東方悪正記~悪の仮面の執行者~   作:龍狐

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20 ホウライジン

 赤く、紅く、朱く燃える炎が、辺り一帯を焼き尽くす。

 ゾンビは、炎に燃えながら、焼かれながらも、その炎を操る術者へと、武器を握って振り下ろす。

 燃え盛る手で、その武器を直接掴み、血が垂れる。

 

 

『ハァアア!!』

 

「アァアアア!!」

 

 

 炎を操る彼女―――【藤原妹紅】。

 彼女は『蓬莱人』――ではなく、『ホウライジン』だ。

 『ホウライジン』である彼女は、まずその特性である『痛覚無効』を用いて、痛みを完全に無視して、目の前の敵へと攻撃を行う。

 その敵、【仮面ライダーゲンム】は、鎌状の武器、【ガシャコンスパロー】を用いて妹紅へと猛攻を続ける。

 お互い、死ぬことがなく、痛覚もない体。その攻撃が止むことはなかった。

 

 

「砕けろ!」

 

 

 妹紅が片足を上げると、膝がゲンムの顎に直撃し、鈍い音が響く。

 体制が揺らいだゲンムに対し、妹紅は拳に炎をため込む。そのままゲンムの腹へと直撃し、炎が螺旋状になりながら(うず)まき、拳の威力が向上する。

 竹を巻き込み、砂ぼこりが舞う。すべてを巻き込みながら、遠くへと吹き飛んでいく。

 

 

「ついでにこいつもくらいやがれ!」

 

 

 おかわりと言わんばかりに、妹紅が追加で弾幕を放つ。

 お札型の弾幕が放たれ、ゲンムが吹き飛ばされた場所へと向かって行く。

 

 

ギリギリクリティカルフィニッシュ !

 

 

 遥か遠くから、二対の紫色の斬撃が、ブーメランのように飛び、弾幕をすべて破壊していく。

 そのまま斬撃は妹紅へと直撃し、彼女の体が真っ二つに斬り裂かれる――と同時に彼女の体が灰燼(かいじん)と化す。

 そして、何もないところから、彼女が、【藤原妹紅】が『再誕』した。

 

 

「おらぁ!!」

 

 

 勢いのある声とともに、妹紅は地面を駆け、ゲンムへ向けて爆走する。

 すると、それと同時に紫色の矢の形状のエネルギー体が妹紅めがけて多数発射される。

 乱射なために、大多数の矢はそのまま妹紅を避けていくが、それでも複数の矢は妹紅に当たるような軌道だ。

 妹紅は腕に炎を纏った状態でその矢のほとんどを弾く。だが、すべてとはいかずに所々、服が血で滲んでいる。

 

 それでも妹紅が走り続けると、ようやくゲンムの姿が見えてくる。

 先ほどのガシャコンスパローを弓モードに変えて、発射していたようだ。

 

 

『だったら次はこれだ』

 

 

 ゲンムはガシャコンスパローを投げ捨て、【ガシャコンバグヴァイザー】を腕に取り付け、【チェーンソーモード】にし、ゲンムも妹紅に向かって疾走する。

 すると、妹紅は炎を形作っていき、『剣』を、作り出した。

 その剣と、エネルギーの刃の部分がぶつかり合う。

 

 

『剣だと…?俺の調べじゃ、お前は剣を使わなかったはずだ!』

 

「何百年前の情報だよ!私はなぁ、強くなるためならどんな分野にだって挑戦してきたんだ!」

 

 

 妹紅の剣がバグヴァイザーのエネルギー()を溶かしていく。

 おそらく、今彼女から出ている炎は、エネルギーすらも溶かすほどの炎のようだ。

 だが、これもおかしい。エネルギーを溶かす炎など、出せるのは精々『神の炎』などの常軌を逸した炎のみだ。彼女の炎が、その境地にまで至っているのだろうか?

 

 

「だから今はなぁ、前よりも確実に私は強くなっている!」

 

 

 剣でそのままエネルギー刃を溶かしきり、危険だと感じたゲンムはバグヴァイザーを炎の剣から離す。

 その隙を狙い、妹紅はもう片方の手にも剣を作り、斜めに切り刻んだ。

 

 

『アガッ…!』

 

 

 ゲンムが炎に焼かれながら倒れていくと同時に、紫色のオーラがゲンムを包み込み、再び『復活』を果たす。

 体を起き上がらせる間にバグヴァイザーをビームガンモードへと切り替え、完全に起き上がると同時に妹紅へと連射する。

 咄嗟にそれを見た妹紅は、剣を地面に突き刺して、炎の壁を作り出す。

 エネルギー弾は炎の壁に飲み込まれていき、消滅していく。

 

 

「残念だったな、私の壁を突破することは―――ゴべブッ!!?」

 

 

 瞬間、妹紅は頭蓋を貫かれて死んだ。

 その体は灰燼と化し、上空にて体が『再誕』し、そのまま剣を振りかぶってゲンムへと落下する。

 

 よく見ると、ゲンムは先ほど投げ捨てたはずの【ガシャコンスパロー・弓モード】を持っていた。

 おそらく、先ほどの自身の死はアレの矢で貫かれて死んだのだと、推測した。

 矢なら重力に従ってそのまま落下する。それに加え、壁は真正面にしか張っておらず、自分も目の前が見えていなかった。

 それが今の死の原因だろうと判断した。

 

 

「随分と姑息な真似をしてくれるじゃねぇか!」

 

『殺し合いに、姑息もクソもない!』

 

「そうだなぁ!!」

 

 

 大声を上げながらの妹紅の肯定の言葉と同時に、【ガシャコンスパロー・鎌モード】にし、【ドレミファビートガシャット】を取り出し、ガシャコンスパローにセットする。

 

 

ドレミファクリティカルフィニッシュ !

 

 

 スパローから音波の形をした衝撃波を連続で放ち、妹紅へと直撃させる。

 音の力――振動の力によって切れ味を増幅させた刃はたちまちと妹紅を切り刻んでいた。

 この攻撃は、振動斬撃であり、物理的に存在しないもののために、妹紅の炎でも太刀打ちすることができなかった。

 そして、妹紅の体は再び灰燼と化して先ほどと全く変わらぬ体制の妹紅が上空に姿を現した。

 

 

「何度死んでも、お前に刃は届くんだよ!!スペル発動!!」

 

 

時効「月のいはかさの呪い」

 

 

 妹紅がスペルカードを発動した。

 線状に並んだ米粒弾と青ナイフ弾を回転させながら放出しつつ、横や下から精度の緩い赤ナイフ型ホーミング弾を迫らせる技だ。

 弾幕は数自体が多いため厄介ではあるが、一番面倒なのは、ホーミング弾だ。

 

 ゲンムの特性からすれば、何度当たっても何度も復活するために特に気にすることはないが、ホーミング弾はなんとかしなければ必ず当たるため、その度に反動やら爆発による煙やらで行動が一瞬制限されたり前方が見えなくなると言ったデメリットがある。

 そんな長い間隔(インターバル)を許すなど、死闘は甘くはない。

 

 

『だったら一気に片付ける』

 

 

 ガシャコンスパローを弓モードへと変形し、【ジェットコンバットガシャット】をセットする。

 

 

ジェットクリティカルフィニッシュ!

 

 

 スパローから小型ミサイルを連続で放ち、弾幕――特にホーミング弾を中心に攻撃し、直撃、爆発させる。

 ゲンムはその煙の中から脱出するために空高く飛び、見晴らしをよくする。

 

 

「かかったなぁ!!」

 

『なッ!?』

 

 

 ―――その上空、そこには妹紅が炎を全身に纏った状態で、ゲンムのさらに真上の所にいた。

 ゲンムは気が付いた。これは罠だと。

 完全に妹紅の目論見に嵌まった。ホーミング弾は厄介だろうと判断した自分が、ホーミング弾を重点的に破壊することで、その弾幕が爆発し、見晴らしをよくするために飛ぶと言うことを。

 おそらく、弾幕を放った瞬間から、すでに飛んでいたのだろう。あまりの弾幕の多さで視界が遮られたのが原因だった。

 

 

「死ねぇ!!」

 

 

 右手一点集中。今までとは比べ物にならない程の炎が妹紅の腕に集められ、ジェットエンジンのようにその炎が動力源となり、超加速を生み出す。

 加速と、炎の勢い、それが合わさってとてつもないほどの破壊力が生まれ、勢いよくゲンムは地面と叩きつけられる。

 

 

『グアァアアアア!!!』

 

 

 竹を押しのけて、巨大なクレーターを生み出したゲンムへの衝撃は、予想以上のものだった。

 ピクリとも動かないゲンムの体に、紫色のオーラが纏われ、『復活』する。

 

 『復活』した後、ゲンムは宙へと浮く妹紅へとその複眼を向ける。

 

 

『不死っつーのは、面倒臭い相手だな。今実感したよ』

 

「はッ。それは私も同じさ。不死を相手にするのが、こんなにも面倒なことだなんてね」

 

 

 お互いを笑い合い、侮辱するような言葉が出てくる。

 そして、ゲンムはガシャコンスパローを、妹紅は自らに炎を纏う。

 

 

『「だったら殺しまくる!!」』

 

 

 お互いの声が被さり、それと同時に動き、お互いの攻撃が衝突しあう。

 ゲンムのガシャコンスパローの刃の片方を投げ、妹紅に傷をつけようと迫る。その刃を妹紅は自らが持つ剣で弾き、スパローは天に舞う。

 すかさずゲンムがもう片方のスパローで妹紅を斬りつけようするとが、その間に、妹紅は足に炎を纏い、それを形作っていき、やがて炎の鳥の足の鉤爪ができあがる。

 鉤爪でゲンムを拘束する。

 

 

『クソっ!』

 

「吹っ飛びやがれえ!!」

 

 

 ゲンムを上空へと吹き飛ばす。その間にもお札型の弾幕や炎弾を放ち、抵抗する暇など与えない、さらなる追撃を与えた。

 背中に炎の羽を生やし、炎の力を用いて上昇気流を生み出し、上昇速度をさらに加速させる。

 上昇しながら、お札を手に構える。

 

 

「どこだ、屍野郎……!」

 

 

 遥か上空、妹紅はそこで止まり、左右上下を見渡す。

 先ほど同じようにゲンムを上空から奇襲をしかけたように、同じ方法で奇襲を仕掛けられる可能性があったからだ。

 だが、上にはいない。かなり遠くに飛ばしたため、もしかしたらまだ肉眼で見えないだけかもしれないが、警戒は怠らない。

 

 

「必ずどこかにいるはずだ…。逃げたワケでもあるまいし」

 

 

 妹紅はあえて、ゲンムが、究極の闇が逃げたと言う可能性を捨てきっていた。

 今日が合うのが、戦うのは初めてだ。それに、奇襲を仕掛けられた。あの場には自身以外誰もいなかった。完全に気配を遮断されたうえでの奇襲だった。

 奇襲を仕掛けた時点で卑怯者だと思っているが、それでも、逃げないということだけは、なぜかわかっていた。これも、生死をかけた戦いをしたものが、通ずるものなのかもしれない。

 

 

「どこだ…どこにいる…?」

 

『こっちだァアアア!!!』

 

「そこかッ!!」

 

 

 聞こえたゲンムの叫びに、妹紅は即座に反応する。やはり逃げてなどいなかった。

 声が聞えた方向、それは上でも、下でも、右でも、左でも、前からでも、後ろからでもなかった。

 斜めだ。

 

 ゲンムは黒いオーラを纏い、キックを体制を取っていた。

 つまりは、『ライダーキック』だ。

 

 

『ハァアアア!!』

 

「上下左右でも前後でもなく、斜めから来るたぁ予想外だったが、馬鹿正直に叫んでくれたおかげで場所は特定できた!」

 

 

不死「火の鳥-鳳翼天翔(ほうよくてんしょう)-」

 

 

 妹紅から火の鳥を模した炎弾の塊が赤い弾を残しながら飛んでいく。

 赤い弾はそのまま止まり、炎弾の塊が何度か飛んでいくごとに、一斉にゲンムへと向かって行く。

 

 弾幕がゲンムに被弾する。

 一撃必殺のゲンムと、多撃必殺の妹紅。どちらが有利なのかは、わかり切っていた。

 当然、妹紅だ。

 

 何度も被弾して、一撃必殺のためのエネルギーを弾幕処理のために使われているだろう。

 耐えてもエネルギーはほぼ使い切ってる。耐えなかったらそのまま落ちる。

 どちらになっても妹紅には良い結果だ。

 

 

「多勢に無勢って奴だな…。使い方合ってたっけ?」

 

 

 これで勝てるだろうと思える。だが、相手も不死。何度だって復活する。

 いい加減無力化しなければ、この戦いも永遠に続く。

 

 

「私の力は拘束には向いてねぇし…。せめて別の誰かが来てくれたら…」

 

 

 妹紅の力は完全なアタッカータイプ。

 拘束などは得意としていない。せめて【博麗の巫女】の封印術さえあれば……と妹紅は考える。

 だが、本当にここまで騒ぎを起こして、誰一人来ないのは不自然だ。様子見で、誰かくればいいのだが、誰も来ていない。

 それを妹紅は不自然に思ってしまうが、今は目の前の敵に集中だと、今だに弾幕が被弾している場面に目を向ける。

 

 

「―――にしても、やけに耐えるな。まぁこのくらい耐えるくらいじゃないと、世界の敵名乗ってるわけねぇからな」

 

 

 もうそろそろで、スペルカードの持続時間が切れそうだ。

 それでも、かなり相手のエネルギーを()がれたはずだ。

 

 

「ッ!?」

 

 

 だが、その思いは、計算は、微塵も残らず破壊された。

 

 

『ハァアアアア!!』

 

 

 ゲンムが、そのまま煙を抜けて妹紅へとその攻撃を加えようと、迫っていきてた。

 何度も被弾して、力が削がれたはずだった。それなのに、力が衰えていない。

 

 

「ま、まさか!!」

 

 

 そこで、妹紅は気付いた。

 最初から、()()()()()()()()()()のだ、ゲンムは。

 己の不死性を利用し、なんども被弾して、体を抉られて、削られて、削がれて、貫かれて死んで、そしてまた必殺技を繰り出す。それを何度も繰り返していたのなら―――!

 

 呆ける妹紅を無視して、ゲンムの蹴りはさらに突き進む。

 

 

「クソっ!」

 

 

 妹紅は炎で『弓矢』を作り、火炎の矢を放つ。

 矢は真っ直ぐに、その勢いを衰えることなく進んでいく。その矢は、ゲンムの頭を貫き――紫のオーラを纏い、再び復活する。

 それに焦りを感じた妹紅は、炎で周りに矢を作って、それを一斉に放つ。弓で放った時よりも幾分かは威力が落ちるが、それでも牽制くらいにはなる。

 矢が放たれると同時に、妹紅は羽を羽ばたかせゲンムへと突撃する。

 

 

「パゼストバイフェニックス」

 

 

 羽ばたく妹紅の体が、次第に炎を纏った鳥、不死鳥(フェニックス)へとその身を変化、変身させる。

 その両翼に乗る魔法陣から次々に弾幕を出現させ、ゲンムへと迫る。

 

 

―――そして、技が、炸裂する。

 

 

クリティカルエンド!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 二つの死体が、宙から落ちる。

 一つは、黒と白を基準とした、アーマーを装備している者だ。だが、そのアーマー――鎧は焼き焦げてボロボロになっており、四肢も折れ曲がったりと言った部分があった。

 もう一つは、白い服と、白く長い髪の少女だ。その少女の体は、戦闘跡がくっきりと残っており、四肢が折れ曲がり、なかったりもした。

 鎧の戦士よりも、酷い有様だった。

 

 しばらくの沈黙が続いた後、二つの死体に、変化が起こる。

 

 

 まず最初は、鎧の戦士の方だ。

 鎧の戦士から、紫色のオーラが身を纏った。

 治癒能力があるのか。そのオーラは折れ曲がった手を元の定位置に戻し、ボロボロで焼け焦げたアーマーが、元の白の色を取り戻していった。

 そのすべてが目立たなくなったとき、死体の手がピクリと動いた。

 やがてそれは全身にまで至り、死体は膝の力のみでゆっくりと立ちあがり、生き返った。

 

 そして、もう一人の白髪の少女。

 少女の体は、ゆっくりと、灰となって朽ちていく。やがて、そこには最初からなにもなかったように灰すらも消えて行った。

 その代わりに、その場所に炎が柱のようになって現れる。

 その炎は人の形を作っていき、その炎が霧散すると、先程の少女が、無傷の状態で、復活した。『再誕』したのだ。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

『――――――』

 

 

 見てみると、少女は疲弊しきった様子だ。

 その逆で、鎧の戦士は無口のまま。

 

 

『―――疲労が、溜まってきたか。藤原妹紅』

 

「まだ、やれるさ…」

 

 

 彼女、【藤原妹紅】は、汗をかきながら、鋭い目で目の前の鎧の戦士――ゲンムを見る。

 ゲンムは、疲れている様子はない。

 そして、ゲンムがさらに言葉を続ける。

 

 

『今まで、考えていた』

 

「なにを…?」

 

『俺の知っている『蓬莱人』と、お前の言っている『ホウライジン』。その違いは、『痛覚』の有無と、驚異的な『再生能力』。この二つだ』

 

「それが、どうしたんだよ…」

 

『だが、それ以外は人間となんら変わらないとしたら。もちろん、『疲労』だって、溜まるよな?』

 

「ッ!!」

 

 

 ここに来て、ようやくゲンムの意図と目的が分かった。

 初めから、狙っていたのだ。妹紅が『疲労』するのを――。

 

 だが、同時に疑問も発生していた。

 妹紅の体は何度も『再誕』しているために、疲労もまたリスタートするはずだ。

 それなのに、妹紅の体は現に疲れていた。身体は動く、なのになぜ、疲れが現れているのか、それが分からなかった。

 

 

『本当に、魂に馴染んできたようだな、ウイルスが』

 

「―――!?どういうことだ!?」

 

『『バグスターウイルス』。通称ゲーム病。放置すれば死に至る病気だ』

 

「なッ――!?」

 

 

 つまり、妹紅は病気にかかったのだ。

 その事実に、驚愕して、声も出ない妹紅。

 

 

「そんなもの、いつ…!」

 

『これだよ』

 

 

 そう言ってゲンムは自身のベルト――に装着されている【ガシャコンバグヴァイザー】に触れる。

 

 

『これには、今言ったウイルスをまき散らす効果がある』

 

「なんだと……!?」

 

 

 妹紅は思い出す。あの時だ。あの武器で弾幕を発射していた時、それと一緒にウイルスをまき散らしていたんだ。

 だが、『ホウライジン』である自分がウイルスに感染するというよりも、妹紅は別の心配をしていた。

 

 

「それが、幻想郷中にばら撒かれたら…!」

 

 

 世界が、終わる。

 今まで聞いたことのない新種のウイルスだ。それに、『ホウライジン』である自分にさえ効いているんだ。常人が感染したら、とんでもないことになる。

 

 

『あぁ、安心しろ。このウイルスは幻想郷中にばら撒かないようにしている』

 

 

 ゲンム―――零夜の能力、【繋ぎ離す程度の能力】で、これ以上ゲーム病が散らばらないよう、制御している。

 だが、そんなことを知る由もない妹紅は、また違う疑問を抱いた。

 

 

「お前、の、目的、は…世界の破壊、だろ?なんで、その、ウイルスで、滅ぼそうとしない…?」

 

 

 そう、【究極の闇】が世界を滅ぼそうとしているのなら、このウイルスを使えば、ゆっくりと滅ぼすことが可能だ。

 それなのに、何故それをしないのか?

 

 

『バカか。八雲紫にウイルス発生時の境界を弄られたらそれで終わりだ』

 

「―――――」

 

『……ちなみに、もう一つ教えてやる』

 

「―――?」

 

『ゲーム病にかかったが最後、死んだもののデータ―――情報は、『最期の瞬間のまま永遠に固定』される』

 

「それは…!」

 

 

 最期の瞬間のまま永遠に固定される。これは妹紅にとって、最悪の意味現していた。

 いや、それは妹紅には限らない。普通、死は一回だけなのだから。

 だが、妹紅にとって最悪だと言うのは、『永遠に固定』と言う部分だ。

 つまり、もう一回死ねば『体』がそのままで固定されて、身動くが取れなくなってしまう。『魂』が生きていて『体』は固定され動けないと言う、地獄が続くことを意味しているのだ。

 

 

『さて、そろそろ終いにしよう』

 

「待て、待て、待って…!!」

 

 

 その時、妹紅はゲンムに悲願した。『死』を恐れたのだ。それは肉体的な『死』ではなく、自身に迫る精神的な『死』を直感して。

 動けない、動かせない、なにもできないと言う地獄が、死んでしまえば永遠に彼女を襲う。

 それを、彼女は『ホウライジン』である藤原妹紅は、『ホウライジン』になって、初めて『死』を恐怖した

 

 

『死慣れてるだろ?だから死ね』

 

 

 妹紅の悲痛な叫びを聞かずに、ゲンムはバグルドライバーのABのボタンを同時に押し、待機状態にした後、Bボタンを押す。

 無数の黒い影が妹紅を囲むように出現し、妹紅を拘束する。

 

 

「う、あ、うあぁあ…!!」

 

 

 恐怖で声が出ないとは、まさにこのことだろう。

 妹紅は両目の視界を濡らしながら、まだ見える、光へと手を伸ばす。だが、その視界も、黒い影に飲み込まれ、すべてが闇に包まれ、そして――――

 

 

クリティカルデッド!

 

 

「―――――――ッ!!!」

 

 

 

―――妹紅が、何かを叫びながら、爆散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

『―――「終わったか」

 

 

 ゲンムは零夜に戻り、事の終わりを見届ける。

 先ほどと同じように、妹紅が爆散した場所から、炎が舞い上がり、そこから一人の少女が生まれた。

 その少女は、ただ直立して立ち、ただなにかを言っているだけだ。

 

 

「輝夜。輝夜。輝夜。輝夜―――」

 

「―――輝夜?」

 

 

 直立したままの少女、妹紅はただひたすら「輝夜」と連呼しているだけだ。

 バグスターウイルスに感染して死んでいったものの末路、『最期の瞬間のまま永遠に固定される』と言う特性。その結果が、「輝夜」と連呼する今の妹紅。

 彼女は断末魔で、「輝夜」と叫んでいたのだ。

 

 

「なんで、【蓬莱山輝夜】の名前を…?」

 

 

 本来の歴史(原作)ならば、彼女は幻想郷に到着したあとしばらくしたら、輝夜と再会する。と言うシナリオだ。

 だが、今はそんなことは関係ない。彼女がどうして断末魔の代わりに輝夜の名を叫んでいたのか、それはもう分からないことだ。

 なにせ、もう彼女は実質的に『病死』したのだから。

 

 妹紅を爆死させてしまえば、再び復活する。

 それでは意味がないのだ。だからこそ、影が爆発する直前、影に大量のバグスターウイルスを付着させて、彼女を病死させた。

 そして、今の妹紅が出来上がっている。

 『蓬莱人』はその体が病に侵されることはないが、『ホウライジン』である彼女ならなんとかなるかもしれないと思った結果、当たりであった。

 ただもしかしたらバグスターウイルスが例外過ぎて『ホウライジン』ですら対処しきれなかっただけかもしれないが。

 

 

「―――つっても、今はもう分からねぇか。―――分からないと言やぁ、結局誰が妹紅を奇襲したんだ?」

 

 

 根本的なこの戦いの原因は、妹紅が自身を始めて殺したのは、究極の闇(零夜)だと勘違いしたからだ。

 結局、誰が妹紅を攻撃したのかも謎だ。

 

 

「まぁそれも後々片付けるとして。さて、と―――」

 

 

 零夜は先ほどまでボロボロだった竹林を見る。

 倒壊した竹の根本が様々ありながらも、すでに新しい竹が一軒家以上の高さまで無数に生えていた。

 何度も見てきた竹の生え変わり。完全に迷ったことになる。

 

 

「まぁ、普通にオーロラカーテンで帰れるんだが…」

 

 

 オーロラカーテンは自由自在にどんなところにでも行ける。

 オーロラカーテンで永遠亭に直行できればそれでいいのだが、それができない理由があった。

 その理由は単純。まだ使い慣れておらず、普通に特定の場所へつなげることができないのだ。要は修練不足である。

 普通に使う機会が少なかったため、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 今の零夜では実際に行ったことのある場所、世界、時間にしか()ぶことができない。

 

 

「今はそんなこといいか。まだ帰るつもりねぇし」

 

 

 零夜は一呼吸おいて、もう一度口を開く。

 

 

「だから、お前も帰るとか、ぬかさないよなぁ―――【因幡てゐ】?」

 

「ひっ―――」

 

 

 竹林の中、零夜はそう呟き、その返答が帰って来た。小さな悲鳴と言う形で。

 竹林の間からその身をヒョコっと出している少女が今、そこにいた。

 その少女は癖っ毛の短めな黒髪と、ふわふわなウサミミ、もふもふなウサ尻尾を持ち、服は桃色で、裾に赤い縫い目のある半袖ワンピースを着用している少女だ。

 零夜が言った通り、この少女の名前は【因幡てゐ】。この地に住んでいる、兎妖怪。そして―――この『迷いの竹林』の自称主。

 

 騒ぎを聞きつけてここに来たのかもしれない。だからこそ、都合が良かった。

 

 

「お前の知ってること、全部吐いてもらおうか」

 

「に、逃げるが勝ちぃいいいい!!!」

 

 

 危機察知能力が高いのか、ただ単に恐れをなして逃げたのか、どちらかは分からないが、探していた人物を逃すほど零夜も甘くはない。

 てゐの倍以上の速度ですぐさまてゐに追いつき、裾を持ち上げて顔を見合わせる。

 零夜の顔はフードで見えないが、てゐの顔は恐怖が刻まれていた。

 

 

「なななな、なんでここに…」

 

「黙れ」

 

 

 零夜の一言で黙るてゐ。

 

 

「お前は今から俺の出す質問に素直に答えればいい。嘘や虚言は死に繋がると知れ」

 

「は、はい。分かりました…」

 

 

「それじゃあ、まず最初に聞く。―――【蓬莱山輝夜】と【八意永琳】はなにをしている?」

 

「―――――」

 

 

 今まで、一番気になっていた、合ったら確実に聞いておきたかったこの質問。

 ずっと待ってもこなかった異変。その首謀者は一体何をしているのか?

 イレギュラーによって誘拐された?監禁された?

 この疑問を解消する時が、今来たのだ。

 

 零夜がてゐに質問してから数秒。

 てゐは緊迫した表情のまま、固まったままだ。

 

 

「おい、聞いてるのか?その二人はなにをしているかって聞いてるんだ」

 

「あ、あの……非常に申し訳にくいのですが―――」

 

「は?」

 

 

 てゐは口ごもってなかなか言い出そうとしない。

 なにやら焦っているようだが、その意図が零夜には分からない。

 

 

「いいから話せ」

 

「は、はいぃ!!あの、えっと、その――――」

 

 

 恐怖や困惑、焦りを孕んでいた表情のまま、てゐはその内容を、言葉を口にした。

 零夜の脳内の許容量を超えて、想像を遥かに上回る形で、その言葉は放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――カグヤとエイリンって、誰のことですか?」

 

 

 

 

 

 

 

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