2021/08/21
パラドクス→アナザーパラドクス に変更。
―――カグヤとエイリンって、誰のことですか?
そのてゐの言葉に、零夜の頭の許容量を軽く超え、頭がショートする。
情報の許容範囲を超えたのだ。
「おい、嘘つくなっつたよな?」
「いえいえいえ!!本当にそんな人たち知らないんですって!!」
「―――――」
てゐの焦り方を見ると、どう嘘をついているようには思えない。
だが、それも信じられない。
そこで零夜は思い出した。
この妖怪は幻想郷の中で最古の妖怪の一人。
つまりは昔のことを知っている。だからこそ、知っているはずだ。【竹取物語】の起源となった出来事を。
【竹取物語】は【かぐや姫】―――蓬莱山輝夜が主役の物語。
かぐや姫の物語では、かぐや姫は
「じゃあ、『かぐや姫』、この名は知っているか?」
「そ、それなら……。昔、数百年くらい前に絶世の美女が竹から生まれたって聞いたことが―――」
それは零夜の知っている【竹取物語】の内容と一致している。
それを知り、零夜はさらに質問を続ける。この世界の
「で、そのかぐや姫はどうした?」
「つ、月に帰ったって聞いてます!どうやら、かぐや姫は元々月が出身だったとか!」
「――――」
てゐが【輝夜】と【永琳】のことを知らない以外は、どうやら通常の、本来の知識だ。
だが、その二人を知らないと言うこと自体が問題だ。
てゐと二人の出会いを考えれば、考えられる可能性はただ一つ―――。
「まさか、本当に月に帰ったのか―――?」
ありえない。零夜の頭にこの一言がよぎった。
だって、【蓬莱山輝夜】は月での『怠惰』な生活を嫌っていたはずだ。何一つ『変化』がない、変わることを『拒絶』した、あの『怠惰』な世界から抜け出したかった。それが『原作』での内容だ。
それに、【八意永琳】は何よりも輝夜のことを優先する人物。輝夜の命令に、願いに従わないはずがない。
確実に、なにかが、否、全てが違った。
「―――イレギュラーか?」
「――――?」
これが
これまでの情報を集めると、変化が起きたのは『現代』ではなく『過去』。変えられてしまったその過去を、零夜には変える
「くっそ!こうならオーロラカーテンの鍛錬をちゃんとしておくベきだった――!」
オーロラカーテンが万全の状態であれば、すぐにでも『過去』に行けただろう。
だが、今の零夜のオーロラカーテンでは行ったことのある場所にしか行くことができない。己の修練不足を悔やんだ。
「悔やんでも仕方ねぇか…。おい」
「は、はいぃ!!」
「この付近に、建物はあるか?」
「あ、あります…」
「詳しく教えろ」
「わ、私とイナバたちが使っているボロ屋で…雨風凌げると言う理由で使っています…はい…」
そのボロ屋、間違いなく『永遠亭』になるべき場所だったところだ。
二人がいない今、あの場所はイナバのたまり場になっているらしい。
「そこに案内しろ」
「えっ!?そ、そこにどんな御用が「殺されたいのか?」素直に案内します!!」
殺気混じりの威圧を放ち、素直になったてゐは零夜に襟を摑まれながら、その場所へと案内するのだった。
* * * * * * * *
てゐの案内を受け、歩くこと10分ほど。
一軒のボロ屋が見えてきた。木製の作りなのだが、そのほとんどが風化しており、廃屋同然だ。
よくこんな場所で住もうと思ったほどだ。
「結構ボロだな。こんなとこで住んでるのか?」
「所々、直してますけど…」
てゐは直していると言ってはいるが、それでもボロボロな部分が目立ち過ぎた。
零夜は中に入ると同時に、複数の気配が自分から離れていくのを感じた。
おそらく、ここを根城としているイナバたちだろう。
「お仲間は全員逃げたようだな」
「うぅ……」
圧倒的強者を前にして、逃げることは決して恥ずかしいことでもなく、正しい判断だ。
誰もいなくなった廃屋を、一匹の兎を連れたまま歩く。
どこもかしこもボロボロで、とても住めるような場所だとはとても思えない。
「なんでこんな―――」
「あの…私は、こ、これからどうなるんですかね…?」
「ん?あぁそういえば忘れてたな」
一瞬零夜の頭に『殺』と言う文字が浮かんだが、これは取り消した。
だが、殺す理由もなければ生かす理由もない。理由もなしに殺しはできるだけしたくはない。
しばらく考え、適当なところで解放することにした。
「とりま、一旦外に出るか」
「――――」
収穫なしと判断した零夜は、廃屋の外に出る。
そこに広がるのは、先ほどと変わらぬ、竹林の数々。
「まず、どうするべきか―――」
ここまで来て、分かったことを上げるとすれば、
・幻想郷に輝夜と永琳はいなかった。
・その原因が
この二つだ。
そもそも、『永夜異変』の首謀者である二人がいない以上、異変が起きないのは当然だった。
いや、その可能性は考慮していたが、あくまで『誘拐』や『監禁』の可能性を考えていただけで、最初からいなかったと言う可能性は、考えていなかった。
だが、『二人がいなくなった』理由、それは『竹取物語』が鍵なのではないかと言う可能性も浮上した。
そして問題は、その『竹取物語の時代』に行く手段がない。
自身のオーロラカーテンでは過去に
【タイムマジーン】などはそもそも持っていない。
【ネガライナー】や【ガオウライナーキバ】などは所持しているが、【ネガライナー】の場合は細かい時間設定がないと過去へ行くことができない。
【ガオウライナーキバ】はどんな時間にも行き来することができるが、操作に慣れていないと言うか一度も操作したことがないので
要するに、万事休す。
「―――最悪だ」
もういっそのこと『永夜異変』は飛ばしてしまおうか?
そもそもあの異変は『夜』が終わらない異変と『月』が偽物にすり替えられる異変、この二つ合わせて『永夜異変』だ。
実害があるのは『月』がすり替えられる異変のみ。『夜』が終わらない異変も実害はあるにはあるが、大したものではない。
『月』の光に依存する妖怪にとって、偽物にすり替えられたのは死活問題らしい。だから『夜』を止めたと『原作』の【八雲紫】は語っているが、もうそれは、する必要ないことだ。
「――いや、でも『偽物の月』は欲しいんだよな…」
『月』の光に依存する妖怪たちにとって、『偽物の月』は敵の妖怪に多大な混乱を与えるため、できれば欲しいところだ。
だが、時間を飛ぶ方法がない。
結局は、最初に戻ってしまった。
まず、どうして【蓬莱山輝夜】と【八意永琳】が幻想郷に居ないのか、その理由を知る必要がある。
無策で突っ走るのは愚策だ。
だが、一つ分かっていることがある。それは『二人の居場所』。
「―――月」
『月』だ。
まず、その考えに至った理由は単純だ。
『月』は二人の住んでいた場所でもあるし、実際、【竹取物語】でも月から迎えが来ていた。その迎えの名が『月の使者』。
だが、『原作』から考えれば、【永琳】の助力で『月の使者』からは逃げられていたはずだ。だが、いないと考えると、捕まったと考えていいだろう。
そう考えると、『月の使者』の中に、
「だが、月も行ったことねぇしな」
先ほども述べた通り、今の零夜では行ったことのある場所にしかワープできない。
結局、また振り出しに―――
「はぁ!!」
―――突如、何者かから攻撃を受ける。
すぐさま後ろに飛んでその攻撃を回避し、零夜は砂煙の奥にいる襲撃者を睨む。
「誰だ――!」
「この声は!」
「その手を放しなさい!」
煙ごしから聞こえる女性の声。
その声の主を、てゐは知っているようだ。
煙が晴れ、視界が良好になっていく。
そして、そこにいたのは、一人のうさ耳の少女だった。
足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪、紅い瞳。頭にはヨレヨレのうさ耳があり、女子高生のツーピース制服を着用している少女。
「【レイセン】ッ!!」
「今助けます!」
そこにいたのは、【レイセン】と言う名の少女だった。
* * * * * * * *
「―――レイセン?」
そう呼ばれた少女を、零夜はフードで隠れた目で見る。
彼女がここに?いや、『原作』の『設定』を考えれば説明がつく。
彼女の『設定』は、元々は月に住まう『玉兎』と言う種族だったのだが、現在は月から逃げ出して幻想郷にある永遠亭で暮らしている―――と言う『設定』だった。
『月』から逃げ出してきているのだから、ここにいるもの、別に不思議ではなかった。
と言うより、『輝夜』と『永琳』がいないと言うインパクトが強すぎて、彼女の存在をすっかり忘れていた。
「レイセンッ!私にまで当てる気だったでしょ!?」
「そ、そんなことないですよ!」
てゐは自分ごと攻撃を当てる気だったのかと怒り、レイセンはそれを必死に弁解していた。
「まさか、いや、あそこまで情報があれば、お前がいることくらい分かれたか…」
「と、とにかく、てゐさんを離しなさい!不審者!」
「ちッ」
レイセンに言われる通り、てゐをまるで先ほどの妹紅戦の際に、【ガシャコンスパロー】を投げ捨てたように、乱暴に投げ捨てる。
てゐは地面に転がり、白いワンピースに泥が付く。
「てゐさん!」
「いてて……。首が痛い…」
「――――」
レイセンはてゐに駆け寄り、状態を見る。
「よかった…。どこも怪我してませんね」
「あんたバカなの?今投げ捨てられたんだけど」
「いや、でも外傷は…」
「それでも心の傷がついたの!」
「ごごご、ごめんなさい!………あれ、これ私謝る必要――」
「おい、そろそろいいか?」
もう茶番には付き合ってられないと、零夜が声をかける。
その声でようやく今の状況に頭が追いついたのか、レイセンはてゐを守るように立つ。
「てゐさん。ここは私が引き受けますので、お仲間を連れてきてください。そして全員でボコりましょう!」
「いや、ここは任せるけどさ、やらないよ?」
「―――え?」
「そもそも相手は【究極の闇】の一人だよ?私やレイセンごときが勝てるわけないじゃん」
「え゛。今、なんて―――」
「じゃ、後は任せるねレイセン」
てゐはレイセンの言葉を最後まで聞かず、爆弾発言だけを残してすたこらさっさと逃げていった。
「てゐさ――――ん!!!」」
レイセンはてゐが逃げた場所に手を伸ばすが、その手は届くはずもなく、虚無に触れていた。
しばらくして、レイセンは冷汗をかきながら壊れたブリキのおもちゃのように零夜へと顔を向ける。まさか、自分が喧嘩を売った相手が最悪な存在だと、思わなかったのだろう。
「え、えーと…、あの、その……」
「とりあえず、戦う、ってことでいいよな?」
「いえ!私はあなたと戦うつもりなんて―――」
「でも、先制攻撃してきたよな?あれを、俺が許すと思うか?」
「――――――」
レイセンの冷汗の量が増えていく。
零夜は無駄な戦いは極力しない主義だが、それでも売買された喧嘩は最後まで付き合う。
例え相手の、戦意があろうがなかろうが。
零夜は漆黒の【ガシャットギアデュアルアナザー】を取り出し、そこのついているダイアルを右に回す。
「なに!?なにこれ!?」
ダイヤルを回したと同時に、ゲームフィールドが展開され、辺り一体に色とりどりのメダルが現れる。
その状況に、ワケが分からず困惑するレイセン。
「変身」
【仮面ライダーアナザーパラドクス・パズルゲーマー】へと変身した零夜は、レイセンを掌を少し広げた状態で指さし、一言。
『お前は俺の心を、
「いや、あの、ちょ、まっ」
『さぁ、
「厄日だァアアアアアア!!!」
* * * * * * * *
―――竹林の中、二つの影が戦っている。
竹が倒壊し、倒れる。それが何度も何度も続いても、爆発音は鳴りやまない。
「ひぃいいい!!」
『どうした?我武者羅に撃ったって当たるものも当たらないぞ!!』
レイセンは、銃弾型の弾幕を四方八方に撃ち続けている。その目は渦巻状で、完全に混乱していた。
当たり前だ、最悪な敵の相手を押し付けられたのだから。
いや、そもそも押し付けたと言うよりレイセンが自ら売った喧嘩だ。図式で考えれば不法侵入者を退治すると言うちゃんとした大義名分がある。
だが、その相手が悪すぎた。
レイセンは今、確実に勝てるはずのない戦いと言う局面に入り、それが今の状況に繋がっている。
「なんで私がこんな目に……」
『それは、自分の胸に聞けば分かるだろうぜ?』
アナザーパラドクスは小言をこぼした後、右手を宙に向けて動かす。
そうすると、先ほどまで空中に浮かんでいたメダルが一斉に、5cm×5㎝に並ぶ。
それが上下左右に交換されながら動き、特定のメダルが中心に集まる。中心のメダルのみが、アナザーパラドクスに吸収される。
赤、青、黄色の三枚のメダル――【エナジーアイテム】がパラドクスに吸収されると同時に、アナザーパラドクスはその場から消える。
「ど、どこに――ウグッ!?」
突如、レイセンの体に痛みが走る。それは一度だけではなく、二度、三度と連続で痛みが発生する。
そして、レイセンは理解する。アナザーパラドクスは姿を消したのではなく、早すぎて見えないのだ。
腕をクロスして体を守りながら周囲を見る。レイセンの目に映ったのは、竹が何度も揺らめいている所だ。
今の天気は快晴で、風などは吹いてはいない。無風状態なのに、何度も竹が揺らめくのは、アナザーパラドクスが周りの竹を足場として使用しているからだ。
「だったら――!」
この痛みが、単なる連続攻撃だと理解したレイセンは、周りに集中する。
そして――居場所を理解する。
居場所を特定したレイセンはその方向へと弾幕を放ち、
周りに配置してあった灰色のメダルが、とある方向へと向かって行き、そのまま何かに吸収される。
全方位へと放たれた弾幕が、一部に被弾する。
「はぁッ!」
追撃と言わんばかりにレイセンは、そこへと一斉放火をする。
多数の弾幕が放たれると同時に、レイセンの丹田部分に光が収束し、そこからレーザーを放つ。
先に放った弾幕がいくつか被弾した形跡が出現したが、それも所々で詳しい場所は掴めず、後から放ったレーザーはそのまま竹を貫通する。
その後に、アナザーパラドクスがようやく肉眼で見えるほどの速さ――と言うより、立ち止まった。
『――波長を操る能力、随分と厄介だな』
「ッ!?私の能力を――!」
「何故知っているのか」。この言葉を続けようとしたとき、レイセンは口ごもった。
今分かっている情報では、【究極の闇】は相手の情報を限りなく収集しているとのことだ。ならば、いつの間にか自分の能力のことも知られていてもおかしくはない、と。
そして、その能力の内容を知られている可能性があると言うことが、確実に相手が有利であると言う証明だった。
彼女の能力【波長を操る程度の能力】は音、光、電磁波、物質の波動、精神の波動などあらゆる波について、その波長、位相、振幅、方向を操る能力だ。
光や音の波長を操り幻覚や幻聴を引き起こし、光を収束してレーザーを打ち出したり、精神破壊効果のある弾丸を放ったり、完全に見えなくなったり、逆に分身したり、バリアを張ったり、波長で人妖を感知したり、位相をずらすことで相手と全く干渉しなくなる事も可能である、非常に強力な能力である。
特に、相手と全く干渉しなくなると言う部分については、霊夢やレイラと同等の力だ。
これを使用されてしまえば、一たまりもない。
「あぁ~~!やっぱり私一人でなんか無理ですよぉ~~てゐさ~ん!!」
レイセン、心からの叫び。
確実に勝てない敵の相手を任されたことによる怒りの声だった。
「ていうか、なんでここまで騒ぎが大きくなってるのに誰も来ないんですか!?」
『寝言は寝てから言いなよ!』
戦闘音を聞きつけて誰か救援に来てくれることを望むが、現実はそう甘くなく、結局はレイセン一人でのバトルになる。
アナザーパラドクスは再びエナジーアイテムが並び、パズルのように移動し、中心のアイテムがアナザーパラドクスに吸収される。
吸収されたのは、水色と黄色のアイテムだ。
エナジーアイテムが吸収されると同時に、アナザーパラドクスの右手がゴムのように伸びる。
「なにそれ!?」
『はぁ!』
伸びた右腕を横に薙ぎ払う。当たる瞬間にレイセンはジャンプしてその攻撃を避ける、が、薙ぎ払われた右手はそのまま竹林を巻き込み、多くの竹を倒壊させた。
そのまま右腕を上空に向けてあげ、レイセンへと追撃する。その一撃は、レイセンの能力でも当たる直前にようやく感知できたもので―――。
「がッ!」
ゴムのような腕に攻撃され、レイセンは小さな悲鳴を上げる。
そのまま、隙を見せずに何度も連撃を続ける。
普通、ゴムなどを使用した攻撃は次の攻撃にインターバルがあると思いがちだが、アナザーパラドクスの攻撃にはそのインターバルが存在していなかった。と、いうのも、そのインターバルを補っているのが、単純な速さ。高速的な動きをすることで、インターバルを実質的になかったことにすることを、アナザーパラドクスは可能としていた。
「これだけでは、私は負けない!」
――突然、アナザーパラドクスの攻撃が、レイセンを通過した。貫通したのだ。そう、まるで宙を斬ったように――。
レイセンはゆっくりと落下するが、その顔には疲れがにじみ出ているようだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
『波長を操って、攻撃から逃れたか。だが――』
パラドクスがその顔色を見るに、いくらなんでも疲れすぎている。
確かに今まで連続で攻撃はしてきたが、それでもあそこまで疲れるほどのダメージは与えていないはずだ。と言うよりも、ダメージと疲れはなんの関連性もない。
と、いうことは、別の要因で疲労していうことになる。
『お前、なんでそんなに疲れてんだ?』
「――――――」
レイセンからはなんの返答もない。ただ、無言を貫き通している。
そして、パラドクスはレイセンの異常の答えに、思考を加速させる。無数の可能性を考え、その中で最も考えられる可能性を導き出した。
『あぁ、そうか。なるほど、分かったよ』
「―――――」
一呼吸おいて、その可能性を口にした。
『お前さ、波長を操って全てから干渉されないようにするのに、相当な精神力を使ってるんだろ?』
「―――ッ!!」
図星。レイセンの顔に、確実にそう書かれた。
そして、アナザーパラドクスが導き出したその可能性は、確かにあり得ることだった。
『相手から干渉されない』と言う能力。それは確かに強力なものだ。だが、その『干渉』されないようにするためには、さまざまなものから『干渉』されないように無数の『節理』『理念』『概念』『理屈』『森羅万象』から『干渉』されないようにする必要がある。
『干渉』されないためにはそれを『同時』にこなす必要がある。それにはかなりの精神力と集中力を必要とし、その精神的な疲労が、無意識的に肉体的な疲労と関連付けてしまっているのではないか、という可能性だ。
霊夢やレイラも同等のことができるが、そもそもレイセンとは前提条件が違う。
霊夢の能力は様々なものから『浮く』能力。すべてから『外れる』と言う能力であるために、レイセンのように無数の処理を同時にやる必要がないのだ。
レイラの場合だが、これは前提が違う。レイラの能力はすべてから『ずれる』能力。すべてから『ずれる』ために、わざわざ同時に処理をする必要がない。だが、その力もシロの前では無力化されていたが――。
二人と、レイセンの違い。
それは言ってしまえば『実力不足』。理由は分からないが、今のレイセンはとても弱かった。
『博麗の巫女やレイラよりは違うな。お前は単純な実力不足だ。博麗の巫女は天才肌だし、レイラはおそらくだが滅茶苦茶鍛錬しまくって効果持続時間を引き延ばしてたんだろ』
「誰のことを、言ってるんですか…?」
『え、知らないのか?―――まぁいい。弱い奴との闘いを長引かせても、あんま意味がないからな。速攻で終わらせる』
アナザーパラドクスは周りにあるエナジーアイテムを、限りなく集めた。
――アナザーパラドクスの全身の筋肉が盛り上がり、体が銀色に光る。
そして、それが複数に増える。
「―――え…?」
レイセンはこの出来事に、脳が追いつかなかった。
精神が悲鳴を上げており、体の機能をうまく扱うことができなかったと言う理由もあるがなにより、通常の状態でこれを見ても、思考が停止しただろう。
筋肉の発達率が明らかに異常になり、色が変わって、数が増えたのだ。すぐに理解できる方がおかしい。
『『『『『さぁ、終わりだ』』』』』。
アナザーパラドクスは一斉にホルダーから【ガシャットギアデュアルアナザー】を取り外し、ダイアルを左に回した後、再び右に回す。
ガシャットを手に持ったまま、その場から姿が消える。ジャンプしたのだ。
遥か上空へと飛んだアナザーパラドクスは、その複眼に、レイセンを捉えた。そして、ガシャットを再びホルダーにセットする。
左足を突きだし―――伸びる。
無限と言っていいほどに伸びる複数のキックが、レイセンに直撃し――
「うぁあああああああ!!!」
悲鳴とともに、爆風が巻き起こる。
すべてが、爆風と砂煙で見えなくなる。
『――――――』
アナザーパラドクスはゆっくりと降りて行き、爆風と砂煙の中、変身を解除する。
「―――――」
零夜は、砂煙の奥。レイセンに攻撃が直撃したはずの場所を見据える。
「なんだ、さっきのは…手ごたえが、おかしかった」
―――あの時、必殺技が直撃した際、手ごたえが可笑しいと、零夜は感じていた。
全方位から当たるように放った必殺技だ。足裏全体に当たったり、かすったりするのが普通だ。だが、あのとき、分身越しでも分かった、感じたモノがあった。
分身全体が、足裏全体に質量を感じていた。しかもそれの強度はかなり硬く、まるで何かに守られているようだった。
レイセンの能力状、バリアを張ることは可能だが、それでもあの状態でバリアを張るほどの余裕があったとは思えない。
つまるところ―――第三者が守っている。
「――おい、出てこい」
零夜は今だ、煙で見えない視界の奥へとその言葉を言い放った。
いるかもしれない、いないかもしれない。でも警戒は怠ってはいけない。そして――煙が、一瞬にして晴れる。
「嫌だなぁ。そんな目で見ないでくれよ。僕はこれでも少し臆病なところがあるんだ」
零夜の目に映ったのは、白いフードを被った男性だ。
全身がシロで統一されたコートを着用し、見える肌は顔の下半分と首が見えるのみ。残りはすべて白い薄い手袋、白い靴下、白い革靴を着用し、それ以外の露出はなかった。
そして、男性だと分かった要因はもちろん『声』。優し気な男性の声をしている男性を見て、零夜は思わず目を見開いた。
「おまッ…!」
「やぁ、久しぶりだね。【クロ】」
レイセンを守った人物。そこにいたのは、最強の男、【シロ】だった。
* * * * * * *
二つの存在が、お互いを見つめ合う。
黒は睨み、白は安らかな目で。
「シロ――!てめぇなんで邪魔しやがった…!」
「落ち着きなよ、クロ。彼女は貴重な情報源だ。殺しちゃったらダメだろう?
「別に、殺すつもりなんてサラサラねぇ。ただ戦闘不能にするだけだ」
「もう、この時点で戦闘不能だと僕は思うんだけどね。もうちょっと基準を考えるべきだと、僕は思うね」
そう言いながら、シロは百八十度回転して、レイセンの方へと顔を向ける。
レイセンは完全に腰が抜けてしまっているようで、膝がガクガクと震えている。
「君、大丈夫?」
「え、あ、う、あ……」
「おーい、聞いてる?」
シロは自身の顔をレイセンの顔に近付ける、逆にレイセンの顔には恐怖が刻まれて行っているように見える。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように、レイセンは動かなかった。
そのとき、シロの肩に零夜の手が乗っかる。
「おい、垂れ流してるぞ、威圧」
「あぁ、ごめん。すぐに切るよ」
その次の瞬間、一秒も経たずして、レイセンは憑き物が取れたかのように、自身の体を見始める。
だが、今だに腰は抜けたままらしく、起き上がることができないらしい。
「全く、俺のこと言えねぇだろ。お前」
「あはは。ごめんね、本当に。―――じゃあ」
シロは、レイセンの方に顔を向けると同時に、レイセンから小さな悲鳴が鳴る。
この時、彼女は直観していた。「逆らったら殺される」。それの一言が、妖怪として、生き物として本能が告げてきていた。
「今から、僕たちがする質問にしっかりと答えるんだ。嘘偽り、虚偽は許さない。ちゃんと、答えてね?」
震える兎に白い悪魔は、見えない顔でにっこりとほほ笑んだ。
今回のシロ イメージCV【増田俊樹】