奪うのは『物語』。もともと、この世界自体が『物語』なため、これがジャストフィットしたのだ。

 

 

「そういえばこれも、シロが俺に渡したんだよな…」

 

 

 詳しい話は割愛するが、初めて零夜とシロが出会ったとき、このデバイスを渡されたのだ。

 今現在も、このデバイスがなんなのか、零夜にはわかっていない。

 

 

「―――寝るか」

 

 

 零夜はこれ以上考えることをやめ、眠りについた。

 そして、次の異変である、『明けない夜』へと、迎え撃つために――――。

 

 

 

 

 




今回のシロのイメージCV

紫戦【蒼井翔太】

零夜との会合【井口裕香】
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