19 とばっちり
―――とある日の、日の出。
全身を黒い服で統一した男性が、崖に腰を下ろして、足をブラブラと揺らしていた。
彼の名前は【夜神零夜】。
この世界、幻想郷にて【究極の闇】と言われている存在の、一角である。
「――今日も、か」
空を、大地を、自身を照らして温める太陽を見て、零夜はため息をはく。
空は快晴だ。雲など、増してや雨などは一切降っていない。
この空を見て、ため息をはく理由など、どこにあるのだろうか?
「見張り続けて、もう何日、何か月が経とうとしてるか…一向に始まる予感がない」
そう小さな声で嘆き、腕に力を入れ、立ち上がる。
後ろを振り向き、彼は森の中へと姿を消していく。
彼の住まいは、現代でよく見る一軒家と、木製の家が合わさったような、モダンな作りだ。内装はシンプルで、基本的な家具が並べられている。
ドアノブを回し、
「――ただいま」
「あ、お帰り。零夜」
リビングの扉を開けると、そこにいたのは黒いエプロンとキッチンミトン、お玉を持った黄髪の大きな胸が強調されている美女が姿を現した。
今日、鼻に香ってくるのは、嗅いでて心地の良いコンソメの匂い。その他の野菜の匂いも漂ってくる。
ちなみに、彼女は一応『捕虜』と言う立場である。
だがこの見た目では完全に『夫の帰りを待っていた妻』と言う第一人称が付くのだが、二人は決してそんな関係ではない。
ただの『悪人』と『捕虜』の関係だ。
そもそも、何故零夜がこの状況を黙認して普通に適応しているのか、それは単純。
零夜の中では『捕虜』と言うのは名目で、自身の情報を知られないためだけに連れてきただけの存在であるために、基本的な自由は許可しているためだ。
ただ、それが定型的な『夫婦生活』のようになっているだけで。
「はいこれ。今日も温かいスープだよ」
「あぁ。飲ませてもらう」
元々、『人喰い妖怪』
だが、こういったものを覚える脳内のスペースが足りなかったのか、覚えているのはかなり簡易なものだけであり、難しいものを作るのには必ずレシピを見ているらしい。
元が戦闘と生で食べることしか頭になかったので、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
零夜はコンソメスープの入った器の取っ手を持ち、一気に口の中へ流し込む。
暖かな汁と、旨味が口の中いっぱいに広まっていき、彼の心は一時的に満たされる。
「――ところで、いつ寝るの?もう何日も寝てないじゃない」
「何度も言っているだろう。能力で睡眠欲くらい無効化できる」
彼は、もう何日も寝ていない。
朝に日々の鍛錬を続け、夜になったら先ほどの場所へ向かってただずっと夜が明けるのを待っている。
そんな異常な毎日に、ルーミアは不信感を抱いている。
だが、そんなことで体を酷使すれば、当然のごとく体に相当な影響や負担がかかる。
それが分からない零夜ではないのだが―――
「駄目!何度も言ってるけど、それは一時的なもので、解除しちゃったら一斉に体にダメージがきちゃうでしょうが!」
「俺の体がどうなったって、俺にはどうでもいい」
「あぁ~もう!強情なんだから!意地っ張り!だったら、外に出なさい。今日という今日は、寝かせるわ」
ルーミアは能力を用い、闇の剣を装備する。
ちなみに、ここは室内であるため、外に出ると言うのは彼女なりの配慮なのだろう。
「今日も、か。面倒だが…いいだろう。お前じゃ俺に勝てないこと、思い知らさせてやる…」
「言ってなさい!今日こそ勝って寝かせてやるわ!」
そう叫び、二人は窓から飛び出し、その一秒後に爆発音が響いた。
ちなみに、この行動は零夜が夜更かしを始めた初日から続いていることで、零夜も「特訓になるから別にいいか」と言う感じでこの毎日が続いていたりもする。
家に入ってから3分もしないうちに、次の戦いへと身を投資した零夜。
彼女なりに零夜のことを心配しているのだろうが、それが零夜に届くことは、ないのである。
* * * * * * * *
「ハァ…また、負けた…」
「当たり前、だ」
一時間後、勝敗はついた。
零夜の勝ちだ。
勝負方法は単純な剣術勝負と言う名の体力勝負。これはもう零夜が夜更かしし始めてからずっと続いている勝負方法だ。
そもそも、二人の間では『妖怪』と『人間』と言う絶対的な壁があり、当初戦った時は生身勝負だったらルーミアが圧倒的な勝利を飾っていたはずだったのだが、ルーミアが負け続けている理由が存在している。
「俺がお前の力を封印してんだ。弱体化してて当たり前だ」
零夜が、ルーミアの力を封印しているからだ。
本来の歴史では、『力』と『記憶』が封印されたことにより弱体化していた。事実、ルーミアの闇の力は危険だ。それに、人喰い妖怪と言うこともあり、人類の敵であった。
それで、零夜の『繋ぎ離す程度の能力』を使用し、『力』をルーミアから『離して』、事実上の封印を行ったのだ。
それにより、当然のごとくルーミアは弱体化し、それにほぼ千年間の間を惰眠などの堕落した生活をしてきたために、基礎能力が低下し、勘も鈍ってしまっている。
一日の遅れを取り戻すには三日かかると言われているため、単純計算で元に戻るためには三千年かかる。どれほど待てばいいんだとツッコミたくなる。
「それでも、生身の相手に負けるのは悔しいのよぉ~!」
「それはお前が鍛錬してない―――もとい、堕落しきってるからだ。まぁ俺としては訓練になるからちょうどいいんだがな」
「もう、私との戦いが訓練程度に格下げされてるし…なんかショック」
「しょうがないだろ。お前の力はもう闇で形を形成するのが難しいくらい弱体化してるだろ。今のお前がやれるのは精々剣を一回造る程度。昔のお前は手こずったんだがな…」
「それ、封印した本人が言うと嫌味にしかならないんだけど?」
頬を膨らましながら、仰向けで零夜に顔を向けているルーミア。
体力を使いすぎて立ち上がれないのだろう。
「とりあえず、俺はいつもの場所へ行く」
「あ、その前に起こして―――」
ルーミアの言葉が終わる直前、零夜が地面を駆け、疾走すると、小さな竜巻ができると同時に、零夜はその場から姿を消した。
「―――逃げられた」
そこには、ルーミアの呆けた声が、響いたのみだった。
* * * * * * * *
彼は疾走する。まずは準備運動としてランニングだ。
準備運動としては過激だが、彼にとってはこれがちょうどよい準備運動なのだ。
「いつになったら、異変が発生する…?」
零夜がボソッとそう呟く。彼がずっとこの生活を続けている理由は、異変にあった。
もう何か月も経っているのに対し、全く異変が起きやしない。
「もういっそのこと、このミラーワールドから『永遠亭』に行ければいいんだが…」
『永遠亭』。それは次に発生するはずの異変の首謀者の根城の名前。
だが、その根城がある場所が問題であり、零夜はその場所へと向かうことができなかった。
大分疾走すること数分。無数の竹が群がる場所へと到着する。
「――『迷いの竹林』」
『迷いの竹林』。先ほど説明した『永遠亭』が存在する場所だ。
そして、しばらく歩いた場所には、一直線に竹が存在していない場所がある。
過去に『光闇大戦』によって破壊された地域の一つだ。
さらに、『永遠亭』はこの奥にあるのだが、問題は『迷いの竹林』と言う名の通り、そのまま入ってしまえば迷ってしまう場所だ。
だが、この『迷いの竹林』には『案内人』が存在する。その名は、【
この『迷いの竹林』の案内人であり、『蓬莱人』だ。
『蓬莱人』の説明は今は省くが、要するに彼女が案内をしてくれれば、その場所へとたどり着くことができる。
他にも、この場所には『兎妖怪』が存在し、彼女らに案内してもらうと言う手もあるのだが、彼女らは
妖怪であるために、限度を知らず、中には即死レベルのトラップすら存在しているほどだ。
この世界は、ミラーワールドなので、現実の世界で変化したものは、そのままこの世界へと反映されるため、それを何度も確認することができた。
つまりは、だ。
零夜ではこの『迷いの竹林』を突破することができないのだ。
すべてを破壊すると言う手も存在するが、この場所の竹の成長が早すぎるために、いくら破壊しても無駄であり、できれば切り札である【アルティメットクウガ】を伐採目的で使用したくないために、この場所は手づかずであった。
「だが、いつまで経っても、異変が起きないのは不思議だ…」
確実になにかあるはずだ。零夜はそう考える。
異変が起きないなんてことはないはずだ。なにせ、それがこの世界に唯一存在している補正だから。
だからこそ、起きないのはおかしいだ。ありえないのだ。
今までは考えなかったが、もう流石におかしいと気付き、彼は一つの可能性を考えた。
「もしかして、俺と同じ、転生者、か…?」
そこで、真っ先に候補に挙がったのが、自分と同じ
『イレギュラー』と呼んでいる存在だ。それは零夜やシロも同じであり、同類だ。
それに、未来を破壊するなんて芸当ができる存在は、もう
「だとしたら、相当厄介だぞ…」
イレギュラーが一体どんな行動をするのか、予測は不可能だ。
彼らは
考えられる理由は、『ゲレル』と同じ理由で誘拐しているか、監禁しているか。
すぐにでも行動に移したいところなのだが…。
「だがな…やっぱり迷うし」
そう、入ってしまったら最後、確実に迷う。
地理に詳しい案内人がいれば話は別だが、如何せん、彼は幻想郷では悪人として知れ渡っている。
そんな自分を素直に案内してくれるとは思えない。
ただ、可能性があるとすれば―――
「ここを縄張りとする、兎妖怪…」
『蓬莱人』である彼女を相手にするより、雑魚である兎妖怪を相手にした方がマシだ。
だが、その肝心の彼女らを見つけなければ、話は進まない。
「―――結局は振り出しか」
結局は、迷いの森を抜ける手段がなければ、話は進まない。
どうするか、本格的に迷う。
―――そのときだ。
突如、零夜の近くで、爆発が起きた。
「なッ!?」
爆発の勢いで砂ぼこりが舞って、服が羽ばたく。
服で顔を隠して、砂ぼこりから顔を守る。
「(―――なにが起きた!?)」
ここはミラーワールド。
この世界にいる存在は、零夜とルーミアのみ。ルーミアはまずありえない。家でおとなしくしているはずだ。
だとしたら、考えられる可能性はただ一つ。
だが、肝心のなにが起きたかは、想像がつかない。
砂ぼこりが完全になくなった後、零夜の顔は険しくなる。
「爆発ってことは、何かの戦いが起きてるってことだよな…。とにかく、行って確かめてみるしかねぇ!」
なにが起きたのか不明な以上、すぐに行動に移すのは愚策だが、今はそんなこと言っている場合ではない。
もしかしたら、この爆発がイレギュラーに関係していることであれば、取り逃すワケにはいかない。
もし関係あるとしたら、すぐにでも捕まえる必要がある。
「間に合えよ…!」
零夜は急速にオーロラカーテンを出現させ、その中へと消えて行った。
* * * * * * * *
オーロラカーテンをくぐった時に、零夜の目に映り込んだのは、先ほどと全く同じで、全く変わらない景色だった。
今現在も煙が舞って、左右が確認できない状況になっている。
「全く同じのを見たとしても、一体なにが起きた…?」
ただの爆発音。
幻想郷ではそれで片付けらるが、意味もなく攻撃があるようには思えない。
零夜はこの煙をどかすため、虚空から【ウィザーソードガン】を召喚し、【ブラックハリケーンリング】を指にはめた。
「これで―――!」
刃に風が纏われ、それを体と同時に回転させることによって、煙を一斉に周りから除外した。
そして、煙を除外したことで見えた景色は、ただ唖然とするには事足りた。
「こりゃ…なにが起きた?」
そこにあったのは、ボロボロになった複数の竹林と、無数の肉片。
ここで、爆発があったのは確か。つまり考えられるは何者かがこの肉片の主に攻撃して、こうなった、と考えるのが妥当である。
だとしたら、その目的は?
どう考えても分からないため、とりあえず後回しにする。
「とりあえず、肉片を集め―――!?」
その時に、あるものを見た。
それを見て、零夜は硬直した。何故か?それは簡単だ。
肉片が、一か所に集まっているからだ
「肉片が、一か所に―――!」
やがて、すべての肉片が一か所に集まり、形を形成する。
まず最初に骨を、その次に内臓を、肉を、皮膚を、髪を、目を、そしてなぜか服をも、すべてが作られていく。
そして、そこに出来たのは、白髪の美少女。
白髪のロングヘアーに深紅の瞳を持ち、髪には白地に赤の入った大きなリボンが一つと、毛先に小さな複数のリボン、上は白のカッターシャツで、下は赤いもんぺのようなズボンをサスペンダーで吊っており、その各所には護符が貼られている。
そして、零夜は彼女の存在を知っていた。
そう、彼女は、この『迷いの竹林』の案内人にして、『不老不死』たる『蓬莱人』―――。
「あ゛?何見てんだよ。お前……」
「藤原妹紅…!」
そう、この存在こそ、『面倒くさい』と言う理由で『迷いの竹林』へと行くことを懸念していた一つの存在へと、鉢合わせしてしまった瞬間であった。
いや、そんなことより、何故彼女がここに?さっきの爆発と、彼女が肉片になっていたことから、彼女が先ほどここで『死んだ』ことになるのだが、何故彼女がここで、殺されたのか、それが分からない。
それに第一、何故彼女は自分に睨みを効かせ―――
「おらっ!!」
「ッ!!」
そのとき、彼女は突如、炎をこちらへと放って来た。
すぐに後方へと飛び、炎を避ける。
「いきなりなにすんだ!」
「それはこっちの
「―――は?」
「なに惚けてんだよ!」
一瞬、零夜は呆けるが、すぐに状況を理解した。
今、彼女は自身を攻撃した犯人を、自分だと思っているのだ。
確かに、今の状況を説明すれば、この場所の半径10m以内には、零夜と妹紅しか存在しない。しかも、彼女はこの世界では強者の位置にいるため、気配察知などお手の物だろう。
だからこそ、今の状況では弁解する理由は実質ないのだ。
「―――なるほどな、やられた」
「あ?」
「信じねぇだろうが、一応言っておく。お前を攻撃したのは俺じゃねぇ」
「はッ!自分でも信じてもらえないと分かっている嘘を言うほど、余裕ってことか!」
「なんか拡大解釈された…」
零夜自身そんな思惑など存在しないのだが、怒りが頂点に達している彼女の耳には、零夜の言葉など入りもしないだろう。
これが、イレギュラーの策略ならば、非常にまずいことになった。
「(今ここで戦ったら、あいつらに居場所がバレる)」
そう、居場所の特定がされる。
いくら負傷しているとはいえ、どのくらい回復しているのはか不明だ。
それに、異常が起きればなにかしらの確認が入る。できれば自身の証拠となるものは現場に残したくない。
「なにだんまりしてんだよ!いいさ、だったらこっちから殺してやるよ!!」
妹紅が自身の体に炎を纏い、弾幕を同時に放ちながら零夜に突進する。
手や足を同時に乱舞のように動かし、乱撃をかましてくる。
「うおッ!くッ!このッ!」
それを、一つ一つ衝撃をいなしながら攻撃を避けていく。
だが、彼女の攻撃は乱雑なために一つ一つの対処が難しく、度々攻撃を喰らってしまっている。
完全なとばっちりだが、今はなんとかしてこの状況を切り抜けなければならない。
零夜は妹紅と、その後ろにある地面を『繋げる』
「ッ!」
すると、その地面に向かって妹紅が引っ張られていく。
そう、まるで重力に従う生き物のように。
ワケが分からないまま、地面に引きずられ、その場で静止してしまう妹紅。
「てめぇ…!なにをした!?」
「なに、少しの間動けなくなってもらうだけだ」
これも応急でしかなく、自身の体の傷を顧みない蓬莱人ならば、無理やりにでもあの拘束を解くはずだ。
事実、今妹紅は自身の体が傷付きながらも、重力に似た力に逆らい離れようとしている。
拘束が解けるのも時間の問題だ。
「相手が不死なら、こっちも不死だ」
零夜は【ガシャコンバグヴァイザー】と【バグスターバックル】を取り出し、合体する。
【バグルドライバー】を装着し、【デンジャラスゾンビガシャット】を取り出し、【プレイングスターター】を押す。
ガシャットを【ガシャコンバグヴァイザー】へと装填し、ボタンを押す。
零夜の体が黒い霧に包まれ、投影されたバグルドライバーのモニターのエフェクトをぶち破り、それは姿を現した。
白と黒を基調とする骸骨のような禍々しい姿、割れてオッドアイになったバイザーや左右非対称の装甲は、ボロボロになったゾンビを想起させるものとなった存在。
その名は――
『仮面ライダーゲンム。ゾンビゲーマー、レベル
仮面ライダーゲンム・ゾンビゲーマーレベル
不死身たるライダーが今、その姿を現した。
そして、姿を変えた零夜を見て、妹紅は鬼の形相を浮かべる。
「姿が…!それに、この力、お前…そうか。お前が究極の闇か!」
究極の闇の一人は、姿を変える、と言う情報を知っているのだろう。
ゲンムに変身した零夜を、すぐさま究極の闇へと結びつけた。
『正解だ。俺に喧嘩を売ったこと、後悔させてやる』
「そっちから喧嘩売って来たくせによくそんな戯言を言えるなぁ!殺す!殺してやるよ!」
憤怒、憤慨、憤懣と、怒りの感情が妹紅からあふれ出る。
ただでさえ、一回殺されたのだ。怒らないはずがない。ただ、その犯人は零夜ではない別の誰かなのだが。
『できるものならなぁ!』
ゲンムは【ギリギリチャンバラガシャット】を起動させ、【ガシャコンスパロー・鎌モード】を装備し、妹紅へと突撃する。
妹紅は指を真っ直ぐに立て、手刀のように手を変え、ガシャコンスパローの刃の部分とぶつかり合う。
『流石、蓬莱人ってだけあるな…!』
「まさかそこまで調べてるとはなぁ!そういう検索反吐が出る!」
妹紅はもう片方の腕を手刀に変え、そのまま槍のように体に突き刺そうとする。ゲンムはその攻撃を足の膝を曲げてそのまま上げることによって、手刀を上に弾く。
その間にゲンムももう片方のガシャコンスパローで妹紅の首元――頸動脈を狙い斜めに振るう。
「クソっ!」
咄嗟に腕を盾にし、首を守る妹紅。
結果として、腕は断ち斬られたが、何とか首を守ることはできた結果だ。
そのまま妹紅は足蹴りをし、自身からゲンムを突き放す。
「これくらい、屁でもねぇんだよ…!」
妹紅の傷跡に、炎が灯り、炎が消失するとともに、腕が元通りになった。
対してゲンムは、ゆっくりと、足の力のみで体全体を起こす。まるでゾンビだ。
『…『蓬莱人』の再生能力、そこまでだったか…?』
ここで、一つゲンムは疑問が浮かんだ。
それは妹紅の再生能力。
『蓬莱人』の本体は『魂』だ。『蓬莱人』の魂は永久不滅であり、その肉体が滅んでも、どこにでも新しい肉体を再構築することができる存在。
だが、身体能力が強化されているわけではないので、怪我したら痛いし焼かれたら熱く感じ、気力にも限界があるのでいくらでも戦い続けられる訳ではないため、必ず限界がある。
そして、今ゲンムが言いたいのは、『蓬莱人』にそこまでの再生能力が存在するか、だ。
いくら不老不死とは限界が存在するその体では、再生に時間がかかるはずだ。
『蓬莱人』の肉体は、『再生』するのではなく『再誕』するのだ。ここまで早いなんて情報はなかった。
それに、まるで自身の四肢を犠牲にすることを、なんの躊躇もなく行っている。
『蓬莱人』は痛みは存在しているのだ。
だからこそ、この時点で、痛みをすんなりと受け入れるその度胸が、おかしいのだ。
「なに言ってんのか知らねぇが、とりあえず黙りな!」
妹紅がお札を取り出し、炎を纏わせて投擲する。
ゲンムはその攻撃を受け続けたまま妹紅へと接近する。
「かかったな!」
『は…?――ッ!!』
突如、ゲンムの体が爆発し、ゲンムが膝から崩れ落ちる。
妹紅の顔に、嘲笑が漏れる。
「あのお札には、触れたら妖力が吸着して、数秒後に爆発するようになってんだよ。残念だったな。まぁ、この私に喧嘩売ったんだ。死ぬのは覚悟して――」
『残念。死なないよ』
「なッ!?」
ゲンムの声が聞えたと同時に、紫色の禍々しいオーラと共にゾンビのような動きですぐに立ち上がり、復活する。
先ほどの爆発などもろともせず、無傷で復活した。
「復活した――!?」
『今の俺は、死の瞬間に一時的な無敵状態を再現・維持し、ダメージを受けることがない!!』
「それ、マジな
『痛覚を持つ貴様と、ダメージを受けない俺、この短い間でも分かる、圧倒的な差!誰が有利かは、一目瞭然だろ?』
そう、『蓬莱人』の特性として先ほども述べた通り、『魂を依り代に肉体を再誕させる』と言う特性を持っている。
今魂が定着している体が死んでも、『蓬莱人』は魂が死ぬことがない。魂を基準に、どこにでも体を『再誕』させることのできる、特性だ。
だが、弱点が存在し、『不老不死』であり、大怪我をしても数日で全回復する『再生』すると言うこと以外、人間となんら変わらないのだ。
怪我をすれば痛覚を感じ、空腹感もあり、睡眠欲もあり、体は凍死したりする。ただ、肉体が死んでも本人は死なないというだけ。
それに対し、【仮面ライダーゲンム・ゾンビゲーマー】は【仮面ライダースカル】と同等の、『体が死んでいる状態』を常に維持している状態なため、痛覚も、空腹感も、睡眠欲も、死ぬこともない。正に無敵の存在。
だからこそ、この圧倒的な差があるからこそ、『蓬莱人』の特性を理解しているからこそ、ゲンムはこの戦いでの勝利を確信していた。
だが、この予想の結果は、ありえない結末で、覆された。
「ふ、ふふ、フフフフフ、アハハハハハ!!!」
突如、妹紅は狂ったように笑い出した。
その狂った笑いに、ゲンムは戸惑いを隠せない。
『―――何が可笑しい?』
「いやぁさ。お前、『ホウライジン』のこと、勘違いしてるだろ?」
『は?』
妹紅の言葉に、ゲンムは言葉を失う。
勘違いとはどういうことだろうか?そもそも、この情報は
なのに、今妹紅は『蓬莱人』の特性を、勘違いしているといった。
つまり、彼女の方が『蓬莱人』の特性を勘違いしていると言うことになる。
『お前、急なにを言い出すかと思えば…それが『蓬莱人』だろ?』
「いいや、違う。まずあんたは言ったな。『ホウライジン』には痛覚があるって」
『あぁそうだ。『蓬莱人』は『不老不死』ではあるがそれ以外はなんら人間と変わりはない』
「―――嘘だな」
『嘘だと?』
ゲンムの言葉を、妹紅は『嘘』と言い切った。
これでは本格的に彼女の中の『蓬莱人』が何なのか、知りたくなってくる。
『嘘とは、どういう意味だ?』
「ないんだよ。痛覚なんてなぁ!」
『ッ!?』
妹紅の発言に、ゲンムの思考が、停止する。
そんなはずがない。
大前提として先ほど述べた通り、『蓬莱人』には『不老不死』と言うこと以外、人間と変わらない。だが、彼女は痛覚を感じていないと言った。
それを考えてみれば、先ほどの行動にも合致した。
痛覚がなければ、当然痛みに対する忌避感も存在しない。それゆえに、あのような自傷行為が可能だったのだ。
『そんなはずは!『蓬莱人』の特性に、痛覚がないなんてことはありえない!』
「現にそうなんだよ!―――さて、もう茶番は
『―――前提が、狂ってる…』
頭の整理が追いつかないゲンムを差し置いて、妹紅は言葉を続ける。
「同じ不死同士、仲良く
妹紅は自らを炎で包み込み、ゲンムへと突撃していった。
今ここで、『蓬莱人』の理念が崩れた『ホウライジン』と、『不死の怪物』による戦いが、第二ラウンドへと突入したのであった。
仮面ライダーゲンム・ゾンビゲーマー CV【岩永徹也】